インターネット・エクスプローラーが文字化けしたら・・・・「表示」→「エンコード」→「自動識別」をしてみる


 映画 日記              池田 博明 


これまでの映画日記で扱った作品データベース  映画日記 前月の分  


2017年4月1日以降、2017年12月31日までに見た 外 国 映 画 (洋画)

見た日と場所 作  品              感    想 ・ 梗  概   (池田博明)
2017年12月25日



DVD 
若草の萌えるこ



フランス
1968
94分 
 原題は『Tante Zita』(ジタ伯母さん)。近所の少女にピアノを教えていたジタ伯母さん(カティーナ・パキシヌー)はその日、正午のサイレンを聞き、めまいを覚え、そのまま倒れた。
 姪のアニー(ジョアンナ・シムカス)が帰宅した時には、伯母は既に昏睡状態。医師ベルナール(ポール・クロシェ)の診断によれば、脳卒中でもう先は長くないという。 アニーは母(シュザンヌ・フロン)と二人で懸命に看病の日々を送る。
 が、身近に迫る死の恐怖にイラ立つアニー。 ある晩、彼女は男友達マニュエル(ジャン=ガブリエル・ノルドマン)のバスケの試合を見た帰り、家に足が向かなくなり、怪しい人影から逃れるままに夜のパリをさまよう。 ふと入った評判の遊技場。バンドのベーシストの青年シモン(ホセ・マリア・フロタス)がミニカー・レースに夢中になっていた。 彼女は横転した彼の車をコースに戻してやる。
 店では彼女は飲み物を頼もうとするが、店の二階では食べ物を注文する必要がある。メニューを見て迷うアニーに「腸詰がうまい」と声をかけてきた男がいた。同じ席に付く男ボニ(ベルナール・フレッソン)。彼女は警戒して店で見かけた知人の黒人の文学青年ジェイムズ(メド・ホンド)を呼ぶ。彼は店の客を利己主義者とよび、毛沢東の言葉を引用する夢想的革命家。食卓には聖書売りがやって来る。
  アニーはそこから逃げ出し、再び夜の町へ。そして、猫狩り(食べるため)のスペイン人労務者を止めようとして、身分証を忘れた彼女も警察の厄介になる。 身元引請人としてやってきたベルナールはナイトクラブに誘って彼女の気を紛らせる。 彼の車と衝突したボニとジェイムズの載った車から羊が脱走し、みんなで捕獲に手間取る。 ベルナールは看護婦への電話でジタが息を引き取ったことを知ったが、彼女にはそのことを伝えず、自分だけ戻る。 夜も更け、ボニに送られ帰ったアニーは自宅に入れず、1分だけ待つといったボニの車を呼び止めるが、かなわず、再びタクシーでクラブへ行った。店は既に閉店していて、彼女はさっきのベース弾きシモンと会う。アニーは住まいは郊外だと騙してドライヴをするが、食事をするために立ち寄った食堂で彼女は急に違うタンク車を拾って、パリへ戻りかける。すると、シモンは必死でタンク車を追跡、車を停め、彼女が昔住んでいた伯母の田舎の家へ向かう。 そこで二人が愛し合った、というのは少女の夢で、現実は彼のアパルトマン。眠る彼を残して自宅に戻ったアニーは、伯母の死を知るが、 不思議と心安らかに、田舎で伯母と一緒だった少女の日々を想い出すのだった。
 ロベール・ アンリコ監督の詩情溢れる青春映画。
2017年12月22日


DVD
 
地球爆破作戦



ユニヴァーサル
1970年
101分 
  原題は「Colossus: The 'Forbin' Project」(コロッサス:フォービンの計画)。スタンリー・チェイス製作、D・F・ジョーンズ原作、ジェームズ・ブリッジス脚本、ジョセフ・サージェント監督。
 冷戦下、アメリカはコンピュータによる防衛計画を作りあげ、マシーンをコロッサスと命名した。開発者はフォービン博士(エリック・ブレーデン)。大統領(ゴードン・ピンセント)の指揮下、システムが稼動し、迎撃体勢は整ったように思われた。しかし、コロッサスは「別のシステムとのリンク」を望んできた。ソ連のコンピュータ・システム“ガーディアン”を探知したのだ。急に自活能力を持ち始めたコロッサスは、フォービン博士を仲介役に自分の能力を発揮してゆく。フォービン博士の生活すべてを監視下におき、支配を強めていくコロッサス。「プライベートな」性生活の大切さを納得させて愛人として認めさせたクレオ(スーザン・クラーク)を介して、コロッサスを出し抜く計画を試しに進めてみる。しかし、コロッサスはそんな政府の行動をお見通しだった。ミサイル核弾頭のすり替えの途中で、基地の核弾頭を爆破させる見せしめの爆破を実行する。非人間的な行動も冷酷に行えるのが機械の特徴だ。コロッサスはTVを通して全世界に人類を支配したこと、今後はすべてが自分の支配下に入ることを宣言する。
 自律するコンピュータを人類が制御することができなくなり、核兵器を管理するコンピュータを支配するものが人々を支配する。これは奇妙に現代的な光景である。
2017年12月6日


DVD
 
野いちご


スウェーデン
1957年
89分 
 ベルイマン監督作品。白黒映画。年老いた医師が名誉博士号を授賞するために自宅から車でルンド大学まで出かける旅の途中での出来事を綴っていく。
 書斎の机に向かい何か書き物をする老人イーサク・ボルイ(ヴィクトール・シェーストレム)。ボルイは明日、ルンド大学で名誉博士号を授与される予定。その夜。イーサクは奇妙な夢を見る。人けのない街、針の無い時計、しぼんでしまう男。葬式用の馬車が棺桶を落としてゆく。棺桶の中に安置されているのはイーサク自身で棺桶に引きずり込まれそうになる。
  イーサクは家政婦アグダの反対を押し切って車でゆくことにする。車の旅には息子エーヴァルドの妻、マリアンヌ(イングリッド・チューリン)が同行を希望。途中で、イーサクは若い頃住んでいた屋敷を訪れる。過去の記憶がよみがえってくる。 野いちごを摘む可憐な乙女、イーサクと婚約していたサーラ(ビビ・アンデショーン)だ。しかし、彼女は彼の弟に口説かれ、強引に唇を奪われる。家の中ではイーサクの母親、兄弟姉妹、親戚一族が揃い、にぎやかな食卓を囲んでいる。弟との密会をからかわれ、動揺するサーラ。彼女は真面目なイーサクより、奔放な弟に惹かれていることを密かに告白する。夢から覚めたイーサクの前に、サーラそっくりの娘が立っていた。彼女は他の2人の男(神の実在を信じる牧師志望の男と、神を信じない医者志望の男)と一緒にヒッチハイクで旅をしていた。イーサクとマリアンヌはこの若者たちを車に乗せる。
  無邪気な彼らの行動に心が安らぐイーサク。しかし乱暴な運転をする対向車と正面衝突になりかける。相手の車は横転するものの、怪我はない。彼らは夫婦ものだった。しかし、関係が冷え切っているアルマン夫婦は車に乗せてやっても喧嘩ばかりしている。喧嘩を聞くのに耐えきれず彼らを降ろしてしまうマリアンヌ。車はかつてイーサクが開業していた美しい湖水地方にさしかかる。立ち寄ったガソリンスタンドでは、子供の頃に面倒をみた店主(マックス・フォン・シドー)が彼を覚えていて、イーサクは心のこもった言葉をかけられ、ガソリンをサービスされる。
 そして、海の見えるテラスで食事をした後、イーサクの老母の家へ。96歳の老母はかくしゃくとしていて、思い出の品を色々とイーサクに見せる。その中には針のない懐中時計もあった。驚くイーサク。
 車に戻ってマリアンヌに運転を任せた彼は助手席で眠りに落ちる。夢の中で、イーサクに手鏡をつきつけ、老いた自分の顔を見るように促すサーラ。彼女はイーサクの弟と結婚し、仲睦まじく暮らしていた。アルマンに導かれ、医師の適性試験を受けたイーサクは、ことごとく失敗して不適格とみなされ「冷淡で自己中心的、無慈悲」の罪を宣告される。更に一組の男女が密会する光景を見せられる。それはかつて目撃した、妻カーリンの不倫現場であった。マリアンヌによれば、彼女が子供を作らなかったのもイーサクたち夫婦の冷えた関係を見たせいだった。やっとルンドに到着。ここまで同乗してきた若者たちは彼のために花束をプレゼントした。授賞式のあと、イーサクはまた夜中に夢を見た。そこではのどかな湖の風景が広がっていて、彼はようやく安息を得られるのだった。
2017年10月28日


DVD 
科学者の道


1936年
86分
 
  ウィリアム・ディターレ監督、ポール・ムニ主演 The Story of Louis Pasteur。パスツールの伝記映画。1860年、産褥熱で妻を亡くした夫が医師を銃撃して死亡させた。彼はパスツールが医師にあてたリーフレットを読んでいた。微生物が病気の原因で、産婦の死亡を減らすには医師の手洗いや器具の煮沸が必要だと主張していた。しかし、パスツールを招待した皇帝は医師会の見解を取り上げてパスツールに医業に関わらないように命ずる。パスツールはパリから転居した。
 1870年、アルボアで炭疽病の羊の被害がなかった事実に注目した新政府は、原因を調査することにした。パスツールのワクチンを信ずる若き医師マルテルに対し、医学会のロシニョールは公開実験を提案。パスツールは実験を受けて立つ。48時間後の朝、ワクチン接種された羊はみな活きていた。パスツールが正しかったことが証明された。英国の医師リスターも立ち会っていた。その場で農夫が狂犬にかまれる事故が起こったが、当時は狂犬病に対する治療は無かった。一年後、狂犬病のワクチンの開発に努力するパスツールの姿があった。狂犬病対策の報道に反発した医学会は、実験場を視察。パスツールが示した病菌を医師シャーボネ自身が自らの腕に打った。しかし、一か月しても彼は発病しなかった。パスツールを笑いものにする医師たち。
 発病しなかった原因を考察するパスツールに、妻は「試料が古かったのでは」と示唆する。調べてみるとシャーボネが打った株は14日間培養したものだった。さっそく犬に投与してみると、古い株では発病しなかった。アルザスから狂犬に噛まれた少年メイステルと母親が尋ねて来た。医師ではないパスツールはワクチンを使うことに逡巡する。徹夜続きでパスツール自身もスタッフも疲労していた。狂犬病の狼にかまれたロシア農民が訪問して助けを求めて来た。研究途中だったが、患者を目の前にして断ることはできなかった。折あしく娘の出産が近づく。消毒に理解のある医師の都合がつかず、仇敵シャーボネに頼むことになった。彼はパスツールのやり方で助産を手伝う代わりに狂犬病の研究を止める宣言書に署名させる。無事、男の子が産まれたが疲労がたまっていたパスツールは、脳卒中を起こし、麻痺が残った。車いすでロシア人の患者への指揮をとるパスツール。シャーボネはパスツールの意気に感じて、宣言書の約束を反故にした。
 ロシア人たちは徐々に回復していった。リスターが企画したパスツールの功績を称える集まりに出席した彼は若き医師や科学者に対して、反論に会わなかった仮説はないが、懐疑論に打ち勝って真実を成し遂げれば、人類の幸福にいささかでも貢献したと言えるだろうと話すのだった。
2017年10月28日


DVD 
ファーブル

フランス
1951年
84分
 アンリ・ディアマン=ベルジェ監督、ピエール・フレネー主演 Monsieur Fabre。四人目の子供の出産の日、スチュアート・ミルは小学校の補助教員だったファーブルに執筆を薦めた。初めて自分なりの文章を書き始めたファーブルは待望の男の子が生まれたにもかかわらず、書くことに夢中になるのだった。息子クロードに対するファーブルの教育熱心ぶりは甚だしく、自らの学問の後継者とみなしての期待が大きかった。それだけに息子が病死したときの落胆は大きかった。家族への愛情は強かったが、自らの人生を省みての押し付けとも見える暴君ぶりも明らかだった。戦争や政治の動乱にもまどわされず、昆虫を観察する姿勢に対する彼自身の疑問もないではなかったが、年を取ってからの栄誉が彼の人生が手本となるべきものだったことを証明していよう。
2017年10月27日


DVD 
科学者ベル


20世紀フォックス
1939年
98分 
  電話の発明者グラハム・ベルの開発物語 The Story of Alexander Graham Bell。アーヴィング・カミングス監督作品。ろうあ教師をしていたベル(ドン・アメチー)は当初、多重電信装置の開発を目論んでいた。サンダーズの息子ジョージに言葉を教える仕事をする代わりに、若干の開発資金を出しもらっていたが、その程度の額では下宿の家賃さえ支払えず、追い出される始末だった。幼児期の病気で耳が不自由な娘メイベル(ロレッタ・ヤング)を紹介されたベルは利発なメイベルに魅了された。メイベルもベルに惚れたものの、父親は電信装置の開発に期待をかけ、ベルがほかのことに気を取られるのをよしとしなかった。電話の可能性に気づいたベルの研究はなかなかうまくいかなかった。隣室の助手のワトソン(ヘンリー・フォンダ)との会話さえうまくいかなかった。ある日、紙に硫酸をこぼして伝導率が高まったことがきっかけで電信に成功。一挙に電話事業は脚光を浴びた。しかし、競争会社からの特許権に関する裁判が起こされ、事業は危機に陥る。裁判でも電話に関する技術の発見日時が問題となる。妊娠していたにもかかわらず、メイベルが日付が書かれたラブレターを公判に持ち込む。手紙は電話の設計図の裏に書かれていた。紙を買うお金が無かったベルは手元の紙に恋文を書き留めたのだった。特許権を争っていた会社が告訴を取り下げ、電話の発明者はベルになった。
2017年10月26日


DVD
ランプの貴婦人


1951年
99分
 
 ハーバート・ウィルコックス監督作品 The Lady with a Lamp。フローレンス・ナイチンゲールは看護婦の鏡と尊敬される人物だが、彼女の活動は決して家族や政府に理解されたものとは言えなかった。女性が戦場で兵士を看護するなど恥と考えられていた時代だったのである。兵士も消耗品と考えられており、クリミア戦争時、スクタリの兵舎の不衛生な環境で兵士が死亡している間にも、大使館では舞踏会が催されたりしていた。
 フローレンス(アンナ・ニーグル)の活動を支えた大臣ハーバート(マイケル・ウィルディング)の意見も批判されることが多かった。
 軍の調達官や大使の女性に対する偏見や非協力ぶりは目にあまるほどだ。クリミア戦争が英国側の勝利に終わると、戦地から帰還した兵士たちによってナイチンゲールの献身が伝えられ、彼女の功績の評価が図られたが、彼女の病舎改善の活動は戦後も続いた。後半の展開がやや単調。茨木保『ナイチンゲール伝』(医学書院、2014年、まんが評伝)には映画に描かれた挿話の多くが書かれている。彼女自身の完璧主義や性格については、映画には不屈の強さが強調されて描かれている。
2017年10月25日


DVD 
キュリー夫人


MGM
1943年
124分 
 マービン・ルロイ監督作品 Madam Curie。前半はソルボンヌ大学で修子課程で学ぶマリー(グリア・ガーソン)と実験スペースを貸したピエールが魅かれ合いながらも、口下手なピエールが告白できない様子が描かれる。ポーランドへ帰国して教師になる予定のマリーにピエールは求婚する。新婚旅行のさなか、マリーは博士課程の研究テーマとして、ベクレル教授の発見(鉱石から謎の光が発せられる)が気になっていると話す。
 二人は協力して実験を進め、鉱石のなかに新元素があると仮説を立てるが、研究に対する援助は得られない。ようやく雨漏りのひどい実験棟を使わせてもらえるだけだった。新元素をラジウムと名付け、実験を進め、バリウムとラジウムの混合物からラジウムを分離する最後の段階、分離したはずのラジウムは消失していた。落胆する二人。方法は間違っていないはずなのに、二人が四年間追い求めてきたはずのラジウムは消えてしまった。ふさぎこむマリーをピエールは友人との宴会に誘って元気づけようとする。マリーはラジウムが予想外に少量で容器に残った染みのようなものが実はラジウムだったのではないかと考える。矢も楯もたまらず実験室に戻った二人は容器の底で光を放つ新元素を発見したのだった。
 新元素発見はビッグ・ニュースとなる。新しい実験室の創設も企画される。マリーのためにイヤリングを買いに街へ出たピエールは暴走した馬車にまきこまれて即死。最愛・最強のパートナーを失ったマリーは茫然自失。二人は生前、ひとりになっても研究を続けよ うと話し合っていた。ラジウム発見25周年記念の日に講演するマリー。惜しみない拍手が送られた。
2017年10月24日


DVD 
若い科学者


MGM
1940年
86分 
 ミッキー・ルーニー主演の若きエジソンの挿話 Young Tom Edison。ノーマン・タウログ監督。一貫して兄エジソンを慕う妹タニー(ヴァージニア・ウェイドラー)、息子の知性を信じる元教師の母親ナンシー(フェイ・ベインター)、時に迷いつつも息子を信じようとする父親サム(ジョージ・バンクロフト)。家族の信頼に支えられて好奇心を伸ばしていくエジソン。教師の指導に従わず放校処分になってしまったトムは、鉄道会社の列車内の売り子の仕事を工夫する。車内に印刷機を持ち込み、戦争の最新情報を知らせるニュース新聞を発行したり、化学薬品を持ち込み、化学実験を試したり。ニトログリセリンを作って持ち込んだ事件によって、車内での実験はもとより、町の人々からの信頼を失ってしまい、仕事がもらえなくなってしまう。絶望したトムは家を出ようとするが、急病で倒れた母親の手術を実現するためにランプの光を鏡で増幅する工夫をする、電信の故障で橋が落ちたことを朝の一番の列車に知らせることが出来ない状況を汽笛を利用したモールス信号で救うといった活躍をして町の人々の信頼を回復する。続編の「人間エジソン」篇はスペンサー・トレイシーがエジソンを演ずるという。
 独自の興味を持ち、ほかの子供と変った少年を温かく見守る家族の姿が心地よい、良き時代の作品。エジソンの成果を知っている観客にとって、安心して見られる作りになっている。
2017年10月11日


BD 
サムライ



1967年
105分
  メルヴィル脚本・監督、アラン・ドロン主演。古ぼけたアパートの一室。小鳥に餌をやるジェフ・コステロ(ドロン)。トレンチコートを着て、ソフト帽をかぶり、仕事に出かける。合鍵を使って自動車を盗み、ナンバープレートを付け替えてもらう。とあるクラブに入り、地下のクラブ・オーナー室でマルテを撃つ。部屋から出たちところで、ピアニストのヴァレリー(カティ・ロジェ)と会ってしまう。しかし、ポーカーフェイスを通したジェフ。警察の一斉取り締まりに続く、面通しでもヴァレリーの証言によって切り抜ける。ああらかじめ準備しておいた愛人(ナタリー・ドロン)のアリバイ工作も功を奏し、逮捕は免れる。しかし、警視(フランソワ・ペリエ)はジェフを第一容疑者としていた。警察はジェフに尾行をつける、アパートの部屋に盗聴器をしかける、偽証罪で逮捕すると愛人を脅すといった手を使って犯罪の証拠を得ようとするが、用心深いジェフに気づかれてしまい、うまくいかない。
 一方、殺しを依頼した組織ではジェフが容疑者になったことから自分たちに捜査の手が及ぶ危険を考慮して、ジェフを消そうとする。礼金の待ち合わせ場所で待っていた金髪の男にジェフは撃たれた。幸い銃弾は腕に当っただけだったが、ジェフは依頼主を探し始める。もちろん復讐のためである。雇われただけの殺し屋稼業だったジェフは、罪を問う罪科人つまり仕置き人になっていく。
2017年10月6日


