1998年12月

カルタゴの運命(眉村卓) 聖域(篠田節子)
仄暗い水の底から(鈴木光司) 鳴釜(京極夏彦)
マン島の蒸気鉄道(森博嗣) どんどん橋、落ちた ; ぼうぼう森燃えた (綾辻行人)
永遠を巡る螺旋(篠田真由美) すべて死者は横たわる(メアリー・W・ウォーカー)
BRAIN VALLEY(瀬名秀明) 母の眠り(アナ・クィンドレン)
人狼城の恐怖 第1部(二階堂黎人) 死国(坂東眞砂子)
まぼろしのインターネット(ジャック・アタリ) 業火(P・コーンウェル)
百枚の定家(梓澤要) 人狼城の恐怖 第2部(二階堂黎人)
青猫の街(涼元悠一) ヤンのいた島(沢村凜)
オルガニスト(山之口洋)
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カルタゴの運命

著者眉村卓
出版(判型)新人物往来社
出版年月1998.11
ISBN(価格)4-404-02686-2(\2800)【amazon】【bk1
評価★★★

フリーターのぼくは、ある日人間文化研究所というところの奇妙なアルバイト募集広告を見つける。興味を持っていってみると、なんと紀元前のカルタゴへ行き、歴史の流れに干渉する「ゲーム」に参加しないかというのだ。平凡なバイトに飽きていたぼくは、その不思議な二人組と共に、紀元前の世界へと向かうことになるが。

設定といい、厚さといい(^^)申し分ないですね。面白かったです。ただ、もうすこしハンニバルだけに絞ってもよかったんじゃないかなあ、と思いました。確かに私のように西洋史をほとんど知らない人間にとっては、流れをちゃんとつかむためにも詳細な歴史の説明をしてくれるのはいいのですが、あまりに冗長という気がいたしました。
でも、こうして時間の潜在流があって、その中のひとつが最顕流として確定されていくという話は、本当にありそう。ローマ側の工作員に邪魔されながらも、なんとか不利なカルタゴを有利な流れに持っていこうとするワクワク感が、なんとも楽しかったです。この本を読んで、ふとヴォルテールの名言を思い出しました。
「歴史とは、公認された作り話に過ぎない」。
なんだかこの言葉が微妙に別の意味になりそうな気がします。

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聖域

著者篠田節子
出版(判型)講談社文庫
出版年月1997.8
ISBN(価格)4-06-263579-8(\638)【amazon】【bk1
評価★★★★

つい最近、文芸誌へと転属になった実藤は、去っていった先輩の机から未完の原稿を見つける。「聖域」と題されたその原稿を少し読んだとたん魅せられ、どうしても続きを書かせたいと思った実藤は、その作者である水名川泉を探そうとする。

水名川泉が書いた「聖域」のあらすじが出てくるのですが、そのあらすじを読んでいると、この原稿自体が読みたくなります。行方不明になってしまった作家を探して、東北をさまよう実藤と共に、自分までもが東北をさまよっているような感じがしました。読み終わったとたん、どっと疲れがでたような気がしました。すごい話です。「弥勒」を先に読んでいなかったら絶対に★5つにしていたでしょう。おすすめ。

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仄暗い水の底から

著者鈴木光司
出版(判型)角川ホラー文庫
出版年月1997.9
ISBN(価格)4-04-188002-5(\533)【amazon】【bk1
評価★★★★

東京湾をテーマとするホラーの短編集。

海って怖いです。「夢の島クルーズ」とか、本当に夢に出てきそう。私の高校では、1年のときに館山で4km(もちろん測れないので、2時間くらい泳ぐ)を泳がされるのですが、かなり沖合いの方まで出たときに、何か大量のぬるぬるしたものが沢山自分の周りにいたのを思い出してしまいました。その時はくらげだと言われていたのですが、今思うと・・・。

