ISO感度
理論編で述べたように、フィルムの特性曲線において脚部といわれる低バリュー域は被写体のシャドー部の描写に深く関わってきます。このシャドー部を特性曲線上のどこに位置付けるかは、フィルムのISO感度をいくつに設定するかで決めることができます。
ISO(JIS)に規定するフィルムの感度は、指定の現像液と現像環境を想定して作成された特性曲線において、最小濃度(ベース濃度+かぶり濃度)から0.1濃度が高い点での露光量から求めることができます。これがフィルムに記載されているISO感度ですが、この感度は実験室で理想的な条件で求められたものであり、我々が実際のカメラに装填して使うには概して感度が高すぎて使いづらいといえます。そのため、自分の環境に合ったフィルムの実効感度を決定しなくてはならないのです。雑誌や他人の経験から感度200がよいとか、あの先生が感度250だと言ったとかでは科学的なシステムにはなりません。“あなた”のカメラ・現像条件に合った実効感度を正確に決定しておくことがファインプリントへの近道です。
“あなた”が使用しているカメラ(露出計)・フィルム・現像条件に合致した実効感度を測定することは、フィルムの特性曲線で「脚」の部分を決定することであり、特性曲線全体をH軸(横軸)に沿って平行移動することです。
これは、印画紙上でシャドー部への露出・現像・露光時間を正確に決定するためにも必要です。
実効感度の決定に必要な機材は、18%グレーカード・自分のカメラ(マニュアル測光のできるもの)・使っているフィルム・現像材料・フィルム濃度計です。
ここで一番問題になるのは濃度計です。この冊子では露光計付タイマーを濃度計として使う方法を紹介してありますが、ここではこの方法は使えません。(正確には、集散光式の引き伸ばし機を使っている場合にはキャリエ効果があるので使えないというべきです。散光式なら露光計付タイマーの濃度計で大丈夫です)
一度自分の現像条件に対する実効感度を決めておけば、フィルムや条件を変えない限り測定しなおすことはありません。
富士写真フィルムのデジタル濃度計FD-101を使用して濃度測定サービスの依頼に応じることができます。精度は落ちますが、濃度計を使用しなくてもよい方法も以下に述べてあります。
1.
太陽光があたっている時間に(10〜14時の間がよい)、カメラに通常良く使用するレンズを装着して、焦点距離の8倍以上の位置に18%グレーカードを置く。
2.
スポット測光・部分測光または中央部重点測光にして(評価測光は使わない)、絞りとシャッターはマニュアルモードにする。
3.
ISO感度はフィルム指定の感度にする。
4.
18%グレーカードに「照かり」が無いように注意して(英文ですが、カードには光線とカード・カメラのなす角度が説明されています。)、ピントを無限遠に合わせてカードを測光する。このときの絞りとシャッター速度の組み合わせが、18%グレーをグレーとして写す露出である。ファインダー内にインジケータのあるカメラでは指標がインジケータの真中にくる。
5.
これよりも4段低い感度が感度基準点となる。(ゾーンT) 18%グレーカードを測ったときの組み合わせが1/320、10であれば、それよりも4段低い組み合わせは1/1250、20である。この基準点を中心にして、二分の一段もしくは三分の一段ごとに前後に合計5〜7個の組み合わせで18%グレーカードを撮影する。同時に未露光の「素抜け」のカットも撮影しておく。
6.
このフィルムを、これまで通りの現像条件で現像する。
7.
濃度計で素抜けのコマも含めてすべてのコマの濃度を測定する。
8.
素抜けのコマの濃度+0.1の濃度となるコマを探す。ゾーンTのコマがその濃度であれば感度はフィルム指定の設定どおりであるが、たいがいの場合そのようにはならない。たとえばフィルムの指定感度がISO
400だとして、素抜けのコマの濃度が0.3、ゾーンTの濃度が0.35、ゾーンT+2/3が0.4であれば、感度は2/3段低いので、実効感度はISO
250ということになる。
フィルム濃度計が使用できない場合
フィルム現像までは同じ手順です。2号印画紙を短時間光に当てて現像し、印画紙の最大濃度を得ておきます。次に、素抜けのコマを使って印画紙を段階露光し、最大濃度となる最短の露光時間を求めます。この最短露光時間ですべてのコマをプリントします。
最大濃度よりも少し明るいプリントを見つけます。このときのゾーンTとの差から実効感度を求めることができます。
こうして設定したフィルムの実効感度をカメラに設定して、いよいよ特性曲線の作成に取り掛かります。このシステムにおいて特性曲線は必ずしも必要ではありません。しかし、一度作成しておくことを推奨します。
1.
測定した実効感度をカメラに設定して、実効感度の測定に使用したのと同じ18%グレーカードを測定する。この測定したコマがゾーンXであり、これよりも-5段がゾーン0、+5段がゾーン]である。1段ごとに±5段露出を変えて、ゾーン0からゾーン]までを11カット撮影する。未露光のコマも残しておく。
2.
このフィルムを実効感度の測定に使用したフィルムと同じ条件で現像する。
3.
素抜けのコマも含めてすべてのコマの濃度を測定する。濃度計は露光計付タイマーを使用する。
4.
右図のようにゾーンごとの濃度値とともにグラフ化するとよい。
次にゾーンスケールを作ります。
1.
Tと\のコマを引伸ばし機にそれぞれセットして濃度を測定する。
2.
多諧調印画紙をセットする。フィルターは、<ゾーン\の濃度−ゾーンTの濃度>の濃度差を100倍した値をISOレンジとし、換算表から設定する。
この例では、
1.54-0.34=1.20
ISO Range=120, 号数は1.5号となる。1.5号のフィルターを引伸ばし機にセットする。
3.
ネガキャリアに\のコマを入れて、印画紙の半分を覆った状態で段階露光をする。印画紙を現像して、ごくわずかに濃度がある(正確には印画紙のベース濃度+0.04となる)露光時間を選ぶ。
4.
次に短時間光に当てた印画紙を現像して、印画紙の最大濃度を得ておく。
5.
素抜けのコマをキャリアにセットして、最大濃度と同じ濃度となる最小の露光時間を求める。
6.
フィルターの号数の設定が正しければ、(3)での露光時間と(5)での露光時間は等しくなるはずである。著しく違う場合は、号数の設定か濃度の測定をやり直してみる。
7.
露光時間とフィルターの選択が決定したら、ゾーン0から]までのすべてのコマをプリントする。
8.
ゾーンTやUが真っ黒くつぶれたり、[や\が白く飛んでしまうようであれば、露光時間やフィルターの選択を変更しながら、4〜5ページのゾーンの説明に合うように、根気よくゾーンスケールを作成する。
9.
下記のような、測定濃度も記入したゾーンスケールを作成する。
ゾーン
|
0
|
T
|
U
|
V
|
W
|
X
|
Y
|
Z
|
[
|
\
|
]
|
濃度
|
0.26
|
0.34
|
0.42
|
0.61
|
0.73
|
0.85
|
0.98
|
1.11
|
1.35
|
1.54
|
1.81
|
ベース
0.22
|
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|
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|
|
|
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カメラ
:EOS-3
レンズ:
28〜135mm
IS
フィルム
:Kodak
T-Max 400
現像:T-Maxディベロッパー 24℃
13分(希釈現像)
印画紙
:ILFORD
MULTIGRADE W
RC
Filter
:1.5号(Range 120)
露光時間:33秒
ネガ−印画紙間距離:540mm
引伸ばし機:Lukey
Multi V70
上記のように、作成時の必要なデータとともに記入しておく。
このゾーンスケールは以後のプリントの都度使用することになります。
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