秋山ちえ子 あきやま・ちえこ(1917—2016)                     


 

本名=橘川ちゑ(きっかわ・ちえ) 
大正6年1月12日—平成28年4月6日
享年99歳 
東京都台東区元浅草3丁目17−17 最尊寺墓地(浄土真宗) 



評論家。宮城県生。東京女子高等師範学校(現・お茶の水女子大)卒。昭和29年、NHKラジオでの世相評論が日本エッセイスト・クラブ賞、平成3年、TBSラジオの『秋山ちえ子の談話室』で菊池寛賞受賞。著書に『大晦日のローストビーフ』『近くなった町』などがある。







 

  大空に消えていってしまった人、向田邦子に今も心引かれ、関心を寄せるのは何故かと考えることがある。それは彼女の人柄、作品に負うところも多いが、私の心には、一瞬にしてこの世から去ってしまった、あの死がひっかかっているようである。はっきりいって羨望である。
 若い頃はいつも新しくはじまるものへの期待が心を占めていた。が、今は終りを美しく締めくくりたい、つまり自分の命の終りを思う気持が強くなっている。年をとるということは、生き方と同じ比重で、死に方を考えるということである。
 私の母は八十六歳でこの世を去った。脳出血で倒れて数時間後の死であった。私は旅行先のビルマから急いで帰った。「おかげさまで、ありがとうございました」と挨拶して弔問客をとまどわせた。が、これには理由があった。ふだんから私たちは、倖せについて語りあっていた。それは、年なりに健康であって、死の日まで体力や能力にあった仕事が出来て、長患いや痛い思いをしないで、パッとこの世に「さよなら」することであった。母はその通りを実行したのだから、私の口から出るのは「おかげさまで」となったのだ。
 母の死はしばらくの間、淋しさを私の身辺に漂わせた。が、次第にそれも薄れて、今は快い思い出だけが濃度を増している。
 
向田さんは母の死の前年の八月に亡くなった。それなのに向田さんは年と共に私の心の中に深い影を刻みつけている。天寿を全うしたといっていい年齢、そして納得いく死であった母に比べて、向田さんの死は全くその反対ということからくるものだろう。

(「たいくつな倖せ」・羨望)

 


 

 昭和32年にラジオ東京(現・TBSラジオ)で始まった『昼の話題』は45年に『秋山ちえ子の談話室』と改称されて平成14年に終了するまで実に45年もの間、たった一人でパーソナリティーを務め、放送ジャーナリストの草分けと称された秋山ちえ子は平成28年4月6日午前8時1分、呼吸器感染症のため東京・目黒の自宅で死去した。〈人間の世界から戦争をなくすことはできないかもしれないが、心ある人々が、たえ間なく、戦争でない方法で国際間のもめ事を解決すべきだと言い続けなければならない〉と、昭和43年から49年間、毎年終戦日の8月15日にラジオで朗読してきた戦時中上野動物園で三頭の象が殺されたという実話を元に書かれた土家由岐雄の童話『かわいそうなぞう』を、この年朗読することは叶わなかった。


 

 宮城県仙台市にあった秋山家の菩提寺の移転によって、先祖代々の墓を遠い山の麓に移さなければならないという問題が起こった時に、ちえ子の母が仙台の墓では誰も墓参りに来てくれないだろうからと、親交のあった永六輔から紹介されて六輔の父が住職であった元浅草の最尊寺に墓が移されたという経緯があるこの寺の墓地には、ちえ子の死から三ヶ月後に逝った永六輔の墓もある。下町の寺特有の狭い領域に隙間なく整頓された墓碑の一つ、平成30年4月に次男宣夫氏によって新しく建てられた墓、漆黒の碑面に著書『種を蒔く日々』の表紙装画にあった丘の上にスクッと立つ一本の樹木と題字、「秋山ちえ子」の自書が刻まれている。

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

編集後記


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