秋尾 敏 第1句集  「私の行方」 沖積舎より平成12年6月20日刊行


  囀や日本というホームレス
  魂の狙撃砂漠を水で埋め
  石の絵に硬貨弾かれ春嵐
  一本の冷えた小瓶にタンゴ鳴る  
  青い冬街は夜光虫となり
  月冴えて歩道は深海魚の復路
  入口は出口されども瓶世界
  春は蕪村猫は夜半に反り返る
  歯磨きの呪縛蝕まれたのは知だというのに  
  かわされていなされてなお赤蜻蛉
  行く秋や詩を左手で書いてみる
  口語の冬だね秋は文語だった
  それぞれの私が語る心太
  青嵐そこでだまれば私は消える
  箱眼鏡私の行方漂える
  流されて人形の眼に蛇苺
  電卓の液晶淡く猫の恋
  水追って水廻りゆく春の堰
  風吹けば風の形に草の海

  この句集の読み方のヒント