1998年05月

真・天狼星4(栗本薫) 樹縛(永井するみ)
サファイアの書(ジルベール・シヌエ) ゲノム・ハザード(司城志朗)
三月は深き紅の淵を(恩田陸) 美貌の帳(篠田真由美)
光の帝国(恩田陸) 匿名原稿(スティーヴン・グリーンリーフ)
理由(宮部みゆき) 球形の季節(恩田陸)
Fertile Ground(Rochelle Krich) ウッドストック行最終バス(コリン・デクスター)
L.A.コンフィデンシャル(ジェイムズ・エルロイ) 不安な童話(恩田陸)
致命傷(スティーヴン・グリーンリーフ) 覆面作家は二人いる(北村薫)
直線の死角(山田宗樹)
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真・天狼星4

著者栗本薫
出版(判型)講談社
出版年月1998.4
ISBN(価格)4-06-209112-7(\1300)【amazon】【bk1
評価★★★

真・天狼星3」の続編。ちょっとグロすぎないですか>栗本さん。天狼星シリーズはもともとグロい感じの話なのですが、ここに来て、気持ち悪い描写が増えたような気がします。
とうとう全6巻のこのシリーズも大詰め。犯人が見え隠れしながらも、そこへたどり着くことのできない伊集院大介。ゾディアックカードとロックバンド・ゾディアックとの関係もだんだん見えてきました。「東京ヴァンパイア事件」と「ビック・アップル・ヴァンパイア」事件には本当に関連性があるのか、というところまで来ています。さてさて、今度こそ犯人は捕まってくれるのでしょうか。(→「真・天狼星5」に続く)

■入手情報: 講談社文庫(2001.4)

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樹縛

著者永井するみ
出版(判型)新潮社
出版年月1998.4
ISBN(価格)4-10-602754-2(\1700)【amazon】【bk1
評価★★★

12年間も行方不明だった姉が、白骨死体となって杉林で発見された。ショックを受けている直里に、突如舞い込んでくる「室内花粉症」問題。この二つの事件に関連性はあるのか。
新潮ミステリ倶楽部賞受賞の永井さんの受賞第1作。農学部卒の彼女が2回目に選んだのは、木材です。シックハウス症候群って、最近かなり問題になってますよね。それ以外にも、家に関する問題って多いような気がします。タイムリーな問題をつくところは、さすが永井さん、なのですが、今回はちょっとひねりが足りなかったかなあ。「
枯れ蔵」の時は、まだ先入観なく読めたので、よかったと思うのですが、あの作品を読んでいると、なんとなくマンネリの感が否めません。また次作に期待、かな。

■入手情報:新潮文庫(2001.1)

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サファイアの書

著者ジルベール・シヌエ
出版(判型)NHK出版
出版年月1998.4
ISBN(価格)4-14-005292-9(\2800)【amazon】【bk1
評価★★★★

この本は、「『インディ・ジョーンズ』の冒険、『薔薇の名前』の謎解き」という帯の宣伝に惹かれて買いました。冒険小説。
15世紀のスペインで、一人のユダヤ人が異端の罪で火刑に処せられる。ところが、そのユダヤ人は、死ぬ前に友人に「サファイアの書」のことを書いた手紙と場所を示す暗号文を残していた。その暗号を手がかりに、3人の男達がイベリア半島を旅する。
内容的には平凡なのですが、ユダヤ人のエズラ、イスラム教徒のイブン・サラグ、イエズス会修道士のバルガスという変な3人連れが、互いの宗教を批判しあいつつも、助け合う旅の様子が面白く、最後まで楽しめました。映画にしたら面白いかもしれないですね。なんの気なしに買った本だったので、ちょっと得をした気分でした。

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ゲノム・ハザード

著者司城志朗
出版(判型)文藝春秋
出版年月1998.4
ISBN(価格)4-16-317660-8(\1333)【amazon】【bk1
評価★★★★

ある晩家に帰ると、17本のろうそくが床に置かれ、その向こうに妻の死体が横たわっていた。ところが、直後に電話がかかり、受話器からはそこで死んでいるはずの、妻の元気な声が。混乱した鳥山は、何が起こっているのかを探りだそうとするが・・・
最近は、宗教と遺伝子というのが、私の中で2大流行ですが(出版界でも流行なのでしょうか)、これは題名のとおり、遺伝子系。最初はなんとなく暗いイメージでしたが、途中からテンポも良くなって、めっきり面白くなり、最後はすっきりと終わらせてくれるというわたし好みの話で、楽しめました。ちょっと「アルジャーノンに花束を」に似ているかな。

