深緑野分
(ふかみどり・のわき)作品のページ


1983年神奈川県生、神奈川県立海老名高校卒。2010年「オーブランの少女」にて第7回ミステリーズ!新人賞佳作に入選し、同作にて作家デビュー。17年、第66回神奈川文化賞未来賞を受賞。


1.オーブランの少女

2.戦場のコックたち

3.分かれ道ノストラダムス

4.ベルリンは晴れているか

 


           

1.

「オーブランの少女 ★★


オーブランの少女画像

2013年10月
東京創元社刊
(1500円+税)

2016年03月
創元推理文庫化



2014/02/11



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表題作「オーブランの少女」は、第7回ミステリーズ!新人賞佳作に入選した作品とのこと。
美しい庭園オーブラン、その管理人は年老いた姉妹。
その庭園で、片脚がなく車椅子の姉が、まるでゾンビのような老女に斬殺されるという事件が起こります。犯人の老女は直後に衰弱死し、遺された妹も自死して事件の真相は明らかにされないまま。
しかし、自死した妹が遺した手記が全てを明らかにします。そこにはオーブランのおぞましい過去の事実が記されていた。

かつてオーブランの館には、いずれもどこかに病気を持った少女たちが集められ寄宿生として暮していた。美しい庭を持つ館に、大勢の少女たちが共同生活を営むという華やかさ。しかし、館には恐るべき秘密が隠されていた。
表の華やかさと、裏に秘められたおぞましさ、その余りのアンバランスさがかえって読み手の心を強く惹き付ける。ちょっと忘れ難い思いのするミステリです。

本書収録5篇は、必ずしも主人公ではないものの、どの篇も少女あるいは若い娘がストーリィ上重要な存在となっています。
少女といっても皆が皆、純真な訳でも心優しい訳ではなく、むしろ時にはひどく残酷だったりするものです。
ストーリィの時代設定や舞台は自由自在。一時代前だったり、ファンタジー世界であったりと。
そのため本書をひとつのテーマで括ることなど全くできませんが、どの篇からも、一様ではない少女たちの姿が浮かび上がってきます。
最後の
「氷の皇国」はミステリ要素にサスペンス要素も加えたファンタジー世界での物語。余韻の溢れているところに好感。

オーブランの少女/仮面/大雨とトマト/片想い/氷の皇国

          

2.
「戦場のコックたち Armed with Skillets」 ★★☆


戦場のコックたち

2015年08月
東京創元社刊

(1900円+税)



2015/11/17



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ミステリの種類から言うと“日常ミステリ”。
でもその舞台設定が極めて特殊。何しろ日常からかけ離れた戦争の只中なのですから。

主人公は志願して合衆国軍に入隊、第101空挺師団に配属された
ティモシー(ティム)・コール、19歳。
すぐ兵隊に向かないと悟ったティムは、同年代ながら沈着冷静で頭脳明晰な
エドワード(エド)・グリーンバーグに誘われ、管理部付コック、五等特技兵となります。でも子供っぽさが抜けていないと周囲から見られ、付けられた通称は“キッド”
本ストーリィは、ティムやエドら同年代の兵士たちに主眼を置きつつ、
ノルマンディー上陸作戦からドイツ降伏による戦争終結+αまでを描いていきます。
そんな戦地にあっても不思議な事件は起きるというもの。エドをホームズ役、ティムをワトソン役に、仲間内でその謎解きが行われていくという連作日常ミステリ。

<日常ミステリ>&<過酷な戦争現場>&<そうした中での少年ティムの成長>という、3つの趣向から成る長編。
3つの内どれを主にして読むかは、読む人の好みの問題と思いますが、日常ミステリという看板を表にしつつも、背後にある戦場とティムの成長を力強く描いた処に本作品の真価があると思います。

戦争、戦地という現実は厳しいもの。コック兵と言えども戦闘に加わることはありますし、ドイツ軍の反撃により大切な仲間たちや現地で知り合った心優しい人たちを次々と失うという悲しい経験も積み重ねます。それでも純朴さを失わないティムでしたが、特に大切な仲間を失った時にはドイツ軍への容赦ない憎悪をたぎらせます。
しかし最後、思わぬ事実を知った揚げ句、ティムは本来の優しい気持ちを取り戻します。
ドイツ軍は敵、であるならドイツ人は皆敵なのか、彼らの中に人間を認めるのは誤りなのか。
深緑さんの柔らかな文章の中にも、戦争の現場で兵士たちが受ける心の傷は確実に描き出されていきます。

本書でのミステリは次のようなもの。
1.何故未使用のパラシュートが集められているのか?
2.一晩で 600個もの粉末卵(不味いのに)が何故消えたのか?
3.オランダ人のヤンセン夫婦は本当に、何故、自殺したのか?
4.
ディエゴが見たドイツ兵の幽霊、その正体は?
5.
ダンヒルを助けるためティムはどんな仕掛けをしたのか?

