御遊戯結社

トップ  ⇒ むーどす島戦記リプレイ  ⇒ 「繋いだ手」

←[ 1話前の話へ] [このページ]  [次の話へ]→


読み切り小説
「繋いだ手」
カミラ&アスカル
(作者:むーむー)

●目次

〇カミラ・マーモの姫君
〇二人の出会い
〇コッツィ
〇あずまやの秘め事
〇セラフィム
〇サキュバスの夢
〇愛の言葉
〇アスカル・責任と決意
〇ライトネス
〇ウェルスガルド
〇舞踏会
〇繋いだ手

〇セラフィム

その翌日。
カミラ邸にセラフィムが訪れた。
セラフィムはラーダ神殿で暮らしているので、普段はここにはいない。
メイド達が止めるのも聞かず、ずんずんと乗り込んできて、カミラの執務室に入り込んできた。
相当怒っているようだった。

「カミラ。話があるわ」
「セラフィム従姉様、どうしたんですか……?」
「カミラ…言いつけに背いて、男の精気をすすっているそうね?」
「!」

カミラはびっくりしてコッツィの姿を探してしまう。
が、数人いるメイドの中に普段ならいるコッツィが今日はいない。
この話を知っているのはコッツィしかいない。
告げ口したのか…。

「半人前のくせに、何を考えてるの?反省なさい」
「……いやです」
「……聞こえなかったわ?反省をしろと言っているのよ?」
「……いやです。と言いました」
「……」
「半人前? 当たり前じゃないですか。
 精気のすすり方を教えてもらっていません。
 男に夢を見させる方法だって教えてくれなかったじゃないですか。
 それをしなければ一人前と認められないのに……。
 それで半人前だと罵るんですか? 酷過ぎるわ」
「誰に向かって口を聞いているの?」
「セラフィム。あなたにです」
「……だいぶ。生意気になったわね?
 お仕置きが必要かしらね」

カミラとセラフィムの視線がぶつかり合い火花が散る。
セラフィムが妖力の圧力をかけてくる。
カミラはそれを軽くいなす。

数か月前の自分なら、間違いなく押し潰されていた。
だがどうだ。今は余裕でいなせるのだ。
やはり精気を吸う、というのはサキュバスの力なのだ。
昨日相当量吸っている。何でも出来そうだ。
セラフィムは私にこれを教えないで、弱いままでいさせたかったのだろうか?
なんだ、そういうことか。
なんて姑息なんだろう。
カミラの中で、セラフィムを蔑む気持ちが生まれてきた。
ついつい、その気持ちが言葉になってしまう。

「……お仕置きなら、あなたの方がしてもらってるでしょう?」
「……カミラ?何を言っているの?」
「聞けば、人間の神官にすっかり骨抜きにされて、しもべのようになってるそうですね?
 どれだけその人間が凄いのかしら。
 だいぶお仕置きされてしまったの?
 サキュバスがしもべなど、聞いて呆れるわ……」

セラフィムの顔から表情が消える。
カミラはその表情を見て、してやったりと思っていた。
相手のプライドを傷つけてやったと思っていた。
サキュバスの力は女の魅力、プライドだ。
そこの自信で力がみなぎるのだ。
プライドが傷つけば力も減る。
だいぶがっつりとプライドを削ったはずだと思い込んでいた。
ましてや自分はサキュバスの女王だ。
そもそも力さえ得てしまえば、セラフィムなど恐れるに足りない。
現に対抗出来ているじゃないかと、鼻でせせら笑っていた。
天狗になり過ぎていて、もはや今までのカミラとは別人のようになってしまっていた。
目覚めた自分に敵う者などいない、などと思っていたのだ。

が、その余裕はこの瞬間までだった。

その途端、カミラには何が起こったのか分からない力で、強烈にねじ伏せられた。
床に叩きつけられそうになるのをカミラは必死で堪えた。
立っているだけで精いっぱいだった。
セラフィムは先ほど立っていた位置から一歩も動いていない。
カミラが苦しんでいるのを、涼しい顔で笑いながら見ている。
セラフィムは妖力だけでカミラを圧倒して見せたのだ。