DVD 
日の名残り


コロンビア
1993年
134分 
  昨晩10月5日、ノーベル文学賞に決まったカズオ・イシグロの小説を映画化した作品。脚本家のハロルド・ピンターとマイク・ニコルズ監督が映画化権を取っていたが、ニコルズは『ウルフ』の撮影中だったし、二年先まで予定がつまっていた。そこで、イスマイール・マーチャントが製作に乗り出し、マーチャントの映画スタッフ、ジェームズ・アイヴォリー監督、ルース・プローワー・ジャブバーラ脚本での映画化にこぎつけた。アイヴォリー監督の映画『ハワーズ・エンド』のキャスト、アンソニー・ホプキンスを執事スティーブンス役、エマ・トンプソンをメイド頭ケントン役に配して映画化。
 英国のダーリントン卿(ジェイムズ・フォックス)はベルサイユ条約での過酷なドイツいじめを心よく思っていなかったし、ドイツ人の友人を自殺で失ったことにも心を痛めていた。1930年代、ドイツやヒットラーに対しても紳士的にふるまうことこそ理想的な態度だと考えていた。ダーリントン邸で催される饗宴にはヨーロッパの首班のみならず、ナチスの党員も招かれていた。あるべき執事は主人に忠実に仕えることである。自分の感情を殺すことが習慣になっているスティーブンスは主人が招いた客人をもてなすことに全力を傾ける。彼の父親(ピーター・ヴォーガン)が敷石に爪づいて転んだときも、脳出血で倒れたときも仕事を優先して迷わなかった。
 そんな彼も戦後は同じ邸宅だが、アメリカの下院議員ルイス(クリストファー・リーヴ)に雇われていた。1958年、彼のもとへケントンから手紙が届く。20年前に結婚で辞職した邸宅に再就職を申し出る内容だった。彼の心のなかに思慕の情がよみがえって来た。再会を約束した港町まで自動車で彼は出かけてゆく。
 約束を重んじるフェアプレーの精神が、ヒットラーには通用しなかった。結果的に英国紳士の過ちは、執事が主に対する姿勢と同じ構造ではなかったか。
2017年10月3日



DVD
ザ・ビッグ・ワン


ミラマックス
1997年
91分
 
  脚本・監督マイケル・ムーアのドキュメンタリー。ザ・ビッグ・ワンは大きいもの、例えばアメリカ合衆国や大企業のこと。
 イリノイ州セントラリアの菓子ペイ・ディを製造するリーフ社の工場で、従業員は突然解雇された。業績は堅調と思われたのに。ランダムハウス社から『規模縮小』を出版したのを機会に47各都市で講演会を行うマイケルは、各地で企業の不当な扱いを取り上げる。書店ボーダーズの店員は組合を作ろうとしている(作品の最後で組合はできたと店員たちは喜んでいた)。ミルウォーキーにある自動車部品会社は突然メキシコに工場を移すことを発表。現地の従業員を解雇に。マディソンでは医療手当を打ち切られた母親たちと一緒に知事室の掃除を提案。ミネアポリスでは、ピルズベリー社に宣伝費に100万ドルをかけるのは間違いだと訴える。ポートランドのナイキ社のCEOフィル・ナイトがムーアとの対談を実現。ナイキ社はインドネシアの工場で靴の36%を作っている。ムーアはCEOに航空券を差し出してインドネシアの現地視察を提案する。
2017年10月2日



DVD
 
ボウリング・フォア・コロンバイン

UA
2002年
120分 
 製作・脚本・監督のマイケル・ムーアが育ったミシガン州では、ライフルが銀行で買える。ユタ州では銃を持つことが義務だ。コロンバイン高校があるデンバー州リトルトンには武器メーカーのロッキード社もある。1999年4月20日、コロンバイン高校の二人の少年が銃を乱射、12人の生徒と1人の教師を殺害し、自らも命を絶った。銃撃の前に二人は、体育の時間に選択種目でボウリングをしていた。事件の10日後、NRA(全米ライフル協会)会長のチャールトン・ヘストンは現地で銃を擁護する演説をした。同時に高校の犠牲者の父親は銃を規制する運動をしていた。
 マイケル・ムーアはオクラホマ連邦政府ビル爆破事件(1995年4月19日)で容疑者だったが、証拠不十分で無罪になった兄のニコルスにインタビューしていた。銃は自己防衛のために必要だと主張する。枕の下に毎晩マグナムを準備していた。
 コロンバイン高校銃乱射事件の後、2002年2月、ミシガン州フリント市のピュエル小学校で小学1年の少年(黒人の母子家庭。貧困層)が同級生の少女ケイラを叔父の家から持ち出した銃で撃った。動機は不明(DVDに付属の解説書MMMMによれば、前日に口論となり、ケイラに平手で叩かれたため仕返ししようと思ったと供述)。事件はアメリカ全体の学校での生徒管理を強めた。また、9.11以降、貧困はブッシュの政府の優先課題ではなくなった。メディアで恐怖心を煽り、儲けている企業が登場した。
 コロンバイン高校事件の被害者で、9mm弾が体内に残っている高校生二人とムーアは、銃弾を売ったKマートへ出かけた。銃弾の販売を止めるように訴えると、二軒目のお店で副社長が狩猟用でない銃弾の販売を停止すると約束した。
 NRAの俳優ヘストンにインタビュー。カナダでは銃が普及しているのにもかかわらず、銃による犯罪が数件しかない。アメリカでは銃による殺人は世界一。その理由は何か? ヘストンはアメリカには暴力の歴史がある、人種の混在が原因と人種差別主義的な答えをする。ムーアはNRAの大会をピュエル事件直後に当市で開いたことを抗議する。ヘストンはインタビュー予定時間が過ぎたことを理由に答えを拒否した。
 メディアで恐怖心を植え付けられた人々が過剰に反応している。その結果、護身用の警報器の購入に走ったりする。つまり、恐怖心を煽ることが、企業の儲けにつながっている。日本の銃事件はゼロ。なぜ日本人は暴力に訴えないのか。社会構造が異なり、なんでも個人で解決すべきだと考えないからだろう。2002年カンヌ国際映画祭55周年記念特別賞受賞、2003年アカデミー賞 長編ドキュメンタリー賞受賞。
 2017年10月2日、ラスベガスで乱射による無差別銃撃事件があり、59人が死亡、200人以上が怪我をした。
2017年9月7日


DVD 
我輩はカモである


パラマウント
1933年
68分 
  パラマウント社の最後となるマルクス兄弟の映画『我輩はカモである Duck Soup 』は政治批判であり、時代のありとあらゆる不平不満に触れていた。背後にはヒットラーの演説がある。 
 破産したフリードニア国は億万長者のティーズデール夫人(マーガレット・デュモン)によって新大統領ファイアフライ(グルーチョ)の手にゆだねられる。敵国シルヴァニアの大使トレンティーノ(ルイス・カルハーン)はティーズデール夫人と結婚してフリードニアを支配しようという作戦だ。トレンティーノはスパイとして二人、チコリーニ(チコ)とピンキー(ハーポ)を雇っているが役にたつどころか脱線してばかりだ。それに二人はファイアフライにも雇われている。ピンキーはファイアフライの運転手だし、チコは内閣のメンバーである。さらに、ピーナッツ売りの屋台を営むチコは屋台にからむ男(エドガー・ケネディ)とハーポと丁々発止の帽子取りを演ずる。ティーズデール夫人の館で戦略書を盗みに入ったチコとハーポがグルーチョに変装して入れ替わり立ち代わりグルーチョを演ずる。ハーポがグルーチョと鏡の中の人物を演ずる鏡の場が有名。
 大使を殴ったことで、シルヴァニア国との間に戦争が始まる。大合唱団や舞踊団が戦争を賛美するミュージカル風狂騒曲となる。IMDbの評価は8.0。ジンマーマン『マルクス兄弟のおかしな世界』(晶文社、1972)参照。
 このころのコメディ映画は登場人物がギャグを言ってもそのままツッコミがなく、物語にも影響がなく、話が進行していくパターンが多い。したがって、英語に弱い外国人には理解できない場合が多い。
2017年9月5日


DVD 
マルクス一番乗り

MGM
1937年
109分 
  MGM時代のマルクス兄弟の『オペラは踊る』に続く第2作目にして最大のヒット作。製作のサルバーグはマルクス兄弟を評価していたが、本作の製作途中で亡くなった。後を継いだメイヤーはマルクス兄弟をさほど高く評価しなかったため、MGM時代の傑作は『オペラは踊る』と『マルクス一番乗り A Day at the Races 』に限られると評価されている。監督はサム・ウッドで、シリアス系の監督だったため、何度もテイクをくり返してグルーチョとは険悪だったようだ。
 保養所といったほうがよい療養所の経営が行きづまったため、事務長は競馬場のオーナーに身売りする算段を整えたものの、経営者のジュディー(モーリン・オサリバン)は承認し難く迷っていた。患者のひとりアップジョン夫人(マーガレット・デュモン)も療養所を退所しようとしていた。健康な彼女を病気と診断したのはハッケンブッシュ医師(グルーチョ)で、彼女は自分は病気だと信じていたし、ハッケンブッシュの診断を信頼していた。しかし、実際にはハッケンブッシュは獣医師だった。
 バスの運転手トーニ(チコ)はハッケンブッシュに電報を打ち、彼の来訪によってアップジョン夫人の退所を思いとどまらせようとする。はせ参じたハッケンブッシュ医師が引き起こす混乱。マルクス兄弟はジュディのために力を尽くす。
 映画化の前に巡業により舞台でギャグを公開、観客の受けがよかったものを取り入れるという方法が前作同様とられた。例えばチコのにせアイスクリーム売りがグルーチョに競馬予想の暗号帳を売りつけるギャグなどは間合いもセリフも舞台そのままだという。IMDbの評価は7.7。
 ジンマーマン『マルクス兄弟のおかしな世界』(晶文社、1972)参照。
 『ココナッツ』『けだもの組合』『いんちき商売』『御冗談でショ』『オペラは踊る』は鑑賞記録あり。
2017年9月4日



DVD
 
チャップリンの拳闘
チャップリンの浮浪者



1915-1916
31分+24分
 
  『チャップリンの拳闘 The Champion 』監督・脚本チャップリン。1915年、31分。犬とホットドッグのソーセージを分け合って食べているチャップリン。ボクサーに相手募集の広告を見て希望者の列に並ぶ。次々に殴り倒される男たち。チャーリーはグラブに蹄鉄を仕込んでチャンピオンをKOする。トレーナーに雇われて練習をする彼のもとに八百長をもちかけてくる紳士がいたが、彼は取り合わない。示された報酬は受け取ってしまったが。決戦当日、チャンピオンのパンチをよけて繰り出すパンチがときどき当って互角の戦い。混乱に乗じて勝ってしまう。IMDbの評価は6.8。
 『チャップリンの浮浪者 The Vagabond 』監督チャップリン、脚本チャップリン&ヴィンセント・ブライアン&マヴェリック・テレル、1916年、24分。バイオリンをかかえた浮浪者チャーリーは居酒屋の外で門付けしていたが、酒場の中で吹奏楽団が演奏していたのでチャーリーの音はかき消されていた。演奏が終わって客にチップを求めて回るが、客の反応は悪い。かえって吹奏楽団へのチップを横取りしたとして争いになってしまう。混乱の果てになんとか逃れたチャーリー。
 養父母に酷使される娘がいた。洗濯桶のそばでムチをふるわれる娘。チャーリーはバイオリンで彼女を慰める。養父母は容赦なく娘をいじめる。養父を殴り倒し、移動小屋を動かして娘を救出したチャーリーは翌朝、娘の顔を洗ってあげる。画家が通りかかって娘の肖像を描く。二人は気持ちを通じ合う。肖像は入選し、それを見た富豪は腕のあざから自分の娘だと気づき、炉辺の小屋へ迎えに来る。チャーリーは娘を喜んで送り出す。真実の愛に目覚めた娘は途中でとって返し、チャーリーとともに新しい生活に向かう。IMDbの評価は7.0。
2017年9月3日


DVD 
ロイドの牛乳屋


1936年
88分
 
 『ロイドの牛乳屋 The Milky Way 』監督レオ・マッケリー。戯曲を脚色したトーキー作品。サンフラワー乳業社長(ジョージ・バルビェ)は営業成績の良い優秀社員をほめるが、配達員バーリー(ロイド)の回る地域は成績が上がらないと指摘、話すたびにしゃっくりをするバーリーにあきれる。バーリーには美人の妹マー(ヘレン・マック)がいた。その妹にからむ二人の男と店先で喧嘩になる。ひとりはミドル級のチャンピオン・スピード(ウィリアム・ガーガン)、もうひとりは相棒のスパイダー(ライオネル・スタンダー)だった。警察官が駆け付けてみると、スピードがKOされていて「牛乳配達員がチャンピオンをKO」の新聞を飾る大ニュースとなる。スピードのマネージャー・ギャビー(アドルフ・マンジュー)は驚く。真相をバーリーに聞いてみると、バーリーはパンチのよけ方にすぐれていて、スパイダーのパンチをよけたところが、スピードに当ってしまったのだという。
 しかし、ギャビーはバーリーをチャンピオンに仕立ててもうける手口を考案する。ギャビーには共同事業者の女性アン(ヴェリー・チーズデール)もいる。八百長試合を組んで勝たせたあげく、6回めのチャンピオン戦にスピードと戦わせようというのだ。ボクシングはもとより殴り合いの嫌いなバーリーは話に乗ろうとしない。しかし、牛乳配達に使っていた馬車の馬アグネスが急に倒れる。緊急の電話を貸してくれたポリー(ドロシー・ウィルソン)は、理髪店に勤めていた。アグネスが倒れただけでなく牛乳屋をくびになってしまったバーリーは、アグネスの治療費のためにギャビーと契約を結ぶ。ボクシングの試合のバーリーのリング・ネームはタイガーだ。一回戦の対トルネード戦は1ラウンドでKO勝ち。ちやほやされるうちに次第に自分でも自信がついてきたバーリー。ライオンをひきつれたり、凱旋パレードに参加したり。牛乳屋の社長も宣伝費を出す。
 増長したバーリーにポリーは引導を渡す。バーリーは自分を二重人格だと意識し、悪いタイガーを追い出したい、試合には出ないという。ギャビーは試合に資産家の婦人の牛乳基金が設定されていることを説明してなんとか翻意させる。試合当日、ポニーのリトル・アグネスがバーリーについてきて、バーリーは会場に遅れてしまう。リトル・アグネスに蹴られて気を失ったスピードは気付け薬と間違えて不眠症の薬という眠り薬をスパイダーに飲まされてしまう。試合は途中で眠ってしまったスピードがダウンしてしまい、バーリーの勝ち。牛乳屋の社長はバーリーにボクサーを止めるなら共同経営者にと提案、バーリーはギャビーも雇うことを提案。スピードは恋仲となったバーリーの妹が彼の口座の金をすべてバーリーに賭けていた。IMDbの評価は6.7。 
2017年9月2日


DVD 
猛進ロイド


Pathe Picture
1924年
80分 
  『猛進ロイド Girl Shy』監督フレッド・ニューマイヤー&サム・テイラー。猪突猛進の猛進だが、前半は女性の前ではあがってしまい、言葉も出ないハロルドの意識過剰が描かれる。ハロルドは作家に憧れており、『The Secret of Making Love』(女性にモテる方法)という原稿を書いて出版社へ持ち込む。自身の体験を許に「小悪魔的な女性」には「無関心を装うこと」や、「フラッパー(わがまま娘)」には「武骨な態度で対応」といった恋愛指南を書いたもの。出版社の従業員の間では話題になり、作家にも関心が持たれる。
 バッキンガム家の令嬢メアリー(ジョビナ・ラルストン)は旅行に愛犬を連れていたが、あいにく列車は犬の同乗は禁止。犬だけ駅に取り残されているところをハロルドが救った。犬が戻ってきたので、メアリーは感謝。ハロルドは彼女に自分の本の内容を滔々と説明する(ちっともどもらない)、二時間しゃべり続けて終点に到着したのにも気づかないほどだった。
 メアリーにしつこく求婚するロナルド(カールトン・グリフィン)には隠し妻がいた。火曜日、出版社への持ち込み原稿が社長に評価を得ていないことを知ったハロルドは彼女に期待を持たせてはいけないとわざとつれなく当たり、自分を嫌いにさせる。気落ちしたメアリーはロナルドの求婚を受けてしまう。新聞でメアリーとロナルドの結婚を知ったハロルド、隠し妻のことも知り、本の出版もされる予定で前金3000ドルも支払われていることを知り、どうしてもこの結婚を阻止しなければならないと思い立つ。そこから彼女のもとへ駆けつけるまでの経緯が猛進ロイドの真骨頂。車や馬車を乗り継ぎ、ひたすら走る、走る。
 結婚の約束の直前に間に合い、ロイドはメアリーを式場から奪う。事情を知ったメアリーは彼の求婚を受け入れる。IMDbの評価は8.0。
2017年8月28日


DVD 
キートンのエキストラ


MGM
1930年
92分
  『キートンのエキストラ Free and Easy 』1930年:監督監督エドワード・セジウィック,脚本リチャード・シェイヤー。トーキー作品である。キートンの歌声さえ聞かれる。IMDbの評価は5.6。
 ミス・ゴーファに選ばれたエルヴァィラ(アニタ・ページ)のマネージャー,エルマー役がキートン。鬼ママ(トリキシー・フリガンザ)にまぬけ呼ばわりされ,くび同然の扱いをされる。撮影所で警備員に追われ,いろいろな映画の場面にまぎれこんでしまい,トラブルを起こす。レビューをめちゃくちゃにしてしまった後、エルヴァイラのとりなしで勅使役をもらう。簡単なセリフでもつまづいてトラブル。間違って運転手に雇われる。最初の客がエルヴァイラと俳優ミッチェル(ロバート・モンゴメリー)のデート。エルマーは鬼ママをアパートに連れてくる。誘惑されかけた彼女を救った。ミッチェルはエルマーと同じカンザス出身で気が合って,エルマーは役をもらう。妻に殴られる夫,女王にいたぶられる王様,砂漠の大佐,箱から飛び出すマリオネットのピエロ,レビューでのダンス。体当たり演技が評価されてコメディアンとして契約に。喜びをエルヴァイラに伝えると彼女もミッチェルから求婚された喜びを伝える。芝居の後に笑顔で迎えて愛の言葉を受けるというのは彼女にエルマーが教えたことだった。泣き笑いの表情で最後の場面を迎えるエルマー。
2017年8月28日


DVD
 
キートンの結婚狂


MGM
1929年
75分 
  『キートンの結婚狂 Spite Marriage 』:1929年,監督エドワード・セジウィック,脚本アーネスト・S・パガーノ,原作リュー・リプトン。IMDbの評価は7.1。
 女優トリルビー・ドルーにクリーニング店のエルマーは惚れて劇場に通い詰めていた。劇中,彼女にキスできる役の男と代わって機会を得たが,幕が下りてきて想いを果たせず。しかし彼女がパトロンにふられた腹いせにファンの彼に気づいて急に結婚してくれることになる。贅沢なお店で元のパトロンとブロンド美人とはりあって酔っ払った彼女を介抱するキートン。
 腹いせ結婚の翌朝,彼女マネージャーが離婚を手配することを申し出る。元のパトロンを殴って警官に追われる。逃げ込んだ車が密輸団の車で結局,密輸船に乗ってしまう。私的な旅の船だというが元パトロンとトリルビーも乗っていた。タバコの火で機械室が火事になる。火を消し水を汲みだす。夜の間にはほかの船員たちは救助ボートで脱出してしまう。
 スコールが来そうなのでセールをたたもうとする。彼女も帆に巻き込まれて大変。
 海賊船が来て船に荷物を積み替える。彼女を船室に隠したが,海賊船の船長に発見されてかどわかされそうになる。必死で彼女を守るキートン。海賊船の乗組員を次々に気絶させ入港,トリルビー救出の立役者となる。
 船の修理をした機械工を殴る場面は後味が悪い。
2017年8月27日


