小林信彦作品のページ No.4



31日本橋バビロン

32映画X東京とっておき雑学ノート−本音を申せばNo.4−

33B型の品格−本音を申せばNo.5−(文庫改題:女優はB型)

34黒澤明という時代

35森繁さんの長い影−本音を申せばNo.6−

36.気になる日本語−本音を申せばNo.7−(文庫改題:伸びる女優、消える女優)

37.流される

38.非常事態の中の愉しみ−本音を申せばNo.8−(文庫改題:人生、何でもあるものさ)

39.四重奏(カルテット)

40.映画の話が多くなって−本音を申せばNo.9−


【作家歴】、唐獅子株式会社、唐獅子源氏物語、イエスタデイ・ワンス・モア、ミート・ザ・ビートルズ、ドリームハウス、イーストサイド・ワルツ、ムーン・リヴァーの向こう側、コラムの冒険、和菓子屋の息子、現代(死語)ノート

→ 小林信彦作品のページ bP


結婚恐怖、天才伝説横山やすし、コラムは誘う、人生は五十一から、おかしな男渥美清、読書中毒、最良の日最悪の日、昭和の東京平成の東京、テレビの黄金時代、コラムの逆襲

→ 小林信彦作品のページ bQ


名人、にっちもさっちも、ぼくが選んだ洋画・邦画ベスト200、花と爆弾、侵入者、本音を申せば、昭和のまぼろし、うらなり、映画が目にしみる、昭和が遠くなって

→ 小林信彦作品のページ bR


小林信彦 萩本欽一 ふたりの笑タイム、「あまちゃん」はなぜ面白かったか?、つなわたり、女優で観るか監督を追うか、古い洋画と新しい邦画と、わがクラシック・スターたち、生還、また本音を申せば、とりあえず本音を申せば、決定版日本の喜劇人、日本橋に生まれて

→ 小林信彦作品のページ bT

                       


 

31.

●「日本橋バビロン」● ★★


日本橋バビロン画像

2007年09月
文芸春秋刊

(1476円+税)

2011年09月
文春文庫化



2007/09/25



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小林信彦さんの実家は享保8年に創業した和菓子屋で、旧日本橋区両国の米沢町に在った。
かつて武蔵の下総の2つの国を結ぶ両国橋の両岸に「両国」があり、戦後東両国が「両国」として残り、西の両国は中央区東日本橋になったとのこと。
本書は、その下町の繁華街であった両国の賑わいが失われていく時代的変遷と併せ、実家「立花屋」の繁栄と戦後の没落を自伝的に描いた長篇作品です。
既に和菓子屋の息子」「東京少年」等の自伝的作品にて書かれていることですので、ファンとしてはそう目新しいことはありません。
ただ、淡々と自分の見聞きした事実だけを重ねていく小林さんの姿勢に、これまで小林さんが書いてきた「昭和」の集大成となる作品であろう、と感じます。それだけに味わい深い。

時代が移り変わることによって、町、家業も栄枯盛衰に見舞われる。哀しさがあるものの、それが時代の流れとなれば仕方ないことかもしれない。
しかし、同じ仕方ないにしても、町の歴史を全く意に介さない官僚によって事務的に処理された結果「両国」という町が消え去ってしまったという事実は、やはりもの哀しい以上の何ものでもありません。

もうひとつは、商売人に向かない人(小林氏の父親)は商家を継ぐべきではない、ということ。それまで和菓子職人を婿取りして保ってきた家業が父親の代で廃業となった原因のひとつとして、それは否定できないことでしょう。
ちょうど本書と時期を同じくして、塩野七生「終わりの始まり(ローマ人の物語11)」にて五賢帝時代の終り頃からローマの衰退が始まったという部分を読んでいるところ。ローマ帝国と一介の和菓子屋ではスケールに相当な差がありますが、重なり合うものがあるのを感じます。

大川をめぐる光景/大震災前夜/木漏れ日の戦争下/崩れる/東日本橋バビロン/(創作ノート)

  

32.

