御遊戯結社
トップ
⇒
むーどす島戦記リプレイ ⇒ 「繋いだ手」
←[ 1話前の話へ]
[このページ]
[次の話へ]→
読み切り小説
「繋いだ手」
カミラ&アスカル
(作者:むーむー)
●目次
〇カミラ・マーモの姫君
〇二人の出会い
〇コッツィ
〇あずまやの秘め事
〇セラフィム
〇サキュバスの夢
〇愛の言葉
〇アスカル・責任と決意
〇ライトネス
〇ウェルスガルド
〇舞踏会
〇繋いだ手
ひと月ほど経った後、ブラスのライトネス邸では、リスモア領主の長子アスカルと、
マーモ旧王族のサキュバスの姫カミラの婚約を正式に表明するための舞踏会、
晩餐会が開かれた。
ヴァリスの有力貴族やファリス神殿の重鎮、その他ブラスの商取引の重要人物などが
一堂に会する盛大な会となった。
盛大に集めすぎて参加者の出席の調整などをするのにやや時間がかかったが、
その労苦が報われるかのような顔ぶれが集まっていた。
ライトネス邸はブラスでは別名ライトネス城と呼ばれるほどの豪華さを誇る建物だ。
住人の一部にジャイアントやトロールがいるため、その彼らが訪問・利用しても大丈夫なよう、
建物内の公開スペースのすべてが10mほどの高さの天井となっている。
このような建築手法は大聖堂や城にしか用いられていないため、
ライトネス城の呼び方はあながち間違いではなかった。
そもそも城を作るくらいのつもりで建築したのだ。当たり前といえば当たり前だった。
舞踏会の会場もライトネス邸の中の一室であるが、相応の広さを備えており、
200人程度をもてなすことが可能な、途方もない大きさだった。
舞踏会では本来一曲目の際に、参加者の中で一番高い地位の男性と、
舞踏会の主催者の女主人が踊るものだが、今日の趣旨もあるので特例として
アスカルとカミラが踊ることとなっていた。
なお、今日の主役の一人のカミラはサキュバスの姫君であることが事前に伝えられているため、
その特性から、男性と手を繋げない旨、参加者には伝えられていた。
なので、彼女が踊るのはアスカルのみ。
それ以外は踊らずに挨拶をして回ることが決まっていたのだ。
本来ならカドリールなどから曲が始まるが、そういう事情があったので、
最初の曲は二人で踊るためのワルツが演奏されることとなった。
参加者の中で事情を知らない者は、サキュバスなどの妖魔がヴァリスで暮らすなど
不可能ではないかと噂話をし始めていたが、有力者への根回しなどとうにウェルスガルドは終えていた。
マーモ出身であっても、全てが邪悪な者でない。
そして、妖魔であっても、素養があれば、高潔な神聖魔法が使えることを、
カミラは既に実証してくれていたのだ。
その活動が根回しの際の役に立っていた。
ウェルスガルドはこのひと月の間、精力的にヴァリスの有力者と事前に食事会を済ませ、
事情を根気よく説明して回った。
中には難色を示す者も多かったが、熱意でもって足を運び続けるウェルスガルドに折れる者も多かった。
もちろん、どうしても理解を得られない者もいた。
そういった者へは、今後も時間をかけて、根気よく付き合っていくことになるだろう。
カミラは半年ほど、リスモアやブラスのファリス神殿の慈善事業を通じて、
きちんとした活動を行っており、その際の素行もよく、
特に高位の神聖魔法を使う清らかな優しい女性であることが知れ渡っていた。
その頃は人間だと皆に思われていたので、妖魔だと皆に知らされた後に、
周囲ではちょっとした騒ぎになった。
問題がある場合にはどうするのだ、などの話が当然のように出てきた。
カミラのヴァリス国内での身元や素行の保証と責任については、
リスモアの領主ウェルスガルドと、ブラスの代表者である聖女ライトネスが保証し、
問題があった場合の全責任を二人が取ると言って周囲を黙らせた。
それでも妖魔は邪悪である、と言い続ける者もいたので、ファリス神殿や魔術師ギルドなどが、
邪悪であるかどうか判定を行うこととなった。
その場にはライトネスやウェルスガルドも立ち会っていた。
その結果、一切の邪悪さを認められず、むしろカミラの類まれなる高潔さを認められた。
高位の神聖魔法を無詠唱で平然と使い続けられるのだ。
ファリスの最高司祭ですら邪悪さを認められなかったほどだ。
また魔法使いによる嘘発見やファリスの神官による邪悪判定なども全てクリアした。
人間の女性ですら、ここまで清らかな者はそうそうおらず、清廉すぎて驚かれたくらいだ。
失礼な話である。
