古地磁気学と岩石磁気学の基礎

単位系の変換

古い文献の古地磁気学データは CGS-emu 単位系で報告されています.そのため,それらを新しい測定値と比較したいときは,古いデータを SI 単位系に変換する必要があります.電磁気の単位の変換は長さや質量ほど単純ではないので,ここで電磁気学単位系の初学者向け入門を解説します.まず,磁場を \({\bf B}\) で表わすことは多いですが,これは厳密には磁束密度(又は磁気感応)で \({\bf H}\) で表わす磁場とは区別する必要があります.磁気に関する代表的な SI 単位を以下にまとめます.

(a) 磁場中の電流に働く力, (b) 直線状の電流の回りに発生する円状の磁場, (c) 磁気モーメントは環状の電流に環の面積を掛けて定義される.

磁気の SI 単位

図(a)は磁束密度 \({\bf B}\) の中に置かれた線素片 \(d{\bf s}\) を流れる電流 \(I\) にはローレンツ力 \({\bf dF}\) が働くことを示します.これは電流の単位をアンペア(ampere, A)として次式で与えられます. \begin{equation} d{\bf F} = I d{\bf s} \times {\bf B}. \label{eq01} \end{equation} 1 A の電流が 1 テスラ(tesla, T)の磁束密度に垂直に置かれたとき, 1 m 当たり 1 ニュートン(newton, N)の力が働きます.よって \({\bf B}\) の単位の tesla は,より基本的な単位で表わすと次のようになります. \begin{equation} 1\ \mathrm{T} = 1\ \mathrm{N\,A^{-1}\,m^{-1}}. \label{eq02} \end{equation}

図(b)は直線状の電流 \(I\) の回りには同心円状で電流に垂直な磁束密度 \(B\) が発生することを示します.ビオ・サバールの法則により,磁束密度の向きは電流の方向に右ねじが進むときの回転方向で,磁束密度の大きさは電流に比例し,電流からの距離 \(r\) に反比例することが導かれます.これは比例定数を μ0/2π として次式で表わされます. \begin{equation} B = \frac{\mu_0}{2\pi}\frac{I}{r}. \label{eq03} \end{equation} 比例定数に μ0 や 2π が含まれることには深い経緯がありますが,ここではそれにより電磁気学の各公式が単純になるとだけ指摘しておきます.式 (1) と (3) から,平行な2本の直線状の電線は電流の向きが同じ場合に引き合うことが分かります.電流が同じ \(I\) の場合,電線の線素片 \(d{\bf s}\) に働く力 \(dF\) は \(r\) を両電線間の距離として次式となります. \[ dF = \frac{\mu_0}{2\pi}\frac{I^2}{r}ds, \] この式で \(r\) = 1 m とし,電線 1 m 当たりの力が 2×10-7 N となる電流 \(I\) を 1 A と定義します.但し,この場合 μ0 を次の値, \begin{equation} \mu_0 = 4\pi\times 10^{-7}\ \mathrm{N/A^2}, \label{eq04} \end{equation} に定め,これを真空の透磁率とよびます.

磁気モーメント \({\bf m}\) は図(c)のように環状の電流 \(I\) と環の面積 \(S\) の積で定義され, \begin{equation} {\bf m} = IS\,{\bf n}, \label{eq05} \end{equation} で表わされます.ここに \({\bf n}\) は \(S\) に垂直な単位ベクトルで,その向きは右ねじを電流の向きに回したときに進む方向です.よって, \({\bf m}\) の単位は A m2 です.一方,単位体積に含まれる磁気モーメント \({\bf m}\) の合計を磁化 \({\bf M}\) といい,微小体積を \(dv\) として次式で表わされます. \begin{equation} d{\bf m} = {\bf M}dv. \label{eq06} \end{equation} よって, \({\bf M}\) の単位は A/m です.最後に,磁場 \({\bf H}\) は次式で定義されます. \begin{equation} {\bf H} = \frac{1}{\mu_0}{\bf B} - {\bf M}. \label{eq07} \end{equation} よって, \({\bf H}\) の単位は \({\bf M}\) と同じ A/m です.