●「映画東京とっておき雑学ノート−本音を申せば−」● ★☆


映画X東京とっておき雑学ノート画像

2008年04月
文芸春秋刊

(1667円+税)

2011年07月
文春文庫化



2008/05/14



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「週刊文春」連載コラムの単行本化。
2007年01月〜12月間に掲載されたコラムを収録した第10集。
例年同様のクロニクル(年代記)的時評群。

時勢評あり、映画評あり、エンターテイメント評あり、この一冊の中にいろいろな面白さがある。ですからこのシリーズ、私は毎年楽しみにしています。
ただし、内容には毎度繰返しも多い。クリント・イーストウッド監督作品、植木等、萩本欣一ら喜劇人のこと、話術に冴えを見せる最近の人として伊集院光のこと、等々。
それでも相手が層々たる人物ばかりなので、繰り返されても意外と飽きない。
ま、自分の好きな話題となれば何度繰返しおしゃべりしても飽きない、というのと同じことであります。

その中で新鮮な部分。
・安部前首相の「戦後レジュームからの脱却」とは、その意味が判っているのか?という痛烈な批判。
・映画ドリームガールズのこと、また「ロッキー・ザ・ファイナル」のこと。
・第64回ゴールデングローブ賞授賞式のこと。表彰されるウォーレン・ベイティに絡む、トム・ハンクス、ダスティン・ホフマンの爆笑シーン、読むだけでもファンとしては嬉しい。
・1941年「幽霊紐育を歩く」のリメイク版が1978年「天国から来たチャンピオン」(ウォーレン・ベイティ主演・共同監督)だったのはともかくとして、その女性版の不評作がリタ・ヘイワース主演「地上におりて」で、そのリメイク版がザナドゥだったとは! 今頃知ったとはいえ何か得した気分(※チャンピオン、ザナドゥ、両方とも私は映画館で観てます)。

全体の中ではちょっとした部分に過ぎませんけれど、私には楽しかった。こうした部分が時折顔を覗かせるところがまた、本シリーズを読む楽しさなのです。

  

33.

●「B型の品格−本音を申せば−」● 
 (文庫改題:女優はB型)


B型の品格画像

2009年04月
文芸春秋刊

(1667円+税)

2012年07月
文春文庫化


2009/07/02


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「週刊文春」連載コラムの単行本化。
2008年01月〜12月間に掲載されたコラムを収録した第11集。
例年同様のクロニクル(年代記)的時評群。

恒例のように毎年刊行され、私も毎年恒例のように読み続けているエッセイ集。
ただ、今回は新味が余り感じられず、読む楽しさとしては今ひとつ物足りない。
もっとも、いろいろ小林信彦さんのエッセイを読み漁り、本シリーズも第11冊目なのですから、今更“新味”も何もない、とは思うのですが。

世情より趣味のことが主体というエッセイですから、相変わらず映画、俳優、ドラマの話が多い。
堀北真希、長澤まさみ、ニコール・キッドマンへの賞賛は相変わらず。新しいところでは、TV推理ドラマ「キミ犯人じゃないよね?」の貫地谷しほりが浮上、またICHI綾瀬はるかへの期待もファンとしては嬉しい。
・そして亡き名優ポール・ニューマンについて。
・題名の「B型」関連エッセイは計5篇。

・最後の方で、「TVには出てはいけない顔というのがある」という文章があり、これには手を打って同感。
「歪んだあの顔をTVに出すのが悪い」「しかも声が悪い」
私も毎晩TVニュースで見る度、家人に言っていることですから。
でもこの部分、今から半年前のエッセイです。それから6ヶ月過ぎますけれど、今なお小林さんも私も、顔を見せられ、声を聞かされてますねェ。

  

34.

●「黒澤明という時代」● ★★


黒澤明という時代画像

2009年09月
文芸春秋刊

(1667円+税)

2012年03月
文春文庫化



2009/10/08



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日本映画界の巨匠=黒澤明の各作品と、その作られた背景(時代を含む)を語る一冊。
映画評論家として書かれた本ではないところが本書の良さ。
黒澤明監督作品第1作、戦時中に作られた「姿三四郎」に始まり、殆どの作品をリアルタイムで観てきた観客の立場から証言したもの、というスタンスが貴重です。

リアルタイムで観てきた言葉だからこそ、当時の大人気、不評が手に取るように伝わってきて楽しい。とくに「七人の侍」では、立ち見さえ立錐の余地がないという位で、そんな状態こそ「満席」というのだそうです。おかげで途中休憩もトイレに行かず我慢したのだとか。
さらに、昔見た映画をDVDで観直しているというからこそ、小林さんの言葉には信頼が置けます。
初期の評価高かった作品群と、私がリアルタイムで観た晩年の作品との違いがずっと理解できないままでしたけれど、本書を読んでようやく得心がいったという気分です。

