1999年04月

天使の屍(貫井徳郎) 死者の鼓動(山田宗樹)
十三番目の人格-ISOLA-(貴志祐介) リンク(ウォルト・ベッカー)
黄金色の祈り(西澤保彦) 鈴蘭事件(島田荘司)
瓶長(京極夏彦) フェラーリは見ていた(綾辻行人)
現場有在証明(西澤保彦) 烙印(貫井徳郎)
パレスチナから来た少女(大石直紀) 屋上物語(北森鴻)
頭蓋骨の中の楽園(浦賀和宏) 日輪の果て(ロバート・ゴダード)
クリムゾンの迷宮(貴志祐介) 桜闇(篠田真由美)
墜ちた鷲(森純) 一月物語(平野啓一郎)
催眠(松岡圭祐) カノン(篠田節子)
柔らかな頬(桐野夏生) 五女夏音(辻仁成)
安楽病棟(帚木蓬生) 鉄の絆(ロバート・ゴダード)
イントゥルーダー(高嶋哲夫)
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天使の屍

著者貫井徳郎
出版(判型)角川書店
出版年月1996.11
ISBN(価格)4-04-873007-X(\1700)【amazon】【bk1
評価★★★☆

中学2年の息子が自殺した。部屋にはとても遺書とは思えない短いメモと、大量の中身の消されたビデオテープが残されているのみ。息子が自殺したことが信じられない青木は、自殺の原因を懸命に探し出そうとする。

「今の中学生」をテーマにしたもの。彼らは彼らのルールで動いているというのは、なんとなく分かります。今思うと、中学生の頃って結構どうでも良いようなことが大事だったような気もしますし。でもちょっとこの結末は、あまりに寂しいかな、と思ってしまいました。現役中学生が読んだらどう思うでしょうか。

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死者の鼓動

著者山田宗樹
出版(判型)角川書店
出版年月1999.3
ISBN(価格)4-04-873155-6(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★★

娘の玲香は、心臓の移植を受けられなければあと1ヶ月の命。大学の教授で心臓移植手術の技能も持つ神崎は苦悩していた。自分で娘の病気を治すことができるのに、ドナーがいなければ・・・。そんな時、娘の親友が頭に大怪我をして、脳死の可能性があるという情報が入る。

恐ろしくタイムリーな臓器移植を取り扱ったお話。臓器移植というと、帚木蓬生の「臓器農場」を思い出すのですが、その時と同じような感想です。臓器を提供してもらいたい人の切実さの一方で、それによって問題なく動いている臓器を摘出される人がいる。簡単には解決されない、もしかすると絶対に解決できない問題なのかもしれません。もうすでに「臓器農場」が出て6年が経ちますが、こうした問題が古くなるどころか、ますます大きくなっていくのは、そうした問題の難しさを物語っているように思えます。
この本は、その問題を中心にした物語。前作「直線の死角」のテンポのよさや、題材の面白さ(面白いと言っては語弊がありますが)も、この作品にも十分に現れています。やや展開が早すぎるのが難点なのですが、最後のシーンは感動的でしたね。

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十三番目の人格-ISOLA-

著者貴志祐介
出版(判型)角川ホラー文庫
出版年月1996.4
ISBN(価格)4-04-197901-3(\660)【amazon】【bk1
評価★★★☆

人の強い感情を読み取ることのできるエンパス。賀茂由香里は自分のその特殊能力を生かして、阪神大震災後の混乱する神戸で、被災者の心を癒すボランティアをしていた。その最中にある少女に出会う。その子・森谷千尋は、いくつもの人格を持つ多重人格障害を起こしていた。由香里は少しづつ親しくなり、さまざまな人格と話すようになるが、千尋のもつ13番目の人格が出てきたとき・・・

貴志祐介のデビュー作です。たまたま本屋で見つけたので買ってきました。デビューのときからこんなすごい本を書いていたんですね。主人公が超能力者で、多重人格者と出会い、というちょっと漫画的な設定ながら、最後まで目を離せないおもしろさでした。13番目の人格、イソラは一体千尋に何をさせようとしているのか、またなぜイソラという人格ができてしまったのか。多少人物描写やセリフに難点があるかなあと思ったので、3.5にしましたけど、ストーリー的にはおすすめです。

