旅その15 鉄の町で雨に怒る(室蘭市 1997年8月)

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室蘭市の位置  目が覚めて真っ先に取った行動は、窓から外を見ることだった。そして予想通りの結果にため息が出る。
 ホテルの窓からは傘を差して歩く人の姿が見える。色とりどりの傘・・・そう、今日も雨・・・。

 一瞬、「チェックアウト時間ギリギリまで部屋でゴロゴロしていようか」と思った。チェックアウト時間は午前10時だから、まだ3時間近く時間がある。
 私はこの時、東室蘭駅前のホテルにいた。



 昨日は晴れていた。いや正確に言うと昨日は午後から雨が上がり、夕方には青空が顔を見せていたのだ。もしかすると一週間ぶりに見た青空かも知れない。
 夜8時過ぎにホテルにチェックインし、晩飯を食べに外に出た。ここ一週間の間、ほとんど魚の類ばかりで食事を摂っていたので、「今日は久しぶりに肉料理にしよう」と決めていた。

 東室蘭の駅前から真っ直ぐに延びる通りを歩きながら、適当な焼き肉屋を探す。別に焼き肉屋でなくとも良いのだが、「肉を食べるなら焼き肉」が一番手っ取り早い。何だか歩くのが面倒だったせいもある。

 途中、この久しぶりの「晴れ間」に浮かれたのか、暴走を繰り返す二人乗りのバイクとパトカーの「追いかけっこ」を目撃した。さすがにパトカー1台では小回りが利くバイクを止めることは出来ない。スピードをわざと緩めては、追跡するパトカーを嘲笑うような走り方をしている。そのバイクに手を振る高校生ぐらいの若者のギャラリーが増えてきて、暴走バイクはますます調子に乗っている。
 やがて応援のパトカーも現れて、この危険な「追いかけっこ」も終わりに近づいたようだ。しばらくして、姿が見えなくなった。
 誰もがこの久しぶりの「晴れ間」に開放的な気分になっていたのかも知れない。

 さてすぐに「サービスデー40%OFF」の看板を見つけたので、躊躇無くその焼き肉屋に入ることにした。
 腹が空いていたせいで、少々食べ過ぎたようだ。食事を摂っている内に段々と眠くなって来た。もちろん一緒に飲んだビールの影響も大きい。

 「今日はもうホテルに戻ろうかなぁ。室蘭の町を歩くのは明日にしよう」
 今日は移動を繰り返していたこともあり、その疲れのためか何だかいつものような元気が出てこない。もう今日は潔くホテルに引き上げる気になっていた。
 本当はこれから室蘭駅まで行って、「測量山のライトアップを見よう」と思っていたのだ。
 実は室蘭までやってきたのもガイドブックで見た、この「ライトアップされた測量山」の写真を見たことがきっかけだ。室蘭にある測量山の山頂にはテレビ塔が何基も建っていて、室蘭市民の寄付により夜になるとライトアップされているそうだ。ライトアップということだから、当然ながらこれは夜でなければ見ることが出来ない。

 東室蘭の駅前まで戻ってくると、遠くで花火大会をやっているのが見えた。
 「花火大会かぁ。今回初めて夏らしい景色を見たような気がするよ」と思い、次に「測量山は残念だけど、今回は諦めるかぁ・・・」と思いながら、ホテルに引き上げたのは10時頃だった。
 「花火もやってるし、明日も晴れだな、きっと」と何やらいい加減な観望天気のようなことを思いながら、昨日はすぐにベッドに横になったのだった。



明治31年建造の室蘭駅舎  ところが・・・目が覚めてみるとこの雨だ。
 何かに対して恨みたい気分にもなって来るが対象がない。強いて言えば、日頃の自分の行いを悔いるしかない(笑)。
 まあだからと言って、いつまでもホテルでゴロゴロしていても気分は変わらないし、今日の夕方に森町まで行く予定になっているので、それまではどこかで時間を過ごさねばならない。森町の母方の実家に「今日の夕方に行くからね」と連絡してある以上、「明日にしよう」と予定をいきなり変更するわけにもいかない。
 ただ気分は別にして、十分すぎるほどの睡眠は取っているので体調だけは良い。