時代、社会を反映させた「生きる」「野良犬」「七人の侍」といった作品の一方で、娯楽要素の高い「隠し砦の三悪人」「用心棒」「椿三十郎」といった作品もある。
時代を反映した社会背景あるもの、演出と役者の演技が共に光った作品から、撮影の技巧に走った作品への変化。
「何か見せてやろう」として作った作品と、「何か言ってやろう」として作った作品では、興行的に失敗した作品は後者に多かったといいます。
私がリアルタイムで観たのは「影武者」だけで、率直に言ってその後の「乱」とかの作品は観る気がしませんでした。

※第一回監督作品の原作=富田常雄「姿三四郎」は、矢野正五郎、姿三四郎の2人にまたがる明治期を舞台にしたビルディングロマンスの傑作で、私は学生時代に随分と愛読したものですが、今はもう読まれない作品でしょうね・・・。

  

35.

●「森繁さんの長い影−本音を申せば−」● ★☆


森繁さんの長い影画像

2010年05月
文芸春秋刊

(1667円+税)

2013年07月
文春文庫化



2010/06/13



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「週刊文春」連載コラムの単行本化。
2009年01月〜12月の間に掲載されたコラムを収録した第12集。
例年同様のクロニクル(年代記)的時評群。
<世相への怒りをおさえて><趣味の話>に走るというのが、本エッセイのスタイルとのことです。
12冊目かと思うとちと感慨があります。それで、12冊の内どれだけ読んでいたかと数えてみたら、最初の方の2冊だけ読んでいなくて、計10冊読書。
私にとっても本シリーズを読むのはもはや恒例行事のようなものです。
以下、メモ的に抜粋。

・相変わらずアン・タイラーを推奨。まだ1冊しか読んでいないので少しずつと思いながら、進捗せず。
クリント・イーストウッド監督の映画も相変わらず絶賛。今回はチェンジリング」「グラン・トリノを私も観ていたので、同感することしきり。
・邦画では、綾瀬はるか出演作品と、深田恭子が悪役に扮した「ヤッターマン」の話題が印象に残ります。
・麻生元首相のひどさに呆れ返るコメントが少々。その後の鳩山前首相のひどさに呆れ返っていて忘れていましたが、僅か1年前のことなのですね。日本社会に漂う閉塞感の理由が納得できる気がします。
・ラジオの話題については、いつも通り聞いているだけ。TVさえニュース程度しか観てないのですから、ラジオまでは手が出ません。

なお、亡くなった森繁久彌さんに触れているのは3篇。
表題の「森繁さんの長い影」は連載エッセイではなく、小学館のCDブック「日曜名作座−藤沢周平名作選」の解説書に寄せた「森繁久彌の時代」に加筆したものだそうです。    

       

36.

●「気になる日本語−本音を申せば−」● ★☆
 (文庫改題:伸びる女優、消える女優)


気になる日本語画像

2011年05月
文芸春秋刊

(1667円+税)

2014年02月
文春文庫化



2011/06/24



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「週刊文春」連載コラムの単行本化。
2009年12月31日〜2010年12月の間に掲載されたコラムを収録した第13集。いつも通りのクロニクル(年代記)的時評群。

ずっと読み続けてきているこのシリーズですが、最近はとみに繰り返しや昔語りが多くなったなぁ、と言う印象。
とくに映画の話題。加えて、
クリント・イーストウッド、黒澤明等に関する話題とか。

そんな中、小林さんのお気に入りである3人の若手女優の名前が上がります。貫地谷しほり、綾瀬はるか、堀北真希と。
とくに綾瀬はるかさん、私もファンなので嬉しい。
その他新しく名前が登場したところでは、
仲里依沙「ゼブラーマン・ゼブラシティの逆襲」で演じたゼブラクィーンの圧倒的存在感、私も同感です。阿呆らしいストーリィと思ったので感想アップはしませんでしたが、この作品での仲里依沙の演技は素晴らしいの一言に尽きます。完全に作品、主演男優を喰ってしまっていたのですから。

背景となる社会情勢としては、今更言うまでもなく、民主党のゴタゴタ。鳩山政権の名称、小沢元代表をめぐる騒動、そして菅政権の漂流と。その中で小林さんが注目したのは、ジャーナリスト・上杉隆さんのコメントだという。大新聞の報道に対する批判、戦中以来だと小林さんにあっては根深いことのようです。
あと、
谷啓さん逝去のこと、「悩ましい」という言葉の現代的用法の是非のこと。

繰り返し、昔語りが多いと冒頭に書きましたけれど、本コラムについてはこんなもんだと悟ってしまえば、特にどうってことはありません。それも含めて小林さんのコラムが好きで読んでいるのですから。

       

37.

