和歌入門附録 和歌のための文語文法

活用表 動詞についての留意点 助動詞の種類と機能 助詞の種類と機能 仮名遣

助詞の種類と機能 7

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助詞一覧表

連体助詞 格助詞 副助詞 係助詞 終助詞
間投助詞 接続助詞

接続助詞  とも ど・ども   がに がね・がに   して  つつ ながら  ものの ものから ものゆゑ ものを からに

接続助詞は、その前の文・節を、あとに来る文・節に接続すると共に、両者の関係を示す助詞である。もとより倒置文の場合は文末に置かれることになる。

 接続助詞 仮定条件・既定条件

【主な機能】

    文語の「ば」は仮定条件(もし〜ならば)・既定条件(すでに〜なので)の両方に用いられる。仮定条件にのみ用いる現代口語とはこの点大きく異なる。

  1. 未然形に接続し、順接の仮定条件を示す。「(もし)〜ならば」。
    磐代の浜松が枝を引き結びまさきくあらまた還り見む(万葉集、有間皇子
    立ち別れいなばの山の峰におふるまつとし聞か今かへり来む(古今集、在原行平
  2. 已然形に接続し、既定条件、あるいは原因・理由を示す。「すでに〜だから」「〜ので」。
    小竹の葉はみ山もさやにさやげども吾は妹思ふ別れ来ぬれ(万葉集、柿本人麻呂
    吹くからに秋の草木のしほるれむべ山風を嵐といふらむ(古今集、文室康秀
  3. 已然形に接続し、事件の継起の先後関係を示す。「〜すると」「〜していると」。
    熟田津に船乗りせむと月待て潮もかなひぬ今は漕ぎ出でな(万葉集、額田王
    おもへ沢の蛍も我が身よりあくがれいづる魂かとぞみる(後拾遺集、和泉式部
  4. 打消の文脈で用い、逆接をあらわす。「〜のに」。 次項【助動詞との結合例】の「ねば」も参照されたい。
    秋立ちて幾日もあらこの寝ぬる朝明の風は手本寒しも(万葉集、安貴王
    天の河浅瀬白浪たどりつつ渡り果て明けぞしにける(古今集、紀友則
【助動詞との結合例】

とも 接続助詞 逆接仮定条件

【主な機能】

ど・ども 接続助詞 逆接既定条件

【主な機能】

 接続助詞 逆接

【主な機能】
【他の機能】

元来は連体助詞であり、格助詞としてもはたらく。

 接続助詞 順接・逆接

【主な機能】

    活用語の連体形を承け、前後の文脈によって逆接・順接いずれにもなる。

  1. 順接条件を示す。「〜につけて」などの意。
    安騎の野に宿る旅人うち靡き寐も寝らめやもいにしへ思ふ(万葉集、柿本人麻呂
    霍公鳥いたくな鳴きそ独り居て寝の寝らえ聞けば苦しも(万葉集、坂上郎女
  2. 逆接条件を示す。「〜のに」。
    帰る雁雲居はるかになりぬなりまた来ん秋も遠しと思ふ(後拾遺集、赤染衛門
    庭の面はまだかわか夕立の空さりげなくすめる月かな(新古今集、源頼政
    五月闇おぼつかなき郭公ふかき峰より鳴きていづなり(金槐和歌集、源実朝)
【他の機能】

元来は格助詞である。

がに 接続助詞 比況

【主な機能】

がね・がに 接続助詞 理由・目的

【主な機能】
【補足】

 接続助詞 順接・逆接

【主な機能】

    活用語の連体形、あるいは体言などに付き、順接あるいは逆接の条件をあらわす。和歌では逆接に用いられる方が遥かに多い。

  1. 順接条件を示す。「〜のだから」「〜ので」。
    君により言の繁き故郷の明日香の川にみそぎしにゆく(万葉集、八代女王
    しばしばも相見ぬ天の川舟出早せよ夜の更けぬ間に(万葉集、作者未詳)

    二首目は織女の立場で詠んだ歌で、「しばしば逢えないあなたなのだから、天の川を早く舟出せよ、夜が更けないうちに」の意。

  2. 逆接条件を示す。「〜のに」。
    風流士(みやびを)と我は聞け宿貸さず我を帰せりおその風流士(万葉集、石川女郎)
    夏の夜はまだ宵ながら明けぬる雲のいづこに月宿るらむ(古今集、清原深養父
    白露の色は一ついかにして秋の木の葉を千々に染むらむ(古今集、藤原敏行
【他の機能】

