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読み切り小説
「繋いだ手」
カミラ&アスカル
(作者:むーむー)
●目次
〇カミラ・マーモの姫君
〇二人の出会い
〇コッツィ
〇あずまやの秘め事
〇セラフィム
〇サキュバスの夢
〇愛の言葉
〇アスカル・責任と決意
〇ライトネス
〇ウェルスガルド
〇舞踏会
〇繋いだ手
アスカルがマーモの女に手を出したと聞いてから、1カ月ほどが過ぎた。
揉み消しなど色々画策したが、どうにも具合が悪かった。
受け入れるしかあるまいが、急いでやる気も全くしない。
そもそも気乗りしないのだ。
ただ忌々しいことに引き延ばしについては釘を刺されてしまっている。
色々理由をつけて引き延ばし、相手の婚期が逸したことを理由に断りを入れようかとも
頭の片隅にあったのだが、それすらも封じられた形だ。
ライトネスといいアスカルといい、子供の教育にはだいぶ失敗してしまったようだ。
とはいえ、ライトネスは、ブラスの聖女なり、竜殺しの英雄であったり、
ブラスの代表として巨万の富を得るなどして才能を発揮している。
本当はオルトソンの娘としてそうなって欲しかった。
だが、それを望むことは元から諦めていたことでもある。
ライトネスとウェルスガルドの仲はあまり良いものとは言えなかったのだ。
ライトネスは元々ちょっとおかしなところのある娘だった。
英雄物語を好み、舞踏会や茶会などには興味を示さず、
剣を振るったり体を動かすことを好むような子供だった。
ウェルスガルドの妻のメアリは「子供のやりたいようにさせてやるのが親の務め」と、
伸び伸びとさせる教育方針だったこともあり、本当にそのままの娘として育ってしまった。
思えばこの頃が一番幸せな時期だった。
10歳でライトネスを従騎士として見習いのため他家に奉公させてから2年後、
妻のメアリはアスカルを産んだ後の肥立ちが悪く、長く臥せった後、流行り病で他界した。
ライトネスは奉公中であり母の死に目には会えなかった。
その後ライトネスが見習いを終え、成人になるとともに騎士叙勲を得て家に戻ってきた頃、
ウェルスガルドは後妻のサラを迎えた。
その時、アスカルは4歳だった。
まだ幼いアスカルには母親の愛が必要と思い、妻を娶ったのだ。
サラはアスカルをきちんと育ててくれる良き母となってくれた。
だが、ライトネスの反発は凄く、家に寄り付かないようになってしまった。
サラとの仲も悪かった。ライトネスはアスカルを猫可愛がりしては、甘やかすようになってしまった。
アスカルと後妻のサラとの関係は良好だった。
教育などもサラが手ほどきをし、アスカルは見る見る才能を開花させていった。
剣術の方はこれから伸びるところだと思うが、特に商才が飛びぬけていた。
試しに実務をやらせてみたところ、利益をどんどん出してくるのだ。
契約書などの扱いも完璧で、姉のライトネスと比べたら、雲泥の差だった。
ライトネスは武芸に秀でていたが、アスカルは商才に秀でていたのだな、と、ウェルスガルドは思っていた。
ここのところ、マーモの女が頻繁に家に訪れているようだ。
アスカルに会いに来ているのだろうが、たまに、父である自分の様子を窺っているようだ。
ウェルスガルドは用事があることなどを理由に面会をしなかった。
相手はサキュバスだ。
頻繁に会えばいつの間にか取り込まれたりするかもしれぬと、警戒をしていたのだ。
取り入ろうと必死なのだなと、だいぶ嫌な見方をしていたのだ。
例の事件から3か月が過ぎたころ、ウェルスガルドは亡き妻メアリの墓参りをしていた。
命日だった。
時折、思いついた時に墓には訪れてはいたが、命日に来れたのは久しぶりだった。
ウェルスガルドは多忙を極めているので、そうそう来れるものでもなかった。
墓碑の前にいくと、花が添えてあり、そこにはライトネスが立っていた。
彼女も墓参りに来ていたのだ。
お互い無言で墓碑の前に立つ。
正直なところ、ライトネスが騎士叙勲を受けて以降、まともに会話をしていない。
ライトネスが一方的にウェルスガルドを嫌っていたのだ。
後妻をもらったことにどうしても納得がいかなかったのだろう。無理もない。
妻、メアリを想い、しばし黙とうする。
さて、帰ろうか、というとき、珍しくライトネスが声をかけてきた。
「アスカルの、やりたいように、させてあげてくれませんか……」
ウェルスガルドはライトネスを見やる。
ライトネスはこちらを見ていない。
一瞬だが、メアリの顔がちらつき、ライトネスに重なる。
