1999年03月

地下街の雨(宮部みゆき) 永遠の仔(天童荒太)
巡礼者たち(エリザベス・ギルバート) 毒殺-小説帝銀事件-(金井貴一)
プラチナ・ビーズ(五條瑛) 死の記憶(トマス・H・クック)
ミレニアム(永井するみ) 家族狩り(天童荒太)
遙都−渾沌出現−(柴田よしき) 黄泉津比良坂 暗夜行路(藤木稟)
スコール(小檜山博) 孤独の歌声(天童荒太)
ウランバーナの森(奥田英朗) 海の夜明け(白石一郎)
慟哭(貫井徳郎) 王妃の離婚(佐藤賢一)
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地下街の雨

著者宮部みゆき
出版(判型)集英社文庫
出版年月1998.10
ISBN(価格)4-08-748864-0(\514)【amazon】【bk1
評価★★★★

宮部さんの本は、短編も結構好きです。というより、短編の方が本当の宮部さんらしさが出ているのかなあという気もします。どことなく暗い感じが(^^)。
標題にもなっている「地下街の雨」が私は一番好きです。結婚直前に破談になって、会社を辞め、ウエイトレスとして働いていた麻子の前に、「あの女」が現れて・・・というお話。これは暗いながらもいい感じのお話でした。
最後の「さようならキリハラさん」、これもよかったですね。家の中で突然一家全員の耳が聞こえなくなって・・・というお話。「宇宙から来た」というキリハラさんとは一体誰?というのがポイントになるのですが、せつないお話でした。
いずれにせよ、どの短編も明るい気分になれるというのではなく、雨の日に切ない気分になれるお話。おすすめです。

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永遠の仔

著者天童荒太
出版(判型)幻冬社
出版年月1999.3
ISBN(価格)(上)4-87728-285-8(\1800)【amazon】【bk1
(下)4-87728-286-6(\1900)【amazon】【bk1
評価★★★★★

1979年、ある病院に入院していた久坂優希は、退院記念の霊峰登山で、父親を亡くす。当時仲良くしていた少年二人ともバラバラとなり、そのまま17年。神奈川の病院で看護婦をしている彼女の前に、久しぶりに彼らが現れる・・・

なんて苦しいお話だったのでしょう。心が痛むお話です。「自分なんて価値がない」と思いつづけ、その一方で「君は生きていていいんだ」という言葉を求めてずっと生きていた彼らは、結局何をつかむのでしょうか。超おすすめマークを付けましたが、読まれるときは、しばらく鬱になることを覚悟して読んで下さい。

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巡礼者たち

著者エリザベス・ギルバート
出版(判型)新潮社
出版年月1999.2
ISBN(価格)4-10-590007-2(\2000)【amazon】【bk1
評価★★★★

どこでもあるような、アメリカの片田舎の人々を主人公とする短編小説集。本当に単なる日常というか、日記を読んでいるような感じで、ほっとするような短編集でした。標題にもなっている「巡礼者たち」が私はお気に入り。牧場に勤める若者と、そこに現れた女性の恋物語。あとは「デニーブラウン(十五歳)の知らなかったこと」という長い題名のかわいいお話がおすすめです。なんとなく一気に読まずに一日ひとつづつ読んでいくような読み方が合っているような感じがしました。

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毒殺-小説帝銀事件-

著者金井貴一
出版(判型)廣済堂出版
出版年月1999.3
ISBN(価格)4-331-05804-2(\2000)【amazon】【bk1
評価★★★☆

昭和23年1月、戦後の混乱期の最中に帝国銀行椎名町支店にある男がやってきた。「GHQの命令で消毒に来た」と言うその男は、店員と訪れていた一般人を含む16名に毒を飲ませ、死亡させた。後に「帝銀事件」と呼ばれるこの事件には、意外な裏が隠されていた。