格助詞間投助詞終助詞としてもはたらく。

 接続助詞 継起・並列など

【主な機能】
【助詞との結合例】
【助動詞との結合例】

して 接続助詞 状態

【主な機能】
【他の機能】

格助詞「して」は別語である。

 接続助詞 打消接続

【主な機能】

つつ 接続助詞 反復・継続

【主な機能】

    動詞の連用形に付き、その動作・作用が反復・継続される意をあらわす。「何度も〜して」「ずっと〜して」「〜し続けて」「〜しながら」。

  1. 同じ動作が反復される意をあらわす。「繰り返し〜して」「そのたびに〜して」。
    春花のうつろふまでに相見ねば月日よみつつ妹待つらむぞ(万葉集、大伴家持
    いもやすく寝られざりけり春の夜は花の散るのみ夢に見えつつ(新古今集、凡河内躬恒
  2. 動作が継続されている意をあらわす。「ずっと〜して」「〜し続けて」。
    鴨山の磐根しまける吾をかも知らにと妹が待ちつつあらむ(万葉集、柿本人麻呂
    君がため春の野にいでて若菜つむ我が衣手に雪は降りつつ(古今集、光孝天皇
【助動詞との結合例】
【補足】

ながら 接続助詞 維持・逆接

【主な機能】

    体言、副詞、活用語の連用形などに付く。元来は連体助詞「な」と形式名詞「から」が結び付いたもので、体言に付いて副詞句を作るのが最も古い用法であったろうという。「神ながら」(神であるままに、の意)、「露ながら」(露もそのままに、の意)といった遣い方であり、これらの「ながら」は接尾語あるいは副助詞と見るべきか。

  1. そのままの状態を維持することをあらわす。「〜したままで」「〜ながら」。
    針袋帯び続けながら里ごとに照らさひ歩けど人もとがめず(万葉集、大伴池主
    折りつればたぶさに穢る立てながら三世の仏に花たてまつる(古今集、遍昭
  2. 逆接の意をあらわす。「〜ものの」「〜ではあるが」「〜けれども」。
    年を経て消えぬ思ひはありながら夜のたもとは猶こほりけり(古今集、紀友則
    明けぬれば暮るるものとは知りながらなほ恨めしき朝ぼらけかな(後拾遺集、藤原道信

 接続助詞 逆接

【主な機能】

ものの 接続助詞 逆接

【主な機能】

ものから 接続助詞 逆接

【主な機能】

ものゆゑ 接続助詞 順接・逆接・理由

【主な機能】

    活用語の連体形を承け、順接・逆接両方の意をあらわす。「ものゆゑに」とも遣う。

  1. 理由・原因をあらわす。「〜ので」「〜のだから」。
    我が故に思ひな痩せそ秋風の吹かむその月逢はものゆゑ(万葉集、作者未詳)
    恋ひ死なむことぞはかなき渡り川あふ瀬ありとは聞かものゆゑ(千載集、藤原重家
  2. 逆接の意をあらわす。「〜ものなのに」。
    年のはに来鳴くものゆゑ霍公鳥聞けばしのはく逢はぬ日を多み(万葉集、大伴家持
    秋ならで逢ふことかたき女郎花天の川原に生ひぬものゆゑ(古今集、藤原定方

ものを 接続助詞 順接・逆接

【主な機能】

    活用語の連体形を承ける。逆接をあらわすことが多いが、順接をあらわすこともある。

  1. 逆接。「〜のであるが」「〜であるのに」。
    思ふともしるしも無しと知るものを何しかここだ我が恋ひ渡る(万葉集、坂上郎女
    春の野に若菜つまむと来ものを散りかふ花に道はまどひぬ(古今集、紀貫之
  2. 順接。「〜のだから」。
    来むと言ふも来ぬ時あるを来じと言ふを来むとは待たじ来じと言ふものを(万葉集、坂上郎女
【他の機能】

終助詞としてもはたらく。

からに 接続助詞 理由・原因など

【主な機能】

    活用語の連体形を承け、「〜だけで」といった意、あるいは「〜と共に」「〜と同時に」といった意をあらわす。形式名詞「から」に格助詞「に」が付いて出来た複合語であるが、接続助詞としてはたらく。

  1. 「〜だけで」「〜ばかりに」
    道に逢ひて笑ましからに降る雪の消なば消ぬがに恋ふといふ我妹(わぎも)(万葉集、聖武天皇
    わびしさを同じ心と聞くからに我が身をすてて君ぞかなしき(後撰集、源信明
  2. 「〜と同時に」「〜やいなや」
    初春の初子(はつね)のけふの玉箒(たまばはき)手にとるからに揺らく玉の緒(万葉集、大伴家持
    明けぬとて今はの心つくからになど言ひ知らぬ思ひ添ふらむ(古今集、藤原国経

助詞一覧表

連体助詞 格助詞 副助詞 係助詞 終助詞
間投助詞 接続助詞


公開日:平成19年5月7日
最終更新日:平成21年6月17日