DVD  
キートンのカメラマン

MGM
1928年
69分
 
  『キートンのカメラマン The Cameraman 』:監督エドワード・セジウィック,脚本リチャード・シャイヤー,原作クライド・ブラックマン&リュー・リプトン。報道カメラマンは注目の仕事だが,タイプのちがうカメラマン・キートンもいた。MGMニュース・オフィスを訪ねたキートンは婦人記者のサリー(マルチェリン・ディ)に撮影した写真を贈る。カメラを買ったら入社テストが受けられるという助言で,140ドルの映画用中古カメラを買って再び社へ乗り込む。倉庫が火事だというニュースが入った。どこの倉庫か聞かなかったため火事場へ行けずじまい。野球の試合も撮れなかった。空っぽの休場でひとり野球をする。試写室でも不人気で落ち込む彼。サリーに元気づけられて電話番号を教えた。日曜の朝,デートにそなえて貯金箱から10セント玉を取り出す(壁を台にして金づちで叩き壁を壊してしまう)。デートできることになって有頂天,混雑したバスで上下に分れて乗ることになり脇へとりつく,公営プールのひとつの着替え室を男と一緒に使う,ダブダブの水着が飛び込みで脱げてしまう,浜辺で遊ぶ予定を止めてサりーの同僚の車で送ってもらうものの雨が降ってきてずぶ濡れ。翌日,中国人同志が拳銃をやりとりするのを目撃した情報官からの報せでチャイナタウンで事件がある可能性を知らされたキートン,サルつかいと衝突して死んだと誤解されたサルを買ってしまう。チャイナタウンでは祭りの最中,急に銃撃戦が始まる。銃弾の雨をかいくぐりながら必死に撮影するキートン。警官隊が踏み込んできて中国マフィアは逮捕された。MGM社に戻ってカメラをあけてみるとフィルムの切れ端しか入っていない。フィルムを入れ忘れたみたいだ。愕然とするキートン。情報を提供したことを責められてサリーもがっかりする。翌日モーターボートで遊ぶサリーとジム。転覆して投げ出されたサリーをキートンが助ける。しかし薬局へ行っている間にジムがサリーを介抱していた。彼女を助けたのもジムと誤解されてしまう。しかし一部始終をサルがカメラを回し撮っていた。翌日,抗争の記録のフィルムもサルが入れ替えていたことに気が付く。証拠となるフィルムを会社に届けて、もとのポートレート写真屋に戻っていたキートンに、フィルムを見て真実に気付いた会社重役やサリーからの称賛の言葉が伝えられる。IMDbの評価は8.3。
2017年8月30日


DVD 
キートンの蒸気船


UA配給
1928年
69分 
  『キートンの蒸気船 Steamboat Bill, Jr. 』:監督チャールズ・F・ライズナー,脚本カール・ハーバー。ミシシッピ川に浮かぶのは新型蒸気船、オーナーの名前もキング。それと対照的なオンボロ蒸気船ストーンウォール号のオーナーはビル。彼の倅ウィリーが列車で到着するという電報が入った。ビルは生まれてこの方会っていなかった息子を出迎えたが,予想に反してまるっきりのやさ男。父親は息子に作業着をあつらえるが,キングの娘、おさな馴染みのキティ(マリオン・バイロン)の見立てで、高貴な船長風の衣装が仕立てられた。キングとビルは反目しあっている。キティの呼び出しに応じたウィリーは隣船キング号に乗り移ろうとするも失敗。翌朝,父親は息子にボストンへ帰れと切符を渡す。折り悪しくストーンウォール号は沈没の危険があるとして公安委員会より営業停止処分を受ける。キングの差し金だと怒ったビルはキングを殴って牢屋に入れられてしまう。ボストンに帰されるところだったウィリーは父親が牢屋に入れられたのを見て帰りの切符を処分。 
 天気概況は雨。濡れながらも牢屋にパンを届けに来たウィリー。パンのなかに脱獄道具を忍ばせていたが,保安官に気づかれてしまう。いったんは保安官を殴って気絶させ牢屋から出た二人だったが,息子が捕まったのを見て牢屋に戻る父。 嵐がひどくなり,ウィリーが収容された病院も壁ごとふき飛ばされる,家は崩壊する,身体を斜めにしないと風に耐えられない。暴風雨に流されたキングやキティ,牢屋ごと流されたビルらを救ったウィリーはみんなの和解のきっかけを作った。
 IMDbの評価は8.0。
2017年8月30日


DVD 
キートン将軍


UA配給
1926年
105分

 
 『キートン将軍 The General 』(別題キートンの大列車追跡)。監督・脚本キートン&クライド・ブラックマン。1861年,蒸気機関車の名が「将軍」号。機関士ジョニー・グレィ(キートン)には機関車と恋人アナベル・リー(マリオン・マック)が大切。南北戦争が始まった。アナベルの兄も南軍に志願して出発。ジョニーも恋人に「あなたも志願しないの」と言われ,さっそく志願するが,受付では機関士として働いてもらう方が良いと判断されて入隊を拒否される。偽名と職業を偽って入隊しようとするも失敗。他人の許可証で入隊しようとするも見つかる。恋人の兄や父に列に誘われても失意のジョニーは気落ちするばかり。
 恋人に「なぜ入隊しなかったの」と聞かれて「断られたんだ」と答えるも,「ウソはやめて。軍服を着るまでは話しかけないで」と言われてしまう。
 それから一年後,北軍は列車を奪って南軍の補給路を断つ計画を立てていた。ビッグ・シャンティ駅で、夕食のため停車した列車「将軍」が北軍によって盗まれた。荷物を取りに貨車に戻っていたアナベルも捕らわれてしまう。
 <映画の感想を綴るブログ>を参考にあらすじ。最初は走って,次にはトロッコに乗って将軍を追いかける。兵隊を乗せた車両が切り離されていて.結局ひとりで追いかけることになったジョニー,北軍は南軍が大人数で攻めてきたと勘違いし、将軍で一生懸命逃げる。燃料が心許なくなったジョニーは積んでいた木材を斧で切り刻む。背後には北から南へ攻める軍隊が来ていたが,ジョニーは薪割りに精を出していて,それに気づかない。 北軍が汽車にジョニー一人しか乗っていないことに気づくと,ジョニーは汽車を降り、屋敷に逃げ込む。屋敷が北軍の指令本部でジョニーは机の下に隠れて、北軍の奇襲攻撃作戦を全て盗み聞きする。さらに,隣の部屋に捕らわれているアナベルを救出。
 二人が外で朝を待つと目の前に将軍が。北軍の軍人が積荷を積んでいる。ジョニーは麻袋にアナベルを入れ,貨物庫に入れる。連結部もはずし,ジョニーは将軍と貨物車一両を盗み南部へ向かう。今度は北軍がテキサス号に乗り,ジョニーの乗る将軍を追いかける。ジョニーとアナベルは手を変え品を変え,様々な方法で北軍のテキサス号を邪魔する。そして、二人は北軍を振り切り,南軍の駐屯地に戻る。そこでジョニーは北軍の作戦をばらし,南軍は地理的優位な位置から砲台で北軍を狙い打ち。南軍は北軍を追い返す。将軍の中には、ジョニーが角材で殴って気絶させた北軍の軍人が一人いた。ジョニーはそれらの功績が認められ、一躍少尉に任ぜられ、晴れてアナベルと抱き合うのだった。
IMDbの評価は8.2。
 飯尾じゅんこ氏のブログより,“何度もくりかえし観ているうちに・・・すこしずつ、わたしは理解するようになりました。 『大列車追跡』が、やっぱり超超傑作なのかもしれない、ということが・・・ 驚くべきことに、この映画の構成は、映画の中盤を境にしてきれいに左右対称になっているのです。 前半で、将軍号をおっかけていく道中に起きるいろいろな出来事(敵の通信を絶つ、給水塔でずぶぬれになる、線路に障害物をおいて敵のじゃまをする、など)が、今度は後半で、将軍号をとりかえして逃げる道中にも、そっくりそのまま起きるのです。 つまり、前半と同じことを後半にもそのまんまくりかえしているのです。 そんな構成の長編映画が、ふつうありますか!? 『大列車追跡』は、表面的には歴史娯楽大作の体裁をとりながら、実はものすごく野心的な実験映画だったのです。しかも、それを観客に意識させないおもしろさに満ちあふれている! キートンの芸術家としての繊細さと知性は、作品の前衛性を用心深く奥にかくして、容易に観客にさとられないように細心の注意をはらったことでしょう。
2017年8月27日


DVD   
拳闘屋キートン
キートンの大学生


メトロ配給
UA配給
1926年/1927年
78分 
  『拳闘屋キートン Battling Butler 』:1926年,監督キートン,78分。「山で暮らしてみろ」と山でのキャンプ生活を試みても、至れり尽くせりの生活で過保護に育った富豪の坊ちゃん、アルフレッドが惚れた彼女(サリー・オニール)だったが、彼女の父親に「へなちょこに娘はやれん」と結婚を断られ,対戦相手と同じ姓だったため執事はバトラーは翌日のボクシングのチャンピオンの挑戦者だとウソをつく。挑戦者が負けることで試合の結果は忘れられると執事は予想していたが、試合は挑戦者が勝ってしまう。ラジオで聞いていた人たちは祝賀ムード。早速結婚式も行われていまさらウソだったとは言えなくなってしまう。挑戦者のキャンプ地に行ってみると本物のバトラーの妻が同行していた。キートンの妻も来てしまい,妻どうしが鉢合わせをしてしまう。バトラーはゴタゴタを嫌って防衛戦の試合を止めてしまい、ニセ・バトラーが試合をする羽目になる。三週間減量し訓練して試合に臨もうとするキートン。試合を見に来ないはずだった妻も観戦に来る。万事休す。リング上に「バトラー」コールがされる。しかし、そこでリングに現れたのは本物のバトラーだった。試合はKOで、チャンピオン、バトラーの勝利。控室に戻ってきたバトラーに御礼を言うキートン。バトラーは「三週間生かしておいてやっただけさ」と殴りかかってくる。防戦一方だったキートン、怒りのパンチが功を奏してチャンピオンをKOしてしまう。恋人は真実を知ったがハッピー・エンド。IMDbの評価は7.2。
 『キートンの大学生 Colledge 』:1927年,監督ジェームス・W・ホーン,脚本カール・ハルポウ&ブライアン・フォイ,66分。カリフォルニアで高校の卒業式,どしゃぶりの雨の日。高校一の美人メアリー(アン・コーンウォール),花形スポーツ選手とともに勉学に秀でたロナルド,キートンにメダルが送られ演説「スポーツの大害について」を弁じる。演説は不評で講堂の学生たちはいなくなる。メアリーも「考えを変えないのなら軽蔑するわ」と言い残す。彼には大学へ進学する費用がない。そこで大学食堂の従業員に応募するが、ウェイターの技が身につかない。野球チームに紛れ込んでみたが、ルールが不明。有色人種食堂のウェイターやら陸上部の砲丸投げ・やり投げ・走り高跳び・走り幅跳び・ハードル・ハンマー投げ・棒高跳び等を試みるが、うまくいくはずもない。ディーン学長はロナルドの成績不振を問う。恋人のためスポーツに打ち込んでいると答える。学長は彼をクルーのコックスにするようボート・コーチに銘ずる。コーチはアルに眠り薬を呑ませようとするが失敗。レースは勝利。メアリーは退学処分になったジェフに監禁されていた。電話で助けを求めるメアリーの声を聴いたロナルドは駆け付け、ジェフを追い払う。二人は結婚して幸福に暮らしましたとさ。IMDbの評価は7.1。
2017年8月30日


DVD 
キートンのセブン・チャンス

メトロ配給
1925年
56分 
 『キートンのセブン・チャンス Seven Chances 』(別題キートンの栃面棒):1925年,監督キートン,56分。愛するメアリーに一年たってもなかなか告白できない証券マン・ジミー。会社は詐欺にひっかかり金策に追われる毎日。そこへ祖父から700万ドルの遺産が転がり込む。ただし、27歳の午後7時までに結婚する条件つき。「今日だ!」。メアリーだ。求婚するも事情を話すと「誰でも」いいからという言葉にメアリーは怒ってしまう。母親に諭されて「他の人と結婚しないで。今日は家にいます」との手紙を庭師に託す。一方,共同経営者や弁護士は誰かほかの女性と結婚させようと画策する。クラブでジミーの知り合いの女性は七人。「セブン・チャンスだ」。試しに一人の女性に声をかけてみるが笑われる。次々に別の女性に声をかけてみるが笑われることは変わらない。子供に声をかけられたり、女装スターに声をかけてしまったり。共同経営者は新聞広告に遺産のための花嫁募集を出した。教会で待っていたジミー。無数の花嫁候補に追いかけられ、岩と山の斜面を転げ落ち、やっとメアリーの家にたどりついたが,ああ時間切れ。と思ったら・・・。IMDbの評価は8.0。
2017年8月27日


DVD 
海底王キートン

メトロ配給
1924年
59分 
  『海底王キートン The Navigator 』:監督ドナルド・クリスプ&キートン,脚本クライド・ブラックマン&ジョセフ・ミッチェル&ジーン・ハヴェッツ。急に「今日結婚する」と宣言した遺産で優雅に暮らすお坊ちゃんと、向かいの館で求婚を断った社長令嬢ベッツィ(キャスリン・マックガイア)の二人が偶然にも巡洋艦で漂流する羽目になる。反目する某国が船出させて座礁するのを狙ったためだった。救助してくれると思った軍艦は巡洋艦が挙げた旗が伝染病告知だったため逃げ出し、人食い族は潜水服姿の彼を海の怪獣と間違えて大あわて。IMDbの評価は8.0。
2017年8月30日


DVD   
キートンの探偵学入門


メトロ配給
1924年
44分 
  『キートンの探偵学入門 Sherlock Jr. 』(別題忍術キートン):監督キートン,脚本ジーン・ハヴェッツ&ジョセフ・ミッチェル&クライド・ブルックマン。44分。
 探偵修行中の映写技師のヒロインはキャサリン・マクガイア。懐中時計を盗んで質草にしたという嫌疑をかけられたキートンは容疑者の色男を尾行する。貨物列車の貨車に閉じ込められても天井から脱出。散水器の放水に会う。娘は質屋へ客を確認に行き、キートンの無実を知る。映画館で映写技師が上映する映画は「心と真珠」。居眠りをした技師の心は体から抜け出して画面の中へ入る。場面が変わるたびに転んでしまう。交差点が崖に変わったり、ライオンの群れに取り囲まれたり、線路上になる、岩礁の上になる、雪原になる。映画のなかでは盗まれた真珠の捜査に電話で名探偵が呼ばれる。色男とその手下は斧をしかけたギロチン椅子や毒物、爆発するビリヤード球で探偵を始末しようとするが失敗。翌日には盗賊団の一味と追いつ追われつの展開。女性の持つ箱の中へ飛び込む名場面がある。警察官の運転する二輪の前席での追跡や四輪車での追跡を経て川で沈む場面で夢から醒める。娘が謝りに来て仲直り。映画の恋人どうしを真似てハッピー・エンド。IMDbの評価は8.3。  
2017年8月30日


DVD  
荒武者キートン

メトロ配給
1923年
68分
  『荒武者キートン Our Hospitality 』(1923):監督キートン&ジャック・ブライストン,脚本ジーン・ハーヴェッツ&クライド・ブルックマン&ジョセフ・ミッチェル。68分。家どうしの争いがあった。血のけの多いジム・キャンフィールドがマッケイ家に殴り込みに行き、相撃ちになって両家には遺恨が遺った。20年後、幼子は伯母に育てられてウィリー・マッケイ(キートン)となった。彼の許に父の土地の契約書の連絡が入った。駅馬車を連結したような列車で遺産を確認に行くウィリー。叔母はキャンフィ-ルドには近づくなと助言する。列車で一緒になった娘(ナタリー・タルマッジ),キートンの三番目の妻)はキャンフィールド家の娘だった。凸凹レールで揺られたり、後輪が外れたり、トンネルで煤けたり、ポイント切り替え手のミスで客車と機関車が分離したりして、なんとか街に到着する。マッケイ家の場所を尋ねたのはキャン家の息子だった。一方、親切にしてもらったお礼にと娘は夕食にウィリーを誘う。マッケイの家はボロ家で戸を開くと壊れるような家だった。釣りをしたり、ダムの爆破での放流があったり。夕食に来たウィリーをキャン家の父親は「客を撃つのは礼儀に反する」と息子たちを止める。ウィリーは執事に家名を聞く。外へ出たら撃たれる。肉切包丁をちらつかせる父親。外は豪雨になったので、ウィリーは帰宅せず、この家においてもらうことにする。一方,父親からウィリーの正体を聞いて愕然とする娘。女装して逃げ出したウィリー帰りの列車に飛び乗る,見つかりそうになるとウマで逃げる,崖っぷちで命綱にすがる。キャン家の息子と命綱でつながる。川に落ちて流される。列車に追いついたこともある。彼の身を案じた娘はボートを出した。濁流に流され、滝に落ちるすんでのところでウィリーに救われる。暗くなったため捜索を打ち切ったキャン家の面々。いつのまにか妹は帰宅しており,牧師の宣告で二人は結婚していた。争いを帳消しにして祝福を与える父親と兄たち。IMDbの評価は7.9。
2017年8月27日


DVD 
キートンの恋愛三代記

メトロ配給
1923年
47分 
  『キートンの恋愛三代記 The Ages 』(1923年):監督キートン&エディ・クライン。石器時代・古代ローマ時代・現代と三代にわたって恋愛模様を描く。IMDbの評価は7.1。
 <映画中毒者の映画の歴史>より,“グリフィスの『イントレランス』(1916)のパロディとも言われる作品で、3つのエピソードが交互に描かれながら進行していく。本が開かれるシーンからスタートしているところも『イントレランス』と同じで、意識して作られたことは間違いないだろう。キートンがこの形式で初長編作品を監督したのは、もしも長篇として失敗したときに,そ れぞれの時代のエピソードを別個の短編として公開しようとしたからだと言われている。『イントレランス』は公開後の興行的な失敗をうけて、個別のエピソードのみでの公開が行われた。だが、幸いにも『恋愛三代記』は成功したため、別個で公開されることはなかった。
 キートンは『恋愛三代記』までに数十本に及ぶ2巻物の短編に出演している。2巻物の短編群のほとんどは素晴らしい出来で、キートンのアクロバティックな動きに、乗り物やセットをうまく使った優れたアイデアによるギャグが組み合わさった作品となっている。『恋愛三代記』は自身でも作りなれた2巻物を組み合わせた作品とも言え、さすがに優れたギャグのオンパレードとなっている。
 石器時代では、木を用いた投石器を使って自らを投げ飛ばしてみせるというアクロバティックな動きの楽しさに加えて,遺言を書いてもらうときのギャグ(キートンは長々としゃべっているのに、石に刻まれるのはほんの少し)や、ライバルの男が投げた石をキートンが野球のように持っていた棍棒で打ち返すギャグなど,アイデアが冴えている。
 ローマ時代は、なんと言っても『ベン・ハー』のパロディとも言えるチャリオット競争のシーンが面白い。ちなみに、フレッド・ニブロ監督、ラモン・ノヴァロ主演の『ベン・ハー』は1925年の作品であり、「恋愛三代記」が製作されたときはまだ公開されていない。だが、「ベン・ハー」の原作は1880年に出版されベストセラーになっており、舞台化もされ、1907年には15分の短編が映画化されているため、パロディといっていいのではないかと思う。
 チャリオット競争のシーンでは、キートンは砂地でもうまく動けるように車輪をスキーにして、馬を犬に変えて対決に挑む。一頭の犬がケガをするとスペアの犬と取り替えたり、猫を犬の前にぶら下げて犬を走る気にさせるといったギャグが満載だ。
 ローマ時代の大規模なセットが素晴らしい。チャリオット競争のシーンでは、巨大な客席まで作られている。「恋愛三代記」は、当時大きな映画会社だったメトロ社が関わったために実現できたのかもしれない。また、メトロ社の他の作品で使われていたセットを使えたのかもしれない。
 現代のシーンが、アイデアもアクロバティックな動きも最も冴えているように思える。冒頭では、キートンの旧式の自動車が、バンプに乗り上げた瞬間にバラバラ(一部ではなく、文字通り全体がバラバラ)になるというアッと驚くギャグから始まる。圧巻は、キートンがビルの屋上から隣のビルの屋上へと飛び移ろうとするが、失敗して落下。だが、窓につけられた布製の屋根のおかげで助かるというアクロバット。
 このアクロバットにはキートン映画の真髄があるように思える。現在の映画なら、カットを割って、大げさな音楽と叫び声が加わり、時間をかけてみせるところを、キートンはさらりと数秒の出来事として見せてしまう。キートンはどんな状況に陥っても、どんなにすごいアクロバットを行っても、無表情でさらりと演じて見せる。それがキートンの魅力の1つだ。「これからすごいことをやりますよ!」という提示がなされないために、不意打ちで訪れるキートン映画の素晴らしいシーンは、現在の人々を驚かせるのに十分だが、一方で現在の見せ方に慣れている観客は気づかずに素通りしてしまう可能性も持っている。
 『恋愛三代記』は2巻物から長篇へと移行していくキートンの習作とも言える作品だが、内容は豊穣で楽しい。キートンは、これ以後本格的な長篇へと舞台を移して大活躍をしていくことになる。
2017年8月26日


