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 映画 日記              池田 博明 


これまでの映画日記で扱った作品データベース  映画日記 前月の分  



2016年2月1日以降、2016年12月31日までに見た 外 国 映 画 (洋画)

見た日と場所 作  品              感    想 ・ 梗  概   (池田博明)
2016年12月11日



DVD
独裁者



UA
1940年
120分
 チャップリンDVDコレクション第1回発売作品は『独裁者』。未見だったので購入。
 トメイニア国の独裁者ヒンケルとうり二つの床屋の小男は第一次世界大戦で、重傷を負ったシュルツを偶然助ける。記憶を失くした小男は戦後に政変が起こり、ヒンケルが総統になったのも知らなかった。床屋の店はユダヤ人のゲットーにあった。ヒンケルはユダヤの富豪からの借金を画策している間はゲットーに手を付けなかったが、借入が不調に終わると、ゲットーのユダヤ人を収容所送りにして迫害し始めた。
 トメイア国の軍属となっていたシュルツはヒンケルの製作に異を唱えたため、収容所送りにされてしまう。シュルツは命の恩人である床屋の小男をかばったため、床屋にもトメイア軍の手が伸びていた。シュルツはゲットーに身を潜める。
 一部のユダヤ人は農村オスタリッチに移住し、束の間の平和を体験したが、オスタリッチもトメイア国の占領するところとなった。
 囚われの身となった床屋とシュルツは収容所から脱走する。ちょうど鳥撃ちに来たヒンケルは脱走した床屋と間違われてしまう。総統と誤認されたまま、床屋はオスタリッチを占領した国民の前で演説をしなければならなくなる。
 独裁国家を否定し、民主主義国家を賞賛する演説は、理想の言葉で語れられ、現代的な意味を帯びていた。ISや北朝鮮などの暴力的な政府を批判し、経済第一の金持ちファーストのトランプ陣営を批判し、保護主義を衝く。こんな風である。
 「人は自由に美しく生きていけるはずだ。なのに、私たちは道に迷ってしまった。貪欲が人の魂を毒し、憎しみで世界にバリケードを築き、軍隊の歩調で私たちを悲しみと殺りくへと追い立てた。スピードは早くなったが、人は孤独になった。富を産みだすはずの機械なのに、私たちは貧困のなかに取り残された。知識は増えたが、人は懐疑的になり、巧妙な智恵は人を非情で冷酷にした。私たちは考えるばかりで感情をなくしてしまった。私たちには、機械よりも人の心、抜け目のない利口さよりも優しさや思いやりが必要だ。そういったものがなければ、人生は暴力に満ち、すべては無になってしまう」
 建前の正義を大事にする以前のアメリカの価値観を訴える力強さに溢れていた。つまり、『独裁者』は他の現代映画にもまして、現代を撃つ映画であった。
2016年10月14日



DVD
バーク・アンド・ヘア


イーリング・スタジオ
2010年
91分
 英国のエジンバラで1827年から1928年に実際にあった連続殺人事件を基にしたブラック・コメディーで、監督はジョン・ランディス。
 公開絞首刑で人々がわきたつ広場。窃盗の罪で老婆が吊るされた。バーク(サイモン・ペッグ)とヘア(アンディ・サーキス)は露店で万病の薬を売っていたが、客にチーズのカビだと見抜かれ、逃げ出す。ヘアの妻(ジェシカ・ハインズ)が大屋を務める下宿屋に帰ると家賃を支払ってくれる予定の店子がちょうど死んでしまったところだった。死体をワイン樽に詰めて町はずれまで転がしていく途中、解剖学のノックス博士(トム・ウイルキンソン)が新鮮な死体を探していることを聞き付け、交渉の末5ポンドを得る。死体が商売になると知った二人は墓場泥棒を試みるが、掘った墓の棺桶のなかは骸骨。おまけに見回りの民兵隊から撃たれる始末。死体の調達に困った二人は殺人を思いつく。
 バークは酒場の娼婦ジニー(アイラ・フィッシャー)が女性だけのマクベス上演を企画するという演説に惚れて、ジニーのパトロンになろうと必死に死体作りに励む。ノックス博士は新鮮な死体を解剖して、フランス人の写真屋に撮影させ、人体写真集を作って国王の評価を得ようとしていた。一方、失踪者を捜査していた民兵隊も次第に真相に迫っていた。
2016年7月7日


DVD
町の人気者


MGM
1943年
117分
 原作がサローヤンの「The Human Comedy」。サローヤン自身が脚本を書こうとしたものの、受け入れられず、映画化の後に小説版が出版されると云う経緯をたどった。ただし、小説版はかなり映画版と異なる。
 亡くなったマシュー・マコーレィ(レイ・コリンズ)がイサカの街の家族の物語を語り始める。マコーレィ家の末っ子ユリシーズ(ジャック・ジェンキンス)が列車を見に行く場面から始まる。列車の黒人がユリシーズに「わが家に帰るんだ」と声をかける。走って帰ってきたユリシーズはつまづいて転ぶ。
 マコーレィ家の次男ホーマー(ミッキー・ルーニー)は自転車を乗り回し、電報を配達する。ホーマーの兄マーカス(ヴァン・ジョンソン)は兵隊になっている。アコーディオンの腕前を披露している。
 ホーマーは電信技士のグローガン(フランク・モーガン)と一緒に働いている。局長スパングラー(ジェイムズ・クレイグ)はホーマーにハードルの超え方を教える(小説版には無い)。グローガンはホーマーに酔ったり居眠りをしていたら冷たい水を顔にかけて隣の店のコーヒーを持参してきてくれと依頼する。マコーレィ家は母(フェイ・ベインター)、娘ベス(ドンナ・リード)、ユリシーズ、隣の娘でマーカスの恋人メリー(ドロシー・モリス)で歌を楽しむ明るい家族。ユリシーズはハープを弾く母親にマーカスや父親がいない理由をたずねる。
 ときには息子の戦死電報も届けなくてはならない。サンドヴァル夫人(アン・アヤーズ)のもとに辛い電報を届けた日はすっかりホーマーも気落ちしてしまった。マコーレィ家の朝、ホーマーが早口に唱えたお祈りの言葉の意味をベスに問われる。学校に行ったホーマーは同級生のヘレン(リタ・クイグリー)に薔薇の花を贈るがヒューバートがそれを自分の胸に刺してしまうのでヒックス先生(マリィ・ナッシュ)の授業中に私語をすることになってしまい、先生に放課後残される。200mハードルの競技に参加する予定だったヒューバートとホーマーは放課後残されるのは困ると訴えるが、ヒックス先生は許さない。
 放課後、陸上のコーチでもあるブレント先生はヒューバートに競技に出る許可を得ようとするが、校長の許可が出ない。校長は自分も高校生のときに教わったヒックス先生に異議を唱えることなどできないと言う。ブレント先生は説教をされている教室からヒューバートだけを連れて出る。この特別扱いにホーマーは抗議する。ヒックス先生も同感だった。先生はホーマーの禁を解き、ホーマーも200mハードル走に出場できることになる。ホーマーはヒューバートに勝って、喜ぶ。ヒックス先生も大喜び(小説版ではホーマーが体操教師とともに途中で転んだり、ゴールが同時だったり、体操教師がホーマーに罰を宣告したりと、異なる展開になる)。
 上機嫌のホーマーは電報局でもご機嫌である(小説版にはユリシーズが新案の動物わなにかかってしまい、ビッグ・クリスがわなを壊して助けてくれる挿話がある)。局長を尋ねてダイアナ・スティード(マーシャ・ハント)が来る。夜にはダイアナのパーティがある。ダイアナの父(ヘンリー・オニール)と母(キャサリン・アレクサンダー)は、娘の恋の相手スパングラーに懸念を持っている様子。スパングラー自身もダイアナの愛情と相性を心配しているが、ダイアナは自分の愛情には自信を持っている。スパングラーはダイアナにネクタイを借り、彼女の両親に挨拶をする。両親は正装をしているスパングラーに好意を持つ。
 ホーマーはヒューバートのヘレン宛の電報を届ける。ヘレンが好きなホーマーにとっては恋敵の誕生祝いの電報など届けたくないものだ。しかし、仕事がら届けないわけにはいかない。ヘレンの自宅でハッピー・バースディの歌とともに電報を届けるホーマー。ヒューバートとは仲直りする(小説版にはホーマーが電報局でヘレンやヒューバートのことを説明する。その後、強盗を働こうとする若者の挿話がある)。
 ベスとメアリーはホーマーにランチを届けた帰り、外出に出た三人の兵士たちに誘われ、一緒に映画を見ることになる。各人それぞれ親しいひとへ電報も打つ。女性と一緒に過ごせたと、仲間への土産話ができたと喜ぶ兵士たち。マーカスとトビー(ジョン・クレイブン)はチキンの羽をむしっている。マーカスが話すイサカの町や家族の様子を憧れをもって聞くトビー(小説版にはホーマーの見る死の電報配達人の夢の挿話がある)。
 翌朝、寝坊したホーマーの朝食の席にユリシーズを迎えにユリシーズよりやや年上のライオネル(ダリル・ヒックマン)がやってくる。ライオネルとユリシーズは町の図書館へ。図書館を見学した二人はオギーたちに合流。少年たちは熟したアンズを狙っている。オギーがアンズを取ってみたがまだ未熟。畑の管理人の老人ヘンダーソン(クレム・ベヴァンス)が姿を見せると少年たちは一斉に逃げた。ユリシーズも逃げるが、彼にはなぜ逃げなければいけないのかが理解できない。ライオネル「老人がこわいから」、ユリ「こわいって何?」(食料品屋が息子にいろいろな果実をわたす挿話が映画版には無い。ホーマーがいやな経験をする講演懇談会や売春宿と思われるベセル館の挿話が映画版には無い)。機械仕掛けの人形メカノ氏をこわがるユリシーズ。町の人々が泣くユリシーズを心配する。ホーマーが彼を受け取め、自転車に乗せて歌いながら帰宅する。
 汽車のなか兵士たちは「主の腕に頼って」を歌う。電報局ではホーマーがマーカスからの手紙を読んでいる。手紙は自分の財産はすべてホーマーに譲る、万一自分が死んだら家族を頼む、自分は家族のために戦うという内容だ。
 しばらくして、ダイアナとスパングラーは結婚。グローガンは死亡、マーカスの戦死の電報を受信中だった。ホーマーは家族に戦死をどのように伝えたものか、言葉を失う。スパングラーがホーマーのそばに寄り添う。二人は夕方まで蹄鉄投げをする。トビーがイサカに帰還してくる。トビーをマーカスのように迎えるマコーレィ家の人々。
 