再審請求という話になると必ず出てくる「帝銀事件」ですが、この話は冤罪云々ではなく、帝銀事件と満州731部隊の関わりというちょっと違う切り口で作られた小説。もしかすると「レディ・ジョーカー」を意識しているかなという気もしたのですが、どうでしょう。731部隊に見捨てられた男の話は面白かったのですが、「帝銀事件」との関わりは、ちょっと無理矢理という気がしてしまいました。「逃亡」のような話だったら、もっと面白かったのかもしれません。文章はうまいと思うので、ちょっと残念。

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プラチナ・ビーズ

著者五條瑛
出版(判型)集英社
出版年月1999.2
ISBN(価格)4-08-775247-X(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★★

人的情報収集活動のプロである葉山は、ある女性の聞き取り調査にひっかかりを覚えた。北朝鮮に行っていたという彼女の話に出てくる男は、一体誰なのだろう。<会社>の上司、エディの命令によってさらに調べを進めていた彼は、「プラチナ・ビーズ」という言葉に行き当たる。

不思議の国北朝鮮を題材にした、スパイ小説(?)です。日本を舞台にしたスパイ小説って、あまりにうそ臭くて(日本はスパイ天国だそうですけれども)なんとなく好きになれなかったのですが、この話は本当にありそうで怖い。防衛庁にお勤めだった著者の知識が存分に生かされているのはもちろん、それ以上に登場人物もよかったですし、ついつい先が気になるという本でした。さて「プラチナ・ビーズ」とは一体何でしょう。

■入手情報: 集英社文庫(2001.7)

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死の記憶

著者トマス・H・クック
出版(判型)文春文庫
出版年月1999.3
ISBN(価格)4-16-725442-5(\714)【amazon】【bk1
評価★★★★

9歳の時、スティーヴは家族を無くした。父が、兄、姉、そして母を射殺、逃亡したのだ。それから35年、スティーヴも妻と一人の息子と共に新たな家族を作っている。そこへ作家がやってきて、父のことを話して欲しいと言い出す。

前作でも思ったんですけれども、この人の本って、ゴダードに通じるものがあると思うんですね。ゴダードの現代ヴァージョンという感じです。子供の頃に起こった悲劇を追想する内に、本当の過去が見えてくる。父はなぜ家族を殺したのか。なぜ自分だけが生き残ってしまったのか。35年間溜めてきた疑問が、一気に解決したとき、彼はどうするのでしょうか。最後の寂しい終わりがよいお話でした。おすすめ。

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ミレニアム

著者永井するみ
出版(判型)双葉社
出版年月1999.3
ISBN(価格)4-575-23363-3(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★☆

2000年1月1日を認識できず、コンピュータが一斉にエラーを起こすといわれる「2000年問題(ミレニアム・バグ)」。真野馨は、ソフトハウス会社でその2000年問題を中心とするプロジェクトに参加している。ある時、昔の同僚から「インドラツール」という画期的なソフトをすすめられるが・・・

もうあと2000年まで9ヶ月。こういうソフト会社の方、大変なんでしょうね。お気の毒です。これがバブル期なら、せっかくだからすべてのシステムを入れ替えて、長い目で効率よくしようじゃないか、となったと思うんですが、この不況ではそれもままならず・・・というところがつらいですね。
さて、今回の永井さんのお話は、そのミレニアムバグを題材にしたお話。最初と最後はよかったのですが、中だるみの感じがしてしまいました。こういうことって実際にありそうで、怖い。コンピュータ関係ではこの2000年問題、今世紀最後(あたりまえですが)の特需と言われていますけれども、本当に解決されるのでしょうか。2000年まであと300日弱。

■入手情報:双葉文庫(2000.11)

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家族狩り

著者天童荒太
出版(判型)新潮社
出版年月1995.11
ISBN(価格)4-10-602742-9(\2136)【amazon】【bk1
評価★★★★☆

両親を惨殺し、自分も自殺を図る。そんな事件が相次いでいた。本当に子供たちがあんな殺し方をしたのだろうか。疑問に思った刑事と、同じような不登校の児童を心配する高校教師が、真相をさぐろうとする。