DVD  
空中結婚
捨小舟

USA
1923年
 
 『バスター・キートン傑作集4』(IVC)に収録された5作品のうち1923年製作の2作品。 
 『空中結婚 The Baloonatic 』:遊園地のビックリ館の受付に勤務していたキートン青年。ふとしたはずみで気球に乗ってしまった。気球のゴンドラの底には穴が開いていたので運転士がいなかった。キートンはしばらく運転したが,やがて気球がしぼんで森に落下する。川で釣りをすることにする。底に穴のあいたビクに魚を入れようとした。カヌーを作ってこぎ出すが段差のある個所でえ沈没。足を上にして流される。釣りをしていた娘に救助される。娘が雄牛に襲われそうになるが首尾よく救助することができないためあきれられる。熊が追ってくる。伐採した樹木の下敷きになる娘。偶然だが熊を倒して模様替えしたカヌーに娘を迎え入れられる。川の行く手には滝があった。だが,カヌーは空に浮く。気球がいつのまにか結んであった。IMDbの評価は6.8。
 『捨小舟 The Love Nest 』:恋をしないと告白,君の事を忘れるために世界一周の旅に出ると。何日か後、捕鯨船に遭遇,捕鯨船の船長は嫌われ者。腕に茶をこぼした給仕を海に投げ込む始末、だんだん船員が減る。船長自ら海に投げ出されてしまったことがあった。船員はみな大喜び。だが船長は無事戻ってきていた。船員はみんな救助ボートで逃げる。キートンの乗った救助ボートが砲撃訓練用の3番まとに衝突、大砲で撃たれてこっぱみじんになる場面で目ざめた。食料や水が尽きる。万事休す。救助ボートに恋人が泳ぎつく。IMDbの評価は7.0。
2017年8月26日


DVD  
北極無宿
電気屋敷
成功成功

USA
1922年
 『バスター・キートン傑作集4』(IVC)に収録された5作品のうち1922年製作の3作品。
 『北極無宿 The Frozen North』:アラスカの大雪原。居酒屋でルーレットを開帳しているのをのぞき見たキートンはお尋ね者の看板を切り取って窓に立てかけ,「手を挙げろ」と声をかけて男たちに銃を棄てさせ札束を集める。酔っ払いが看板を見破ってしまい泥棒は失敗。外のベンチで楽し気に語るカップルを目撃,射殺した後で妻の不倫でなかったことに気づくが後の祭り。妻は頭を物にぶつけて気絶。別の男の妻に惚れたキートンは白服に着替えて女に会いに行く。夫に邪魔されるので想いを遂げることができない。女も夫一筋である。犬橇で出発した夫婦の後を追って馬車で追跡する。氷を割って魚釣りをしたり,ギターを輪かんじき代わりにしたり。すべては映画館での夢だったというオチがつく。IMDbの評価は6.6
 『電気屋敷 The Electric House 』(別題『電器館』):学長の邸宅の電化工事を頼まれたキートン(卒業式で証書が他人のものと入れ替わってしまった)が,動く階段,ビリヤード,列車式配膳,徹底した機械仕掛けに仕立てた。しかし,本物の電気技師が復讐を企てていた。IMDbの評価は7.3
 『成功成功 Day Dreams 』(別題『白日夢』):都会に出たキートンが故郷の恋人に手紙を送るたびに(最初は療養所の所長実際は犬猫病院,ウォール街の投資家実際は清掃夫,舞台俳優実際はレビューの端役といった具合),恋人は出世したように思い込む。観客に追いかけられたというが実際は警官騒動。故郷に郵便でやつれた姿で届けられる。立派になれなければ拳銃自殺するという約束だったので,恋人の父親のリボルバーを借りるが自殺に失敗する。父親は窓から外へ青年を放り出す。IMDbの評価は6.9。
2017年8月26日


DVD 
酋長
警官騒動
キートン半殺し
鍛冶屋


USA
1922年 
 『バスター・キートン傑作集3』(IVC)に収録された4作品。
 『酋長 The Paleface 』 :1921年作品。石油目当ての白人に1ドルで土地の権利書をだまし取られ,土地を追われた酋長は,最初に部落への門を入ってきた白人を殺せと命じていた。そこへ現れた蝶々コレクターのキートン。火あぶりにされそうになる。アスベストの布を離れ小屋で発見,下着を仕立てて着用。火あぶりにされても無事だったことから尊敬されることになる。インディアンの仲間となったキートンは役所に土地無効の申し立て。逃げた役人が服を着替えさせたことからインディアンたちに勘違いされて襲われる。しかし、誤解が解けて洋服の内ポケットに入っていた土地権利書をインディアンに返す。IMDbの評価は7.0
 『警官騒動 Cops 』 :1922年作品。1970年代にキートン再上映が行われた際に長編『セヴンチャンス』と同時上映された短編。他人の引っ越し家具を買わされたキートン。馬車での帰途,年に一度の警官パレードに遭遇。手りゅう弾を投げ込んだ男の手りゅう弾で煙草に火をつけた後でなげ棄てたから大変。警官たちに追われる身となる。IMDbの評価は7.7
 『キートン半殺し My Wife's Relation 』(別題『猛妻一族』):外国人居住区にて手づくりキャンディのお店の青年キートンの誤解による結婚相手は東欧系の大女,乱暴な大家族によってたかっていじめられるキートン。伯父の遺産が10万ドルという手紙を見つけて急に待遇が変わるがそれは人違い。一家の資金でアパートを買ったが。IMDbの評価は6.7
 『鍛冶屋 The Blacksmith 』:クリの木の下に村の鍛冶屋が建っていた。弟子をいじめる親方がシェリフに咎められて留置所行き。その間に来たお客さん,白馬に蹄鉄を依頼される,馬具の注文を依頼される,自動車の修理を依頼されるなど,かえって汚してしまったり,不適切な対応をしてしまったり。戻って来た親方は弟子に当たり散らして車は分解してしまう。白馬の娘が戻ってきて二人は結ばれる。IMDbの評価は7.0
2017年8月26日


DVD 
ハード・ラック
ザ・ハイ・サイン
悪太郎
即席百人芸
漂流


USA
1921年 
 『バスター・キートン傑作集2』(IVC)に収録された5作品。 
 『ハード・ラック Hard Luck 』:1989年にチェコで発見されるまで幻の作品だった。最後の3分間が失われていた。運に見放された男が列車の前に寝たり,落下する金庫の下になろうとしたり,縄を首に巻いて飛び降りたりと,自殺しようとするがうまくいかない。階段落ちのギャグがある。偶然飛び込んだ会議で動物園にアルマジロがいないことが問題になっていた。男はアルマジロ獲得の仕事を見つける。釣り上げた小さい魚を餌にして大きな魚を釣り上げていくが巨大な魚がかかったらしいところで釣り上げに失敗。カントリークラブでキツネ狩りに来た女性の乗馬を手伝ってひとめ惚れ。自分も馬に乗って狩りに参加しようとする。熊に追いかけられてしまう。悪漢と対決して娘を守ろうとする。しかし娘には夫がいた。飛び込み台から飛び込んで(以降フィルム紛失)プールの外に落ちてしまい、穴が開く。数年後、穴を通じて中国から戻って来た青年は中国妻と子供を連れていた。IMDbの評価は7.1
 『ザ・ハイ・サイン The High Sign 』:クレジットには1920年作とある。射的場に雇われた青年,当たりのゴングに犬をつないでごまかしていた。銀行の支配人がギャングから命を狙われているからと用心棒として雇われる。強盗団にも誘われる。露出不足で画面が暗い場面が多い。IMDbの評価は7.7
 『悪太郎 The Goat 』(別題『強盗騒動』):パン配給所に並んだつもりだったが紳士服のマネキンだった。ふとしたことから警官に追われる羽目となる。なんとか窮地を脱したものの,刑務所で殺人犯の顔写真を撮るとき,外からのぞいていてまちがって撮られたキートン。脱獄犯で殺人犯として自分の手配写真が貼られる。IMDbの評価は7.8
 『即席百人芸 The Play House 』(別題『一人百役』):オペラハウスに入るとバンドのメンバーも舞台の俳優も客席の観客もみんながキートン。最大9人のキートンが同一ショットに出てくる。サルの役まで演ずることになる。歩哨隊が大砲を組み立てたり,壁を乗り越えたりする。つけひげが燃えた男の火事を消したり,水槽に閉じ込めた女性を救出したり。IMDbの評価は7.7
 『漂流 The Boat 』(別題『船出』):脚本・監督はキートン。倉庫の出口より大きい船。入口の上を壊して車で引っ張りだすと倉庫全体が壊れてしまう。進水させると船は沈んでいってしまう。優れた船は沈んでも浮き上がるものだという字幕。妻と男児2人を乗せて船は大洋へ出る。橋の下をくぐるときには煙突は横倒しになる。しかし予期せぬ低い場所があってぶつかって壊れてしまう。10秒後には修理されている。揺れる船内で食事をしようとするが無理である。夜になって海が荒れだし,海水が入ってくるわ,風で傾くわ,海には落ちるわ,マストが折れるわ,回転するわ,船底に開けた穴で浸水が激しくなり,危険がいっぱい。小さな救助ボートに家族を乗せて船長は船と一緒に沈没。と思いきや浮かんできたキートン船長は救助ボートに乗船。しばらくして浅瀬にいることに気づき,どこか浜に上陸。「ここはどこなの?」{知るもんか(船の名前)」。船内で翻弄される子供たちもポーカー・フェイスなのが驚き。IMDbの評価は7.2
2017年8月25日


DVD  
化物屋敷

USA
1921年
  『化物屋敷 The Haunted House 』:『バスター・キートン傑作集1』ではこれだけ1921年作品。キートンは銀行員。この銀行の支配人とニセ札偽造団の一味はアジトを化け物屋敷と偽っていた。窓口のキートンは指を湿らそうと誤って強力な接着剤に指をつっこんでしまい,お札がくっつきあって困っていた。強盗団がやってくるが彼らに渡されたお札もくっつきああって大混乱。しかし,DVDディスクが再生不良でしばしば停止し,途中で再生不可能になった。購入してから全編を見たのは初めてで再生不良に気付かず。IMDbの評価は7.0。
 <再生不良はDVDのせいではなかった。再生機の不具合だった。再生時間が長いと再生不具合が起こった>
2017年8月25日


DVD 
ゴルフ狂
案山子
隣人


USA
1920年
 
  IVCの『バスター・キートン傑作集1』に収録の短編。『ゴルフ狂 convict13』:ゴルフボールが川に落ちる。キートンは魚を捕まえては吐かせてボールの有無を確かめる。3匹目ほどでボールを回収。気を失ったキートンは脱獄囚に服を変えられる。囚人13はその朝の死刑囚だった。絞首刑になるものの,恋人が絞首縄をゴムひもに替えていたため助かる。IMDbの評価は7.1
 『案山子 The Scarecrow 』:一軒家に大男(ジョー・ロバーツ)と一緒に住み,機械仕掛けの調理テーブルなどいわばオートメーション生活。ひとりのお嬢さん(シヴィル・シーリー)に恋して彼女の頑固な父親(キートンの父ジョー・キートン)や犬に追いかけられる。IMDbの評価は7.9
 『隣同志 Neighbors 』:キートン青年は木の塀に仕切られる隣の娘(ヴァージニア・フォックス)と熱い仲だが,父親どうしは犬猿の仲。裁判で和解したものの相変わらず対立は続き,結婚式は大波乱となる。吊りバンドが切れてズボンが頻繁に落ちるギャグ。神父のズボンまで落ちてしまい関係者がみんな座って式を執り行う羽目にまでなる。安物の結婚指輪に怒って花嫁を連れ帰った父親の監視のすきをついて,隣の窓から花嫁を連れ出そうとするキートン。IMDbの評価は7.7
2017年8月24日


DVD 
文化生活一週間


USA
1920年
18分40秒
  IVCの『バスター・キートン傑作集1』に収録されたキートン製作・主演の短編第二作め(一作目『ハイサイン』は気に入らずに公開を遅らせた)。原題はOne week。脚本・監督はバスター・キートン&エディ・クライン。別題は『キートンのマイホーム』。9日に結婚を祝われる二人(キートンとシヴィル・シーリィ)。新居へ向かう車の運転手は花嫁にフラれた男フンク。途中で車を乗り換えたり,乗り移ったり。新婚祝いに二人は伯父からマイホームを贈られるがポータブル・ハウスは自分たちで組み立てるもの。フンクが組み立て順序の番号を書き換えたため,いびつな家が出来上がる。切った材木ごと落下するわ,梯子が全部はずれるわ。ピアノの下敷きになるわ,雨が漏るわ,日めくりのたびにトラブルが起こる。13日の金曜日,引っ越しパーティを催すと次第に嵐が吹き荒れて,いびつな家は急速に回転し始める。家の外に出てしまったキートンは家の中に戻ろうと奮闘努力する。一度は戻りに成功するが再び外へ投げだされる。パーティに参加していた人々も外へ投げ出されてくる。全員ずぶ濡れ。伯父は「メリーゴーラウンドは楽しかったが今度は馬がいるともっと楽しい」と言葉を送った。
 15日,新居の場所は99番地ではなく,66番地だったと教えられ,樽をコロにして家を引っ張って新しい番地へ移動しようとする。館を車で牽引するが,途中でひもがはずれ,立ち往生。車の座席を家の壁に打ち付けてみたが,車のシャシーだけが進んでしまった。ふと気がつくと家は線路をまたいでしまっている。列車が迫って来る。
 IMDbの評価は8.2。壁反転ギャグにシヴィル・シーリィも参加している。
2017年8月27日


DVD
コニー・アイランド
自動車屋
馬鹿息子


USA
1917/1920
 
 『コニー・アイランド Coney Island』(別題『デブ君の浜遊び』1917):監督・脚本はロスコー・アーバックル。21分。遊園地に見物に来たなかにキートンと娘がいた。しかし,キートンは入場料が払えず別の初老の男に女性を取られてしまう。一方,浜辺ではデブ君が恐妻と来ていた。犬のように砂浜に穴を掘って隠れ,妻をやりすごしたデブ君は別の娘を誘う。娘をめぐってデブ君,キートン,初老の男のみつどもえ,殴り合いとなる。デブ君は更衣室で太った女の衣装を着用して女装する。IMDbの評価は6.4
 『自動車屋 The Garage 』(別題『デブの自動車屋』1920):監督・脚本はロスコー・アーバックル。15分。自動車屋で働くデブ君ら三人,修理するどころか壊してしまったり,自己分解してしまう車だったり。女性従業員に求婚するジムがからんで混乱が激しくなる。油で汚れた花束で真っ黒になったり。工場は消防署を兼ねていて火事の報せに反応して飛び出したデブ君とキートン。最初はジムの虚報だったが,いつしか工場の本当の火事になり,電線に取り残される娘を救出しようとする努力が。IMDbの評価は6.8
 『馬鹿息子 The Saphead 』(1920):監督ハーバート・ブラーシェ,脚本ジューン・マティス。71分。キートンは富豪ニックの息子バーティ。ニックには引き取った孤児を育てたアグネスという娘もいた。バーティはアグネスと恋仲。けれども父親にはそのことを打ち明けてはいなかった。女の子の心をつかむ方法という本にはプレイボーイであれという指南があって,バーティは踊り子ヘンリエッタに入れあげたふりをしていた。アグネスが実家に帰ってくる日,駅に迎えに行くが会いそこなってしまう。二人は翌朝お互いの気持ちを確認し,結婚を願い出るが,父親は一人前になっていないと許さず,100万ドルの小切手を渡して自活を促す。一年後,別居で生活をしていたバーティのもとへアグネスが訪れ,来週の火曜日に結婚式を挙げる計画を立てた。
 一方,ニックの娘婿マーク・ターナーは過去にヘンリエッタと密かに交際していた。死の床にあった彼女は死後,娘に恋文をもたせてターナーの庇護を求めた。娘が手紙を届けた日,マークは手紙の主はバーティだと偽り,結婚式は破談になる。
 ニックが船旅に出かけ,留守中マークに全権を委任した。マークはニックの知人のヘンリエッタ鉱山を暴落させ,ニックの株式を乗っ取ろうと企む。計画は成功しそうだったが,失意のバーティが気晴らしに投資所に立ち寄り,ヘンリエッタの名前に反応して,騒ぎを抑えるためにヘンリエッタと叫ぶ者に片っ端から「買った」と声をかけて暴落を食い止める。船酔いで家に戻っていたニックはすべてを理解して二人の結婚を許すのだった。キートンの身体を張ったアクションは投資所で次々に人を押しのけ「買った」と声をかける場面に見られる。IMDbの評価は6.2  
2017年8月24日


NHKEテレ
 
チャップリンvsキートン


MK2TV
2015年
45分 
 NHK・Eテレ「ドキュランドへようこそ」で放映されたフランスTV局MK2TV製作「CHAPLIN/KEATON Duel of Legends」監督シモン・バケス。
 サイレント・コメディの二大巨匠チャップリンとキートンの歩みを描いた中篇。1914年マック・セネット製作の短編でチャップリンは映画デビュー。キートンはファッティ・アーバックルの推薦で映画に登場した。キートンの『文化生活一週間』は映画評論家によれば,オーソン・ウェルズの『市民ケーン』と肩を並べるほどの偉大な作品だという。キートンは撮影で全身の骨を折ったという。チャップリンは「食い違い」を表現することでコメディを作った。チャップリン映画の成功がなければサイレント喜劇の隆盛はなかった。二人は自分のプロダクションで映画を作ったが長編映画でさえ,脚本はほとんど無かったという。作りながらアイデアを出していったのだという。チャップリンの『黄金狂時代』(1925)とキートンの『大列車強盗』(1926)にはリアリズムに関する二人の違いが表れている。『黄金狂時代』は膨大なロケ撮影を行ったのに,編集でそのほとんどを使わず,スタジオで撮り直した。『大列車強盗』ではほとんどがロケ撮影・実写撮影で作られている。列車が鉄橋ごと落ちる場面はサイレント映画史上最大の経費がかかったという。『ジャズ・シンガー』(1929)がトーキーの幕開けを告げると,急速にサイレント・コメディは退潮した。チャップリンは『街の灯』(1931)でトーキーに抵抗し,キートンは自分のプロダクションをたたんで,MGMに雇われ,『カメラマン』を撮った。二人のサイレント・コメディを特徴づけるのは「カオス」であった。キートンは酒におぼれ,端役に甘んじるようになってしまった。チャップリンは『ライムライト』(1952)にキートンの出演を要請した。舞台の名優として往年の功績に敬意を払ったものであった。
2017年7月30日


DVD
 
女神が家にやってきた


タッチストーン
2003年
105分
 スティーブ・マーティン主演のコメディ。ジェイソン・フィラーディ脚本、アダム・シャンクマン監督。法律事務所に勤務するピーター(スティーブ・マーティン)は妻に愛想をつかされそうになっている仕事人間。インターネットで法律相談をしてきたシャーリーンが送ってきた写真を見て、期待した美人と会えると思ったが、現れたのは言葉も乱暴な黒人娘(クィーン・ラティファ)。無実の罪(銀行強盗)を晴らして欲しいと訴える娘に閉口したピーターは依頼を断ろうとするが、同僚がシャーリーンのボディに惚れてしまうわ、大金持ちの未亡人を顧客に迎える瀬戸際となるわ、間の悪いことが続き、大騒動。未亡人の思い出話といった扱いで、黒人に対する偏見を笑いの急所につかっているし、市民にとって危険なダウンタウンには黒人中心の酒場があるといった展開で、これで黒人からの反発はないのだろうかと懸念されるような内容だった。シャーリーンを演ずるラファティが白人娘をたたきのめしたりする(ラファティは殴り合いの喧嘩には図抜けて強い)ことで黒人の溜飲が下げられるから、いいのだろうか。
2017年7月22日



