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 映画 日記              池田 博明 


これまでの映画日記で扱った作品データベース  映画日記 前月の分  



2012年10月1日以降、2013年1月31日までに見た 外 国 映 画 (洋画)

見た日と場所 作  品              感    想 ・ 梗  概   (池田博明)
2013年1月3日



BD
魔人ドラキュラ



ユニバーサル
1931年
70分
 ユニバーサルの怪奇映画ボックスのひとつ。トッド・ブラウニング監督の古典。舞台での大ヒットを受けて映画化されドラキュラものの定番となった作品だが、奇妙な点が多い。
 「なぜドラキュラ伯爵はトランシルヴァニアから英国へ渡ったのだろうか」。それに、村人たちは皆、吸血鬼伝説を恐れているのに弁護士のレンフィールド(ドワイト・フライ)だけが疑いもなく峠へ行き、御者がコウモリに変わっても気にせず、城へ入っていき、ワインまで飲んで(その結果昏倒してしまう)血を吸われてしまう。「城の女吸血鬼三人はどうなったのだろうか。その後登場しないのだが・・・」。
 英国でドラキュラ伯(ベラ・ルゴシ)に紹介される療養院の経営者セワード博士(ハーバート・バンストン)、娘のミーナ(ヘレン・チャンドラー)、その婚約者ジョナサン・ハーカー(デビッド・マナーズ)、ミナの友人ルーシー・ウェストン(フランセス・デイド)などが、ヴァン・ヘルシンク教授(エドワード・ヴァン・スローン)の助言にもかかわらず、油断し放題なのが奇妙である。特にハーカーはミーナが恋人なのに状況を理解した後も彼女をひとりで放置したままで、その結果、伯爵に吸血され放題なのだから・・・。
 ドラキュラ伯爵はミーナを連れて隠れ家へ。しかし、ヘルシング教授に追跡されている。日が昇るとドラキュラ伯は棺桶のなかで寝ているだけで無抵抗。これでは胸に杭を打ち込まれて最期をとげるのは当然である。吸血鬼も油断しすぎ。
2013年1月21日



DVD
青の恐怖


英国
1947年
91分
 シドニー・ギリアット脚本・監督の白黒作品、原作は英国のミステリ作家クリスティアナ・ブランドの『緑は危険』。
 第二次大戦中の1944年8月、ドイツ軍の空爆に脅かされるロンドン郊外の病院。爆撃で負傷した郵便配達夫ヒギンズ(ムーア・マリオット Moore Marriott)が麻酔中に死亡する。酸素・亜酸化窒素・二酸化炭素のボンベは色分けされており、間違えようもない。外科医イーデン(レオ・ゲン Leo Genn)、麻酔医バーンズ(トレヴァー・ハワード Trevor Howard)のほか、看護婦四人が監視するなかでの出来事。事務長は麻酔医の責任を予想する。その夜のダンス・パーティの席上、イーデン医師と交際のあったベイツ婦長(ジュディ・キャンベル Judy Campbell)が突然、ヒギンズは殺された、証拠は私が手術室に隠していると宣言する。しかし、今度は彼女が殺されてしまった。手術室に証拠を取りに戻ったところを殺人者に襲われたのだ。容疑者は手術に関わったものだけ。ロンドン警視庁からコックリル警部(アラステア・シム Alastair Sim)が派遣されて来る。映画はこの警部の回想として語られていたのだった。警部は誰をも疑うという姿勢で容赦なくひとびとを追い詰めていく。母を生き埋め事故で亡くした新米看護婦サンソン(ロザムンド・ジョン Rosamund John)、バーンズと婚約していた美人看護婦リンレイ・フレディ(サリー・グレィ Sally Gray)、ドイツ放送局に双子の妹がいたウッズ看護婦(メグズ・ジェンキンズ Megs Jenkins)、リンレイをめぐって三角関係になりそうなイーデンとバーンンズ。
 婦長殺人事件で手術着の刺し傷の不自然さの理由に気づいたリンレイがガス事故にみせかけて殺害されようとした事件をきっかけに、コックリル警部は手術を再現するという大胆な企画を実行する。 他にキャストはPurdy(Henry Edwards)、Dr.White(Ronald Adam)、Sister Carter(Wendy Thompson)、The Porter (john Rae), Rescue Worker(Frank Ling)。
 ジュネス企画発売のDVDは画像が優れていた。
2013年1月13日



DVD
エンドレスナイト


ユニバーサル
1972年
95分
 クリスティー原作の『終わりなき夜に生まれつく』(1967)の映画化。製作はレスリー・ギリアット、脚本・監督はシドニー・ギリアット。日本未公開作品。原作発刊後ほどなくして製作されている。
 ポアロやマープルのような名探偵は登場しない。誰かに物語を語っているのは若い青年マイケル(ハイウェル・ベネット)である。絵画に関心があること、ジプシーが丘の美しさに惚れたこと、そこで出会ったエリー・トムセン(ヘイリー・ミルズ)と恋に落ちたが彼女は富豪の娘だったこと、丘には不吉な噂を話す婦人がいたこと、余命いくばくもない建築家のサントニックス(ペル・オスカーソン)が設計をして家を建てたこと、エリーのドイツ人家庭教師で妖しい魅力のあるグレタ(ブリット・エクランド)とのいさかいのことなどなど。推理劇というよりも心理ドラマである。IMDbのレイティングは5.9。
 エリーは富豪の娘であるがゆえに彼女にたかりに来る人も多い。彼女が突然亡くなった後、弁護士のリッピンコット(ジョージ・サンダース)が相続の遺産処理に当る。真実は最後の最後に明らかになる。原作をよく生かした脚色だと思うが、主人公の青年マイケルが青臭いのが難点。恋人のエリーも子どもっぽい。ある批評家はヘイリー・ミルズをディズニー・キャラクターと評している。主人公たちをもう少し上の年齢に設定してもよかったのではなかったろうか。