「生意気にも、ほどがあるわね?
 一瞬殺そうかと思ったけど、赦してあげたわ?
 感謝して?」

カミラは言葉さえ発することが出来ない。
睨みつけようとしたが、それすらも許されない。
セラフィムは妖力を細かく調整して、いたぶる様にカミラを苦しめているのだ。
この圧倒的な力を完璧にコントロールするのは難しいはずなのに、笑っている余裕すらある。
まさにサキュバスの中のサキュバス。
王者の風格すら漂わせているのだ。

「お前如きが私に勝てるとでも思っているの?
 教えられていない?
 本能で出来ないのかしらね?
 男一人、夢を見させることもろくに出来ない無能……。
 たかだか一人、子供から精気をすするのに、体を使って吸い取るのがやっとの貧弱さ……」

カミラは妖力の渦に抗えず膝を付く。
サキュバスの女王であるカミラが、あっさりとだ。

「今まで、面倒を見てやった恩も忘れ、生意気なことだけは一人前……。
 あまつさえ、私と最愛の人の仲を愚弄する、愚かさと罪深さ。
 生きてる価値も無い……。
 今すぐ、八つ裂きにして、殺しても良いのよ?」

膝をついていたカミラだったが、それすらも無理になってきた。
妖力によって頭を押さえつけられるように押し込まれ、床に頭がこすりつけられる。
息をすることも出来ず、薄っすら涙が出てしまっている。
さっきまであった反抗心やプライドなどはとうに消し飛んでいた。

「命乞いの声も聞こえてこないわね?
 声すら出すことも出来ない小物……。
 お前、本当に女王なの?
 期待していた私が馬鹿だったようね?」

カミラの体が完全に床に押し潰されるようになっていた。
その上でさらに上から圧力がかかる。
妖力だけで押し潰して殺す気かもしれない。
必死にセラフィムを見ようとするが、目も開けていられなくなってきた。

不意に妖力が無くなる。
カミラはようやく息ができた。
必死に呼吸をする。

「何も言えないんじゃつまらないから、手加減をしてあげるわ?
 命乞いから聞いてあげようかしら?」

カミラはセラフィムをおずおずと見た。
笑顔なのに強烈な殺気だった。
命乞いをしなければ、多分殺される。

「……許して……ください……」
「いやよ?w」

また数分、妖力でいたぶられる。
息が出来ずに死ぬ直前を見極めて、妖力を緩める。
またカミラに命乞いをさせては、いたぶる。
何度も何度も繰り返された。

カミラのプライドはズタズタに引き裂かれていた。
女王のプライドなど残ってもいなかった。
逆らうなどという、いかに愚かなことをしたのか、
恐怖と後悔と懺悔の念を体に叩き込まれてしまった。

「ようやく、自分が浅はかな家畜以下の存在だということが分かったようね?」
「……お赦しください……セラフィム様……」

カミラは床に這いつくばり、泣きながら、命乞いをする。
セラフィムは、そろそろ飽きたという態度だった。
もうカミラに興味も用も無いようだった。

「ま、私に勝てる、だなんていう、妄想は面白かったわ?
 普通に勝つことは永久に無理でしょうから?
 私に夢でも見させたら、負けを認めてあげても良いわよ?
 家畜の言うことでも、願いを聞き届けてあげるわよ?w
 出来る訳無いでしょうけど……w」

嘲笑されていた。
だが、言う通りだった。
普通の人間に夢を見させることすら出来ていないのだ。
夢を司るサキュバスのセラフィムに、夢を見させるなど無理な相談だった。
あくびすらさせられないだろう。

「最後に……。
 これからも、慎ましやかに生きていたいのなら、警告しておくわ?
 今後、お前がもしも調子に乗っているのを見かけるようであれば。
 お前が手を出す男は全て、一人残らず、私が虜にして、壊して、捨ててやる。
 お前に精気をよこす男など、いないと思うことね」
「……」
「お返事は?」
「……セラフィム様のお言葉に、決して逆らいません……」
「……しばらく謹慎を言い渡す。
 逆らうなら…分かってるわね?
 己の罪を深く反省して、余生を考えることね」

カミラは跪いたまま動けなかった。
セラフィムは、部屋の隅で震え上がりながら事の次第を見ていたメイド達に厳命する。

「この女を主と思う必要はない。
 一応、生かしてこの屋敷には住まわせる。
 ただ、家畜に世話など要らない。
 適当に放っておきなさい。
 分かったわね?」

メイド達は慌てて跪き、命令に従うことを誓った。

「ふん……」

セラフィムは面白くもなさそうにカミラを一瞥すると、そのまま去っていった。
メイド達は、セラフィムの言いつけ通り、一人、また一人と執務室からいなくなる。
一人きりで執務室に取り残される。