読み始めた時はそうでもなかったのですが、読了時には本作品のメッセージ性に強い感銘を受けました。お薦め!

プロローグ/1.ノルマンディー降下作戦/2.軍隊は胃袋で行進する/3.ミソサザイと鷺/4.幽霊たち/5.戦いの終わり/エピローグ

      

3.
「分かれ道ノストラダムス ★★


分かれ道ノストラダムス

2016年09月
双葉社刊

(1500円+税)



2016/10/11



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親しかった友人=が中2で急死してから3回忌。かつての同級生たちが集まったその日、日高あさぎは基の祖母から、基が記していた日記4冊を渡されます。
その不可解な内容に疑問を抱いたあさぎは、それを解明するため高校の同級生=
八女研輔に協力を依頼します。
折しも虎目市では、ノストラダムスが予言した滅亡の日1999年7月 を前にして、新興宗教団体が不穏な動きを見せていた。

まずノストラダムスの予言という題材に、今更だなぁという印象を抱きます。そして基が日記に記していたパラレルワールド、もしかして本書はSF的展開なのか?と思ったのですが、そうはならず。
かつて仲良かった友人たちとの決別、新しい友人との出会い、そしてその彼への疑い・・・。いつしかあさぎは新興宗教団体絡みの騒動に巻き込まれているという結果に。
後半、急テンポの進行と、それと対照的な主人公のノンビリさに苛つかせられる分、かえってストーリィに強く引き込まれていました。でも高校生なのに、こんな展開はアリなのか?

改めて本作品を俯瞰してみると、かつて親しかった仲間たちとの別れと、新しい環境で新しい仲間と出会うという青春&成長ストーリィであったかと得心する思いです。
中学生の頃、今が変わることはないと思い、また変わらないことを願っていたのではなかったか。でもあの頃こそ全てがどんどん変わっていく時期でもあった今は分っています。
そうした中で、信頼するに足る友人を得られたことこそ、幸せだった筈。その意味で、読後の満足感はたっぷりです。

                  

4.
「ベルリンは晴れているか ★★☆


ベルリンは晴れているか

2018年09月
筑摩書房刊

(1900円+税)



2018/10/20



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ドイツ敗戦により、米ソ英仏の連合国統治下に置かれたベルリンが舞台。
ナチス・ドイツの非道な振る舞いにより両親を亡くしたドイツ人少女
アウグステ・ニッケルは、身に着けた英語力のおかげでアメリカ軍の慰安用兵員食堂“フィフティ・スターズ”でウェイトレスとして働き、何とか暮らしている。(※彼女が英語を学ぶ契機となったのがエーミールと探偵たちというのが嬉しい。)

そのアウグステの部屋に夜遅く米軍兵士2人がやってきて、彼女をソ連支配下の警察分署へ連行します。そこで彼女を待っていたのは、ソ連NKDV(内部人民委員部)の
ドブリギン大尉
そこでアウグステは、恩人ともいえる
音楽家クリストフ・ローレンツが歯磨き粉に混ぜられていた青酸カリで死んだことを知らされます。
容疑者は、クリストフの甥
エーリヒ・フォルスト
ドブリギンはアウグステにエーリヒの居所を見つけるよう命じ、一方アウグステはエーリヒに訃報を伝えるために、混乱し治安も乱れたベルリン市内を駆けずり回ります。
そのアウグステの道連れになるのは、元俳優の泥棒
ファイビッシュ・カフカ

毒殺の真相は? エーリヒは果たして犯人なのか? 
そして、アウグステは17歳の少女に過ぎないというのに、何故こんな混乱の中で探索を命じられなくてはならないのか?

本作がミステリであることに間違いはありませんが、本質は、ナチス・ドイツの非道さを改めて世に糺すこと、決して忘れてはならない歴史的事実として、深緑野分さんが小説という形を持って書き継ごうとしたことに他なりません。

実際、本作で描かれるナチス・ドイツの振る舞いは、戦前の日本帝国の姿を彷彿させます。それでも、反ナチの人々への虐待、さらにユダヤの人々に対する非道かつ残虐な振る舞いは、目を覆うばかりです。
ヒットラーが歴史上最悪ともいえるデマゴーグであったことは勿論ですが、今また同種の政治家が現れようとしていることに、深い懸念を抱きます。
人間は、過去の過ちを繰り返す程愚かではない、と信じますが。

須賀しのぶ「また、桜の国でも、本作と並んでお薦めです。

    


   

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