御遊戯結社
トップ
⇒
むーどす島戦記リプレイ ⇒ 「繋いだ手」
←[ 1話前の話へ]
[このページ]
[次の話へ]→
読み切り小説
「繋いだ手」
カミラ&アスカル
(作者:むーむー)
●目次
〇カミラ・マーモの姫君
〇二人の出会い
〇コッツィ
〇あずまやの秘め事
〇セラフィム
〇サキュバスの夢
〇愛の言葉
〇アスカル・責任と決意
〇ライトネス
〇ウェルスガルド
〇舞踏会
〇繋いだ手
翌日の朝。
カミラを起こす声が聞こえてきた。
カミラはぼんやりする頭でその声の主を考える。
セラフィムの顔がちらついた。
ぎょっ!っとして飛び起きる。体中が強ばってるように痛い。
アスカルは!?と思ってすぐ隣を見ると、すぴーっと静かに寝息を立てていた。
お互いぴったりと寄り添うようにくっついて寝ていたのだ。
もうちょっと年頃の男女だったなら、ねんごろになっている、と思われても仕方ない状況だった。
服はズタボロになっているが、怪我は一切無いようだ。
アスカルの服にも床にも何故か血の跡が残っていない。
アスカルにしっかりと手をつながれている。ちょっと安心する。
寝顔が可愛いな、なんて思いながら数秒見つめてしまう。
「ふふふ……可愛い……w」
こほん。と咳ばらいをする音が聞こえた。
カミラは恐る恐る、見上げる。
セラフィムの笑顔が見えた。
カミラはすくみ上るほど恐怖した。
こういう笑顔が一番怖い。
寝室にはセラフィムやコッツィとともに他のメイド達もいるようだった。
言い逃れのしようがないくらい、ばっちり二人で寝ているところを見られてしまっている……。
「あ、あのですね……」
「カミラ? 説明して?」
穏やかな口調ではあったが、逆らえない力があった。
セラフィムからは謹慎を言い渡されている身だ。警告も受けていた。
――調子に乗っているのを見かけるようであれば、
お前が手を出す男は全て、一人残らず、私が虜にして、壊して、捨ててやる。
あれは本気の言葉だった。
セラフィムは言ったことは行うだろう。
そして出来てしまうのは明白だった。
この状況はどう足掻いても、調子に乗っていると見做されてしまうだろう。
このままではアスカルが壊されてしまう。
自分はアスカルを多少虜にすることは出来ても、壊すなんてことは出来ないダメなサキュバスだったが、
セラフィムは違う。
幼い子だろうが容赦なく狂わされて、おかしくされてしまうだろう。
その後ごみのように捨てられるのだ。
アスカルは自分の被害者なのだ。
このままでは可哀そうすぎる。
自分が罰を受けるのは良い。
自分が浅はかなせいで招いた結果だ。
だが、アスカルだけは許して欲しかった。
正直に話しても、信じてもらえるか分からなかったが、嘘偽りなく話して許しを請おう。
身代わりとして自分を狂わせてもらうことで、手を打ってもらえないか、すがり付いてでも頼もう……。
カミラは、昨日アスカルが来てから部屋に招き入れたまでのことをセラフィムに包み隠さず話した。
許しを請おうかと、言葉を続けようとしたら、遮られた。
「カミラ?」
「……はい」
「今の話だと、この子がこの地に侵入してきてしまった。
その際、傷だらけになった。
警備の兵士たちに見つかれば殺されると思ったので、致し方なく傷付いたこの子を家に招き入れ、匿った?」
「その通りです……」
「服は確かに傷がいっぱい付いていても良さそうなくらいぼろぼろだけども、どこに傷があるのかしらね?」
「あの、傷は治してしまいました……」
「どうやって?」
「信じてもらえないかもしれないですけど……癒しの力が使えるようになったんです……」
「……ふぅん。まぁそれは良いとしましょう……。
ひとつ確認させて頂戴……。
この屋敷に入ってきて彼が無理やり襲ったのかしら?
