秋尾 敏の俳句 2024年
軸4月号「舌下錠」 蒲公英の空に吸われていく眠り 脱衣所にいちごのパイを追い詰める 春眠の小さく残る舌下錠 涅槃西風プランターから根が伸びる 竜天に登る山菜歯に残る コロナ十波しばらく蛙とも会わず 山繋ぐ送電線に雪残る 梅寂て通用門の雨雫 陽炎としばらく夢を語り合う 軸3月号「令和蕉風」 春の雨重し昭和の観覧車 春昼の大河に滲む雲の鰭 令和蕉風下萌を踏んでいる よみがえる足音睦月の古墳群 春暁の煙に侵略者の臭い 仁右衛門島立春本当はギタリスト 爪先が見えて明るい春障子 裾を刈り上げてっぺんに春日 加倉井允子さん追悼 冬晴のタクト豊かに振り治む 軸2月号 「月と舟」 四方の春銀の折鶴立ち上がる 負け独楽を笑いの渦の外に置く 松明けの夢占いに月と舟 海凍る人類は希望に耐える 日本海まではパラレル深雪晴 ジプシーとして百代の冬銀河 机上整頓正月中の誤字五つ のっぽのサリー雪道を歌う 大関休場俳人は庭を枯野に 軸1月号 仮住まい 竜の吐く雲か三筋に淑気満つ 細き道なれば万歳ひとりずつ 初夢に来て大黒の仮住い アルメニアの笛深々と冬の底 冬の雲湖水の隅にわだかまる 黄落の指に崩れる塩にぎり 壁の色暗め時雨を待っている 初霜のいずこに墓を忘れたる 霜の夜のお狐さまを説き伏せる |