ここで単位のテスラについて,式 (2) とは異なる表現を導いておきます.ファラデーの電磁誘導の法則によると,回路を貫く磁束 \(\Phi\) が変化すると次式のように回路に起電力 \(\phi\) が生じます. \[ \phi = -\frac{d\Phi}{dt}. \] ここに, \(\Phi\) は \(B\) と回路の面積の積で,単位はウェーバー (weber, Wb)です.ウェーバーは \([テスラ\times 平方メートル]\) に等しいので,単位のテスラ (T) は単位のボルト (volt, V) を用いて次のように表わされます. \begin{equation} 1\ \mathrm{T} = 1\ \mathrm{V\,s\,m^{-2}} \label{eq08} \end{equation}

CGS-emu から SI への変換

では, CGS-emu 単位の \({\bf B}\) を SI 単位へ変換します.式 (1) は CGS-emu 単位系でも成立しますが, \(d{\bf F}\), \(I\), \({\bf B}\) の単位はそれぞれダイン(dyn),電磁アンペア(アブアンペア, abampere, 1 abA = 10 A),ガウス(gauss, G)です.よって, \({\bf B}\) の変換は (1) から次のようになります. \begin{equation} 1\ \mathrm{G} = \frac{1\ \mathrm{dyn}}{1\ \mathrm{abA}\times 1\ \mathrm{cm}} = \frac{10^{-5}\ \mathrm{N}}{10\ \mathrm{A}\times 10^{-2}\ \mathrm{m}} = 10^{-4}\ \mathrm{T}. \label{eq09} \end{equation}

磁場 \({\bf H}\) と磁化 \({\bf M}\) の単位の変換は次の2式を比較することで得られます. \begin{eqnarray} {\bf B} & = & \mu_0({\bf H} + {\bf M}) \quad (\mathrm{SI}), \label{eq10} \\ {\bf B} & = & {\bf H} + 4\pi{\bf M} \quad (\mathrm{CGS-emu}). \label{eq11} \end{eqnarray} CGS-emu での \({\bf H}\) の単位はエルステッド(oersted, Oe)ですが,これは (11) から分かるようにガウスに等しいです.それ故, 1 Oe の \({\bf H}\) は 1 G の \({\bf B}\) と同等で,これは (9) から SI 単位では 10-4 T です. SI 単位の \({\bf H}\) は (7) 又は (10) から \({\bf B}\) を (4) の μ0 で割れば得られます. \begin{equation} 1\ \mathrm{Oe} = \frac{10^{-4}\ \mathrm{T}}{4\pi\times 10^{-7}\ \mathrm{N/A^2}} = \frac{10^3}{4\pi}\ \frac{\mathrm{N}}{\mathrm{A\,m}}\frac{\mathrm{A^2}}{\mathrm{N}} = \frac{10^3}{4\pi}\ \mathrm{A/m}. \label{eq12} \end{equation}

CGS-emu では磁気モーメント \({\bf m}\) の単位は emu (electromagnetic unit, 電磁単位)です.磁化 \({\bf M}\) は単位体積あたりの磁気モーメントなので,その単位は emu/cm3 です. (11) によると, 1 emu/cm3 の \({\bf M}\) は 4π G の \({\bf B}\) を生じますが,これは (9) から 4π×10-4 T に等しいです. (7) 又は (10) を利用して,この値を μ0 で割れば次式のように SI 単位の \({\bf M}\) が求まります. \begin{equation} 1\ \mathrm{emu/cm^3} = \frac{4\pi\times 10^{-4}\ \mathrm{T}}{4\pi\times 10^{-7}\ \mathrm{N/A^2}} = 10^3\ \mathrm{A/m}. \label{eq13} \end{equation} この関係を利用して,磁気モーメント \({\bf m}\) の単位の変換は次式で与えられます. \begin{equation} 1\ \mathrm{emu} = 1\ \mathrm{emu/cm^3}\times 1\ \mathrm{cm^3} = 10^3\ \mathrm{A/m}\times 10^{-6}\ \mathrm{m^3} = 10^{-3}\ \mathrm{A\,m^2}. \label{eq14} \end{equation} (11) によると, \({\bf M}\) の CGS-emu 単位は G でもあるので, \({\bf m}\) の単位はまた G cm3 でもあります.しかし, \({\bf M}\) と \({\bf m}\) の単位としてはそれぞれ emu/cm3 と emu の方が G と G cm3 よりも使用されることが多いようです.それは, (9) の \({\bf B}\) の単位としての G との混同を避けるためと思われます.また,古地磁気学では単位質量あたりの磁気モーメントも時々使われ,単位の変換は (14) を使用して次式で与えられます. \begin{equation} 1\ \mathrm{emu/g} = \frac{10^{-3}\ \mathrm{A\,m^2}}{10^{-3}\ \mathrm{kg}} = 1\ \mathrm{A\,m^2/kg}. \label{eq15} \end{equation}

