1999年05月

少女達がいた街(柴田よしき) 修羅の終わり(貫井徳郎)
緋の楔(吉田直樹) アキハバラ(今野敏)
ヒトラーの防具(帚木蓬生) サタンの僧院(柄刀一)
水底の死者の眠り(J. ウォリス・マーティン) 双頭の鷲(佐藤賢一)
サイレンス(チャールズ・マクリーン) 童話物語(向山貴彦)
黒猫の三角(森博嗣) 血食-系図屋奔走セリ-(物集高音)
ジャガーになった男(佐藤賢一) 千里眼(松岡圭祐)
傭兵ピエール(佐藤賢一) 沈黙の教室(折原一)
血ダルマ熱(響堂新) ロシア紅茶の謎(有栖川有栖)
ブラジル蝶の謎(有栖川有栖) インヴィジブル・ワールド(スチュアート・コーエン)
バトル・ロワイアル(高見広春) 撃つ薔薇(大沢在昌)
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少女達がいた街

著者柴田よしき
出版(判型)角川文庫
出版年月1999.4
ISBN(価格)4-04-342803-0(\724)【amazon】【bk1
評価★★★★

1975年。学校が終わると、渋谷の街をさまよっていたノンノ。ロックが大好きで、ロック喫茶によってはそこで出来た本名も知らない親友・チアキと遊ぶ毎日。しかしバンド活動に力を入れるチアキとは次第に疎遠になり、ノンノはナッキーという少女に惹かれていく。

この本の全体の構想としては、1975年とそれから21年経った現代を結ぶある事件にあると思うのですが、私は1975年のノンノたちの話がよかったなあ。ノスタルジックな気分にさせられるというか。渋谷ってこの頃から若い世代の街だったんですね。私が生まれたのがこの1975年。よく昭和50年の写真とか見ると、すごーく古いんですよね。これが東京?って感じです。そりゃあもう20年以上も前で、インターネットどころか、コピーもファックスもコンビニもない時代ですから、今と違って当然なのですが、渋谷の街で遊ぶノンノを見ていると、高校生は今も昔もあんまりかわらないんじゃないかなあと思ってしまいます。
どちらかというと、この本は、私より一世代上の、70年代に渋谷で遊んだ人達の方が、より共感があるんじゃないかと思います。

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修羅の終わり

著者貫井徳郎
出版(判型)講談社
出版年月1997.2
ISBN(価格)4-06-208440-6(\2266)【amazon】【bk1
評価★★★☆

ふと目が覚めると、路上で寝ていた。頭が痛い。ここはどこだ? そう考えて青くなった。自分は誰なんだ・・・。記憶喪失になった青年、「桜」として任務を遂行する理想主義の公安刑事、そしてある事件がきっかけで警察を懲戒免職になり、警察に恨みを持つ男。一見関係のない3人だったが・・・。

なんだか暗い話でした。良い人が一人もいないというか、良い人が出てくると、悪者に搾取される側というとても凄惨なストーリー。最後の終わり方もあまり救いがなく、ますます暗い気分にさせられました。公安の話というと、逢坂剛の「百舌シリーズ」や、大沢在昌の「新宿鮫シリーズ」を思い出しますが、そう言えばどちらもあまり明るい話ではなかったですね。うまく3人のストーリーを組み合わせてぐいぐい読ませるところなんかは、面白いと感じましたが、全体に流れる暗さがなんとも言えず、評価はあまりあがらず(^^)。

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緋の楔

著者吉田直樹
出版(判型)祥伝社
出版年月1999.4
ISBN(価格)4-396-63140-5(\1900)【amazon】【bk1
評価★★★☆

親会社の意向により、自分が編集していた雑誌の出版部が取り潰しになってしまった折口夏奈。失意の彼女のところに、元編集仲間から電話がかかってきた。かつて漫画『プリティー・ジョーディ』で一世を風靡し、漫画家界の大御所である上村ルイがまた勝手な断筆をしているというのだ。彼女のところに挨拶がてら出向いた夏奈は、ルイから『ジョーディ』の原作者である小室恵子の娘を捜して欲しいと頼まれる。