DVD 
ハーヴェイ


ユニバーサル
1950年
104分 
  メリイ・チェイスのブロードウェイのヒット喜劇を映画化したヘンリー・コスタ監督作品。中年男エルウッド(ジェイムズ・スチュワート)は近所の居酒屋チャーリーに飲みに行くのが日課だ。彼は常にハーヴェイと一緒で誰彼かまわず連れを紹介しようとする。ハーヴェイは2mもある大きな白いウサギだというが、ほかの人には見えない。居酒屋で知り合った男を家に招待する癖もあって、エルウッドの母親の死後、同居する叔母のヴィタ・シモンズ(ジョセフィン・ハル)とその娘のマートル・メエ(ヴィクトリア・ホーン)は頭を痛めている。エルウッドが外に出ている間にパーティを開いてしまおうと計画したものの、居酒屋で新聞広告を示されたエルウッドが戻ってきてしまい、変な弟の帰還で客は次々に帰宅、ぶち壊しになる。
 二人はエルウッドをチャムリー院長が経営する精神病院に入れようとする。しかし、ヴィタ・シモンズの話を聞いたサンダースン医師はウサギを現実のように話すヴィタを患者と思い込み、彼女を個室に隔離し、逆にエルウッドを外へ開放する。
 間違いに気づかされた医師や看護婦ケリー(ペギー・ダウ)、助手ウィルソン(ジェシー・ホワイト)は必死に彼を探す。彼と話をしてみると、会う人誰にでも親切な言葉をかけてくれる紳士なので、幻覚のことは忘れてしまうのだった。院長もハーヴェイの存在を感じてしまい、自分自身の心の底の打ち明け話をしてしまうほどだった。彼は幻覚を止める薬物を注射されかかるが、突然ヴィタが心変わりをする。
 ジョセフィン・ハルがアカデミー助演女優賞を受賞。
2017年7月1日


WOWOW 
俺たちに明日はない


WB
1967年
111分
 
 不況時代、伝説の銀行強盗ボニーとクライドの顛末を描いたアメリカン・ニューシネマの代表作品。監督はアーサー・ペン、脚本はデイビッド・ニューマンとロバート・ベントン。
 ボニー(フェイ・ダナウェイ)は母親の車をのぞきこんでいるクライド(ウォーレン・ベイティ)に「盗むんじゃないよ」と声をかける。出所してきたばかりのクライドが射撃がうまく、食品店で簡単に強盗をはたらいたのを見て、興味を持ち、行動を共にする。勢いで次々に強盗をはたらく二人は指名手配の犯人になる。クライドは車に強いC.W.モス(マイケル・J・ポラード)や、兄のバック(ジーン・ハックマン)とその妻ブランチ(エステル・パーソンズ)を仲間に引き込み、銀行強盗を続ける。最初は破たんした銀行に押し入ってまったく金を得ることができなかったりと失敗つづきだった。警官との銃撃戦も経験して罪を重ねていく。
 クライドは女性が苦手で性的不能と設定されている。追い詰められた最期の状況ではクライドは性的に回復する。最初に映画化を企画したのはウオーレン・ベィティで、ボニー役には当時の恋人レスリー・キャロンを考慮していた。ベイティは製作に専念するつもりだった。トリュフォーやゴダールに監督の話が行ったという。フェイ・ダナウェイはモデルからの抜擢。車を盗まれるアベックにジーン・ワイルダー。 
2017年5月4日



DVD
ケス



英国
MGM
1969年
110分
 
 ひとつのベッドに二人の男児が寝ている。少年ビリー(デヴィッド・ブラッドレー)と年の離れた義兄ジャド(フレディ・フレッチャー)だ。先に起きたジャドは炭鉱に出かけ、ビリーは自転車をジャドに取られたので走って新聞配達店へ行く。
 朝早くから新聞配達をして小遣い稼ぎをしている少年の父親は失踪、母親(リン・ペリー)は何の仕事をしているのかは描かれないが、身持ちがよくないらしく、付き合う男に身の上話をしてグチっている。ジャドは炭鉱の仕事に誇りを持っているわけではなく、見栄っ張りで荒れた生活をしている。
 ビリーは学校に友人もいないし、体育の教師(ブライアン・グローヴァ)には目をつけられて何かと体罰をくらう。サッカーの模擬試合ではいやがるビリー・キャスパーをゴールキーパーに据える、失点の責任を押し付けて冷水のシャワーを浴びせる等、不等な扱いをする。校長も問答無用で生徒に理不尽な体罰を与える。ある日、ビリーは付近の農場の廃墟の教会でハヤブサの巣を見つけ、ヒナを取って育て始める。タカの飼育法の本を古本屋で万引きして手に入れ、本にそってハヤブサのケスを飼い慣らしていった。非協力的と烙印をおされるビリーだったが、社会科の授業での無理やりのスピーチで話したハヤブサの訓練の話は同級生に尊敬の念を抱かせるのにじゅうぶんだった。先生(コリン・ウェランド)も感心して興味を持ってくれた。先生はビリーのハヤブサの小屋や訓練場を見学に来てくれる。
 しかし、ジャドが馬券を依頼した馬が勝てそうもないと初老男性から聞いたビリーは賭け金をフィッシュ・アンド・チップスとケスの餌代に使ってしまった。ジャドの賭け馬が勝ったことからジャドの怒りはビリーに向いた。逃げ回るビリー。ジャドはケスを逃がそうとして攻撃してきたからとケスを殺していた。ゴミバケツから死体を取り出したビリーは怒りと哀しみをこらえてケスを埋葬するのだった。
 原作バリー・ハインズ、脚本ハインズ&トニー・ガーネット&ケン・ローチ、監督ケン・ローチ。
 
2017年4月6日



DVD
エマ

英国
1996年
121分
 脚色・監督はダグラス・マックグラス。エマ役はグウィネス・パルトロウ,ハリエット(トニ・コレット),エルトン氏(アラン・カミング),フランク(ユアン・マックレガー),エマを諫めるナイトリー氏(ジェレミー・ノーサム),ジェイン(ポリー・ウォーカー),エマの長年のガバネスであったウェストン夫人(グレタ・スカッキ),ウェストン氏(ジェイムズ・コスモ),エルトン夫人(ジュリエット・ステーヴンソン),ベイツ夫人(ソフィー・トンプソン),ベイツ夫人の母(フィリダ・ロウ),ハリエットに求婚する青年マーティン(エドワード・ウッドオール)。
 屋外の自然のロケなどに魅了される場面が多く,物語が効果的に説明される。
2017年4月5日




DVD
エマ



BBC
1972年
126分+130分
 
 ジェイン・オースティンの原作。ジョン・グレニスター監督。6話放映。カメラワークなどで凝った映像は見られない。エマ役のドーラン・ゴッドウィンも英国映画版『エマ』のグウィネス・パルトロウに比べると表情がきつく,可愛げがないので損をしている。私邸で開くパーティに招待したりされたり,けっこうお付き合いが大変な様子が描かれる。
 エマ・ウッドハウス(ドーラン・ゴッドウィン),エマに忠告をするジョージ・ナイトリー(ジョン・カーソン),エマの老齢の父ウッドハウス(ドナルド・エックルス),おしゃべりと善意のベイツ夫人(コンスタンス・チャップマン),エマの長年の家庭教師(ガバネス)で結婚したばかりのウェストン夫人(エレン・ドライデン),ウェストン氏(レイモンド・アダムソン),エマの縁結びに翻弄される少女ハリエット(デビー・ボーウェン),牧師エルトン氏(ティモシー・ピータース),成り上がりで自己顕示欲の強いエルトン夫人(フィオナ・ウォーカー),ウィリアムズ(ヴィヴィエンヌ・ムーア),ウェストン氏の先妻の息子フランク・チャーチル(ロバート・イースト),ベイツ夫人の姪で孤児ジェイン・フェアファックス(アニア・マーソン),ベイツ夫人の母(メリー・ホルダー),ハリエットの教師ゴダード夫人(モリー・サッデン),農夫ロバート・マーティン(ジョン・アルキン),パッティ(アンバー・トーマス),ウッドハウス家の長女イザベラ・ナイトリー(メグ・グリード),ジョージの弟ジョン・ナイトリー(ジョン・ケルランド),ヘンリー・ナイトリー(アラン・タイ),コール夫人(ヒルダ・フェネモア),フォード夫人(ララ・ロイド)。
 エマはハリエットを牧師エルトンと結婚させようと画策する。ハリエットはマーティンから求婚されていたが,エマはエルトンを優先しハリエットにマーティンの申し出を断る手紙を書かせる。しかし、エルトン氏の真のお目当てはエマだった。急にエルトンから求婚されたエマは動揺するが断る。エマに断わられたエルトンは資産家の娘と結婚、このエルトン夫人は目立ちたがりの成り上がりでエマは閉口する。ベイツ夫人の姪で病弱のジェインやウェストン氏の義息フランクなどに翻弄されるエマ。 
2017年4月6日




DVD
マンスフィールド・パーク



BBC
1983年
128分+131分
 
 ジェイン・オースティンの原作。ディヴィッド・ジルズ監督,6話放映。プライス家の内向的な長女ファニー・プライス(シルヴェストラ・ル・タウゼル)が兄ウィリアム・プライス(アラン・ヘンドリック)に手紙を送る。その書簡にそって話が進む。ファニーを養女にしたトーマス・バートラム卿(バーナード・ヘプトン)とその妻の病弱で意志も弱いバートラム夫人(アンジェラ・プレザンス)にもたくさんの子供たちがいる。
 長女マライア・バートラム(サマンサ・ボンド),長男トム・バートラム(クリストファー・ヴィリアーズ),次男エドマンド(ニコラス・ファレル),次女ジュリア・バートラム(リズ・クロウザー)である。
 ファニーをプライス家に預ける姉ノリス夫人(アンナ・マッセィ)や,ヘンリー・クロフォード(ロバート・バーベッジ), その妹メリー・クロフォード(ジャッキー・スミス-ウッド),グラント博士(ゴーデン・ケイ),グラント夫人(スーザン・エドモンストン),バッドリー(ネヴィル・フィリップス),ラッシュワース氏(ジョナサン・ステフェンス),その母(ジリアン・マーテル)など次々と登場人物が現れてきて,記憶の整理がつかないくらいである。
 ファニーの母プライス夫人(アリソン・フィスケ),ファニーの父プライス氏(ディヴィッド・バック),ファニーの妹スーザン・プライス(エリル・メイナード),ファニーの兄ベッツィー・プライス(クレア・シモンズ),トム・プライス(ジェイムズ・キャンベル),チャールズ・プライス(ジョニー・リー・ミラー)など大勢。
2017年4月4日



DVD 
知性と感性




BBC
1981年
173分
 ジェイン・オースティンの原作『分別と多感』のテレビ化。85分×2部構成。ロドニー・ベネット監督。エリノアの魅力でみものとなっている。
 知的で感情を制御しがちな長女エリノア(イレーネ・リチャード),小説好きで恋を夢見る次女マリアンヌ(トレーシー・チャイルズ),原作の三女マーガレットは映画化では削除されて登場しない。娘思いの母ダッシュウッド夫人(ダイアナ・フェアファックス)は亡くなったヘンリーの後妻である。
 ヘンリーが世話をしてきた独身の先代当主は,ヘンリーの先妻の息子ジョン・ダッシュウッド(ピーター・ゲィル)の子供ハリーに屋敷を相続させるように決めた。そこで後妻と娘たちは屋敷を追い出されることになったところから映画は始まる。3000ポンドの遺産を半分夫人に分けずに年間50ポンドを渡すことですまそうとする欲張りのジョンの妻ファニー(アマンダ・ボクサー)。
 マリアンヌに心を寄せる35歳のブランドン大佐(ロバート・スワン),ダッシュウッド母娘にバートン屋敷を貸すジョン・ミドルトン卿(ドナルド・ダグラス),よそよそしいその妻(マージョリー・ブランド),ジョン卿の妻の母親で陽気なジェニングス夫人(アニー・レオン),フェラーズ家の長男で牧師志望のエドワード(ボスコ・ホーガン),その弟で気取り屋のロバート(フィリップ・ボーウェン),その母で尊大なフェラーズ夫人(マーゴット・ヴァン・デル・バーフ),情熱家のウィロビー(ピーター・ウッドワード),バートン屋敷の庭師トム(ジョン。オーウェンズ),女中スーザン(ジーナ・ロウ), ジェニングス夫人の親戚で伊達男好きの姉アン・スティール(ピッパ・スパークス),お世辞屋の妹ルーシー・スティール(ジュリア・チェンバーズ),ウォリス夫人(エリザベス・ベンソン),退屈な紳士パルマー(クリストファー・ブラウン),その妻で妊婦のシャルロッテ・パルマー(ヘッティ・ベインズ)。

 参考文献  中野康司『ジェイン・オースティンの言葉』(ちくま文庫.2012)


2017年4月1日以降、2017年12月31日までに見た 日 本 映 画 (邦画)会長

見た日と場所 作  品              感    想 ・ 梗  概   (池田博明)
2017年12月31日

DVD 
八日目の蝉


松竹・日活
2014年
147分
 
  どしゃぶりの雨のなか、ひとりの女性が窓からしのびこんだ部屋で泣いている赤子をさらって逃げた。 女は上司にもてあそばれ、中絶させられて、自分の子供は産めない体になってしまった野々宮希和子(永作博美)。4年間の逃亡生活の果てに警察に逮捕されてしまった。 子供にとって幼児期の4年間は貴重だ。実の母親との関係がうまくできない恵理奈(井上真央)は親から離れて生活しながら、妻子ある岸田(劇団ひとり)と交際、 岸田の子供を妊娠してさえいた。そんな恵理奈に取材を希望するひとりの女性・千草(小池栄子)が接近してくる。
 希和子は母子ともにエンゼル・ホームに隠れる。エンゼル・ホームは、エンゼル(余貴美子)をリーダーに女性と子供だけの救いを意図する宗教集団である。ホームでは子供は薫と名乗った。ホームから娘や妻を奪い返そうと息巻く家族団体からの抗議が激しさを増し、警察の介入を恐れて、ホームを脱出する。薫と仲が良かったマロンとも別れた(マロンは長じて千草となる)。ホームにいた久美の協力を得て久美の郷里・小豆島へと逃亡した。久美の母親(風吹ジュン)のもとへ滞在、母子二人はしだいに島の生活になじんでいく。しかし、薫が4歳の夏、カメラマンが撮影した写真がコンテストに入賞。捜査の手が迫る。
 監督は成島出、脚本は奥寺佐渡子、音楽は安川午朗、撮影は藤澤順一。
2017年12月30日

DVD 
赤い天使

大映
1966年
106分 
 製作は久保寺生郎、原作は有馬頼義、脚本は笠原良三、撮影は小林節雄、音楽は池野成。監督は増村保造。
 従軍看護婦・西さくら(若尾文子)は天津の野戦病院に派遣された。従軍看護婦の目線で戦争を描くと、映画は傷病兵中心の物語になる。銃創で瀕死の兵士や、十分な麻酔薬がない状態での弾の摘出、四肢の切断といった治療が主になる。傷病兵の立場から描かれる戦争は栄光のかけらもない、悲惨な光景である。西さくらは兵士たちに強姦される。自分を強姦した上等兵は退院させられ戦地へ。数日後、腹部を撃たれて虫の息、西は輸血を申請する。自分を犯したことによって兵士を死なせたくないという思いだった。また、両腕を失った折島上等兵(川津祐介)の性の悩みを聞き入れた。折島の外出許可を取り、ホテルの浴室で抱かれる。折島は感謝の手紙を遺して飛び降り自殺してしまった。感情を殺すしかないと兵士の処置に臨む岡部軍医(芦田伸介)に西は魅かれていく。岡部はストレス解消のためモルヒネ依存症になっており、性的不能になっていた。前線基地の部落に応援救護に駆け付けたものの、部落ではコレラが発生。中国軍の襲撃も迫り、絶対絶命の日本兵のなか、西は禁断症状で苦しむ岡部の手足を縛ってモルヒネ注射を断ち、不能を解消させた。 
2017年12月29日

DVD 
積木の箱

大映
1968年
83分 
 原作は三浦綾子、脚本は池田一朗、撮影は小林節雄。明治百年記念芸術祭参加作品。
 佐々林一郎(内田喜郎)は父親(内田朝雄)と姉・実は妾、奈美恵(松尾嘉代)の情事をのぞき見てしまう。姉の高校三年みどり(梓英子)は知っているが黙っている。一郎は女を軽蔑する、父親も嫌いだと言うが、性に目覚める。北栄中学校の担任教諭・杉浦(緒方拳)は一郎の変化に気づく。杉浦は学校近くの牛乳屋の久代(若尾文子)をサマーキャンプの炊事係に頼む。久代は小樽時代の剛一(内田)の秘書、久代の子供・和男は剛一にレイプされて出来た子供だった。そのことを知った奈美恵は久代に闘いを宣言、一郎を誘惑する。久代に想いを寄せる杉浦が中学校の宿直室に和男をあずかった夜、一郎は父への復讐心から火を点ける。
 愛人の存在をきっかけに思春期の子供を軸に家族の亀裂が表面化する。つくりもの感が強い。
2017年12月28日


DVD 
妻二人


大映
1967年
93分 
 原作はパトリック・クエンティン、脚本は新藤兼人、撮影は宗川信夫、音楽は山内正。監督は増村保造。
 雑誌社「主婦の世界」の事業副部長・柴田健三(高橋幸治)はバーで昔の恋人・雨宮順子(岡田茉莉子)に会った。小説家志望の健三は社長の娘・道子(若尾文子)との結婚を選んだ。会社は「清く明るく美しく」がモットー。社長(三島雅夫)は元モデル。美佐江(長谷川待子)と関係している。美佐江は元伯爵の井上と結婚、井上は会社の役員におさまり、障害児就学寄付金を横領。
 順子の恋人・小林(伊藤孝雄)は小説家志望、道子の妹・利恵(江波杏子)にアタック。健三夫婦は小林と利恵の結婚に反対。小林は道子を強請る。道子は金を作って口止めさせようとするが、小林は強請の種が増えたと喜ぶ。道子は小林が所持していた順子の拳銃で小林を撃つ。
 小林の殺人容疑が順子にかかる。健三は小林に追い出された順子が自宅を訪ねてきたことを証言して順子のアリバイを証明する。健三が探偵役で真犯人を探す。つくりもの感が強い。

2017年12月29日


DVD 
清作の妻


大映
1965年
93分 
  原作は吉田弦二郎、脚本は新藤兼人、撮影は秋野友宏、音楽は山内正。監督は増村保造。
 お兼(若尾文子)は貧乏で村から追われた家計を助けるために、17歳のとき親子ほども年の違った老人(殿山泰司)の囲い者になる。明治35年、老人が亡くなると、お兼は遺産千円を相続することになったが、息子夫婦はこれきりで関係を切りたいと通告。お兼は母親トキと一緒に自分たちを追い出した池田村に戻る。
 村いちばんの模範優等生の誉れが高い清作(田村高廣)が除隊して村に帰って来た。清作は兵隊時代の賞金を元手に半鐘を持参して来た。朝早くからその鐘を打ち鳴らす清作。村の人々は早朝から起こされ、勤勉な生活に励まざるを得なくなったが、お兼はそんな清作の規律にいっこうに従おうとはせず、自堕落な生活を通し、村八分同様の扱いを受けていた。お兼の母親の急病・急死をきっかけに、お兼を不憫と思い、葬儀の一切を取り仕切った清作は、お兼と急速に親しくなり、愛し合うようになる。婚約寸前と予想されていたお品(紺野ユカ)は悔しがる。清作は母親と妹から反対されるが、お兼の家に入った。遺産でもらった畑を二人は耕す。母親から頼まれた頭の弱い親戚の兵助(千葉信男)が同居する。
 日露戦争が始まり、清作は応召されるが、半年後、旅順で怪我をした。病院への見舞は母親が行った。怪我は旅順の決死隊に志願しての、腕と腿に名誉の負傷。清作は再び英雄として村に戻ってきた。祝宴の金にお兼は貯金を出した。お兼は清作を二度と戦争にやるまいと決心し、拾った五寸釘で清作の目を衝く。村人たちに殴る蹴るの暴行を受けるお兼。憲兵曹長(成田三樹夫)が調べに来る。軍法会議で清作は無罪、お兼は殺人未遂で懲役二年。清作の家族は卑怯者、非国民と非難された。しかし、清作はお兼の家に戻る。鐘を捨てる清作。牢屋で、鎖につながれたお兼。
 監獄から出たお兼を待っていたのは清作だった。お兼のひとりぼっちの苦しみが理解できた、模範兵として世間の価値観で生きるのは間違いだったと清作。畑を耕すお兼と見えないながら見守る清作の姿に「完」。
 予告編のBGMはバッハの「前奏曲とフーガ」。
2017年12月28日