うーん、なんだかうまくあらすじが書けません。読んでみてくださいとしかいいようがないかも。実は、この本が刊行されたときに、何度も買おうか悩んだんです。でも扉に書かれているあらすじが、なんだかとっても痛そうで(^^;。でも、どちらかというと、家族とは何か、という問題(超難問)を題材にした真面目なお話です。やっぱりあの時買っておけばよかった。「永遠の仔」を読んだ後だったので、4.5点になってしまいましたが、本当なら超おすすめの部類に入りますね。

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遙都−渾沌出現−

著者柴田よしき
出版(判型)トクマノベルス
出版年月1999.3
ISBN(価格)4-19-850448-2(\1200)【amazon】【bk1
評価★★★★

禍都」の続編。一条帝の生まれ変わりである真行寺を紅姫から取り戻した香流は、今度は特高化している危機管理委員会と対立する。

焦土と化した京都で、再び香流と真行寺が大活躍です。これは面白いです。何にも考えずに楽しめるところが、このシリーズのいいところなのですが、今回はそれ以上に面白かった。これを読むには「炎都」、「禍都」を読んでいることは必須条件です。重い本で疲れたときに是非。今回、全然解決してない部分が沢山あるのが不満なのですが、次の作品に大いに期待ですね。

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黄泉津比良坂 暗夜行路

著者藤木稟
出版(判型)トクマノベルス
出版年月1999.3
ISBN(価格)4-19-850449-0(\1000)【amazon】【bk1
評価★★★☆

(→「黄泉津比良坂 血祭りの館」から続く)
14年前、一家が次々と惨殺される事件が起きた天主家。その時、父に連れられて天主家を訪れていた朱雀は、今度は探偵として天主家に招かれる。しかし、また14年前を彷彿とさせる事件が起こり・・・

「黄泉津比良坂」は、朱雀シリーズの外伝だそうです。下巻にあたるこちらは前作「ハーメルンに哭く笛」のエピローグの前あたりの設定。命を救った律子(マリコ)と共に、再び天主家を訪れてこの恐怖の事件の謎を解くお話です。ものすごい暗号に、考える方が大変だったんじゃないかと思ってしまいました。朱雀の天才ぶりがよーーーく解る朱雀ファンにはおいしい1冊。さてさてこのシリーズは一体どうなっていくのでしょうね。

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スコール

著者小檜山博
出版(判型)集英社
出版年月1999.3
ISBN(価格)4-08-774389-6(\1400)【amazon】【bk1
評価★★★★

北海道で農家を営む正男。ところが農家は嫁の来手が無く、せっかく来てくれると思った女性には逃げられる。仕方なくフィリピンへ嫁探しに行った正男だが。

なんとなく「フィリピンへ嫁探し」という話に日本人の傲慢さが見え隠れしている気もするのですが、この正男君、現地で日本人にも馬鹿にされながら嫁を必死で探すところが哀れを誘います。結局正男君はお嫁さんをゲットして日本に凱旋できるのでしょうか・・・。長さは短いのに凝縮した面白さのあるお話でした。

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孤独の歌声

著者天童荒太
出版(判型)新潮文庫
出版年月1997.3
ISBN(価格)4-10-145711-5(\514)【amazon】【bk1
評価★★★☆

一人暮らしの女性が1ヶ月ほど行方不明になった後、死体で発見される事件が相次いでいた。同時にコンビニで強盗事件が。警察に勤める風希もひとり暮らしの女性であることから、その事件に関心を寄せているが、コンビニの強盗事件からある事実が解り・・・。

天童さんの本は、このところ連続で読んでいますが、この本も同じように家族とトラウマといったテーマではありながら、「家族狩り」や「永遠の仔」にあるような胸が痛くなるような切なさのようなものが薄い気がします。逆に犯人の怖さがこちらは目立っている感じ。怖いですねーこういう人。次はあなたかもしれないですよ、一人暮らしのお嬢さん(^^)。

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ウランバーナの森

著者奥田英朗
出版(判型)講談社
出版年月1997.8
ISBN(価格)4-06-208759-6(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★★