多分、この『プリティー・ジョーディ』というのは、『キャンディ・キャンディ』のことだと思うのです。あれも確か漫画は五十嵐さんでしたけど、原作者もいましたよね。私は小さい頃は親がマンガを読ませてくれなかったので、「キャンディ」はテレビで見ただけ。よくストーリーも覚えていなかったのですが、つい最近友人からこの『キャンディ・キャンディ』(文庫じゃなくてコミックスの方。もしかしたら貴重なものなのかも)を借りる機会があって、読んでみたんです。これが結構面白い。私はキャンディというと丘の上の王子様というイメージしかなかったのですが、このキャンディという女の子は妙に強い人間だったんですねー。
・・・思わず話がそれてしまいました。この本は、その原作者と漫画家の間で一体何が起こっていたのか、というお話。かつてマンガを読み漁った人なら意外に面白く読めるのかもしれません。ただちょっとミステリとしては御都合主義的(ある意味漫画的?)で、最後が唐突かなと思ってしまいましたが、漫画への思い入れはよくわかる作品でした。

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アキハバラ

著者今野敏
出版(判型)中央公論新社
出版年月1999.4
ISBN(価格)4-12-002893-3(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★★

秋葉原の電気街に憧れ、秋田の田舎から東京に出てきた六郷史郎。ところが初めての秋葉原訪問で、万引きの疑いはかけられる、ヤクザには追われる、しかもキャンペーンガールにストーカーに間違えられて・・・。散々な目にあう史郎だったが、さらにその後には恐ろしい目に遭うことに。

かなり笑えました。何も考えずに楽しんで読める本だと思います。秋葉原って、東京でもかなり独特の雰囲気を放っているところですよねえ。渋谷や新宿や銀座とは全然違う。しかも最近はアジア系の外国人も多いですし。聞いたところだとトウキョウツアーには、秋葉原ショッピングが含まれているのが多いとか(^^)。日本人がイタリアとかにショッピングツアーするのと同じ感覚(?)。あのガード下の、もうこの店はあやしーんだぞーというのを全面から発散しているお店も、秋葉原ならでは。何に使うのか全然わからないランプとか、ケーブルとか大量にぶら下がっていて、しかもショーケースにはさらによく分からない機械類。友人に聞いたところによると、かなりやばめの機械類なんかも売っているそうですが、私にはさっぱりわかりません。こんなところだからこそ起こる珍騒動(にしてはかなり規模はでかいですけど)。「全世界のアキハバラ・フリークに送る・・・」というコピーがすんなり出てくるような本です。アキハバラ・フリークの方、どうぞ(笑)。

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ヒトラーの防具

著者帚木蓬生
出版(判型)新潮文庫
出版年月1999.4
ISBN(価格)(上)4-10-128809-7(\743)【amazon】【bk1
(下)4-10-128810-0(\743)【amazon】【bk1
評価★★★★★

壁の崩壊したベルリンを訪れた私は、ベルリン経済大学の倉庫から、剣道の防具が見つかったと教えられる。しかも相当古いもので、ヒトラーに送られたものらしい。興味を持った私は、その防具を見に行くが、防具と共に黄ばんだノートが見つかった。日本語で書かれたもので、著者は戦時下のベルリンにいた軍人のようだ。私は友人と共にそのノートを読み始める。

逃亡」のように、戦時下の国に左右される、ひとりの人間を描いた作品で、帚木さんの最近の本より、こういう話の方が私は好きですね。戦争はあくまで国と国とがするものですが、その国という大義に消されてしまう個人の生活や、感情を考えると、月並みながら戦争はしてはならないものだと思うのです。私の祖父は志願兵で、今でも経理学校時代の仲間や、個師団の仲間と戦友会をするような人間ですが、それでも「戦争は悲惨だ」と言うくらいですから、戦争で大変な目に(いや祖父も自分の乗った船が撃沈されたり、マラリアに罹ったりと、かなり大変な目にあっているのですが)遭って、もうあの頃のことは思い出したくもないと思っている人にしてみれば、NATOがユーゴを空爆するのを見ていても、胸が痛むのかもしれません。
戦争の話というのは、教科書の中ではどこそこの国が勝ったとか、負けたとかという具合にしか残らないものですが、こうした当時の人々の視点で描かれた話を読むと、また別の見方ができるのではないかなあと思います。

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サタンの僧院

著者柄刀一
出版(判型)原書房
出版年月1999.4
ISBN(価格)4-562-03198-0(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★★