それともあなたが誘い入れて、色仕掛けをしたり、襲いかかったりしたのかしら?」
「え……? 襲うとか誘うとか、そういうことは何もありません……本当です……」
「……手を握りあって、抱き合って、仲良く疲れ果てて寝ているところを見ている大人としては、
素直に、はい、そうですか、とは、言えないわねぇ?」
「本当なんです……。
アスカルの傷を治した後、私は力を止めることが出来ずに、そのまま気を失って……。
あとは何も覚えていないんです……」
「……信じろと……?」
「本当なんです……信じてください……」
「もう一度、確認するけども……。彼が、勝手に、入り込んできた…のよね?」
「いえ、家に招き入れたのは私が勝手にしてしまいました。
アスカルは悪くない……悪くないんです」
セラフィムはアテが外れて困ったような顔をする。
「……じゃぁ、前もって約束をして、屋敷にあなたがご招待したのかしら?」
「それは……していません」
「……この敷地内に勝手に入るのは危ないと知ってて、それでも侵入してきたのよね……?」
「危険を承知で、それでも自分の意志で来たって、言っていました……」
「そう……。分かったわ。それが聞ければ、十分よ……」
セラフィムはほっとしたような顔でにこやかになる。
カミラとしてはその笑顔が恐ろしくて固まってしまう。
その後、セラフィムはコッツィを見る。
コッツィはセラフィムに頷いていた。
「カミラ。立って頂戴……」
……何か、恐ろしいことを言われる気がしてならなかったが、命令だ。
立つしかない……。
もし、アスカルに死を言い渡されるなら、自分も後を追おう。そう決めた。
握られたアスカルの手をゆるゆると剥がした。
そして、のろのろと立ち上がる。
既に目は潤んでいる。
俯きながら、セラフィムの裁きを待つ。
セラフィムがカミラの前で跪き、言葉を発する。
「カミラ様。ここひと月のご無礼、申し訳がございません。
臣下にあらざる目に余る反逆の数々。万死に値すると承知しております。
この後、お手を煩わすことなく、自ら醜き姿を人前に晒し浅ましく死ぬ所存です。
どうか、この罪の裁きは、わたくし目だけに留めていただき、
他の者には寛大なお心でお赦しをいただきますよう、最期のお願いでございます……」
カミラは何を言われてるか、分からなかった。
「あの……セラフィム様……」
「カミラ様……僭越ながら申し上げます。
わたくし目にそのような呼び方をなさらないでください。
他の者に示しがつかなくなると存じます……」
訳が分からない……。
思わずコッツィを見てしまう。
仕方ないので、コッツィが助け舟を出す。
「セラフィム様……多分、カミラ様は何も分かってないと思いますよ……」
セラフィムは周りを見る。
みんなコッツィと同じような反応だ。
セラフィムは微妙な顔をしてから、一旦立ち上がる。
「ちょっと、お前たちは目と耳を塞いでおきなさい」
メイド達は大人しく従う。
コッツィは従わなかった。
セラフィムはコッツィを咎めるようにみるが、コッツィはどこ吹く風だ。
仕方なくセラフィムはカミラに向き直ると、先ほどとはだいぶ違う態度で話し始める。
「かいつまんで話すわよ?
あなたは、昨日、大人になったの。
分かっているのかと思っていたけどそうでは無かったのね?」
「大人に……?」
「そう。先ほどの話からすると、癒しを行ったと言っていたそれが、大人になった時だったのでしょうね」
「やましいことはほんとに……していないんです……」
「そうじゃないのよ、カミラ。
あなたは夢を見させたの。それも飛び切り凄い夢を。
この付近のあまねく全ての者にね。
……誰一人逆らえなかったわ」
「あ……夢……ですか……」
「その夢はまるで全てを癒すような安らかな夢だった。
甘美な眠りで経験したことも無いものだった。
私ですら、抗うことも出来ず、他の者に起こしてもらうまで起きることも出来なかった。
この私が完敗よ?
