秋尾敏第2句集 『納まらぬ』      

 本阿弥書店

 2005年7月29日

 ¥2,625(税込)  
黒揚羽風の隙間に納まらぬ

 鎌倉佐弓氏による書評

世界俳句協会出版ニュース

皆氏がお選び下さった句

夏石番矢氏による13句の抄出と英訳

伊丹三樹彦氏(「青玄」主幹)
木枯の窓に十年後の私

磯貝碧蹄館氏(「握手」主宰)
余命超えても無自覚な烏瓜
出兵や乾いて寒い屋根瓦

赤尾恵以氏(「渦」主宰)
ファウルボール拾えば土の冷えており

外山滋比古氏(英文学者・俳人)
晩秋と呼んで鏡をくもらせる

斎藤梅子氏(「青海波」主宰)
歳晩の指はすべてを知っている

池田澄子氏(俳人)
分からない道が分かれる春の山
いただいた言葉が消えぬ五月闇

平川達也氏(「萬緑」同人)
出兵や乾いて寒い屋根瓦

益田清氏(千葉県俳句作家協会会長)
複雑に生きてのどかな大銀杏
花大根男の背すじ鍛えねば
蛞蝓自分のことは分からない
花菖蒲いつも隠れている私
はしはしと杉燃えておりスキー宿

小島健氏(俳人)
もののふの椿に消ゆる切通し
母の日や関東平野生みし川
新都心とやらにどんぐりを投げる
いくたびも重たき影を冬の蝶

松本ヤチヨ氏(「手」主宰)
春泥の一歩は演歌二歩はジャズ
受け入れてその日を待っている桜
力なきものより浮いて春の雲
暖かし名乗らぬ人と握手して
枇杷剥けば果肉に潜む少年期
黒揚羽風の隙間に納まらぬ
塩分糖分奔放になる残暑
頭とは違うところにある秋思
望郷や秋刀魚は青き水平線
流木の記憶の果ての鰯雲
ビニール袋に命預けている秋風
枯れ野から赤い自転車逃げてくる
軍隊のように降り立つ寒鴉
いくたびも重たき影を冬の蝶

山崎聰氏(「饗焔」主宰)
山ざくら牛やわらかくふり返る
蛍火やこの世のことをおろおろと
街を捨てればさりさりと秋の砂
談笑のやがて乾いてゆく蜜柑

復本一郎氏(俳文学者・「鬼の会」代表)
料峭や掠れてきたる革表紙
卒業期握りのゆるい鮨回る
春の夜の布から生まれ出る羞恥
五月来る風の奥まで瞬いて
藤棚に続く悔恨湿りだす
ほつれたる父の日記や夏の果て
漱石の鬱が漂う霧の街
商品券売ります秋の雲流れ
談笑のやがて乾いてゆく蜜柑

伊藤政美氏(「菜の花」主宰)
分からない道が分かれる春の山
花菖蒲いつも隠れている私
名を刻むことのせつなさ秋の雲
余命超えても無自覚な烏瓜

橋爪鶴麿氏(「麦」同人)
ちりちりとみぞれあなたに叱られて
肩紐の危うく見えし朧月
谷朧すべて逃げ道だと思う
まくなぎはひとつの命になりたくて
ガウディーのカーブが涼し石の塔
往き戻る武蔵下総草ひばり
午後が短いコスモスが多すぎる
長き夜の紙の炎を懐かしむ
木枯や固く閉ざして来る封書
湯豆腐を食い尽くしたるメディア論

榎本谺氏(俳人)
炎昼の奥に信濃の奇書珍書

吉田未灰氏(「やまびこ」主宰)
黒揚羽風の隙間に納まらぬ
歳晩の何があっても鉄仮面

豊口陽子氏(「LUTUS」代表)
脆い木はない蒼天に虻もどる
波音や汝れに流星我に砂

安藤操氏(ふるさと文化研究会主宰)
ピーマンの輪切りの彼方まで夏野
守宮曰く近頃人の家は冷える
黒揚羽風の隙間に納まらぬ
軍隊のように降り立つ寒鴉