【参考書】クリスティー『終わりなき夜にうまれつく』(ハヤカワ文庫)
 「めとLOG」ブログより引用・・・「監督シドニー・ギリアットは、同じく脚本家・監督・製作者である、フランク・ローンダーとのコンビで知られています。 1908年2月15日、イギリスはチェシャー州生まれ。1928年に映画界入りし、ノン・クレジットで数多くのサイレント映画の製作に関わり、その後フランク・ローンダーとコンビを組みました。アルフレッド・ヒッチコック監督の『バルカン超特急』”The Lady Vanishes”('38)、キャロル・リードの『ミュンヘンへの夜行列車』”NIGHT TRAIN TO MUNICH”('40)の脚本で注目されます。陽性なローンダーと比べて、ギリアットの得意とするところは、若干シニカルなコメディ=スリラーの分野にありました。コンビ初の監督作”Millions Like Us”、ギリアットのソロ・プロジェクト『ウォルター街』” Waterloo Road”('45)、クリスティアナ・ブランド原作のフーダニット・ミステリ『青の恐怖』”Green for Danger”('46)、架空の国を舞台にした冒険スリラー『絶壁の彼方に』”STATE SECRET”('50)…等、傑作を連発。しかし、1958年、『密室の恐怖実験』”TWISTED NERVE”('68)で知られるボールディング兄弟と組み、ブリティッシュ・ライオンフィルム(CO.)の経営に関わってから、自ら映画を監督する機会が少なくなっていきました。幾つもの企画が生まれては消え、そして彼が満を持して脚本・監督した作品こそ、この”Endless Night”だったのです。 しかし、この作品へのマスコミの評価は、散々な結果に終わりました。 『三角関係のもつれから、殺人が起こる。ロンドンでこの映画のマスコミ向け試写が行われたさい、批評家たちは映画会社の広報マンを囲み、編集がまずいために映画の中で答えが出ないまま宙ぶらりんになっている、筋書きに関する疑問に答えるように迫った。 ハリウッドの広報で使われる言い方をすると、この映画は公開されず、お蔵入りした。』 (『ミステリ・ハンドブック アガサ・クリスティー』ディック・ライリー&パム・マカリスター=編 マイケル・タネンボーム『クリスティー映画』より 原書房・刊) 彼は'72年にライオンフィルムを辞職し、その後は緻密にリサーチされたコミック・ノヴェルの執筆に時間を費やし、映画の企画に関わることは殆どありませんでした。1994年5月31日、鬼籍に入られています。」「製作当時の“物語の伏線を、収拾し切れていない”とか、“殺人が起こるまでが長すぎて退屈”といった批判が、いかに的外れかがお判りになるでしょう。やはり、批評家側も、通常のポアロやミス・マープルが登場する、クリスティー作品のイメージに凝り固まってしまっていたようです」「ごく一般的青年であるマイケル・ロジャースが、世界で六番目の大富豪の娘、エリーと出会い、二人は恋におちる―そして、恐ろしい呪いの伝説を持つ、「ジプシーが丘」に邸宅を構えたところから、不吉な出来事が幾つも起こってくる―デュ・モーリア『レベッカ』などに代表される、古風な物語が続いた後…終盤でいきなり殺人が起き、その後あまり間をおかず、急転直下解決を迎えてしまうのです。そういった意味では、容疑者全員を集めて、名探偵が「さて」と言う―ゆったりとしたフーダニットを期待する向きには不満であったでしょう。 そういった傾向の作品とは最初から狙いが異なり、この映画は「連続殺人鬼の心そのもの」を箱庭化して、観客をその中へ放り込む構造になっています。そして我々は、最後の最後で”自らがどこにいる(た)か”を悟り、慄然とするのです。 …と同時にこの映画は、何より「自分にとってかけがえのないものを、自らの手で握り潰してしまう」ことへの寂寥感に満ちた、哀切極まりない青春映画でもあるのです。
2013年1月6日



DVD
冬の嵐


MGM
1987年
101分
 アーサー・ペン監督65歳のときのサスペンス。脚本はマーク・シミューガーと弟役で出演しているマーク・マローン。売れない女優ケィティ(メアリー・スティーンバージェーン)はオーディションで行方不明の女優ジュリーの代役をつかむ。雪深い町の邸宅で車椅子のドクター・ルイス(ジャン・ルーベス)の指示に従い、演技をしたケィティは実は脅迫の道具に使われていた。精神科医のルイスと患者だったマレー(ロディ・マクドウォール)は姉の夫殺しを脅迫して返り討ちにあった妹ジュリーを生きていると見せかけて姉イヴリンを脅迫しているのだった。
 ケィティは夫ロブ(ウィリアム・ラス)に連絡を取るが、邸宅の位置をはっきり言うことができない。ガソリン・スタンドでもらった金魚が唯一の手がかりだった。 いよいよイヴリンが邸宅に訪問する日が来る。真実はどこまで明らかになるだろうか。
 女流ミステリ作家アンソニー・ギルバート(本名:Lucy Beatrice Malleson)原作の小説"The Woman in Red"(1984年のジーン・ワイルダー監督の同名の映画とは無関係)を映画化した1945年の映画“My Name Is Julia Ross”(主演:ニナ・フォック)のリメイク。
2012年12月26日



ビデオ
火星年代記



USA
1979年
300分
 レイ・ブラッドベリの名作『火星年代記』をテレビ・ドラマ化。チャールズ・フライス・プロ制作、脚色リチャード・マシスン、演出マイケル・アンダーソン、音楽スタンレイ・メイヤース。各話100分。
 ビデオ箱に記載されたあらすじを再録。
 “第1話「探査隊帰還せず」(西暦2000年)。1999年1月、人類はその足で火星へ降り立つべく、初の有人宇宙船を火星へと向かわせるに至っていた。その大地を新たなフロンティアとするために。ところが、第一次探査隊は着陸直後にその消息を絶ち、第二次探査隊(ブラックNicholas Hammond、サム Vadim Glowna、デヴィッドMichael Anderson Jr )が追って火星へと向かうが、同様にその連絡は途絶えてしまう。しかも、彼らが降り立ったのはイリノイ州のグリーンブラッフだったというのだ。危険から妻(Gayle Hunnicutt)に反対されたが、ジョン・ワィルダー大佐(ロック・ハドソン)が率いる第3次探査隊が火星で出会うものは果たして・・・。”
 中学時代、深夜のラジオドラマで「火星年代記」を聴いた。第二次探査隊の物語だった。隊長ブラックが20年前の故郷の家で寝入る前に今日の出来事をふり返る。そのうちにひとつの疑問がわいてくる。死んだはずの両親(Phil Brown and Estelle Brody)や兄に会ったが、もし、これが火星人の罠だったなら、隣に寝ている兄エドワード(本作ではPullen Shaw)の正体は?するとその兄がつぶやく。「そうだよ」と。ここでこのラジオドラマは終わるのだが、闇の中で聴いている私には冷や汗が出た。後にも先にもこんなに怖い怪談は聴いたことがなかった。
 映像では第一次探査隊が火星人の嫉妬により射殺されてしまう場面が先行するため、それほど怖くはなかった。第三次探査隊が火星に着陸すると火星人は地球人がもたらした水疱瘡で絶滅していた。火星人の文化に感銘を受けたスペンダー(Bernie Casey)は火星を地球人の侵略から守ろうと、自分なりの計画を遂行し始める。手始めに隊員たち(ブリッグス John Cassady、クック、マックルア Peter Marinker)を抹殺することだった。ワィルダーとサム・パークヒルはスペンダーと戦う羽目になる。
 
 第2話「最後の火星人」(西暦2004年)。
 “火星人を滅ぼしてしまったのは我々地球人だった!? ワィルダー大佐らの悔恨の念をよそに、西暦2004年、地球からは新しい大地を求める人々による移民が開始されていた。移住した人々が住居を定め、街が形成されはじめる頃、人々の間で不思議な現象が起こり始める。第2次探査隊で息子が消息不明になったラスティグ夫妻(Wolfgang Reichmann and Maria Schell)の前には、忽然と息子デビッド(Michael Anderson Jr).が姿を表し、布教活動のために火星へやって来たペレグリン神父(Fritz Weaver)とストーン神父(ロディ・マクドウォール)の前には光の玉状の「神」が現れる。これらは一体、何を意味するのか・・・。”
 デビッドは街へ出かけるのを嫌がる。捕まるというのだ。街中ではぐれた息子を半信半疑ながら探すラスティグはワイルダー大佐に会う。デビッドは行方不明時に24歳だった。ワイルダー大佐も24歳だったが・・・。人々の願望が作用して、デビッドは死んだ娘ラビニア(Alison Elliott)になり、殺人犯になりしていた。ワイルダー大佐が正体を火星人だと暴くと火星人は死んでしまった。ペレグリン神父の前にはキリスト(Jon Finch)が出現していた。地球では全面核戦争が始まり、地球が滅びる。火星に植民した人々が生き残った。ワイルダー大佐の同朋でサム(ダレン・マックギャビン)の店に火星人が出現する。火星人は土地の権利を譲ると告げ、なにかメッセージを届けてきたが、武器と勘違いしたサムが撃つと火星人は抜け殻を残して消えた。