 東室蘭駅から室蘭駅までは、列車で15分足らず。特急列車の停車駅と言うこともあり東室蘭駅周辺の発展が著しいが、室蘭市の中心はどこかと問われれば、やはり室蘭駅の方なのだろう(たぶん)。本州を結ぶフェリー乗り場も、この室蘭駅から歩いて数分のところにある。ちなみに「特急すずらん」はこの室蘭駅と札幌を直接結ぶ列車だ。



 室蘭駅はそのまま歴史的建造物の駅舎で、明治31年11月に作られたものだ。そう言われると確かに趣のある駅舎に見えてくる。明治期の公共建造物は、天井が高く開放的な感じがするものが多いように思える(これは私の個人的感想だが)。この駅舎も天井が高い。

 この駅を出て、とりあえず目の前の石段を登ることにする。
 他の旅日記でも書いたのだが、私は展望台が好きなのだ。だから何処に行ってもとりあえず高い場所を目指すことにしている。
 太平洋に突き出した絵鞆(えとも)半島に室蘭の町は広がっているので、山の斜面を切り開いたような場所にも多くの建物が建てられている。そのため、町の全体像はなかなか把握しにくい。一番手っ取り早いのは「高いところから全体を俯瞰すること」と単純に考えて、こうして石段を登り始めたわけだ。

室蘭港遠望 煙る測量山のテレビ塔  石段を登り、車道を横切り、さらに石段を登り詰めると、そこは八潮神社という名前の神社だった。ここからだとフェリー乗り場も、遠くに製鉄所と思われる工場地帯も見て取れる。だが残念なことにその風景も今は雨に霞んで見える。ここで今日何回目かのため息が出る。

 神社の社の裏手に回ると車道があった。その車道まで来て「せっかくだから頑張って、測量山に登ってみるか」と思いついた。
 山と言っても、頂上まで車道が付いている標高200mほどの山なので、特別な山の装備はいらない。測量山の頂上まで車で10分ほどらしい。普段だったらそれほど厭う距離でもない(たぶん歩いて1時間くらいだろう)。
 そう思って歩き出して10分後。山から吹き下ろす突風に、最初に傘が言うことを聞かなくなった。折り畳み傘の骨がそっぽを向いてしまったのだ。
 唯一期待を掛けていた頂上のテレビ塔も、今は雲の中に隠れている。もう上から下まで、横殴りの雨のおかげでビショ濡れの状態だ。目をまともに開いているのが辛い。
 諦めの悪い私もさすがにここで断念。すごすごと来た道を引き返すことにした。



港の文学館  室蘭駅前まで戻ってきて、今度は絵鞆半島の先端を目指すことにする。
 いい加減この雨に諦めてタクシーでも利用すれば良さそうなものだが、何だか変に意地を張ったような感じで、「何があっても歩くもんね」という気になっている。下に降りてみると風もなく、雨もそれほど強くは感じない。

 途中、「港の文学館」なる施設を横目にしながらひたすら歩く。
 これからとりあえず、歩く途中でチラチラと見える「白鳥大橋」まで歩こうと思っているのだ。
 この橋は現在建設中の橋だ。平成10年に完成の予定で、完成の暁にはその規模「東日本で最大」の吊り橋となるらしい。室蘭港を一気にまたぐ大吊り橋は、室蘭の新たな観光名所の一つになるだろう(以上、室蘭観光パンフレットより)。
 この橋の近くにも展望台が作られているそうなので、この展望台を目指して歩いている。

 さて車道沿いの歩道を歩いていると、大きな水たまりがあった。
 その水たまりを避けて車道に近い側を歩くことにする。横を通り過ぎる車は水跳ねを気にしてか、私の横を通り過ぎる時には減速してくれる。それに安心していた。
 だが、気を許すのは早すぎたようだ。勢い良く走ってくる大型車のエンジン音が気にかかって横を向こうとしたその瞬間、突然の「雨水シャワー」を浴びることになった。いや、シャワーなんて生易しいものじゃない。滝に打たれたような状態だ。
 それでも傘を咄嗟に差し出していたので、頭だけは濡れずに済んだ。
 すぐに「憎き車はどこだぁ!」と見ると、「セ○ンイレ○ン」(これじゃ伏せ字になってないね)の配送車。見るとこの道の先に○ブン○レブン(これでも伏せ字じゃないね・・・)が見える。そこへ向かう配送車のようだ。

