ドナルド・L・キーン ドナルド・ローレンス・キーン(1922—2019)                   


 

本名=ドナルド・ローレンス・キーン
大正11年6月18日—平成31年2月24日 
享年96歳 
東京都北区西ヶ原1丁目34–8 無量寺(真言宗)




日本文学研究家。米国ニューヨーク州生。コロンビア大卒。海軍日本語学校で日本語を学び、戦後は京都大学大学院に留学後、コロンビア大学の教授を務めながら頻繁に日本を訪れ、『徒然草』『おくのほそ道』などの翻訳や安部公房、三島由紀夫といった現代作家の作品を英訳して海外に紹介した。平成20年文化勲章受章。24年日本に帰化する。ほかに『百代の過客』『碧い眼の太郎冠者』などがある。








 多分日本人こそはうつろうものに特殊な喜びを発見した最初の民族であろう。そして兼好はとくにかりそめのもの、うつろうものが美の欠くことのできない要素だと信じていた。徒然草J の中に、
 あだし野の露きゆる時なく、鳥部山の烟立ちさらでのみ住みはつる習ひならば、いかにもののあはれもなからん。世はさだめなきこそいみじけれ。(七段)
(あだし野の露が消えることもなく、鳥部山に立つ烟が消えもせず、人の命のはかなさもないものならもののあわれもないであろう。世はさだめもない無常なのがよいのである)
 とある。世界の文学で共通の問題である人生のはかなさが美にとって不可欠の要素であるという認識は、日本以外のどこでもなされていなかった。この認識が、もっと強い材料がないわけではないのに木造の寺社建築が好まれたことの説明になるようだ。ハロルド・ニコルソンをして開拓地の町を思い起こさせた木材の古びた感じが、日本人にとっては年月を経ても変わらない煉瓦や石の壁よりも美しく見えるのだ。
 日本人が特別に桜を好むのは、うつろうものを愛でることからきている。(中略)
外国を旅する日本人はしばしば西欧人が時のうつろいに無関心なのに驚く。千利休は掃き清められた庭に、自然の趣と時の経過を強調するために数枚の葉をわざと散らした。そして、文豪夏目漱石は二十世紀初め欧州に滞在したときに、西欧人の自然の変化に対する無関心に驚いている。 彼は次のように述べている。
 嘗て彼地にありし頃雪見に人を誘ひて笑を招きし事あり。月は憐れ深きものと説いて驚ろかれたる折もあり。


(日本の文学 )



 

 平成31年2月24日午前6時21分、誤嚥性肺炎で入院していた都内の病院で平成24年に養子となった浄瑠璃三味線奏者キーン誠己に看取られ永遠の眠りについたドナルド・ローレンス・キーン。昭和20年末に従軍通訳官として一週間だけ日本に滞在したキーンが再び日本に訪れたのは京都大学大学院に留学した昭和28年8月のことであった。京都時代の下宿、今熊野の「無賓主庵」で同宿した永井道雄とは終生の友となった。以来、頻繁に訪れては谷崎潤一郎、三島由紀夫、安部公房、大江健三郎、司馬遼太郎、吉田健一など多彩な文学者との交流や各地への旅によって日本文化・日本文学への感性を深め、多くの著作や翻訳を通して海外へ日本文化を発信しつづけ、文化勲章も受章した。平成24年3月8日、帰化して念願の日本人となり、名刺に〈鬼 怒鳴門〉と記した。


 

 日本文化・文学の研究に生涯を捧げたドナルド・キーンの安らぐ場所、『源氏物語』ゆかりの石山寺、琵琶湖辺の三井寺、啄木の墓がある立待岬などキーンが望んでいた場所は幾つかあったのだが、最終的に選んだのは東京・北区西ヶ原の旧古河庭園を窓外に望む自宅マンションにほど近い真言宗豊山派の寺、佛寶山無量寺。江戸六阿弥陀のひとつとして親しまれている阿弥陀如来像のあるこの寺はお花見や散策にキーンが四十年以上馴染んできた寺で、八重桜の古木の下に「キーン家の墓」と自筆刻の墓碑が生前から設えられていた。「黄犬(キーン)」という言葉遊びから上台石に黄色の犬、養子・誠己の芸名「浅造」から「象」をキーン家の家紋として前置きに配している。



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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