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プリント
特性曲線と濃度 諧調再現の仕組み ゾーンシステム 印画紙の対数露光域 ISO Rangeと号数 レンジマッチング法 必要な機材 濃度測定法 特性曲線と実効感度 撮影時の露出 プリント 誤差の要因

 

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さて、いよいよ多諧調印画紙を使って豊かな諧調を持ったプリントを作る方法を説明します。理論編・実践編でこれまでに述べたことを理解してゾーンスケールもできていれば、プリント作業自体は簡単です。

用意するものは、前項で作成した「ゾーンスケール」です。もちろん引伸ばし機やマルチ用フィルターなどは当然用意されていることが前提です。露光計付タイマーも必要ですね。

実際に撮影された被写体の輝度範囲はさまざまですが、ゾーン]の濃度が1.8以上になることなど稀だと思われます。多くの被写体はもっと低い濃度範囲に収まっているはずです。(フィルムと現像方法によりますが)

しかし、その被写体輝度域の中でも、視覚的にゾーンUやゾーン\にしたい部分が存在するでしょう。作成したゾーンスケールはあくまでも基準となるものです。この基準を元にして、フィルムのコマごとに異なる濃度範囲(コントラスト)に応じたGrade(Range)と露光時間を決定するのがレンジマッチング法です。

一般的な方法

私も含めて多くの写真家が、モノクロではプログラムモードで撮影しています。したがって被写体輝度域がフィルムの特性曲線上のどの位置に記録されるかは、誰にも分かりません。カメラの方向を少し変えただけで露出が変わってしまうこともあります。被写体の輝度域もさまざまです。

つまり、重要だと思うハイライト部とシャドー部のフィルム濃度は撮影のコマごとに異なることになります。また、写真家がどこをハイライトとして認識するかは、その時々でも異なります。純白の花嫁衣裳を屋外で撮影したものと室内で撮影したものでは、フィルム上での濃度は異なるはずです。しかし、写真家も写真を見る人も、花嫁衣裳は純白にプリントしたいと思うでしょう。

ゾーンVにしたいシャドー部とゾーン[にしたいハイライト部の濃度を測定して、それぞれ表のような値を得たとします。

 

測定濃度

ゾーンスケールの濃度

ゾーンVにしたいシャドー部

0.50

0.61

ゾーン[にしたいハイライト部

1.10

1.35

 

露光時間はハイライト部を基準にして計算します。一定の露光時間でフィルターを変えて露光した場合、多諧調印画紙ではハイライト部の濃度はほとんど変化しなくてシャドー部の濃度が変化します。8ページの図-5を見ても分かるように、印画紙の濃度1.0付近までは曲線がほぼ重なり合っています。このためにハイライト基準で露光時間を決める方がよいのです。

基準となるゾーンスケールを作ったときの露光時間が33秒だったので、 

 

がこのネガをプリントするときの露光時間です。

これでハイライト部のプリント濃度が決まりました。シャドー部をどこまで出すかは、Rangeを変えることで決めます。

ゾーンスケールを作ったときのISO Range120でした。このネガのコントラストに最適なRangeは、

 

と近似的に求めることができます。Range 97は約2.5号に相当します。

このネガに対して、2.5号のフィルターを使用し18.6秒で露光をすれば、濃度0.5を有するシャドー部が十分な質感を残してプリントでき、濃度1.10のハイライト部はごくわずかに質感のある白(質感のある雪、白人の肌のハイライト部)として再現されることでしょう。

ネガにゾーンTと\がある場合

プリントしたいネガ上に、ゾーンTとゾーン\の濃度にプリントしたいと思うエリアが存在する場合は簡単です。

キャリアにネガをセットしてピントを合わせます。絞りはあなたが通常使っている絞り値にします。イーゼル上に投影されたネガ画像から、ゾーンスケールのTと同じ濃度にプリントしたい部分と、ゾーン\にプリントしたい部分を決めます。その2箇所の濃度を露光計付タイマーで測定します。測定値が以下の値であったとして説明をします。

 

測定値

ゾーンスケール

Zoon T

0.45

0.34

Zoon \

1.42

1.54

フィルターの選択:

2つの測定値からその差を求め100倍した値がISO Rangeですから、これを号数に変換します。

1.42-0.45=0.97                           0.97×100=97

理論編で説明した「Rangeから号数への換算」グラフを使用して号数を求めると、

約 2.5

となります。

露光時間の計算:

露光時間はハイライト部(ゾーン\)を基準にして計算します。ゾーンスケールを作成したときの露光時間が33秒であったので、以下の式で求めることができます。

 

1.421.54よりも薄い濃度ですから、同じ濃度にするための露光時間は短くても良いわけです。10(1.42-1.54)=0.76ですから基準ゾーンスケールの76%の露光時間でよいということです。このように露光時間は秒単位ではなく「割合」で考えるとよいでしょう。

したがってこのネガは、露光時間25秒、2.5号のフィルターを使用すれば、ハイライトからシャドー部までが十分な諧調を持ってプリントすることができます。

また、基準のゾーンスケールは、ネガ−印画紙間距離が540mmのときの露光時間です。露光時間は距離の二乗に反比例して増減しますから、次の式で調整してください。距離が720mmの場合です。

 
 

44.4秒ということになります。

ハイライトだけで決める

例としてゾーンスケールZの濃度にプリントしたい部分はあるが、Tや\にプリントしたい部分が判然としないネガを想定してみます。このネガのゾーンZにしたい部分の濃度を測るとちょうど1.0であったとします。基準となるゾーンスケールではZの濃度は1.11でした。そしてゾーンスケールを作成したときのISO Range120、つまり\とTの濃度差が1.20だったわけです。ゾーンZが1.0となるときのRangeは、近似的に

 
 

と考えることができます。これは号数に換算するとちょうど2.0号ということです。

 
 

露光時間も同様に、基準となるゾーンスケールでは33秒だったので、

25.6秒の露光時間でよいという結果になりました。

この計算においては、暗黙の了解としてゾーンTとしたい部分はないけれども濃度0.34がゾーンTと同じ濃度になると仮定しています。

しかし、ゾーンTと\を用いた計算に比べて、これらの結果は誤差が大きくなります。理由は、いろいろな因子が「線形」の関係にあると仮定して計算していますが、実際はもっと複雑に変化しています。ですから、あくまでも参考程度に考えて使用してください。

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Copyright © 2003 KINOSITA Yositaka
最終更新日:2006/02/07