ゆうばり国際冒険ファンタスティック映画祭99
参加報告


20日「ブレイド」すごい! 「バレット・バレエ」さすが! 「交渉人」うまい!

 10周年を迎えた、ゆうばり国際冒険ファンタスティック映画祭99にやってきました。bullet2月20日は、招待作品を中心に観ました。塚本晋也監督・主演の「バレット・バレエ」は、力強い作品です。日本で最初で最後のプレミア版の上映でした。重たい直球のようにびしびしキマッてきます。ワンカット、ワンカットに血が通い、渾身の力が込められています。暴力を見つめ、演じてきた監督の思いと技量が一体なったストイックな内容。持ち味のブラックなユーモアは乏しいですが、今を呼吸する切実さがストレートに伝わってきました。

 bladeヒロイン千里役の真野きりなさんは、多面的な思春期の少女を好演。ナイフのようなまなざしには将来性をかんじました。舞台挨拶では「この映画に参加して、物があふれている都市では、命などの大切なものが忘れられていると感じた。ロケは東京じゃないみたいな場所だったが、東京がロケ地」と話していました。記者会見では「運動神経がないので、格闘シーンが難しかった。編集の力でまとめてもらいました」と、率直な感想。「オーディションの会場で深々とおじぎされた。仕事をされている眼と普通の眼が、こんなにも違う人は初めて」と、塚本監督の印象を話しました。

 スティーブ・ノリントン監督の「ブレイド」は、すごい面白さでクギ付け。予想外の出会いが映画祭の醍醐味の一つですが、ことしは早くも感涙にむせびました。最初のタイトルはおとなしめですが、クラブでの血のシャワーからヴァンパイアーの殺りくに次ぐ殺りくシーンで、一気に引き込まれました。全編センスの良いCGを巧みに駆使し楽しめます。多彩なアクション、スプラッターにギャグも盛り込み極上のおいしさです。会場から盛んな拍手がわき起こったのは言うまでもありません。

 「交渉人」(F・ゲイリー・グレイ監督)は、前評判通りの緊密な脚本。negos知的なゲームを堪能しました。人質を取った犯人を説得するプロ・交渉人が罠にはめられ無実を証明するために、人質を取って交渉人を指名するという展開ですが、139分の間、ずっと緊張が持続します。soulサミュエル・L・ジャクソンとケビン・スペイシーの息詰まる駆け引きが見物です。

 ヤング・ファンタスティック・クランプリ部門は「ザ・ソウルガーディアンズ-退魔録-」(パク・カンチュン監督)を観ました。プロデューサーのキム・ソンボンさんは「韓国のCG、特殊撮影の水準をみてほしい」と挨拶していましたが、単純なレベルの比較ではハリウッドにかなうはずがありません。「ドーベルマン」(ヤン・クーネン監督)のように、ハリウッドとは違うセンスを発揮すれば新鮮に見えますが、残念ながらあまり独創性を感じませんでした。


21日「月光の囁き」が傑出!! 「ホームドラマ」は佳品!

 21日は、ヤング・ファンタスティック・クランプリ部門5作品を観ました。20日と合わせて、エントリー6作品すべてを見ることができました。

 yen「バリスティック・キス」は、監督・主演のドニー・イェンをみたいという観客が目立ちました。確かにハンサム。でも映画の出来は良くありません。最初のアクションシーンはまだ新鮮にみることができましたが、そのうち笑うしかないようなドタバタな銃撃シーンが続きます。音楽の使い方も紋切り型のダサさでした。観客から「学生映画」との酷評も飛び出しました。イェン監督は「映画の魅力はさまざまな人が普通の人になること。スクリーンの前では、みな平等だ。自分の人生を映画に捧げ、人々の距離感を縮めるために努力したい」と真面目な発言をしていました。

 delboscフランソワ・オゾン監督の「ホームドラマ」は、一匹のネズミをきっかけに家族の欲望が露わになっていくブラックなコメディ。ネズミが嫌いな人には、耐えられないような展開になります。平和な家庭という偽善を笑い飛ばすのが監督のねらいだと思いますが、やや機知に走り過ぎているきらいを感じました。わざとらしい。ただ、キワモノ的になりやすいテーマに扱いながら、下品になっていない点は大きな才能です。プロデューサーのオリヴィエ・デルボスクさんは「観客と駆け引きをするのが好きな監督。時間を前後させてとまどわせる。この作品も、皆さんを混乱させながら進めている」と話しました。

 bandits「バンディッツ」(カーチャ・フォン・ガルニエ監督)は、4人の女囚が刑務所内でロックバンドを結成するところから始まります。力強くテンポの良い出だし。音楽も魅力的で、キャラクターもバランスが取れていて期待が膨らみました。しかし、脱走後はストーリーがやや平板になり、映像の力も落ちてしまいました。