無次元である磁化率 \(\chi\) は SI 単位でも CGS-emu 単位でも次式で定義されます. \begin{equation} {\bf M} = \chi {\bf H}. \label{eq16} \end{equation} いま, 1 Oe の \({\bf H}\) が 1 emu/cm3 の \({\bf M}\) を誘起したとすると,磁化率 \(\chi\) は CGS-emu 単位で 1 です.これは SI 単位へ次のように変換されます. \begin{equation} 1\ _{\mathrm{CGS}} = \frac{1\ \mathrm{emu/cm^3}}{1\ \mathrm{Oe}} = \frac{10^3\ \mathrm{A/m}}{10^3/4\pi\ \mathrm{A/m}} = 4\pi\ _{\mathrm{SI}}. \label{eq17} \end{equation} 単位質量あたりの磁化率は上の単位体積あたりの磁化率を密度で割ることで得られます.よって, CGS-emu から SI への変換は次のようになります. \begin{equation} 1\ _{\mathrm{CGS\,mass}}\ \mathrm{cm^3/g} = \frac{1\ _{\mathrm{CGS}}}{1\ \mathrm{g/cm^3}} = \frac{4\pi\ _{\mathrm{SI}}}{10^3\ \mathrm{kg/m^3}} = \frac{4\pi}{10^3}\ _{\mathrm{SI\,mass}}\ \mathrm{m^3/kg}. \label{eq18} \end{equation}

単位系の変換のまとめと応用例を以下に示します.

電磁気単位系の変換
CGS-emuSI
磁束密度 (Magnetic flux density) \({\bf B}\)1 G10-4 T
磁場 (Magnetic field) \({\bf H}\)1 Oe103/4π A/m
磁化 (Magnetization) \({\bf M}\)1 emu/cm3 (G)103 A/m
磁気モーメント (Magnetic moment) \({\bf m}\)1 emu (G cm3)10-3 A m2
単位質量当たりの磁化 (mass specific)1 emu/g1 A m2/kg
磁化率 (Magnetic susceptibility) \(\chi\)1
単位質量あたりの磁化率 (mass specific)1 cm3/g4π/103 m3/kg

電磁気単位系の変換例

CGS-emu 単位による過去の報告書を発見したとします.その文書には自然残留磁化 (natural remanent magnetization, NRM) の強度, \(Q_n\)-比(NRM 強度と現在の地磁気による誘導磁化強度の比),交流消磁 (alternating field (AF) demagnetization) への安定性について記載されていたとします.

\(M\) は 5×10-3 emu/cm3 で \(\chi\) は 2×10-4 であった.よって, \[ Q_n = \frac{M}{\chi H_0} = \frac{5\times 10^{-3}\ \mathrm{emu/cm^3}}{2\times 10^{-4}\times 0.5\ \mathrm{Oe}} = 50. \] これは NRM の高い安定性を示し,交流消磁では 1000 Oe の磁場まで消失することはなかった.
これは SI 単位では次のように書き換えられます.
\(M\) は 5 A/m で \(\chi\) は 8π×10-4 であった.よって, \[ Q_n = \frac{M}{\chi H_0} = \frac{5\ \mathrm{A/m}}{8\pi\times 10^{-4}\times 0.5\times 10^3/4\pi\ \mathrm{A/m}} = 50. \] これは NRM の高い安定性を示し,交流消磁では 100 mT の磁場まで消失することはなかった.
最後の「100 mT (millitesla)」は誤りで,正しくは「106/4π A/m」です.しかし,古地磁気学・岩石磁気学では \({\bf H}\) を \({\bf B}\) で言い表すことがしばしばあります.それは面倒な 4π という係数を省略すれば SI 単位と CGS-emu 単位を比較するのが容易になるからです.

注意:

上記の古地磁気学・岩石磁気学の慣例に従い,このホームページでは,磁場 \({\bf H}\) の値をテスラ (T) の単位で表わすことが多々あります.