夏休み、軽井沢に妻と共に避暑に来た世紀のポップスター、ジョンは、なんと便秘に悩まされる。そして次々とトラウマとなっている人々が幽霊(精霊(?))として現れ・・

これは笑えます(^^)。すごく楽しい気分になれる1冊。若い頃は無茶をしていたジョンが、妻と子供とともに安定した生活を送りながらも、昔のことが悪夢となって出てきてしまう。そんな悩みを盆という日本的な行事の中で、癒していこうとする美しい小説です。もちろん便秘に悩むジョンの姿は、とってもかわいそうなのですが(^^)。ちなみにこの小説は、実在の人物(あるいは実在した人物)とは何の関わりもないそうです。ちょっと落ち込んだときなんかにおすすめです。

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海の夜明け

著者白石一郎
出版(判型)徳間書店
出版年月1999.3
ISBN(価格)4-19-860987-X(\1700)【amazon】【bk1
評価★★★

ペリー率いる黒船が、浦賀に入港した時代。開国かそれともこのまま鎖国をするのか、決断を迫られる幕府は、まずは海防をと日本海軍の創設にのりだす。オランダの好意により長崎に作られた海軍伝習所へと、海で生活をしていた人達が集まっていた。

「日本海軍」という言葉から、私はもっと近い時代を想像していたのですが、幕末の話でした。どちらかというと、文学作品というよりも教科書的な要素が強く、面白いよりもためになるという感じの1冊。もっと塩飽出身の仙三郎や鶴松をはっきりと主人公にして、彼らの視点からの話の方が面白かったのではないかなと残念に思います。また、雑誌連載(新聞連載のものもですが)の所為か、同じような説明、話が随所に出てくるのは興ざめ。本にする前にそういうところは加筆修正してもらいたいですね。同じ時代の話でしたら、福澤諭吉述の「福翁自伝」の方が視点もはっきりしていて、彼の経験に基づいた話なので、面白いです。もちろん内容は全然違いますけど。

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慟哭

著者貫井徳郎
出版(判型)創元推理文庫
出版年月1999.3
ISBN(価格)4-488-42501-1(\720)【amazon】【bk1
評価★★★★★

幼女が誘拐され他殺死体で発見される事件が相次いで起こっていた。犯人の目的も分からず、目撃者も皆無。全く進展しない捜査に、マスコミの攻勢も厳しく、捜査一課長は苦しむ。そして事件は思わぬ方向へ・・・

この衝撃は、私の大好きなある本以来と言ってもいいかもしれません。文句なしの★★★★★。今までなぜこの作家に気づかなかったのか、自分を責めたいくらいです。最初結論文を読んだとき、え?と思ったのですが、ちょっと思い返すと随所に伏線が張られていて、うわーという感じでした。単なる謎解きだけでなく、ストーリーとしても一級品だと思います。今読み終わったばかりなので、もうべたぼめ。でもきっとこの文章を後悔しないと思います、たぶん。

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王妃の離婚

著者佐藤賢一
出版(判型)集英社
出版年月1999.2
ISBN(価格)4-08-775248-8(\1900)【amazon】【bk1
評価★★★★

暴君といわれたフランス王、ルイ11世の娘ジャンヌ・ドゥ・フランスは窮地に立たされていた。夫のルイ12世に離婚訴訟を起こされ、その訴訟に無様に敗北しようとしていたのだ。その彼女を救うべく、かつて神童と言われたフランソワが弁護人として立ち上がった。

元気になるような法廷活劇。胸のすくような法廷劇として思い出すのは「ベニスの商人」なのですが、この物語も同じように、もう勝ち目がないと思われている裁判を、弁護人フランソワがどんな知恵で乗り越えていくのかがポイントです。単なる法廷劇だけではなく、フランソワの過去なども複雑にからんできますし、最後の希望の見える終わり方もよかったです。特に西洋史やフランスに興味の無い方でも全然大丈夫。歴史小説ではありません。どちらかというと人間の物語です。おすすめの1冊。

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