……私はあなたを愚弄した。
夢を見させることなど出来ないなどと、女王であるあなたを蔑んだ。
さらにあなたに罰と称して、肉体的に痛めつけ、家畜などと呼んで非道な扱いをした。
してはいけないことをした自覚はあるわ。
カルスとのことを言われて激高し、あなたに酷い仕打ちをしてしまった。
もはや臣下でも何でもない。
罰せられなくてはならない。
だから死ぬことにした……」
「そんな……!」
「後のことはコッツィに任せる。あなたは裁きを下すだけで良い。
分かったわね?」
「……いやです」
「これをあなたが許してはいけないのよ。だから」
「いやです!」
「カミラ、ちょっと……」
セラフィムが崩れ落ちる。
あっという間にとろんとした顔で、すっかり穏やかな気持ちにされてしまう。
あの王者の風格すら漂わせていたセラフィムが一瞬だった。
カミラはセラフィムを抱きしめる。
セラフィムは、圧倒的な力で癒されすぎておかしくなりそうだった。
「死ぬとか、そんなのは許さない……。
私の力は、こういうことにしか使えないのだったら、
そんなこと考えられないように、徹底的に癒すからね!」
とんでもない拷問だ。
セラフィムは浄化されそうになるくらい、色んな考えが吹き飛ばされて、
赤子のような笑みを湛えて、抱かれている。
何を悩んでいたのか、何を決意したのか、何を苦しんでいたのか、さっぱり分からなくされてしまった。
その後、あっさりと、言うなりにされてしまう。
カミラの赦しもなく死ぬとか絶対にしないこと、周りの目など気にしないこと。
これに逆らったら、何度でもいつまでも、癒しを受け入れさせると言われた。
セラフィムは全く逆らえずに、心の底から服従させられ、約束をさせられてしまった。
心の奥まで溶かされて、甘やかされ、あのセラフィムが良い子になっていた。
カミラは自分の力の使い方がようやく分かってきた。
今までアスカルがとろんとしていたのは、こういうことだったのだ。
邪な思いを抱かせられず、女としての魅力が無いのかと焦ってしまっていたが、そうじゃなかったのだ。
でも……それはそれで困る気もする……。
女としても見てもらいたい。
ちゃんと誘惑もしたいのだ。
カミラはセラフィムにそういったことも教えるように命令する。
言われてるセラフィムからしたら、命令されてるというよりは、可愛く甘えられ、
おねだりされてるようにしか聞こえない。
そんなお願いはいくらでも聞いてあげたくなっていた。
「もちろんよ……何でも隠さず教えるわ……過保護過ぎたとは思っていたのよ……?」
「ほんとに?」
「ええ、夢の見せ方だって、男の扱い方だって、全部、何でも、優しく教えてあげる……」
「嬉しい……あともう一つ、お願いがあるの……」
「何でも、聞くわよ……?」
「また……セラフィム従姉様って、呼んでも良い……?」
「そう言ってもらえるなんて、夢にも思っていなかったわ……。泣いちゃいそうだわ……」
セラフィムは既に泣いていた。
「セラフィム従姉様……生意気な態度で、あんなに酷いことを言ってごめんなさい……。
好きな人をあんな風に言われたら私でも怒る。
だから、このひと月の罰は私にとって必要なものだったと思います……。
もう二度と、あんなことはしません。
だから、今まで通り、一緒に側にいて欲しい……」
「分かったわ……。あなたが許してくれるなら、今まで通り……ね?」
二人で抱き合いながら、赦し合う。
やっと元に戻れた。
お互い辛かった時間はようやく過ぎ去ったのだ。
それを見ていたコッツィが、二人に近づく。
「良い雰囲気のところ大変申し訳無いんですけどね? 時間ですよ? どうします?
……あたしじゃない方が良い気がするんですけど」
セラフィムはそれを聞いて、名残惜しそうにカミラから離れる。
客人と会合する時間のことをコッツィは言っているのだ。
元々自死するつもりだったセラフィムは会うつもりは無く、コッツィに任せるという話になっていた。
だが、どうやらコッツィはその役をやりたくないらしい。
生きていて良い、ということなら、確かにこれは、セラフィムがやるべき仕事だった。
「ほんとに、空気読めない子ね……」
「まぁ、事実なんで?」
「……その物の言い方。…また虐めて欲しいのかしらね?」
「あたしは、カミラ様のしもべなので。
あたしに手を出したら、カミラ様にチクりますよ?w」
あかんべー、とコッツィが舌を出す。
セラフィム相手に命知らずも良いところだ……。
セラフィムの空気が少し変わって、何だか険悪な雰囲気が二人の漂いそうになった時、
セラフィムとコッツィは突然お腹を抱えて笑い出す。
くすぐったくてしょうがないような感じだ。
「わ、何これ。きっつ!www」
「ちょっとカミラ!やめて頂戴www」
「私の前で、喧嘩しないで……」
その後、数分ほど、二人が謝るまで、お腹がよじれて笑い死にするかと思うほど悶絶させたあと、
カミラはようやく二人を解放した。
「だ……から……時間だっての……、待たせちゃって……ます……よ」
「分かってるわよ……ほんとこれ、きついわね……。
状況が変わったので……、そちらは私が対応します。
こちらはあなたに頼むわ」
「かしこまり、ました……」
セラフィムは急いで衣服を整えると、部屋から出ていこうとする。
振り返り様、こう言った。
「さて、大人の問題は解決しておくので、子供同士の問題は自分たちで何とかなさい?