暗い海はもっと怖い。鎌倉の花火大会に行ったとき、ちょっと離れた岸壁から見ていたのですが、わたしは真っ黒な海が怖くて、どうしても堤防に座ることができませんでした。
「穴ぐら」に出てくる、富津岬の突端にある展望台。これも怖いです。正に異形の建物。潮風に長年さらされていたせいか、すでに一部しか立ち入りができないようになっているのですが、下から見上げると本当に怖いです。展望は抜群なのですが。この展望台、ちょっと目を凝らすと観音崎からでも見えるんですよ。

その、プロローグとエピローグに出てくる観音崎公園もなかなか怖さがあります。昔の砲台跡とかがそのまま放置されていて、煉瓦作りの真っ暗なトンネルとかあるんです。怖いです。なんだか銃剣を持って軍服来た亡霊が出そうな雰囲気。ここも展望は抜群なのですが、上の方にある展望台に行くまでがとっても怖かった覚えがあります。
鍾乳洞と言えば、奥多摩にある日原鍾乳洞。もう閉館まぎわだったせいかあまり人もいなくて、ものすごく怖かった。天井が全然見えない暗いところがあって、真っ暗なその上を見上げたのを後悔しました。

なんだか全然本の話になってないですね。この本、東京湾をテーマにしているせいか、わたしがよく行く場所が沢山出てきて、それだけで楽しめました。「怖い」と感じるのは、自分も同じ怖さを感じるときだと思うのですが、この本はまさに自分と怖さの視点が同じで、面白いというか、怖いというか。怖さの中にも、鈴木さんらしいファンタジックな感じもあって、なかなかよかったです。

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鳴釜

著者京極夏彦
出版(判型)メフィスト12月号
出版年月1998.12
ISBN(価格)
評価

榎木津が依頼人の姪のために、中禅寺たちに手伝わせて仕返しをするというお話。

京極堂シリーズの番外編。「百器徒然袋」の第1番だそうです。かなり笑えます。なんかもう京極堂一味って感じですね、これは。心配された関口君も何やら平気なようです。榎木津は相変わらずで、拝み屋を使ってうまく仕返しする様は痛快そのもの。楽しんで読める短編です。10編くらい続けて書いて、単行本にして欲しいですね。

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マン島の蒸気鉄道

著者森博嗣
出版(判型)メフィスト12月号
出版年月1998.12
ISBN(価格)
評価

(→1999年1月刊行「地球儀のスライス」に収録されました。)
犀川たちは、萌絵の叔母が持つマン島にある別荘へと向かった。マン島には、マニア垂涎と言われる「蒸気鉄道」が走っている。鉄道マニアの喜多と大御坊は、その蒸気鉄道を楽しみにしている。

蒸気鉄道が関係しているわけではなく、ちょっとしたパズルゲーム。本筋のトリックというか、解決はありがちですぐ解るものですが、中にもう一つ答えのないパズルが。きっとこっちを書きたかったんじゃないのでしょうか。多分こうだろうという解答は得られたのですが、ホントにできるのかなあ。解答を得ずに納得してしまう彼らの神経の太さというか、自信のありようが、とても羨ましいです。
明治村で、機関車がターンテーブルで回っているのを見たことがあります。昔の人ってよく考えましたよね。一回転できないなら、線路ごと回してしまおうという(^^)。私はその時まで汽車がああいう風に方向転換するのを知らなくて、ものすごく感心しました。ご覧になったことのない方、是非一度見に行ってはいかかでしょうか。


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どんどん橋、落ちた ; ぼうぼう森燃えた

著者綾辻行人
出版(判型)メフィスト12月号
出版年月1998.12
ISBN(価格)
評価

純粋な謎解きパズルです。どちらも読者への挑戦がついていて、謎を考えることができるようになっています。「どんどん橋」の方は、「ミステリーの愉しみ 5 奇想の復活」に収録されたもので、「ぼうぼう森」の方はその続編。どちらも真面目に考えると怒り出しそうな結末?(^^) 私は一生懸命考えたのに、やっぱりだめでした。でも、悔しいからもう1編と言いたくなる面白さです。

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永遠を巡る螺旋

著者篠田真由美
出版(判型)メフィスト12月号
出版年月1998.12
ISBN(価格)
評価

京介は、小説家の通訳としてフランスに飛んでいた。蒼と深春はいつもの通り教授の部屋に届けられた京介宛ての郵便物を届けようとして、脅迫状を見つける。京介が危ない?

