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レンジマッチング法
レンジマッチング法 写真家のカラーマネジメント 高機能なモノクロ化

 

特性曲線と濃度
諧調再現の仕組み
ゾーンシステム
印画紙の対数露光域
ISO Rangeと号数
レンジマッチング法
必要な機材
濃度測定法
特性曲線と実効感度
撮影時の露出
プリント
誤差の要因


多諧調印画紙の正しい使い方

−35mmフィルムで実現するゾーンシステム−

まえがき

「レンジマッチング法-PDFファイル ⇒ range.pdf

モノクロ写真をやってみたいと思いだした1999年の年頭のころ、アンセル・アダムスのゾーンシステムに関する著作「Camera」「Negative」「Print」の三部作を読みました。掲載されている作品はすばらしいものばかりで、「こんな作品が作れたら・・・」と痛切に思ったものでした。

しかしゾーンシステムは、印画紙のグレードは固定してフィルムの現像時間と現像温度をコントロールし、印画紙の対数露光域にあったフィルムを作る方法です。大判のシートフィルムには最適な方法でも、35ミリのロールフィルムで撮影し、各コマごとにフィルムのコントラストが変わる場合には適用が難しいことが理解できます。

そこで、マルチグレード印画紙を使い、各コマごとの濃度域の変動に対しては、それに最適な対数露光域となるようにフィルターを選択して多諧調印画紙に焼き付ければよいではないか、と考えるようになりました。ゾーンシステムにたいして「レンジマッチング法」ともいうべき方法です。

この方法を適用するには濃度計が必要です。私なりの工夫で、高価な濃度計を使用せずとも、フィルム濃度を測る方法を紹介しています。

この冊子は、まったくモノクロ写真に素人の新人が、乏しい知識を元にして、なんとか満足できるようなモノクロ作品を作れるようになったその方法をまとめたものです。フィルム濃度と印画紙のISO Rangeという「数値情報」を頼りにして、誰でも一定水準のプリントを作ることができるようになるための方法だと考えております。フィルムの情報を11100%印画紙に再現するための基本的な技術であり、諧調再現の基本的技術でもあると考えております。

優秀なピアニストでもあったアンセル・アダムスは、「ネガは楽譜であり、プリントは演奏である」と言っております。私の紹介する方法は、メトロノームを使って楽譜を正確に演奏するための方法と言えるでしょう。この方法に従えば、誰でもネガの情報を正確に引き出すことはできます。もちろん人を感動させる音楽芸術にするにはこれだけでは不十分です。私の方法を使って、ネガの情報を完全に印画紙に再現した作品が必ずしも優れた作品になるわけでもありません。しかし、イメージする作品にするためにはどのように改善すればよいかという方針を得ることができます。

技術的に正確にコントロールできない部分を、「個性的表現」という言葉で曖昧にしていることはないでしょうか。高度な光測定機でもある現在のカメラを駆使しながら、暗室作業は依然として段階露光と経験で済ますことに違和感を持ったことはないでしょうか。芸術的表現の必要性からではなく、露光時間の過不足や印画紙グレードの選択の誤り・フィルム現像の不十分さを、覆い焼き(ドッジング)や焼き込み(バーニング)でカバーしているようなことはないでしょうか。

私がこの冊子で記したことはセンシトメトリーの分野では既知のことなのかもしれません。しかし、可能な限りいくつかの書籍にもあたってみましたが、具体的で役に立つ方法を述べている書籍には残念ながら行きあたることができませんでした。しかし、それらの書籍からは多くの有益な知識を得ることができ、この冊子の随所に引用しています。不十分な内容とは承知しながらも、モノクロ写真に興味があり、諧調再現の方法に迷っている方々の参考になれば幸いと考えて著すこととにしました。皆さんのご意見とご指摘をお待ちしております。

20002月  木下 義高