カミラは恐怖にすくみ上った体をなんとか動かして、
床を這い部屋の隅まで移動すると、縮こまるようにして座る。
小一時間ほど何も考えられなかったが、そのうち、後悔の念が押し寄せてきた。

これからは、ここが私の飼育部屋になるのだろうか……。
出来れば寝室に移りたい。許してもらえるのだろうか……。
愚かなサキュバスの成れの果てにはもったいないくらい豪勢な屋敷だ。
生かしてもらえただけありがたいと思おう。
これからは、息を吸うのも静かに吸おう。
ご飯をもらえなければ死ぬだけだ。
残り物を恵んでくれるようにお願いをして、生きていこう……。

今まで生きてきた中で、ここまで卑屈になったことなど無かった。
逃亡生活を続けていた時でさえ、周りの者に囲まれていつも一緒で幸せだな、
などと思う子だったのだ。
今はもう、生きていてごめんなさい、と思うくらいに弱々しい存在になってしまっていた。
セラフィムの顔を思い出すだけで体が震える。
首を振りながら、考えるのをやめる。
そうだ、後悔をしても遅いのだ。
今はもう、何も考えないで、貝のようにじっと動かないでいよう…。

カミラは半日ほどそこで固まったように座っていた。
誰かが執務室に入ってきた。
カミラは恐る恐るその人物を見る。
体中傷だらけになっているものの、なんとか生きている、といった状態のコッツィだった。

「コッツィ……」
「いやぁ……。ぼっこぼこにされたわ……。
 半日、生死の境を彷徨ったねw」
「どうして……」
「あー……セラフィム様に告げ口した。
 ぼこられた。
 それだけなんだけどさ」

カミラは何と言って良いのか分からなかった。
コッツィが告げ口しなければこんなことにはならなかったとも思う。
だが、それを咎めるとか、不満を言うような気にはなれなかった。
コッツィはちゃんと考えて告げ口してくれたはずだ。
絶対に何か理由がある。
自分はそれを知らなくてはならない。

「他の子から何があったかは大体聞いた。
 正直、今日のカミラは間違ってたと思う。
 こうなるなんて想像も出来なかったよ。
 精気を吸って気が大きくなって恩知らずなことを言ったのはカミラのミス。
 そこは反省しな?」
「うん……分かってる……」
「あたしのミスは、カミラを焚きつけといて、大事なことを全然教えなかったこと。
 ……ごめん。
 一応、あたしは、責任は取ったつもり。
 生きてるから許されたと勝手に思ってる。
 もう謝る気は無いよ……」
「大事なこと……?」
「うん……。夢の見させ方。
 あと、体を使って誘惑しちゃだめだってこと。
 あのままだったら、カミラはあの男の子を殺してたよ。
 それに、だいぶ自信過剰だったでしょ?
 あたしの言うことなんか聞いてくれないと思ったんだ」
「かもしれない……。
 精気を吸えたら、自分は強いんだって、思い込んでた……。
 それに、みんなに嫉妬してた……。
 私だけのけ者にしてズルいって思ってた……見返したかったの……」
「ほんとは、もっとカミラと話し合えば良かったのだろうけど、もう手遅れだと思ったんだ。
 それに、カミラはあたしとの子供の頃からの約束を破って、相談してくれなかった。
 裏切られたと思った。
 だから殺される覚悟で、セラフィム様に告げ口した。
 そのことには、礼と謝罪を言って欲しいくらい。
 その後、まさか、セラフィム様にがっつり盾突くとは思わなかったんだよ……」

セラフィムはたしなめに来たのだ。
ちゃんと謝っていれば、夢の見させ方や色々なことを教えてくれようとしていたに違いない。
だが、カミラはあろうことかセラフィムの逆鱗に触れてしまったのだ。
コッツィはこんな酷いことになるとまでは思ってなかったのだ。

「ありがとう……。
 あと……ごめんなさい……。
 そっか……。私、アスカルを酷い目に合わせていたんだね……」
「……この後、大変になるよ。
 カミラは当面外に出れる身分じゃない。
 あの子はカミラが夢を見させず誘惑したから、もう他の女は愛せない。
 ……諦めるかどうか、もう分からないよ……」