 第3話「火星復活の日」(西暦2006年)。
 “核の嵐に焼きつくされて地球が死んだ!? 最後の火星人が、サム・パークヒル夫妻(ダレン・マックギャビンand Joyce Van Patten)に残した言葉「今夜、すべてが始まる」とはこのことだったのか・・・・・。
 核戦争は地球を壊滅状態にし、すべての土地は不毛の荒野と化していた。戦争勃発当時、地球へ戻った人々が見たものは、見渡す限りの荒れ果てた大地だったのだ。失意のワィルダーは家族とともに火星で生きることを決意する。火星には地球に戻らなかった少数の人々が残り、生活していた。それぞれの人々に果たして未来はあるのか・・・。”
 開戦の日に山へ出かけていたピーター・ハサウェイ技師(Barry Morse)は妻アリス(Nyree Dawn Porter)と娘マルガリータ(Madalyn Aslan)と暮らしていた。実は未知のウィルスによって妻や娘は亡くなっていたのだが。ピーターの願望による創造である。ワィルダーとストーン神父は年を取っていない妻子を見て事態に気づくが、黙っている。人に再会した喜びで技師は心臓麻痺で死んでしまうが「悲しむこと」を教わらなかった妻子は泣くこともなかった。残った妻子のもとに別の技師ベン(Christopher Connelly)が訪れた。ベンは以前に数少ない火星の地球人女性ジュヌビエーヴ(Bernadette Peters)と会ったものの、自分を修理屋としか考えない彼女の身勝手さに幻滅し、家庭的な雰囲気を求めていた。妻は「この家はあなたにぴったりです」と話す。
 大佐はサムの店を訪れる。サムが火星人を撃ち殺してしまったことを聞いた大佐は残念がる。生きている火星人と会いたかったのだ。大佐は絶滅した火星人の街に行ってみる。スペンダーと撃ちあった場所である。そこで大佐は火星人と出会った。火星人は自然と調和して生きることの大切さを説いた。東洋的な哲学である。友好的に別れた二人は家族のもとへ帰る。家族と出かける大佐。いま生き残る数少ない地球人が新しい火星人となる。
 その他のキャストは、第一次探査隊ナサニエル(Richard Oldfield)とコノヴァー(Richard Heffer)、夢を見る火星人女性イラ(Maggie Wright)、ワィルダーの娘マリー(Laurie Holden)、弟ビル(Burnell Tucker)、ハルステッド将軍(Robert Beatty)、マリリン(Linda Lou Allen)、ミスターK(ames Faulkner)、火星人(Derek Lamden、Terence Longdon)。
2012年12月25日




ビデオ
華麗なる暗殺



コロンビア
1970年
105分
 サム・ワナメーカー監督、ゴードン・マクドネル原作、ジャック・パルマン脚色のジョージ・ペパード主演のスパイ・アクション。原題のThe executionerは、死刑執行人または組織の放つ暗殺者のこと。中古ビデオは音がノイズで悪化していたが字幕視聴なので我慢できる。ビデオ箱のデザインが素晴らしい。ただし、作品は女性との関わりが多すぎて、緊張感を著しく損なっている。それに、機密情報ファイルが簡単に洩れてしまうのは非現実的だった。
 死体収容所で女性の身元確認をしているジョン・シェイ(ペパード)は「知らない女だ」と言うが、それは嘘だった。諜報仲間のウィルマだったのだ。隠れ家のアパートで彼も刺客に襲われた。新聞にはチェコが西欧のスパイを壊滅させたと報道。8人もの同志が犠牲になっていた。ジョンは仲間の誰かが密通者だと疑う。情報局に務めているポリーに依頼し失敗した作戦の関係者から怪しい人物を割り出す。共通の人間は退職したジョンソンとジョンのもと恋人サラの夫アダムだった。ジョンは上層部にアダムを告発するものの、査問委員会ではアダムは白と判断された。機密書類を持ち出させた罪でジョンは停職、ポリーは失職した。
 ジョンの友人フィリップから深夜の電話があった。アダムが自分の部屋にいるという。行ってみると状況からアダムはフィリップが自宅に持ち帰った機密資料を盗もうとしたらしかった。おまけに翌日のアテネ便の予約もしている。アテネで情報を東側に流すつもりだ。ジョンはアアダムを射殺し、死体を海へ捨てる。
 翌朝、空港でアダム・ブースと名乗ってゲートを通ったジョンはサラに会って驚く。サラはアアダムと仲直りの旅行だったと言う。アダムは二重スパイではなかったのか。ジョンの確信がゆらぎ始める。アテネで接触したCIAのスパイの指示で島に渡ったジョンは夜中に呼び出され、襲われて東側の手に落ちる。拷問を加えるパルコフ大佐は「アダムは偽情報を流して組織に損害を与えた、名スパイを消してくれて有難う、ついでに次はフィリップを」と申し出る。彼らはサラを人質に取っていた。
 翌日ジョンは空港で遭ったフィリップを殴り、アダムは書類を盗みに来たのではなく、サラのことを話しに来たのだろうと問い詰める。人質と交換するという約束の場所にフィリップとともに行ったジョン。サラは東側から<夫>のパスポートを渡される。アダム名のパスポートの写真はジョンである。ジョンがアダムを殺したことが明かされる。隠された銃身がのぞく。突然、銃撃が始まる。諜報仲間の銃撃で東側のスパイは殲滅された。サラは経緯を知ってジョンとよりを戻そうとするが、自分が誤った判断をしていたと気落ちしたジョンはもはやサラに情熱を燃やすことはなかった。ポリーの部屋に帰ったジョン。
 翌朝、空港にいたジョンとポリーに、USAから飛行機で着いた部長は実は・・・と真実を明かす。アダムは確かに二重スパイだった、それを知って彼にはわざと偽情報を与えてそれを東側に流させていたのだ、そこへ君の妨害が入った。作戦を中止や失敗させてまでとジョンは驚くが、部長は「我々はゲームのコマにすぎないんだ」とつぶやく。深い闇を見つめるジョンの眼で終わる。
2016年5月9日




BSプレミアム
シャーロック 忌まわしき花嫁

BBC
2015年
93分
 第4シリーズの第1作に相当するスペシャル版。主な舞台は原典のヴィクトリア朝のロンドン。吹替による初放送である。封切り館では字幕版が2016年2月から一カ月間公開済み。
 原典ネタがちりばめられていて、シャーロッキアンには面白いかもしれないが、ミステリー・ドラマとしては分かりにくくなっている。ヴィクトリア朝と現代をつなぐ仕掛けも、ホームズのドラッグ・トリップも理解しにくい。ライヘンバッバの滝にモリアーティ、ホームズ、ワトソンが出没するのも幻影とはいえ、分かりにくい。
 構成がひねってあって、全体が入れ子構造になっている。ひとつはニコレッティ事件。銃を乱射したあげく、自殺したはずの若妻が生き返って夫をショットガンで撃ち殺し、ユースタス伯爵をも刺し殺したというヴィクトリア朝のホームズ未解決事件である。この事件の真相は夫に隷属させられた花嫁たちの秘密組織のしくんだ事件だったというもの。ニコレッティは自分をもてあそんだ伯爵と暴力的だった夫への復讐を肺結核で生命が長くないことを知って実行したのだった。彼女の計画に協力者として参加した女性たちがいた。
  しかし、この推理はドラッグでトリップしている現代のホームズの頭のなかで仕上げられたものだった。ホームズは推理に自信を示したものの、墓を掘り返しても物的証拠は得られなかった。トリップのなかに生き返ったモリアーティも登場したが、現実には彼は生き返ってはいない。現代のホームズは現実の事件に戻る。ホームズの兄はワトソンに弟の面倒を見てくれと依頼するのだった。
 
