1999年01月

人狼城の恐怖 第3部(二階堂黎人) 狗神(坂東眞砂子)
二重螺旋の悪魔(梅原克文) 3000年の密室(柄刀一)
人狼城の恐怖 第4部(二階堂黎人) 蛇鏡(坂東眞砂子)
魔術師の物語(デイヴィット・ハント) 地球儀のスライス(森博嗣)
念力密室!(西澤保彦) メッセージ イン ア ボトル(ニコラス・スパークス)
死せる少女たちの家(スティーヴン・ドビンズ) (佐藤正午)
レフトハンド(中井拓志) ネプチューンの迷宮(佐々木譲)
エイジ(重松清) 邪馬台国はどこですか?(鯨統一郎)
惜別の賦(ロバート・ゴダード) 5キャラットの恐怖(橘綾香)
レクイエム(篠田節子) 紫の悪魔(響堂新)
バースデイ(鈴木光司)
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人狼城の恐怖 第3部

著者二階堂黎人
出版(判型)講談社ノベルス
出版年月1998.1
ISBN(価格)4-06-181996-8(\1000)【amazon】【bk1
評価

(→第2部 フランス編より続く)
名探偵・二階堂蘭子登場。新聞記事からドイツの観光団行方不明事件を知った蘭子は、その事件に興味を持ち、資料を集め始める。結局ドイツまで本当に行くことになるが、なんとフランスでも同じような怪事件が起きていることを知る。

蘭子ちゃんの「ですわ調」の気持ち悪い話し方も、半分くらい読んだところで内容の面白さに気にならなくなりました。黎人君の面白い仮説(蘭子ちゃんは気に入らないようですが)も、なかなか。この第3部では、残された資料を元にあーだこーだの仮説を言い合う、正に安楽椅子探偵的な話運び。そして最後に・・・。とうとうあと残すところ完結編のみとなりました。どんなどんでん返しが待ち受けているのか、楽しみです。(→第4部 完結編に続く。)

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狗神

著者坂東眞砂子
出版(判型)角川文庫
出版年月1996.12
ISBN(価格)4-04-193203-3(\520)【amazon】【bk1
評価★★★☆

「善光寺に行ってみろよ」という友人の誘いにしたがって、善光寺を訪れた。戒壇巡りができると聞いて、さっそく入ってみると、着物を着た女に出会う。戒壇を一緒にめぐるうち、迷ってしまった2人は、身の上話を始めるが。

東亰異聞のところで書いたのですが、わたしもこの2人と同じような戒壇巡り体験があります。夜も「不夜城」というくらい闇のなくなってしまった現代だからこそ、真の闇の恐ろしさは体験した人でなければわからないでしょう。我こそはと思われる方、是非戒壇巡りをしてみてください。人がいるのに怖いわけないじゃない、と思われる方、本当に怖いのです。
さて、彼女のお話は、過去の辛い思い出から、40代になったいまでも独身のまま、紙漉きで細々とくらす美しい女性を主人公とする、恐ろしくも美しいお話。びゃうびゃうの意味が解りました(^^)>ひろさん。こんな古い因習に囚われた村に生まれなくてよかったと思う一方で、まったくそういうもののない首都圏に生まれてしまって、寂しくも思ったのでした。

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二重螺旋の悪魔

著者梅原克文
出版(判型)角川ホラー文庫
出版年月1998.12
ISBN(価格)(上)4-04-346101-1(\800)【amazon】【bk1
(下)4-04-346102-X(\800)【amazon】【bk1
評価★★★☆