フランスのシャンボール城を舞台にした復讐劇のようなものなのですが、ちょっと長さ的に勿体無い感じがしました。せっかくなら長編で読みたかったかも。ただ、気になる展開ですね。京介の過去が、どんな風に暴かれるのか、ちょっと楽しみになってきました(<悪趣味(^^))。フランスのシャンボール城、ずいぶん前に行ったのですが、また行きたいです。派手なお城なんですけど、なんとなく御伽噺で読んだお城ってああいう感じじゃないですか?(^^)。

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すべて死者は横たわる

著者メアリー・W・ウォーカー
出版(判型)講談社文庫
出版年月1998.9
ISBN(価格)4-06-263871-1(\800)【amazon】【bk1
評価★★★★

モリーシリーズ第3弾。モリーの心にずっと引っかかっていて、夫との離婚の原因ともなったモリーの父親の自殺。2週間後に再婚を控え、幸福の絶頂にあった父は何故自殺しなければならなかったのか。少し落ち着いていたその疑問も、当時の捜査官オリン・クロッカーと再開することで、再燃する。

この本は、とりあえずシリーズで読まれたほうがいいと思います。周りの人間もずっと同じ人間ですし、モリーの信念というか執念もわかってよいのではないでしょうか。シリーズ最大の謎、モリーの父親の自殺がとうとう明るみにでる第3弾は、シリーズで読んできた私のような人間を十分満足させるものでした。同時に「銃砲規制法案」や、「ホームレス問題」といった社会問題をうまくからめるところも健在。まだ続きが書かれているそうなので、モリーの今後に期待です。

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BRAIN VALLEY

著者瀬名秀明
出版(判型)角川書店
出版年月1997.12
ISBN(価格)(上)4-04-873060-6(\1400)【amazon】【bk1
(下)4-04-8730797(\1400)【amazon】【bk1
評価★★★★

人間の器官の中でもまだまだ未知の部分の多い「脳」。船笠村という田舎に作られたハイテク研究所ブレインテックでは、その「脳」を研究してあるものを作り出す一大プロジェクトが行われようとしていた。

上巻では、脳研究の最先端の紹介を素人にも解りやすいように説明しようとしています(多分)。そこで土台が作られて、実際に物語が動き出すのは下巻から。やっぱり一番面白かったのはAL(人工生命)の話で、本筋の話は、ふーん。という感じでした。多分一番の原因は、主人公たちがどういう人間だかよく解らないことだと思うのです。この作家さん、SFとかホラーではなく、一般向けの研究紹介本とかを書くと面白いんじゃないか、と思いました。と思っていたら、「このミス」の著者の今後の出版予定のところに、そういう一般啓蒙書を書かれるというお話が載ってました。やっぱり(^^)。
この本、もしかすると専門家の方が読むと、もっと面白いのかもしれません。

■入手情報:角川文庫(2000.12)

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母の眠り

著者アナ・クィンドレン
出版(判型)新潮社
出版年月1998.11
ISBN(価格)4-10-537601-2(\2300)【amazon】【bk1
評価★★★★★

母が末期癌に冒されていた。ハーバードを優等で卒業し、ニューヨークで編集員としてキャリアを積んでいた娘のエレンは、父の強制とも言える帰郷要請に応え、すべてを捨てて故郷のランゴーンへ戻ってくる。父に仕えるようにしていた母の生き方を否定し、キャリアウーマンとなったエレンは、母を看病することで20年分の溝を埋めることができるのだろうか。

私は小さいころ、画用紙に真珠の首飾りを書いて、「おとなになったらほんものをあげるね」という文と共に母の誕生日プレゼントにしたことがありました。母はその画用紙をとても喜んで、財布にしまって大切にしていました。それから20年近く経ってすっかり忘れていたその事を、ふと思い出しました。今年のクリスマスプレゼントは母に真珠を買おう。