2016年7月7日


DVD
バニー・レークは行方不明


コロムビア
1965年
107分
 オットー・プレミンジャー監督のサスペンス映画。アメリカからロンドンにやってきたばかりのアン・レーク(キャロル・リンレー)は、娘のバニーを保育園に預けたが、ごったがえしている保育園で保育士にも合わず、料理人に依頼して、アパートで荷を解く。夕方に娘を迎えに行くと、娘はどこにもいない。保育園の校長や職員も娘を見ていないと云う。特派員をしている兄スティーブン(キュア・デュリア)に相談、警察に通報するも、娘の荷物さえ無くなっており、存在そのものさえ疑われる始末。捜査に当るニューハウス警視(ローレンス・オリヴィエ)はバニーの客観的な目撃者はいないかと問うのだが、ロンドンに到着したばかりだったアンには思い当たる人がいない。
 そんななか、アンはバニーが大事にしていた人形を人形修理屋に出したことを思い出す。引き換え証を手がかりに店を見つけたアン。閉店後にも人形修理にいそしむ老人の配慮で倉庫にバニーが預けた人形を探す。その結果は・・・。
 
2016年3月15日~31日


3月12日
WOWOW
初放送
新米刑事モース



英国
2012~2015年
90分

 コリン・デクスター原案の主任警部モースの若き日を描いた英国ミステリー。既に吹替えで11作放映されていた(一話90分、パイロットは一部カットされている)。放映に気が付きませんでした。デクスター・ファンとしては失態です。
 第10話は「表と裏のバラッド Ride」(ラッセル・ルィス脚本、サンドラ・ゴールドバッハ監督)。前回第9話「腐った林檎 Neverland」で、モース(ショーン・エヴァンス)は殺人犯の嫌疑をかけられ、相棒のサーズディ警部補(ロジャー・アラム)も撃たれて瀕死の重傷を負った。したがって、第10話では、モース巡査もサーズディ警部補も最初は休職中である。バスの女車掌ジェニー・ハーン(メグハン・トリードウェイ)が湖畔で轢死体で発見された。前夜、彼女は遊園地で行方不明となっていた。モースは湖畔の豪邸で毎晩パーティを開いている青年実業家ビクスビー(ディヴィッド・オークス)と知りあう。ビクスビーの友人がモースの大学時代の知り合いだったのだが、粗暴で美人妻ケイ(ジェミマ・ウェスト)がいながらも浮気性。その美人妻はモースをも誘惑する。
 第11話「遠き理想郷 Arcadia」(ラッセル・ルィス脚本、ブリン・ヒギンズ監督)は貧乏画家が住む部屋が爆発。黒焦げの遺体が見つかった。同じころ、安くて有名なスーパー、リチャードソンのチェーン店で買い物客の女性が倒れて亡くなるという事件が発生。その後、スーパーの商品ベビーフードにガラスの破片が混入される。店への嫌がらせである。オーナーの娘の誘拐事件まで起こる。
 第1話のカット場面を説明したブログがあった。 ≪E:Case1≫カットされたシーン込のエピソードガイド(1) 『Endeavour 2012/華麗なる賭け-新米刑事モース~オックスフォード事件簿』。
 英国Pal方式のDVDが入手可能で、英語だが一応購入予定。字幕版が発売されるのを楽しみにと思うものの、『主任警部モース』の吹替版が後半を除きほとんどDVDで発売されなかった日本では、期待が裏切られる可能性が高い。第1話から第9話までの記録を探索してみた後、WOWOWオンデマンド配信で吹替版が12月末まで見られることが分かった。さっそくWOWOWオンデマンドを試してみる。インターネット・エクスプローラーでは受信できなかったが、Firefoxでは受信できた。過去の放送も見られました。
 2013年8月31日の日本初放送では、本国で2012年1月2日に放送されたプリクエル(華麗なる賭け)と、2013年4月から放送されたシリーズ1第1話「Girl 毒薬と令嬢」のみの放送だった。プリクエル&S1E1、「華麗なる賭け」&「毒薬と令嬢」は、2013年9月24日(火)深夜1時よりWOWOWプレミアにて再放送された由。
 パイロット版「華麗なる賭け」の略筋は、若きエンデヴァー・モースはメリー・トレムレット失踪事件の捜査で主任警部補フレッド・サーズディと組むことになる。トレムレットは学生には不似合いな初版のハードカバーの詩集を持っていた。クロスワードで秘密の恋人と待ち合わせの場所を約束していたらしい。恋の相手は指導教官のストロミング教授だろうか。Case2「毒薬と令嬢」の略筋は、書記学生の急死と彼女の家庭医の銃撃には関連が無いようにみえたが、モースの推理は違った。
 2013年11月30日(土)午後1:00~(Case 3~5、全3話) 「Case 3(シリーズ1 エピソード2) 殺しのフーガ Fugue」:廃棄された電車内で人妻の遺体が発見される。続いて女性の植物学者が何者かに殺される。捜査本部に加わったモースは、2つの事件の現場にいずれも有名なオペラの一節が書き残されていたことに気付く。連続殺人事件の幕開きだった。
  「Case 4(エピソード3) 犯罪相関図 Rocket」:歴史あるブリティッシュ社の武器製造工場をマーガレット王女がご訪問する中、工場の組立工マレソンの遺体が見つかる。容疑者はブリティッシュ社を経営するブルーム家と従業員数百人。
  「Case 5(エピソード4) 家族の肖像 Home」:オックスフォード大学ベイデリー・カレッジの教授がひき逃げ事故に遭い死亡してしまう。事件を追う内にサーズデイ警部補はロンドンから来た元大物ギャングと再会する。彼らの間には過去からの因縁があった。
 「Case 6(シリーズ2 エピソード1) 消えた手帳 Trove」:見ず知らずの男が転落死した。その後、彼の手帳が証拠物件から消えた。モースは大学に通ずる深い下水道で秘密を発見する。「Case(エピソード2) 7 亡霊の夜想 Nocturne」:博物館で系図学と紋章学の専門家の老紳士が殺害された。事件当時に見学に来ていた女子校生へ聞き込みに行くモース。その学校には過去に忌まわしい殺人事件があり、亡霊出没の噂があった。「Case 8(エピソード3) 黒の絞殺魔 Sway」:人妻の死体が自宅で発見された。被害者は黒のガーターストッキングで絞殺されていた。「Case 9(エピソード4) 腐った林檎 Neverland」:出所を直前にした囚人が脱獄したことで,連鎖反応が起き,過去の少年更正施設でのおぞましい実態が明らかになる。
 詳しい物語の展開は「新米刑事モース/オックスフォード事件簿」に別記述。モースが捜査の途中で示す仮説は、必ずしも真犯人を正しく特定できていない。しかし、最後の最後にドンデン返しがあり、意外な犯人と動機が明らかになる。どのエピソードも魅せる。
 「主任警部モース」も見直している。The Making of Inspector Morse by Mark Sanderson (1995)と、The Complete Inspector Morse by David Bishop (2011)を入手。
2016年3月9日




DVD
長ぐつをはいたネコ


ドリームワークス
2012年
90分
 ドリムワークスのアニメ『シュレック』のキャラクター、長ぐつをはいたネコを主人公に製作された長編アニメーションン。3月8日(日)午後に、NHK総合テレビでも放映された。ネコのPussがおたずね者になったのは銀行から金貨を盗んだからだったが、実際に盗みをはたらいたのはPussではなく、卵のハンプティ・ダンプティだった。二人は魔法の豆を探す豆同盟を結んだ仲間だったのだが、町への貢献から名誉の長靴を贈られたPussが豆泥棒を止めたことを怒ったハンプティの盗みがエキサイトした結果だった。
 魔法の豆をジャックとジルが持っているという情報を得たプスは彼らから豆を奪うべく、メス猫のキティとハンプティと協力する。豆を指定の場所に植えると巨大な豆が天に届き、金の卵を産むガチョウが手に入るのだという。プスはその金の卵で町へ金を返そうと考える。
 凶悪な面構えのジャックとジルを始め、町の住民たちも決して柔和には描かれていない。人間の凶悪さに比べると、ネコのほうが穏やかでユーモラスな表情をかもし出している。
 特典で収録されているスピン・オフ短編「長ぐつをはいたネコ/悪の三銃士」は、やんちゃな子猫が登場して、微笑ましい出来。
2016年3月8日