DNAの中に機能のよくわからない塩基配列が存在する。イントロンといわれるその塩基配列の謎を解き明かそうとしていた研究者が、そこから取り出したものは・・・

恐竜の絶滅、人間の中に存在するイントロン配列といった謎たちをうまく組み合わせた娯楽小説です。なんだか笑いながらもなるほどーと思えてしまう説得力でした。小説としても、ただ楽しむだけなら一級品。なんとなく、プレイステーションの「バイオハザード」のようだと思ったのは、わたしだけではないはず(^^)。劇画感覚というか、ゲーム感覚というか、そういう小説です。
私は、この小説にも出てくる、P4実験室のある筑波の理化学研究所に施設見学に行ったことがあります。一般にも公開されているときもあるので、興味のある方は、行ってみては。

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3000年の密室

著者柄刀一
出版(判型)原書房
出版年月1998.7
ISBN(価格)4-562-03101-8(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★★

3000年間、洞窟の中に埋もれていたミイラが発見された。それ自体が様々な謎を持つミイラだけに、人々の注目も集まっている。ところが、本当の謎はその洞窟にあった。ミイラがいた洞窟は、内側から石が積まれている密室だったのだ。

考古学って面白そうですよね。多分、本当のフィールドワークはこんなにすごい発見がざくざく出てくることなど無いと思うのですが、それでもたまにこういう面白い謎に出会う彼らが羨ましいです。
内容もなかなかでした。吃驚のトリック。ただ、現代の話は蛇足のような気がするんです。単にこのミイラ君の話にすればよかったのでは、と思いました。逆にミイラにまつわる古代の話は興味深く、もっと読みたかったなあ、という気がいたします。
「古代史は、大学入試には出ないよ、だってよくわかってないんだもの」という噂が、私が大学を受験した時に流れましたが、こういうのを読むと本当にわかってないんだなあと思います。わたしが歴史を習った頃は、稲作は弥生時代からと教わったような気がしますし。実際テストで正解として書いていたことが、大嘘だったと解るなんて、なんて不思議なのでしょう(^^)。
話はそれますが、私も古代史ブームに乗って、一昨年「三内丸山遺跡」に行きました。ただの原っぱになっているのかと思ったら、建物が復元されていたり、資料館も充実していたりして、結構楽しめました。「縄文クッキー」とか売ってましたよ(^^)。もし青森にいかれる方は、行ってみたらどうでしょう。

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人狼城の恐怖 第4部

著者二階堂黎人
出版(判型)講談社ノベルス
出版年月1998.9
ISBN(価格)4-06-182017-6(\1100)【amazon】【bk1
評価★★★★★

(→人狼城の恐怖 第3部からつづく)
ゲルケン弁護士の日記、正気ではないレーゼ氏の物語。彼らの話は本当なのか。人狼城に行った人間が密室で殺害されたり、死体が消えたりしたのだろうか。そして何故彼らは殺されたのか。人狼城はどこにあるのか。数々の謎が解き明かされる完結編。

名探偵が出てきて、今まで不可能に見えた犯罪が、すべて解けるのは読んでいて気持ちがいいですね。最近こういう「名探偵、皆を集めてさてと言い」的な話が少なくなっている中で、二階堂氏は、わたしが高校生の頃からずっとこういう本格推理小説を書かれている、それだけでもすごいと思います。私の好きな綾辻氏とか、もう何年も本を出していませんし、島田氏も最近はノンフィクション系が多くて、残念。やっぱり「推理小説」の王道はこういう派手なトリックですよね。私も、いろいろトリックは考えたのですが、○○○が△△△とは考えませんでした。どうしてこれを作ったのかという説明が、ちょっと弱いような気もするのですが、そんなことはこの派手なトリックをつくるためなのさ、と思えば私は許せてしまう人間です。そして、最後の10ページ!!。うわあ。こりゃすごい。西澤氏入ってます(笑)。
「吸血の家」を読んで以来、ずっと蘭子シリーズから離れていた私は、ちょっと勿体ないことをしたかな、と思っています。ここで蘭子シリーズ第1部完結だそうですので、最初から全部読もうかな。「地獄の奇術師」と「吸血の家」は家にありますし。期待せずに、感想をお待ち下さい(^^)。