2013年1月16日-30日


NHK総合TV


2014年5月24日(土)~6月7日(土)

NHKBSプレミアム

SHERLOCK



BBC
2010年〜2012年
各話90分


BBC
2013年
 
 BBCが現代化したシャーロック・ホームズ物語を製作。その大胆な翻案ぶりで話題になった作品。シリーズ2を吹替放送で見た。シリーズ1は2013年1月16日0:25を手始めに毎週水曜に再放送された。角川書店発売のブルーレイの日本語版は英国版の3倍以上の価格設定でアマゾンのレビューアーの不興を買っている。確かに日本版は高すぎる。が、英国盤にはない翻訳や吹替、字幕などの権利金があり、その分ある程度は高くならざるを得ないのだろう。実態は知らないが、BBCのシェークスピア全集も日本の字幕盤DVDは英国盤の20倍の価格だった。シャーロックのシリーズ1と2は英国盤UK-PALのDVDも購入しました(安いし英語字幕も付いているそうなので)。
 第1話「ピンク色の研究 A Study in Pink」(スティーブン・モファット脚本、マーク・ゲィティス協力、ポール・マクギガン監督)2010年7月25日英国放送。服毒による連続自殺事件が起こる。レストレード警部(ルパート・グレイブス)はコンサルタント探偵を自称するシャーロック(ベネディクト・カンバーバッチ)に協力をあおぐ。シャーロックは他殺と判断。ホームズは知り合ったばかりのワトソン(マーティン・フリーマン)に助手を頼む。ワトソンはアフガニスタンの戦場から負傷して帰国し、脚をひきずっていた。ホームズは脚をひきずるのはトラウマのためだと解釈する。レストレイド警部の部下たちはシャーロックを捜査に口を出す迷惑な存在と考えており、サリー巡査部長(ヴィネット・ロビンソン Vinette Robinson)は「ホームズ自身が(変質者で)人を殺しかねないわ。変質者(英語ではサイコパス)って退屈するもんなの」という見方をしている。6番目の自殺者ジェニファーが自殺したとき彼女のスーツケースを持ち去った犯人は彼女の携帯電話を取った。彼女は死の直前に何かのパスワードを書き残した、Rachelと。調べていくと死産した娘の名前であった。ホームズは携帯電話を手がかりに犯人を追い詰めていく。犯人がした死のゲーム。犯人の背後にモリアーティの影がある。
 英国発売のDVDにはパイロットフィルムが収録されているが、55分で監督もコーキー・ゲドロイチの別作品。ハドソンさんは下宿屋の隣で自分のお店を経営している、サリー巡査部長は制服で登場する(本篇は私服。サリーと会った後で監察医のアンダーソンにサリーと同じ香水の匂いがするとホームズが指摘するので制服では不適当と考察したのかもしれない)、被害者の顔が写される(本篇では映らない。また、パイロットではRachelというダイイングメッセージはない)、ホームズが観察しているとき手がかりを示すテロップは出ない、事件現場から出たワトソンは先に出たホームズが屋上に立っているのを目撃する(ホームズはスーツケースを探している)、店で張り込んでいるホームズの前にタクシーが来るとホームズは自分に酒をかけ、酔っ払いのふりをしてタクシーに近づく、被害者の携帯電話にかけてその在り処を知る。店の主人は遠目にいつものホームズの計画通り進んでいるから万事順調と解釈するが、よろけているホームズの様子から彼の危険を察知したワトソンは店主の助言に逆らい、ホームズを追跡する。本編では二人が追跡したタクシー(Angelo; Stanley Townsend)の客は犯人ではなかったという場面があるがパイロットではそのようなミス・ディレクションはない。犯人とホームズの死のゲームは221Bのホームズの部屋で行われる(本篇では空き家)。狙撃者を推理するホームズは「鉄の意思をもつ男・・・」と言った後でふと遠くに佇むワトソンに気づく。そこで自分の推理を否定する(「僕の言ったことは無視してくれ」と警部に言う)。ワトソンは「(銃は)テムズ川に捨てた」と言う。本篇はパイロット版より説明をセリフに頼る部分を減らしている。モリアーティの名前は出てこない。
 第2話「死を呼ぶ暗号 The Blind Banker」(スティーヴ・トンプソン脚本、ユーロス・リン監督)2010年8月1日英国放送。
 博物館で茶器を扱う中国女性のスー・リオン(ジェンマ・チャン Gemma Chan)は侵入者に驚く。溶暗。鉄壁のセキュリティを誇る銀行の内部の肖像画に黄色のペイントでイタズラ書きがされた。シャーロックは大学時代の学友セバスチャンに依頼され侵入法を捜査する。さらに中国の古代文字が銀行内の誰かに宛てたメッセージだと推理、中国の出張から帰国したヴァン・クーン(ダン・パーシヴァル Dan Percival)の部屋に行ってみると彼は頭を撃ち抜かれていた。高層の銀行や4階のホテルに壁面を登って侵入することのできる「蜘蛛」が真犯人だ。さらにジャーナリストも殺され、博物館の同僚アンディ(アル・ウィーヴァー Al Weaver)の話から、やがてシャン(Shopkeeper;Jacquii Chan)を首領とする黒ハス団という密輸団の存在が浮き上がってくる。900万ポンドの髪飾りが運び屋仲間の誰かに横取りされたらしい。黄色の文字は本のページ数と行数を示す暗号だった。何の本だろうか。ワトソンは非常勤で務めた診療所の医師サラ(ゾーイ・テルフォード Zoe Telford)とデートするが、その結果は二人を殺人集団に巻き込むことになった。
 第3話「大いなるゲーム The Great Game」(マーク・ゲイティス脚本、ポール・マクギガン監督)2010年8月8日英国放送。
 ベラルーシで恋人を殺害した罪で絞首刑になりそうな文法の間違った若者の話を聞くホームズ。単純な殺人でホームズが担当する必要はなかった。退屈しきって壁に銃弾を撃ち込むホームズ。あきれたワトソンがサラの許へ外出した後で、ベーカー街でガス爆発事故が起こり、ホームズは危うく難をまぬがれた。その翌日、シャーロックの兄マイクロフト(マーク・ゲイテイス)がミサイル設計書ファイルを入れたUSBメモリー盗難事件の解決を弟に依頼に来る(ブルース・パーティントン文書盗難事件)。ホームズは断るが兄はあきらめない。一方、一方、レストレード警部は爆破痕にホームズ宛の封筒を発見したと連絡。封筒にはピンクの携帯電話が入っていた。ワトソンのブログ「ピンク色の研究」にちなんだ贈り物だが、事件の携帯電話とは別物、そこに体に爆弾をセットされて狙撃手に狙われ伝言をそのまま読むように命じられた被害者(デボラ・ムーア、ニコラス・ガッド、リタ・ディヴィーズなど)からの伝言が次次と入る。携帯電話に送られる画像を手がかりに事件の真相をつきとめるべくいわば課題を示されるホームズ。もし制限時間以内に解決できなければ爆弾を爆破させるというのだ。第一の事件現場、ベーカー街の地下室に残されたシューズの泥の花粉を分析するホームズ。モリーはジム(アンドリュー・スコット)を紹介するが、ホームズは「彼はゲイだ」と決め付ける。靴の泥はサセックス州のもので、靴は20年前の溺死事件の少年カール・パワーズのものだった。彼が湿疹治療に使っていた塗り薬に混入させられたボツリヌス毒で殺害されたことを解明して第一の女性を救う。ミサイル開発文書事件では切り替えポイントの近くで死体で発見されたウェスティの恋人リズや兄のジョー(ドーグ・アレン)にワトソンが会う。血だらけのレンタ・カーを残し失踪したモンクフォードの事件では夫人(キャロリン・トラウブリッジ)に友人とと偽って質問をし、レンタ・カー会社のエワート(ポール・アルバートソン)との陰謀を暴いて第二の男性を救う。第三の事件、破傷風で急死したテレビ・タレントのコニー・プリンス(ディ・ボッチャー)に関わる件では、その弟ケニ-(ジョン・セッションズ)と使用人ラウル(ステファノ・ブラッキ)に会ったワトソンが爪の消毒をしている猫から彼自身の推理を展開する。ホームズは正しい解決を示すが、爆弾を巻かれた老女が最後の電話で犯人の声に言及したため爆弾は炸裂させられ、ガス爆発で12人死亡の結果に。さらに第四の事件では画像で示されたテムズ河で引き潮の際に博物館(画廊、ヒックマン・ギャラリー)の警備員の死体が発見された。フェルメールの贋作事件に関わる問題である。贋作の証拠は絵の中にあるはずだ。巨漢ゴーレム(ジョン・リーバー)が警備員とプラネタリウムの解説を担当するケアンズ教授を殺す。二人は贋作の証拠を握っていたようだ。ホームズは制限時間10秒の子供(製作者スーの子供)のカウントダウンのなか、ある超新星が絵には描かれていることを明らかにする。学芸員ウェンセスラスが真相を話す。彼女の自供のなかに思いつきの犯罪を実行可能なものに仕立ててくれた男の名前が登場した。背後で糸を引く犯罪コンサルタント、モリアーティである。第五の事件はブルース・パーティントン事件だった。真夜中のプールでホームズとモリアーティは対決する。
 この第3話が最初に撮影された。
 