 減速せずに走り去ったことを考えるに、たぶん運転手は私に「手ひどい仕打ち」をしたことに気が付いてもいないのだろう。つまりは周りを見ないで運転しているわけだ。これは許せない。怒りがこみ上げてくる。元々怒りっぽくなっている今日の精神状態・・・そんな状態のところに、"火に油"を注いでくれた(注がれたのは雨水だけど)というわけだ。
 「よし、あのコンビニまで追いかけて行こう!そして絶対謝罪させてやるぅ!!」と思って今までの倍以上のスピードで歩き出したが、長続きはしない。この雨の中、走るように追いかけるだけの気力がないというのが本当のところ。

 お店近くまで辿り着いた時には、配送車は走り去った後だった(あるいは別の店に先に行って、後からここへ回ってくるのか。停車したことは確認していなかった)。配送車の運転手がいないのでは意味がない。そのお店には責任は無いわけで、強いて言えばそういう粗暴な安全運転を周知徹底しない会社自体に責任がある(と断言してしまう)。もう私は金輪際、このチェーン店は利用しない(と、その時は本気で思った。3日後にはすっかりこのことを忘れて買い物していたけど。なお、今からでも謝罪の言葉は受け容れる用意があるので、関係者はよろしく)。

 ・・・とまあ、怒りのボルテージはこの時一気に上がったわけだが、それも長続きはしない。そもそも雨が降っているのがいけないのだ・・・怒りのベクトルが再びこの雨に向かう。やがて怒りから嘆きに変わる。この一件で、すっかり元気が無くなってきた。
 もう車道のそばを歩く気がしないので、海際の道を歩くことにした。こっちは車の通りも少ないので安心して歩くことが出来る。



建設中の白鳥大橋を望む 対岸の製鉄工場群  橋がかなり近くに見えるところまで歩いてきたのだが、段々と面倒になって来た。「そもそも雨の中こうして歩いて、しかも作りかけの橋を見て何が面白いんだぁ?」と投げやりな気分になっている。
 お腹も空いてきた。怒ったり、嘆いたりを繰り返していると、いつも以上にお腹が空くようだ。

 ここでも結局途中で断念。またまた駅前に戻ることにする。ああ、挫折の繰り返し・・・。

 今度は港の風景を見ながらと思って、海際の道を歩く。
 歩いていると、なんと例の「雨水シャワーの配送車」がこの道に現れたのだが、もう怒る気力も無くなっているのでそのまま見送る。いっそうのこと笑顔で手でも振ってあげればよかったかな?

 途中、イルカ・鯨ウォッチングの乗船場の横を通り過ぎる。この室蘭ではイルカ・鯨ウォッチングが最近注目を浴びているらしい。ちなみに鯨との遭遇確率は50%程度で、イルカは90%程度とのこと。これだけの確率ならば、乗ってみる価値はありそうだ。ただ停泊している船を見た限りでは、想像していた以上に小型の船(普通の近海の漁船程度)だったので、船に弱い人には辛いかも知れない。
 待合所を覗き込んでみたが、乗船待ちのお客さんもいないようだった。今日は波が高い。たぶん今日は欠航なのだろう。

 フェリー乗り場まで来た。先ほどまでは2隻の大型フェリーが停泊していたが、今は1隻だけになっている。気が付かない内に一隻は出航してしまったようだ。振り返ると測量山のテレビ塔が思いの外、近くに見えた。今は雨も、先ほどに比べてさらに小降りになっていて、頂上にも雲が掛かっていない。



鯨・イルカウォッチング観光船 フェリー乗り場付近より測量山  再び室蘭駅前。とりあえず昼飯を摂ることにする。
 駅前の蕎麦屋に入って暖かい蕎麦を注文した。「この真夏の季節に暖かい蕎麦を食べたいなんて思うことって、そうはないよな」と思う。それだけ身体が冷えているのだ。
 トイレで着ていたTシャツを着替えることにした。脱いだTシャツは、絞ると水が滴るぐらい濡れていた。

 蕎麦を啜りながら、この後の予定を検討する。
 時刻表を良く見てみると、ここから地球岬行きのバスは比較的本数が多いようだ。帰りの時刻さえ注意すれば、これから地球岬を見て戻ってきても、十分予定している特急列車に乗ることが出来そうだ。
 暖かい蕎麦で少し元気が出てきたこともあり、一瞬のうちに気分は地球岬を目指している。

 外に出てみると、「傘を畳んでもいいかな?」と思うくらい雨も上がってきた。状況が多少良い方に転がりだしたのかな?



