弁護士事務所地図弁護士河原崎弘
不動産を買う際に注意する点
1 不動産を買う目的を明確にする。
不動産は高額です。不動産を買う機会もそれほど多くはありません。不動産は、文字通り、「動かない資産ですから」、一度買うと、すぐ売れません。すぐ売れば、損が出ます。
そこで、不動産を何のために買うのか、目的を明確にする必要があります。
不動産を買う目的には大きく分けて、次の2つあります。不動産を投資目的で買う場合は、不動産の価格が低い時期に買う、不動産の価格が低いものを買うのが鉄則です。
- 投資目的
- 自己使用(居住用、事業用)
日本では、生産年齢人口(15歳〜64歳)は、1995年をピークに減少しており、外国人が増える状況でもありません。人口減少により、都会でも空室率は高く、不動産に対する需要は減少することが予想できます(藻谷浩介著「デフレの正体」が詳しい)。
他方、日本国家は、膨大な財政赤字を抱えており、民主主義社会では政府が、国民に媚びて緊縮財政(デフレ)を嫌う傾向にあります。国民もデフレ政策を嫌います。従って、インフレの下地はできており、不動産価格は上昇する条件は揃っています。しかし、世界的に見ても日本の不動産の価格は高すぎます。
将来を予想することは難しいですが、少なくとも、過去の日本であったような、長期的に不動産の価格が上昇する現象はないでしょう。
また、自分の資産の全てを不動産に投資することは、リスクが大きく、勧められません。
不動産を自己使用目的で買う場合は、常に、不動産を賃借する 場合との比較で、買うべきか、借りるべきかを検討すべきです。
不動産を借りた場合、建物であれば、汚れとか、修繕とか、貸主との交渉の煩わしさがの問題がありますが、これは不動産を所有した場合も、同じです。
不動産を投資用で買う場合も、自己使用目的で買う場合も、値上がりは期待できないことを覚悟すべきです。
2 冷静であれ
どんなによい不動産でも、その不動産に惚れてはいけません。あくまでも客観的に、冷静な目で、不動産を見てください。これが鉄則です。
不動産を見に行くときに、磁石などを持参し、誰か同行してもらい、その人の意見を聞くことは有効です。
3 不動産をどこで買うか
不動産の市場で新築物件を買う 1戸建ての場合 信用ある不動産業者が分譲する物件が望ましいです。最悪の場合でも、土地が残ります。 マンションの場合 一流の評判のある不動産業者が分譲する物件が望ましいです。 民事再生を経た業者などは避けるべきでしょう。民事再生では、旧経営陣が残り、会社の体質が改善されていないことが多いからです。そのような経営者の下にいるセールスマンなどの従業員の体質は良くないです。
結構、名が通った業者の物件を買ったが、入居時から、雨漏りがあり、よく調べてもらったら、あちこちに手抜き工事があった、欠陥物件であったなどの法律相談例は多いです。それも、高額物件でも、そうなのです。
初めに、10万円程度の 申込み証拠金 を支払いますが、これは手付けではありません。解除しても返還されます。不動産の市場で中古物件を買う 1戸建ての場合 表面上の傷は、直してありますが、自分でも修理する覚悟が必要でしょう。この場合も、最悪の場合、土地が残ります。 マンションの場合 当初の販売が一流の不動産業者あるいは建築会社の物件であることが望ましい。
不動産業者が施行した場合、表面上、綺麗ですが、ほとんどの場合、安い内装です。
内装をしていない状態で買い、自分で内装業者に依頼した方がよい内装ができます。裁判所の競売、国の公売で不動産を買う。 原則として現金が必要。初めに入札保証金として2割、登記時に8割を支払います。 1戸建ての場合 入居者がいる場合は、事前に、弁護士に相談する必要があります。立退料(明渡料)を請求される可能性がありますので、その対策費、弁護士費用の出費を準備しておく必要があります。
短期賃借人 の権利は弱くなりましたが、不動産引渡命令 が出るか否かを事前にチェックしておく必要があります。マンションの場合 入居者がいる場合は、事前に、弁護士に相談する必要があります。立退料を請求される可能性がありますので、その準備をしておく必要があります。
争って、排水パイプにモルタルを詰められた例があります。
4 不動産のチェック5 契約
- (接道)
一戸建ての場合は、敷地が4m以上の道路に2m以上接している物件を選ぶべきです(建築基準法43条1項)。それ以外の場合は、再建築の場合、問題となり、ときには、接道条件違反で 建築確認許可がおりません(事実上、修繕とも名目で改築するしか方法はありません)。土地を売ろうとしても、値段は低く、付近の相場では売れません。
マンションの場合も、広い道路に接している必要があります。狭い道路に接している場合は、同じで規模での再建築はできません(既存不適格)。- 建蔽率
土地面積に対する建築面積です。主に、1戸建ての場合に問題となります。建蔽率60%の場合、100uの土地には、最大、60uしか建築できません。緑地の指定があると、建蔽率10%のところもあります。- 容積率