DVD 
女の小箱・より
夫が見た

大映
1964年
92分 
  原作は黒岩重吾、脚本は高岩肇・野上龍雄、撮影は秋野友宏、音楽は山内正。監督は増村保造。
 石塚興業の石塚(田宮二郎)は敷島加工の株を買い占め、乗っ取りを企む。石塚は敷島加工の株式課長・川代誠造(川崎敬三)の妻・那美子(若尾文子)に接近。バー23(トゥースリー)のマダム・洋子(岸田今日子)に資金を出させていた。買い占めは進んでいたが、バー23に警察の風俗営業違反の捜査が入る。情報を提供したのは石塚の秘書エミ(江波杏子)だった。エミは情報を取るために川代が囲っていたのだったが、何者かに殺される。その晩、石塚は川代の浮気を密告して那美子をくどく。那美子は石塚との会合の時刻を警察で証言して石塚の疑惑を晴らす。一方、大曾根(小沢栄太郎)は川代に敷島加工の35万株は売らないと約束する。
 石塚は持ち前の粘りを発揮して大曾根の持ち株を買い取る。川代は那美子に石塚に体を売っても株を売るように依頼してくれと頼む。那美子は石塚の愛情を試すべく、条件を提示。石塚は那美子の愛情を取る決心をするものの、バーのママ洋子は石塚の裏切りを許さなかった。
2017年12月28日



DVD 


大映
1962年
88分
  原作は徳田秋声、脚本は新藤兼人、撮影は小林節雄、音楽・池野成。監督は増村保造。
 自動車のセールスマン・浅井(田宮二郎)の愛人・葉山増子(若尾文子)は浅井が妻帯者であることを知った。浅井と妻・竜子(藤原礼子)の仲はすっかり冷えており、離婚調停が進んでいる。竜子の兄(殿山泰司)が責任者になっていた。竜子は浅井のことを思い切ることができず、別れた後発狂、屋根裏部屋に閉じ込められた挙句、亡くなってしまった。
 増子の友人・雪子(丹阿弥谷津子)は青柳(船越英二)との関係を続け、沖縄や北海道での巡業公演に付いていく。増子のアパートには兄(浜村純)の子・栄子(水谷良重)が田舎で勧められる結婚話を嫌がって上京してくる。アパートに同居しているうちに栄子と浅井は関係ができてしまう。怒り狂った増子は栄子に暴行、さらに田舎の青年・室との結婚を強力に進める。
 年配の老人と結婚した良子(弓恵子)は妊娠したという。 
2017年12月27日


DVD 
妻は告白する


大映
1961年
91分 
 原作・円山雅也、脚本・井出雅人、撮影・小林節雄、音楽・真鍋理一郎。監督は増村保造。
 冒頭から法廷に被告(若尾文子)が入り、検察官(高松英郎)の冒頭陳述から始まる。
 北穂高岳を登攀中、滝川彩は滑落した夫(小沢栄太郎)と自分の間のザイルを切り、幸田(川口浩)と自分の生命を救った。直前に夫が五百万円の生命保険に加入していたこともあって、ザイルを切った行為が夫を殺す目的だったのか、緊急避難だったのかが、法廷で争われることになった。夫は登山が好きで薬学博士だが、妻の幸福を考える人間ではなく、離婚にも承知しない横暴な人間だった。幸田の婚約者・理恵(馬淵晴子)は幸田の気持ちをつかみかねている。判決の結果は無罪で、弁護士(根上淳)は緊急避難の新しい判例が出来たと喜んだものの、新しいアパートに引っ越し、保険金に手をつけた彩を幸田は非難する。滑落したザイルを支える幸田の手の血が象徴する痛みと、助かろうとロープを振る夫の身勝手さとを感じて、ザイルを切った彩だった。それはもはや殺人だったと幸田は判断する。恐ろしくなり、彩から離れる幸田。幸田に捨てられる絶望感から雨のなか、幸田の会社を訪ねてくる彩(撮影はこの場面から始まったと若尾は証言していた)。幸田は理恵に相談する。彩はトイレで青酸カリを仰ぐ。青酸カリは貧乏時代に自殺用にと滝川の研究室から持ち出したものだった。
 理恵は「女はいつも本気で愛情を注ぐ。奥さんの愛情は本物だった。奥さんを殺したひと殺しはあなたよ」と幸田を批判する。
   
2017年12月27日



DVD 
氾濫


大映
1959年
97分 
 伊藤整原作、白坂依志夫脚本。三立化学の科学者・真田(佐分利信)は高分子糊サンダイトを開発、その功績により重役になった。恩師の還暦記念の会で真田は、久我教授(中村伸郎)に紹介された東方大学の種田(川崎敬三)の論文を評価する。真田には貧乏を共にした妻・文子(沢村貞子)と娘たか子(若尾文子)がいた。種田にはたか子と同じ大学の英文学部の恋人・京子(叶順子)がいたが、種田は真田の威光を利用しようと、たか子に接近する。たか子のピアノ教師・板崎(船越英二)は言葉巧みに真田の妻・文子を誘惑する。真田自身も戦時中、焼夷弾を恐れる女学校の女教師(左幸子)を抱いてからの交際が続いていた。三立化学ではサンダイトの販売に陰りが見えたため、ドイツのサビ止め技術メーカーとの提携を進めるべく方針を切り替える。技術上の欠陥を解消する研究を真田に依頼するものの、真田は会社の儲け至上主義についていけず研究を拒否し、重役待遇を辞任する。重役の娘でなくなったたか子を種田は捨てる。真田は一介の平研究者になる。研究助手(多々良純)だけは真田の帰還を喜ぶ。
 性の氾濫が予告編の宣伝文句だった。監督は増村保造。
2017年12月27日


DVD 
青空娘


大映
1957年
88分

  増村保造監督第2作で増村が若尾文子と組んだ初めての作品。原作は源氏鶏太、脚本は白坂依志夫。
 高校を卒業した有子(若尾)は東京の父母のところへ呼ばれた。育ててくれた祖母が心臓の病気で倒れた。祖母の言葉によると、有子の本当の母親は家政婦をしていた真知子で、有子は父親の愛人の子供、その後母親は満州で行方不明。上京した有子を迎えたのは女中の八重(ミヤコ蝶々)だったが、家族は継母(沢村貞子)も大学生の兄(品川隆二)や姉・輝子(穂髙のり子)も有子を女中として扱い、階段下の物置部屋をあてがわれた。身分を気の毒がる八重と弟・宏(岩垂幸彦)だけが有子と力比べで負けて味方になったのだが。輝子が開いたお見合いパーティの卓球ゲームで、富豪の息子・広岡良輔(川崎敬三)に有子は勝って注目を浴びるが、継母と輝子は面白くない。
 父親(信欣三)は小野商事の社長で有子を会社へ呼び出し、母親の話をしたり、洋服を買ってあげたりする。広岡の有子への求婚をきっかけに騒動となる。家を追い出された有子は高校時代の美術教師・二見(菅原謙二)のアパートを訪ねるが、先生はモデル(矢島ひろ子)と同棲?していた(実際にはモデル女性が勝手に押しかけてきただけということが後で分かるが、有子は誤解したままである)。有子は田舎へ帰る。しかし、帰った先で母親が満州から戻ってきて、三日前に有子に会いに来たが、東京へ戻ったことを聞く。故郷では二見を招いてのクラス会もあった。
 母親を探す決意をして東京へ戻った有子は広岡や二見の協力を得て、キャバレーの下働きをしながら母親(三宅邦子)との出会いを模索する。二見の務める広告会社の掃除婦として働いていた女性が、有子の母親だった。二見は広岡へ有子の母親の情報を提供し、有子を預ける。母親と会った有子は再会を喜び、病気で臥せってしまった父親に別れを告げに行く。病床で妻のうらみつらみを聞いていた父親だったが、有子から「責任があるのはお父さまよ。本気で誰も愛さないから。今度はたつ子お母さまを本気で愛してあげて。真知子お母さまとは私が幸せに暮らすから」と宣告。広岡との婚約にもふみ切るのだった。
 若尾文子は高校卒業生にしては大人びている。沢村貞子が意地悪な継母を怪演。
2017年12月17日




NHK総合
21:15
~22:05
脱炭素革命の衝撃



NHK
2017年
50分 
 NHKスペシャル50分。副題「激変する世界ビジネス」。アラブ首長国連邦では砂漠に300万枚の太陽光パネルを展開、2.6円/kWhのコストで中国企業Jinko Powerが受注。2015年のパリ協定でCO2排出量の上限が決められたことによって、環境対策に取り組む企業への投資が加速した。2017年11月にドイツで開催されたCOP23では、アジアへの高効率石炭火力発電所の輸出を展開しようという日本の姿勢は逆行だと批判された。アメリカの国内企業の35%は環境ビジネスに取り組んでいる。例えば大手スーパーマーケットWalmartでは気候変動による異常気象で22億円の損害が出た。屋上に太陽光パネルを設置、エコ・ドライブやLED化などの導入によって既に65万tのCO2を減らせたし、1000億円のコスト削減に成功した。
 石炭や石油はあと25年で排出制限の上限に達する予想だ。だとすると、それ以降は掘り出しても使えない資源だということになる。既に投資家は化石燃料を使う企業への投資から撤退しつつある。中国でさえ今年の共産党大会でエコ文明を打ち出した。
 日本企業で会社の照明のLED化など省力努力を続けてきたRICOHや、洋上風力発電を開発してきた戸田建設の役員などはCOP23に参加して日本の省エネ努力をアピールしようとしたが、世界の体勢はグリーンテクノロジーへの投資に完全に舵をきっており、19世紀型のテクノロジーの改良(高効率石炭火力発電所)に関心を示す企業はなかった。日本のエネルギー事情では再生可能エネルギーの占める割合は7.7%に過ぎない。これを2030年までには13~15%に引き上げようというのが日本政府の目標だが、ドイツの割合は27.7%で、既に北海周辺では3000基の風力発電が実施されている。日本の遅れの原因は、土地や人件費などの発電コストが高いこと、電力会社の送電制限により電力の販売が進まないことが挙げられる。
 宅配業大手のDHLでは、9万2千台の配送自動車をすべて電気自動車に替え、CO2排出ゼロを目標に掲げている。このままでは日本の企業は生き残れない。

2017年12月14日


DVD 
ゆれる


 
 西川美和脚本・監督。西川監督の『蛇いちご』に次ぐ長編第二作。 
 東京でカメラマンとして生活している猛(オダギリジョー)は、母の一周忌で数年ぶりに田舎の実家に戻って来た。村の早川ガソリン・スタンドは実家の父(伊武雅刀)と兄・稔(香川照之)が経営している店だった。スタンドで給油すると、店員の智恵子(真木よう子)が猛を思い出したようだった。
 故郷を離れていてだいぶ時間に遅れて着いた猛に父はいら立っていた。喧嘩になりそうなところを稔がとりなす。稔は店の従業員で幼馴染みの智恵子を誘って、子供の頃遊びに行った渓谷へ行ってみようと提案する。その晩、猛は智恵子と一緒に飲み、智恵子の部屋で体を重ねた。夜遅く実家に帰宅した猛は、まだ起きていた稔と言葉を交わす。渓谷は兄弟が幼かった頃、よく両親が連れてきてくれた場所だったが、猛はそのことを憶えていなかった。智恵子は田舎にくすぶっている自分に不満で。猛と一緒に東京へ出ればよかったと言う。渓谷には吊り橋がかかっている。吊り橋のところどころは橋板が落ちて隙間があいている。
 猛が吊り橋に行ったのをきっかけに智恵子も吊り橋に行く。ゆれる吊り橋をこわがっていた稔も吊り橋に行く。支えようと手を差し出した稔を激しく拒否する智恵子。とりなそうとする稔。猛は二人の声が聞こえないほど遠くにいた。吊り橋の上でうろたえる稔。智恵子が橋から落下してしまったのだ。目撃者はいないものの彼女は吊り橋から落下させられたのではないかという疑いが生じる。
 兄をかばうため稔が奔走する中、稔の裁判が始められる。智恵子の落下は事故だったのか、事件なのか。稔は警察で自白めいたことを言っていたが、それは智恵子を助けられなかった罪の意識からくるものかもしれなかった。父親の弟の弁護士(蟹江敬三)は事故であったことを立証しようとする。裁判が進むにつれて猛の心はゆれていく。
 
2017年12月11日


NHK 
追跡 東大研究不正

NHK総合
21:00
45分 
  東京大学分子細胞生物学研究所の教授・渡邊嘉典の論文に画像処理に手を加えた不正が発覚、特に2014年「サイエンス」に発表されたがんとシュゴシンの関係を研究した論文では捏造が指摘された。近年、不正が指摘される論文は増えているが、その原因には、2001年の構造改革で具体的な成果が求められるようになってきたこと、雑誌のインパクト・ファクターに頼る審査技術、研究資金の減額などが挙げられる。
 片山宏昭デイレクター。
2017年10月9日


DVD 
(秘)湯の街
夜のひとで


わたなべぷろだくしょん
1970年
73分
  ピンク映画として公開された渡辺護監督作品。脚本は日野洸(=大和屋竺)。白黒パートカラー。山間の温泉街にバスで流れついた三人、久生(吉田純)と内縁の妻の雀(大月麗子)、トリ金(二階堂浩)はエロ事師。一文無しだったが、エロ写真を売るトリ金、エロ写真を自作自演する久生たち、8ミリで作ったブルーフィルムを活弁調で公開、雀の独演などでなんとかしのぐ毎日だった。トリ金はこれまでのような生ぬるいブルーフィルムでは客を満足させることはできないと、激しい暴行場面のフィルムを提案、久生はプライドを賭けて新作に挑戦する。温泉街の旅館の女中をしている美人娘を口説いて撮影。娘が処女だったことが分かって大混乱。仕上がった作品を上映したら、警察の手入れを受ける。久生が逮捕された後、雀を売るトリ金、女学生を強姦する役者・幻ゴロー(港雄一)、放心状態の雀。みんなの人生が狂っていく。
 無声映画への憧れから無声映画ならブルーフィルムだ、活弁だという展開になり、堕ちていく男女の恋愛ものを主軸に考えたと監督。活動写真のリズムを第一に撮る渡辺監督の意図がよく出ている作品。
2017年10月8日


DVD 
おんな地獄唄
尺八弁天


わたなべぷろだくしょん
1970年
75分
  ピンク映画として公開された渡辺護監督の任侠作品。脚本は日野洸(=大和屋竺)。白黒パートカラー(からみの場面はカラー)。渡辺護監督作品で評価の高かった『男ごろし 極悪弁天』(1970)の第二作。『裏切りの季節』で大和屋さんの才能を買っていた渡辺監督が、大和屋に脚本の執筆を依頼、東映での『緋牡丹博徒』のピンク映画版を意図した。渡辺監督は加藤泰監督のファンで、加藤泰を伊藤大輔の流れの中で位置づけていた。打合せの席で大和屋からはマキノ雅弘の話が出て、マキノ作品についても熱く語ったという。
 お尋ね者の女極道、弁天のお加代(香取環)は、渋川の刑事・本多(武藤周作)に捕縛された。本多はお加代を警察ではなく、蝮の銀次と留吉に渡した。二人は加代の背中に彫られた弁天の入れ墨を剝いで親分のもとへ持参する前に加代を強姦、そして刃を背に突き立てようとしたとき、何処ともなく銃弾が飛んできて、銀次と留吉は倒れる。加代を救ったものの正体は分からない。それから三年後、伊香保の旅籠に宿を取った加代の後をつけている銀次と伝八がいた。加代は身売りしたおさよ(青山リマ)に同情する。本多は警官を辞職して紡績工場主になっていた。本多がお加代殺しに雇ったセイガク(国分二郎)はお加代を呼び止め、背中の入れ墨を見たいという。セイガクの背には吉祥天如が彫られていて、弁天と呼応するという。三年前の銃の主はセイガクだった? 翌日、お加代は本多への復讐心を胸に秘めながら、合図となるセイガクの尺八を待つのだった。ピンク映画は、少人数のスタッフとキャストで作られていたため、どうしても素人芝居的な小作りな感じが、見えてしまう。本作もその例にもれない。 
2017年9月24日


NHK総合
21:00
亜由未が教えてくれたこと

NHK
2017年
50分
 NHKの若いディレクターの妹を撮る。生後、心臓疾患と脳血管出血で脳性マヒになった23歳の妹の介助に取り組む兄。妹に笑顔になって欲しいと奮闘するが、50代の両親は普通のひとだって、いつも笑っているわけじゃないし、笑うことが求められるのはおかしいんじゃないかと言う。その言葉にショックを受ける兄。床ずれを防ぐために体位交換をする両親。双子の妹・由里香さんは群馬の大学医学部で勉強中。病気をした母親は自分亡き後、介護をだれに託すかを悩んでいる。妹に姉の介護を託そうと打ち明けるが、妹の人生が可哀想と思えて泣くしかない。日々、あゆちゃんとともにいる生活がそのまま喜びだという父親。
 相模原でのやまゆり園での殺傷事件の犯人の障害者は不幸をもたらすだけという考えを批判する作品。坂野裕野ディレクター。
2017年9月23日


NHK総合
21:00
総書記 遺された声


NHK
2017年
50分
 作家・山崎豊子が録音で残したテープのなかに、中国の総書記だった胡燿邦の肉声があった。狭い愛国主義にとらわれてはいけない、首相の靖国参拝は事態を悪くするだけだ、せめてA級戦犯を除けば中国も違ってくる、時間がたてば日中の人々の意識も変わってくるなどなど。中曽根元首相は公式参拝を行った人物だったが、胡書記の意見を聞き入れて翌年の公式参拝を中止した。
 胡書記は日中親善のため力を尽くしたが、3000人の日本の若者を招待するなどの政策を八代元老に批判されて総書記を解任された。以後、親日的な姿勢が批判される前例となった。
 胡書記が亡くなった後に再評価の声が高まり、天安門事件も起こった。自国の利益だけしか考えない愛国主義は、国を誤らせる誤国主義であるという胡書記の意見はいまでも通用する。佐藤佑介ディレクター。
2017年9月18日


NHK総合
19:30
眩(くらら) 北斎の娘


NHK
2017年
73分
 朝井まかて原作、脚本大森美香、加藤拓演出。北斎(長塚京三)には画が好きな娘、お栄(宮崎あおい)がいた。父の絵に没頭し、自らも版画原図に力を入れるお栄だったが、父親の力に感服、自らの非力を思い知る日々であった。絵師の池田善次郎こと英泉(松田龍平)に誘われて彼の妹が芸妓として勤めている吉原の座敷で、お栄は光と影の重要さを知る。北斎は満足のいく絵など描けないが、不満足な絵をさらすことこそ絵師の覚悟だと言う。 
 北斎が中気(脳卒中)で倒れたあと、養生第一に考える妻の小兎(余貴美子)に対して、お栄は筆を取って描くことがなければ父の生きがいはないと考える。滝沢馬琴(野田秀樹)が見舞いに来て、北斎を叱る。最期まで自分は戯作を書き続ける、お前も絵を描き続けるはずだと。馬琴はゆずをきざんで煮て蜜を飲ませろと言って、ゆずを置いていく。馬琴の言葉に反応した北斎は筆を希望する。少しずつ筆をもつ手が復活してくる。妻の小兎が亡くなる。やさしい言葉をかけた善さんにお栄は身をあずける。しかし、善さんはお栄の許には長居しなかった。住居もある町が火事で焼けて行方不明。北斎は西村屋の注文で「富嶽三十六景」を描く。
 行方不明だった善さんがふらりと店に現れる。北斎画のお栄筆の箇所を指摘。女郎屋を経営している、絵は止めたという。しばらくして善さんは死んだという連絡が入る。お栄は葛飾酔女(えいじょ)「三曲合奏図」を完成させる。
 90歳の北斎は「あと五年の命があったならもっとうまくなっている」と言う。墨絵の富士山に北斎は上り龍を描き入れる。その数ヶ月後、北斎は亡くなった。 弟の家に身を寄せたお栄は新吉原にときどき出かけ、遊女の絵を完成させていた。お栄・葛飾応為が光と影を描き込んだ作品「吉原格子先之図」が遺されている。
 納得のいかない作品でも晒す覚悟で描き、常に高みを目指してもっとうまくなろうとする心ばえが心を打つ。
2017年9月16日


