7.明治の館

 お腹ぺこぺこ、飯出せ、メシぃ〜!と、ばかりに飛び込んだのは、何とケーキショップだった。
 愕然とする私に、かわいらしい制服を着た店員さんが、真夏の高原に吹く爽やかな風のような笑顔を浮かべて一言。「いらっしゃいませぇ〜。」
 外面のいい私は、思わず「チーズケーキとカフェオレ…」力無く頼んだのであった。

 よりによって、何でチーズこてこてのケーキなんて頼んでしまったのだろう。…オーダーの品がトレイに行儀良く並べられ、カフェオレが湯気を立てている。2階へ続く階段を注意深く上りながら、ため息が漏れる。

 東武日光駅(日光は、JRと東武が走っており、両駅は徒歩500mくらい離れている)のすぐ近くなのだが、他に高い建物も存在しないので、見晴らしがよい。内・外装も避暑地のカフェ風のおしゃれな造りで、騒いでいる客もなく、申し分ない。
 肝心のケーキも、惜しげもなくチーズが使われてた、こっってりしていて、いささか甘すぎる感はあるものの力強い味わいが印象的なものだった。

 けど。この空腹をどうしてくれるぅぅぅ(泣)!!!
 人は、どうして空腹になるとこんなにも情けない気持ちになるのだろう…。意味もなく、とほほ。


 レジの横に山積みになっていた、パンフレットを何気なくもらってきてしまった。好物のカフェオレをすすりつつ、目を通す。
 …ん??系列店の紹介とな。しかも、食事のお店ばかりである。あぁぁ。天は見捨てていなかったぁ!

 わらにすがる思いで、ケータイにかじりつく。電話したのは、系列店の「ふじもと」という仏蘭西懐石のお店。シーズン・インとはいえ、平日だし、1時過ぎてるし、予約は容易に取れるもんだと思ってナメていた。
 「マンセキです。」きっぱり断られたのに、状況を理解するまで数秒かかった。マンセキ?まんせき?あ、満席…。いかん。お腹が空きすぎて、相手の言ってることが理解出来なくなりつつある。

 今日食べられなくてもその店自体に興味はあったので、明日の昼時の予約をする。
 電話を切ってから、今日のごはんに困っているくせに、24時間後のごはんを確保している自分が妙に滑稽に思えた。

 お姉さんの爽やかな笑顔に見送られ、店を後にする。
 マックすらない駅前のロータリー。仕方なく、その辺のパン屋さんでパンを買って空腹を紛らわせた。

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