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蛇鏡

著者坂東眞砂子
出版(判型)文春文庫
出版年月1997.6
ISBN(価格)4-16-758401-8(\476)【amazon】【bk1
評価★★★☆

自殺した姉の7回忌に、婚約者と共に奈良の実家に戻った玲。姉が首を吊った蔵の中を整理していると、裏に美しい蛇の模様のついた鏡を見つける。両親は、その鏡を見たとたん何故か嫌な顔をするが、手放したくなかった玲はこっそりそれを隠し持っておく。

死国」、「狗神」、「蛇鏡」と、神にまつわる伝奇小説を読んできたのですが、わたしとしては、やはり「死国」が一番面白かったです。ちょっと似た感じなのが残念。良く考えると「旅涯ての地」はこういう系統を書いてきた坂東さんにとって、かなり違ったイメージの作品だったのだな、と思います。

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魔術師の物語

著者デイヴィット・ハント
出版(判型)新潮文庫
出版年月1999.1
ISBN(価格)4-10-217911-9(\895)【amazon】【bk1
評価★★★★

色を識別できないというハンデを背負った女性写真家ケイ。彼女は、サンフランシスコの裏通りで男娼をテーマとした写真を撮っていた。そこで親しくなった男娼・ティムが何者かに惨殺される。しかもその殺され方は15年前の連続殺人犯の手口にそっくり。彼女はティムの過去と探ることで、犯人を捜そうとするが。

全色盲の写真家という主人公の設定がよかったですね。その彼女が描き出す世界は「色」に溢れた世界よりもより洗練された感じでした。ティムを殺したのは一体誰?というミステリー自体はいかにもという気がしましたが、ティムが男娼になるまでの過去や、最後のシーンはよかったです。さて、「魔術師の物語」とは? シリーズ化されているそうなので、続きも楽しみです。

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地球儀のスライス

著者森博嗣
出版(判型)講談社ノベルス
出版年月1999.1
ISBN(価格)4-06-182051-6(\840)【amazon】【bk1
評価★★★★☆

この前メフィストに掲載されていた「マン島の蒸気鉄道」を含む短編集第2弾。森さんの本は、短編集の方が繊細な感じで私は好きです。「小鳥の恩返し」や「僕に似た人」のような童話的なかわいらしいお話もいいですし、「気さくなお人形、19歳」のような綺麗なお話も素敵ですね。帯に「噂の新シリーズキャラクター」と書いてあるのですが、一体誰なのでしょう。個人的には小鳥遊君がいいなあ。

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念力密室!

著者西澤保彦
出版(判型)講談社ノベルス
出版年月1999.1
ISBN(価格)4-06-182053-2(\840)【amazon】【bk1
評価★★★★

神麻嗣子シリーズ第3弾。今回はサイコキネシスを使った密室をテーマにした連作集。
密室っていうと、どうやってその密室を作ったのかというのが問題になることが多いような気がするのですが、この本場合、それは全然問題にならないのです。単に超能力を使っただけ(笑)。ある意味密室とも言えないような設定なのですが、それでも様々な条件から、「何故密室にしなければならなかったのか」という問題を導き出すところが、さすが西澤さん。すごいなあと思います。今回も、5番目までは神麻さんと能解警部、そして作家の保科さんのいつものドタバタと、面白いパズルで楽しませてもらいました。ところが6番目の作品は・・・。これは、一体どういう意味なのでしょう。もしかして、もしかすると・・・。

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メッセージ イン ア ボトル

著者ニコラス・スパークス
出版(判型)ソニー・マガジンズ
出版年月1998.12
ISBN(価格)4-7897-1336-9(\1400)【amazon】【bk1
評価★★★☆