BD
ハスラー



20世紀フォックス
1961年
135分

 地上波放映短縮版を以前に見たことがある。シネマスコープ版全編を今回初めて見た。
 脚本・監督はロバート・ロッセン。非米活動委員会で証言したことによって、裏切り者と非難されることになったロッセン監督の思いも込められた作品。決してほめられたものでない生き方をするならず者、Fastエディーを、ポール・ニューマンが演ずることで、主人公の挫折から立ち直る落伍者(looser)が共感をもたれることになった。ワーナーと契約していたポールは役に恵まれず、使い捨てのチョイ役程度だったが、フォックス作品では次第に役をもらえて、『ハスラー』ではアカデミー賞にノミネートされ、ブレイクすることになった。
 ハスラーは玉つき賭博で暮す勝負師のこと。最初はわざと負けて、カモを引き込んだところで大きく賭けて勝ち、大儲けする。『ハスラー』で、エディがミネソタ・ファッツ(ジャッキー・グリーソン。好演)と勝負するのは、プールというゲーム。No.1を目指してカリフォルニアの田舎からニューヨークの街へ出て来たエディは40時間にも及ぶ勝負で、ファッツに負ける。負けた原因をバート(ジョージ・C・スコット。怪演)は「技ではない。人格の違いだ」と評価する。酒におぼれたエディの負けだった。エディは失意のどん底で、同様に失意で暮す小説家志望の女性サリー(パイパー・ローリー)に出会う。
 パイパー・ローリーはロッセン監督の推薦だったが、ポールは「変っていた。秘密主義だった。自分のことを話さないんだ」と証言。助演者は「(パイパーは)セットのアパートの室付近の楽屋に家具を持ちこんで、そこで寝泊りしていた変なひと」と証言。アカデミー主演女優賞にもノミネートされたが、その<いびつな>感じが映画にはうまく定着されたと、評価されていた。
 編集を担当したデデは、ロッセン監督の意図通りに編集した、特別なことはしていないと言う。編集が目だつ作品は失敗だというのが彼女の持論である。アーサー・ペン監督とも組んでいる彼女は『俺たちに明日はない』の編集は最低だ、しかしその後それが真似されるようになった、何が評価されるか分からないと言う。『ハスラー』では、ビリヤードの世界チャンピオン、モスコーニの突きのショットとグリーソンやポールのショットをモンタージュしてつないでいる。グリーソンは名人だったし、ポールはキューを握ったこともなかったが、モスコーニの薫陶を受けて見事に突けるように上達したという。
 吹替えでは「負け犬」、字幕では「落伍者」と言われる原語はlooserで、対語はwinner。バートはエディーを一駒のハスラーとして利用しようと意図するが、サリーはその意図を汲み取って、エディーにルーザーは下劣だと身を棄てて訴える。挑戦者として自立し、飼い犬であることを拒否しようと決意して、エディーはファッツに最後の勝負を挑む。
 
2016年3月7日




DVD
スティング



ユニバーサル
1973年
129分
 ジョージ・ロイ・ヒル監督が、ニューマンとレッドフォードのコンビで造ったコン・ゲーム(信用詐欺)の作品。あらすじを語ってしまっては意味がないが、観客を気持ちよく騙してくれる作品。撮影はロバート・サーティーズ。
 レッドフォードは親代わりのルーサーと組んで、ひったくりの被害者や行きずりの通行人を装う詐欺士のひとり。ある日、カモった男が組織の運び屋だったため、失敗を認めない組織から命を狙われる羽目になる。足を洗うと言っていたのに殺されてしまったルーサーの仇を討とうと、伝説の詐欺士ゴンドーフ(ポール・ニューマン)のもとを訪ねる。話を聞いたゴンドーフは、ひさしぶりの大仕事だと綿密な計画を立て始める。ルーサーのためならと多くの仲間が協力してくれる。ゴンドーフが立てた計画は、「有線」ものだった。競馬のノミ屋を贋物で設定してしまう、大人数のサクラを使う大がかりな詐欺である。いっぽう、フッカーは街の悪徳警官スナイダー(チャールズ・ダーニング)から目をつけられて追われていた。フッカーが警官からは追われ、組織からは命を狙われる状況で、いったいどんな仕掛けが組まれ、フッカー(引っかけという意味)はどんな役割を担うのか、大勝負が始まる。
 
2016年3月4日




DVD
明日に向って撃て!



20世紀フォックス
1969年
111分
 ゴールドマンの脚本は当初「The Sundance Kid and Butch Cassidy」だったが、配役がスターのポール・ニューマンがブッチ役、ほとんど無名のレッドフォードがサンダンス役に決まったところで、映画の題名は「Butch・・・」とブッチが先になったのだと言う(ザナックの証言)。サンダンス役にはスティーヴ・マックイーンが上がっていたが、マックイーンが降板した後、混迷を深めていた。レッドフォードを推薦したのはジョアン・ウッドワード(ニューマンの妻)だったと言う。レッドフォードは『裸足で散歩』に主演していた。
 ゴールドマンの初のオリジナル・シナリオは、アメリカで行き詰って南米で強盗を働いたという実在の無法者を描くということに新鮮さを感じて書かれたものだったが、そんな西部から逃げた男たちを描くのは、最後までタフを貫くジョン・ウェイン流の西部劇の定番から外れていたため、製作者たちは作品の成功に半信半疑だった。しかし、ザナックはニューマンとマックイーン二大スターの共演というシナリオに40万ドルの脚本料を支払ったという。
 監督のヒルは、それまでに西部劇を監督したことが無かった。しかし、ヒルは過去の西部劇を研究してコメディー風味の演出を考えていたようだ。冒頭に「ほとんどは実話である」と字幕が出る。即興で笑いを取る演技をしてしまうニューマンには、ヒル監督は演技を抑制してリアルに演じるように何度も説得したらしい。しかし、一般試写では冒頭の無声映画のシーンから(どういうわけか)観客は笑い出し、その後も全編笑いっぱなし。製作者は観客の反応に上機嫌だったが、監督は「喜劇になりすぎた」と気落ちして、喜劇的場面を削って完成させたと言う。公開されると、批評家には酷評されたが、観客には大好評。ある街の公開では上映が終わるとスタンディング・オベーションになった。その後、アカデミー賞も受賞した(脚本・撮影・音楽・主題歌賞)。
 バカラック作曲の「雨に濡れても」が流れる自転車場面(ブッチとエッタが乗る)も「唐突で全体の流れにそぐわない」という意見があったが、作曲家志望だったこともある、音楽に理解のあるヒルは押し切った。バカラックの音楽は場面を見てから付けたもの。ハル・ディビッドによる歌詞はブッチの頭の上にだけ雨が降るという、彼の運の無い人生を表現したもので、曲の明るさとは好対照を成している。
 時代はベトナム戦争反対の機運が高まっていた。二人を追う追跡隊が戦争を進める権力に、アウトローが若者になぞらえられて共感をよんだと分析されていた。当時、キネマ旬報読者の映画評の常連投稿者たちは、この手の映画を「ポンコツ・ヒーロー」ものと称していました。『モンテ・ウォルシュ』『砂漠の流れ者』『さすらいのカウボーイ』『ひとりぼっちの青春』など。その後にも『ミネソタ大強盗団』や『ロングライダーズ』などがあります。1960年代後半の日本語タイトルは『俺たちに明日はない Bonni and Clyde』や『明日に向って撃て!』など工夫されたもの。
 撮影のコンラッド・ホールを強く推薦したのは監督のヒルにポール・ニューマン、美術のアンダーソンらだった。ホール起用を渋っていた製作陣も最後には折れた。ホールはエッタ役のキャサリン・ロスに恋していたという。
 
2016年3月3日




DVD
暴力脱獄



ワーナー
1967年
126分
 ドン・ピアース原作の『COOL HAND LUKE』の権利を、20セントもしない金額で買ったローゼンバーグ監督が映画化を進めるにあたって、持ちこんだのは1930年代にも刑務所や囚人を描いた映画を製作していたワーナーだった。脚本にも協力している原作者は3分の1はルークの実話,3分の1は自分自身の体験,3分の1がフィクションだと説明している。
 囚人たちを演じているのは俳優養成所出身の舞台俳優たちが多かったが、撮影のため一緒に生活、仲が良くハメをはずすこともある楽しい現場となったと言う。現場が楽しいと作品は最悪というジンクスに反する結果となったと言う。監督は画面が「明るすぎる」という批判に不満を述べていた。監督は,撮影監督コンラッド・ホールの腕前を尊敬しており,そのコントラストの強い撮影は暗い物語と対比させるために意図して明るい背景を採択したのだと解説していた(DVDのメイキング映像より)。
 1月にジョージ・ケネディが亡くなったので、追悼の意味を込めて再見する。
 