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三月は深き紅の淵を

著者恩田陸
出版(判型)講談社
出版年月1997.7
ISBN(価格)4-06-208749-9(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★★

幻の名作「三月は深き紅の淵を」。その本は自費出版として刊行され、しかも持っている人は、「たったひとりにだけ、一晩しか貸してはならない」という制約がついている。本自体は知られているが、著者に関しては誰も知らない・・・
作中作とも、連作集とも言えるような不思議な作品です。4部構成になっていて、1章、1章を短編として読んでも面白いですし、あるいは全体を通じて長篇と言っても良いような感じです。所謂ミステリーとは言わないのでしょうが、そんな味付けもところどころあったりもします。久々に紅茶でも飲みつつ、ゆっくり読める本に出会った気がしました。


■入手情報: 講談社文庫(2001.7)

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美貌の帳

著者篠田真由美
出版(判型)講談社ノベルス
出版年月1998.5
ISBN(価格)4-06-182023-0(\1880)【amazon】【bk1
評価★★★

原罪の庭」で第1部が完結し、待たれていた新刊が刊行されました。この本から第2部になるようです。
いつまでも大学に居続けていた桜井と栗山は、とうとう大学を離れ、フリーターのようなものになっています。前作で、謎が明かされている蒼も、高校生に。そうしたメインキャラの成長を読んでいくのは、シリーズものを読む醍醐味ですね。
今回は、「小町伝説」をモチーフとした殺人事件。ちょっと今までの建物を主としたシリーズ作品とは雰囲気が違うようにも思えます。途中ちょっと冗長かな、と思える部分もあるのですが、やっぱり解決部分は面白かったですね。結局一気読みしてしまいました。
シリーズ中でも最も謎の多い桜井君の過去は、この第2部で明かされるのでしょうか。シリーズのこれからに期待したいです。

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光の帝国

著者恩田陸
出版(判型)集英社
出版年月1997.10
ISBN(価格)4-08-774292-X(\1700)【amazon】【bk1
評価★★★★★

三月は深き紅の淵を」に続き、恩田さんの本を読みました。前作を上回る雰囲気のよさ。「常野」という不思議な能力を持つ一族をテーマとした連作集なのですが、泣けるものあり、ほのぼのするものありで、最後まで一気読みしてしまいました。
東北の不思議な一族というテーマの本を、どこかで読んだことあるなあ、と思っていたのですが、高橋克彦の「総門谷」でした。あれはSFですが、恐山とか、遠野とか、東北地方ってなんとなく不思議な魅力があるのかもしれないですね。
それは置いておいて、この本は、もう一度拾い読みしようかな、と思ってます。早く続きが出ないかと、楽しみにする作品がまた1つできて、嬉しいです。

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匿名原稿

著者スティーヴン・グリーンリーフ
出版(判型)ハヤカワ・ミステリ文庫
出版年月1998.3
ISBN(価格)4-15-171401-4(\820)【amazon】【bk1
評価★★★★

ジョン・マーシャル・タナーシリーズの第7作目になります。私はいきなりこの作品を読んだのですが、それほど問題はなさそうです。でも他の作品も読んでみたくなりました。
私立探偵タナーのところに出版社を経営している友人、ブライス・チャタートンから依頼が来た。傑作を手に入れ出版したいのだが、著者が分からない。また最後の部分が欠けている。本の結末と、著者を探し出して欲しい、というもの。
久々に1人称で綴られる正統派のハードボイルド(というのでしょうか)を読んだので、ちょっと新鮮な感じです。匿名の原稿を追うという設定が面白く、結構さくさく読めました。ちゃんと最後はどんでん返しもあって、ミステリファンとしても満足満足(^_^)。
シリーズで読んでいないので、主人公をとりまくしがらみがちょっとよく分からなかったのが残念。是非最初から読んでみたいと思います。

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理由

著者宮部みゆき
出版(判型)朝日新聞社
出版年月1998.5
ISBN(価格)4-02-257244-2(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★

荒川区の高層マンションで起きた「一家4人惨殺事件」。何故この高級マンションで殺人は起きたのか、というのを書き手のインタビューという形で綴ったお話。
この話に何かモデルがあるのかなあと思うほど、客観的な文章になっています。少年や、犬を主人公にする宮部さんにしては、ちょっと意外な気がしました。内容は、「不動産競売」や、「家族とは何か」といったことが絡んでくる、社会派的なもの。「
火車」に近いでしょうか。石田さんがあまりにかわいそうだったかなあ。