総床面積の制限です。主に、1戸建ての場合に問題となります。容積率200%なら、100uの土地には、最大、総床面積(各階の床面積の合計)200uしか建築できません。- (競売、公売)
競売、公売では、明渡しは、買受人の自己責任です。最近、短期賃貸借が廃止されたので、買受人の権利は強くなりました。それでも、競売は危険があります。多くは、明渡しの問題です(不動産競売の入札)。弁護士に相談すべきでしょう。
裁判所の「特別売却物件」とは、最初の競売で売れ残った物件です。特別売却物件は、問題を含んでいる可能性が大です。- 賃借人がついている不動産
対抗力のある賃借人がいれば、買主は、貸主の地位を引き継ぎます。売買契約書に、賃借人に対して負う債務の清算条項を入れるのが普通です。引き継ぐ債務としては、敷金返還債務です。ビルの賃貸借契約に付随する 保証金返還債務 は引き継ぎません。- 環境
1戸建ての場合でも、マンションの場合でも、周囲の環境を実際に見ておく必要があります。さらに、マンションの場合には、どのような居住者いるか、管理が良好か も注意事項です。- 中古マンションの場合、新耐震基準を満たした昭和56年以降に建築した物件が望ましい。古い物件は将来売却が困難になる可能性があります。
6 不動産の価格
- 重要事項の説明
不動産業者(仲介人)は、重要事項説明をする義務があります。しかし、ほとんどの場合、重要事項説明は、契約締結日に、しかも、契約締結の直前になされます。
そのため、買主は、重要事項説明を聞いて買うか、買わないかを決めることができません。そこで、買主としては、最初の案内のときに、道路幅、建築年月日など、重要事項を訊き、メモをしておくべきです。この説明と契約締結の際の説明が違っていたら、契約は止めるべきでしょう。- 現状有姿/現況有姿
不動産取引で、特に中古不動産の売買契約書中に「現状有姿」、「現況有姿」、「現状有姿のまま」、「現状有姿にて引き渡す」等の文言が記載されることがあります。その意味、具体的な内容については不動産業界でも定説がありません。
現状有姿は、引渡しまでに目的物の状況に変化があったとしても、売主は引渡し時の状況のままで引き渡す債務を負担しているにすぎないという趣旨で用いられることが多いです。しかし、単に現状有姿との記載があるからといって、 これをもって直ちに、売主の 瑕疵担保責任 が免除されません(宅建業法40条、民法570、566条参照)。また、仲介業者、建ぺい率が1割であることなど重要な事項を買主に告知する義務があります。
- ローン
ローンを使う場合は、契約書中に ローン条項 が入っていることを確認してください。ローン条項とは、「ローンが通らなければ、契約を解除し、白紙にできる」、という特約です。
通常、ローンを利用する場合は 、「○月○日までに、融資の承認が得られない場合は、買主は契約を解除し、白紙にできる」などと具体的に記載します。
- 前払金保証
不動産売買契約で、手付金、中間金を支払いますが、所有権の移転を受ける前に売主が倒産したりするおそれは消えません。そこで、手付金、中間金の保証をしてもらえると安心です。特に、新築マンションの分譲の場合は、契約から引渡しまで長期間が経過します。契約書の中に、この保証があることを確認しましょう。
中古不動産の売買契約でも、大手の仲介業者の場合は、独自の手付金、中間金保証制度を持っています。- 手付け
通常手付を支払った買主は、 手付け を放棄して契約を解除できます(手付け流し)。しかし、相手が履行に着手したら、解除はできません。
不動産の価格については次の資料を参考にできます。
7 不動産業者のチェック
- 公示価格(国土交通省):おおよそ、不動産の時価と考えてよいでしょう。
- 路線価(国税庁):おおよそ、公示価格の8割くらいです。
- 固定資産税評価(地方自治体):おおよそ、公示価格の7割くらいです。
不動産業者(宅建業者)は、国土交通大臣または都道府県知事の免許を得て仕事をする必要があります。免許証番号として、○○県知事(2)○○○号との、括弧内の数字は、許可が2回目であること(1回更新したこと)を示しています(現在は、5年で更新)。この数が多いほど長く不動産業を営んでいること示しています。
都庁、県庁に行くと、不動産業者の情報を得ることができます。不動産業者に疑問を感じたら、すぐ、相談に行きましょう。
8 判例(不動産業者の重要事項告知義務)
- 東京地方裁判所昭和40年5月27日 判決
本件のような場合、宅地、建物取引業者が仲介依頼者に対し、売買目的物件が緑地地域に属し、しかも「1割 地区」に該当することを告知しなかつたことは、故意ならずとするも、少くとも業務上の注意義務を怠つたものとして過失によ る不法行為上の責任を免れ得ないものというべきである。
もつとも宅地、建物取引業法はその第18条において、業者がその業 務に関し相手方又は依頼者に対し、重要な事項について、故意に事実を告げず、又は不実の事実を告げる行為を禁止しているの みで、業者の過失に言及してはいないが、右第18条は同法第25条の刑事罰の前提要件を規定したにとどまり、業者の過失に よる不法行為上の責任を否定するものではない(判例時報420号37頁)。