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人狼城の恐怖 第1部

著者二階堂黎人
出版(判型)講談社ノベルス
出版年月1996.4
ISBN(価格)4-06-181886-4(\1068)【amazon】【bk1
評価

ドイツとフランスの国境にある人狼城。その城は、国境の断崖をはさんで存在する2つの城から成る。1970年、西ドイツの製薬会社が10名の客をドイツ側の人狼城・<<銀の狼城>>へと招待する。ところがそこでつぎつぎと殺人が起こり・・・

私は、この4部作は、エルロイの4部作のように、一部分では続いていても、1冊毎に完結しているものだと思っていたんですね。これだけ厚い本ですし。ところがどっこい、終わってないじゃないですか。なんと人々が惨殺されただけで、つづく・・・となってしまったんですね。これはこの本を発行当時に読まれた方は、さぞかし腹が立ったのではと思います。
というわけで、この長い話はまだまだ冒頭部分。評価も最後まで読んでからにしましょう。内容はまあまあといったところ。最後が思わせぶりで、続きが気になります。(→第2部 フランス編に続く)

■入手情報: 講談社文庫(2001.6)

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死国

著者坂東眞砂子
出版(判型)講談社文庫
出版年月1996.8
ISBN(価格)4-04-193202-5(\540)【amazon】【bk1
評価★★★★

四国八十八ヶ所を死者の歳の数だけ逆に回る「逆打ち」。これを行うと、死者が甦ると言われている。20年ぶりに故郷を訪れ、親友が死んだことを知った比奈子は、その母親から禁断の「逆打ち」を行っていると打ち明けられる。

メールで聞いていたのですが、実際に自分も映画の予告編を見て、面白そうだなあと思って買いました。期待を裏切らず、なかなか面白い小説です。ホラーに分類されているらしいですが、わたしには恋愛小説に思えました。
四国には幼い頃1度いったことがあるのですが、金毘羅さんしか覚えていません。もしかするとお遍路さんも結構見たのかもしれませんが、どうでしょう。でも、あのお遍路さんってやっぱり異様です。白装束がそう思わせるのか、それとも八十八ヶ所を回るという行動がそう思わせるのか、なんとも怖い感じがします。この本を読んで、なんだか「四国」が恐ろしいところのように思えてしまいました。

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まぼろしのインターネット

著者ジャック・アタリ
出版(判型)丸山学芸図書
出版年月1998.11
ISBN(価格)4-89542-159-7(\2300)【amazon】【bk1
評価★★★

いや、今値段を打ち込んでびっくり。この厚さで2300円は高すぎでしょう(払うときに気づけって>自分)。さすが学術図書出版社。発行部数も恐ろしく少ないと見ました。
極秘軍事センターに勤務するアダムズが、ある夜ネットワークに接続していると、最もセキュリティの高いネットワーク上のボックスに奇妙なメッセージが飛び込んできた。発信者はバルジットと名乗り、なんと1世紀以上も未来の2126年から交信しているという。彼がいる時間の1週間後に巨大彗星が地球と衝突し、地球上の生命が絶滅する。それを回避するためには、アダムズのいる時代のある石板が必要で、助けてもらいたいというのだ。

設定はものすごく興味をひくもので、実際それなりに面白いのですが、小説としてはいまいち盛り上がりに欠けるというのが正直な感想。設定は似ていますが、「アルマゲドン」でも「ディープインパクト」でもなく、この世の創造という話につながる哲学的な教養小説です。自分がいなくなったら、自分が認識しているこの世界はどうなってしまうんだろう。そんなことを考えたことはありませんか?そんな話にこのような説明を付けるというのは、面白いなあ、と思いました。
でもあと1世紀後に、過去につなぐことのできるネットワークができたら面白いでしょうね。そんなものができたら、是非見てみたいところが沢山あります。
ああ、この本、邦題がセンスないと思うんですよ。「まぼろしのインターネット」って、なんかインターネットブームにあやかって人目を引こうと思っているのが見え見えで、逆に買うのをためらってしまいます。原題は直訳すると「<無>の彼方に」という感じだと思うのですが、「まぼろしのかなたから」とか、もう少し考えようがあったんじゃないのでしょうか。