コーカサス山脈のふもとにある、聖ベルナルディス神学校。その静かな学校の中に、馬に乗ったまま入って来た騎士がいた。びっくりする生徒たちの前で、学校に伝わる伝説の剣を抜いた騎士は、近くにいた甲斐に、自らの首を斬れと剣を差し出した。

次々と起こる奇跡的な出来事を、甲斐とアーサーの異母兄弟が見抜けるか、という知恵比べのようなミステリーもさることながら、その合間に現れる宗教談義が面白かったですね。特にアーサーの言う、「人間の言葉で、神を語ることはできない」という考え方は面白いもの。結局のところ、信仰というものは、どこまで無条件にその対象を信じきることができるか、ということなのではないでしょうか。聖書の中の奇跡を、どんな合理的な説明で解き明かしたとしても、「奇跡は奇跡だ」と言われてしまえばそれまで。逆に合理的説明を信じる人間(そういうのもまた一種の信仰と言えるのでしょうが)に、いかに奇跡を説いても、受け入れられないでしょう。宗教とは側から見ていると、面白いものです。日本のようにさまざまな宗教が混在して、ほとんどの人が漠然とした宗教観しか持たないところにいると、その無条件の信仰というものに多少憧れのようなものも感じるのですが(^^)。

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水底の死者の眠り

著者J. ウォリス・マーティン
出版(判型)扶桑社ミステリー文庫
出版年月1999.4
ISBN(価格)4-594-02682-6(\667)【amazon】【bk1
評価★★★★

20年前、貯水池となって水没した家のクローゼットから、死体が発見された。その家が水没する直前に失踪したその女性は、おそらくその時の恋人・ギルモアに殺されたと警察も睨んでいたが、証拠がなく逮捕することができなかった。当時泣く泣く事件から手を引いた刑事が再びギルモアを執拗に追い始めるが・・・

不思議な魅力のある本です。あらすじを読んでいると、20年前の失踪事件が意外な真相へという、よくある話に結びつくような気がするのですが、そんなに単純ではありません。女性の失踪事件直前まで彼女と会っていた3人の回想により、徐々に真相が明らかになるのですが、これがなかなか面白い。吃驚仰天の犯人でもなく、ただ怖いだけでもなく、ここが魅力、と言えるところも無いような感じでいて、なんとなく惹き込まれてしまったという感じのする本でした。

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双頭の鷲

著者佐藤賢一
出版(判型)新潮社
出版年月1999.1
ISBN(価格)4-10-428001-1(\2400)【amazon】【bk1
評価★★★★★

時は14世紀半ば。イングランドとの百年戦争に連戦連敗で苦境に陥っているフランス。そこへ、貧乏貴族の息子・ベルトラン・デュ・ゲクランという救世主が現れた。フランスの軍神と称えられるデュ・ゲクランの半生記。

めちゃめちゃ面白かったです。こういう伝記ものというのですが、織田信長でも豊臣秀吉でも、今まではそんなに面白いとは思えなかったのですが、これは本当に面白かったですね。快進撃を遂げ、フランス中から軍神と崇め奉られるデュ・ゲクランですが、実際は王太子に対して下品な口をきき、まるで子供のような振る舞いをする破天荒な人間。当然うまい処世術など身に付いてはいないところを、うまく助けてくれるのが僧形の従兄弟・エマヌエル。そして、後に「賢王」と称えられるシャルル5世という良い主君にも恵まれて、天才と言われる才能を遺憾無く発揮することが出来た軍神は、実際のところ幸せだったのでしょうか。フランス一強い男でありながら、実は寂しがりやだった軍神の波瀾万丈な生涯。超おすすめです。

■入手情報: 新潮文庫(2001.6)

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サイレンス

著者チャールズ・マクリーン
出版(判型)文春文庫
出版年月1999.5
ISBN(価格)4-16-725443-3(\781)【amazon】【bk1
評価★★★☆

妻は、夫に不満を感じ、愛人と共に逃亡しようとしていた。夫は、妻の行動を不審に思い、悩みつづけていた。そこへ事情を知るある男が近付いて・・・。

表紙裏のあらすじを読んだときは、面白そうだなあと思ったのですが、疑心暗鬼にかられる夫婦の描き方がどこか空回りという感じで、結局どちらにも感情移入できないまま終わってしまいました。「双頭の鷲」のような本を読んだ後だったせいもあるのかもしれないのですが、ちょっと期待はずれ。