 第2シリーズは一度見ています。
 第1話「ベルグレービアの醜聞 A Scandal in Belgravia」(スティーブン・モファット脚本、ポール・マクギガン監督)2012年1月1日英国放送。
 ワトソンのブログでシャーロックの活躍が知られるにつれ、シャーロックは有名になったものの、家族のささいな事件まで依頼されるはめになった(なぜか死んだ人と会えないという訴えがある。その理由は最後に判明する。シャーロックは兄から高名な方の依頼で国家の一大事を助けて欲しいとされる。使命はサドマゾ体験を請け負う女性アイリーン・アドラー(ララ・パルヴァー)のもつ淫らな写真を奪うことだった。写真は彼女の携帯電話のメモリーに隠されていた。シャーロックはアイリーンの家に乗り込む。そこで彼を出迎えたのは全裸のアイリーンだった。ホームズは服装から色々な情報を読み取るため、全裸の女性から読み取れることが少なく困惑する。途中でやはりアイリーンの情報を狙うCIAの組織の襲撃を受けたがコードを解いて金庫を開き、金庫の秘密射撃で反撃、敵を殲滅したことで油断したシャーロックはアイリーンにムチで殴打され、携帯電話を取り返されてしまった。
 しかし、アイリーンの携帯電話がクリスマス・プレゼントで贈られてくる、死体安置所に顔を潰された死体があるといったことから死んだと思われたアイリーンは実際には生きていた。携帯電話のパスワードが分からず、重要機密は開けないままだ。下手に破壊すると爆発する仕掛けがあった。ハドソン夫人を人質にとったCIAの組織の襲撃もあり、ホームズは窮地に陥る。アイリーンが要職にある国家公務員から得た数字の解読を依頼にホームズにやって来る。ホームズは1分間で解読し、アイリーンはその情報を密かにモリアーティに送信する。それは国家の機密テロ計画に通ずるものだった。計画が露見したことを知らされたマイクロフトは何年もかけて準備してきた計画の中止を決める。アイリーンはさらなる機密情報が携帯電話に隠されていることをネタにマイクロフトに多額の口止め料と身の保護を要求する。携帯電話のアクセス・コードがわかればいいのだが、試す機会は一回しかない。数字を解いたことで敵に利を得させてしまったシャーロック、果たしてコードを解けるのか。
 第2話「バスカヴィルの犬 The Hounds of Baskerville」(マーク・ゲイティス脚本、ポール・マクギガン監督)2012年1月8日英国放送。
 ダートムアから来た若者ヘンリーは父親が20年前に殺されたハウンドの足あとを発見したという。二人が調査に向かったダートムアには政府の科学兵器研究施設バスカヴィルがあった。兄の権威を利用して施設内を緊急査察すると偽り、調査するホームズとワトソン。そこで行われていた開発中の薬物の証拠に遭遇する。被験者を危険な殺人幻想に駆らせる薬物を開発する計画は、アメリカのインディアナ州リバティでのHOUND計画に端を発していた。
 第3話「ライヘンバッハ・ヒーロー The Reichenbach Fall」(ステファン・トンプソン脚本、トビー・ハイネス監督)2012年1月15日英国放送。
 モリアーティ(アンドリュー・スコット)がロンドン塔や銀行、刑務所など有名施設の警備を破り逮捕された。しかし、強盗未遂の裁判で陪審員の判断はモリアーティは無罪。釈放された彼の目的はホームズとの頭脳戦にあった。モリアーティはホームズの活躍した事件は狂言だった、自分はシャーロックに雇われた役者だったとするPRを行う。女性に侮蔑的な言葉を吐くホームズは女性記者の怒りを買い、次第に追い詰められていく。ホームズは死体安置所の法医学者モリー(ルイーズ・ブリーリー)の協力を得て絶対絶命のピンチに立ち向かう。

【参考文献】ガイ・アダムス『シャーロック(BBCドラマ)ケースブック』(早川書房、2013年)


 第3シリーズの日本放映は2014年5月24日(土)から、NHKBSプレミアムで。第1回「空の霊柩車」(マーク・ゲィティス脚本、ジェレミー・ラバリング監督)。
 前回で死んでいなかったシャーロックはその後の2年間で、モリアーティ一味を壊滅させる役割を秘密裏に担っていた。これは兄マイクロフトの命令でもあった。その兄はロンドンでテロリストの地下組織の犯行計画を入手したと、シャーロックをロンドンに戻すことにする。それは取りも直さず、シャーロックが死んだと信じている人々に驚愕を与えることになる、特にジョン・ワトソンに。ジョンは失意の日々からようやく立ち直りかけていた。クリニックの秘書メアリーとの結婚を考えていた。そこへシャーロックが生還、ジョンはなぜ一言教えてくれなかったのかと怒りをぶつけ、絶交を宣言する。シャーロックはジョンの代りにモリーを助手にテロリストの動きを探る。地下鉄の監視員が駅の間に乗客が消えた謎を通告してくる。ワトソンが誘拐され、麻酔を打たれてガイ・フォークスの焚き火で焼かれそうになる。寸前でシャーロックが助けて彼らの友情が復活する。地下鉄の乗客は車両ごと消えていた。車両は英国議会の地下路線の未完成の引き込み線上にあった。大量の時限爆弾を積んで。入手した情報の正しい読み方は「テロリスト、地下組織」ではなく、「組織は地下でテロを」行うという意味だったのだ。シャーロックとワトソンは秘密の車両を探しに出かける。
 シャーロックが死を偽装した方法を元鑑識課のアンダーソンが推理したり、彼の同好会(空の霊柩車:ホームズは生きている)の一人が推理したり(シャーロックとモリアーティが愛人だったという珍説)、シャーロック自身が語ったりする。どれが真実だったかはっきりしないように作成されている。シャーロック自身の話がいちばん真実に近いのだろうが。
 モリーの恋人トムにシャーロックが一瞬、疑義を感ずるショットがあるので、これが後で生きてくるのだろう。