子供のやりたいようにさせてやった結果が、これだ。
好きに言ってくれる……。
「お前は、当家の者ではない。口出し、無用だ……」
ウェルスガルドはそういうと静かに墓を立ち去った。
その頃になると、ブラスやリスモアで活動するマーモの女の評判などが聞こえてきた。
どれも、良いものばかりだった。
いやらしい話などはなく、育ちが良く、明るく気立ての良い娘との話ばかりだった。
男女問わず良い評判のようだった。
男に取り入るだけでなく、女にも取り入れるのかなどと思っていた。
自分が遠巻きに見ているマーモの女の姿は、確かに美しく育ちが良さそうではあったが、
やや暗い感じのする静かで控えめな女だった。
明るく朗らかなところなど見たこともない。
外面が良いのか……。
そのうち、馬脚を現すだろう、などと、まだまだ、嫌な見方を続けていた。
例の事件から4か月も過ぎたころ。
アスカルは汚名を晴らすとばかりに、精力的に仕事をしていた。
まだ8歳だ。そこまで頑張る必要も全くないのだが、よほど認めて欲しいらしい。
今までとは取り組み方、気迫がまるで違う。
また、男としての矜持が生まれてきた。
それ自体は良い傾向に見えた。
リスモア内の仕事で任せられるものも増えてきた。
おかげでウェルスガルドに若干の時間の余裕が生まれてきたのだ。
とはいえ、暇な時に何をするでもない。
ほんの1、2時間の時間が出来たところで、やれることも多くない。
ウェルスガルドは余った時間に、散策がてらの通り道として妻の墓に訪れることが多くなっていた。
最近、墓を見ていて、気付いたことがある。
行けば、大抵、花が添えられているのだ。
ライトネスが添えているのか?そんなに暇があるように思えなかった……。
その後、2週に1回ほど墓の前を通ってみると、大抵花が添えられていた。
ライトネスはそこまで暇ではないはずだ。
アスカルか?とも思ったが、アスカルは墓参りを熱心にするほうではない。
商才はあるが、そういうところはまだまだ気が利く歳では無いのだ。
誰が捧げてくれているのだろうかと、ウェルスガルドは気にはなっていた。
例の事件から半年が経とうとしていた。
アスカルはしびれを切らしたように、婚約の表明はいつなのか?と聞いてくるようになった。
ウェルスガルドはそれについては取り合わなかった。
マーモの女は相変わらずあしげく屋敷に通っている。
が、一度も会ったことはない。頑なに拒否をしていた。
マーモの女の評判は相当広がっている。
リスモアでも話題になっている。
妖魔のくせに高位の神聖魔法を使うそうだ。
一応表向きは人間という話にしてはあるが、ファリスの膝元で暗黒神官の魔法を使う痴れ者かと一瞬呪いたくなった。
話を聞くと、どうやら邪悪なものでは一切ないらしい。
むしろファリスの神官たちが感服するほどの清らかさと確かさだそうだ。
まぁ、それなら、妖魔とバレずに済むと胸を撫で降ろした。
また商才もあるそうだ。
アスカルの手伝いを時折するようだが、特に契約書の不備や、
罠のように仕掛けられた文言を見つけるのが常人ならざる速度だそうだ。
細かい違いに良く気付き、大変助かっているとアスカルのみならず執事なども言っていた。
どうやら才能はあるようだ。
サキュバスなので男を漁るのかと思っていたが、身持ちは非常に固く、自らは一切男には近寄らないらしい。
周りをよく見て、むしろ近づかれるようなら、相手が気を悪くしない程度に静かに距離をとるほどの慎重さのようだった。
悪い話は無いのかと、見張りをよこして粗を探させたが、この半年、一切無いのだった。
さすがに手が詰まってきた。
このまま時間を引き延ばすのはなかなか難しい。
が、どうしても積極的に話を進める気になれなかった。
気晴らしにメアリの墓に向かった。
いつもより早い時間に到着する。
そこに、マーモの女がいた。
墓の周りを掃除し、花を添えているようだった。
「何を……している」
マーモの女は驚いた表情でこちらを見ていた。
「アスカルは、どうした」
女はようやく聞こえるか細い声でこう答えた。
「アスカルさんは、来ていません……。一緒に来たのは、一度だけです……」
「で、何故お前一人で来ている……」
「……お花を、添えたいと……」
「いつからだ……?」
「半年ほど前からです……お気を悪くされたのなら、謝罪いたします……」
なるほど。花を添えているのは、この女だったのか。
「姿すら知らぬ者の墓に花を添えて何を思う……」
「時折、アスカルさんの最近の出来事を、お母様にご報告をしておりました……」