そんなことも解決出来ないんじゃ、どんなに凄い夢を見させても、子供と見なしますからね?」
「……セラフィム従妹様……?」
「ま、だいぶ狸だと思うので、しっかり手綱は握りなさいね?w」
セラフィムはこれからリスモアの領主と会談をする。
急いで会談場所に向かわなくてはならない。
色々大人の事情があるらしい。
セラフィムが出ていった後、今度はコッツィがメイドを連れて部屋を出ていこうとする。
「さぁて。あとは若いもんに任せて、あたしたちは、仕事戻るよー。
お客さん対応に人も割かれるんで、分担して頑張ろー!」
「……コッツィまで……?」
メイド達を追い立てるように部屋から出していく。
コッツィは扉を閉める時こういった。
「ごゆっくりーw 狸によろしくw」
部屋にはカミラと寝ているアスカルだけが取り残された。
アスカルはくーっと寝ている。
何だか、起きてから、話が一気に進んだので、カミラはちょっと戸惑っていた。
だが、ゆっくり考えると、だいぶ良い状態になったような気がする。
セラフィム従姉様に許してもらえた。
自分の能力の使い方も分かってきた。
これからはきちんとした夢の見せ方や魅力の出し方なども教えてもらえる。
これでおかしなことには,そうそうならなくなるだろう。
おかしかったのは自分だったのだ。
そのせいで招いた問題は、今日、何とか元に戻った気がする。
あとは、アスカルだ。
自分がやってはいけない誘惑をしたせいで、アスカルには迷惑をかけた。
この後どうしたら良いのだろう……。
じっとアスカルを見つめる。
赦しを請うて無かったことにするか。
所詮はサキュバスと人間……。
しかも相手はヴァリスの有力貴族。
妖魔など認められない国柄だ。
ブラスは特別なだけであって、リスモアではサキュバスなど認められない。
結ばれることなど無いのだ。
諦めよう。
私ではアスカルを幸せに出来ない。
アスカルなら、数年もたてば若くて可愛い妻も娶れるだろう。
5つも年上の、それも後ろ盾も無い妖魔の女など、アスカルの未来にとって邪魔な存在なのだ。
嫌われるようにしよう。
それが一番、良い道なんだ。
サキュバスの妖力で無理やり好きにさせただけだ。
お前など端から精気をすするための餌だったと言おう。
事実、いっぱい吸い取った。
そのために自分が狂ってしまった。
途中から薄っすらと思ってはいたのだ。
自分が愛してしまっていると。
そう思う度に、心に蓋をしていた。
これは餌。餌だ。餌なんだと。
心の中でカミラは何度もそう言い聞かせる。
だが、体は、じりじりとアスカルに近づいていく。
手が握れそうな位置まで寄る。
彼を起こして、嫌われることを言おう。
彼の幸せのために。
……だが、今は寝ている。
今だけ……、今このひとときだけは……。
せめて一言だけでも……。
「好きよ……。愛してるわ……アスカル……。今まで、良い夢をありがとう……」
涙が出てしまう。
ずっと言いたかったけど、素直になれず言えなかった想い。
アスカルにも好きと言って欲しかった。
それを聞きたいあまり、ムキになって自分が狂ってしまった。
なんて馬鹿なんだろう……。
さぁ、泣くのは止めよう。
自分は癒せる存在なのだ。
自分を癒して忘れよう。
そして、アスカルにちゃんと嫌われよう。
その決意を固めようとした時、アスカルがぱちくり、と目を開ける。
カミラはびっくりしすぎて、固まってしまう。
アスカルと目が合う……。
「おはようございます……w」
「……お、おはよう……。……今、起きたんだよね……?」
「目をつぶっていただけですよ……?w」
「……いつから、起きていたの?」
「……ふふふ、可愛い、辺りからでしょうかね……?」
カミラは記憶をたどる……。
「……私が起きた側からじゃない!」
「そのもっと前から起きてましたよ?」
「何で起こしてくれないの!?」
「寝顔があまりにも、可愛かったもので……w」
「……生意気よ!」
カミラが起きて以降、ほとんど全ての会話を聞かれてしまっていたことになる。
自分はどんなことを言ったのか、と思い出していこうとしたが、