 第2回「三の兆候」(5月31日BSプレミアム、21:00~。ステーヴ・トンプソン、マーク・ゲィティス、スティーブン・モファット脚本、コーブ・マッカーシー監督)。銀行強盗を遂に追い詰めたレストレード警部のもとに、ホームズから助けを求める電話が入る。逮捕の手柄をさしおいてベーカー街へ駆けつけた警部が見たのは、ワトソンの結婚式でベストメンを頼まれたホームズの演説の草稿の悩みだった。一見、関係のなさそうな衛兵の殺人未遂、頻発するゴーストとのデート、新兵を引率して戦死させたショルトー少佐(ジョンの上役)が絡まってくる。犯罪者はジョンの結婚式を狙ってターゲットに接近する。

 第3回「最後の誓い」(6月7日BSプレミアム、21:00~ スティーブン・モファット脚本、ニック・ハラン監督)。新聞社のオーナー、マグヌッセンの聴聞会が議員を集めて開かれている。彼は首相を恐喝した容疑である。聴聞の中心、女性のスモールウッド議員を夫の少女買春容疑をちらつかせて脅すマグヌッセン。議員はタクシーをベーカー街へ向かわせる。
 近所の母親から息子が麻薬中毒者の巣窟にいると相談されたワトソンが乗り込んで息子を救出すると、なんとそこにはホームズもいた。すっかり麻薬中毒になりきっているホームズ。ジョンの結婚式のブライズメイドだったジャニーンとも熱い仲になっているらしいホームズに面食らうワトソン。マグヌッセンに近づくためのホームズの計画だったことが次第に明らかになる。重要人物の弱点(字幕は圧力点)を握り、そこを恐喝の材料に使うマグヌッセン。英国の諜報機関の中心にいるマイクロフトの弱点はシャーロック、シャーロックの弱点はワトソン、ワトソンの弱点はメアリー、そしてメアリーの弱点は・・・・
2017年7月8日

NHK BSプレミアム
 第4シリーズの日本放映は2017年7月8日・15日・22日、毎土曜日。
 第1回「六つのサッチャー」(脚本マーク・ゲティス。演出レイチェル・タラレイ)。ワトソンの妻メアリーが女児を産む。名前はロザムンドと名付けられた。閣僚のウェールズバラの息子チャールズが怪死。その真相を解決したホームズだったが、彼の館でサッチャーの石膏像が割られていたのに並々ならぬ関心を示す。続いて割られていくサッチャー像。モリアーティの仕掛けと思い込んだホームズが発見したのは、メアリーが以前に所属していた組織AGRAだったときの証拠のUSBメモリー。メモリーはメアリーの組織4人組の絆だった。トビリシで生乾きのサッチャー像にメモリーを隠した男エイジェーはメアリーの裏切りによって組織の英大使救出作戦が失敗したと思い込んでいた。ホームズはメアリーを守ると約束したが。エイジェーが拷問されていたとき聞いた「裏切りのイギリス女」はメアリーのことではなかった。裏切りの女のコードネームはアモー。アモーとは「愛」を表す。マイクロフトはリーダーのLOVEの指令と疑う。しかし、実際は・・・。ホームズをかばって銃弾を受けるメアリー。
 第2回「臥せる探偵」(脚本スティーブ・モファット、演出ニック・ハラン)。女性セラピストにかかっているワトソン。メアリーを亡くした状況からワトソンは自分の心境を話している。前回の最後からこのセラピストはホームズの妹ユーラスだった。ワトソンの目にはときどきメアリーが見える。彼女が現れて助言してくれるように思えるのだ。ワトソンの頭のなかに登場するメアリーが映像では現実化するので、視聴者は混乱する。
 薬づけで引きこもっているシャーロックのもとに実業家カルバートン・スミス(演じるのはスーシェ版『オリエント急行殺人事件』で被害者ラチェットを演じた俳優)の娘フェイスが依頼に来る。数年前に父に記憶を阻害する薬液を点滴された時点で、誰かを殺す秘密を打ち明けられた、それが誰を殺す話だったのか、思い出そうとして苦しんでいるというのだ。兄の監視下にあったシャーロックは娘を誘ってチップスを食べに出て、話を聞く。娘は「あなたは、いい人ね」という言葉を残して消えた。シャーロックはスミスが「シリアル・キラー」だと告発し、そのことが話題となってスミスはホームズを番組に招待する。公然と殺人をおかしても、それが病院のなかならば発見されないとスミスはうそぶく。
 第3回「最後の問題」(脚本マーク・ゲティス,ステイーブン・モファット、演出ベンジャミン・カロン)。シャーロックには一歳違いの妹ユーラスがいた。一族一の天才だったというユーラスが犯罪をゲーム化して生と死の選択を迫る。例えば,所長の妻を助けたければ所長をホームズの兄かワトソンが銃殺することといった選択を。絶海の孤島シェリンフォードに収容されているユーラスがどうしてホームズと会ったり、ワトソンのセラピスト「になったりできたのか。彼女は話すことによって人心を支配してしまうというのだが。 
2013年1月7日-25日



