秋尾敏の俳句


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第2句集 「納まらぬ」  第1句集 「私の行方」

世界俳句紀行「地球の季節」


秋尾 敏の俳句 2014年


軸12月号 冬の鳥
源義忌雀はげしく羽広げ
店舗解体柱は寒い谺となる
呼ぶ力離れる力冬の鳥
けやき落葉す時間を溜めすぎた
過去に風穴蟷螂の小手は枯れ
学校の枯葉朝から仲が良い
極月の遠吠えなればト短調
海に木枯いつの日分かりあえる
          
香取哲郎さん追悼
秋耕のそのまま深き詩となりぬ


「俳句四季」11月号
ジャズ止んで古書堆し月の窓
爽涼を満たす口笛煉瓦蔵
霧重き砂丘滅びの坂いくつ


軸11月号 寒露月蝕
掌に包むほどのいち日秋の暮
秋麗の水を歩いている男
寒露月蝕東京に子どもぞろぞろ
身に入むやみかんは飴に寄り添われ
バンザイをして滑り込む秋の雲
獺祭忌眼鏡に空を置き忘れ
鰯雲行進曲を埋め尽くす
爽涼を満たす口笛煉瓦蔵
霧重き砂丘滅びの坂いくつ


軸10月号
島は吉兆稲妻はマグマに及び
てのひらに栗の毬ありお静かに
嬰笑う貧しい国に月が出て
落栗のような一生何かある
電球の溝咬み合わず夜のちちろ
葡萄かがやく友達が増えた
あとを追う人蓮の実は沼に
諸味かぐわしこれからが熟成期
九月のピアノ雨に唄えと言う


軸九月号
いろいろな飛行機が来る夏の空
忘れないための消しゴム原爆忌
トーシューズ傷ある夏を隠し持つ
懐旧を鬻ぐ止まり木熱帯夜
夏休みレジに少女の米こぼる
                 品川水族館三句
豹紋のマンタ怒りを垂直に
水は打たれて皇帝ペンギンの玉座
児も魚も近づくものが好き晩夏

               増田斗志さんを偲ぶ
大利根の涼しき月になりたもう


軸八月号 梅雨灯
商いの学問がない梅雨晴間
思い出を盛る器なり蓮開く
土曜日の授業の白衣梅雨灯
巴里祭より俳人がふさぎ込む
雲うっすらと紫陽花の家族葬
青トカゲ先入観が世界観
鳴神の斥候となるかたつむり
爆音の影がふくらむ百日紅
地雷空爆南風が喋りだす


軸7月号 梅雨滂沱
望郷の手がかりとなる山法師
梅雨滂沱車輪くくくと迫り来る
風鈴の誰も覚えていない歌
呵々大笑老三姉妹梅雨籠る
夏の風ペットボトルのくびれより
本人と言い張っているサングラス
亀の甲羅で戦前が灼けている
泉渾々老いたエリーゼのために
白シャツを脱いで戦後を語り出す


軸6月号 豚の弾力
高原に豚の弾力風薫る
武者人形肌の手入れを怠らず
足音で気づかせている夏帽子
長崎ちゃんぽん母の日が過ぎている
転んでもきれいな日本植田風
焼酎を信玄袋の夢で割る
巻紙の書状厳めし麦の秋
星空に探す文字あり夕涼
大青田ただ美しく死ぬために


軸5月号 花のほとりに
長身のシャワーに流る花の屑
補陀落の花のほとりに戯れる
白木蓮渚を駆ける夢がある
貪欲な菜の花海に墜ちたがる
              東武乗馬クラブ三句
花の風鞭持つ少女ぞろぞろと
一日を左廻りにあたかかし
嘶きは木々の芽吹きに雲速し
                 高幡不動二句
街に山あり葉桜の願いごと
春深し空に睨みのある城址


軸4月号  甕傾ぐ

剪定の光あふれて甕傾ぐ
遠近両用啓蟄に間に合わす
原発に下萌ゆるとは怖ろしき
鳩に武闘派春塵にそそり立つ
言葉にも磁力桜の二つ三つ
桃の花黄泉にも光届きしか
春陰の亀百年を生臭く
淋しい旗竿鳥雲に入る
         後藤保子さんを偲ぶ
こまやかな春の光でありしかな


軸3月号 告天使

掌に触れるものみな水に春の暮
散骨の雲に春光隔てなく
ティータイム少し落ち着く告天使
安房に雪子猫を呼べばまたつもる
温室は春のレプリカ雨が降る
何を疑う薄氷に皺深く
勝つときは勝つ名将の日向ぼこ
猫の手長し寒星を瞬かせ
窓秋忌声潜めれば紙乾く


「俳句展望」2月号
筆の穂の少し開いて春を待つ
 


軸2月号 冬の草

待つことに馴れ東京の冬の草
新玉のむら雲齢を訊きたがる
県北の雪なく進む瓦斯工事
凩や少女の消える街外れ
皆マスクして交番の地図詳し
電線の分岐を怖る冬の鳥
優しくなろうと厳冬の水を買う
廃船のけむりに紛れゆく小雪
冬晴の汽笛明日を恐れない


軸一月号 雲の馬

尾の跳ねて年の始や雲の馬
薄明に霧の鬣年迎う
裏白や鏡に笑い合う齢
強くなりたい霜晴の三輪車
花柊鳥の音符になっている
クリスマス鈴が秘密を囁いて
焙じ茶をポットが守り年の暮
何か言いたい木枯のト短調
餅搗の声はひまわり幼稚園