●「流される」● ★★


流される画像

2011年09月
文芸春秋刊

(1476円+税)

2015年08月
文春文庫化


2011/10/09


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個人疎開と敗戦前後を描いた「東京少年」、両国に在った実家の衰亡を描いた日本橋バビロンに続く“自伝的三部作”の最終巻。
「日本橋バビロン」が和菓子屋である実家、その実家があった旧日本橋両国区の変遷に視点を当てて描かれた作品であるのと対照的に、本書は母方の祖父である高宮信三、その青山の家とその周辺が中心軸に据えられています。
その
高宮信三氏沖電気の創業時代、創業者である沖牙太郎の右腕とも目された人物だったとのこと。

自分の目でしっかり見てきた戦後の東京、母親の実家で戦後すぐの時期寄寓した青山を中心とした地域の移り変わっていく様子、そしてその時代を中学生〜高校生〜大学生として過ごしてきた経験。
その映像は本来別々のものなのでしょうけれど、小林さんという一つの目を通して見たものだけに、2つのフィルムを重ねて二重に映像をみているような気分になります。
そしてまた、和菓子屋の九代目でありながら自身は菓子職人ではなかった父親の息子であり、ルーツを下町である両国と山手である青山の両方に負っていた為か、どこか時代に乗り切らず批評家的に時代を眺めていた小林少年の姿が、貴重なものに感じられます。

自伝的、回想的な作品であり、どこがどうというものではありませんが、私にとっては味わい深く感じられる一冊です。

      

38.

●「非常事態の中の愉しみ−本音を申せば−」● ★☆
 (文庫改題:人生、何でもあるものさ)


非常事態の中の愉しみ画像

2012年05月
文芸春秋刊

(1700円+税)

2015年01月
文春文庫化



2012/05/29



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「週刊文春」連載コラムの単行本化。
2010年12月30日〜2011年12月の間に掲載されたコラムを収録した第14集。いつも通りのクロニクル(年代記)的時評群。
表題の“非常事態”とは、勿論福島原発事故のことです。
表紙絵が誰かはすぐ判ります、クリント・イーストウッドとウッディ・アレン。

前半、いつものように乗れなくて、率直に言ってつまらなかった。何故か。多分、古い話が私の知らないことばかりだったからでしょう。
でも、最近の映画話になると、楽しくなってきます。
まず「映画は女優で観る」という一言に同感、私も同類です。
ナタリー・ポートマンブラック・スワンでアカデミー主演女優賞をとったのですから、当然に挙がってくる名前です。
プリンセス・トヨトミ綾瀬はるかのトボけた面白さが十分生かされていない、いっそプリンセスは彼女だったという方が面白いという意見は真に慧眼です。

「モテキ」、映画版はTV版からぐっとグレードアップして、女性陣は主役級の女優ばかり(長澤まさみ・麻生久美子・仲里依沙・真木よう子)。小林さんも語っていますがこの映画版、実は冒頭にPerfumと一緒に踊るシーンがあって、これが見事なのです。Perfumとぴったり一体化していて不自然さなく、ミュージカルファンとしてはこの映画一番の見処ではないかと思う次第。
その「モテキ」から、アラン・ドロン主演
「お嬢さんおてやわらかに」へ連想する辺り、流石です。私の好きな作品で、これもアラン・ドロンより若い美人女優3人(ミレーヌ・ドモンジョ、パスカル・プチ、ジャクリーヌ・ササール)を観れるところに魅力があったのです。
また、内田有紀主演のばかもの(絲山秋子原作)を絶賛。私は映画を見ていませんが、原作はお薦めです。

ナタリー・ウッドの死に関連して、青春映画の名作「草原の輝き」話が懐かしい。
イーストウッド作品「J・エドガーに関しては、異議なし。
なお、小林さんが挙げる日本のクラシック三大監督(小津・
成瀬・黒澤)に同感できるのも、浮雲等高峰秀子主演映画をいろいろ観たおかげです。

           

39.