DVD
名探偵シャーロック・ホームズ



USA
1954-55年
各25分
 シェルドン・レイノルズ製作、ロナルド・ハワードのホームズ、コメデイ・リリーフ的なハワード・マリオン=クロフォードのワトソン、豪放なアーチー・ダンカンのレストレイド警部のテレビ・シリーズ。コスミック・ピクチャーズの廉価版(台湾製)。全39話。画質は荒いが原版のせいだろう。監督はジャック・ゲージ、シェルドン・レイノルズ、後半のほとんどはスティーヴ・プレヴィン、脚本はシェルドン・レイノルズ、チャールズ・アーリイなど。各話25分だが起承転結の前半が終わり、後半が始まるところで「それでは本編の続きをどうぞ」とナレーションが入る話がかなりある。1954年10月18日から毎週放映されたもの。オリジナル作品が多い。
 第1話「ホームズ登場-カニンガムの遺産」(二人の出会いの出典は<緋色の研究>):ワトソン博士はホームズと出会い、同居することになる。カニンガム卿が刺殺され婚約中の新婦(ウルスラ・ハウエルズ)が容疑者になっていた。結婚には卿の母親(メグ・レオニエール)は反対、弟(ロウランド・バートロップ)はナイフを持った彼女を発見していた。彼女は前科者で卿と密かに結婚していたため殺人の動機がある。ホームズは不法浸入を企て真犯人をおびき寄せる。第2話「ベリル夫人事件」:外務省のベリル氏(ピーター・コプリー)の夫人(ポーレット・ゴダード)がオーストリアのスパイを撃った容疑で逮捕された。婦人は自白したが、ホームズはウソの自白だと見抜く。執事ロス(ダンカン・エリオット)を呼んで事件を再現する。第3話「ペンシルベニアの銃」(出典は<恐怖の谷>):地主のジョン・ダグラスが酷い死に方をした事件でマクロード警部(ラッセル・ウォーターズ)の要請で二人はサセックスに調査に行く。凶器の銃はあり、容疑者モレル(モーリス・テイナック)もいるが、ホームズは容疑者が犯人ではないと見抜く。第4話「テキサスから来た女」:ミニー(ルシール・ヴァインズ)はロデオ・ショーのカウガールだがホテルの部屋に死体があるという。助けを求められたホームズは真犯人を発見。5話「ケンカ好きな幽霊」:ワトソン博士は通りで倒れたヒギンズが死んだ後に彼に襲われる。幽霊だったのだろうか。家主マギー(ゲルトルード・フライン)からヒギンズが亡くなった時刻を聞くと、ワトスンの証言より1時間遅い。彼が警備員をしていた博物館のダ・ヴィンチの月光の聖母=青いマドンナ盗難事件と関係があるようだ。館長はベンサム(ロウ・ヴァン・バーグ)。第6話「か弱いバレリーナ」:ワトソンの帽子が殺人現場で発見された。クラブで取り違えられたコートを届けてくれた外交官チェルトン氏が間違えて持っていったものだった。そのチェルトン氏が殺されたのだ。夫人(ナタリー・シェイファー)の証言からロシア人のバレリーナ(マルチーネ・アレクシス)と演出家スミルノフ(ユージン・デッカーズ)が容疑者になる。チェルトンの作曲したクモの糸が事件を解くきっかけになる。ナタリー・シェイファーはTVドラマ「ギリガンの島」のハウエル夫人役で有名になった。第7話「ウィンスロップ家の伝説」:ホームズはハーヴェイ・ウィンスロップ(イヴァン・ディズニー)から兄ジョン(ピーター・コプリー)の死を阻止するべく依頼される。銀貨を受け取った者が死ぬという家に伝わる伝説があり、兄が受け取ったというのだ。二人は邸宅を訪れ、失明した兄の妻アリス(メグ・レオニエール)にも会う。その夜階段下で首を折った兄を発見。ホームズはハーヴェイの婚約者ペグ(カレン)を疑う。第8話「目隠し遊び」:バーでメイド(マーガレット・ラッセル)にふざけていた船員ファラデー(グレゴリー・アスラン)が鶏の足を受け取った後に仕込み杖で刺殺された。ホームズによれば鶏の足はトリニダード島の原住民の間での死の警告だという。一等航海士や船医(コリン・ドレイク)などグロリア・ノース号の関係者が殺されていた。唯一生きている船長ピット(イヴス・ブライニール)のもとに向かうホームズは盲のヴィッカーズ(ユージン・デッカーズ)に会う。原住民の密航と関連していた。第9話「ハリー・クロッカー事件」:この回だけ冒頭の音楽がピアノをフィーチャーした派手な編曲だし毎回のプロローグのホームズとワトソンの二人が街を歩く場面が本篇に出てくるので、この回はパイロット・フィルムだったかもしれない。途中に「それでは本編の続きをどうぞ」というナレーションも入る。脱出を得意とする奇術師ハリー・クロッカー(ユージン・デッカーズ)が踊り子サリー殺人事件の容疑者に。踊り子仲間のザザ(アキ・ヤナイ)やマネージャーのチャールズ(ハリス・トゥーム)の証言はハリーを指し示していたが。第10話「おばあさんの願い」:迷子のフランシス(ミシェル・ライト)を家に送る紳士。ホームズはマーガレット・マルティニ(デルフィーヌ・セーリグ)の婚約者を探す。彼は迷子を届けてから会うと言い残していた。空き家で彼は毒殺されていた。家主クックソン(ビリー・ベック)の証言から掃除婦の老婆エーニッド(エィミー・ダルビー)が小金を盗むために孫を使って紳士を毒殺している疑いが。
 第11話「赤毛連盟」(出典は<赤毛組合>):銃紋を調べているホームズは発砲でワトスンやちょうど尋ねて来た赤毛のウィルソン氏(ハリス・トゥーム?)をびっくりさせてしまった。質屋のウィルソン氏は最近奇妙な経験をしたと赤毛組合の件を話す。店に行くと彼が雇ったスポールディング(ユージン・デッカーズ)が地下室から現れ、ズボンの膝に土が付着していた。エンド・クレジットが間違っている。第12話「靴をなくした技師」(出典は<技師の親指>):技師のハザレー(ディヴィッド・オクスレー)は心臓疾患の持病をもつスターク大佐(リチャード・ウォーナー)から水圧プレス機の修理を依頼される。硬貨を偽造する隠れ家からルース・コナー(ジューン・エリオット)という女性の助けを得て逃走する。彼女の叔父キャロー(ジョージス・ハバート)は一年前の技師殺人を目撃したショックで言葉を失った彼女を精神病院に収容していた。第13話「破られた馬券」:アイルランド出身のブライアン・オケーシー(ハリス・トゥーム)は当り馬券を三等分して行方をくらましたスノウ氏(コリン・ドレイク)を探してくれと頼む。ケーキ屋の娘ベル(マーガレット・ラッセル)もからむ。第14話「フランス語通訳」出典は<ギリシア語通訳>:通訳デュベッフ(ロウ・ヴァン・バーグ)の証言から二人は誘拐され脅迫されているポール・シャロンを探す。誘拐犯はラティマー(ロバート・カニンガム)とジャッド(チャールズ・ブロディー)。第」15話「歌うバイオリン」:ガイ・ダーハム(アーノルド・ベル)は紅茶と香料商だが義理の娘ベティ(デルフィーヌ・セーリグ)を怪しいバイオリンの曲で脅かし、精神病院に送ろうとしていた。ベティの婚約者はホームズに相談に来たが撃たれてしまった。第16話「グレイストーンの碑文」(<マスグレーブ家の儀式書>を下敷にしているが物語は別):ミリセント嬢(マルティナ・メイン)は婚約者のジョン(トニー・ライト)を探していた。ジョンはグレイストーン家に14世紀から伝わる碑文を解読したと言っていたが。ホームズらはグレイストーン家を訪れ、父と息子(E.マイクルウッド)に会う。第17話「笑うミイラ」:釣りに行く電車でワトスンは学友のレジー(バリー・マッケイ)に会う。レジーは考古学者の叔父が送って来た古代エジプトのミイラがときどく笑い声をあげるという話をする。レジーの婚約者ロウェーナ(ジューン・クロフォード)は料理が下手で客は音をあげていた。