国籍確認訴訟最高裁勝訴に当たって
国籍確認訴訟最高裁勝訴に当たって

元ダイちゃんを支える会事務局長 崎阪 治

まずは、原告の皆様、弁護団や支援者の皆様、おめでとうございます。
皆様のご努力と、勝ち取られた結果に最大限の敬意を表し、感謝いたします。

思えば、15年前、ダイちゃん事件が持ち上がった時も、認知のタイミングによって国籍が変わるのはおかしいと指摘し、そこで戦おうという声もありました。
しかし、当時はまだ胎児認知すらほとんど知られておらず、たまたま私は千葉の事件の支援で知り合った千葉弁護士会の山田由紀子先生から、雑談の中で教えていただいてような状況でした。

そして、ダイちゃん事件で、早速この胎児認知を使う場面に遭遇したわけですが、天災などがあり不幸にも必要とされる書類が整わず、書類が揃わない内にした届けが有効か否かという争いになってしまいました。
ダイちゃんが生まれる前に胎児認知が有効に成立していないとされたため、ダイちゃん母子は共に在留資格のない外国人として、国外追放対象の立場に追い込まれてしまいました。

こうして、急遽弁護士に依頼しなければどうにもならなくなり、何人かの先生方に当たったのですが、「そんなもん、父親が日本人なんだから子どもは日本人だよ、大丈夫」と簡単におっしゃる方がおられるかと思えば、「そんなもんダメだよ」と一蹴される方もおられる有様で、私が法律の専門家相手に胎児認知について説明しなければならないのが現実でした。

そんな中、受任していただける先生も見つからない中、ようやく東京の外国人労働者弁護団から広島弁護士会の野曽原悦子先生を紹介していただき、受任していただくことが出来ました。
しかし、野曽原先生も、ご謙遜もあるのでしょうが、在留資格の問題はやったことがあるが国籍については自信がないというようなことをおっしゃっておられたと記憶します。

こうして、胎児認知の有効性について調査や交渉をしていただき、やがて家事審判へと移行していたとき、突然、ダイちゃん母子が入管に収容されました。
これは、ダイちゃん母子の国外追放がいよいよ現実的なものとなり、目の前の立ちはだかっていることに他なりません。
さらに追い打ちをかけるように、その8日後、家事審判が却下され、もうどうにもならないと言うところまで追いつめられました。
この緊急事態に、野曽原先生も在留特別許可を勝ち取った経験のある大阪の弁護士の支援を仰がなければ難しいとおっしゃり、急遽大阪の先生方に依頼することになりました。

あまりに大きな問題で、加えて時間もない事例を受けて下さる先生なんていないだろうとほとんど諦めながら片っ端から電話をしたところ、大阪弁護士会の上原康夫先生から、かなり悩みながらではあったようですが、前向きに検討していただけるという返事をいただきました。
それからすぐに竹下政行先生と中島光孝先生にも声をかけていただき、わずか数時間の内にこのお三方で受けていただけるという奇跡が起こりました。
最初に野曽原弁護士が受任して下さったときとこの時が、まさにこの事件の大きな転機であり当人たちの幸運であったと思います。

こうして、退去強制令書の取消訴訟と国籍確認訴訟が始まったのですが、この時は、生後認知でも日本国籍であるという主張はとても難しいであろうという認識であり、それが常識でもありました。
従って、そこももちろん主張しましたが、主眼は胎児認知手続きの有効性と言うところで、あくまでも胎児認知が有効だから日本国籍であるという主張となりました。


あれから15年、その間に、嫡出推定が働き胎児認知できない場合に、出生後「遅滞なく」親子関係不存在確認が提起され、「速やかに」認知された場合に限り日本国籍を認めるという最高裁判決を経て、ようやく今回の判決にたどり着いたわけです。


今回勝ち取られた成果があまりに大きいので、わずか15年でよくぞここまでと言うことも可能でしょうし、しかし、この間に何人の人たちが不当な扱いを受け、国外に追放されたりしたのだろうと考えると、15年もかかってとも思います。

しかし、15年前には胎児認知についてはほとんど誰も知らず、それ故その問題も指摘されておらず、そこで争っても勝ち目はないとまで言われていたことが、今ここに最高裁勝訴判決という形で完結したことは感慨深く思います。

手前味噌ですが、ダイちゃん事件もこの判決に向かう最初の一歩か半歩程度は係われていたのかなと思うと共に、当該事件の当事者と弁護団、支援者の皆様に最大限の感謝と賛辞を送りたいと思います。

本当にご苦労さまでした。ありがとうございます。



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