 駅前から「地球岬団地行き」のバスに乗る。駅前からはバスで15分ほどだ。
 地球岬は正確には「チキウミサキ」と呼ぶらしい。地球岬は以前から知っている場所ではあったのだが、訪れるのは今回が初めて。今回初めて知ったのだが、「北海道の自然100選」や「新日本観光地100選」で得票数第1位の名勝だとのことだ。
 室蘭はすでに説明したように、鍵型の形の絵鞆半島に広がっている。この内海側は工業地帯、そしてさっき歩いたフェリー乗り場などがある。一方、地球岬がある外海側には、太平洋の荒波に削られた断崖絶壁の景勝地が広がっている。

金屏風 アジサイの花  終点の地球岬団地からは地球岬までは徒歩で15分ほど。バスには私と同じような観光客も半分くらい乗車していて、なかには一人旅の女性もいる。大きなザックを背負った学生と思える男性もいたが、もしかするとフェリーで今日室蘭に着いたのかも知れない。
 同じ様な旅人を見ると、「この雨の中大変だね」と、言葉を交わさなくとも仲間意識が芽生えてくるから不思議だ。この雨に翻弄されているのは私だけではないのだ。

 坂道を上って最初に見えたのが「金屏風」と言う名前の断崖。ここから右手に車道を進むと地球岬で、左手に進むと「トッカリショ」と言う名前の奇勝がある。
 まずは地球岬を目指すことにする。

 途中アジサイの花を眺めながら(8月だというのに咲いている)、地球岬に到着。
 この岬の展望台からの眺めは「地球が丸く見える」らしいのだが、残念なことに水平線は霞んで見える。目を細めても、大きく見開いても、どんなことをしても、残念ながら地球が丸く見えることはなかった。無念・・・。

 雨はかなり小降りになっているのだが、風が強い。ここは海面から100m以上の高さにあるため、海からの風をまともに受けることになる。下手をすると傘が風に吹き飛ばされそうになる。
 諦めて傘を畳んでしまったが、差しているときと大差がないような感じだ。

 しばらく展望台で過ごしていたが、大人数のグループが現れたので、それをきっかけにこの場を離れた。

チキウ岬灯台 地球岬展望台より太平洋を望む  展望台を降りたところにある駐車場脇には売店が2店ある。
 その内の1軒に入り、ツブおでん(ツブ貝のおでん)とこんにゃくおでんを頼む。ついでに生ビール。どんなに涼しくても、こうして必ずビールを頼んでしまうのは習慣(あるいは病気?それとも生活必需品?)以外の何ものでもない。
 私の近くには食べ終わったラーメン丼を横に、タクシーの運転手さんが暇そうに新聞を読んでいる。今日の天候では「開店休業」の状態のようだ。

 「あのぉ。この近くにテント張れそうなとこないですかぁ?」

 見ると、4、5人でここへやってきたと思われる学生のグループ。お店のオバチャンが「展望台の横に張ればいいじゃない。水もあるし」と言うと「風、大丈夫ですかねぇ」と学生たちは心配そう。
 確かにこの風だ。夜中にテント毎吹き飛ばされて、「気が付いてみたら海の底」ではたまらない。
 「あとは、車で30分ぐらいのところにキャンプ場あるけどねえ・・・でも、ここの方がいいよ。だってタダだし」と再びオバチャン。
 すがりつくような表情で「あっ、そのキャンプ場教えて下さい!」と学生の一人が言うと「ねえ、キャンプ場どうやっていけばいいのよ」と、タクシーの運転手さんも引っぱり出す。
 一通り口で説明した後、「どうせ暇だから近くまで案内してやるかぁ?どうせ、あんたたち車だろう?俺もここにいても客拾えないし」との言葉。
 しばらくやり取りを聞いていたが、結局学生のグループは教えて貰ったキャンプ場へ自力で向かうことに決定したらしい。

