1998年01月
・炎の記憶(リドリー・ピアスン) | ・死の泉(皆川博子) |
・死ぬには遅すぎる(クリストファー・ムーア) | ・鉄の枷(ミネット・ウォルターズ) |
・夏のレプリカ(森博嗣) | ・蒼穹のかなたへ(ロバート・ゴダート) |
・空のオベリスト(C・デイリー・キング) | ・幻惑密室(西澤保彦) |
・リオノーラの肖像(ロバート・ゴダード) | ・ワシントン封印工作(佐々木譲) |
・封印された数字(ジョン・ダニング) | |
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炎の記憶
著者 | リドリー・ピアスン |
出版(判型) | 角川文庫 |
出版年月 | 2002.5 |
ISBN(価格) | 4-04-214903-0(\1000)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★ |
ボールト刑事シリーズ。結婚生活に問題を抱えたボールト刑事と、心理学者のダフネ・マシューズが活躍します。今回の敵は放火魔。目的も分からず次々と放火される家。しかもその火種も何だか分かりません。その一方で、ダフネとボールトとボールトの妻リズとの三角関係(?)に新たな要因が。シリーズで読んでる人には、絶対のがしてもらいたくない1冊ですね。でも、ピアスンの本は、螺旋状の殺意ではまった私としては、ちょっと物足りないといったところでしょうか。でも最後の犯人を追いつめるところとか、緊張した一瞬はさすが、というところですが。
死の泉
著者 | 皆川博子 |
出版(判型) | 早川書房 |
出版年月 | 1997.10 |
ISBN(価格) | 4-15-208114-7(\2000)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
作中作とでも言うのでしょうか。迷路館の殺人を思い出したのですが、みなさんどうでしょう。このミスですごい絶賛されていましたが、期待に応えてくれる本でした。私はこういう「本ならでは」のトリックって大好きなのですが、最後は何がなんだか・・・こっちまで狂ってしまいそうでした。
死ぬには遅すぎる
著者 | クリストファー・ムーア |
出版(判型) | 講談社 |
出版年月 | 1997.12 |
ISBN(価格) | 4-06-263668-9(\781)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★ |
タイの私立探偵という設定がすごく斬新で、混乱状態を示すカンボジアで政府や国連を相手に、密輸組織の真相を暴こうとするハードボイルドっていうのもなかなか楽しめました。話はちょっと古い感じなのですが、面白いので許しましょう。でもちょっと訳がいまいちだったかなあ、という印象を受けました。カクカクした感じというのでしょうか、英語が透けて見えるというのでしょうか。なんかリズムが乱されるようで、興ざめ。例をあげると、最後の一文。「・・そんな眠りを眠るのだ」。「〜な眠りを眠る」なんて言いませんよね。「惰眠をむさぼる」とか「深い眠りに落ちる」なら言いますけど。まあ分からないこともないのですが、こういうの私はだめなタイプです。よく「〜な笑いを笑う」という訳を見ることがありますが、これもだめですね。一気に読む気を失います。
それが気にならない部分がほとんどなのですが、時々ありましたね。でもそれを除けばまあまあという評価でしょうか。
鉄の枷
著者 | ミネット・ウォルターズ |
出版(判型) | 東京創元社 |
出版年月 | 1996.11 |
ISBN(価格) | 4-488-01370-8(\2400)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
ウォルターズの本って、何が好きかといわれたら、人物ですね。今回も主人公の女医さんと、その夫の画家がとってもよい。村中に嫌われている金持ちの患者が死に、自殺か他殺か分からないまま、その遺産が全部主人公の女医さんに遺贈されることになっていたことが判明。娘と孫はその遺書に賛成できず、女医といがみ合いをすることに・・・。夫の画家がまた食わせ物で、女ときたら目がないといわれる俗物と思わせて、案外そうでもなかったり。私はこの画家が一番好きですね。今回は、3作の中でも一番純粋なフーダニットかもしれません。
夏のレプリカ
著者 | 森博嗣 |
出版(判型) | 講談社ノベルス |
出版年月 | 1998.1 |
ISBN(価格) | 4-06-182000-1(\780)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
幻惑の死と使途の姉妹版(?)というのでしょうか。偶数章編です。どちらを先に読んでもいいのでしょうが、やっぱり第1章のある「幻惑の死と使途」から読むのをお勧めします。
話としては、私はこちらのほうが好み。なんだか仕掛けの大きくて派手な手品より、手先を使った地味な手品のほうが、すごいなあと思えるのと同じかもしれません。萌絵ちゃんの友人が巻き込まれた奇妙な誘拐事件のお話です。仮面の謎とか、結構面白かったです。読み終わるのがもったいないと思ったくらい、のめり込んでしまいました。
蒼穹のかなたへ
著者 | ロバート・ゴダート |
出版(判型) | 文春文庫 |
出版年月 | 1997.8 |
ISBN(価格) | (上)4-16-725421-2(\571)【amazon】【bk1】 (下)4-16-725422-0(\571)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
ギリシャのロードス島で別荘番として無為な生活を送っている中年男、ハリーが主人公。別荘をたずねてきていた娘、ヘザーが山で姿を消してしまった。残された手がかりからヘザーが失踪した理由を探り、彼女を探すハリーのお話。