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業火

著者P・コーンウェル
出版(判型)講談社文庫
出版年月1998.12
ISBN(価格)4-06-263937-8(\857)【amazon】【bk1
評価★★★

ケイの元に一通の手紙が届いた。差出人はケイがやっとの思いで捕まえ、現在は施設にいるキャリー・グレセン。「おまえに復讐してやる」ともとれる奇妙な文面にケイはぞっとする。そこへ、マリーノからメディア王の農場で火災があったとの電話が。ベントンとの休日を返上し、ケイは現場へ急行する。

「これを聞く(あるいは見る)と今年も終わりだと思う」と思うものっていくつかあると思うのですが、私の場合コーンウェルの新刊はそのひとつ。この作品で、検屍官シリーズも9作目。そろそろマンネリ感も出ているのですが、それでもある程度人物の魅力で読んでしまう面白さがありますね。
今回は5作目から登場しているケイの長年の敵、キャリー・グレセンが鍵を握ります。さてさて、キャリーの脅迫を逃れて、ケイは真犯人を暴くことができるのでしょうか。あ、人間関係にもまた一波乱。コーンウェル、もしや△△△△な○○に恨みがあるのでは。いや、絶対にそうです。なんだかんだ言いつつも、続きが気になって来年も買ってしまうに違いないと思うのでした。(さて△と○には何が入るでしょう。(笑))。

*未読の方は絶対に押しちゃだめ!

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百枚の定家

著者梓澤要
出版(判型)新人物往来社
出版年月1998.11
ISBN(価格)4-404-02683-8(\2800)【amazon】【bk1
評価★★★★

本物なら大発見だが、贋作が多く古物商も手を出さないと言われる「小倉色紙」。百人一首のオリジナルでもあるその「小倉色紙」の1枚が、ニューヨークのオークションで現れたことが、事の始まりだった。友人からそれを聞いた秋岡は、自分が勤める新設された美術館のオープニング展覧会のテーマに「小倉色紙」を選ぶが・・・。

真贋ミステリーを読むのは、高橋克彦の浮世絵三部作以来ですから、もう10年ぶりくらいですね。こういうのって興味のあるなしによって、評価がものすごく分かれると思うのですが、私には面白く感じられました。600ページ以上という長さですが、展覧会までに真贋をはっきりさせなければならないというタイムリミットが物語にスピード感を与えていて、あまり長いという感じはしませんでした。
なんだか古美術の世界って、暗いですねえ。人間関係もすごいと思いますが、こういうのを読むと、本物って何?と思えてしまいます。1つの美術品が、ここまで人間を変えて行く様がなんともいえないです。百人一首って、誰でも名前くらいは聞いたことのあるメジャーな古典なのに、それ自体が謎だらけとよく言われますが、その周りにさらにこんな謎がついていたとは、全く知りませんでした。「小倉色紙」、真贋はともかくいろんなところが持っているらしいですが、一度見てみたいものです。
そうそう、今年最後のメフィスト賞も「百人一首」らしいですね。今年って定家生誕500年とか?(いや違いますね(笑))。正月に百人一首を久々に出して来ようかなと思いました(でも家の人間は誰も相手になってくれない・・・(T_T))。

■入手情報: 幻冬舎文庫(2001.8)

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人狼城の恐怖 第2部

著者二階堂黎人
出版(判型)講談社ノベルス
出版年月1997.9
ISBN(価格)4-06-181888-0(\1200)【amazon】【bk1
評価

(→第1部 ドイツ編より続く)
フランスとドイツの国境にある二つの城、人狼城。ドイツ側の<<銀の狼城>>で恐ろしい殺戮が行われていた同じ時期、フランス側の<<青のい狼城>>にも招待客が来ていた。その「アルザス独立サロン」の一行の中には、身分を偽って「星気体兵士」を追う刑事も加わっている。ところがドイツ側と同じように、惨殺事件が起き始め、ひとり、またひとりと人間が殺されていく。

