ある日の小山製作所`01/2

こんな火造りの方法もあるということで、ちょっとご参考までに。


小山製作所のある日

 2月の寒い日に、偏屈百姓改め偏屈木地師修行中の須田氏と小山製作所に行って来た。須田氏は木工轆轤の刃を作りに、わたしは手に入れた古い鉄瓶の蓋の裏に入っている気にくわない文字を旋盤で消して貰いに行くのが目的だ。

“昼飯”

 

 11時頃到着して、先ず始めたのは昼飯の支度である。小山氏は潮汁とでもいうのだろうか海鮮味噌汁を、わたしは蝦夷鹿の肉を捌いて刺身と炭火焼きの用意を。鍛冶の作業場は火を興すのには材料も道具も場所も何ら不足はない。3人とも土日休みというものは無い代わりに、隙あらば仕事の合間を見て遊んでしまう。

“道具は手作り”

 

 さて、 午後になってから目的の作業だ。須田氏は定職がないので、木の伐採をしたり、森林ボランティアなど向けの講師(伐採や炭焼き、チェーンソーの刃の研ぎなどの)をしたりして日銭を稼いでいるだけなので貧乏だ。
 だから、道具は安く手に入るものを工夫して自作する。今回は、木工轆轤(ヨーロッパ式)のバイト(刃)を作るのに、金ヤスリを加工して作る(別 ページではベアリングをバラして伸ばして作ったときの写真を掲載)。焼き鈍してきた金ヤスリを必要な長さに切断し、刃をサンダーで落とし形を加工する。

 その後に、ベルトグラインダーで、裏すきのようなえぐりを作る。師匠の小山氏が最後の仕上げを行う。

師匠の小山氏が、ここはこうした方がいいなあ、と手を出して修正

 

   

 ベルトサンダーが円形であることを利用して、裏側を削る。左手に持っているのは木の棒。熱くなるので、これで押しつけているのだ。

“ガスを使う焼き入れ焼き戻し方”

 アセチレンで加熱する。暗いのは、どの位の温度になっているのか色で見るため。

 本数が少ないので、火床で炭を熾さずにバーナーでゴォー!

 油で焼き入れをした2本。下の方が一発で上手く行った方。右側の楕円形の裏ぐりの上の部分の色が剥げている。油を布で拭き取ったときに皮膜が剥がれたため。。。こういう具合になるのはOK。

 上の方は右の刃の部分が全体に黒く綺麗に皮膜が乗ってしまっている。これはNG。小山氏がヤスリを掛けてみると、案の定、ヤスリの乗りが良い(これは私が写 真を撮るために待たせたために、油に入れるのが少し遅くなってしまったのが理由。小山氏に1度でも違うと焼き入れに影響があるのだと言われてしまう)。焼き入れがあまかった。

 もう一度バーナーで温めてから冷まして結晶を落ち着かせ、そして冷めたところで、再度バーナーで加熱した後に、油で焼きを入れる。今度はOK。ヤスリを掛けてもカリカリと弾く。

  

 焼き戻しは、プロパンガス/ブタンのボンベで行う。アセチレンのバーナーだと、直ぐに温度が高くなってしまうので、ノズルが細くて温度上昇が緩やかなこのプロパンのガスボンベを使用する。これは、刃の部分の面積が少ない木工轆轤用のバイトだから可能なのだ。もちろん、小型のナイフなども同様にこれで処理可能。

温度計は177度を指している。焼き戻しは160度から180度くらいの間で行うとのこと。打って切るような刃物の鉈だともう少し温度を上げる。また鉞(まさかり)は刃の部分だけ急冷して、あとは厚い軟鉄の部分の余熱で焼き戻し。石鑿、ツルハシも同様。


“せん掛け”
  

 剣先鉈にせんを掛ける。ご存じのように、片刃の刃物には裏すきという窪みがある。それは、切ったものが刃に貼り付いて抵抗になるために、平らなままでなく少し凹ませ逃げを作ってあるわけだが、その窪みを作るのは、焼き入れをする前に、此のせんで削るのである。せんは用途に応じて色々な形のものがある。
 左上の写真は、木工用の自動カンナの刃である。ハイス鋼で出来ていて固いので、軟鉄の部分はヒュルヒュルと簡単に削れる。ハイス鋼には固いタングステンハイスと粘りのあるモリブデンハイスがあるそうだが、これは廃品のものを貰ったのでどちらか解らないとのこと。因みに、ドリルなど万が一折れて切削品の中から取り出せなくなると困るようなものには、モリブデンハイスが、その心配が無く固い方がよい旋盤などには、タングステンハイス鋼が使用されているとのこと。

 その剣先鉈のカツラを打つ。細い鉄パイプなどを切って、火で炙り、打って作るのが通常だが、今回は販売されている鉈の柄に付いていたツルツルの味も素っ気もないただのリングを打って、それらしくした。炭で火床を熾していないのでアセチレンのバーナーで温める。調子に乗ってやっていたら赤めすぎてはかまの一部を溶かしてしまった。
 鍛造の練習としては実用的だしリスクも少ないので好都合。カツラは沢山作っておけば、刃物の修理に便利。