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リンク

著者ウォルト・ベッカー
出版(判型)徳間書店
出版年月1999.3
ISBN(価格)4-19-860991-8(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★☆

中央アフリカのマリで、サマンサは発掘調査をしていた。神秘的な宗教を持つドゴン族の遺跡を掘りすすめるうち、恐ろしく奇妙な化石骨を発見する。

いくつかのシーンは「レイダース 失われた聖櫃」そっくり(^^)。全体的にハリウッド映画調で、実際に映画化されるんじゃないか、という気もしてしまいます。一方で、ダーヴィニズムを根底から覆すような仮説は、本当に信じられそうでその点はものすごく楽しめました。世界中にちらばる同じような伝説や、現在の科学をもってしても解くことのできない考古学上のさまざまな謎。そして人類最大の謎でもある、「人類はどこから来たのか」という命題。それらもこうした仮説を持ってくると謎ではなくなるのです。実際のところこういう話っていうのは、学会からは馬鹿にされながらも結構聞きますよね。多分この仮説を立証することは、過去に実際行くことができない限りは無理な気もするのですが・・・。

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黄金色の祈り

著者西澤保彦
出版(判型)文藝春秋
出版年月1999.3
ISBN(価格)4-16-318400-7(\1810)【amazon】【bk1
評価★★★★

僕が中学・高校の時続けて同じ子の持ち物であるアルト・サックスが盗まれるという事件が起きた。1本は壊れた状態で帰ってきたが、もう1本は行方不明のまま。ところがその1本は思わぬところで発見されることになる・・・

犯人が分かってからもう一度読み直してしまいました。うーんなるほどー。やられました。さすが西澤さん。そのミステリ的な部分もさることながら、「僕」の内面の描写、面白かったですね。自意識過剰な僕が考えることは、中高生なら誰でも思うことなのではないでしょうか。実際にそれで力を発揮していく人を天才とか言うのでしょう。凡人だった彼は結局自分の自意識からは逃れられず、鬱々と過ごしていきます。そして・・・。ラストもよかったです。

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鈴蘭事件

著者島田荘司
出版(判型)メフィスト5月号
出版年月1999.4
ISBN(価格)
評価

御手洗潔が幼稚園児だった頃のお話。御手洗潔は父親にも母親にも見捨てられたような状態となって、厳格な叔母のところに預けられていた。近くに住むえり子という女の子と仲良くしていたが、その女の子の父親が死ぬという事件が思わぬ方向へ。

さすが御手洗潔、嵐を呼ぶ園児・クレヨンしんちゃんも真っ青。なんと幼稚園児の頃から事件を解決していたのです。御手洗の生い立ちなんかもわかるおいしい短編です。さて事件の真相はいかに。

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瓶長

著者京極夏彦
出版(判型)メフィスト5月号
出版年月1999.4
ISBN(価格)
評価

鳴釜」に続く百器徒然袋 第2番。今回は、榎木津礼次郎の父、榎木津元子爵の亀が逃げたことと、甕を探せという命令(笑)が騒ぎを巻き起こすお話。

この話し手の「僕」の名前って、分からないんですよね。今回もうまく隠されているような気がしますし。榎木津だけは変な名前で呼んでますけど(笑)。どうしてなんでしょう。これがこの百器徒然袋の最大の謎なのでしょうか。甕を探して奔走する今川待古庵と、別件で甕事件(否、亀事件か)に関わってくる木場も登場です。今回はどんな痛快な解決をもたらしてくれるのか、お楽しみに。

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フェラーリは見ていた

著者綾辻行人
出版(判型)メフィスト5月号
出版年月1999.4
ISBN(価格)
評価

酔っ払うと「芋虫」になってしまう編集者U山さんの別荘に、新担当のA元君と一緒に行くことになった。そこで奥さんが面白い話を聞いたと言い出す。なんでも「隣村のカサイさんちのシンちゃんが殺された」というのだ。