●「四重奏 カルテット」● ★★☆


四重奏画像

2012年08月
幻戯書房刊

(2000円+税)



2012/09/05



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「四つの中篇小説がつながって、一つの世界を作り出す作品集」とのこと。そしてその“一つの世界”とは何か、というと、<推理小説の軽視された時代>

小林さんのエッセイ等に親しんできた読者であれば、小林さんが若い頃に江戸川乱歩がスポンサーの翻訳もの推理小説雑誌の編集長を務めていたことをご存知だと思いますが、本書4篇はその時代のことを描いた小説作品。
冒頭の
「夙川事件」では、主人公の「私」は勿論小林さん自身の筈で、江戸川乱歩も実名で登場します。
その他3篇は、小林さんがモデルとなっている主人公は
今野、乱歩は氷川鬼道という名前で登場します。
「夙川事件」は、谷崎潤一郎の元に原稿を貰いに行った編集者が帰途に列車と衝突し事故死した事件のこと。他3篇とどう関係があるのかは、「隅の老人」を読んで初めて判ります。
「半巨人」とは乱歩のこと。「隅の老人」とは、かつて大出版社であった博文館で功績を挙げた編集者のこと。「男たち」とは、翻訳もの推理小説雑誌の編集長を務めていた主人公の周囲で盛んに蠢いていた翻訳者・編集者たちのこと。

エッセイの中で語られるのと、こうして小説の形で読むのとでは全く印象が違うということを改めて感じました。
小説では、主人公および関わった人たちの姿がくっきりと立体的に浮かび上がってくる気がします。それだけリアル。そして小林さんの筆もかなりハードボイルド・タッチです。
推理小説発展の前史。推理小説全盛の現在から考えると、霧の向こうに霞んでいる薄暗い裏社会のように感じられます。
小林さんだからこそ描き出せた時代像ですが、同時にもはや二度と描かれ得ない景色であることも事実でしょう。
その意味で、限りない懐かしさと喪失感を抱かせる作品集になっています。
小林信彦ファンには是非お薦めしたい一冊ですが、小林さんの経歴をよく知っていないと入り込み難い世界であることも事実です。

夙川事件(谷崎潤一郎余聞)/半巨人の肖像/隅の老人/男たちの輪

           

40.

「映画の話が多くなって−本音を申せば− ★☆


映画の話が多くなって画像

2013年04月
文芸春秋刊

(1700円+税)

2016年01月
文春文庫化



2013/05/23



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「週刊文春」連載コラムの単行本化。
2012年01月05・12日〜2013年01月03・10日号に掲載されたコラムを収録した第15集。

もう世相に呆れ果てもの言う気があまり無くなったのか、今回は映画の話題が多。それプラス、野田前首相をけちょんけちょんに貶してまだ貶し足りず、という内容です。
亡くなった方については、冒頭で
淡島千景さんについての話が濃い。また、ザ・ピーナッツの姉の方=澤田日出代さんについてはデビュー時期が一緒だということでひとくだり。

ドラマでは山崎豊子原作「運命の人」について。
クラシック映画の話題では、NHKの人気ドラマ「君の名は」が
ヴィヴィアン・リー主演「哀愁」がモデルとか。そう言われれば成る程と思いますが、どちらが傑作かというと言うまでもなく「哀愁」、それは同感です。
ミュージカルの傑作として、
フレッド・アステアやシド・チャリース出演「バンド・ワゴンについても少々。
最近の映画からは、
「シェイム」「ドライヴ」「おとなのけんか」「アーティスト、小林さんには必須のクリント・イーストウッド「人生の特等席、日本映画では朝井リョウ原作「桐島、部活やめるってよ」等々。
「人生の特等席」の共演者
エイミー・アダムスについて好評だったのは嬉しいこと。
日本の女優では相変わらず、
堀北真希、綾瀬はるかの名前が挙がり、新しいところで仲里依紗、橋本愛

本書で注目すべきは、英国の若手女優キャリー・マリガンの名前が頻繁に上がっていること。
私も英国アカデミー主演女優賞をとった
17歳の肖像を見て楽しみにしている女優ですが、「シェイム」「ドライヴ」にも重要な役で出演しているほか、プライドと偏見」「ノーサンガー・アベイにも出演していたと初めて知りました。カズオ・イシグロ原作「私を離さないで」にも主演しているとのことで、これは是非観なくては。
そんな内容で、クラシック〜最近の映画と幅広くお好きな方には、すこぶる楽しい巻です。

      

 読書りすと(小林信彦作品)

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