NHK総合
21:00
OH LUCY



NHK
2017年
73分
 カンヌ映画祭批評家週間招待作品。映画(95分)とは別のテレビ用編集作品、脚本・監督は平栁敦子。
 せつこ(寺島しのぶ)は未婚のOL。姉・綾子(南果歩)の娘ミカ(忽那汐里)とはときどき連絡を取り合っていた。ミカはメイドカフェを辞めて外国へ行くつもりだ、ついては英語学校を中途で止めるのは勿体無いので交代で通ってはくれまいかという。受講料60万円は自分に払ってくれというのだった。その英語学校の無料体験教室に顔を出してみると、先生はジョン(ジュシュ・ハートネット)。ハグをまじえながらアメリカ英語を学ばせるというフレンドリーな方法。戸惑いながらもせつこはLUCYという別のあだ名をもらい、金髪のカツラをかぶることで人格を変えたように思えた。英語教室ではトム(役所公司)とも出会った。おそるおそる教室に通うせつこ。しかし、突然ジョンがアメリカへ帰った。どうやらミカとジョンは一緒らしい。絵葉書でカリフォルニアのモーテルにいるらしいと知ったLUCYは仕事を休んでミカやジョンに会いにいくことにする。そこへミカの母親も同行するという。
 カリフォルニアへ到着するとアパートの一室にはジョンしかいなかった。ミカは出て行ったという。途方にくれる二人。
 ミカはサンディエゴにいるらしい。レンタカーを借りて当地へ向かう三人。ミカの絵葉書のモーテルに到着。受付によると、ミカは確かにいるという。モーテルに宿泊する。夜、外に出たLUCYはジョンから車の操作法を教わる。感情が昂ぶってカーセックス。ジョンは「ミカには黙っていて欲しい」と言う。LUCYは腕に「愛」のタトゥーを入れる。ジョンの部屋をノックする。しかし、ジョンには拒絶される。
 朝、綾子とジョンはミカの妊娠と中絶について話し合っている。LUCYはミカと出会ってジョンには妻子がいることを聞く。ジョンと自分の関係をありえないことと軽んじられたLUCYはタトゥーを見せ、ジョンと寝たと告白。激怒したミカは崖から落下、重傷を負う。
 病室でミカはLUCYとジョンを拒絶。ジョンもLUCYを愛していないという。帰国したLUCYを会社では配置替えの処分にしていた。投げやりになったLUCYは睡眠薬を飲んで自殺を図る。そこへトムが訪ねてくる。トムは薬を吐かせて外へ連れ出す。駅のホームでトムは息子を自殺させてしまったことを告白する。ハグする二人。
 新しいひとと知り合うことがかえって自分の生活を壊してしまうことになる。徐々に傷つく女を寺島しのぶが演ずる。暗い物語。
2017年9月10日


NHK総合
沖縄と核



NHK
2017年
50分
 米ソ冷戦のさなか、沖縄の基地に核兵器(迎撃ミサイル)が持ち込まれていた。1959年6月19日にミサイル・ナイキが謝発射される事故が起こった。箝口令がしかれ、事故は秘密にされた。米兵士の証言と資料により明らかになった。
 訓練中に水爆の模擬弾の爆発事故に巻き込まれ伊江島の住民が死亡した事故もあった。1960年、安全保障条約が結ばれたが、核持ち込みの事前協議から沖縄は除かれた。メースBが沖縄本島に配備されようとした。県民が察知して持ち込み反対の世論が高まった。しかし反論は無視された。キューバ危機(1962年)の際、沖縄のミサイルの核のターゲットは中国だった。沖縄は破滅の瀬戸際にあったのだ。1969年11月、沖縄返還合意。嘉手納基地などから核の撤去がなされたが、佐藤栄作とニクソンの間で核密約が結ばれていた。有事の際には核を持ち込む密約である。
 ディレクターは今理織・松岡哲平、制作統括は松本。
 北朝鮮のアメリカ向け核ミサイルの脅威が現実化している昨今、刺激的な番組である。日本に核兵器が密かに持ち込まれているのではないかという憶測を産んでしまいかねない。
2017年8月20日


NHK総合
戦後ゼロ年
東京ブラックホール


NHK総合
2017年
60分
 俳優・山田孝之が占領軍や日本のニュースカメラマンが撮影した過去の映像のなかに入って,闇市や戦後の東京風景のなかで生きる。占領軍に接収された施設には米軍の家族が入居。巷には浮浪児があふれる。買い出しに来た女性を言葉巧みに誘い,殺す小平義雄事件が発生。東京湾から金塊が発見された例に見られるように国の隠匿物資があった。一部の権力者(役人、警察、軍人)は戦争犯罪の罪を逃れた。
 占領軍にくい込んで甘い汁を吸った清水や,田中角榮がいた。占領軍はRAA(特殊慰安施設協会)という売春施設を立ち上げた。
 5月19日に第二回の玉音放送があった。新興宗教が雨後の竹の子のように起こった。1950年になると冷戦のため,一部の軍国主義者を温存した。いち早く米軍に投降した有末中将,児玉誉志夫など。バンドマンとして雇われた原信夫。
 東京租界でちからを奮ったのは中国人王長徳だった。ディレクターは貴志謙介。
2017年8月15日


NHK総合
戦慄の記録
インパール



NHK総合
2017年
73分
 NHKスペシャルの一篇。1944年1月7日,認可された作戦。英国軍がビルマ奪還後,日本軍のインド進攻は中止されていた。
 ビルマ方面軍第15師団(軍)小畑参謀長はインパール作戦計画に反対した。兵站の専門だった小畑はその観点から反対したのだが,牟田口廉也(中将)司令官に更迭された。 作戦は短期決戦で三週間の計画であり,食料も三週間分しか持たせなかった。
 3月8日に作戦は決行。大河を渡り,山越えでは大砲やトラックを分解して運んだ。第33師団は英国軍の攻撃を受け,千人以上が死亡した。 師団長・柳田はインパール作戦変更を求めたが,牟田口中将に叱責された。牟田口は「どれくらいの損害で取れるか」と聞き. 「5000人(日本人の兵士を)殺せば(陣地を)取れると思います」との答えを得ていた(牟田口の部下だった斎藤博圀少尉の記録による)。 第31師団が英国軍と激突したコヒマの戦いで,英国軍は増強していた。肉薄攻撃という特攻が奨励された。
 2ケ月後.牟田口は師団長たちを更迭する。牟田口中将自身が前線の司令官に赴いた。レッドヒルにて日本軍の動きを予測していた英国軍に攻撃を受け兵士たちは玉砕。 作戦中止は7月1日だったが,作戦中止後の戦死者は死者の6割に達した。撤退路は「白骨街道」と呼ばれた。戦死者3万人,病死者4万人。 インパール作戦の立案の責任を認めた司令官はいなかった。大本営は現場の指揮官に,牟田口中将は上層部の命令だったと証言していた。
 8月14日は「樺太地上戦終戦後7日間の悲劇」終戦後も五日間,ロシア軍が進攻してきた樺太は真岡での悲劇を描いた。8月13日は「731部隊の真実」だったが未見。
 鈴木嘉一(放送評論家)2017年8月24日読売新聞アンテナより(茶色文字にて)
 今は亡き私の父は太平洋戦争中,最も多い戦死者を出した世代に属した。中国山東省へ出征したが,「南の方に送られたら,生きて帰れたかどうか」とよく聞かされた。ビルマ(現ミャンマー)戦線も念頭にあったのかもしれない。
 この夏,NHKを中心に戦争関連番組を何本も見た。中でも,15日に放送されたNHKスペシャル「戦慄の記録 インパール」(25日深夜に再放送)は衝撃的だった。
 ビルマ方面軍は1944年3月,イギリス軍が主要拠点としたインドのインパールを攻略するため,3個師団9万人を進撃させた。食糧や武器の補給,敵の戦力を軽視した作戦は,約3万人の兵士が命を落とし,大失敗に終わった。取材班は,外国人の立ち入りが制限される国境地帯を踏破し,国内外で将官の肉声テープなどの1次資料を発掘した。「太平洋戦争で最も無謀な作戦」の全体像を多角的に浮き彫りにする力作だ。
 司令部の動向を克明に記録した齋藤博圀少尉の日誌と回想録が,骨格となる。山岳地帯の行軍を「補給は不可能」と反対した士官に対し,牟田口廉也司令官らは「大和魂はあるのか」とののしる。短期決戦をもくろみ,3週間分の食料しか持たせなかった。
 異常な3師団長更迭,戦局の悪化を直視しない大本営の対応を経て,作戦の中止は開始から4か月も後だった。豪雨の中の撤退戦では兵士が飢えや疫病で倒れ,ぬかるんだ山道は「白骨街道」と呼ばれた。元兵士らの証言は,凄惨な地獄絵図を思わせた。
 牟田口は戦後,「作戦は上司の指示」と主張し,大本営の参謀は「現地軍の責任範囲の拡大」と責任を回避した。わずかな救いは,牟田口の孫が「歴史の事実を検証してほしい」と初めて取材に応じ,祖父の遺品を示したことだ。
 齋藤少尉は病んで前線に置き去りにされ,死線をさまよった。番組の最後に,96歳の本人が登場する。「日本の軍人がこれだけ死ねば(陣地が)とれる。悔しいけれど,兵隊に対する上層部の考えはそんなもんです」。涙ながらの語りは悲痛な叫びのようだった。
 14日のNHKスペシャル「樺太地上戦 終戦後7日間の悲劇」は,ソ連軍の樺太(サハリン)侵攻を取り上げた。札幌の方面軍は終戦後も,「北海道の防波堤」として「樺太を死守せよ」と命じ,数千人の民間人が犠牲になった。
 インパール作戦や樺太の悲劇では,誰が責任を取ったのだろう。政治学者の丸山真男は「無責任の体系」というキーワードで戦時下の日本を洞察した。大企業や官庁の不正,不祥事を見るにつけ,かつての組織体質は克服されているかと問わざるをえない。

2017年8月13日


Youtube
 
731部隊の真実


NHK総合
2017年
50分
  NHKスペシャル『731部隊の真実 エリート医学者と人体解剖』,731部隊の正式名称は関東軍防疫給水部,隊長は石井四郎軍医。中国のハルビンに本部跡が遺る。ハバロフスク裁判には12名の関東軍の音声記録が残されている。
 「昭和18年に50人にチフス菌を飲ませた。12,3名が感染した」(古都衛生兵),「ペスト菌を4、5人のところにまいた」(西俊英),「囚人はマルタと呼ばれていた。医学博士や薬学博士の指導を受けた」(元少年隊員・三角武)。
 京都大学から11名,東京大学から6名といった医学者が技師として参加していた。戸田正三(京都大学)が医学者を部隊に送っていた。田部井和(かなう)は部隊の第一課長(チフス菌)として細菌爆弾の実戦使用を研究していた。昭和16年に一度,昭和17年に一度,中支において軍隊に細菌をまいたことがある。ペスト菌はペスト蚤として,コレラ菌とパラチフス菌はそのまま散布した。3000個の饅頭に菌を注射し,捕虜収容所の捕虜に食べさせたこともあった。捕虜は解散した。
 吉村寿人は凍傷研究を行った。寒風のなか囚人を外へ出し,人工的に凍傷にさせた。1937年の日中戦争後,中国人の激しい抵抗にあって日本軍は匪賊憎しの感情があった。匪賊の死刑囚に対する仕打ちは復讐心でもあったろう。8月9日のソ連侵攻直後,本部は爆破され,米軍との取引でデータを渡す代わりに部隊の罪は免責された。医学者たちは一足早く日本に帰国した。戸田は金沢大学医学部部長、田部井は京大教授,吉村も教授になった。
 番組終了後,この放送は捏造だとするバッシングが起こった。
2017年8月12日


NHK総合
本土空襲 全記録

NHK総合
2017年
50分
 アメリカ国立公文書館で発掘された戦闘機に設置されたガンカメラで捉えた本土空襲の記録映像を元に本土空襲の実態を解析。初めて本土空襲の全体像が明らかになった。本土から2400kmのサイパン島を奪取したことでB29が本土への往復が可能になった。
 USAのルメイは改良して殺傷能力を高めた焼夷弾により無差別爆撃を推奨した。
 硫黄島の奪取もB29をP51で護衛して往復するには必要なことであった。空襲が続くにつれ、攻撃対象が軍事工場から一般の駅舎や鉄道車輌に広がり、最終的には「動くものなんでも」低空飛行で打ち落とすことになる。特攻が最後の戦闘になると、アメリカ側の反応は「日本には民間人はいない」とまでの恐怖を与える。
 北朝鮮とアメリカが核ミサイルの発射を誇示して争っている。現代の情況を連想させた。
2017年8月3日


WOWOW 
シン・ゴジラ



東宝
2015年
120分 
  庵野秀明脚本・監督。巨大生物が出現し、東京都内を破壊したとき、日本政府はどのように対応するのかというシミュレーション映画である。自衛隊への出動命令が総理大臣、防衛大臣、統合幕僚長といった順番で出されることが正確に描かれているように、政府の対策、特に危機管理対策が批判的に描かれる。ゴジラに対して自衛隊の攻撃、次に日米安保条約における米軍の攻撃、それが通用しない場合にはさらに多国籍軍の核爆弾による攻撃とエスカレートしていく様子は有事における戦争のシミュレーションでもある。血液凍結製剤による動作の封じ込め作戦が功を奏する結果となるが、この作戦を立てて実行するに当たって力を発揮したのは組織内では異端だったり、変り者だったりの異色官僚たちだった。
 撮影に当っては自衛隊の全面的な協力を得ている。
2017年7月12日


WOWOW
天空の蜂


松竹
2015年
150分
 
  東野圭吾原作、堤幸彦監督のサスペンス。錦重工業の技術者・湯原(江口洋介)は妻と息子を連れて自社のヘリコプター、ビッグワンの初飛行を見学に来ていた。ところが自動操縦プログラムが仕掛けられていたビッグワンは突然動き出し、格納庫を出て飛行、敦賀にある高速増殖原型炉「新陽」の真上で停止飛行となった。犯人は「日本の原発をすべて止めよ。さもなければヘリを原子炉に落とす」と脅迫。偶然、ヘリに乗り合わせてしまった息子・隆彦の救出劇と、時間が限られたなかでの技術者たちの対応が描かれる。原発技術者・三島に本木雅弘、その恋人に仲間由紀恵。
 もっとも重要な視点は犯人が政府は決して要求を呑まないことを前提にしてプログラムしていたということである。つまり、日本の原発政策と原発ムラに絶望しているということだ。
2017年6月22日


NHK 22:50
SONGS
中島みゆき
トリビュート


NHK
総合テレビ
 中島みゆきのうたを愛する三人が一曲ずつ歌う。島津亜矢「地上の星」(歌詞にウソがない。全身でぶつかっていかないといけない:島津)、クミコ「世情」(シュプレヒコールという言葉が使われていることに驚く。社会的な内容を歌っている新鮮さ:クミコ)、大竹しのぶ「ファイト」(自分の弱さを鼓舞してくれる:大竹)。最後に三人で「時代」が歌われる。
 最初に好きになった中島みゆきの歌は? 大竹しのぶは「わかれうた」1977、島津亜矢は「誕生」1992、クミコは「世情」1978。
 「テーマがきちんとあるのが中島みゆきの歌の特徴」(大竹しのぶ)
 中島みゆき自身の歌う姿も少しづつ紹介された。上記のほかに「麦の唄」「ヘッドライト・テールライト」「やすらぎの郷」など。
2017年8月6日


DVD   
座頭市喧嘩太鼓


大映
1968年
82分
 
    座頭市シリーズ第19作。脚本は猿若清方・杉浦久・吉田哲郎、撮影は森田富士郎、監督は三隅研次。スズメを籠罠で取ろうとしていた子供たち。籠につまづく市。子供たちに非難されてドングリを渡す。酒を含んで置けばスズメが食べて酔うから素手で捕獲できるという。途中で切れている橋を渡ろうとして川に落ちる市。タイトル。
 一宿一飯のわらじを脱いだ荒追の熊吉(清水彰)が借金を返さない者の取り立てを依頼する。見届け人としてついていった市だったが、灯りを消した家での勝負になり、市は卯之吉を斬る。そこへ返済の金を都合した姉お袖(三田佳子)が帰ってくる。熊吉はお袖を本陣の宗助(西村晃)の妾に世話する腹だったのである。腕づくでお袖を連れて行こうとする男たちから救ったのは市だった。熊吉は怒る。熊吉のもとを去った市は諏訪への旅に出る。途中の宿で相部屋になったのはお袖だった。熊吉の家来はお袖を追った。市はお袖を守る。両者の駆け引きが続く。師範代を斬ったことで追われる浪人・柏崎弥三郎(佐藤允)もときどき絡む。
 お上の取引一家に宗助に推薦してもらえなかった熊吉は宗助を殺して、その罪を市になすり付けた。
 本作品は大映製作の座頭市の最後の作品となった。この後は勝プロ製作作品となる。第20作は『座頭市と用心棒』。 以後、『座頭市あばれ火祭り』『新座頭市 破れ!唐人剣』『座頭市御用旅』 『新座頭市物語 折れた杖』『座頭市物語 笠間の火祭り』、 テレビ版座頭市、『座頭市』と続く。
2017年8月6日


DVD  
座頭市果し状 


大映
1968年
82分
    座頭市シリーズ第18作。脚本は直居欣哉、撮影は宮川一夫、監督は安田公義。どしゃぶりの雨。雨宿りの掘立小屋には先客のお秋(野川由美子)がいた。その翌日、市の握り飯に土をかけて仕掛けてきた二人を斬った。タイトル時の歌は「座頭市子守唄」。よしだ屋という宿で市はならず者に按摩を頼まれたが、料金を支払わないばかりか、剣でおどかされた。市は医師順庵(志村喬)のところに居候することになる。順庵は娘のお志津(三木本賀代)との二人暮し。貧しい患者からは治療費を取らないばかりか、貰い物を分けてやったりする医者だった。目明しの松五郎(土方弘)のところには、手配中の凶盗団(待田京介、小松方正、井上昭文、野川由美子ら)が関八州の見回りが終わるまでかくまってくれと申し出ていた。
 村人が繭市を開くと、松五郎は繭市を踏み荒らしたあげく、夜中には抵抗する名主一家を皆殺しにした。 
 松五郎一家に斬りこんだ市は凶盗団の短銃で撃たれていったんは川に沈んだ。逃げのびた市は冒頭で助けた村人の手当を受け、医師順庵のもとに運ばれていた。肩に入った銃弾は市が自分で掘り出して摘出していた。松五郎一家が順庵のもとに市を探しに来たときには、既に市は別の場所に移されていた。しかし、順庵と娘のお志津に拷問が加えられる。深傷を負った市は力を振り絞って立ち上がった。
2017年8月6日


DVD 
座頭市血煙り街道


大映
1967年
87分
    座頭市シリーズ第17作。脚本は笠原良三、撮影は牧浦地志、監督は三隅研次。第16作は大映製作ではなく、勝プロ製作の『座頭市老破り』だった。
 やくざ者たちが走って来る。市を囲む。居合で斬る様子を独りの侍が見ていた。
 旅宿とらやで相部屋になった子供連れの女が病気で死んでしまった。良太という男の子を連れて市は前原の庄吉を訪ねる。旅芸人の一座のともえ太夫(朝丘雪路)は毎年世話になっている箕輪の惣兵衛(水原浩一)の下で興行をうつはずだったが、今年は前原の権造(小池朝雄)や金井の万造(田部謙三)に権利金を出さないと興業がうてないのだ。万造の眉毛を切り落として追い払った市だったが、惣兵衛が暗殺され、一座は興行をあきらめて去っていった。焼物士の太兵衛(松村達雄)と娘のおみつ(高田美和)のところに庄吉の噂を聞いた市だったが、既に太兵衛のところに庄吉はいなかった。庄吉は権造のところに難詰されて御禁制の絵柄を描かされていた。公儀の赤塚多十郎(近衛十四郎)は密かに権造や代官(小沢栄太郎)の悪事を調べていたのだった。権造の囲われもの、お仙(坪内ミキ子)は隙を見て庄吉を逃がす機会をねらっていた。市があと少しで庄吉と会えるというとき、「庄吉が逃げた」という声が響いた。雪の降るなか、市と多十郎の一騎打ちが始まる。
 アメリカで『ブラインド・フューリー』としてリメイクされた。クレジット・タイトルで主題歌が歌われる。
2017年8月6日