「……お前に妻をそう呼ばれる筋合いはない……」
「出過ぎたことを……申し訳ありません……」
マーモの女は委縮していた。
明るく朗らからしいが、そのような雰囲気はない。
10秒ほど沈黙が流れる。
マーモの女は立ち去ろうとしていた。
「ご気分を害してしまい、申し訳ありません。
もう、ここにも参りません……。失礼いたします……」
「まぁ、待て……」
何故だろう。呼び止めてしまっていた。
私自らが粗探しか……それも悪くない。
気晴らしに来たのだ。これも一興だ。
「多少は時間がある。少し話に付き合わんか?」
「はい……。ありがとうございます……」
「アスカルは母の顔も覚えていない。聞いているか?」
「伺っております……」
「聞けばお前もベルドに親を殺されたそうだな?」
「はい……私が生まれてすぐに亡くなったと聞いております……。
私も、父や母の顔を覚えておりません……」
親と呼べるものはほぼおらず、周りの従者たちに育てられていたそうだ。
会談に出てきた女が親代わりだったようだが、聞けば従姉だそうだった。
親というには若すぎる。
逃げまどう生活の中でも、小さな幸せを探すような女だった。
むしろ大きな幸せなど望みようも無かったろう。
親であれば子に大きな望みを持って欲しいと思うところだろうが、その親がいないのだ。
従者たちは旧マーモ王朝の復活など、現実的でない夢物語を聞かせていたようだが、
当の本人は望んでいないようだった。
無理もないことだった。
自分自身が望む大きな夢を持てなど、親でもない従者の誰もが言えなかったろう。
大きな望みもなく、逃げ惑う生活から、今の生活になった。
変わったことで、この女は何を望むのか。
問うてみると、その望みは一つだけだった。
「アスカルさんのやりたいことをさせてあげたいのです。
そのために、努力は惜しみません……。
隣にいるのが、人間の女でなくて、申し訳ありません……」
ウェルスガルドは女を見やる。
一瞬だが、メアリの顔がちらつき重なった。
マーモの女は、それ以上は何も言わず、静かに一礼し去っていった。
ウェルスガルドは墓を見つめたままだ。
――子供のやりたいようにさせてやるのが親の務めよ?
そうメアリに言われている気がした。
アスカルのやりたいことをさせる。
まぁ、それも良いだろう……。
……だが、親のいない者は、どうする。
やりたいことをさせてくれる親のいなかった者は、誰がそれを認めてやるのだ……?
あの女の親はさぞかし無念だっただろう。
子を世に残し、無念のうちに死んでいった親たちは、子に何を想う……。
メアリも無念だっただろう。
メアリ……お前は我が子たちに何を想った?
私は、その想いを継いでいるだろうか……。
子育ては失敗した。
子供は二人とも、何らかの問題を抱えたまま、今後も生きていくだろう。
かたや、頭のおかしな英雄になった。
かたや、妖魔を嫁に娶り、リスモア領主を継ぐことになろう。
どうせ失敗しているのだ。
今さら、一人、おかしな子供が増えたところで、大勢に影響は無い……。
子の幸せを想わぬ親など、いない。
やるなら、公明正大にやるべきだ……。
ウェルスガルドは天を仰ぐ。
雨がちらりと降ってくる。
頬を伝うのは雨なのか、何なのか。
メアリが雨を降らせて、隠してくれているようだと思った。
翌日、テレポートを使った早文が、オルトソン家からライトネスの元に届いた。
書状を読んだライトネスはしばらく泣いていたという。
こう記されていた。
――リスモア領主の長子アスカルと、マーモ旧王族の「サキュバスの姫」カミラの婚約を正式に表明する。
ついては、表明の場を兼ねた社交の場として舞踏会の準備を進めたい。
舞踏会に不慣れと聞き及んでいるため、より慣れ親しんだそちらの地での開催が負担とならず適切かと思う。
準備一切を任せたい。
早急な実施を切に望む。
ライトネスは速やかに返事を書き、急いで送らせると、すぐさま準備を開始した。
ウェルスガルドに届いた文は、そっけないものだった。
――仔細、全て任された。内容については、追って連絡する。
この後、詳細の詰めがあるのだろう。
まぁ、ライトネスらしいと言えばらしい。
ウェルスガルドが文をしまおうとすると、便箋の中から栞が落ちてきた。
拾い上げてみると文字が書いてあった。
――ありがとう。父上。
ウェルスガルドはその栞をそっと握りしめた。
子供に、甘い、父親だった。
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