2016年2月19日



レンタル
テッド2


ユニバーサル
2014年

 『テッド』の続篇。スタッフは同じ。タイトル・バックはMGMミュージカルのレビューを再現した豪華な見世物。
 前作から2年後、ジョンはローリーと相性が合わずに離婚していた。テッドはタミ・リン(ジェシカ・バース)と結婚したものの一年たつと喧嘩ばかりするようになってしまった。なんとか和解したいテッドはレジの同僚(白人夫婦を白ニガーと差別する)の助言で、子供はカスガイと、子供を産むことにする。テッドは男性器が無いので、精子を誰かに提供してもらわなくてはならない。『フラッシュ・ゴードン』の主役サム・ジョーンズに依頼するが、サムにはヤクのやりすぎで元気な精子が無いと断られる。テッドは「サムのつまんない映画を百回も見てやったのに」と憤慨する。続いて、アスリートの選手(アメフトのスター、トム・ブレィディのカメオ出演)の精子を盗もうとするが、気付かれて失敗。結局、ジョンの精子を得ることになった。精子採取のクリニックで、ジョンは精子保管棚を倒してしまい、精子まみれになる始末(女医がその棚は病気持ちの黒人の精子だったから大丈夫だという)。しかし、精子持参で産科医に相談すると、タミ・リンの卵巣がヤクのせいで痛んでいて、妊娠は不可能だと宣告された(彼女は五年前にヤクは止めたというのだが)。しかたがない。次は養子縁組を相談する。ところが、テッドは人間ではない、そもそも親たる資格が無いとの答えだった。そして、養子問題をきっかけにテッドの人権問題が注目され、テッドの権利が再審査され、次々に奪われていく。とうとう結婚も解消されてしまった。
 テッドとジョンは裁判に訴えようとする。有能な弁護士に相談するが、費用の点で折り合わない。しかし、弁護士の姪で大学を卒業したばかりのサマンサ(アマンダ・セイフライド。小顔で目が大きいので、テッドに『ロード・オブ・ザ・リング』のゴラムと呼ばれているが、映画ファンでない彼女にはなんのことか分からない)なら、練習がてら引き受けてくれるだろうと言う。なりふりかまっていられない二人は、サマンサに頼むことにする。会ってみると、サマンサにはマリファナ吸引の習慣があった。それで、三人は意気投合する。サマンサはアリゾナ州立大学の出身と設定されていて、アリゾナ州立大学はパーティ・スクールとして有名だとか。
 しかし、テッドは人間ではない、所有物だとする州側の弁護士には、負けを知らない腕利き弁護士が付いた。テディ・ベアを造っている玩具メーカー、ハズブロ会社の副社長に清掃係として接触したドニーの入れ知恵だった。ドニーは第1作でテッドに執着した男である。ドニーはテッドが所有物と決まれば、自由に解剖してその動く秘密を探れる、秘密が分かったら大量販売できると助言していた。
 サマンサは、陪審員に公正さについての考慮を求める。昔、黒人が米国で奴隷は所有物ではない、人間だと訴えたときに、判決は奴隷は人間ではないと判断された。それが不公正だったことは歴史が証明していると訴えた。しかし、判決でテッドは所有物と裁定された。気落ちするジョンたち。
 サマンサが助けを求めたニューヨークの人権派の弁護士パトリック・ミーガン(モーガン・フリーマン)が会ってくれることになった。ジョンたちは車で弁護士の事務所に向かった。20分間だけ運転を任されたテッドは捨てたつもりのタバコの火がお尻について暴走、森を下って古い小屋に突進してしまう。図らずも野宿となってしまった三人。テッドが小屋で拾ったギターをつまびきつつ歌うサマンサ。ふと気がつくと3人の目の前には貴重な種類のマリファナ畑が広がっていた(『ジュラシック・パーク』のテーマが流れる)。
 ミーガンには会ったが、ミーガンは弁護は引き受けられないと宣告。「テッドは社会に貢献していない。社会に貢献してこそ人間だ」というのが、ミーガンの主張だった。落胆する3人だったが、サマンサとジョンが逆に親しくなるのに、テッドが怒る。一人でニューヨークを徘徊し始めたテッド。彼を狙っていたのはドニーだった。コミック・コンの会場でテッドはタートルズに扮したドニーに捕まる。テッドが電話で助けを求めるとジョンが駆け付け、危ないところを救われたが、ドニーもあきらめてはいなかった。宇宙船の吊り糸を切ってテッドにぶつけようとする。気付いたジョンがテッドを蹴飛ばして救ったが、ジョンが宇宙船にはね飛ばされてしまった。重体になるジョン。
 病院で瀕死のジョン。翌朝、医師はジョンが死んだと告げる。悲痛なサマンサ、タミ・リン、テッド。ところが、急にジョンが笑いだす。死亡はジョークだった(第1作でテッドが綿がうまくつまっていなくて後遺症が残ったとウソを言ったことのお返しだという)。サマンサはSNSに泣き顔を流してしまったと怒る。事態は新聞記事になり、ミーガン弁護士が「裁判で大事なのは感情だ。テッドはジョンの状況を悲しんだ。これは人間的だ」と引き受けてくれる。上告審の結果、晴れてテッドは「人間」と認められる。テッドはいったん反故になったタミ・リンと結婚。
 テッド夫妻は養子縁組で男の子をもらってみんな仲良く暮しましたとさ。
2016年2月15日


DVD

テッド


ユニバーサル
2012年
106分
 セス・マクファーレン製作・原案・脚本・監督作品。友だちのいない8歳のジョンがクリスマスにもらったテディ・ベアに、奇跡が起こった。生命がふきこまれたのだ。国中の話題になったものの、あきっぽい世間にはそのうち忘れられ、月日がたって、ジョン(マーク・ウォルバーグ)は35歳のレンタカー店の管理人。テディとマリファナを吸い合う親友のままだった。ジョンには4年前にローリー(ミラ・キュニス)という恋人が出来たものの、それから4年がたってもテッドが第一な毎日。ローリーはテッドと別れて暮すことを提案する。思い切って別居を選択したジョンだったが、テッドの友人が催したパーティに『フラッシュ・ゴードン』の主役だったサム・ジョーンズが来ていると誘われて、ローリーとのパーティを抜けて行ってしまう。30分で戻るつもりが、サムと意気投合してしまい、時間がたつのを忘れてハメを外してしまう。そのことをローリーに知られて、二人は喧嘩別れになってしまう。
 責任を感じたテッドの取りなしもあって、ノラ・ジョーンズのコンサートに飛び入り出演して愛の歌を披露したジョンだったが、歌の下手さに怒った客を殴り倒してしまい、警察に連行されることになった。しかし、ローリーには想いが伝わったようだった。ふたりが仲直りしかかったとき、テッドはテディ・ベアを偏愛する親子に誘拐されてしまった。期せずしてテッド救出に協力しあうジョンとローリー。切られたり、引っ張られたりして裂けてしまうテッド。
 1980年代映画の引用が多い。引用元を解説してくれるウェッブもあった。ちなみに、『フラッシュ・ゴードン』も『フライング・ハイ』も『サタディ・ナイト・フィーバー』も劇場で見ております。
 クリスマスの習慣としてユダヤ人の子供をよってたかっていじめる伝統がある(いじめられているユダヤ少年もジョン・ベネットに憎まれ口を言うのが可笑しい)とか、ローリーを口説く上司が自分の白色を強調し、ローリーの浅黒さを褒めて出自を探る点、など人種ネタがあるが、その背景は不明だ。
2016年2月8日



BSプレミアムシネマ放映を録画

サイコ



パラマウント
1960年
108分
 再見だが、細かい展開はまるっきり忘れていた。マリオン(ジャネット・リー)が離婚したサム(ジョン・ギャヴィン)と彼の出張のたびに昼休みに逢引きしていること、妹ライラ(ヴェラ・マイルズ)がサムと真相究明に出向くこと、保安官補(ジョン・マッキンタイア)がノーマンの母親の葬儀を世話したこと、私立探偵アーボガスト(マーチン・バルサム)があと少しまで真相に近づくこと等など。
 ノーマン(アンソニー・パーキンス)はマリオンが持ち逃げしようとした4万ドル(新聞紙に包んでいる)に気付かないこと、謎解きが説明的で長すぎること(中原弓彦も同意見)。

 『世界の映画作家(12)』(キネマ旬報社、1972)の<自作を語る>の翻訳(筈見有弘・田山力哉)は拙劣だった。
 トリュフォーの『ヒッチコック 映画術』(平凡社)にも詳しい証言がある。
2016年2月1日



BSプレミアムシネマ放映
ヒッチコック



FOXサーチライト
2012年
100分
 ヒッチコックが『サイコ』製作や撮影の前後を描いたサーシャ・ガヴァシ監督の映画。原作が『メイキング・オブ・サイコ』。ヒッチコック役をアンソニー・ホプキンス、妻アルマ・レヴィル役をヘレン・ミレン、ジャネット・リー役をスカーレット・ヨハンソン、ヴェラ・マイルズ役をジェシカ・ビール、アンソニー・パーキンス役をジェームズ・ダーシーが演ずる。
 ヒッチコックが映画化を企画した『サイコ』はパラマウントが配給だけを手がけた自費製作作品だった。家を抵当に入れて借金をし、映画倫理委員会(委員長役はカートウッド・スミス)や配給会社をなだめすかしながらの出発だった。エド・ゲイン(マイケル・ウィンコット)という連続殺人鬼をモデルにした原作はB級スリラーとしかみなされていなかったのだ。ヒッチを編集者・脚本家として蔭ながら支えてきた妻アルマは、脚本家のウィット(ダニー・ヒューストン)に請われて脚本に協力、ヒッチコックは嫉妬でイライラしていた。殺人鬼エドの妄想も出現、たびたび起こる撮影の中断。アルマが采配をふるって危機を切り抜ける。
 ヒッチの蔭にアルマありを強く打ち出した映画だった。ヘレン・ミレン主演映画といえよう。主張がベタで、ふくらみにかける。ヒッチの妄想で殺人鬼エドがヒッチの部屋に登場する演出が何度かあるが、効果を上げていないと思う。


2016年2月1日以降、2016年12月31日までに見た 日 本 映 画 (邦画)会長

見た日と場所 作  品              感    想 ・ 梗  概   (池田博明)
2017年3月16日



NHK総合
22:30
華麗なるミュシャ 祖国への旅路


2017年
NHK総合
50分
 多部未華子が案内人となり、ミュシャの遍歴をたどる。パリでサラ・ベルナールのポスターを描いて一躍ときのひととなったミュシャは、独特のこまかく描き込まれた華麗な絵で人気となる。しかし、故国チェコの歴史や民衆に対する想いは、スメタナの『わが祖国』をきっかけとして強まっていった。ミュシャは大作『スラヴ叙事詩』を手がける。チェコの歴史を描いた人々が等身大で描かれた大作である。ミュシャは村人を衣装を着させてモデルにして描き込んだ。大勢の人々、それぞれの表情が描き尽くされている。歴史の主役は民衆なのだというメッセージが感じられる。
 1939年3月14日、ナチスのチェコ侵攻。ミュシャは要注意人物としてリストアップされ、ゲシュタポに捕らえられて独房に入れられた。4ケ月後、死亡した。78歳だった。ミュシャ展覧会は国立新美術館(六本木)にて6月5日まで。
 ディレクターは橋口恵理香。
2016年12月13日



NHK総合
22:25から
東京裁判



2016年
NHK総合
各50分×4回
 極東国際軍事裁判いわゆる東京裁判における11人の判事の討議をドラマ化した意欲作。四夜連続。8年の歳月をかけて資料を収集、判事相互の討議を脚本化した作品だという。「侵略に対する罪(平和に対する罪)」は事後法だから、それでもって被告たちを裁くことはできないというパル判事(インド)の意見、それに同調するレーリンク判事(オランダ)を主人公にドラマが作られている。
 第3回では東条英樹の証言によって天皇に戦争責任が及ぶかに見えたが、翌日東条が証言を変えて天皇の責任が取りざたされることはなくなったという挿話が取り上げられたが、裁判の証言をマッカーサーに届けたこと、元帥がそれを読み、なにかを感じたらしいことは描かれている、つまりほのめかされてはいるが、表だったドラマにはなっていなかった。首席検事だったキーナンが元帥の方針に従って東条に証言を変更させる工作を行ったという(福井紳一『戦後日本史』講談社α文庫)。
 判事は各国から選出されているが、当然のことながら敗戦国のドイツ、イタリア、日本からは選出されていない。また東京裁判の前に行われたドイツの戦争犯罪を裁くニュルンベルグ裁判の前例も大きく影響した。
 第4回では判決書作成に至るドラマが描かれた。「侵略に対する罪」だけで有罪になった被告はいない。通常の「戦争犯罪の罪」が量刑に加味された。A級戦犯だけでなく、この作品では描かれていないB級・C級戦犯として起訴され、死刑判決を受けた者は937名にも昇った。末端で捕虜の扱いを問われ死刑になった人もいる。強制連行で連れてこられた朝鮮人兵士もあった。
 1948年12月23日、A級戦犯で絞首刑を宣告された人々の処刑が行われた。その翌日、19名が釈放された。岸信介・児玉誉士夫・笹川良一らも含まれていた。 
2016年10月22日




