9.東照宮

 行ったら、たまたま徳川家光のお墓を公開していた。
 10月といえば、まだNHKの大河ドラマで「葵 徳川三代」を放送しているまっただ中である。ブーム(?)に乗って、家光の墓が、没後300年経って初めての一般公開!ということらしい。
 この機会をのがすと、次の公開予定は未定ということだ。

 きらびやかな装飾の施された門を幾度となくくぐり(写真は『眠り猫』の門)、奥の奥に家光の墓はある。
 入場料300円が別途かかる。派手派手しい鳳凰のプリントされたパンフレットをもらって中へ。


 今までとはうって変わって、わりとシンプルな門をくぐり、人が2人すれ違うのがやっとという階段を30段ほど上る。参拝の人が、狭い階段に数珠つなぎになっている。
 見上げると、空が見えないほど密度濃く茂った木が、暗く陰鬱な影を投げかけている。昼間で、こんなにたくさんの人がいるのにも関わらず、怖いくらいの静寂。重苦しいまでの湿った暗闇が、すっぽりと辺りを覆っている。たったの30段が、とてつもなく長い距離に感じる。

 もくもくと足を運んでいたら、急に前方が開けた。
 顔を上げると、そこだけ切り取られたようにぽっかりと空が抜けている。あいにくの曇り空だが、今はそこから漏れる光さえ力強く感じる。…どうやら、着いたらしかった。

 黒塗りの、所々金で装飾を施された門。開いていないので、それを迂回するような形で回り込んだところに、石の柵で囲まれ、家光の墓はあった。
 25mプールのように広い敷地の後方に、5段ほどの階段が組まれ、その上に釣り鐘に屋根をつけたようなものが置かれている。

 一般に思い浮かべるような墓の形態と明らかに違っていたので、とまどってしまった。
 まぁ、それを墓というのだから、墓なのだろう。印象は「ぽつねん…」という感じ。置き忘れられてしまった何かの遺跡のようだった。

 生前はずいぶん周りの人にかしずかれていたのだろうけど、死んでしまうとこんな風にひとりぼっちにされてしまうなんて、何だか気の毒なもんだね。

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