予約は11時である。朝イチ8時半は懲りたので遅らせてもらった。去年からしても明らかに体力が落ちているので――春のぎっくり腰に根刮ぎ奪われた――Googleさんの見積の3倍の時間を見て家を出た。足は長距離用のスニーカで固めている。
莫迦も休み休み坂を下り,概ね想定どおり予約時刻の15分前に着いた。保険証と診察券と割れた歯を受付へ渡し,待ち時間に問診票を書く。保険証はマイナンバーカードですか?と試しに訊いてみたら,!……対応しておりませんですって。まぁ意地悪で問うたんだけどさ,初診料が違うって話だからよ。
口内写真とレントゲンを撮りなおして11箇月の差異を見る。破断したのはやはり前回治療のプラ歯そのものだった。原因は「歯を食いしばること」なので,なるべく噛まないようにしなさいと完璧な対策を指示してくれた。土台を掃除するくらいしかやることがなく,持参したプラ歯2片を合わせ,そのまま再接着する。やるな,ブライト。おれは別に異論はない。これ以上の強度を求めると,神経を抜いて土台を掘っての差し歯となってカネが掛かるからだ。ぷーんとボンドの匂いがしてじきにおしまい。麻酔なしである。
何か聞きたいことはと話を向けられたので,歯医者さんのホワイトニングてどんなんですかと尋ねてみた。治療中写真や手鏡で見せつけられるおれの歯が汚えのなんの。さすがに無感動ではいられなかったからだ。あ,説明してあげてと先生に言われて助手さんだか技工士さんだかが長ながと説明してくださった。雑に理解したことには,患者専用のオーダーメイドのマウスピースを作り,歯科医院では薬剤を満たしたマウスピースを90分ていど噛んで過ごすのを2セットやり,自宅でやるなら緩い薬剤で24時間噛んで暮らす。そのあとタッチアップ的なメンテを定期的に行なうのだそうだ。ざっくり4・5万円は掛かる。薬剤でいったん歯の表層を溶かすそうで,その前に歯の治療を完璧に済ませて歯垢なんぞは落としておかねばならない。薬剤処理後の再結晶化までは当然ながらコーヒーだのカレーライスだのは厳禁だ。非常につらいのである。
ありがとうございますおもしろかったですよと感想を述べると,助手さんはえっと驚き,たいそう喜んでおられた。おお,滔とうと喋ってもあんまり反応する人は居ないのであろうな。
歯医者は今回で終わりである。支払いは現金のみの2.4k円で投薬なし。次はせめて2年後になるよう祈ろう。
帰りはコンビニに寄り,カルピスTheRich・冷やし甘酒・天下一品監修炒飯・町村農場飲むソフトクリーム・たけのこの里苺&ショコラ・バナナディッパーズ・UCもちぷよ(ミルククリーム)・炭火焼き豚丼の素・メープル香るミックスナッツを購う。WAONに万札をチャージしてもらった。
カルピスを舐めつつ秋の昼下がりをよたよたと歩む。歯医者のシートで体を休められたのはよかったが,歩きだせばたちまち疲労が充満してくる。炎天下なら諦めてタクシーを呼んだであろう。たっぷり時間を掛け,1ブロック相当で立ち止まっての休憩を挟む。しゃがんだりすると立てなくなるかもしれない恐怖がある。足下だけを見て,道程が盡きるまで足を動かすイメージで帰りついた。郵便物をチェックし,玄関を開け,スニーカを解くように脱ぎ,トイレで小便をし,液体石鹸で手を洗い,冷食を冷凍庫に入れ,タブレットを持ってベッドに倒れこむ。最高にキツかった。