秋尾敏の俳句


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第4句集『悪の種』 第3句集 「ア・ラ・カルト」
第2句集 「納まらぬ」  第1句集 「私の行方」

秋尾 敏の俳句 2019年


軸12月号 冬の鳥
列島というはどこまで冬の鳥
リモコンは他人の匂い賀状書く
手羽先の焔が包む冬銀河
何を遮る夕凍みの筑波山
金星の位置を定める石蕗の花
     フェイスブックデビュー
枯尾花雲の把手を引き寄せる
金木犀を背後に立たせ電柱よ
巡査林立秋に色めく信号機
柿熟れて航空母艦抜錨す

軸11月号 霧の時間の
流木は水位を怖れ草雲雀
月夜茸スマホと光りあっている
鬼胡桃キャラを作るという覚悟
漆黒の靴が地を踏む十三夜
竜宮の危機を伝えに曼珠沙華
忘却は霧の時間の渡し守
助役哀しや金色の鵙を飼い
色鳥を散らして海は陽を重く
毒茸平気で話しかけてくる

「俳句四季」11月号
 アキバ2019秋
デニーズに鮭の朝食小舟来る
川べりにもの書く少女鳥渡る
開拓は本能ドラクエに黍三粒
ゲーム集団枝豆を食み散らす
北京語は白のコスプレ稲光
喫煙喫茶氷に乗せたレモンを嚙む
踊子の聖地となって電気街
最上階に笑う少女の囮籠
ポルト・リガトの聖母の涙秋の雲
秋場所の同時に倒る十五体
ラジオセンター晩秋が入り混じる
夕暮の添寝を言えり竜田姫
画用紙を掲げる少女夜の霧
攻撃の紐がどうのと夜学生
街灯が青いシェードを被て夜寒
神田明神未来しか見ていない

軸10月号 ファンクラブ
紫蘇の実は大樹のごとく始業式
残高を知らない男秋惜しむ
秋霖へ蛇行しているファンクラブ
お隣は塀を壊すとかな女の忌
瓜坊を行かせ終バス雨に発つ
見捨てられた杉の空洞夜の霧
外側の時代が歪む秋彼岸
裏切りは胸のカメオの稲光
啄木鳥を好きになるとは酸っぱいぞ

「俳壇」10月号 茨城空港
炎昼を音と化したるテイク・オフ
戦闘機また戦闘機八月へ
尾翼ハの字に灼けている幻影よ
ソウル便来て声高な夏雲雀
ジェット機の尻の裸身の一廻り
タイヤ痕なし夏の無限を昇り初め
白一機千歳に吸われゆく晩夏
夏蝶の機影に紛れ旅立てる
いささかの湖面の段差秋近し
蓮田波立ち惑星がすれ違う

軸9月号 広島平和記念資料館
広島駅前灼熱の秋日差
日常の市電が停まる原爆忌
水の町なり閃光の覆いしは
爆心地近し残暑とは詠まず
抽象は具象に八月のドーム
唇の力は失せて原爆忌
モノクロームの陰影より叫び
四日間の通季たるべく原爆忌
資料館新たに千の鱗雲

「ウエップ通信」16句 利根晩夏
川筋を訪うて二艘の日向水
三伏の流れを繋ぐ水馴(みな)れ棹
水底に雲を納めて草いきれ
下闇に掛ける桟橋ラーメン店
揚水場椅子に昼寝の脚開く
水位ひたひた語部はサングラス
晩齢の下船に傾ぐ夏の雲
灼ける窓枠煉瓦工場跡なれば
原爆の句碑は草書に夏深し
雲の峰市長に立つという侠気
夏果てる利根に重さという流れ
滔々と水も過客か利根晩夏
三つ編がスケボーで来る川施餓鬼
枝豆畑利根の戦ぎと渡り合う
堤防に棲む鉦叩休工日
シオカラトンボ雲から湧いてアラスカへ

軸8月号 祭笛
夏山のようオカリナの四和音
和蘭撫子襞に戦後のような影
等距離という難題に額の花
母を離れ鍾馗の山車を川下へ
        印西川めぐり四句
身をたたむライフジャケット葦茂る
出水を語る舳先を右に傾けて
繁昌は江戸のお零れ行々子
銀翼を正せし人と夏料理
        水の句碑三十周年
祭笛沼の記憶に差し掛かる