さてさて今回はフェラーリに載るおじいさんちの「殺人(?)事件」。明確な読者への挑戦はないのですが、これは「どんどん橋」や「ぼうぼう森」の続きでしょうか?(笑)なんとなく変だなと思っていたところが、やっぱり解決につながっていきました。今回は考えれば分かるかも(^^)。

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現場有在証明

著者西澤保彦
出版(判型)メフィスト5月号
出版年月1999.4
ISBN(価格)
評価

今回は、全然別の場所に、自分の映像を投影できる「スプリッター」の犯罪。当然アリバイに使うのが一番なのだが、今回は犯人とされる人間がそのアリバイを主張しないことから、なぜこの能力が使われたのかが問題となる。

前回の短編集で、思わせぶりな最後が話題を呼んだこのシリーズ。今回からは保科の元妻・聡子もレギュラーに加わって、変な犯罪を暴こうとする趣向。一体このシリーズはどうなるのでしょう。楽しみというか、怖いというか。

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烙印

著者貫井徳郎
出版(判型)東京創元社
出版年月1994.10
ISBN(価格)4-488-01268-X(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★★

妻が自殺した。もともと彼女の過去を知らず、彼女も自分の過去を語らず、彼女の両親の名前さえ知らない。籍を入れるのを彼女が嫌がったために、夫といっても名ばかり。彼女の自殺の原因を突き止めるために、勤めていた警察を辞職し、調査を始めるが。

哀しいお話でした。妻が自殺した原因を追い求める内に、自分が妻をいかに知らなかったかを思い知らされる主人公。しかもその謎の先はものすごく大きなものにくっついていて、というありがちと言えばありがちなストーリーなのですが、ストーリーや寂しいラストがとても印象的な1冊でした。

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パレスチナから来た少女

著者大石直紀
出版(判型)光文社
出版年月1999.3
ISBN(価格)4-334-92305-4(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★★

難民キャンプでは虐殺が行われ、あちこちでテロが置きている中東。和平に向けて動き出している一方で、極右ユダヤ人を暗殺する女性テロリストがいた。しかし、あるテロを行った後、彼女は日本へと向かったという情報が流れる。

ストックホルムの密使」のところで、戦争の時のドイツの写真集の話を書きましたが、「戦争」というのは人を本当に変えてしまうものなんだなとこの本を読みながら改めて思いました。日本は50年も戦争をしていなくて、私の親も戦争を知らない世代ですけれども、いくら平和ボケと言われようとも、いつまでも平和な日本であって欲しいですね。
この主人公は、自分自身難民キャンプの虐殺から奇跡的に助かったという経歴の持ち主。まさに復讐だけを目標に、人を殺しつづけて生きているという気の毒な人です。彼女の人生は何だったのでしょう。最後はあまりの寂しさに涙がでました。

■入手情報: 光文社文庫(2001.3)

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屋上物語

著者北森鴻
出版(判型)ノン・ノベル
出版年月1999.4
ISBN(価格)4-396-20653-4(\800)【amazon】【bk1
評価★★★★

老若男女が集う空中の楽園・デパートの屋上に、格安でおいしいうどんが食べられると評判のスタンドがあった。昼休みともなると行列ができるほどの人気ぶり。そのスタンドを取り仕切るのは、屋上の影の支配者(?)と言われる「さくら婆ァ」。その屋上では、今日もまた怪事件が起きて・・・

スタンドを切り盛りする「さくら婆ァ」とそのさくら婆ァを慕ってくる興行師の杜田、そしてひょんなことから杜田と仲良くなった高校生のタク。3人が屋上で起きる怪事件を解決していくお話。話し手は、屋上に置かれたモノたち。といってもほのぼのした事件というわけではなく、「楽園」に似つかわしくない悲しい事件ばかりが起こります。
デパートの屋上って、わたしも行くのを楽しみにしていました。今思うとすごく他愛のないゲームとかで遊ぶのが嬉しくて、デパートというと屋上というイメージさえあったような気がします。最近では私がよく行くデパートに、屋上があるのかさえも知りませんが、今度買い物に行ったら見てみようかなあ。もしかしたら、さくら婆ァがいるかも(^^)。