そもそも論、邪悪発見器ともいえるライトネスが邪悪でないと言っているのだ。
疑うだけ無駄だった。
また、淫乱なサキュバスに誘惑されたらどうしてくれる、などの失礼な輩も出てきた。
ライトネスは殴りたがったが、ウェルスガルドに止められた。
結婚前の女性に対して、大変失礼な言いがかりであるので、
もしサキュバスの特性として淫らなものと認められなかった場合は、
これを言い出した者全てが全面的に謝罪することを条件に、
こちらもファリス神殿で判定を行うこととなった。
何人かの男が手を触れられるなどして、催淫の状況を確かめられたが、
みな、心が安らかになって穏やかな気持ちになるだけで、
淫らな気持ちになる者など一人もいなかった。
中にはあまりの幸福度に涙する者もいたくらいだ。
また夢も見させた。皆一様に安らかな眠りを得た。
悩んでいたことが全て解決したような者すら現れた。
この頃になると、ライトネスは自分よりもカミラの方が聖女だな、と思っていた。
カミラに誘惑されるなどという戯言を言ったものは全て謝罪をする羽目になった。
その時の謝罪の態度が悪かった者は、数年後に後悔することになる。
ライトネスとウェルスガルドから経済的な報復を徹底的に受けたのだ。
特に、ライトネスよりもウェルスガルドのほうが苛烈だった。
まさに根絶やしだった。
徹底的に痛めつけられ、数年後には屋敷などが無くなってしまったものが多数現れたのだった。
世の中、本当に怒らせてはいけない人間というのは、いるのだ。
舞踏会の準備はばっちりだった。
ライトネスはこの日のために、楽団を用意し徹底的に訓練させた。
食事なども最高のものを出せるよう関係者に協力を請うて最高の食材、料理人を集めた。
会場はもとより、周辺の環境、街道の整備などもきっちり終え、
すべての客が客人施設に宿泊出来るよう大急ぎで拡張させた。
きちんともてなすため、急遽使用人の数を増やし、チェリーに急ぎ教育するように指示した。
カミラとアスカルはダンスの練習をいっぱいして、参加者のリストを暗記出来るまで毎日眺め、
参加者の趣味趣向などの噂を聞いては集め、どのような会話をしなくてはならないか、入念に話し合った。
楽しくて仕方なかった。
そんな事前の調整を終え、ようやく舞踏会当日を迎えたのだった。
舞踏会の曲が始まる前に、主催者であるライトネスがごく簡単に挨拶をする。
そしてライトネスに呼ばれ、アスカルとカミラがそれぞれダンス用の衣装を着て登場する。
アスカルの手に引かれて現れたカミラを見て、参加する者が皆、息を呑んだ。
純白の美しいドレスを身に纏い、柔らかな微笑みを湛えてカミラは現れた。
13歳の少女と聞いていた者は驚きを禁じ得ない。
そこには、絶世の美女、傾国の美女などという言葉が霞むほどの、聖なる美の女神が光臨していたからだ。
嬉しさのあまり抑えることが出来ないカミラの妖力が漏れ出て、薄っすらと光り輝いてしまっている。
誰もが、美しさと、清廉さと、神秘さと、慈しみを感じざるを得ないほど、カミラは神々しかった。
うっとりと見つめる者、ため息をひたすら漏らす者、祈りを捧げる者すらいた。
ウェルスガルドから話を聞いて集まった有力者たちは、何故ウェルスガルドが、
息子の結婚相手として、妖魔にそこまで入れ込むのか、この時ようやく理解した。
これは、確かに王族だ。それもとびきりのだ。
聖女よりも聖女らしい。
いや、聖女などではない。聖なる女神そのものだ。
曲が始まる。
この日のために、ライトネスが作らせた曲は、穏やかで踊りやすいワルツだった。
音楽に合わせ、アスカルにリードされ、カミラが美しく舞う。
天使や妖精を思わせる軽やかな舞。
楽しいとカミラが感じるたびに、彼女の体が光り輝く。
カミラにとって、ずっと憧れだった舞踏会。
練習などしても、使われることなどないと思っていたダンスのステップ。
踊ってくれる者などいないと諦めていたが、今、最愛の人に手を取られて踊っている。
夢のような時間。
人間として振舞わなくて良いと言われ、己の全てを認められ、知らしめられ、
アスカルの側にいて良いという証を得る。
こんな夢を自分が見られるなど、想像も出来なかった。だが、これは現実だ。
自分が与える夢などより、はるかに素晴らしい。覚めることのない夢だ。
これから自分が見てもらう夢は、これと同じくらい、幸せな気分を味わってもらえるよう頑張ろう。
とはいえ、見させるのはアスカルのみだ。
――アスカル……覚悟していてね?
