Travel    VOL.9

ドーム Gallery TOPへ  ヒ ロ シ マbP 

       HIROSHIMAbP             

荷物をコインロッカーに入れて 駅前の通りに出た
抜けるような青空がいきなり目を射った
東京では見慣れていない路面電車が列をなしてゆっくりと走っている  その脇をすごい本当にすごい早さでタクシーが走り抜ける 

早朝の新幹線の書類を繰る音やキーを叩く音ばかりの 
まるでオフィスの延長のような 
あのなんとも言いようのない静けさの中で 「コレガ人間ナノデス」で始まる 原 民喜の詩を読んでいた
実はこれを読んで 急に今度の旅を始めた
「この歳まで訪れてないなんて」と……

広島の街の第一印象は「喧噪」だった
 
知らない街ではいつもするように 駅前の市街案内板でおおよその地理感を掴み タクシーに乗った「ドームまで」

夏のような日差しの中に 原爆ドームは静かにあった

本や写真で脳裏に焼き付いていたあの姿 静かに建っていた 周りを鉄柵で囲まれ 
その周りには大きな木が青々と繁ってる むき出しの鉄骨 崩れたままの瓦礫 補強されて保存されたこの建物
あの出来事の象徴は 銅像のような印象をさえ与えている 囲む樹木の大きさに永い経過(とき)をつくづく感じる 
鉄柵越しにシャッターを切りながら何回も廻っていた  ある位置では逆光を またある位置ではポイントライトを浴びて
惨い惨禍の跡のそれ…だのに何時の間にいいアングルを探している自分を責めた

橋(元安橋)を渡って “平和の灯”を目指す この橋の下の川にも悲しい悲惨な過 去が あろうに いまは美しく整備されている
明るい空の下 思ったより控えめにその灯は揺れていた
“安らかに眠って下さい 過ちは 繰り返しませぬから”の碑を覆うように石のアー チ
その向こうに平和の灯 原爆ドームと直線上に……
映像で何度も見ていた光景が 静かに厳粛に目の前にあった
その碑の前にたくさんの制服の高校生が列をなして黙祷をしている
花束を手にした涙目の老夫婦 3人の外国人が英文の説明を読んでいた
若い母親が小さな女の子に静かな口調で話している
その人達を追いやるように 胸に同じバッチを着けた一団が大声で呼び合いながら 記念写真を撮り合い始めた

ファインダーを覗きながら“過ちを繰り返さないよう”我々は何をしてきたか 何が出 来たか
自問しながら黙して頭を下げる

広島平和記念資料館の中は 外の明るさとは対照的にいきなり薄暗い空間だった 周りの壁面に貼られた 
広島の歴史を語ったパネルを見ながら順に進む  古くは日露戦争の際 明治天皇も参加して大本営が設置されたこと
降って当時世界最大の戦艦大和のあった軍港呉や江田島  その他軍需施設が散在した軍都だったこと等が説明されていた

部屋の中央のガラスケースには  その日の8時15分の前と後の市の中心部の模型が展示されている

いつもの真夏の暑い朝 40万の市民が 登校したり 出勤途上だったり 家事の最中だったり 
家庭菜園でせっせと水やりしていたり 子供を公園のブランコであやしていたり…
市民のそんな日常の…… 市街の上空580mで炸裂した一瞬でこの街の形相は一変した
コレガ人間ナノデス 〜〜〜〜〜〜〜〜   〜〜〜〜 人間の顔ナノデス 原 民喜の「夏の花」のパネルをここで読んだ
涙が溢れてあふれて止めどがない メモする手までが震えてしまう
この一遍の詩が全てを語り尽くしているようで 暫く佇んでしまった

長い通路経て 崩れたレンガ塀をくぐって入るような趣向の展示室があった
叩きながら「このレンガ プラスティックだ」と大声の一団の声を背中に聞きながら 右を見ると 
ドーム  クリックして下さい   赤く燃えさかる炎を背に母親と両側に学童の3体の立像
   髪は焼き縮れ 裂けた皮膚は垂れ下がり表情もなく立ちつくす姿が再現されていた      
中沢啓治の《はだしのゲンはピカドンをわすれない》を思い出した
  5千度近い熱風で皮膚は大きな水膨れになり それが裂けてきて
  手の爪や足のかかとで止まり 長い皮膚が垂れ下がる 
 引きずらないように みな幽霊のように歩くさまがその本に書かれていた
この再現像は 顔を背けたくなるような惨状を私の目に焼き付けた


     Click
原爆の中心温度何百万度 地上への照射熱線五千度〜六千度 爆風秒速四百メートル想像を絶する状況 言葉を失った

熱線で沸騰し表面が粒状になった瓦  8時15分で止まってる腕時計 焼け爛れた衣服 ガラスの破片が突き刺さった壁原爆ドーム
人型が黒く焼きついた石ただみ…… 
悲惨な展示物が続く展示ケースの前を時間に追われるように 
急ぎ足で順路表示に従って進む修学旅行生の長い列 
出来るなら できるならもう少し時間をかけて学習できないかな 
そしてここでの体験を生涯の課題として………

時計は4時をまわっていた 広島駅で遅い昼食をとってホテルへ

       
                                   つづく

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           Gallery VOL.14 ひろしまをご参照下さい                                                                   

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