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童話物語

著者向山貴彦
出版(判型)幻冬舎
出版年月1999.4
ISBN(価格)4-87728-292-0(\2000)【amazon】【bk1
評価★★★★★

トリニティーの町外れに住んでいるペチカは、天涯孤独の身の上。後見人である守頭にも、町の子供たちにもいじめられている。今日もまた守頭にどなられ、一人で釣り鐘塔の掃除をされられることになったペチカは、塔の上で羽の生えた小人・・・妖精フィツに出会う。

帯には宮崎駿とか書かれていましたが、やっぱり思い出すのはボームの『オズの魔法使い』。隅々まで空想で描かれた世界は、とっても綺麗でかわいらしくて、ちょっと被害妄想ぎみのペチカと共に冒険するのが、すごく楽しいんです。私が気に入っていたのは、ランゼスにある読書用ベンチ(^^)。このベンチ、欲しいなあ。
世界の面白さもさることながら、フィツと出会うことで成長していく性悪少女のペチカの話も涙なしでは読めません。私はこの手の話にとっても弱いんです。これは電車の中で読むのは危険です。これほど涙ボロボロになったのは、「
秘密」以来かも。すごく楽しみな作家さんが出てきました。

■入手情報: 幻冬舎文庫(2001.7)

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黒猫の三角

著者森博嗣
出版(判型)講談社ノベルス
出版年月1999.5
ISBN(価格)4-06-182070-2(\880)【amazon】【bk1
評価★★★☆

6月6日、その事件は発生した。アパート阿漕荘に住む保呂草探偵、探偵の隣人で、半分男の小鳥遊練無と、彼と同じ大学生香久山紫子、そして近くに住む彼らの麻雀仲間、瀬在丸紅子が監視していたのも関わらず、犯人は犯行を遂げ、密室からどこかへと去ってしまったのだ。しかもその殺人は数字へのこだわりが。

なんだか急激に作風が変わった気がするのは、気のせいでしょうか。根本に流れるポリシーというか(森氏の場合、ポリシィか?)、考え方はデジタルな森氏そのものという感じで、全然変わっていないのですが・・・。なんでこんなに皆変てこりんな名前なんでしょう。しかも阿漕荘・・・(^^; もしかして遊んでます? 設定も変ですけど、殺人事件はもっと変で、でも意外に面白かったかなあという、変な本でした。私は、この4人好きです。少なくとも萌絵ちゃんよりは、感情移入しやすいかもしれません。

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血食-系図屋奔走セリ-

著者物集高音
出版(判型)講談社ノベルス
出版年月1999.5
ISBN(価格)4-06-182072-9(\1150)【amazon】【bk1
評価★★★☆

昭和3年。三田魚籃坂に探偵社を構える系図学者、忌部言人のところに、自分の系図をつくって欲しいという依頼人が来た。ところがその依頼を受けたとたん、依頼人の後見人が怒鳴り込んでくるはめに。不審を抱きながらも、依頼人の言う故郷・紀伊大島へと向かった忌部たちだが・・・

大学図書館なんかに勤めていると、世の中にはいろんなことを研究している人がいるもんだなあとよく思うのですが、この系図学もまたそんな中のひとつですね。どんな学問も、話を聞いていると面白いものですが、この系図学、名前や家紋を聞いただけで、出自や身の上が分かってしまうという優れもの。もちろんエンターテイメントですから、多少の脚色はあるにしても、ピタリ、ピタリと言い当てる探偵は、やっぱり読んでいて爽快なものです。ちょっと文章が入りにくい感じなのと、忌部や、助手をしている物集の人物描写がなんとなくまとまりがないのが気になったのですが、もしシリーズ化されるのであれば、次も読んでみようかなという感想です。

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ジャガーになった男

著者佐藤賢一
出版(判型)集英社文庫
出版年月1997.11
ISBN(価格)4-08-748712-1(\648)【amazon】【bk1
評価★★★★

伊達藩士・斉藤寅吉は、戦国の世に憧れて育った男。徳川が天下を平定し、日本に活躍の場は無いと見切った寅吉は、恋人を捨てて支倉遣欧使節団に加わる。その頃、欧州では、イスパニアの強大な力に陰りが見え始めた頃だったが、一人の戦士と意気投合した寅吉は、今度は故郷を捨ててイスパニアの戦士として生きる道を選ぶ。