瓶に入れられた手紙を拾ったコラムニストのテレサ。その内容は、ある女性に宛てた手紙だった。テレサは、その差出人を探して海辺の街へと向かう。

もう本当に正統派恋愛小説です。最初の部分は、トム・ハンクス、メグ・ライアン主演の「めぐり逢えたら」そっくり。どこかで読んだことあるなあと思っていたら、映画で観たんでしたね。ラストまで予想通りだったので、ちょっと評価は低めですが、それでも感動する作品。最後はやっぱり泣けてしまいました。いいお話です。
ボトルに手紙を入れて、海に投げるというその行為自体が、どことなくロマンチックですよね。ずいぶん前ですけれども、アフリカで投げ入れられた瓶が、日本の海岸で拾われたというニュースを今でも覚えています。なんとなく不思議な感じです。小さな瓶が、どこへともなく漂って、遠い国の全然知らない人に拾われるという、それを思うだけでワクワクしますね。この本を読んで、瓶を用意しようと思ったのは、わたしだけではないはず(^^)。

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死せる少女たちの家

著者スティーヴン・ドビンズ
出版(判型)早川書房
出版年月1998.11
ISBN(価格)4-15-208198-8(\2600)【amazon】【bk1
評価★★★

ある日、ひとりの少女が行方不明になった。誰もが何代も前から知り合いという小さな街に、衝撃が走る。一体誰が。きっと外の人間に違いないと口では言いながらも、周りの人間を疑っていく。もしかすると、この隣の友人が・・・。疑心暗鬼に駆られる村人を嘲笑うように、次の少女が行方不明に。

怖いんです。確かに。隣のホモっぽいあいつかも、いや、あいつはヨソモノだから怪しい。ちょっと変わったところのある人間が、次々疑われる。疑われている方も嫌ですけれども、そうして他人を疑って、まるで特高のように尋問する少女の関係者も怖い。そういう怖さを出したいのだと思いますが、ちょっと怖さが伝わってこなかったという感じがあります。この「わたし」として出てくる生物教師の独白が、冗長でした。

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著者佐藤正午
出版(判型)角川書店
出版年月1998.11
ISBN(価格)4-89456-141-7(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★★

ある日秋間のところに、北川健という男から電話がかかってきた。高校時代親友だったと言う彼のことは、名前すら覚えていない。すぐに切ろうとするが、北川という男は、自分の書いた文章を是非君に読んでもらいたいという。しぶしぶ承知した秋間は、彼のフロッピーを受け取るが、そこには人生をYのように二股に生きた男の不思議な話が書いてあった。

設定とかは、どことなく「七回死んだ男」に似ているのですが、こちらはその分岐を笑うものではなく、もしあの時、こうしていれば・・・そう強く願った男の、哀しいお話。私は北川のお話を信じて読みましたが、もしかすると、「すべて嘘だった」として読んでも面白いかもしれません。
家のすぐ近所が出てきて、笑えました。地元民でも意外と知らない人が多いのですが、綾瀬以北の千代田線は、本当は「常磐緩行線」って言うんですよ(^^)。

■入手情報: ハルキ文庫(2001.5)

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レフトハンド

著者中井拓志
出版(判型)角川ホラー文庫
出版年月1998.12
ISBN(価格)4-04-346401-0(\760)【amazon】【bk1
評価★★★☆

埼玉にある製薬会社テルンジャパンの研究所で、ウィルス漏洩事件が起きた。漏れたウィルスは、致死性の極めて高いレフトハンドウィルス。3号棟は急遽閉鎖されたが、そこにいた主任研究員の影山が3号棟を乗っ取り、レフトハンドウィルスの研究を強行している。一体このウィルスはどこから持ち込まれたのか。厚生省はやっきになってその出所を探そうとするが。

このウィルスにかかると、さて、どうなってしまうのでしょう。そこにLHVの名前の由来も隠されているのですが、これがおぞましくも、ユーモラス。つるつるすべる廊下で、カサコソと蠢く「それ」が、なんとも言えません。ノリがいいので、楽しく読めますが、ホラーとしてはどうでしょうね。