軸7月号 雷兆す
持ち上げるための力学甲虫
海亀の時間を砂に擦り合わす
罌粟躁ぐ逃げ込む路地のある港
雷兆す体よ僕に付いてこい
夕立の軒の狭さをペコちゃんと
幸せか炭で焼かれる帆立貝
子どもには子どもの世界生ビール
緑風の筋雲何を捕まえる
夢に音あり麦秋が待っている

軸6月号 象は鯨を
蓮天に昇る雨雲地に迫り
青蛙橋は島まで届きけり
さわさわと蕗は内裏を運ばれて
文字刻み自在な滝となっている
五月の白鳥曲折を泰然と
走り茶を汲んでさらさらかしこまで
不適切発言じゃがいもの花は摘む
        若冲展再訪二句
烈風へ普賢の蓮と竹箒
夏の雨象は鯨を恋しがる

軸5月号 はないちげ
白墨の輪の引かれたる牧開
生き残る復活祭に砂利を撒き
馬の子のふたたび立てり銀河系
月日貝忘れられた俳誌もある
蜆汁より痛恨の三塁打
バイク息んで猫の子を生み落とす
    「俳句四季」三月号より
喪失を光としたるはないちげ
    互井節子さん追悼
蕗の薹夢に言葉を慈しむ
元千葉現俳会長三苫知夫氏追悼
黒潮となって朧に至りけり

「瓏玲」創刊を祝す
道などはない夏野の自由駆り立てよ
文字刻み自在な滝となっている
言葉織るなり銀漢に届くまで

軸4月号 うまくやる
つばくらめ仰け反って空真っ二つ
かたくりの花ならきっとうまくやる
日本で働くという桜貝
青き踏むときには船を急がせて
紙の音して苛立てり紙雛
啓蟄の雲を従え消防士
三月や今日は孔雀の尾を付けて
みすず飴舌に伸ばして水温む

ウエップ俳句通信109号
滝凍るこだわりすぎたところから
夜の凩捜しものなら手伝おう
大筆のたてがみとなる暖房裡
寒声をつぶして山を近づける
雪鳥やマストの距離を測りつつ
寒雷の残像とめどなく暗し
冬の鳥朝の中州を攻めきれず
星が冷たい自転車が乾ききる
六花老眼鏡の度が強い
屈折しインフルエンザ腹に来る
人間の甘い仕事に寒気団
和菓子屋の敷居に雪が転がりこむ
液晶に指紋の乾く冬銀河
LEDの編笠が春を呼ぶ
ポイントで買う恵方巻窓に雪
剛球の左腕が二人春動く
角(つの)丸き金平糖や春の雨
みすず飴舌に伸ばして水温む
流氷の輝ききってイルカの死
かたくりの花ならきっとうまくやる

軸3月号 鳥曇
男らは先を急げり雛祭
大枝は小枝の下に水温む
春光に塗れて黒き古代米
前髪の乱れて鶴が後退る
電柱に別れを告げた春の星
賛同の拍手か春が動き出す
春の星から球体のチョコレート
コーヒーは吾妻橋から鳥曇
おぼろ夜はサプリメントの迷路へと

軸2月号 ちりぢりに
一月に黄昏のある管楽器
プルトップ冬の夜空へしのび込む
バスタブに去年の漣かき寄せて
五段変速若い時間を北風と
十二月八日タンゴの腰深く
育てたる赤血球も初参り
資源回収赤城颪を使い捨て
虎落笛チルド・ビーフに赤み増す
解熱剤二錠冬銀河ちりぢりに

軸1月号 跳び移る
数の子を噛みたる後の明るさよ
年の暮雲から雲へ跳び移る
黙ってはいない冬芽は耳となり
ブロックの穴の冬日は淋しいぞ
惑星のかけらに水のある寒さ
美しくあろうと湯気が身をよじる
掌に鳥を寝かせておく霜夜
十二月背中をノックされている
木枯の後ろ姿は海である

「俳句界」3句
客観に主観は並び寒い書架
凩のうしろ姿は海である
白を灯し何を為し得た枯野の薔薇