 一瞬、この運転手さんのタクシーで駅まで戻ろうかとも考えたのだが、まだ時間はある。これからトッカリショを眺めてから、バス停まで戻れば良い。そう思って、また来た道を歩いて引き返すことにした。



車道標識 トッカリショ  トッカリショは少し離れたところから写真を撮るだけで済ませ、バス停まで戻ることにする。また雨が強くなってきたのだが、風は相変わらずで、傘をまともに差せる状態ではないのだ。
 結局今日は、どこへ行っても「途中断念」「挫折」と言う言葉が付きまとう。

バス停まで戻ってきてから会社に用事があることを思い出して、公衆電話で会社にコレクトコール。会社の人もまさか、私がこんなところから電話しているとは思っていないだろう。しかもこんな暴風雨の中・・・。

 さてバス停で時刻表を確認して愕然。到着したときにこの時刻表は確認していたのだが、見る箇所を見間違えていたようだ。もう一度見直してみると、これからしばらくの間バスは来ないようだ。
 雨はまた強さを増す。傘の骨が何本かは曲がり、一本は完全に折れてしまっている。



 さすがにもうギブアップだ・・・。
 もう雨の中、歩きたくないし、このまま雨の中、ひたすらバスを待ち続けるのも嫌だ。

 正直この時は旅を止めて、すぐに自宅に帰りたい気分でいた。  そう思っていると、タクシーが都合の良いことにすぐに現れた。すかさず手を挙げる。
 「どちらまで?」の言葉に口を突いて出たのが「東室蘭駅まで」。
 室蘭に戻るつもりでいたのだが、もう雨は嫌だ。このまま東室蘭に向かって、雨に濡れないところで列車の時間までを過ごしたい。

 「この雨の中大変ですねぇ。観光ですか?おや、出張帰り・・・・それはそれは。晴れてると最高なのにねえ、ここは・・・特にね、朝日が昇るときには断崖が黄金に輝くんですよぉ」

 話好きな運転手さんだった。
 私も元気さえあれば、おしゃべりを楽しみたい。

 「近くに有名な観光地がたくさんあるでしょ。洞爺湖とか登別とか・・・だから素通りしてしまう人が多いんだけど、結構見どころ多いんですよね、室蘭は」

 私もそう思う。素敵な町なのだとも思う。ただし今度は雨が降っていないときに、来たい。

 「これから?あっ、森(町)ですかぁ・・・お客さん列車でしょ?それなら大丈夫だけど。今、ラジオで聴いていたんですけど、国道は八雲の辺りで不通になってるらしいから。何でも橋が崩れたとかで。ええ、自家用とかはなんとか通れるらしいんですけどね。でも大型の車はグルリと迂回してるって・・・函館方面はだから大変ですよ、今日は」

 なるほどこの雨で色々な影響が出ているらしい。
 この雨にどれだけの観光客が足止めをされたり、日頃の行いを悔いているか(笑)わからない。



 途中、「母恋(ぼこい)」と言う名前の駅前を抜けて、東室蘭の駅に到着したときには、また雨は小降りになっていた。
 「この雨ですけど・・・まあ、2,3日で止むみたいですよ。まあ旅行しているんだから、"晴れるに越したことはない"ですけどね。でも"雨もまた旅のうち"ってね。まあとにかく、気を付けて旅行して下さいね」と、タクシーを降り際に運転手さんの言葉。

 「うん!?」

 なんとその何気ない一言が、私の気持ちを切り替えるスイッチになってくれた。今の気持ちを変えてくれるには十分過ぎる言葉だったのだ。

 そうなのだ。
 もちろん晴れるに越したことはないけれど、この雨もまた旅のスパイス。
 雨に怒り、雨に一喜一憂し・・・だからこそ旅は面白い。
 それが私のいつもの旅のスタイル。
 室蘭の旅もこの雨に一喜一憂し、怒り、嘆き・・・次から次へと心模様が変わって行く。だからこそ室蘭の旅は私に深い印象を残してくれる。

 そう思うと、急に元気になって来た。
 そう。「だからこそ、旅は面白い」。

 ・・・雨はこのあと、北海道に滞在している3日間の間、休むことなく降り続いた。


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1999.6.16 Ver.5.0 Presented by Yamasan (Masayuki Yamada)