それを聞くとカミラは暗い気持ちになっていく。
私はもうマーモの代表でもなんでもない。家畜の身分だ。
謹慎と言われているが、要するには表に出せない存在だと言われてるのだ。
外に出ることなど叶わない。
こっそり外に出て、アスカルと会っていることなど知れたら、
それこそ調子に乗っていると判断されてしまう。
私はどうなっても我慢するしかないけど、アスカルが壊されてしまうのだけは嫌だ……。
あの人は壊すと言ったら必ず壊す。
それでリスモアと戦いになるとしても、戦うことを選ぶはずだ。
それを考えただけでも怖くて仕方なかった。
「自分のことは諦めて」とアスカルに伝えることも出来ない。
アスカルに連絡する手段はもう無い。
メイドの子たちは私の面倒を見てはならないのだ。
私は外に出れない。
文を書くことも許されないだろう。

それで思い至る。
面倒を見てはいけないのはコッツィだって同じなのだ。

「コッツィ……私とは話さない方が良い……」
「……なんで?」
「セラフィム様からの言い付けをメイドの子から聞いてるでしょう?
 面倒を見るなって」
「聞いてるよ?」
「じゃぁ……」
「あたしは、それ、直接聞いてないの」
「……え?」
「あたしは、命令されてないので、従いようが無いのよ?
 お世話出来ちゃうわねぇ?w」
「……私は主では無くなったのよ。家畜よ……。
 お世話することは……」
「あらあら。
 あたしが、男と動物が何より大好きって知ってるでしょ?
 お世話のし甲斐が有りますねぇ?w」
「待って、コッツィ、ダメよ。逆らったら殺されてしまうわ……」
「あー…めんどくさいよ?
 どこまで卑屈になってんの。
 面倒見るっつってんだから、うん、て言えっての」
「…ありがとう…コッツィ」

カミラは泣いた。
コッツィはそれを優しく抱きしめていた。

←[ 1話前の話へ]  [このページ]  [次の話へ]→


●本コンテンツについて

・本コンテンツは同好者の間で楽しむために作られた非公式リプレイ内のショートストーリーです。
・個人の趣味で行っておりますので、のんびり製作しております。気長にお待ちいただきながらお楽しみください。

・原作の設定とは無関係の設定が出て来たりしております。あくまでこちらのコンテンツは別次元のお話と思ってください。
・本コンテンツの制作にあたり、原作者様、出版社様とは一切関係がございません。
・TRPGを行うにあたり、皆が一様に分かる世界観、共通認識を生んでくださった原作者様と、
 楽しいゲームシステムを販売してくださった関係者の方々に、深く感謝申し上げます。

●本コンテンツの著作権等について

・本コンテンツのリプレイ・ショートストーリーの著作権はむーむー/むーどす島戦記TRPG会にあります。
・本コンテンツのキャラクターイラスト、一部のモンスターイラスト、サイトイメージイラスト等の著作権は、
 むーむー/マーコットPさん/アールグレイさんにあります。
・その他、原作、世界観、製作用素材については以下の権利者のものとなります。

●使用素材について

・本コンテンツは以下の製作者、原作者、製作素材等の著作物を使用して製作されています。

【プレイヤー】

・トゥナ・P
・マーコットP
・ヤトリシノP
・むーむー(GM)

【挿絵・イラスト】

・マーコットP
・むーむー

【キャラクター(エモーション・表情差分)】

・マーコットP
・むーむー

【使用ルール・世界観】

・ロードス島戦記
 (C)KADOKAWA CORPORATION
 (C)水野良・グループSNE
・ロードス島戦記コンパニオン①~③
 原案:安田均、水野良、著者:高山浩とグループSNE
 出版社:角川書店

【Web製作ツール】

・ホームページデザイナー22
 (ジャストシステム)

【シナリオ・脚本】
【リプレイ製作】

・むーむー

【ショートストーリー・小説製作】

・トゥナ・P
・マーコットP
・ヤトリシノP
・むーむー
 (むーどす島戦記TRPG会)

【製作】

・むーむー/むーどす島戦記TRPG会

←[ 1話前の話へ]  [このページ]  [次の話へ]→