NHK総合
スニッファー 嗅覚捜査官



2016年
NHK総合
22:00
 NHKの土曜ドラマ[各回45分間]、華岡信一郎(阿部寛)は870種類のニオイ受容体で匂いを嗅ぎわけることのできる嗅覚捜査官。第1回は現場に残された不審な匂いから犯人を絞り込んでいく。 コンビを組む刑事・小向達郎(香川照之)は拳銃の腕は一流だが、もとマル暴の抜けたところもある人情派。第1回は冒頭でギプスに仕込まれたプラスチック爆弾の化学物質を嗅ぎとり、テロを防ぐ華岡を印象づける。偶然婚活パーティでそのクルーザーに載っていた小向刑事が犯人を取り押さえることになった。二人が組んで最初に捜査することになった事件は、スクラップ工場で働くドロップアウトした技術者・沼田(劇団ひとり)が老社長の仇を取る意図で悪徳エスタブリッシュを制裁していくもの。老社長の形見となった帽子に付着したヘア・トニックの匂いが、華岡にとっては謎だった。
 脚本は林宏司(第1回・第2回)、山岡潤平。音楽は岩崎太整。演出は堀切園健太郎(第1回・第2回)・橋爪紳一朗・渡邊良雄。総括プロデューサーは磯智明。
 第2回(10月29日)。遠方のビルの屋上から、ライフル銃で狙ったプロのスナイパーによる狙撃事件。華岡は、二人目が射たれた現場の匂いから犯人は日本人と推定した。そしてわずかに残された花と土の香りから、事件の真相を探る。一方、小向刑事は競技射撃の選手時代にチームメイトだった自衛官・仙崎(トータス松本)が、6歳の娘を海で亡くし、妻も悲しみで死んだことを知る。サメに咬まれたと報道されたが、本当の死因は船のスクリューだった。啓明会の大物三人が釣りをしていたクルーザーが事故の翌日、売りに出されていた。
 第3回(11月8日)。ドイツで戦前に活躍したという佐伯雲天の「裸婦クロエ」が美術館で公開された。記者発表に居合わせた華岡はアクリル絵具の匂いがするため贋作だと断言、大騒ぎになる。鑑定の結果、真作と認められるが、華岡はニセモノをホンモノと取り替えたと推理する。絵を売りさばく闇のシンジケートがあるはずだ。華岡は何者かに鼻をつぶされる。孤高の画家・志村(イッセー尾形)と接触した華岡。名誉毀損で裁判になれば絵は再鑑定される。小向は美人館長相手に罠を仕掛ける。
 第4回(11月15日)。新興宗教の教団のNo.2の女師が殺害された。教団の勢力争いが原因か。女性教団長に黒木瞳。
 第5回(11月22日)。新番組のTVキャスターの息子が誘拐された。身代金は1億円、さらに犯人は初日の番組で隠し子がいることを公表しろと要求してきた。誘拐犯の匂いから年齢や職業、通っている病院の匂いを特定する。TVの人気を失ってまでも子供を救う告白をするのか、時間はない。演出は橋爪紳一郎。
 第6回(11月29日)。華岡の娘・美里が殺人容疑で逮捕された。薬物所持で前科のある青年を刺殺したという。黙秘する娘を信じて華岡と別れた妻は特別支援班と協力して真相を調べていく。真犯人は誰か。美里は殺人を自供したというが、動機は語らない。喫茶店の防犯カメラの映像から美里の飲み物に睡眠薬が投入されて泥酔状態にされたことが分かる。麻薬の横流しで儲けているという噂の捜査関係者とは?美里の捜査を担当する鬼島(尾美としのり)は犯罪に加担しているのか。演出は渡邉良雄。
 第7回(12月3日)。華岡の元に宅急便が届く。匂いのしない手紙(どっちを選ぶ)と共に入ってた二種類の手がかり。手がかりから年齢や環境を割り出し、行方不明者と照合して一人を救出したものの、もう一人を救えなかった。すると華岡に有用な人物の方を選択したなと連絡が入る。次いで挑戦者は二人の女性の手がかりを送りつけてくる。今度も一人を救えなかった。挑戦者は三組めに一体だれを選んで来るのか。華岡は生贄を救うことができるのか。意外な犯人像が悪魔の選択を仕掛けて来る。演出・渡邉良雄。
2016年10月8日



NHK総合
夏目漱石の妻


2016年
NHK総合
21:00
 NHKの土曜ドラマ第1回「夢みる二人」(池端俊策脚本、柴田岳志演出)9月24日、第2回「吾輩は猫である」(池端俊策脚本、柴田岳志演出)10月1日、第3回「やっかいな客」(池端俊策・岩本真耶脚本、榎戸崇泰演出)10月8日、第4回「たたかう夫婦」(池端俊策脚本、演出)10月15日各回73分。Eテレの「らららクラシック」と重なるため、オンデマンド見逃し番組で視聴。
 中根鏡子(尾野真千子)は貴族院の書記官・中根重一(館ひろし)の長女。松山で中学教師をしていた29歳の夏目金之助(長谷川博己)と見合い結婚。第1回は最初の子を流産した鏡子に対して家族愛の経験がない金之助がうまく想いを伝えられず、鏡子が自殺をはかるまでになる。占い好きだった鏡子は見合い前に鏡の占いで「夢をひとつひとつかなえる人」という結果を得ていた。そんな鏡子に、金之助は「作家になること」という夢を伝える。 
 第2回では英国への留学から帰省した金之助は神経症で身近な家族に当り散らす。いったんは子供を連れて出ていった鏡子だったが、医師が異常な行動の原因を病気だと診断したことで、鏡子は病人なら傍にいて看病しなくてはと家に戻る。内閣が変わったことで罷免された鏡子の父親は相場に手を出して多額の借金を作る。父は金之助に借金の保証人になって欲しいと依頼するが、鏡子は断わる。金之助は鏡子の弟ひろしに対して保証人にはなれないと断ったうえで父親・中根氏に渡して欲しいと400円を預ける。
 第3回では金之助の養父だった塩原昌之介(竹中直人)が登場。帝大教授を辞めて朝日新聞社にはいった漱石に金の無心に来る。断りきれない金之助に代わって鏡子はなけなしの100円を手切れ金として渡し,金之助が別れ時に書いたという「お互いに不実不人情をしない」という念書を返却してもらう。足尾銅山の坑夫だという荒井伴男(満島慎之介)が突然金之介を訪問しに来て話し込む。漱石の小説『坑夫』のモデルとなった挿話である。
 第4回(池端=柴田)。荒井は夏目家に出入りするようになる。鏡子は警戒心を抱いているが、房子は親近感を抱いていた。金之助は文鳥を飼い始めるが、留守をした際の不手際で死なせてしまう。短編「文鳥」に理想の女性が描かれていることを荒井から聞いた鏡子は嫉妬する。木曜会や房子から金を借りていた荒井は足尾銅山の騒乱事件の仲間を匿ったと警察に捕えられる。金之助の名前を出して釈放されたが、荒井は金之助の家族を批判的に観察しているだけでなく、店を出すという計画も口先だけのことだったことが判明。彼は去り、苦い思いが残った。胃潰瘍が進んだ金之助は療養地の修善寺で喀血、死亡するかとも思われたが復活。信州での講演に同行した鏡子は『坊っちゃん』のきよは私でしょと尋ねる。その後、漱石は『行人』『こころ』『それから』『道草』『明暗』などを書く。
 原作となった夏目鏡子・松岡譲『漱石の思い出』は読んだ記憶があるが,とても面白かったという印象だけで内容をすっかり忘れていた。
2016年7月23日


NHK総合
未解決事件 ファイル5
ロッキード事件


2016年
NHK総合
19:30
 NHKスペシャル「ロッキード事件」再現ドラマ第1部(19:30~20:45)第2部(21:00~21:55)および第3部ドキュメンタリ-(7月24日 21:00~21:55)。東京地検特捜部の主任検事だった吉永祐介の保管していた極秘資料を元に再現ドラマを構成、ドキュメンタリーでは関係者の証言で検察で立証しえなかった事実を明らかにする。ロッキード裁判では事件の3つのルートのうち、トライスターにからむ全日空ルートと丸紅ルートがあきらかになったが、ロッキードから21億円の金が流れたという児玉ルートは解明されなかった。脱税で児玉が起訴されただけである。
 表に出た丸紅ルート、5億円の田中角栄への提供も真の目的はロッキード社の対潜哨戒機P3Cの売り込みにあった。大久保の秘書・坂やキッシンジャーの秘書官、駐日大使の手紙などを証拠として、日本への軍用機売り込みが日本の費用でアメリカの防衛力強化に資する成果となるという目的にかなうものとなったという。
 政府高官に渡ったという資金の流れは証拠が隠滅されて、いまだに明らかではない。日本の政治の闇の部分である。
2017年4月15日


NHK総合
廃炉への道
見えてきた“壁”