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球形の季節

著者恩田陸
出版(判型)新潮社
出版年月1994.4
ISBN(価格)
評価★★★★

残念ながらこの本は絶版になっているようです。私は図書館で借りました。
続けて恩田さんを読んでいる私。この本は、「
光の帝国」にも通じるような、ファンタジー小説です。
舞台は、東北の谷津という村。この村の高校生の間に広まる噂が、本当になるというお話。最初は普通の話かと思ったのですが、途中で不思議な力を持つ少年少女が関わってきたり、「向こうの世界」へ行ってしまうなんていう話が出てきたりと、恩田さんらしさも出ています。
この人の本には、不思議な魅力があります。私が全然自分とは関係ないのに、奈良が好きだというのと同じような雰囲気。共感してしまうような感じがあります。どちらかというと女性向きなのではないでしょうか。この本、絶版になっているのは本当に残念。新潮社さん、文庫ででもぜひ復刊してください。

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Fertile Ground

著者Rochelle Krich
出版(判型)AvonBooks
出版年月
ISBN(価格)
評価★★★★

女性刑事や女性弁護士を主人公とする話を書いてきたクリッヒ。今回は不妊治療専門の産科を舞台としたサスペンスです。
主人公は、ロサンゼルスでも有名なその産科の医師Lisa。ところがある朝Lisaが出勤したところ、ものすごい人数のリポーター達が待ち受けていた。その産科が、ドナーの卵子を交換してしまったのではないか、という疑いがかかったためだ。時を同じくして、産科の創設者のひとりでもあり、LisaのフィアンセでもあるMatthew Gordonが行方不明に。また、その産科のドナーが殺されるという事件も起きて、卵子交換疑惑との関連性が問われる。当然行方不明の医師Matthewに疑いがかかるが、彼の無実を信じているLisaは、自分で彼の疑いを晴らそうとするが・・・
私は最初、まあこの人が犯人なんだろうなあ、と思ってちょっとがっかりしていたのですが、いやいやそうではなかったです。やっぱりクリッヒ。そこは甘くなかった。ちゃんとどんでん返しがあるんですね。
不妊治療って、当事者にとってみれば切実な問題なので、こうした問題が起こること自体がセンセーショナルなのでしょうね。まだまだドナーの卵子あるいは精子をもらって、自分が産むという事に抵抗感があるのは当然ですから、変な疑いなどはもってのほか、といったところでしょうか。特にアメリカのように、そこに宗教まで絡んできたら本当に大変でしょう。なんとなく、親って何だろうと思ってしまった1冊でした。

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ウッドストック行最終バス

著者コリン・デクスター
出版(判型)ハヤカワ文庫
出版年月1988.11
ISBN(価格)4-15-07751-6(\600)【amazon】【bk1
評価★★★

ホームページ読者の方からのおすすめで、ちょっと古るめの英国ミステリーを読みました。モース警部シリーズの第1作目です。
ウッドストック行きのバスを待っていた二人の娘。バス停付近で目撃されたのを最後に、そのひとりは惨殺死体で発見された。もう一人はどこへ行ってしまったのか、またなぜ娘は殺されてしまったのか。
モース警部の行き当たりばったりとも言える推理や、部下のルイスには絶対勤務中にお酒を飲ませないのに、自分は平気で飲んでいるという性格などが、かなり面白く感じられました。全体的には、最近のミステリーに多いアクロバティックな展開とか、衝撃の結末といった感じではないのですが、最後の推理は、久々に「きちんとした」推理小説を読んだなあという感じで、続きも暇を見つけて読んでいきたいと思っています。

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L.A.コンフィデンシャル

著者ジェイムズ・エルロイ
出版(判型)文春文庫
出版年月1997.11
ISBN(価格)(上)4-16-752739-1(\571)【amazon】【bk1
(下)4-16-752740-5(\571)【amazon】【bk1
評価★★★★

暗黒のLA4部作の第3作目。人に話せない暗い過去を持つ、3人の警官を中心としたお話。
かなり疲れる話です。「暗黒のLA」というだけあって、警官は平気で容疑者を虐待、拷問し、賄賂を受け取る。出てくる犯罪者よりよっぽど怖い。正義なんてものが存在するのか、というのがあちこちに現れていて、現実に母親を惨殺され、その犯人が捕まっていない著者の鬱屈した思いがこれでもか、というほどこもっている感じがします。
最後がいいです。なんとも言えない哀しさがただようラスト。過去に振り回されていた3人の警官たちが、LAPDを脅かした大事件にどんな決着をつけるのか。きっと映画にすると見栄えのあるものになるのではないでしょうか。公開を楽しみにしています。これから4部作を最初から全部読まなくては。