それよりも何よりも、一番最後のものが、
一番決定的なものが、ばっちり聞かれてしまっている。
「さて……。賭けは、僕の勝ち、ですね?w」
「何の話よ!?」
「僕が好きって言ったら僕の負け。
カミラさんが好きって言ったらカミラさんの負け。
賭けのご褒美は、好きって言った方が何でも一つ言うこと聞く、でしたよね?w」
思い出してしまった。
正直に言えば、この賭けのせいで、自分はだいぶおかしくなってしまった気がする。
いや……それはちょっと違うかもしれない。
その前からおかしかったかな……。
でもでも、好きと言ってくれないから、ムキになって精気を吸ったのだ。
それで沢山精気を吸えてしまったから、だいぶ調子に乗ってしまったのだ。
やっぱりこの賭けはあんまり良くなかった!
「……何よ。そんな賭けなんて、全然面白くないよ……」
「僕には、大事なことだったんです……」
「そんなに、賭け事が楽しいの? 勝てて良かったわね!」
「はい。勝てないと、ダメだったんです」
「へぇー! ……で? 褒美の望みは何なの……?!
言えば良いじゃない……!」
カミラはだいぶむくれてしまった。
結局、好きと言ってくれなかったのだ。
賭け事のためだけだったのだ。
遊んでいたんだ。
そうだ。アスカルは自分のこと、好きなんかじゃなかったんだ。
だから誘惑なんかも、全く意味が無かったんだ。
なんだ……。そうだったんだ……。
むくれていたはずが、物凄く惨めな気分になってきた。
しょんぼり項垂れてしまう。
「では、これからは、カミラって呼びます」
「ちょっと……?」
承認を求めるでなく、決定で言われた。
カミラが生意気だ、と言おうとしたら、その顔を優しくアスカルの両手が包む。
そのままじっと見つめられる。
「カミラ……、好きです……。愛しているんです……。結婚してください……」
「……」
両手で優しく包まれて見つめられただけで、ささくれていた心が癒された。
カミラ、と言われただけで、ドキドキしてしまった。
好きです、の一言だけで、気を失うかと思うくらい嬉しくなった。
愛してます、と追い打ちをされて、何でも言うことを聞く気になってしまった。
結婚してください、と言われて涙が出てしまった。
応える言葉が口に出せず、ひたすら、涙しか出てこなかった。
「ずっと、背伸びをしていました。あなたに届くように。
僕はまだ子供です。あなたの隣に居られるような男に早くなりたかった。
今でもそうです。
すぐには無理だと分かっていても、追い付きたくて、しょうがなかったんです」
「……アスカル……」
「ずっと好きと言いたかった……。
でも言うなら釣り合うようになるか、あなたに好きと言ってもらえるような
男になってからじゃないとと、ずっと思っていました。
……僕には、大事なことだったんです……」
「……私だって、ずっと言いたかったよ……」
「ずっと見上げてる存在だったんです。
ずっとカミラって、隣で肩を並べているように呼びたかった……。
ダメですか……?」
「……良いよ、そう呼んで欲しい……。
求婚してくれて嬉しい……愛してる……」
そっと優しく口付けを交わす。
アスカルはそれだけで、気を失いそうになる。
カミラが支えていないと立っていられない。
でも、いつか、アスカルは耐えて見せるようになるだろう。
愛する女性に並び立ち、見上げるのでなく、共に見つめ合う仲になれるよう、
努力を惜しまないはずだから。
しばらくの間、何度も口付けを交わし、その度にアスカルが呆けるのを繰り返し、
だいぶ時間が過ぎてしまっていた。
このままだと、ずっと離れられなくなるので、ちょっと距離をとって話す。
「ねぇ……アスカル?」
「何でしょう?」
「アスカルも、好きって言ってくれたよね……?」
「ええ……やっと言えるようになりました」
「一つ気になってることがあって……。
その場合のご褒美……私の望みは聞いてもらえるの……?」
「え……?」
アスカルはカミラとの賭けの内容を思い出す。
――僕が好きって言ったら僕の負け。