2017年
NHK総合
21:00
 「廃炉への道」シリーズの第二話。核燃料デブリ・見えてきた“壁”。2017年は取り出し方針決定の年である。デブリ取り出しが始まる年は4年後の2021年。
 1号機・2号機でデブリの実態調査が3月に行われた。1号機のデブリは原子炉の土台の外側まで遠隔操作でロボット投入(3月18日)・撮影された。2号機では炉の真下を調査しようとしたが、途中でノイズで見えなくなったが、530シーベルト(推定)とかなり高い放射線が計測された。さらにその下では20シーベルト。格子状の足場に穴が開いているほか溶けた構造物が付着している。
 途中の強い放射線の原因はセシウムが原因だろうと推定。
 デブリ取り出し作業に対する技術開発が進む。新型の筋肉ロボットの操作試験が行われている。取り出された廃棄物の処理法も決まっていない。毎日汚染水も増えていく。人類がかつて経験したことがない作業である。
 原発取材班は吉田賢治ディレクター、アナウンサーは伊東敏恵。
2016年5月29日


NHK総合
廃炉への道
核燃料デブリ


2016年
NHK総合
21:00
 「廃炉への道」シリーズの一話。福島原発でメルトダウンし、デブリとなった核燃料の取り出し計画は進んでいない(来年決めることになっている)。最長40年で修了するのが国の目標だ。1兆円以上が5年で投じられた。
 山名元(規制委員)はスリーマイル島原発を参考に原子炉を水に浸した方法(冠水工法)を検討している。しかし、福島ではデブリは底に落ちた。格納容器もあちこちで孔が開き水が漏れると予想される。風船で水路を閉じ、コンクリートを流し込む実験がなされている。
 韓国の研究所やカザフスタンの研究所では核燃料を溶かした実験が行われ、デブリのありかを予想する。配管のすきまに詰まった可能性があり、取り出しが難しい。水で冷やされて細かく粉末状になった可能性もある。
 冠水工法ではなく、気中取り出し法も国で検討され始めたが、前例がない。放射能の強さからロボット作業が不可欠である。
2016年4月13日



WOWOW
20:00~
ビリギャル



TBS
2015年
100分
 坪田信貴のベストセラー『ビリギャル』の映画化。学年ビリの工藤さやか(有村加純)が、高校2年で偶然に塾に通うことになり、そこで出会った教師・坪田(伊藤淳史)に励まされて、勉強に取り組み、慶応大学総合政策学部に合格するまでの実話を元にした物語。さやかの父親(田中哲司)は息子を野球選手にするのが夢で、資金と生活のほとんどを息子のために使っている。さやかや妹の世話はすべて母親(吉田羊)任せ。
 エスカレーター式に大学まで行けると言う私立高校の担任教師(安田顕)は、学校では居眠りばかりしているさやかが合格するとはまったく信じていない。最初は小学4年生レベルだったさやかの知識も、英語と国語、日本史、小論文にしぼって集中的に勉強することで学力を上げて行く。友人たちも夜遊びを抑制してさやかの学習を邪魔しないように心がける。何度か壁にぶつかりながらも周囲の助けもあって乗り越えていく。
 監督は土井裕泰。予定調和的なストーリーと芝居臭い台詞で、作りもの感が大きい。
 
2016年3月~4月



NHK
BSプレミアム
23:15
初恋芸人



NHK BS
2016年
各30分
 柄本明の息子、柄本時生主演のコメディ。全8回。怪獣芸人を名乗る佐藤(柄本時生)はお笑い芸人を目指しているものの、客の受けもいまひとつ、底辺から這い上がることが出来ていなかった。中学時代から女子からは嫌われ、男子からはバカにされ、席替えのときには女子の間でジャンケンで負けた子から「佐藤君の隣りに座るくらいなら死んだほうがマシ」と言われるほどだった。そんな彼の味方になってくれ、相談相手にもなってくれるのは同級生だった橋本(溝端淳平)。ある日、お笑いライブを見に来た市川理沙(松本玲奈)という女子と会うようになり、天にも昇る気持ちになる。スベってばかりいたギャグも彼女にわかりやすく話そうとすると独りよがりのトークから抜け出せて、笑いもとれるようになる。しかし、突然、彼女から「一カ月会わないことにしたい」と提案がなされる。自分の容姿に自信がなくダイエットに取り組んでいる最中なのだというのだが。自分と会わない約束中なのに、怪獣の着ぐるみをいつも着ているガラゴン(内田朝陽)の路上ライブを見学している理沙を動画で目撃し、はげしく動揺する。気持ちを言い出せないでいるうちに、芸人の手配師でもある山形ツチノコ(小堺一機)から結婚披露宴の通知メールが来る。結婚相手はなんと市川さんだという。ショックを受ける佐藤。
 披露宴でここぞと力の入った芸を披露する底辺芸人たち。佐藤はありきたりの祝辞の芸を考えていたが、直前にそれを棄て、自虐ネタで漫才を仕掛ける。初恋のひとへの精一杯のメッセージだった。理沙もくらい性格が災いして中学時代から友だちいない歴数年を経験、オタクたちの親密さにリラックスしていたのだった。そんななかツチノコからの軽いプロポーズも受けてしまったのだったが、自虐ネタでいつもに似合わぬ笑いをとっている佐藤を見ていると、友だちでいられそうな感じがしてくるのであった。
2017年3月12日


NHK総合
21:00
原子炉冷却12日間の真相


NHK
2017年
50分
 NHKスペシャル「メルトダウン 原子炉冷却12日間の真相」。谷川功演出、プロデューサー里内英司、ディレクター鈴木章雄ほか。
 事故発生から原発1号機に冷却水が注入された3月23日までの12日間、なぜ1号機への冷却は行われなかったのか。その原因をNHKは独自に分析、関係者の証言とテレビ会議の発話記録の分析から、組織的な安全対策への取り組みの不足と組織構成上の問題点を浮き彫りにする。
 非常用の冷却装置としてイソコンがある。地震発生直後イソコンが起動しているものと誤判断をしてしまった。誤判断の原因は原子炉導入以後40年間、イソコンを起動させた経験のある職員が誰もいなかったのだ。USAではイソコン実動作試験を行っているという。冷却水の蒸発により豚の鼻と呼ばれた吹き出し口から水蒸気が勢いよく吹き出す。福島の事故ではやや蒸気が発生していた。これをイソコン作動しているものと判断してしまった。さらに悪いことに放射性廃棄物の噴出を恐れてイソコンを停止してしまった。1号機の水位計は-1700で停止していたが、この水位に疑問を持った関係者の助言が、例えば柏崎刈羽原発と福島原発など原発サイト同士を直接つなぐシステムになっておらず、本店経由で伝達されるという非効率なシステムになっていた。実際には福島1号機ではメルトダウンが進み、いまだに廃炉作業への障害となっている核燃料デブリが蓄積してしまった。
2016年3月13日



NHK総合
21:00
原発メルトダウン
危機の88時間




NHK
2016年
89分
 NHKスペシャル「原発メルトダウン 危機の88時間」。古川健脚本、谷川功演出(ドラマ)、藤田浩久撮影。
 福島第一原発で地震発生から起こった原発の危機的状況を関係者の証言と吉田昌郎所長(2013年7月9日、食道ガンにて没、58歳)の非公開証言をもとにドラマ化。吉田所長役は大杉蓮。取材は沓掛慎也・岡本賢一郎・国枝拓、プロデューサーは大野秀樹、ディレクターは鈴木章雄・藤田正浩、制作統括は中村直文・浅井健博・戸来久雄・鈴木伸元。
 3月11日14:46地震発生、14:52イソコン(自動冷却機)起動・停止。全電源喪失。1号機メルトダウン。格納容器破壊を防ぐためにベントを準備、翌12日午前9:00ベント開始、ふたつのバルブのうち、放射線量が高いひとつを開くことが出来なかった。遠隔操作で14:00にバルブを開き、ベント開始。14:30圧力低下。しかしその後、1号機で水素爆発が起こった。電源ケーブル損傷。
 3号機が冷却機能喪失。所長のアイデアで消防車による放水が行われたが、思ったほどの効果を上げなかった。配管の途中にバイパスがあり、水漏れを起こしていたため。
 3月14日に作業を再開した直後に3号機で水素爆発が起こった。一時、40人以上の作業員が行方不明となる。
 最大の危機は2号機が冷却機能を喪失する事態で起こった。3号機の爆発でベント不能になった。SR弁を開けという指示が斑目委員長から来る。しかし、SR弁を開いた後、注水できないと一気にメルトダウンし、格納容器が破壊してしまう。すると放射能が拡散して「東日本壊滅」が現実となる。会社ではドライウェルベントの指示も出た。格納容器から直接ベントするもので拡散する放射能は莫大になる。SR弁を開いた後、容器の水位は下がりつづけ、圧力は上がりつづけていた。遂に88時間後、3月15日7:00、振動が起こり、サブチャン圧力がゼロになった。遂に2号機が壊れたと現場は思ったが、実際には4号機の爆発による振動だった。2号機は容器のつなぎ目から放射能が漏れ出たらしく、破壊を免れたのだ。しかし、放射能漏出は一週間以上続いた。最大の危機が回避されたのは偶然だった。
2016年2月28日




