秋尾敏の俳句



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第3句集 「ア・ラ・カルト」
第2句集 「納まらぬ」  第1句集 「私の行方」

世界俳句紀行「地球の季節」


秋尾敏の俳句 2008年


 もの喰うて

水音が冬を研ぎ出す山の暮れ
滝という滝くらやみへ紅葉山
祈るほど寒し地蔵の掌
もの喰うて冷えたる石の字が読めぬ
小銭ならある末枯れの猿田彦
自分のリズム社会のリズム冬ざるる
冬を響かせ六年生の憂鬱
曲者と呼ばれたままで冬眠す

             軸12月号


 冬隣

漆黒のタクトを磨く冬隣
みんな大衆こまごまと秋の祈りを
鋼の疾走少年に銀の穂芒
事務官も秋の卯木とは知らず
走り蕎麦合奏団が音たてて
影一つ鵙が咥えて雨上がり
間違いもあったであろう鳥渡る
月読の絹の皺なら引き受ける
        
             軸11月号


 青二才

秋風の転ぶところが一里塚
何もないところをめざす渡り鳥
月光の梯子永遠には乗れぬ
秋風吹いても青二才でいる
夜寒の湯弱酸性が沁みる
野犬費えて月も要らぬか
悪役を受けて葡萄の種を吹く
サフランに涙の匂い暮れてゆく

        軸10月号


 火を逃がす

家中の時計の呼吸夜の秋
発展という終末の晩夏光
これは秋風川が力を抜いている
刀豆の雨に打たれている野望
萩揺する自分が生きているように
ばらばらな街の視線に秋の風
秋の雲話を聞いてくれました
二百十日へ凶暴な火を逃がす

          軸9月号


 終わった人を

でで虫の空が見えないこころざし
黄金虫遅れて来たやつが強い
無気力が蜂を怒らせてしまう
酒をこぼすな、席を譲ったら笑え
遠い約束ひまわりに火を貰う
夜盗虫地球を食べてゆきました
二百十日へ凶暴な火を逃がす
星月夜終わった人を大切に
秋ともしまだ二つほど生きている

              吟遊40号


 熱帯夜

飽食の地殻がゆるむ熱帯夜
向日葵を焼べて敵意を減らしゆく
羽音からこの世が消えてゆく炎暑
熟れトマト少女の爪を受け入れる
白であるべし灼熱の柔道着
汗から逃げて誰が地球を救えるか
晩夏光目を開かねばならぬ
おうおうと若い稲妻夜を呼ぶ
                    「軸」8月号


夏の雲

傷口に夢があるはず夏の雲
着信に目覚める諸刃灼ける路地
紫陽花が青ざめている北の地震
決めたがる女は独り合歓の花
梅雨寒に理屈があって帰れない
       小学生のための三句
そら豆をふくろの外に出してやる
タケノコだぜあくがつよいぜ
夏ぼうし太陽よりもでっかいぞ
                   「軸」7月号


俳壇クロニクル新作10句

飽食の地殻がゆるむ熱帯夜
炎天に古代の砥石血が匂う
羽音からこの世が消えてゆく炎暑
遠い約束ひまわりに火を貰う
向日葵を焼べて敵意を減らしゆく
月見草から感傷が逃げてくる
夜盗虫地球を食べてゆきました
晩夏光目を開かねばならぬ
自分を疑え満月は丸くない
汗から逃げて誰が地球を救えるか
                         「俳壇」誌2008年9月号掲載


 もっと自由に

雨でも来る捨てたいもののある燕
反乱の卵が孵る夏の山
黄色組もっと自由に夏の風
戦きが未来を連れてくる立夏
青嵐第二走者にゴールはない
湾は鉄色ぼろぼろの鳶には若葉
遺すものなき時代なり泉湧く
細い筍麻布十番に息切らす
           「軸」6月号
  


 甍なだれる

甍なだれる万朶の花の囁きに
清明の亀に信じるものがある
石冷えて雨の匂いになる桜
雨の不思議桜はやり直すために
雨の日は別の世界に散る桜
行く春の民家に座り込む閻魔
目刺焼く男時効を待っている
青嵐森は一つにはならぬ
           「軸」5月号


 風の擬態

奔放な夢を怖るる桜の芽
水温むまで大海を漂える
きしむ流氷抑留の痕跡に
春光の密度に沈みかける船
杉匂う仔馬は風の擬態である
蜂の巣に消えた言葉が隠れている
蛇穴を出て実直な勤め人
逃げてしまえば懐かしい焼野原
             「軸」4月号


 全裸の父

土を出て全裸の父の耕せる
十姉妹逃がした罪に墓を掘る
無防備を問えば陽炎である
春の川幾たび犬を屠りきし
お便所がないと母を泣かせる春夜
警官の子に嵌められて水びたし
おぼろ夜の他人の蔵に手を掛ける
戦争が語られ幸せが焦げている
逃げてしまえば懐かしい焼野原
              「吟遊」38号


 人に汚れて

木々芽吹く風を許したところから
浅春し大人の嘘に目をつむる
雪解けは人に汚れてからのこと
春塵を来て再会の時差を寝る
きりきりと血止めの輪ゴム雪来るか
もどかしい歌が貼り付く雪の窓
冬銀河には漆黒の夢がある
冬の星みな傾けて抱き寄せる
                 「軸」3月号


 亡国都市

霧凍る亡国都市の絢爛に
過剰消費へ冬霧を注ぎこむ
風花の多数決には加わらず
生ぬるい懐疑白鳥よ振り向くな
冬林檎寂しい距離に人が佇つ
ポケットに何もない日の空っ風
冬すみれ負けを認めたところから
冬木立明日は自分で息を吸う
                    「軸」2月号


 無数の路地

歯応えという忘却に嫁が君
初空の下に無数の路地がある
傀儡師背後に立てり手が動く
寒林という透明な切望よ
分別に強迫があるそぞろ寒
白鳥は雲を標として育つ
そぞろ寒遠くが見えてくる不安
狼は無限の星を走り去る
                 「軸」1月号


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