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頭蓋骨の中の楽園

著者浦賀和宏
出版(判型)講談社ノベルス
出版年月1999.4
ISBN(価格)4-06-182062-1(\1150)【amazon】【bk1
評価★★★☆

大学で首なし死体が見つかった。被害者はミスコン優勝者の菅野香織。首はどこへ?また、犯人はなぜ首を持ち去ったのか。全く進展しない捜査を嘲笑うかのように、2人目の首なし死体が発見される。

あらすじを読むと、所謂本格っぽい感じですが、わたしはやっぱり謎解きとして型にはめて読むより、こういう小説なんだと思って読んだ方がいいような感じがします。別に裏表紙に挑戦しているわけではないのですが(^^)。結論としては、こうくるかーと思ったのですが、わたしはこういう話は結構好きです。人によっては受け入れ難いかもしれないので、あまり広くはおすすめできませんが・・・。「記憶の果て」から3作連続で読むと、彼のやりたかった事がちゃんと見えてくるのではないでしょうか。ただこのテーマは、「あの人」がやっちゃっているからなーとちょっと残念に思いました(読めば多分わかると思います)。あと視点が無意味に変わるのがちょっと難点。わざとなのでしょうか。
話はちょっとそれて、この作家の本って、ネットワーク上ではかなり賛否両論(否の方が優勢な気もするのですが)で、きっとそれを見てちょっと悲しかった(?)のかなあ、と思える記述がいくつか。その辺りは結構笑えました。でも全く無視されるよりは、その本一つが議論の対象になる方がずっとましだと思えるんですけどね。

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日輪の果て

著者ロバート・ゴダード
出版(判型)文春文庫
出版年月1999.4
ISBN(価格)(上)4-16-721855-0(\543)【amazon】【bk1
(下)4-16-721856-9(\543)【amazon】【bk1
評価★★★★

その日暮らしをしているハリーの職場へ、一本の電話が入った。「あなたの息子が今病院にいます」。同僚からその伝言を聞いた彼は、覚えのない息子を見に病院へ。そこには、昏睡状態に落ちいっている一度も見たことのない彼の息子が横たわっていた。

蒼穹のかなたへ」で粘り強い捜査能力を見せたハリーの、その後のお話。なんとハリーは全然知らなかった自分の息子がいたという、ショッキングな電話から事件が始まります。息子は自殺したと見られているけれども、その自殺に疑問を抱いたハリーが再び捜査能力を発揮。真相をつかむことができるのでしょうか。
今回は、いつものゴダードとはかなり毛色の違う小説でした。現代を舞台にしていたり、ハリーのスパイまがいの行動や高次元の理論の話など、全体的に明るめな色づけ。最初はちょっと違うイメージで戸惑ったのですが、それでもやっぱりゴダードはゴダードで、複雑な人物関係や、思わぬ真相は健在。意外な面白さを見せてくれた1冊でした。実際には「惜別の賦」の前の作品で、ゴダードの9作目にあたるのですが、ちょっとこの辺でマンネリを脱出しようかと思った意欲作とでも言ったらよいのでしょうか。他の作品の邦訳も楽しみです。

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クリムゾンの迷宮

著者貴志祐介
出版(判型)角川ホラー文庫
出版年月1999.4
ISBN(価格)4-04-197903-X(\640)【amazon】【bk1
評価★★★★☆

藤木芳彦は、目が覚めると覚えのないところに寝ていた。縞模様の入った奇岩の連なりが広がる荒野。ここは一体?!ふと隣を見ると、水筒やランチボックスの他に、銀色のポーチが置かれている。中を覗くと、携帯用ゲーム機が入っていた。電源を入れてみると、メッセージが表示された。