佐藤賢一の描く主人公は、人間臭いところがいいですね。この男も、戦がしたくてたまらないのに、心のどこかで女に未練を抱いているところが、なんともかわいらしいというか。夢を追いつづけて、故郷も女も捨てた男が、イスパニアでどんな活躍を見せるのか、最後まで目が話せない面白本です。

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千里眼

著者松岡圭祐
出版(判型)小学館
出版年月1999.6
ISBN(価格)4-09-386036-X(\1700)【amazon】【bk1
評価★★★★

茨城の山中にある廃寺が突然爆発炎上した。原因は、横須賀基地からの最新鋭ミサイルによる爆撃。しかも2発目が首相官邸へロックされている。犯人より暗証番号を聞き出すために呼ばれた千里眼の異名を持つカウンセラー、友里佐知子と彼女の弟子である岬美由紀が呼ばれたが、その背後には巨大な陰謀が。

一応「催眠」の続編ということになっていますが、「催眠」を読んでいなくても全然大丈夫です。微妙なつながりが「催眠」を読んでいると分かる程度。本当は映画版を見ている人にだけ、わかるところがあるそうです。
さてさてどちらかというとこじんまりとした社会派小説だった「催眠」と比べ、なんと派手な小説でしょう。ミサイルですよ、ミサイル(^^)。でも同じような日本内戦の話である「Twelve Y. O.」よりも、面白かったように思います。単に内戦というだけでなく、カルト教団の影が見え隠れしながら、その正体がつかめなかったり、催眠暗示による自殺は不可能なはずなのに、犯人たちがあっさり自殺したりという別の謎がうまくからんでいたからかもしれません。どちらかというと、派手なハリウッド映画系でしたが、そういうのが好きな方にはおすすめ。

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傭兵ピエール

著者佐藤賢一
出版(判型)集英社文庫
出版年月1999.2
ISBN(価格)4-08-747016-4(\648)【amazon】【bk1
評価★★★★

百年戦争下のフランス。傭兵隊長として傭兵隊「アンジューの一角獣」を率いるピエールは、略奪を繰り返しながら日々を過ごしていた。そんな中で一人の少女と出会う。ジャンヌ・ダルクと名乗った彼女に惹かれ、ピエールは天下分け目の戦いに参戦することになる。

フランスの救世主であるジャンヌ・ダルクを慕い、守った傭兵のお話。これがジャンヌ・ダルク自身の話だったらこれほど面白くなかったと思うんですね。あるいはこのオルレアンの戦いで勝利した王太子シャルルの話では。結果が分かっている歴史の話ではなく、そこに生きた人間の話であるところが、この作家の魅力です。救世主として崇められたジャンヌの結末は、どなたでもご存知でしょうが、さてこの本ではどうなるでしょう・・・。

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沈黙の教室

著者折原一
出版(判型)ハヤカワ文庫
出版年月1997.5
ISBN(価格)4-15-030579-X(\880)【amazon】【bk1
評価★★★★

青葉ケ丘中学3年A組には、「粛清」という恐ろしいいじめがあった。誰が書いているかもわからない「恐怖新聞」が流布し、ある日突然粛清の対象として選ばれる・・・そんな恐怖で満たされた教室は、担任をして「沈黙の教室」と名づけられていた。そして、20年後そのクラスの同窓会の告知が新聞に載った・・・。

折原一の作品は、「倒錯のロンド」と「異人達の館」とあともう1作くらいしか読んだことがないのですが、中学生とかの時に読んだので、なんだか暗いというイメージでした。今、この本を読んで「いや、結構面白いんだ」とちょっと見直した気分です。まだ中高生だった頃に読んで、それ以来読んでないという作家は結構多い気がするのですが、今読むと実は面白かったんだと思う本もしばしば(二階堂黎人とかその典型(^^))。中学の時にクラスで流行っていた「粛清」という名のいじめが、20年の時を経て、とんでもない事件に結びついてしまうという怖いお話。犯人からの視点でも描かれながら、実際どの人物が犯人なんだ・・・と思わせる話運びは、最後まで目が話せない感じでした。

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血ダルマ熱

著者響堂新
出版(判型)新潮社
出版年月1999.5
ISBN(価格)4-10-602760-7(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★

