秋尾敏の俳句

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世界俳句紀行「地球の季節」


秋尾敏の俳句 2010年


 寒い襞

            羽田空港国際線五句
空港に別離は見えず冬初め
入国の内側にある寒い襞
思い出の欠片が寒い滑走路
北方へ悴む視線離陸の灯
寒気団尾翼はやがて水平に
蹂躙という記憶あり残る虫
石蕗の花ヒップホップが柔らかい
冬の霾鳩はぐるると言い淀む
                   軸12月号


誰も月には

釣瓶落し蒼いドラムが叩かれる
草紅葉眼差し強くできるなら
影は斜めに魂は竹の春
青春のままに波立つ芒原
再生の明日へ開いている通草
内面とは歪み石榴は熟れすぎて
類句うそ寒し長針が垂れ下がる
竹林さざめく誰も月には行かせない

                          軸11月号


桶がない

月明の鱗が守る夜の川
野分雲諸味を寝かす桶がない
折りたたむ自転車があり震災忌
肌寒し火のセンサーに見つめられ
夜の長し蛍光灯があきらめる
複雑な間取りの奥の黒葡萄
雲として生まれ花野になっている
秋の雲すべて手放してもいける

                      軸10月号


 ベルを二度

山国で組む十年ぶりの自転車
サドル高くして城郭を占領す
荷台などない何も乗せたくはない
中国製だから雲を呼んでみよう
ざわざわと亡霊ベルを二度鳴らす
砂利道の急ブレーキ鎮守の森の郭公
西に向かえば瞼に闇がたまる
古書を山積みホテルの愛にたてこもる
秋の雲すべて手放してもいける

                       吟遊


 鳥兜

国道に甘い夕焼給料日
再任と囁くときの鳥兜
裏漉しの南瓜就活まだ続く
律令の戸籍に生きて魂迎
半島きな臭し団栗が灼けている
           墨堤吟行二句
残暑風あり撫牛は首を沈めて
スカイツリーどかんと暑さ落ちている
           岩崎恒子さん追悼
大陸も海も母なり桐の花

                       軸9月号


 鷺の首
             『俳句四季』七月号より三句
逆さまに椅子は置かれて海開き
繋がれた舟の話を夏の蝶
水郷をワゴンで抜けてゆく裸
            世界俳句協会十周年俳句朗読会より三句
誘惑と気づいたときの耳の汗
蛇の舌が地平線に届く
永遠の水を訪ねて蛇の恋
七月を受け止めきれず鷺の首
一坪の泉の威厳後退る

                  軸8月号


 菱の花

惑星の砂の話をかたつむり
菱の花風に動かぬ村がある
水馬向こう岸からやってくる
永劫の基地を探して鳴く水鶏
募金つぎつぎ黒南風の背を丸め
熱帯夜ひとりが怖い男たち
永遠の水に連なるかたつむり
破れ傘いつか言葉を生むだろう
                        軸7月号


 蜜の約束

熱帯夜ひとりが怖い男たち
蜜の約束日傘に守られている
軍用機中洲の鷭を置き去りに
六月の荷車爛れた水を積む
募金つぎつぎ黒南風の背を丸め
ぐずぐずと戦後ミミズのような慕情
蚊喰鳥七年後には蘇る
永遠の水に連なるかたつむり
破れ傘いつか言葉を生むだろう
                            吟遊


人を待つ夜は

分からなくなれば永遠白牡丹
ものうげな四月地球の誕生日
矢車の風まで錆びて城下町
人を待つ夜は名前のない新樹
緑陰や一手で白くなる盤面
三番を青葉が歌いだす校歌
複雑な夏を逃れて白い皿
夏の雲脚から強くなる少年
                       軸六月号


 囲み記事

春光を愁いておりぬ囲み記事
光悦忌崩れぬ壁を塗り上げる
泣いている工場がある春の雨
菜の花が一本道で濡れている
ものうげな四月地球の誕生日
太陽と桜があって生き延びる
エディット・ピアフ雲雀よりも高く
花吹雪なり罪業を忘れおり
                         軸五月号


 和夫調 逆井和夫さんを偲ぶ

耳鳴りを遠く聞き分け花曇
眼差しの桜に冷える武具埴輪
鳥ぐもり和辻哲郎顎で読む
梅白し補う杖を森に見て
彼岸西風息で温める糸電話
脱稿の寒さに洗う両瞼
朧夜のときに肩張る和夫調
花冷えの面影こともなく笑う

                     軸3月号


助手席に誰かいるよう春隣
安売りのゼリービーンズ春光す
ランナーの姿勢変わらず春の雪
底力なり梅東風の大太鼓
春寒のうどんに黙らせる力
君子蘭不満を聞かせてはならぬ
丁寧に伐れば匂ってくる枯木
春の雪すべてを消してゆくゲーム

                        軸3月号


 星瞬く

数え日のやさしく濁る管楽器
冬鳥の小さな呼吸空晴れる
幸せは鉛の重さ寒卵
荒星の隔たり孤立とは違う
冬草の湖になだれて星一つ
悴まぬ男うざいと言う女
鵯の首強し臘梅を食みこぼす
枯れという長いバカンス星瞬く

                 軸2月号


   歳 旦

元朝に繁き足跡干支戻る
    五黄の寅の握る年玉
国盗りのゲーム二本を買いに出て


   初景色

七度の庚に叶う初景色
雪山の総身を生きる力とす
蹠より力得ており雪の山
日本の夜明け悴むところから
狐火の裾にまことの闇がある
人声に波立つ紅茶十二月
道に傷あり凍星を遠ざけて
サイレンが鳴って悴む海がある 

                           「軸」1月号


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