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不安な童話

著者恩田陸
出版(判型)ノン・ノベル
出版年月1994.12
ISBN(価格)4-396-20494-9(\780)【amazon】【bk1
評価★★★★

ある日、大学教授の秘書をしている古橋万由子は、教授と連れ立ってある画家の遺作展に行く。ところがそこである絵を見た万由子は、突然「鋏が・・・」と叫び、失神してしまう。その事件のあと、教授のところへ画家の息子がたずねてきて、「あなたは母の生まれ変わりです」と言い始める・・・。
と、設定は突飛なのですが、ちゃんと最後はミステリーになっているところが、今まで読んだ恩田さんとはちょっと違うところでしょうか。ある意味新本格派とも言える作品。ほのぼのした読後感とは言えないかもしれないのですが、ミステリーとしては一級品だと思います。最新作から読んでいたので、こういう作家だったのかーと思いました。

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致命傷

著者スティーヴン・グリーンリーフ
出版(判型)ハヤカワ・ミステリ(1391)
出版年月1982.4
ISBN(価格)4-15-001391-8(\950)【amazon】【bk1
評価★★★★

匿名原稿」を読んで、ジョン・マーシャル・タナーシリーズを最初から読もうと思い立ち、さっそく第1作を読みました。これからも次々現れる予定です。
今回の依頼人は、消費者運動の指導者ローランド・ネルソンの妻、ジャックリーン。最近どうも夫の様子がおかしい、しかも勤めている研究所のお金を頻繁に持ち出して使っているようだから調査をしてくれ、というもの。ところが調査を始めたとたん、タナーの親友で、探偵のハリー・スプリングスが殺されたという知らせが。しかもハリーは、ローランドの養女、クレアの依頼を受けて調査をしていたらしい・・・。
話としては、ありがちなハードボイルドで、犯人も大体見えるのですが、それでも面白い。特に最後の犯人を追いつめるところなど、ドキドキしながら読みました。作者の筆力を感じさせます。結構登場人物が多い割に覚えやすいのは、やはり個性がちゃんと出ているからなのでしょう。
主人公のジョン・タナーがまた良いんです。元弁護士で、ある事件から弁護士をやめ、私立探偵になったといういきさつが、この本で明らかにされているのですが、そのエピソードからも彼が本当に「いい人」だということが、良く分かります。続きを読むのが楽しみです。

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覆面作家は二人いる

著者北村薫
出版(判型)角川文庫
出版年月1997.11
ISBN(価格)4-04-343201-1(\480)【amazon】【bk1
評価★★★★

北村さんの「覆面作家シリーズ」は、読もう、読もうと思いつつ棚上げされていた作品のひとつです。2作目の「愛の歌」が文庫化されたので、一遍に買ってきました。
いいですねー(^_^)。「覆面作家」のお嬢様千秋と、行きがかり上担当となってしまった岡部良介が出会う事件のお話。ところがこのお嬢様、ただものではないのです。執事付きの豪邸に住んでいるというだけではなく、なんと外へ一歩でると、性格がまるで変わってしまう変な人。しかも刑事を投げ飛ばしてしまうほど強い。そんな千秋と、良介君のどたばたがとても楽しめます。
この作品は3編からなるのですが、どれも甲乙つけがたい良い作品。すっかり気に入ってしまいました。続きも楽しみですね。私は良介の双子の兄で刑事の優介が結構好きだなあ(^_^)。
エルロイグリーンリーフと続けて読んでいると、こういう作品は一種の清涼剤ですね。

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直線の死角

著者山田宗樹
出版(判型)角川書店
出版年月1998.5
ISBN(価格)4-04-873115-7(\1400)【amazon】【bk1
評価★★★

暴力団の弁護も引き受けるやり手の弁護士、小早川の事務所に、ある女性が訪ねてきた。交通事故で夫を亡くした彼女は、損保会社の提示する賠償金に納得できず、相談しに来たのだ。彼女の依頼を受けることになった小早川が、事故の状況を調べていくうちに、不審な点が現れる。
テンポも良いし、題材も面白いし、楽しめるのですが、ちょっといろいろな話を詰め込みすぎかなあという気がします。特に弁護士事務所の中の話は、また別の機会にすればよかったのではないか、というのが正直な感想。あれはあれで、1冊の本が書ける題材なのではないでしょうか。盛りだくさんという意味では、はなまる!なんですけれど。
これは、人によって感じ方が違うところだと思うのですが、会話部分が私はあまり好きではありませんでした。唐突なところが多い感じがします。募集要項に合わせるために、削ったりしているのでしょうか。だとしたら、もったいないですね。
でも、これからの活躍が期待できる作家さんだと思います。次作を楽しみにしています。

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