NHK総合
21:00
難民大移動



NHK
2016年
49分
 NHKスペシャル「難民大移動 危機と闘う日本人」。シリア難民が460万人も発生している中東地域や難民の欧州への玄関口となっているレスボス島で、国連高等難民弁務官事務所UNHCRの職員90人の日本人の一人として働く日本人女性がいる。
 トルコからレスボス島へゴムボートで流れ着くシリア難民を保護する石原朋子さん。難民は難民キャンプに滞在、登録所で登録し、ギリシャの通行許可証をもらってから欧州へ向かう。難民に必要な手続きを案内する、保護すべき少年などを発見するのが石原さんの仕事である。
 ヨルダンのシリア国境、アズラックの難民キャンプで聞き取りを続ける南部成子さん。避難先では子供たちが教育を受けられず、終戦が来ても国を再建する人材が失われてしまうと危惧する。さらに難民キャンプを出て街に出た人々には過酷な現実がふりかかる。阿阪奈美さんは都市難民の実態を調査、ヨルダンは難民の労働を禁止しているため、都市難民はUNHCRの補助金のみで暮しているのだ。しかし、増え続ける難民に対し、補助金は圧倒的に不足している。16億ドルが必要だというが、そのうちの6割しか確保できていないのだ。
 最近になってヨローロッパの難民受け入れ状況は厳しさを増している。パリのテロ事件の影響で難民の入国に制限を設ける国が多くなったのである。アジア・アフリカ局の下澤祥子さんはヨーロッパではなく、シリア周辺諸国が難民をサポートすべきだと話す。隣国レバノンには64万人の難民がいる。支援のやりかたは国によりけりだ。ドイツでも難民が起こした暴行事件をきっかけに国外退去を命ぜられた。難民となって国を出た人々が国外退去を命ぜられても行く先はないはずだ。国連職員の絶望感が伝わって来る。シリアで農場を経営していたアブド・サラムさん、補助金も底をつき、一日一食の生活で、自分だけでも「シリアに帰りたい」と言うようになった。シリアでの戦闘は拡大し、帰っても未来の展望が開ける状況には無いのだが、昨年からシリアへ帰ろうとする人々が増えて来ているという。
 UNHCRヨルダン事務所の中柴春乃さんは難民の第三国定住を薦めている。2015年には5万2千人が第三国へ受け入れられた。カナダは2万5千人の受け入れに応じた。難病の家族を抱えるなどの優先条件もあり、希望者に即対応できているわけではない。受け入れられたのは難民の1%という実績だという。今年の2月7日に停戦の呼び掛けが行われた。少しでも早い和平が求められる。
2016年2月25日



DVD
釣りバカ日誌



松竹
1988年
93分
 松竹の「釣りバカ日誌」第1作。DeAGOSTINIで2016年2月からシリーズ全22作発売の創刊号。
 監督は栗山富夫、脚本は山田洋次・桃井章。高松支店から東京の本社勤務へ急な転勤を命ぜられた浜ちゃん(西田敏行)は、瀬戸内海での釣りに未練を残しながらも、アパートを東京湾へ船の出航場所に決めるなど、釣りへの意欲は欠かさなかった。浜ちゃんは元気なく沈んでいる老人を見かけて、声をかけ、釣りに誘う。実はこの老人、浜ちゃんの会社、鈴木建設の社長だったのだが、会社の社報など読みもしない浜ちゃんは社長の顔を知らなかった。鈴木ことスーさんは浜ちゃんを釣りの師匠にして海釣りをマスターしていく。当りが来たときのドキドキワクワク感は久しく忘れていたものだった。
 船主の善さん(江戸家猫八)が事務員を探していると聞くと、浜ちゃん夫婦はスーさんにその仕事を薦めたりする。ある日、葬式用の喪服を会社に届けたミチ子さん(石田えり)は会社で社長のスーさんと出会ってしまう。スーさんは訳を話すものの、みち子さんの怒りは収まらない。信じていたものに裏切られた気持ちだった。
 転勤はコンピュータの故障によるものだったことが判明して、浜ちゃんは高松支店に戻れることになる。新幹線のなかからの電話で二人はスーさんと仲直り。夫婦間のセックスが「合体」と表される(これは原作からの引用)。

 第2回目の発売は第7作、森崎東監督の『釣りバカ日誌 スペシャル』。
2016年2月13日(土)・14日(日)






NHK総合
21:00
この国のかたち







NHK
2016年
49分×2回
 NHKスペシャル,ディレクターは橋本陽。司馬遼太郎の思索紀行「この国のかたち」<第1集“島国”ニッポンの叡智>では、幕末に薩摩藩の島津斉彬が鉄を溶かす反射炉をオランダ本の記述から造り上げたことに注目、日本人の好奇心と知恵の源泉を探る。壱岐の島を訪れた司馬は流れ着いた新羅の仏像を祀った人々の心情、流れ着いた異国の男性の下半身を祀った唐人神など、海の向こうから来るものを尊ぶ島国、日本人の心性を基盤にして、鎖国時代に長崎県出島に開かれた外国への窓が好奇心を拡大したと考察する。また、8-9世紀に神仏集合といった一神教とは異なる多元的な世界観が日本人の独創的な着想だったと論ずる。そのメンタリティーの源流は山あり谷ありの豊かな自然だった。いたるところに神が宿る。鎖国によって強大な宗教が導入されなかった日本。日本人を思想がゼロと批判する人もいるが、「無思想という思想」があるのだ。
 日本文化の醸成期は室町時代にある。枯山水は応仁の乱で荒廃した庭園に水なして水を表現する技術でもあった。華道や茶道、能狂言、謡曲、礼儀作法などが室町時代に興っている。
 東京大学に土木工学者・古市公威の銅像がある。明治の初め、フランスに留学した古市の講義ノートが遺されている。すさまじいばかりの勉強量である。彼は西洋技術に日本独自の工夫を加えて各地に産業施設を造っていった。司馬遼太郎は「明治には凄味がある。新しいものへの好奇心と新国家へのロマンチシズムだ」と高く評価し、現代の国民が「無感動体質になることが恐い」と怖れた。

 <第2集“武士”700年の遺産>では、明治の急速な近代化(全国への小学校、鉄の大量生産と鉄道敷設など)を支えた公の意識と高い倫理観を支えた精神は、鎌倉時代に確立した坂東武士の「名こそ惜しけれ」にあると、司馬遼太郎は捉えた。坂東武士の出自は農民だったが、律令制国家では認められなかった土地の所有を安堵状で許されたことで、信義を重んじ公の意識が広がる。北条早雲は領民に「二十一ケ条」を説いた。その後、各大名の間にも家訓が広まった。
 身を捨てて公に尽くす武士の典型を司馬は秋田藩の栗田定之丞に見る。栗田は飛び砂を防ぐ松による防風林の植林を訴えたが、目先の生活に忙しい農民は誰も協力しなかった。しかし、それでも一人で研究し植林する栗田の姿は次第に農民の心を動かし、14年間で7万人以上の協力者を数えることとなった。
 幕末に多くの地方でどうすれば公のためになるかという精神で人々が立ち上がった。庶民にも公の意識が根付いていた。郵便制度は特定郵便局を名主に任せるなどの施策で4年で完成した。しかし、日清・日露戦争後の日比谷焼き打ち事件に象徴される変化が魔の軌跡の出発点だった。本来、天皇に属する「統帥権」を軍部が拡大解釈して暴走することになった。首相が事変を後で知るような時制になってしまったのである。
 司馬はなにごとによらず、「熱狂」を嫌った。焼け野原から復興した戦後日本に対し、司馬は“これを「与えられた自由」などと、ひねくれて思わず”、“新たな時代に確かな個を作りあげていくことが必要だ”という手紙を編集者に遺している。

 歴史修正主義者・安倍晋三を批判するメッセージが、最後に引用された司馬の言葉に代表されていると感じた。
2016年2月4日






WOWWOW

新・兵隊やくざ 火戦




勝プロ
東宝
1972年
92分

 これだけがカラー作品で、しかも第8作の続編ではない。WOWOWでのシリーズ全作放映でやっと見られた。
 大映が倒産後だったので勝プロ製作で、配給は東宝だが、スタッフは大映のベテラン。
 監督・増村保造、製作・勝新太郎・西岡弘善、原作・有馬頼義、脚本・増村保造・東条正年、企画・久保寺生郎、撮影・小林節雄、音楽・村井邦彦、美術・太田誠一、編集・谷口登司夫、録音・大谷巖、スチール。小山田幸生、助監督・遠藤力雄、照明・中岡源権

 (あらすじ gooによる)[桃色文字は池田の追記]
 どこの部隊でも、もてあまされた大宮一等兵(勝新太郎)と有田上等兵(田村高廣)。昭和19年、北支の最前線の北井小隊に、転属命令という名目で、ていよくほうり出された。戦争嫌いの北井小隊長(大瀬康一)と抜群の戦争屋神永軍曹(宍戸錠)の指揮下に入った大宮と有田は、八路軍のスパイとして連れて来られた黄少年の事で早速、ひと悶着。少年は北井小隊に協力している村長・王(大滝秀治)の息子、黄(坂本香)であるが、スパイと決めつける神永軍曹は、大宮に殺せと命じたのだ。大宮は、子供を殺したくないと、その馬鹿力で神永軍曹をやっつけてしまった。それがきっかけで、少年の姉である美人の芳蘭(安田道代)と知りあえる。神永軍曹も、芳蘭に目をつけており、大宮と神永の対立は激しくなっていった。
 その頃、北井小隊周辺の情勢は急速に緊迫していた。八路軍の動きが激しくなり本部から連絡のトラックは全て爆破されてしまっていた。日本軍の情報が全てキャッチされていることは疑う余地もなかった。河村兵長(松山照夫)、近藤一等兵(滝川潤)、下士官(勝村淳、橋本力)。
 だが、スパイが何処にひそんでいるのかまるで見当がつかないまま、北井小隊は孤立状態を続けるしかなかった。隊の全滅は目の前に迫っている。神永軍曹は、芳蘭にスパイ容疑をかけた。
 北井小隊長は、有田に大宮に芳蘭を口説きおとせと、スパイ捜査を命じた。有田は自分には出来ないと断り、その役目を大宮に依頼する。前線でイチャつく大宮を神永は射殺してしまえと命ずるが、命じた斥候がちょうど敵に撃たれてしまった。ことは急を要する。三日の猶予が「すぐ」に短縮されてしまった。強引に芳蘭を抱きしめ接吻し、スパイなのかと率直に聞く大宮に、芳蘭は自ら八路軍のスパイであることを自白し、今夜、八路軍の夜襲があると教えるのだった。
 北井小隊は、芳蘭のおかげで、八路軍を撃退したが、芳蘭を逃がした大宮は、神永軍曹に叩きのめされ重営倉入り。芳蘭の弟に救い出され、芳蘭に八路軍に入らないか、と言われて、大弱りする。その頃、二回目の八路軍の襲撃で、北井小隊長は死に(スパイ容疑で村長を殴り殺した神永は戦闘後に営倉入りを命じられた。神永は河村に命じて陣地内で小隊長を射殺する)、小隊は壊滅状態になっていた。
 芳蘭の機知で、中国服に着がえた大宮は、有田を探し出すべく火線(最前線)を突破し、日本軍部隊の中へ舞い戻ったが、変装がバレて脱走兵として一室に監禁されてしまった。そしてその部屋には探していた有田もいた。
 生き残っていた神永軍曹は、ぬけぬけとその部隊の一員として、大宮・有田を裁く側に立っていた。大宮・有田の危機に、芳蘭は神永軍曹の前に身を投げだして二人の命を救った。
 悪らつな戦争屋神永軍曹への激しい怒りが大宮の身体を走った! 大宮の手に黒く光った軽機銃が固くにぎりしめられた。