ゲームは開始された。

怖いよぉ(T_T)。もう気がついたら、あなたもこの恐ろしいゲームの中。読み終わるまで出てこられません。途中でやめようものなら、重大なペナルティが科せられるでしょう。もちろん助けを呼んではいけません。そして、BAD ENDではない、結末へたどりついたとき・・・

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桜闇

著者篠田真由美
出版(判型)講談社ノベルス
出版年月1999.4
ISBN(価格)4-06-182068-0(\1050)【amazon】【bk1
評価★★★★

以前メフィストで読んだ「永遠を巡る螺旋」を含む桜井京介シリーズの短編集。メフィストで「永遠〜」を読んだときには解らなかった個所が判明。なるほどーこういうことだったのですね。今回の短編は、シリーズレギュラーの過去に焦点が当てられた作りになっているので、シリーズで読んでいないと面白くないと思います。もし読まれる方は「未明の家」からどうぞ。
個人的には、最後に収録されている書き下ろしの3編がお気に入り。中でも「君の名は空の色」、題名も内容もかわいらしくて良いですね。読んだ方は、どの短編がよかったですか?

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墜ちた鷲

著者森純
出版(判型)読売新聞社
出版年月1999.4
ISBN(価格)4-643-99026-0(\1700)【amazon】【bk1
評価★★★☆

実業家の一人息子、慎吾が誘拐された。テレビ局に送り付けられた犯人からのメッセージは、身代金ではなく、「優秀なパイロットを用意しろ」という要求だった。犯人の目的がつかめぬまま、ある島に慎吾がいることが判明、台風の中かつて日本一と言われたヘリパイが慎吾の救出に向かう。

誘拐ものなのですが、いかにして目的を遂行するかという事もさることながら、一癖もふた癖もある人間模様も面白かったですね。嵐の中、無謀にもヘリを飛びあがらせたパイロットは、人質である慎吾を助けることができるのでしょうか。盛り上がりの割に、最後があっけなかったのが残念でしたが、パイロットの大神叶二は格好よかったです(^^)。

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一月物語

著者平野啓一郎
出版(判型)新潮社
出版年月1999.4
ISBN(価格)4-10-426002-9(\1300)【amazon】【bk1
評価★★★★

井原真拆は、奈良県の山中をさまよっていた。そこで毒蛇に襲われ、老僧に助けられる。山寺とも言えないような庵に世話になる内、彼は夢と現の間をさ迷いある女と出会う。

「いちげつものがたり」と読みます。恐らく雨月物語を意識した題名。雨月物語のような、ちょっと怖さのある幻想小説です。一方で恋愛小説とも言える側面もあり、全体として物悲しさの漂う美しいお話でした。夢と現実の狭間で出会った女に惹かれた真拆は、山の麓の村で不思議な伝説を聞き、女の正体を知るのですが・・・。さて、真拆はどうなるのでしょう。月の満ち欠けと共に、彼の心はどこへ行ってしまうのでしょうか。この人は文章に妙に雰囲気があって、それが全体の雰囲気を綺麗なものにしている気がしますね。

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催眠

著者松岡圭祐
出版(判型)小学館文庫
出版年月1999.4
ISBN(価格)4-09-403251-7(\619)【amazon】【bk1
評価★★★☆

ある晩、自称催眠術師の実相寺の前に、奇妙な女が現れた。妙に受け答えが遅いその女は、雷鳴が轟くと共に突然笑い出し、自分は宇宙人だと言う。わけがわからない実相寺だったが、彼女のある能力を目の前にして、それを元に金もうけを思い付く。

面白いんですけどね、この手の話は、すでにダニエル・キースが何冊も書いてますし。やっぱり「催眠療法」というと胡散臭いというイメージがあるのは、わたしだけではないはず。著者自身、臨床心理士であり、そういう誤解のために苦労をされているのか、その辺りの記述が結構出てくるのですが、そこは面白く感じられました。どちらかというと社会派的なストーリーです。
この本は映画になるらしいのですが、この前映画館で観た予告編は、その「胡散臭い催眠術」を前面に押し出したようなサイコホラーに思えたのですが、このギャップは一体・・・(^^;。