ひやー怖い。次は自分か、それとも・・・という緊張感がよかったです。さらに「星気体兵士」なんていう怪しげな概念も持ち込まれ、一体誰が死体で、誰が生きているのかさえも解らなくなる有様。ここまででも既に普通の推理小説4冊分くらいあるんじゃないかという分量ですが、本当に収束するのでしょうか。なんとなく先を読むのが勿体無くなってきました。これは傑作かも。(まだ探偵も出てきてないのに、何故解る(笑)。第3部 探偵編に続く)

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青猫の街

著者涼元悠一
出版(判型)新潮社
出版年月1998.12
ISBN(価格)4-10-427101-2(\1500)【amazon】【bk1
評価★★★★

1996年10月、SEの神野はAの失踪を知った。母親に頼まれてAの部屋に行くと、家具も何もない部屋にぽつんとPC-9801VMが置かれている。最新のパソコンを持っていたのに、10年前の機種が何故ここに・・・。不審に思った神野は、Aの行方を追う内に「青猫」という言葉に行き当たるが。

懐かしいー。MSX。私も持ってました。ファミコンが欲しくて電気屋に行ったのに、なぜかMSXを買ってもらったのです。今思うと、ここまでパソコンを使えるようになったのは、あのときファミコンではなく、MSXを買ったおかげ。ありがとう、MSX(笑)。
それはさておき、この本、スピード感も、内容もなかなか良いです。多分パソコン通信、あるいはインターネットをある程度やったことのある人は、時々笑いながら、あるいは真っ青になりながら、あっという間に読めるのではないでしょうか。そして読み終わった後、すぐに自分のパスワードを変えたくなるでしょう(^^)。ただ、最後がちょっとあっけなかったかなあと思います(そのため★1個減点。つまりそこまではそれほど面白かったです。)。なんだか全然真相が明らかにされないまま、尻切れトンボに終わってしまった感じがいたしました。そこまでものすごく面白かっただけに、とても残念です。

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ヤンのいた島

著者沢村凜
出版(判型)新潮社
出版年月1998.12
ISBN(価格)4-10-384103-6(\1500)【amazon】【bk1
評価★★★★

未知の不思議な生物が住んでいると言われる、南海の孤島イシャナイ。瞳子は、その未知の生物に憧れ、Z国の調査団に無理矢理入ってついていく。ところがそこで待ち受けていたのは、軍隊とゲリラが衝突する「楽園」とは言い難い国だった。

雰囲気的に「弥勒」に似ているんですけれど、「弥勒」には無い、面白い仕掛けがあります。存在する可能性のある4つのイシャナイを出現させて、さて本当は・・・という上手い話で、きれいな終わり方もわたし好みでした。実際のところ、「現実」と考えられるイシャナイがいいのか、それとも骨抜きにされてしまった平和なイシャナイが(これって日本かなあと思ったのですが)いいのか、難しいところ。20世紀半ばまで「見えなかった」国、イシャナイは、これからどの道を取れば良いのか、考えさせられるお話でした。おすすめ。

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オルガニスト

著者山之口洋
出版(判型)新潮社
出版年月1998.12
ISBN(価格)4-10-427001-6(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★★★

「自分は<<音楽>>になりたい。」そう言っていた天才オルガニストのヨーゼフを、自分の運転ミスから半身不随にしてしまったテオは、事故から9年経った今でも自責の念にかられている。そんなある日、ある音楽記者が南米で無名の天才オルガニストを見つけたといって、ミニディスクに録音した演奏を送ってきた。もしや、それは9年前に消えてしまったヨーゼフではないか、そう思ったテオは執拗に彼を追うが。

壮絶な話です。最後はとても怖かった。<<音楽>>にここまで人生を捧げられる人を、きっと「天才」と言うのでしょうね。つい先日パイプ・オルガン付きのミサを聞いたばかりだったので、余計感慨深かったのかと思います。あの変な棒がここまで様々な音楽を作り出すのか、と思うと、単なるオルガンと思っていた楽器も、なんだかすごいものに思えてきました。(実際にすごいのでしょうけれども(^^))。
それ以上に、「天才」の壮絶さにはぞっとするものがあります。ここまでするか、という恐ろしさは、凡人のわたしには理解を超えているというか。読んだみなさんはどう思いましたか?

■入手情報: 新潮文庫(2001.8)

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