【かぽんのこだわり道場ミリタリー館】より参考の「あらすじ」
 厄介者扱いの有田上等兵と大宮一等兵は北支の前線部隊である北井小隊に転属を命じられる。小隊長の北井少尉は中学出の幹候で戦争嫌いの温厚な性格だが、隊で実質的に権限を握っている分隊長神永軍曹(宍戸)は狡猾で汚い性格だった。
 転属移動中に有田と大宮の乗ったトラックが八路軍に襲撃され、奇跡的に有田と大宮だけが助かる。しかし、その場で北井小隊が駐屯する村の村長の息子(少年)がスパイとして捕まる。北井少尉は親日派の村長の息子がスパイのはずはないと反論するが、神永軍曹は独断で少年の処刑を大宮に命じる。大宮はあの手この手で神永を愚弄し、処刑を中断させ、ようやく北井少尉の命令で少年の命を助ける事が出来る。
 その晩、少年の姉芳蘭が大宮のもとを訪れ、お礼として鶏を置いていく。大宮は美人の芳蘭にすっかり一目惚れする。しかし、芳蘭を狙っていたのは大宮だけではなかった。神永軍曹も目を付けており、スパイ容疑という名目で芳蘭を犯そうとした。間一髪の所で大宮は芳蘭を助けるが、芳蘭がスパイではないかという容疑は晴れたわけではなかった。
 北井少尉は大学出の有田に、芳蘭と恋仲になってスパイかどうかを探れと命令する。有田は大宮が芳蘭を好いている事を知っており、大宮にその役目をやらせる。大宮は、芳蘭を宝物のように思っており、なかなか手を出す事ができない。期限の日が迫り、ついに大宮は手を出そうとするがするが、芳蘭はそれに先んじて「八路軍が12時に南から攻めてくる」との情報を教える。芳蘭はやはりスパイであったが、大宮の事を好きになっており情報を教えたのだ。しかし、そのまま報告すれば芳蘭は処刑されてしまうため、大宮は芳蘭を逃がしてから報告する。  神永軍曹は敵を逃がした罪で大宮を処罰すべきと進言するが、北井少尉はまずは敵襲に備えるべきとする。案の定、時間通りに敵襲があり、準備していた日本軍は八路軍を撃退する。撃退後、大宮は敵を逃した罰としてタコ殴りにされて営巣に入れられる。その晩、村長の息子が大宮のもとに忍び込んできて、芳蘭のもとに手引きする。
 八路軍の芳蘭のもとに行った大宮は、芳蘭から八路軍に入らないかと誘われる。一旦は断った大宮だったが、芳蘭の魅力に次第に惹かれていく。しかし、芳蘭から今晩も日本軍襲撃があるとの情報を聞いた大宮は、残してきた有田上等兵が心配になり、急いで村に戻る。  村の日本軍は敗退し、そこには北井少尉の戦死体があった。しかし、有田の姿も神永の姿もない。実は、北井少尉は神永軍曹に殺され、有田は拉致されていったのだ。
 その後、芳蘭から有田の居場所がわかったことを聞き、大宮と芳蘭は中国人に化けて潜入する。しかし、これは罠であり芳蘭もろとも捕まってしまう。有田、大宮、芳蘭は縛りつけられ、銃殺だと伝えられると、芳蘭は神永軍曹の女になる代わりに二人を釈放するよう頼む。神永軍曹はこの条件を聞き入れ、清い関係のままだった大宮の目の前で芳蘭を犯すのだった。
 翌日二人は放免となったがそれも嘘だった。銃殺される直前で、二人は八路軍に助けられる。武器をもった大宮は単身神永軍曹のもとに戻る。神永軍曹との素手での決闘の末、芳蘭が拳銃を手にした神永を銃殺し、二人は八路軍のもとに戻る。「神永に抱かれた私を嫌いか」と問う芳蘭に大宮は半狂乱になる。それを見て芳蘭は無言で去っていく。後に残った大宮と有田は中国人の服を着て再び歩いていくのだった。

  【かぽんのミリタリー道場より、作品評価】 やくざ上がりの大宮一等兵とインテリの有田上等兵の織りなす、娯楽アクションシリーズだが、本作は初めてのカラー作で製作も大映から東宝に代わり、勝プロが製作に関わっている。従って、これまでのモノクロシリーズ8作とは連続性はなく、独立した内容と捉えていいだろう。
 カラー作品ともなると作品のイメージがガラッと変わる。モノクロだと映像の粗が目立たないがカラーではそうはいかない。どうしても背景や小道具等の出来具合が問題となる。そう言う意味では、本作はそれなりにしっかりしているし、モノクロ作品ではあまりわからなかった軍装がなかなかリアルであるということもわかった。軍服がカーキ色になっただけでこれほどまでにリアル感が増すというのは驚きでもある。
 ただし、内容の出来はお粗末。ストーリーはこれまでのモノクロシリーズと似たようなものだが、八路軍スパイの女と恋仲になってしまう大宮一等兵(勝)は、以前のような豪放さやスケベさはなく、八路軍側につく売国奴のようなイメージである。勝プロの意向なのかどうなのかは知らぬが、人物設定に変化が見られるし、中国への配慮なのか八路軍が美化されているのも気に入らない。芳蘭の台詞「八路軍は、盗むな、嘘つくな、捕虜殺すなが規則だ」など、どこからそんな馬鹿なイメージが出てきたのだろうか。
 それにも増して最悪なのは音楽効果。八路軍女スパイ芳蘭との逢い引きシーンになる度に、「チャラリーン」とエレクトーンの間抜けな音楽が入る。余りに兵隊やくざシリーズとは相容れないメロディはどうしてしまったのだろう。本作がもとから単発のつもりだったのかもしれないが、続編が出なかったのは正解だと言える。これ以上、兵隊やくざのイメージを崩すべきではないから。
 戦闘シーンは冒頭の場面だけはそこそこ迫力があるが、それ以降はどんどんしょぼくなっていく。また、モノクロシーリーズにも増して大宮の神懸かり的戦闘に拍車がかかり、スタンディング機銃撃ちや弾丸飛び交う中を両軍陣地を走り抜けるなどもう無茶苦茶。迫力があるわけでもなく、リアル感を損ねているだけ。
 勝プロが関わったせいであろうが、本作は大宮一等兵にかかるウエートが非常に高い。有田上等兵の出番は極端に減り、完全に脇役扱い。どういうつもりで製作したかは知らぬが、結果的には兵隊やくざに泥を塗った形だ。宍戸錠の悪役軍曹役は本当に悪そうな奴だ。


 「兵隊やくざ」シリーズの根底に流れているのは<敵は軍隊にあり>というもの。その主張が明快に出たのがこの第9作。軍隊の非道さが神永(宍戸錠)に仮託して描かれる。こんなにも味方の兵隊を弾圧してしまっては、戦闘にならない。唯々諾々と上官・神永の命令に従う兵隊たちも情けない。それと比べての大宮の奮闘ぶりはリアルさを欠いてしまっている。
2016年2月4日


衛星映画劇場


悪霊島



東映・ヘラルド
角川映画
1981年
132分
 鹿賀丈史が金田一耕助を演じた1篇。原作は横溝正史、脚本は清水邦夫、撮影は宮川一夫(J.S.C)、監督は篠田正浩。
 ときは1969年。中之浜に来た金田一は旧知の広島県警の磯川警部(室田日出男)と会う。磯川警部は地元の浅井ハル(原泉)から「身の危険を感じている」という手紙をもらっていた。手紙の入手が遅れたので、あわてて連絡をとってみると、既にハルは何者かに殺されていた。一方、金田一も越智龍平の依頼を受けた青木修三からの連絡で、刑部島(おさかべじま)の秘密を調査するところだった。青木も水死体となっていたが、彼は死の間際に無気味な証言を残していた。「胸がくっついた双子の子供」のこと、「島には悪霊がいる」こと、「鵺(ぬえ)の鳴く夜は気をつけろ」などだ。島は祭りの準備でごったがえしていた。このときばかりは島の外からの客も多い。列車のなかで金田一が知りあった五郎(古尾谷雅人)も祭り見物に来た一人だった。島の主は大仙(佐分利信)。その娘・巴御寮人と姉で狂人の吹雪(岩下志麻)、その夫・太夫(中尾彬)、双子の娘・片穂と真穂(岸本佳世子)、使用人・吉太郎(石橋蓮司)。あくどい商売で儲けたという越智龍平(伊丹十三)は若いころ、巴と恋仲だったという。しかし、大仙に仲を裂かれ、龍平は島を出た過去があった。
 祭りの夜、火事騒ぎの直後、太夫が龍平が寄進した金の矢で胸を貫かれて殺された。さらに片穂も扼殺されていたことが分かる。片穂は村に来ていた青年と恋仲になっていた。
 どちらも狂気のうえでの吹雪の犯行なのだろうか。金田一は広島で手がかりを探す。
 展開が遅いこと、描写が即物的なことなど、サスペンスが盛り上がらないまま、進行していく。磯川警部役の室田日出男は、市川映画版の加藤武と比べると、可笑しみがまったくなくミス・キャスト。



シェイクスピア作品の映画化やその関連の映画は除く。
それらは別ファイルになっている。→ 『シェイクスピアの劇と映画


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