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カノン

著者篠田節子
出版(判型)文春文庫
出版年月1999.4
ISBN(価格)4-16-760502-3(\552)【amazon】【bk1
評価★★★★

学生時代の恋人が自殺した。全く疎遠になっていて、別の男と結婚し子供もいる瑞穂宛てに、自殺の直前に録音したというテープが遺されていた。そのテープを聞いた瑞穂の周りに奇怪なことが起こり始める。

本とは全然関係ないのですが、私が「カノン」と言って思い出すのは、パッヘルベルの「カノンとジーグ」なんです。今日久しぶりに、古いレコードを引っ張りだしてきて、ここ数年電源も入れたことのなかったレコードプレーヤーで再生してしまいました。なのでこの感想のBGMは「カノンとジーグ」(^^)。しっかしデジタル音楽機器に慣れてしまうと、頭だしの出来ないレコードプレーヤーってすごく不便。でもやっぱり音が違うんですよね。レコードの方が優しい感じがします。埃のパチパチという音もやっぱり良いですね。気のせいかもしれないですけれども。
カノンという曲は、私はすごく面白いと思うのです。同じ楽譜をずらして弾くと、全然違う音楽になる。そこにはどちらかというと芸術的な美しさというよりも、機械的な美しさ的な要素が強くて、きっと音楽的にはあまり受け入れられないのかもしれないのですが、芸術がよくわからない自分としては、やっぱりすごいなあと思ってしまいます。
あーあ、全然本の感想になっていないです。ごめんなさい。でもこの本、面白いんですよ。ふと音楽に打ち込む彼女たちに感情移入していたら、昔の事を思い出したもので・・・。

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柔らかな頬

著者桐野夏生
出版(判型)講談社
出版年月1999.4
ISBN(価格)4-06-207919-4(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★★☆

不倫相手の別荘に家族と共に泊まりに行っていたカスミ。ところが5歳になる上の娘が行方不明になる。必死の捜査にも関わらず、手がかりは全くつかめない。カスミは不倫した自分に下された罰だと、自分を責めつづけ、何年も娘を捜しつづける。

少ない手がかりに必死にすがり、行方不明になって4年にもなる娘が生きていると信じつづけて捜す母親と、ガンを告知され、余命がいくばくもない元刑事との奇妙な捜索行のお話。常に今しかないカスミの生き方のために、娘はいなくなり、その波紋は広く周りの人間も巻き込んでいくのです。なんだかちょっと森脇さんやもう一人の娘の梨沙が可哀相。私は、彼女は結局大人になることが出来なかった、わがままな女に思えてしまったのですが、皆さんはどう思われますか? さて、どんどん命の終わりが見えてくる刑事は、死ぬまでに真実に到達することができるのでしょうか。最後は切ない、それでいて壮絶な話でした。

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五女夏音

著者辻仁成
出版(判型)中央公論社
出版年月1998.12
ISBN(価格)4-12-002872-0(\1500)【amazon】【bk1
評価★★★★

核家族が当たり前になっている昨今でも、稀に大家族というものが存在する。父母に自分という典型的な核家族に育ち、今は作家をしている典型的なモラトリアム人間である私が、この歳になって大家族に取り込まれてしまうことになるとは・・・

私の家も父母と私と妹という典型的な核家族家庭。近くに父方の祖父母が住んでいるのですが、別に同居しているわけではないので、やっぱり核家族なのでしょう。サザエさんのような家も良いのかもしれないですが、どちらかというと「大家族」という言葉に付随するイメージは、「うざったそー」(笑)です。そんな大家族と同居することになってしまった大造君の奮闘記。笑いあり、涙ありで「大家族もいざっていうときは良いのかもなあ」と思ったりもしたのですが、やっぱり最後は「うざったそー」でした(^^)。読んだ方、どう思われました?

