講談社編アンソロジーのページ


1.
ぐるぐる図書室

2.暗黒グリム童話集

3.ぎりぎりの本屋さん

4.じりじりの移動図書館

5.Voyage 想像見聞録

 


             

1.

「ぐるぐるの図書室 ★★


ぐるぐるの図書室

2016年10月
講談社刊

(1400円+税)



2016/11/26



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児童文学作家5人によるリレー式連作。

舞台は小学校、いずれの篇も主人公は小学5年生たちです。
学校の図書室に親しんでいる小学生もいれば縁遠い小学生もいます。そんな5人の小5生がふと目にした張り紙の文句に惹かれ、図書室に足を踏み入れます。
そこには髪が長くて白いワンピース姿の、背の高い女性が彼らを待ち受けています。
こんな司書の先生はいたっけ?と疑問を持つものの、彼女の指示されたまま主人公たちはある本を手にします。するとその途端に不思議なことが・・・・。

そこはリレー式連作小説ですから、冒頭は同じようでもそれぞれの個性が発揮された小ストーリィがそこから繰り広げられます。

児童文学作品好きとしては楽しい一冊ですが、小学生たちを図書室へ、そして本の世界に誘うようなストーリィになっているところが嬉しい。
活字離れ、本離れが懸念されている現在、小学生の内にこうした本に触れて、少しでも読書に関心を持ってもらえたらなぁ、という一冊。

「時のラビリンス」:好きな男の子の誕生日にプレゼントを渡し損なって後悔している女の子が主人公。
「妖怪食堂は大繁盛」:嫌いなカボチャを母親から無理やり食べさせられようとして腹を立てている男の子が主人公。
「秘境ループ」:スポーツ得意の女子と仲良くなりたいと願う料理・手芸好きの男の子が主人公。
「九月のサルは夢をみた」:友だちなんかいらない、一人の方がいいと決めつけている男の子が主人公。
「やり残しは本の中で」:自分では気づいていない、やり残しを抱える男の子が主人公。

どの篇も好きですが、冒頭だった所為か
工藤純子「時のラビリンス」が印象に残ります。
また、「走れメロス」を思わせられ、これこそ本絡みと感じる
まはら三桃「やり残しは本の中で」が特に好きだなぁ。

プロローグ
工藤純子 「時のラビリンス」
廣嶋玲子 「妖怪食堂は大繁盛」
濱野京子 「秘境ループ」
菅野雪虫 「九月のサルは夢をみた」
まはら三桃「やり残しは本の中で」
エピローグ
デビュー10周年記念−スペシャル座談会「本たちと私たちが出逢ったころのお話」

                 

2.

「暗黒グリム童話集 ★☆


暗黒グリム童話集

2017年03月
講談社刊

(2800円+税)



2017/04/29



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6人の作家と6人の画家がそれぞれにコンビとなって描いた、現代版ブラック気味の新グリム童話集。

「ブラック」と言いましたが、元々「グリム童話」ってかなり残酷だったり冷酷だったりします。
アンデルセン童話集グリム童話集を同時に読んだ時期があって、比べてみるとその違いははっきりします。
ですから、本書ストーリィを読んでもそう驚くことはありませんが、面白いかどうかはまた別。

本書の中で一番楽しめたのは
村田喜代子X酒井駒子「手なし娘協会」。こうした話がグリム童話の中にあったかどうかは覚えていませんが、かなりSF的。
話より楽しめたのは、やはり酒井駒子さんの絵。素敵ですねぇ。好きだなぁ。眺めているだけで少しも飽きません。

松浦寿輝X及川賢治「BB/PP」は、彼の“青ひげ”が美少女アンドロイドを注文し、自分好みの妻に仕立て上げようとするのですが、その結果は・・・・・何と恐ろしい。

多和田葉子X牧野千穂「ヘンゼルとグレーテル」は2つの話をかみ合わせていることから、込み入っていて複雑。
穂村弘Xささめやゆき「赤ずきん」は、それこそ本書を象徴するような“暗黒”風。

村田喜代子酒井駒子「手なし娘協会」
長野まゆみx田中健太郎「あめふらし」
松浦寿輝x及川賢治(100%オレンジ)「BB/PP」
多和田葉子x牧野千穂「ヘンゼルとグレーテル」
千早 茜x宇野亞喜良「ラプンツェル」
穂村弘xささめやゆき「赤ずきん」

                 

3.
「ぎりぎりの本屋さん ★★☆


ぎりぎりの本屋さん

2018年10月
講談社

(1400円+税)



2020/01/13



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ぐるぐるの図書室に続く、児童文学作家5人によるリレー式連作企画、第2弾。

小さな町の小さな商店街。そこを抜けて細い路地に入った処に、ぽつんと一軒の本屋があります。名前は
<ぎりぎり書店>。
古い戸を開けて中に入ると、意外や意外、奥行きがあり天井は高く本棚に本がぎっしり。
迷い込んだり、たまたま入ってみたり、教えられてやってきたりと各篇の主人公である小学生たちの動機は様々です。
迎えるのは、同じ5年生くらいに思える、青いエプロンを付けた少年。
 