DVD 
座頭市鉄火旅


大映
1967年
93分 
   座頭市シリーズ第15作。脚本は笠原良三、撮影は武田千吉郎、監督は安田公義。草原で市がつまづいたもは何者かに斬られた足利村の正太郎だった。旅芸人の一座と一緒に足利村に入った市は県の岩五郎(遠藤辰雄)の賭場で稼ぎ、屋台のうどん屋で鍛冶屋の仙造(東野英治郎)と知り合う。仙造は市の仕込みを見立てる。仙造の師匠の若い時の仕立てだという。刀に寿命が来ていて、あと一人を斬ったら鍔元三寸から折れる。いいものは直しがきかない。
 市は仕込みを仙造に預けて、仙造の知己の宿・下野屋に住み込みの按摩となる。下野屋には正太郎の娘・お志津(藤村志保)が働いていた。お志津は実際は仙造の娘。正太郎の養女だった。お志津は弟の清吉(青山良彦)に跡目を継がせたいと思っていたが、清吉は学問で身を立てるつもりで、下野屋の息子・真之助(山下洵一郎)と江戸へ発って行った。下野屋にお柳(春川ますみ)が下見に来た。お柳は関八州の見回り役人・桑山(須賀不二男)の休息所としてふさわしいかどうかを見に来たのだった。市はお柳の体を揉み、桑山にも紹介してもらうことになる。
 市が座頭市であることを知ったお志津は、岩五郎の成敗を市に依頼するが、市は下野屋をやくざの争いに巻き込むことを嫌って断る。市がやくざを斬るのは岩五郎に清吉を殺され、お志津を誘拐されるからだ。仙造は刀鍛冶として桑山からの頼みをきっかけに刀を打っていたが、人々を困らせている役人に自分の心血を注いだ刀を渡すはずがなかった。
 「ぼろは着てても心は錦」<いっぽんどっこの唄>を旅芸人の一座のお春(水前寺清子)が歌う。
2017年8月5日


DVD 
座頭市海を渡る


大映
1966年
82分 
   座頭市シリーズ第14作。脚本は新藤兼人、撮影は武田千吉郎、監督は池広一夫。これまでに斬った人の菩提を弔うため、四国の札所巡りを思い立った市は金毘羅船に乗り込んだ。船では居直ったスリの手を居合で斬り落とす。
 四国に渡った市は橋の上で斬り付けてきた栄五郎(井川比佐志)と戦い、彼の乗っていた馬に導かれて彼の家にやってきた。家には栄五郎の妹お吉(安田道代)がいたが、お吉は突然刀を取って市に斬りつけた。市は刃をよけず傷を負ったが、斬りつけたお吉も驚き、市の傷の手当をする始末。お吉の話では兄は博打の借金三十両を帳消しにするという約束で、馬喰稼業の藤八(山形勲)に市を斬る約束をさせられた、藤八は芹ケ沢村の支配に邪魔な栄五郎を亡き者にする計画でもあったのだ。藤八は弓を使う。藤八一家は馬に乗って村の支配にやってくる。栄五郎の消息が不明なので藤八一家はお吉の家まで押しかけて来た。お吉は後見人として市を推薦した。藤八は村の名主の権兵衛(三島雅夫)を通じて村人を支配しようとしていた。権兵衛も村人も藤八一家を恐れ、表立っては向かおうとはしなかった。孤立無援、お吉の願いもむなしく、市はたった一人で藤八一家と戦うことになる他なかった。
 藤八一家が常に馬を駆って村に入って来る画像が新鮮。村人が扉を閉じて争いの傍観者になるのは、『真昼の決闘』を下敷きにしている。池広一夫の証言によると、勝新は座頭市作品で賞を狙おうという魂胆で新藤兼人に脚本を依頼したという(「シナリオ」2014年9月号別冊“「座頭市」の世界”より)。ホンを読んだ永田社長の座頭市だけはいじらんでくれの要請で、新藤のもとのホンとはかなり違うものになったという。
2017年8月5日


DVD 
座頭市の歌が聞える


大映
1966年
83分
 
  座頭市シリーズ第13作。脚本は高岩肇、撮影は宮川一夫、監督は田中徳三。草原で剣士に斬られて絶命した為吉がいまわの際に「太一へ渡して」という言葉を遺した。盲の琵琶法師(浜村純)がやくざのいない宿場と話していた一の宮に着いた。しかし、宿場は板鼻の権造(佐藤慶)に仕切られ始めていた。太一の祖父母は茶屋を営んでいたが、権造に商売の権利金を出せと無理を言われていた。祭り見物に出た市と太一は権造一家に絡まれる。市は居合切で提灯を斬り、太一は目を見張る。太一の家の上州屋に宿泊することになった市は隣の寝所になった琵琶法師から、子供の心に強い剣法を憧れとして植え付けた責任をどう取るのかと問われる。翌日、権造一家が上州屋に無理を言ってきたとき、市は無抵抗で殴られ続け、太一を失望させる。権造一家の暴力がひどくなり、市は裏手で彼らを斬り倒す。一方、やくざ一家の先駆けとして出来た女郎屋のお蝶(小川真由美)に昔の亭主・黒部(天知茂)が会いに来る。彼はお蝶を受けだそうと権造に交渉して座頭市を斬る代金を五十両で引き受ける。
 権造は耳の勘を狂わす太鼓を使うことにする。市は仕込み杖をただの杖に替え、琵琶法師の忠告を実現させようと心がけることにした。しかし、権造一家は太一の祖父母を縛り、殴る蹴るの暴力で上納金を承諾させる。権造は祖母を人質にとって市の仕込みを渡せと要求する。市は杖を渡し、相手の隙をついて刀を奪って戦う。権造から村人が納めた権利金の四百五十両、黒部の仕事料五十両、為吉の金の使徒分三両を取る。斬りかかってきた権造を倒す。しかし、五十両を渡されたお蝶は酔いつぶれたままだったが。逆光のシルエットでの斬りあい場面が印象的。 
2017年7月7日


DVD   
座頭市地獄旅


大映
1965年
87分  
 座頭市シリーズ第12作。脚本は伊藤大輔、撮影は牧浦地志、監督は三隅研次。冒頭はやくざを居合で斬る市。タイトル後は船に乗ろうとする市。船賃を交渉するが船頭はまけてくれない。渡せ板から落ちかかる市に腕を貸した浪人がいた。市と一緒に旅をすることになる十文字糺(成田三樹夫)。船内で市はサイコロ博打の胴を受ける。ツボの外へ転がり出た賽の目に賭ける人々をカモにしてもうける市だったが、それがもとで馬入の貸元からつけねらわれることとなる(藤岡琢也、須賀不二夫ら)。江之島での騒ぎで門付け芸人お種(岩崎加根子)の連れているミキが足に刀傷を負い、破傷風菌が入って高熱が出る。市は五両を工面して薬を購入。お種は実は市に斬られた筑波の三下の妻だったが、次第に市に魅かれていく。
 箱根の湯治場には将棋の争いから父親の敵討ちを探す兄妹(山本学、林千鶴)と家来の六平太(丸井太郎)が居た。お種の後を追い、座頭市を狙う榮太(戸浦六宏)らも追いついて来た・・・・
2017年7月6日


DVD   
座頭市逆手斬り


大映
1965年
78分 
 座頭市シリーズ第11作。百たたきの刑にあっている市。牢内で隣会った島蔵から身の証をたててくれるよう黒馬の仙八か荒磯の重兵衛を訪ねてくれと依頼される。大洗の宿を避けるつもりだったが、市は知り合った法界坊の百太郎(藤山寛美)の調子にあわされてしまい、大洗の廻船問屋の上総屋への手形を手代から預かってしまう。上総屋へ着いてみると百太郎が座頭市の名前を騙って既に礼まで受け取っていた。
 子供を客引きに使い、旅人から金をまきあげるやくざをたばねる黒馬の仙八。市が飛ぶ蛾を斬り落とした腕前を恐れて丁重に扱う。仙八に囲われそうになっていたお米(滝瑛子)を救出する。
 島蔵は百太郎の父親だった。なにかと正義を盾にする島蔵を邪魔にした仙八と重兵衛の図り事で島蔵を凶悪犯に仕立てあげたのだった。銚子の荒磯の重兵衛(石山健二郎)は仙八の知らせを聞き、市を殺そうと人手を集める。
 脚本は浅井昭三郎、撮影は今井ひろし、監督は森一生。
2017年7月5日


DVD  
座頭市二段斬り


大映
1965年
84分 
 座頭市シリーズ第10作。馬車の後ろに乗り、握り飯をほおばる市。「お天道さまはありがたい」と目を細める市。昔暮らした麻生宿へ足を向けたが、おでん屋で市は昔の按摩の恩人・彦の市が半月前に何者かに斬られ、娘のお小夜(坪内ミキ子)が女郎屋に囚われていることを聞く。宿場を仕切っているのはシコロ山の辰五郎(沢村宗之介)で、郡代の磯田(春本冨士夫)が賄賂を取って辰五郎の思うままに任せていた。用心棒に門倉小平太(加藤武)。
 雇われ壺振りの軍十郎(三木のり平)は男手ひとつで娘のお鶴(小林幸子)を育てあげていた。脚本は犬塚稔、撮影は森田富士郎、監督は井上昭。
 市は磯田の悪行を調べに来た見回り役人を斬ったという無実の罪をきせられ、捕り方役人に囲まれるが、その申し開きをせずに次々に捕り方役人を斬ってしまうのだが、これでは無実の罪が重くなるばかりである。壺降りでイカサマをして市に暴かれる三木のり平の役どころも善悪が中途半端で、おおあまの処遇になっている。大好きな父親のために市の仕込み杖を盗む少女の設定も中途半端である。市は軍十郎のイカサマもお鶴の盗みも許してしまうが、悪者たちに命を狙われた当人としてはあまりにも寛大な心である。あり得ない展開である。 
 平岡正明は、“悪い奴を全部斬って市は去る。なお三木のり平は座頭市と協力して、逃げる女たちを誘導し、身請け証文と金を奪い返すのである。彼は座頭市刀法を真似て見得をきる。一服の清涼剤である。フラメンコと童謡の対奏的起用による緊張感、(夢野久作の)犬神博士と通底する日本大衆芸能古層あるいは深層の発掘、殺陣の発展、喜劇俳優の起用など座頭市シリーズ十作目はますます快調である。”(『座頭市 勝新太郎全体論』河出書房新社)と評価しているが、賛成できない。
2017年6月7日


DVD 
座頭市関所破り



大映
1964年
86分 
  座頭市シリーズ第9作。市の目の前に凧が落ちてきた。子供たちの凧である。凧を子供たちに返した市に見知らぬ男が手紙を託す。笠間の宿場のお仙(滝瑛子)へ渡してほしいというのだった。師走の妙義山山麓の宿場。郡奉行(こおりぶぎょう)の五郎太(河野秋武)と顔役・島村の甚兵衛(上田吉二郎)は結託して人々から四分のあがりを取ろうとする。お仙の兄貴・新次郎は殺人の罪で島送りになったが、島抜けして自分を罠にはめた甚兵衛らに復讐しようと戻ってきていた。一方、満員の宿場で、市は名主の父親を捜す娘・お咲(高田美和)に会う。名主の父親は減免の上訴に行ったまま行方知れずだという。甚兵衛のもとには浪人・剛之助(平幹二郎)が雇われていた。酔っ払いの儀十(伊井友三郎)に、市は幼い時に生き別れた父親の面影を見る。
 脚本・浅井昭三郎、撮影・本多省三、監督・安田公義。副題に「関所破り」とあるが、自分たちの罪を隠ぺいするために郡奉行らがお咲を誘拐して関所の牢に閉じ込めたため、市は関所の牢を破る羽目に陥るという始末。お仙やお咲が女身ひとりの危険も顧みず、単独行動してしまうため、市が応援せざるをえなくなるという展開で、筋立てに無理がある。それに物語の展開がややゆるい。
2017年6月4日


DVD 
座頭市血笑旅



大映
1964年
87分 
  座頭市シリーズ第8作。市を狙う文殊一家の和平次(石黒達也)たちは市が駕篭に乗ったとみて襲撃するが、駕篭に乗っていたのは腹痛で市と変わったおトヨだった。おトヨが抱いていた赤ん坊を夫の宮木村の繭の仲買人・宇之助あてに届けようと赤ん坊を世話しながらの市の旅が始まる。市は途中で女スリのお香(高千穂ひづる)と知り合い、一緒に旅をすることになる。すきを狙って文殊一味がみちみちの親分に加勢を依頼して市に襲撃をかけてくるが、居合で斬り捨てる。丁半博打のイカサマを見抜いたり、赤ん坊の小便が相撲取りにかかって殴られたり・・・ようやく宇之助(金子信雄)の許へ赤ん坊を届けたのだったが、柊屋の顔役になっていた卯之助はおトヨも子供も知らないと言うのだった。赤ん坊はお寺の和尚(加藤嘉)が育ててくれることになった。卯之助は文殊の和平次にそそのかされて市を討とうとする。松明の火で聴覚を攪乱する作戦だった。
 撮影は牧浦地志。監督は三隅研次。脚本は星川清司・吉田哲郎・松村正温。
 テレビ版「座頭市物語」の第14話「赤ン坊喧嘩旅」 (脚本・星田正郎、監督・勝新太郎、撮影・森田富士郎)1975年1月16日放映でリメイクされる。テレビ版のお香役は大谷直子、宇之助役は中山仁。映画版の本編では省略されて予告編にのみ残っていた、茶屋の女将が固い布のおしめを注意する場面と湯あみする場面がテレビ版では取り込まれていた。盲人たちが位置をかくまう場面はテレビ版にはない。また、お香が宮木村の川べりで市を待つという最後になっていた。市は去っていく。
2017年5月5日


NHK総合
22:00
 
ツバキ文具店



NHK総合
2017年
各回48分
 
  小川糸原作、荒井修子脚色、演出黛りんたろう他。『ツバキ文具店 鎌倉代書屋物語』6回放映の第4回「最後のラブレター」。
 母に棄てられ、祖母(倍賞美津子)に育てられた鳩子(愛称はポッポ)(多部未華子)は8年前に家を出ていたが、祖母が亡くなったのをきっかけに祖母が経営していた文具店を引き継ぐことになってしまった。文具店とともに祖母の手がけていた代書の仕事も依頼されるようになる。
 手紙にこめられたいろいろな人生と関わる鳩子の軌跡が描かれる。手紙を書くときの状況にふさわしい筆やインク、便箋の選び方などにも心配りが描かれていて気持ちの良いドラマになっている。
 第4回は幼馴染で結婚を考えたこともあった女性に現在の元気な様子を女文字で伝えて欲しいと依頼する男性の手紙を代書する話。第3回は男爵(奥田瑛二)に金の無心をする男に断りの手紙を書かされる話、第2回は離婚のお知らせを依頼される話。第1回はペットだった猿へのお悔やみの手紙の代書の話(未見です)。
 第5回は姑から文字の汚さを指摘された嫁の悩みが鳩子の母に対するわだかまりを解く話。きれいな文字を書くのではなく、その人が練習したあげくに書けるようになるだろう文字を想定して書くというのが代書屋の心がけという回だった。それが姑に伝わって、姑は自分のふとした言葉がどれほど嫁を傷つけていたかに気づく。
 第6回は認知症の白川(高橋克典)の母(草村礼子)が心待ちにしている亡き夫からの手紙を依頼される。その母親からは先代と勘違いされる鳩子。なかなか書けなかったが、気晴らしにと歩いた鎌倉の七福人巡りの途中で望遠鏡からのぞいた世界、ひとがいたわりあう様子に感興を覚えて一気に天国からの手紙が書ける。
 第7回は未見。第8回(最終回)は守景さんが実家の長野に帰る報せがショックで寝込んでしまった鳩子。バーバラ夫人の桜の下でのパーティでやや元気を取り戻す。友人たちは鳩子の想いを大切にしている。守景さんは長野へ行くのを止める。鳩子は守景さんの支えになることを承知する。祖母の想いを理解した鳩子は亡くなった祖母にあてて手紙を書く。
2017年5月3日


NHK総合
0:10
憲法70年


NHK総合
2017年
60分
 NHKスペシャル「憲法70年 “平和国家”はこうして生まれた」。4月30日21:00からの放送の再放送。ディレクターは梅原勇樹。日本国憲法はGHQによる押し付け憲法だと主張する改憲派が多い。しかし、それは違う。憲法制定にあたって日本側のキーマンは衆議院議員・鈴木義男、裕仁天皇、幣原喜重郎の三人である。
 現在の憲法9条には「国際平和を誠実に希求し」とあるが、GHQ草案には平和のような言葉は無かった。そのルーツを探ってみると、最も早い段階は昭和20年9月4日に召集された国会において天皇が発せられた勅語に「平和国家を確立し」とあったのである。勅語は第1案から第4案まで作成された。第1案には国体の護持があげられていたが、これは第2案では削除された。第3案で「平和的新日本を建設」という言葉が入った。加筆したのは東久邇之宮徳仁親王と思われる。9月25日に天皇に会見したフランク・クラックホーンは平和国家に対する天皇の強い思いを記録していた。昭和天皇実録によれば、昭和天皇は帝国憲法改正調査の依頼は近衛文麿に任せるつもりだったらしい。一方、幣原内閣は憲法問題調査委員会を立ち上げて検討を開始していた。戦犯論議が進み、近衛文麿は戦犯として逮捕される公算が強くなってきた。逮捕される当日12月16日、近衛は服毒自殺をとげ、憲法改正は幣原内閣の委員会の仕事となった。
 昭和21年1月、元日に天皇の人間宣言があった。1月24日に幣原はGHQのマッカーサー元帥を訪問している。「羽村メモ」によると、幣原の提案の第一は天皇制の維持だった。次いで戦争の放棄。委員会の委員長の松本蒸治は軍の残置を考えていた。「マッカーサー・ノート」によれば、マッカーサーは事態を急ぎ、戦争の廃止、戦力の不保持、交戦権の否定のほかに、自衛の戦争も否定していたという。自衛の戦争を削除したのはチャールズ・ケーディスだった。2月12日にGHQの草案の提示。天皇は象徴となる。
 4月10日に総選挙、吉田茂内閣誕生。衆議院に憲法問題小委員会が設置された。小委員会では党派を超えて平和国家への願いが主張された。議員・鈴木義男が主張する「平和国家の建設」「戦争の放棄」は理解されていった。1946年11月3日、日本国憲法発布。
2016年2月26日


NHK総合TV
21:00
又吉直樹
第二作への苦闘


NHK総合TV
2017年
50分
 処女作『火花』で芥川賞を受賞した又吉直樹が第二作『劇場』へ取り組む姿を描く。『劇場』は、売れない劇作家を主人公にした恋愛小説である。
 文芸雑誌「新潮」の編集長・矢野優がサポートするが、いちど書かれた作品に対して、ダメを出す。
 自らの青春時代に太宰治や芥川龍之介を読んで救われた又吉は、自分の小説にも読者に救いをもたらしたいと思う気持ちが強いようだ。自分勝手な世界を書いてもよいと思いきれない姿勢が迷いをうむ。『火花』を読んで難しいという感想を言われたことにかなりこだわっている。わかりやすい言葉で書いて、しかも面白いものを書こうと努力する。しかし、純文学であれば必ずしもわかりやすい言葉でなくてもよいのではないだろうか。表現が革新的であればあるほど必ずしも言葉はわかりやすくはない。音楽でいえば不協和音の連続のようなものだろう。



シェイクスピア作品の映画化やその関連の映画は除く。
それらは別ファイルになっている。→ 『シェイクスピアの劇と映画


  BACK TO 私の名画座       森崎東全作品・資料    資料発掘・鈴木清順語る