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安楽病棟

著者帚木蓬生
出版(判型)新潮社
出版年月1999.4
ISBN(価格)4-10-331409-5(\2200)【amazon】【bk1
評価★★★

腰曲がりの浦さん83歳、赤パジャマの永井さん79歳、元近衛兵の相良さん87歳、異食症の津島さん89歳・・・痴呆の症状もそれぞれ、入院の動機もそれぞれの個性ある老人達が集まる老人病棟。ある看護婦の目からその老人病棟の生活を追う。

うーん、それぞれの話は面白いですし、おじいちゃんやおばあちゃん達が痴呆症に悩まされながらも一生懸命生きていこうとする姿は感動的でもあるのですが、小説としてはいまいちだった気がします。ですます調の文は、ある仕掛けのために必要だったんだと思うのですが、それでも感情移入し難く、その仕掛けである最後の部分も、半分辺りで読めてしまうというかなりあっけないもの。ただ小説としてではなく、この話の中心を、老人病棟の実態を追うことで、安楽死を考えさせる部分に持っていけば、その点は確かにものすごく考えさせられ、面白いものでした。ふと大学時代、サークルで新潟に演奏旅行に行ったとき、老人ホームを回ったことを思い出しました。ああいうことをまたやってみたいですね。

■入手情報: 新潮文庫(2001.9)

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鉄の絆

著者ロバート・ゴダード
出版(判型)創元推理文庫
出版年月1999.4
ISBN(価格)(上)4-488-29804-4(\640)【amazon】【bk1
(下)4-488-29805-2(\720)【amazon】【bk1
評価★★★★

殺される時、すでに彼女は自分が誰に、何故殺されるということが分かっていた。相手の意のままにはさせない。そう思った彼女は、一計を案じるが。

日輪の果て」の時も思ったのですが、ゴダードの作風が微妙に変わっている感じがします。ちなみに発行順は、「さよならは言わないで」の次がこの「鉄の絆」。その後未訳の2巻があって、「日輪の果て」、「惜別の賦」と続きます。「惜別の賦」はどちらかというと、昔の感じなのですが、「日輪の果て」やこの「鉄の絆」はかなり毛色が違った感じ。もちろん、過去の隠されていた事情が明かされることによって、今の主人公達に影響を与えるというゴダードの面白いところはそのままなのですが、雰囲気が現代的な感じになっていて、よく言われる「ゴシック・ミステリ」というよりも「ハードボイルド」的な感じがしました。それでもゴダードはゴダード、やっぱり面白い。この作品がベストだとは思いませんが、未訳の2巻(Amazon.comで恐ろしく評判だった"Closed Circle"もありますし。)や、これまた未訳の最新刊など、楽しみですね。

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イントゥルーダー

著者高嶋哲夫
出版(判型)文藝春秋
出版年月1999.4
ISBN(価格)4-16-318510-0(\1429)【amazon】【bk1
評価★★★☆

25年前、自分と一緒に住んでいた女性との間に、息子がいることを知った羽嶋。一度も会ったこともなく、どんな人間かも知らない彼の前に現れた息子・慎司は、交通事故に遭い、危篤状態。しかし、彼の事故に納得が出来なかった羽嶋は、真相を知るために息子のことを調べ始める。

奇しくもこの前読んだ「日輪の果て」と同じ設定。25年間全く知らなかった自分の息子が現れて、しかも危篤状態。そんな事が起こったら、超吃驚ですよね。羽嶋さんは、良い人なのかあまり考えていないのか、口では「動転している」と言いながら、案外冷静で、しかも息子のことをいろいろ聞いて一喜一憂するところなんかは、私は好きですが、ちょっと説得力ないかなあという感じがしてしまいました。でも実際にそういう事になったら、意外と息子と一緒に遊んでみたかったとか、息子が優秀で嬉しいとか思うものなのでしょうか。女性の場合、自分が産むわけですから、こんな事は絶対に無いわけですが、男性の場合はどうなんでしょう。私は「五女夏音」の大造君に聞いてみたいですね(^^)。あと、「知らなかった息子」、「北朝鮮」、「原発」、「覚醒剤」と、キーワードは面白いのですが、どれかに絞ったストーリーにするともっと面白くなったんじゃないかなあ、という気がします。ストーリー全体としてはスピード感があってよかったのですが。

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