カミラさんが好きって言ったらカミラさんの負け。
賭けのご褒美は、好きって言った方が何でも一つ言うこと聞く。
よくよく思い出してみると、先に言った方がとか、勝った方だけとか、
そういう条件にはなっていない……。
アスカルは勝った方だけがご褒美というつもりで言ったのだが、
この文言だと好きと言ったらそれぞれが望みを叶えないとならない。
「あははは!!w カミラ、こういうのに気付くのは凄い!!w
商才有りますよ?!w」
「ねぇ? それ、褒めてる……?」
「もちろんですよ?w
僕のお嫁さんになる人は、そういう人じゃないと無理ですからねw
やっぱりカミラで大正解だったなぁw」
「もうちょっと良い褒め方して欲しいなぁ……」
「まぁ、それは、追々で……w
で、お望みは、何でしょう? 何でも聞きますよw」
カミラは少し考える。
ずっと無理だと諦めていたこと。
そうなったら良いなと思って夢見ていたこと。
今なら、ちゃんと相手もいる。
言うなら今しかないかもしれない。
「……舞踏会に、出てみたい」
「それで良いんですか? お安い御用ですよ?」
「……私はサキュバスだから、他人とは手を繋げない……。
だから、ずっと手を繋いでいてくれる……?」
「元よりそのつもりです。
この手は僕だけのものですよ?
誰にも、触れさせません……」
アスカルはカミラの手を取る。
二人でダンスの真似事をちょっとする。
カミラは夢のような気持ちになった。
カミラの手を取っていても、アスカルならカミラの妖力に耐えてくれる。
カミラとダンスを踊れるのはアスカルしかいないだろう。
カミラは思う。この子と手を繋ぎながら、一緒に幸せを作り上げていこうと。
アスカルは思う。この人の手を取りながら、ともに笑いあって生きていこうと。
二人は来るべき舞踏会の日を楽しみにするのだった。
←[ 1話前の話へ]
[このページ]
[次の話へ]→
●本コンテンツについて
・本コンテンツは同好者の間で楽しむために作られた非公式リプレイ内のショートストーリーです。
・個人の趣味で行っておりますので、のんびり製作しております。気長にお待ちいただきながらお楽しみください。
・原作の設定とは無関係の設定が出て来たりしております。あくまでこちらのコンテンツは別次元のお話と思ってください。
・本コンテンツの制作にあたり、原作者様、出版社様とは一切関係がございません。
・TRPGを行うにあたり、皆が一様に分かる世界観、共通認識を生んでくださった原作者様と、
楽しいゲームシステムを販売してくださった関係者の方々に、深く感謝申し上げます。
●本コンテンツの著作権等について
・本コンテンツのリプレイ・ショートストーリーの著作権はむーむー/むーどす島戦記TRPG会にあります。
・本コンテンツのキャラクターイラスト、一部のモンスターイラスト、サイトイメージイラスト等の著作権は、
むーむー/マーコットPさん/アールグレイさんにあります。
・その他、原作、世界観、製作用素材については以下の権利者のものとなります。
●使用素材について
・本コンテンツは以下の製作者、原作者、製作素材等の著作物を使用して製作されています。
【プレイヤー】
・トゥナ・P
・マーコットP
・ヤトリシノP
・むーむー(GM)
【挿絵・イラスト】
・マーコットP
・むーむー
【キャラクター(エモーション・表情差分)】
・マーコットP
・むーむー
【使用ルール・世界観】
・ロードス島戦記
(C)KADOKAWA CORPORATION
(C)水野良・グループSNE
・ロードス島戦記コンパニオン①~③
原案:安田均、水野良、著者:高山浩とグループSNE
出版社:角川書店
【Web製作ツール】
・ホームページデザイナー22
(ジャストシステム)
【シナリオ・脚本】
【リプレイ製作】
・むーむー
【ショートストーリー・小説製作】
・トゥナ・P
・マーコットP
・ヤトリシノP
・むーむー
(むーどす島戦記TRPG会)
【製作】
・むーむー/むーどす島戦記TRPG会