彼女については2通りの説があるようです。恐ろしく神秘的でビューティフルな女優さんであるという説と、いやいやまったく大したことはないという説です。後者の例を挙げると、たとえば「The
Great Movie Stars 2」(Little, Brown and Company)のバーバラ・ベル・ゲデスの項に、「映画「めまい」の中でどうしても理解できないのは、世の普通の男がバーバラ・ベル・ゲデスよりもキム・ノバクを好むなどという戯言を信じろというのがいかに理不尽であるかという点である」と記されています。これはまたすさまじい極論であるとはいえ、「めまい」での彼女の変身ぶりを見ればそれもむべなるかなという気もします。正直なところ、神秘的であるかどうかは別としても、彼女はそれほど崇め奉るほどの美人ではないという印象を個人的には持っており、「めまい」でのジュディではなくマデリンを演じている時の彼女にしてもどこか男のように見えるのは気のせいでしょうか。彼女の出演作の中で彼女がもっともビューティフルに見えるのは、メロドラマの「逢う時はいつも他人」(1960)であると個人的には考えていて、意外にこの作品が話題に上ることが多いのもそのせいではないかと邪推しています。「邪推している」というのは、「逢う時はいつも他人」は、才気煥発なリチャード・クワインの監督作としては失敗であったと個人的に見なしているからです。映画スターはモデルではなく、美人であることが決して十分条件にはならないことは言わずもがななので(失礼ながらキャサリーン・ヘップバーンなどのケースを考えてみると必要条件ですらない場合もあります)、美人談義はこの程度にしましょう。ノバクは、エリザベス・テイラーと同世代であるとはいえ、子役出身で40年代から活躍していたテイラーに比べるとデビューは10年程あとになります。デビュー後しばらくして、「黄金の腕」(1955)、「ピクニック」(1956)、「愛情物語」(1956)、「めまい」(1958)などのポピュラーな作品に主演あるいは準主演で出演し、50年代中盤から後半にかけてキャリアのピークを迎えますが、60年代以後になると彼女の活躍はかなりトーンダウンします。絶頂期の彼女の作品の中では、やはりヒッチコックの「めまい」が個人的にはもっとも好きな作品です。また、トーンダウンした60年代以後の作品の中で個人的にもっとも気に入っているのは、彼女がミルドレッド役で出演したサマーセット・モームの同名長編小説の映画化「人間の絆」(1964)です。実は原作におけるミルドレッドとノバク扮するミルドレッドの間には扱いにかなり大きな差がありますが、むしろ映画の美学の中ではノバクミルドレッドの方が当を得ているような印象を受けます。「めまい」でのジュディ(現実)からマデリン(幻影)へと変身する彼女とは対照的に、幻影のミルドレッドから現実のミルドレッドへと変身(というよりも墜落)する彼女の姿は、むしろ映画の中では滅びの美学として捉えるべきでしょう。いずれにしても、この点については「人間の絆」の作品レビューを参照して下さい。また「めまい」などでの神秘性を考慮すると意外に思えるのは、「媚薬」(1958)や「プレイボーイ」(1962)などのロマコメにもそれなりにフィットしていたことであり、役者としての柔軟性はかなりあったようです。 |
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