ひとつひとつ糸をたどっていくことで、少しづつ真相が明らかになっていくのが最近ではあまり見られない趣向のようで、新鮮な気がしました。小さいころ読んだ童話(?)の中に、お母さんの誕生日に、あちこちになぞなぞを残して、最後にプレゼントにたどり着けるようにしたお話があったのですが、その話を思い出しました。何ていう題名だか忘れてしまいましたが、面白かったのだけは鮮明。お勧めの作品です。
空のオベリスト
著者 | C・デイリー・キング |
出版(判型) | 国書刊行会 |
出版年月 | 1997.12 |
ISBN(価格) | 4-336-03851-1(\2400)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★★ |
この作品は、なんと(原著の)初版が1935年。「新青年」、「モダン日本」で紹介され、「探偵春秋」、昭和30年のハヤカワ・ミステリ第2期で予告されながら、幻のミステリとなっていた本です。日本では全然発達しなかった「手がかり索引」を使ったミステリ。(詳しくは、実際に読んでみればわかります。)
戦前の作品でありながら、全然古さを感じさせません。もちろん10人乗りの飛行機とか、それをなんども乗り換えなくてはならないといった時代の古さはあるのですが、エピローグを最初に持ってくる構成や、意外な犯人、そしてデイリー・キングが最初に導入したと言われる「手がかり索引」。どれをとっても十分現在でも読み応えのあるミステリです。最後にある「プロローグ」を読んでいて、もう最近の一押しミステリといっても過言でないなあ、と思いました。
幻惑密室
著者 | 西澤保彦 |
出版(判型) | 講談社ノベルス |
出版年月 | 1998.1 |
ISBN(価格) | 4-06-182003-6(\780)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
今回の西澤氏の「仕掛け」は、暗示超能力。詳しいことは、読んで楽しんでください。コミカルな人物模様がかなり笑えました。その一方で、ちゃんとしたどんでん返しあり、パズラー的趣向ありで、ミステリファンでも十分楽しめるでしょう。
それにしても(毎回言っているようですが)、この人は、どこからこんなにいろいろなアイディアが出てくるのでしょう。なんとなく「ドラえもん」を思い出してしまうのですが、西澤さんはまるでなんでも出てくる四次元ポケットですね。
リオノーラの肖像
著者 | ロバート・ゴダード |
出版(判型) | 文春文庫 |
出版年月 | 1993.1 |
ISBN(価格) | 4-16-721809-7(\686)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
蒼穹のかなたへを読んで、すっかりゴダードが気に入ってしまった私は、彼の昔の作品も読んでみようと思って、とりあえず手に取ったのが、これです。
全体は、年老いたリオノーラという女性が、彼女の娘に自分の謎に満ちた半生を語るという体裁がとられています。彼女は自分の生い立ちに疑問を持って、様々な人に会うのですが、徐々にその謎が明らかになっていく過程が面白く、引きずり込まれるように読んでしまいました。まさに「ストーリーテラー」というのは、彼のような作家を言うのでしょう。
ワシントン封印工作
著者 | 佐々木譲 |
出版(判型) | 新潮社 |
出版年月 | 1997.12 |
ISBN(価格) | 4-10-602752-6(\1900)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
私はあんまり戦争もの(というか歴史もの)が好きではなくて、それほど読まないのですが、佐々木さんもその偏見からなんとなく手を出しそびれていた作家の一人です。前にこのホームページを見てくださっている方から、佐々木さんの3部作のほうを勧めていただいたのですが、ずっと読んでなくてごめんなさい>伊藤さん。
というわけで、新刊がでていたので、おそるおそる手に取ってみました。これが案外面白い。よく考えると、私は近現代史が好きだったんですよね。舞台は、真珠湾攻撃目前のアメリカ。留学中だった主人公は、授業料を払うために、日本大使館に勤めることになるのですが。ハルとか、野村大使とか、昔教科書で習ったなあと思えて、懐かしい。自分は結果を知っているので、日本は戦争をするしないでもめる、ホルブルックと、ホーンベックの争いとかがなんとなく哀れに見えてきてしまうのですが。もう少し、主人公の動きが活発だと面白いかなあと思いましたが、歴史を変えることはできませんからね、こんなものでしょうか。戦争ものという気があまりしなかったのも、面白いと思った理由の一つかもしれません。
封印された数字
著者 | ジョン・ダニング |
出版(判型) | ハヤカワ文庫 |
出版年月 | 1998.12 |
ISBN(価格) | 4-15-170403-5(\640)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
この本の初版は、1975年であることをまずお断りします。私が持っているのは、その初版ではなく、1997年に出版された新版です。
最近のダニングの本とは幾分雰囲気が違い、飲んだくれの中年男の冒険(?)の話。主人公のジムは、自分の過去を思い出しては眠れない夜を過ごしています。心理学の実験に使われた彼は、ある恐怖の体験をしているのです。そこへ、ある山道を写した写真が届きます。その写真に興味を引かれた彼は、その差出人の住所であるニューヨークへ向かおうとするのですが・・・。
一見なんでこんな話が出てくるのだろうとか、なぜここでこの人に会うのだろう、と思えるような部分が、最後に一気に明らかになるところとかは、さすがダニングという気がしました。ちなみに、題名のHollandは、人名です。最後まで読むと、この題名がものすごい意味を持っていることに気づきます。邦題が楽しみですね。
1998年12月、その邦訳が出ました。邦題は「封印された数字」。うーん、なるほどというか。確かに内容を考えると、そんな感じでしょう。さてさて、内容は・・・
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