 アレックス・デ・ラ・イグレシア監督の「パルディータ」は、アクが強い背徳的な作品。主人公の濃さは半端ではありません。でも、何もかにもがどぎつい設定なので、効果も薄れがち。化粧品のためにトラック一杯の胎児を運ぶという設定は、気味悪さを狙ったのでしょうが、少し古い。ラストで懐かしの西部劇のシーンを使った素敵な場面があるものの、作品としての完成度は高くありませんでした。

 siota唯一のエントリー日本作品「月光の囁き」(塩田明彦監督)は、傑作です。いわゆるフェティシズムやサディズム・マゾヒズムを描いていますが、心の襞を細やかに描き真直ぐな青春映画になっています。最初から最後まで、爽やかでかつ狂おしい緊張の糸がピーンと張ってます。拓也役の水橋研二の瞳の切なさ、紗月役つぐみの表情の変化も説得力があります。塩田監督は「10代のまだ自分を確立できていない男の子と女の子が、傷つけあいもがき苦しみながら彼等なりの奇跡を実現してしまう話。強い絆で結ばれるにいたる話だと思う」と自作を解説しました。真野きりなさんがヤング・ファンタで『最も注目していた』作品で、会場には佐伯日菜子さんも顔を見せていました。


22日「8月のクリスマス」の清明さ! 「ジーンズ」の華麗さ!

 y「8月のクリスマス」(ホ・ジノ監督)は、清明で真珠のようにいとおしい作品。さり気ない映像に映画的なセンスが詰まっています。病に冒され死に行く者にとって、日常のささやかな出来事がいかに掛け替えのない意味を持つかを、寡黙な主人公に代わって映像が語りかけてきます。唯一笑える幽霊のおならを語る場面は、「主人公が死を受け入れる場面」(ホ・ジノ監督)として、笑いと怖さを合わせもつ見事なシーンでした。「8月のクリスマス」という題名も、熱さと寒さがぶつかり合った雰囲気を意味しているそうです。

 jeansシャンカーン監督の「ジーンズ」は、インド娯楽映画のノリで、相変わらず好き嫌いが分かれる内容です。ありきたりの物語に、着せ替え人形のように衣装が変わる群舞の連続。しかし、CGを取り入れ、最後は「踊る世界観光旅行」までしてしまう大胆不敵さは、あっぱれというべきでしょう。たっぷりと笑わせてもらいました。ヒロイン役アイシュワイヤ・ライの美貌と美体型も魅力的です。名作ではありませんが、ハリウッドとインド映画の合体という歴史的な意味は大きいと思います。群舞のシーンは、インドの大地から立ち上る空気の中でこそ輝くということも理解できました。3時間を無駄にしたとは思いませんでした。

 クロージング上映の「エバー・アフター」(アンディ・テナント監督)は、おとぎ話シンデレラを脚色したファンタジックなストーリー。レオナルド・ダ・ビンチをあんなに人間クサイじいさんとして描いた映画は初めてでしょう。情熱と可憐さを合わせ持つヒロインをドリュー・バリモアが演じ切っていました。映画祭を締めくくるにふさわしい、心の温かくなる作品です。


22日表彰式 ヤングファンタ・グランプリは「バンディッツ」

 caronクロージング作品の上映後、表彰式が行われました。私の予想に反して、ヤングファンタスティック・グランプリは「バンディッツ」(カーチャ・フォン・ガルニエ監督)でした。審査委員長を務めた女優のレスリー・キャロンさんは、「ドラマ性、大きな溢れるようなエモーション、そして素晴らしい娯楽性のあるこの作品を選んだ」とコメントしました。私が高く評価した「月光の囁き」は、審査委員特別賞と南俊子賞をダブルで受賞しました。キャロンさんは「非常にデリケートな素材を、素晴らしいテイストと威厳を持って作り上げた」と賛辞を送りました。佐伯日菜子さんファンタスティック・ビデオフェスティバルは、「ルイス&クラーク&ジョージ」(ロッド・マッコール監督)がグランプリ、審査員特別賞に「エイト・ヘッズ」(トム・シュルマン監督)、夕張市民賞に「天然少女 萬」(三池祟史監督)が選ばれました。審査員特別賞について女優の佐伯日菜子さんは「題材も面白く、ブラックユーモアがありセンスも良い。何度でも見たい」と話しました。三池祟史監督は、ユーモアたっぷりに受賞の喜びを表しました。ファンタスティック・オフシアター・コンペティション部門では、「夏に生れる」(村上賢司監督)が、グランプリに輝きました。

 小松沢陽一氏閉会式でレスリー・キャロンさんは、「夕張が困難の中で映画祭を立ち上げ、映画祭とともに成長したことは素晴らしい」とあいさつしました。チーフ・プロデューサーの小松沢陽一さんは「夕張は、どんとお金をかけるのではなく、すでにある施設に工夫を積み重ねてやってきた。悪条件はあったが、これまでは幸運だった。幸運な出会いがあってメルヘンのような映画祭を続けてこれた。しかし、映画祭として本物を目指す時期に来ている。質の高い映画祭をつくっていきたい」と、今後への課題と決意を述べました。中田市長は「10回で終りではない。21世紀末までやると宣言した。今後は夕張市全体が映画の社会になる。市民が街づくりに努力する映画祭にしたい」と語り、力強く閉会宣言を行いました。「さよならパーティ」にもたくさんの人たちが参加し、夜遅くまで語らい、映画祭での感動を分かち合いました。


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Visitorssince99.02.21