不思議な少年店員が差し出してくれる本や絵本が、主人公たちの進むべき道を少し開けてくれます。
ぎりぎり書店で見つけた本によって、粗末にしていた友情を取り戻したり、新しい友情が結ばれたりという展開が、本好きにとっては何より嬉しいこと。

ぎりぎり商店の謎、少年店員の正体は最後に明らかにされます。
ちょっと
村山早紀「コンビニたそがれ堂を連想させてくれるところも楽しい。

「ひとつ多い"な"」:涙が止まらなくなった菜菜子がぎりぎり飛び込んだのは、古そうな書店。でもそこは・・・。
「ベストアンサー」:少年店員は「本は減災だから」と言っていたが、「人生のベストアンサー」という本、役立ったのか?
「ラッキーな菜子」:イジメにあっても呑気な菜子を放っておけず悠司は・・・。「八九七四」という本、本当に厄除け?
「思い出のかみかくし」葉月、かつて親友だったのに今は距離ができてしまった未央とたまたま本屋の前で出会うと、突然2人は「思い出のかみかくし」の本の世界に・・・。
「魔本、妖本にご用心」妹に贈る誕生日プレゼントの本の値段に僅か足らず、健介はぎりぎり書店の地下で、脱走した本を捕まえるバイトを引き受けるのですが・・・。

プロローグ
まはら三桃「ひとつ多い"な"」
菅野雪虫 「ベストアンサー」
濱野京子 「ラッキーな菜子」
工藤純子 「思い出のかみかくし」
廣嶋玲子 「魔本、妖本にご用心!」
エピローグ
スペシャル付録「締め切りがぎりぎりな児童文学作家さん5人に聞いた−本屋さんにまつわる10の質問」

             

4.
「じりじりの移動図書館 ★☆


じりじりの移動図書館

2020年07月
講談社

(1400円+税)



2020/08/01



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ぎりぎりの本屋さんに続く、児童文学作家5人によるリレー式連作企画、第3弾。

キャンピングカーに沢山の本を詰め込んで、あちこちの町や村を巡る
移動図書館「ミネルヴァ号」。その目印は、てっぺんについている赤い目覚まし時計。
訪問先に着くと、じりじり! じりじり!と到着を知らせます。
乗り込んでいるのは、老紳士の館長に、黒い制服姿の若い女性運転手。さて、どんな本を運んできてくれるのやら。

・・・と思っていたのですが、ミネルヴァ号が子供たちに運んできたのは、思いも寄らぬ冒険でした。

「本の続きは霧の向こう」:健太が乗り込んでいるのに気づかず移動図書館が付いたのは、別の世界。そこでは本を悪魔の道具と見なす王によって本狩りが横行していた・・・。
「ヤンメを探せ、伝説を救え」:広青の住む島にやって来たのは移動図書館。本の収集にやって来た、というのですが・・・。
「スケッチブックは残された」:文香がたどり着いたのは、戦時中の日本。そこで文香は召集を受けた美術学生に出会います。
「AIユートピア」:博人が行き着いたのは 100年も先のAIが支配する未来社会。そこで本はAIの標的となっており・・・。
「サイレンが鳴っても」:愛優が出会ったのは2人の奇妙は男の子。その2人は何かに追われているらしく・・・・。

どの話も本を大切に思う気持ちが描かれているのですが、冒険が主になってしまっているのと、それなら移動図書館でなくても?と感じます。
その点でイマイチ、興をそがれた感じです。


プロローグ
廣嶋玲子 「本の続きは霧の向こう」
まはら三桃「ヤンメを探せ、伝説を救え」
濱野京子 「スケッチブックは残された」
工藤純子 「AIユートピア」
菅野雪虫 「サイレンが鳴っている」
エピローグ
スペシャル企画!「児童文学作家5人の〇△〇△な子ども時代と☆□☆□な今!」

              

5.
「Voyage 想像見聞録 ★★


Voyage

2021年06月
講談社

(1550円+税)



2021/08/11



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想像の翼を限りなく広げた旅ストーリィのアンソロジー。

現代ストーリィもあれば、読み手の想像を超越した未来での、喜べないような出来事もあり、舞台設定も、描かれる旅も本当に様々です。
そのバリエーション豊かなところが、本書の魅力。

「国境の子」:対馬から韓国まで一時間。近いようで遠い国。対馬に旅したことがあるので近さを実感できます。
「月の高さ」:弘前まで舞台装置をトラックで運ぶ旅。思い出すのは、かつて海外公演で行った台湾で見た月・・・。
「ちょっとした奇跡」:到来した天体によって地球の自転が停止した未来。会える筈のなかった相手に会える旅は・・・。
「水星号は移動する」:宇宙旅行が一般化した未来社会。一方で水星号は、様々な人に出会う移動宿。
「グレーテルの帰還」:家族を見舞った火災事故。しかし、その真相が分かるまでに長い時間が・・・。
「シャカシャカ」地表が突然シャッフルを始め、姉弟の今いる場所は地球上のあちこちへ、次々に変わっていく・・・。

宮内悠介「国境の子」
藤井大洋「月の高さ」
小川 哲「ちょっとした奇跡」
深緑野分「水星号は移動する」
森 晶麿「グレーテルの帰還」
石川宗生「シャカシャカ」

       


   

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