 作ったカツラ。鉈や鎌などの野で使う刃物にはカツラが必須だ。柄は樫の棒が一般的だが、切って皮を剥いて乾燥させて置いておく。中の虫がさっさと出ていくようにだ。あとは必要に応じて切って削って柄を作ればよい。
 カツラと柄が作れれば、道具の修理は自分で出来る。自分で何から何まで作れる。これが大事だ。

 


火箸を打った
 
 

 古道具屋で買った長火鉢に付いてきた火箸は錆びてボロボロだったのと、長さが有りすぎて使いにくかったので、焼いて打ち直して錆を取り、さらに長さも詰めることにした。
 わたしがモタモタとやっていたら、後ろからのぞき込んでいた師匠が、まどろっこしいとばかりに見本を見せてくれた。そして頭の輪まで作ってくれてしまった。
  自分でやりたかったのに〜.....(;_;) 仕方がないので頭の角だけ打って丸める。これも師匠がヤスリで削って処理すればよいという言葉を遮ってやったのだが。。。凸凹になった頭を見て師匠がヤスリでやった後に焼けばもっと綺麗に出来たのに....ですと・・・
 でも、自分でやった印が出来たということで満足。

 師匠が綺麗に作ってくれた頭の輪。右のリングの上のものは、師匠がさっと作ったステンレスのリング。もちろん焼きながら打って曲げたもの。
 下のリングは火箸に最初から付いていた錆びて半分腐っているもの。火箸もこれと同様の状態だったのだが、打ち直したので黒皮になって剥けて綺麗になってしまった。輪の穴も大きく作ってくれたのでリングとの干渉が最小限故、箸がフリーに動くので使いやすい。

 


K's Factory謹製小型ナイフ
 左はユーティリティナイフ。ATS34合金鋼を鍛造したもの。ミラー仕上げ。
 上は何種類もの和鉄(ノミやチョウナなど)を15枚ほど積層して鍛造したもの(積み沸かし、寄せ金)。刃は玉鋼。
 写真が美しくないのは、デジカメでそのままの条件で撮っているせい。実物は、目にするとクラクラするような出来である。
 下はわたしのもので、小山氏が焼き戻し処理までしたものを譲り受け、後は自分で刃付けをした。研ぎが良い出来でないのはわたしの腕のせい。上の段のものは和鉄なので波紋がでている。下の段はアイヌのマキリの小型のものを模したもの。寄せ鉄に青紙を鍛接したものだ。 これは薄くオーダーしたために、鋼が薄く成り過ぎ、割れが入った失敗作。そこで、スウェーデンのアッサムK100という鋼の総鋼造りで同じものを作って貰い、北海道の御世話になっている方にこれと同じ型の小型マキリの刃をプレゼントした。それがこのページの終わりの方にある写真のもの。
これは小山氏の作品のほんの一部。小型のナイフの一部ものだけ公開。

  

 わたくしめが御世話になっている北海道の方に贈ったもので、アイヌの小型マキリの刃を模したもの。道東の標茶町では年に数回、アイヌの方を講師としてアイヌの工芸品を作っている。それは刃物のマキリであったり笛のムックリであったり様々だ。差し上げた方は年輩の女性なので小型の女性用マキリである。ご本人が作られたマキリの鞘と柄、刃の形をトレースしてきて、ほぼ同じ形であろう刃を小山氏に作っていただいた。剃刀の如くの切れ味のものを作っていただいたので、こちらで柄を短くしたり周りに磨きをさらに掛けたりして更に綺麗に仕上げた。また、運送用の入れ物も桧の板で作って、それを小山氏から貰った戦前の和紙で包んで件の方に差し上げた。ちょっとした手の入れ方で高級感が漂う? それで、北海道標茶町の工芸品の講習会のメンバーには大評判だったそうだ。そのお礼というわけではないでしょうが、70cmもの雌(連絡では雄で白子入りだったはずなのだが、届いたのは雌だった)の生鮭を腸(はらわた)付きで送って下さった。それを捌くのには片刃の剣先鉈を使ったが、切れる刃物は楽ですねえ。さて、今晩はその鮭を使って何を作りましょうか。。。(^-^)

 作業がしやすいように裏すきは付けてある。裏すきは、先に書いたせんで削ったものだ。此の写真の時は、まだ中子を短く詰める前。
 アイヌのマキリは、柄と鞘に独特の紋様を彫り込む。こういうものを自分自身で作る方に、良い刃物を差し上げるのは嬉しいと、小山氏は喜んで作って下さった。作るときはワンメイクではなく何丁も作っておいて、その中で一番良いものを下さる。 このマキリの刃は非常によい出来で、小型ながら質感も重厚感もあり、そして何時まで見ても飽きない美しさがあった。

此の柄と鞘に紋様を彫り込む。

`01/2/9 by Recycler


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