家主の明渡し請求についての正当事由と借家の明渡料の相場

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2015.4.30mf更新

相談:不動産

もう3年前から、アパートの一室を借りています。ある日、突然、大家さんから立退きを求められました。大家さんは、アパートを取壊して、新しく、マンションを建てるそうです。
すぐ明渡さなければいけないでしょうか。 明渡料は、通常いくらくらいの金額でしょうか。どうしたらよいでしょうか。明渡料を請求して良いでしょうか。

回答

不動産の有効利用を図り、アパートにも立ち退き要求が押し寄せてきました。貸主は、古くなった木造のアパートを壊して、建て直すためとか、土地をアパート付きで売却するために、立退きを求めるとの事情が多いです。

正当事由
貸主の「改築のため」とか、「売却のため」との理由での明渡しは、法律上、難しい面があります。もし、借家人が、話し合いによる明渡しを拒否したら、貸主は、契約を解除し、裁判により、判決を取らねばなりません。裁判所が、貸主を勝たせる確率は、非常に低いでしょう。
借家人を保護している強力な「借地借家法」により、「正当事由」がないかぎり、貸主は、貸貸借契約を解除できません。この「正当事由」の条件を満たすことはなかなか難しいです。しかし、アパートの一角に貸主が住んでいたり、近所に貸主が住んでいたりすると、借家人としてはアパートに住み続けることは気分的に良くない、適当な明渡料をもらって引っ越したいと思うのが人情です。
特に、契約期間満了前の立ち退きの場合には、貸主は(期間満了まで貸す)約束を守っていないのですから、借家人としても明渡料を請求してもおかしくないでしょう。
契約期間満了時に明渡してもらう場合でも、契約時に特約として、「契約期間満了により、契約は終了し、借家人は建物を明け渡す」との条項があった場合には、人情としては、明渡料の要求はできませんが、法律上は、期間満了によっても契約が終了しないことが多いです。この条項は、借家人に不利なので、無効と判断されるからです(借地借家法第 16 条)。これを防止するためには、貸主としては、次の方法があります。 裁判では、弁護士費用と時間がかかる
不動産訴訟は、自分でおこなうこと( 本人訴訟 )は難しいでしょう。
仮に貸主に正当事由があっても、費用を払って明渡しを弁護士に依頼し、裁判をしても、最低6ヶ月は必要でしょう。そこで、手っ取り早く、お金(明渡料)で解決しようとなるのです。

明渡料の相場
では、借家の明渡料は、どのくらいの金額が適当でしょうか。
借地権は、裁判所の許可を得て譲渡できますが(借地借家法第 19 条)、借家権については、このような規定がないので、借家権の価値を決めるのは難しいのです。
借地権価額は、相続税法上、更地価格の 60 パーセントとか、70 パーセントとか、決められています(路線価図では 20 〜 90 パーセント)ので、判定は比較的楽に算定できます。しかし、借家権には、基準がなく、金額算定は困難です。借家権との権利があるわけでもありません。

収用などの場合の基準
公共事業のための収用の場合の基準では、借家に対する補償は、引越し料、次の家を借りる仲介料などの実費と権利金および家賃差額最高 2 年分です(公共用地の取得に伴う損失補償基準第 34 条)。
家賃差額とは、同程度の建物を賃借するとして、現在の賃料が安く、新しい建物の賃料が高い場合にはその差額を最高 2 年間だけ補償するとの趣旨です。
相続税評価基準では、借家権割合は、その土地の借地権価格の 30 パーセント(東京の場合)と決められています。この解釈からは、借家権価格は、借地権割合に 30 パーセントを乗じて算定し、更地価格の 18 パーセント(借地権割合が 60 パーセントの場合)ないし 21 パーセント(借地権割合が70パーセントの場合)になります。

不動産鑑定をすると、借家権は、借地権価格の 30 パーセント(住宅地)、40〜50 パ−セント(商業地)との鑑定が出ることが多いようです。
経験的に、賃料の 1 年分とか、3 年分とか言う人がいますが、明渡料は家賃の何年分が適当であるとの根拠はありません。これまで、受け取った賃料を 10 年分全部返すほどの立ち退き料を払った例もありました。
結局、明渡訴訟では貸主が負ける確率が高いことを前提にして、借家権価額は当事者の力関係で決めることになります。
相続税の基準は高過ぎ、収用の基準はやや低いいですので、この範囲で交渉で決めることになります。
1つの例として、引越し費用(5万円〜10万円)プラス新しく室を借りる費用(家賃の5月分〜6月分)の明渡し料が考えられます。
若者は、遠慮して決めるようで、相談室に来た例では、引越し費用ないし賃料の 6 か月分ほどの立退料で解決している例が多いです。

弱者保護規定
現在の法律では、借地・借家契約の解除、労働契約の解除(解雇)、婚姻契約の解除(離婚)などは、一方の当事者が解除に同意しない場合には、効力を認める判決を得ることは困難です。
これは、弱者保護の目的があるのですが、実際の例では、弱者であるかどうか、疑問になる例もあります。
また、これらの法律は、できるかぎり現在の状態を保護しようとするので、結局、既得権が発生し、新しい人が不利になり、社会の進歩に反する結果となる例も多いです。現在、若年労働者の失業率が高いのは、既に企業に雇用されている中高年の労働者が保護されていて、企業は解雇できないからです。 これは難しい問題です。

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