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ネプチューンの迷宮

著者佐々木譲
出版(判型)新潮文庫
出版年月1997.2
ISBN(価格)4-10-122314-9(\738)【amazon】【bk1
評価★★★★

赤道直下の小国ポーレア共和国。リン鉱石の輸出によって世界有数の豊かさを誇るこの国は、資源枯渇のタイムリミットがあと数年に迫っていた。国民が生き残るには、集団移住しかない・・・そうした切迫した状況の最中に、日本人ダイバーの宇佐美はポーレアに訪れた。そして彼は国際的な陰謀に巻き込まれ・・・

あらすじ読んだときは、ちょっと苦手な分野かなあと思ったんです。「国際的陰謀」というと、なんだかあまりに壮大すぎて、いまいちピンと来ない上に、結局国際紛争に善悪をつけることなどできなくて、後味が悪いというイメージがあります。このあらすじを読んで、同じような危惧を抱いた方もいらっしゃるかもしれませんが、この本は、後味はとってもよいです。すっきりさっぱり。小国で起こる「大事件」という名のお祭り騒ぎ的な要素が多分に含まれて、楽しめました。もちろん太平洋の小国や、それを取り巻く帝国主義的な大国という真面目なストーリーなのですが、私としては、この国の人々や、そこに住む外国人労働者たちとのやりとりの方が特に印象的でした。太平洋の小国って一度行ってみたいです。

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エイジ

著者重松清
出版(判型)朝日新聞社
出版年月1998.2
ISBN(価格)4-02-257352-X(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★★

中学2年生のエイジを主人公とする青春小説。同級生が通り魔だったという大事件から、忘れられない2学期になるお話。

私が中学2年生だったのは、もう10年も前の話ですが、よく「中学生が変わった」と言われるほど、変わったのかなあとこの本を読んでいて思いました。統計上では少年犯罪が増えたりといったことがあるのでしょうが、私が中学生だった頃は、すごーい学校が荒れていると言われていた時期で、しかも陰湿ないじめが流行っていた時期でもありました。もちろん私の両親が中学生だった頃とはずいぶん子供たちの考え方も違っているのでしょうが、戦争自体がまだ生々しい記憶の中にある時代と、今の時代を比べることにに、どれほど意味があるのかなあと、疑問に思います。もちろん当時は当時でいろいろ問題があったのでしょうし。きっと彼らは、そういう嫌なことは忘れていて、美しい思い出だけが残っているんじゃないの、もう50年も前の話だし。と思うのは私だけでしょうか。いずれにせよ、どんなに昔を懐かしんでも、時代を逆戻りはできないのです。
この本、実際当事者である中学生の感想が一番聞きたいです。自分の周りの世界が一番重要で、ちょっと反抗期で、わたしはこの頃も本ばっかり読んでましたけど(笑)、そんな中学時代のことを思い起こさせる作品でした。

■入手情報: 朝日文庫(2001.7)

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邪馬台国はどこですか?

著者鯨統一郎
出版(判型)創元推理文庫
出版年月1998.5
ISBN(価格)4-488-42201-2(\520)【amazon】【bk1
評価★★★★

松永は、カウンターだけのバーでバーテンをしている。そこには常連さんが3人。三谷教授と助手の早乙女女史、そして在野の研究家らしい宮田。この3人が来ると、何故か歴史バトルになってしまう。今日もまた突飛な説を宮田が持ち出し・・・

歴史の謎を突飛な説で解き明かす連作集。その突飛さ故に、逆に納得してしまう面白いお話です。邪馬台国はどこにあったのか、聖徳太子はだれなのか、なぜ明智光秀は謀反をおこしたのか。ちゃんと文献を元にした推理で、本当にあってもおかしくない話ばかり。特に標題にもなっている「邪馬台国はどこですか?」は、本当にありそう。維新の話はちょっと苦しいかなあと思ったのですが、仏陀の悟りからキリストの復活までを上手く説明してしまうところに拍手です。歴史が好きな人におすすめ。