写真家の吉川孝一が、自分の写真展の会場で、全身から血を流し、内臓までが溶けた症状で発見された。マスコミが「血ダルマ熱」と名づけたその病気は、発病から死に至るまでの時間が短く、致死性も恐ろしく高い。既知の出血熱とは症状も違う。アメリカから帰国した高部涼子は、調査を依頼されるが。

科学的なデータを並べられても、すぶの素人にはその怖さがよくわからないというのが正直な感想です。教科書読んでいるような感じでした。しかも、登場人物に感情移入できない感じ。犯人(となる人物)が出てきた時点で、あーこうなるのかーと思えてしまうのも、ちょっとなぁという感じです。多分この著者の言いたかったのは、科学者による意図的なデータ改竄というのはよくある話であり、それを防ぐためにも科学者が相互監視する体制を作り上げなければならない、という事だと思うのですが(それはそのとおりだと思うのですが)、それなら何もエンターテイメントにしなくても良いような気がしてしまいます。実際恐ろしい病気が日本に入っている可能性というのは否定できず、怖い話ではありますが、いまいち楽しめなかった感じがしました。

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ロシア紅茶の謎

著者有栖川有栖
出版(判型)講談社文庫
出版年月1997.7
ISBN(価格)4-06-263548-8(\543)【amazon】【bk1
評価★★★☆

標題作「ロシア紅茶の謎」を含む6編の短編集。私は、「ロシア紅茶の謎」が一番好きでした。作詞家が自分の家でやった忘年パーティで毒殺される。一体誰が彼のカップに毒を持ったのかというもの。この6編の中では一番の出来じゃないかと思います。「屋根裏の散歩者」も笑えました。これは別の意味で好きなタイプかも。「ルーンの導き」は苦しいなあ。多分先にトリックというかこのメッセージを思い付いたのでしょうが・・・(^^;。「八角形の罠」は、尼崎市のホールのオープニングイベントに上演されたもののノベライズ。私も実際に見てみたかったです。でも何度もさまざまなホールの舞台裏を見ている自分としては、このトリックは使えない(実際に演じられた時も使えなかったそうですが)と思うのですが・・・。

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ブラジル蝶の謎

著者有栖川有栖
出版(判型)講談社文庫
出版年月1999.5
ISBN(価格)4-06-264571-8(\552)【amazon】【bk1
評価★★★★

国名シリーズ第3弾。「ロシア紅茶の謎」との間に「スウェーデン館の謎」という長編が入るのですが、こちらの感想は気が向いたときに再読するということで。
「ロシア紅茶の謎」と比べると、格段にうまくなってるなあという気がします。私の好きな短編は最後の「蝶々がはばたく」。火村と旅行に行くことになった有栖が、ふとしたことである老人と知り合い、その老人に35年ぶりに行方不明になった知人に会ったという話を聞くお話。足跡のトリックは比較的簡単にわかるのですが、それでも雰囲気としてはこの短編が最高でした。「人喰いの滝」、これは別のアンソロジーに入っていたものの再録ですが、トリックはこれが一番笑えます。というか、こういうすごい(?)トリックを読んで面白いと思うのは、犯人がそのトリックを一生懸命(当然自分の人生がかかっているのですから、一生懸命にもなると思うのですが)作っているところを想像してしまうからでしょうか。皆さんも「人喰いの滝」のトリックを読んで、ちょっと目を閉じて、その光景を想像してください・・・。笑えました?

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インヴィジブル・ワールド

著者スチュアート・コーエン
出版(判型)講談社文庫
出版年月1999.5
ISBN(価格)4-06-264577-7(\1095)【amazon】【bk1
評価★★★☆

香港で音信不通だった友人が自殺した。無一文といわれていた友人が送ってきた往復チケットで香港の葬儀に出たアンディだが、そこで死んだ彼がアンディに残したものは、「インヴィジブル・ワールド貿易会社 社長」の肩書きの入ったアンディの名刺セットだった。彼の手紙に書いてある通りに、中国大陸を旅するアンディが最後に手に入れるものは・・・

不思議な小説でした。普通に書けばかなり面白いと思うのですが、急に変わる過去と現在、そして人物の視点に、ちょっと入り込めないまま終わってしまったという感じがします。あちこちにある死んだ友人のメッセージを頼りに、中国大陸を旅するお話は、ふと昔読んだ『きょうはなんのひ』を思い出しました。でもこうして読むと中国って面白そう。一度行ってみたいですね。