二人のダンスを見る者全てが感動し、音楽を聞く者全てが癒された。
美しい時間が辺りを支配した。
誰もが穏やかな気持ちで踊りを見て、そして、祝福をする気になったのだ。
曲は数分で終わり、アスカルとカミラの踊りは終わる。
彼ら二人があいさつするためにテーブル側に移動するのを見計らい、次の曲がかかり始める。
舞踏会はこれから始まるのだった。
舞踏会で他の者が踊っている間、アスカルとカミラはウェルスガルドやライトネスに連れられ、挨拶回りを行った。
舞踏会が終わると晩餐会が予定されていた。主に有力者を中心として集められた晩餐会だ。
舞踏会での挨拶や、晩餐会での対応などでもアスカルとカミラの評判は上々だった。
特にカミラは、奥ゆかしく、上品で、相手の話を穏やかに聞き、そして相手との会話が弾むように
スムーズに受け答えをし、時折、興味をそそられるところでは相手の心をくすぐる質問をしていた。
あまりに話が楽しくて会話が途切れないため、次の相手になかなかあいさつに行けないくらいだった。
後日、カミラとアスカルの元には、たくさんの舞踏会や晩餐会の招待状や、お茶会のお誘いが舞い込むこととなった。
舞踏会、晩餐会は大成功といって良かった。
ライトネスもウェルスガルドもほっと胸を撫で降ろした。
晩餐会もつつがなく終わり、それぞれが帰途につくか客人施設への宿泊をすることとなった。
今回の舞踏会、晩餐会の主人であるライトネスや、主役であるアスカル、カミラは見送りの挨拶に立っていた。
その時、ちょっとした問題が起こった。
別室で、宿泊予定の有力者たちと懇親をしていたウェルスガルドが過労のため、倒れたのだ。
ここひと月、寝る間も惜しんで根回しに時間を割いていたのだ。無理が祟ったのだった。
それを聞いたカミラは見送りの挨拶も投げ出して、ウェルスガルドの休む部屋へと駆けていく。
「お義父様!大丈夫ですか!」
ソファーに横になっているウェルスガルドの近くにしゃがみ込み、
触れないように気を付けながら、速やかに癒しをかけていく。
カミラの目は必死だった。
ウェルスガルドは横になっていたところから起き上がり、カミラを安心させるように言う。
「大事ない…。癒しをありがとう…」
カミラはしばらく心配そうにウェルスガルドを見ていたが、問題無さそうだったので安心した顔をする。
ほどなくして、何かを思い至ったのか、俯いてしまった。
「……どうした?」
「……すみません……。出過ぎた呼び方を、してしまいました……」
ウェルスガルドは、彼女が何を気に病んでるのか、すぐに理解した。
墓で自分が言ったことをまだ気にしているのだ、と。
――この期に及んで……。そんなことを気にさせてしまっていたのか。我ながら不甲斐ない。
そして、世話の焼ける、可愛い義娘だ……。
「カミラ……。その呼び方で、良い……」
カミラはウェルスガルドを見上げる。初めて、名前で呼ばれたのだ。
「お前の父には遠いだろうが、これからは実の親と思って頼るが良い……」
「はい……お義父さま……」
カミラは涙でくしゃくしゃの顔になっている。
「アスカルの隣は、お前に任せる……。やりたいようにさせてやってくれ……。頼んだぞ?」
「はい……!必ず……!」
それを、扉の向こうで聞いていたライトネスは、静かにそこを後にした。
――アスカル一人で挨拶させたままではいけないわね。頑張るか!
ライトネスは晴れやかな笑顔をしながら、急いで弟の元に戻るのだった。
←[ 1話前の話へ]
[このページ]
[次の話へ]→
●本コンテンツについて
・本コンテンツは同好者の間で楽しむために作られた非公式リプレイ内のショートストーリーです。
・個人の趣味で行っておりますので、のんびり製作しております。気長にお待ちいただきながらお楽しみください。
・原作の設定とは無関係の設定が出て来たりしております。あくまでこちらのコンテンツは別次元のお話と思ってください。
・本コンテンツの制作にあたり、原作者様、出版社様とは一切関係がございません。
・TRPGを行うにあたり、皆が一様に分かる世界観、共通認識を生んでくださった原作者様と、
楽しいゲームシステムを販売してくださった関係者の方々に、深く感謝申し上げます。
●本コンテンツの著作権等について
・本コンテンツのリプレイ・ショートストーリーの著作権はむーむー/むーどす島戦記TRPG会にあります。
・本コンテンツのキャラクターイラスト、一部のモンスターイラスト、サイトイメージイラスト等の著作権は、
むーむー/マーコットPさん/アールグレイさんにあります。
・その他、原作、世界観、製作用素材については以下の権利者のものとなります。
●使用素材について
・本コンテンツは以下の製作者、原作者、製作素材等の著作物を使用して製作されています。
【プレイヤー】
・トゥナ・P
・マーコットP
・ヤトリシノP
・むーむー(GM)
【挿絵・イラスト】
・マーコットP
・むーむー
【キャラクター(エモーション・表情差分)】
・マーコットP
・むーむー
【使用ルール・世界観】
・ロードス島戦記
(C)KADOKAWA CORPORATION
(C)水野良・グループSNE
・ロードス島戦記コンパニオン①~③
原案:安田均、水野良、著者:高山浩とグループSNE
出版社:角川書店
【Web製作ツール】
・ホームページデザイナー22
(ジャストシステム)
【シナリオ・脚本】
【リプレイ製作】
・むーむー
【ショートストーリー・小説製作】
・トゥナ・P
・マーコットP
・ヤトリシノP
・むーむー
(むーどす島戦記TRPG会)
【製作】
・むーむー/むーどす島戦記TRPG会