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2015.5.18mf

手付による契約解除は相手方が履行に着手するまで/弁護士の法律相談

相談:不動産

私と婚約者は分譲方式のマンションを共同で購入する契約を締結しました。代金3200万円で、手付金600万円を支払済です。
このマンションは、オプション方式を採用しており、専有部分の範囲内で間取り、水まわりを変更することができます。私たちはいくつかの注文を出しました。
ところが、私と婚約者の関係がうまく行かず、婚約を解消することになりました。
そこで、先日、売主の不動産業者に手付金放棄による解除を申入れましたところ、売主は、「既に間仕切り工事に入っており、解除には応じられない」と言ってきました。
解除はできないのでしょうか。
相談者は、法律事務所を訪れ、弁護士の意見を聴きました。

回答:手付の種類

不動産の売買 契約の際、手付けが授受されます。手付け授受により契約が成立し、その後、残金支払いで決済されます。
手付は、次の性質のものがあります。

証約手付

契約が成立したことを証拠となる手付です。

違約手付

当事者が債務不履行をした場合に、手付を交付した者は相手方にそれを没収され、受取った者はその倍額を返さなければならなくなります。これは損害賠償を予定したことになります。 違約金とも言えます。

解約手付

解除権を決めたことになります。手付を交付した者は相手方にそれを放棄し、受取った者はその倍額を支払って契約を解除できることになります。手付流し、手付倍返しなどと言われています。
当事者が手付について、特に決めていない場合は、解約手付と解釈されます(民法557条)。宅地建物取引業者(不動産業者)が売主の場合は、必ず、解約手付となります(宅地建物取引業法39条)。もちろん、他の性質を併せ持たせることはできます。 あなたの契約書でも、手付は解約手付となっています。
しかし、手付による解除は、無制限に許されません。相手方が契約の履行に着手した場合や、手付解約期間を過ぎた場合は、手付解除はできません(同条1項)。
売主が間仕切り工事に着手した場合は、契約の履行に着手していると言えます。あなたのケースでは、あなたは手付解除はできない可能性が大きいです。解除した場合は、相手の損害を賠償する義務がありそうです。

履行の着手に当たるかの判断は、単に、行為の性質だけを見ず、契約の全趣旨を考慮に入れて判断します。
下記最高裁の判決がそうです。履行期の1年9か月も前におこなわれた測量、1年2か月も前におこなわれた残代金を準備しての口頭の提供をした上での履行の催告を、履行の着手と認めることは、手付けの授受により、一定期間は手付け倍返しによる解除ができるとの契約の趣旨に反するとの判決です。
履行の着手は、行為の客観的性質で決めるのではなく、契約の全ての要素を判断の前提とし、手付解除を認めるべきかとの判断をするのが、この判決の趣旨です。

そこで、この場合は、話し合いにより、解除契約をして、相手の損害を賠償したらどうでしょう。この部屋を他の買主の気に入るように間取り変更しても、600万円を越えてそれほど費用が必要とも考えられません。600万円を放棄する覚悟があれば話し合いは難しくはないでしょう。
なお、不動産業者が売主の場合、2割を超える手付けは受け取ることができません(2割はOK。宅地建物取引業法39条1項)。

履行の着手の例
履行の着手履行の準備(着手ではない)
建築の着手
メニュー方式の工事の着工新築マンションの青田売りの場合の木材の加工、
工事の着工
所有権移転登記/分筆登記測量
売買目的建物の賃貸借契約解除明渡のための住居の手配、小修繕
目的物件の抵当権の抹消
目的不動産の表示登記ローン申込み

法律

民法第557条(手付)

買主が売主に手付を交付したときは、当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を償還して、契約の解除をすることができる。
第545条第3項の規定は、前項の場合には、適用しない。

宅地建物取引業法第39条(手附の額の制限等)

宅地建物取引業者は、みずから売主となる宅地又は建物の売買契約の締結に際して、代金の額の10分の2をこえる額の手附を受領することができない
宅地建物取引業者が、みずから売主となる宅地又は建物の売買契約の締結に際して手附を受領したときは、その手附がいかなる性質のものであつても、当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、買主はその手附を放棄して、当該宅地建物取引業者はその倍額を償還して、契約の解除をすることができる。
前項の規定に反する特約で、買主に不利なものは、無効とする。

判決


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