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惜別の賦

著者ロバート・ゴダード
出版(判型)創元推理文庫
出版年月1999.1
ISBN(価格)4-488-29803-6(\820)【amazon】【bk1
評価★★★★★

姪の結婚披露宴のために、気のすすまぬ帰郷をしたクリス。祝宴を遠く眺めていた彼のところへ、34年間も会っていなかった親友が現れた。そして次の日、彼は帰らぬ人となる。絞首刑になった彼の父親と同じように、縄で首を括って。

親友の自殺によって、彼の父親の罪を疑い始めたクリスが、過去を掘り起こすお話なのですが、やっぱりゴダードはいいですね。複雑かつ謎に満ちた過去が解きほぐされるとき、彼は一体どうするのか。騙し騙されの人物模様も面白く、楽しめました。原書では、「さよならは言わないで」からこの本の間に、4冊もあるのですが、どれもすでに邦訳が決定しているそうで、今からもう楽しみです。

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5キャラットの恐怖

著者橘綾香
出版(判型)郁朋社
出版年月1999.1
ISBN(価格)4-87302-010-7(\1500)【amazon】【bk1
評価

申し訳ないのですが、この本についてあらすじを書く気がおきません。どうもこの人の文体は、私には合わないようです。「〜したのであった」が頻発する地の文に、「よろしくね!」という男。20年前のスポコンドラマじゃないんです。気持ち悪いです。初めて読む作家の本を買うときは、少し読んでから買うことにしようという教訓になりました。

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レクイエム

著者篠田節子
出版(判型)文藝春秋
出版年月1999.1
ISBN(価格)4-16-318190-3(\1619)【amazon】【bk1
評価★★★☆

幻想的な短編集。なんだか疲れているときに読んだので、恐ろしくブルーな気分になりました。致命的なダメージを受けた感じがします。特に標題になっている「レクイエム」の衝撃はひとしお。南方戦線から奇跡的に戻ってきて、宗教に目覚めた老人の遺言にまつわるお話なのですが、この時代の人々が今も生きていると思うと、なんとも言えない気分になります。「ニライカナイ」を通勤電車の中で読んでいたら、仕事をする気が失せました。気分の良いときに読んでも落ち込むような作品なので、あまり疲れているときに読まないほうがいいかもしれません。でも、どの作品も良かったですよ。私は案外好みかもしれません。

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紫の悪魔

著者響堂新
出版(判型)新潮社
出版年月1999.1
ISBN(価格)4-10-602758-5(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★★

ボルネオの原生林に住むプナン族。彼らの聖地の洞窟には、一生に一度しか訪れることができないという伝説があった。2度目に訪れた者には、「紫の悪魔」が襲い掛かるという言い伝えを一笑に付した日本の大学生探検家3人は、再びその洞窟を訪れる。ところが、その一人が急に苦しみ始めて・・・。

題材も新しいもので、しかもボルネオの奥地という舞台装置もよかったのですが、ちょっとストーリーが平坦な感じがします。「伝説」の正体や、熱帯雨林のお話は面白いのですが、もう少しかなあ。登場人物が多いのが難点かもしれません。もう少しボルネオに絞った形でのストーリーにして欲しかったです。(と思うのは、読者のわがまま(笑))。


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バースデイ

著者鈴木光司
出版(判型)角川書店
出版年月1999.2
ISBN(価格)4-04-873151-3(\1400)【amazon】【bk1
評価★★★

リング3部作を題材にした短編集。なんだかここまで来ると、やっぱり蛇足という感じがします。テレビ版に映画版に、内容を微妙に変えてさまざまな異本が存在するリング3部作ですが、一番面白かったのはやはりオリジナルの「リング」でした。「ループ」はそれなりに面白く読めたのですが、さらにそれに付け足そうとするのは、逆に勿体無い感じがします。全然違う雰囲気の、新しい鈴木光司を読みたいと切に願います。

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