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バトル・ロワイアル

著者高見広春
出版(判型)太田出版
出版年月1999.4
ISBN(価格)4-87233-452-3(\1480)【amazon】【bk1
評価★★★★☆

1997年大東亜共和国。アメリカを仮想敵国とし、特殊な社会国家主義を貫くこの国では、ある恐ろしいゲームがあった。「プログラム」と呼ばれるそのゲームは、ランダムに選ばれる中学3年生の1クラスを、逃げることのできない一ヶ所に集め、生徒同士で殺し合いをさせるものである。最後の生き残り(優勝者)には、生涯の生活保障と総統からの色紙が進呈される。そして今回の「プログラム」対象クラスは、香川県岩城町立岩城中学3年B組となった。

私は幼い頃、何故か、「戦争」というものは一生涯に必ず一度来るものだと信じていました。そしてその戦争が起こると、相当運がよくない限り自分を含めた周りの人間が理不尽に死ぬと思っていました。祖父は戦争にもう行っているから大丈夫だけど、両親も自分もまだ経験していないから戦争を経験しなくちゃならないんだと密かな恐怖心を抱いていたものです。できれば小さい頃じゃなくて、もっと大人になっておばあさんになるまで来ないで欲しいものだと、虫の良いことも考えていました。だから、実は戦争っていうのは、国が始めない限り来ないもので、しかも日本には戦争放棄という憲法があるんだと知ったとき、結構嬉しかったものです。変な子供でした。
この「バトル・ロワイアル」を読んだとき、すっかり忘れていたその事を思い出しました。歴史の中でちょっと選択を誤ってしまった日本のパラレルワールド、「大東亜共和国」の子供たちは、きっと私が子供の頃抱いていた恐怖と同じようなものを持っているんじゃないかと思いました。確率は恐ろしく低いけど、毎年結果だけの放送がされる「プログラム」に自分が当たるかもしれない・・・。親にしてみたって、どうにかしてこの「プログラム」を避ける方法を考えたりしそうです。中学校に行かせないとか、戸籍を作成しないといった非常手段に訴える人間もいそうですよね。
さて、そんなことはさて置き、この本とりあえず面白いのです。極限状況の中で、中学3年生がどんな風に考えて、そしてこの人生最大とも言えるピンチをどう切り抜けるのか・・・。600ぺージ2段組という長さを全然感じさせない面白さでした。いろいろな評価がつきまとっているこの本ですが、そんな事は抜きにして、ひたすら楽しめる本が読みたいときにおすすめです。

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撃つ薔薇

著者大沢在昌
出版(判型)光文社
出版年月1999.6
ISBN(価格)4-334-92308-9(\1700)【amazon】【bk1
評価★★★★

2017年、警視庁は臨海区に分庁舎を建設した。その分庁舎に唯一新設された部門、刑事部捜査第4課特殊班に彼女は籍を置いていた。班の任務は潜入捜査。今度のターゲットは、近年国内外に広く出回っている依存性の強い麻薬、ブラックボールの製造元の割り出し。そのために彼女は櫟涼子としてブラックボールの流通元・CMPへと潜入捜査を開始する。

光文社だから、新宿鮫シリーズかと思っていたのですが・・・違いましたね。でもふふふなのです。多分これには新宿鮫こと鮫島が出ているのです。と私が勝手に思っているだけで、違うかもしれないのですが。
さて、内容ですが、犯罪組織に潜入した女性捜査官が、組織の中のスパイを捜しながら、元々の任務である製造元を割り出そうとするハードボイルド。潜入がばれるか、ばれないかという緊張感よりも、深く信頼関係を得てしまった犯罪組織の人間とのやり取りが切ないお話。これってシリーズになるのでしょうか。というか、上に書いたことを証明するためにも、是非続きを書いてもらわねばならないのですが・・・(^^)。
あ、この本の続編はゲームソフトになるそうです。というか、ゲームソフトが先にあって、このキャラクターが出来たらしいです。でもなんとあのドリームキャスト用ゲームソフト(T_T)。なんでプレステじゃないの?!でもこのソフトのためだけに、ドリームキャストは買えません。発売元のソフト会社さん、お願いですからプレステに移植してください。プレステ2も出ることですし・・・。

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