ホームズは笑い声の原因を解き明かし、叔父の友人の教授(ポール・ボニファス)の秘密を指摘する。第18話「アザミ殺人事件」:ロンドンで女性を狙う連続殺人鬼アザミの捜査を依頼されたホームズ。事件現場の頭文字がフェニックスになることを指摘。Xのつく通りで張り込む。レストレイドにホームズに依頼せよと支持する警視(ウィリアム・スミス)。アザミはスコットランドの国花。警察官試験で不合格になった辻馬車の御者フェニックス(リチャード・ワトスン)が変装している人物は?ウィルキンス巡査役はケネス・リチャーズ。第19話「消えた探偵」:ワトソンはホームズの不在を心配していた。依頼人の骨董店に行くとホームズは店主に変装していた。連絡役に使われたモデルのヘレン(ジュディス・ヘイランド)の証言から脱獄したジョン・カーソン(セシル・ブロック)は終身刑を宣告した判事ウェストレーク(コリン・ドレイク)の命を狙っていると思われた。グラン・ギニョールを趣味にする退職判事の家に警護に行くと・・・。第20話「うっかり者の女性活動家」:女性参政権を訴えるドリーン(ドーン・アダムス)は無政府主義者ボリス(オーブラッディ)に教わって爆弾を作り、ライオン像を爆破する計画だったが、参政権に反対する下院議員ピンプレトンがクリケットボールに仕込まれた爆弾で暗殺された。議員秘書トラバース(ディヴィッド・ゲデオン・トムソン)も容疑者だが。真犯人は意外な人物でエンドクレジットにもキャスト名が出ない。
 第21話「働きたがらない大工」:放火による火災が起こり、消防士のほか、一名の死亡者が出た。捜査をするレストレイド警部と巡査は男の靴の土を警察の研究所で分析してもらうが結果がはっきりしない。ホームズに分析し直してもらうべくベーカー街を訪れたが、ホームズは脅迫者からの文書を受け取っていて向いの建物の家に避難中。警部と巡査は見よう見まねで土の分析をする。そこへ脅迫者(ピエール・ゲイ)が来て、大金を払わないとある場所を爆破すると予告した。その男を尾行したワトソンからは男が殺されたと連絡が入った。爆破予定場所を必死で探す警部と靴の土分析を急ぐホームズ。場所を特定して駆けつけると大工たちが仕事をしていた。爆破予告時刻の6時まで残業を言いつけて待つホームズたち。6時1分前に大工B(ロウランド・バートロップ)が動いた。第22話「死の予言」:ベルギーのアルノ男子校で少年アントワーヌが夜中に外出し夢遊状態で階段に名前を書いた人々が亡くなっていた。名前が書かれた校長(イヴス・ブレインヴィル)も心不全で亡くなり、舎監で教師のマリー・グランド(ニコレ・クーセル)はホームズに謎の解読を求める。死を予告された人々に魔除けの薬を売るスーレ婦人(ヘレナ・マンソン)、健診担当のディマンシュ医師(ジャック・フワンソワ)、伯爵(モーリス・ティナック)、新しい校長マネリ(ロバート・ル・ビール)を一同に集めてホームズが犯罪を明らかにする。第23話「クリスマス・プディング」:五人の妻を殺害したジョン・ノートン(ユージン・デッカーズ)はホームズに復讐を誓った。6人目の妻ベス(ジューン・ロドニー)から差し入れのクリスマス・プディングを受け取った後で脱獄した。所長(リチャード・ワトソン)が中身を確認したはずだったが。警備の網をかいくぐってノートンはホームズを撃ちに来る。第24話「夜行列車の謎」:父親と学校へへ戻りたくないと争った後、列車から失踪したポール少年(ジェイムズ・ドーラン)を探す子守女リディア(ロバータ・ヘインズ)と休暇旅行中で列車に乗り合わせた二人。相続人のセシル叔父(ダンカン・エリオット)とサーカスのピエロのココ(ビリー・ベック)の罠だった。第25話「暴力的な婚約者」:新聞でロティおばさんと名乗って身の上相談をしていたアレックス・ドウガル(ブルークス・カイル)は暴力的なジャック・マードック(E・マイクルウッド)と資産家の娘スーザン・ディアリング(マリー・シンクレア)の結婚を阻止して欲しいと依頼する。ホームズはマードックは偽名で八百長競馬のブリル、スーザンの父親を家政婦ティルズ(ロリー・ベスター)と共謀して殺したと推理する。第26話「ホームズの子守騒動」:夫が誘拐されたデュラント夫人(ドミニク・ショーテンプス)の子供をあずかってしまう。誘拐犯テノウ(ロジャー・トレヴィル)とローレンツ(イヴス・ブレインヴィル)の家を訪れるホームズたちと警部。第27話「完璧な夫」:美術コレクターのラッセル・パートリッジ(マイケル・グー)は結婚記念一周年のパーティの後、明日の9時に妻(マリー・シンクレア)を殺すと脅迫していた。これまでに七人の妻を殺してきたという。家宅捜索でも死体は見つからない。ホームズは捜査の盲点となっている場所に気づく。第28話「陽気な首つり殺人者」:大昔の祖父殺人の目撃者を自殺に偽装した殺人者(フィリップ・リーヴァ)は被害者の妻ジェシー(アリス・メイベン)をも殺そうとしてしていた。第29話「詐欺師の謎」:ホームズの留守中、ホームズになりすましていた男の助言でかえって盗難にあってしまったとアーサー(ベイジル・ディグナム)やレストレード警部が抗議にきた。変装した詐欺男(ボブ・カニンガム)を発見するためにホームズははアラブの富豪になりすましてひと芝居をうつ。第30話「エッフェル塔事件」:早朝、馬車にはねられて死んだ男は有名なスパイだった。彼の手紙から連絡者やスパイチームを捕らえようと、フランスのエッフェル塔まで出向く。レストレード警部も同行する。
 第31話「掘り出された依頼人」:奇怪な伝説のある塔で死んだチャールズ卿の死因調査をホームズは依頼される。不審な死を予想していたチャールズ卿があらかじめ遺言で依頼していたのだった。鑑定の結果、心不全とされた真の死因はヒ素中毒だった。夕食は誰もが口にしているのにいったいどのようにヒ素が盛られたのか。塔で一晩を過ごすことにしたホームズにも危険が迫る。長女のエリザベス(アリス・メイベン)か、その夫のジョージ(アラン・アディア)か、ブドウを買ったという次女のシルヴィア(ジュディス・ハヴィランド)か、医師のリーヴス(マイケル・ターナー)か、犯人を特定するためにホームズは罠を仕掛ける。第32話「即興芝居」:ホームズはブライトン夫人殺人事件の犯人とされ死刑執行の近い夫(パトリック・シーリー)の無実を証明する。口論をしたしばらく後で部屋に戻ってみると妻が死んでいた。過去を隠していた妻には男がいたのではないかと推理したホームズはペティフット(ユージン・デッカーズ)が経営する演劇の役者プライアムに注目する。ちょうど彼は舞台でオセロを演じていた。第33話「結婚相談所の罠」:議員に立候補を予定しているジェフリー・ボーンは結婚相談所でトラブルに巻き込まれ、暴力をふるった罪を公表されたくないならと一種の恐喝を受けた。ホームズとワトソンは結婚相談を持ちかけて探る。相談所の所長オリヴァー(ダンカン・エリオット)はホームズの高額資産(ウソだが)に関心を示し、早速パメラ(アリス・メイベン)とエドナ(ペニー・ポートレイト)を用意する。翌日お茶の席にパメラの夫が乱入、ホームズに絡む。ホームズが殴るのを女たちに目撃させ暴行の罪をでっち上げた。担当のメーソン警部(シーモア・グレン)はホームズを知らない。ワトソンは相談所を捜索して詐欺の書類を発見しようと試みる。第34話「王家の殺人」:バルカンのコンラッド王(ジャック・ダックマイン)の事件を解決して宴席に招かれたホームズたちだったが、宴席で隣国のステファン王子(モーリス・ティナック)が毒殺された。踊り子のジプシー女は王子の手相に死相を見た。食事前に王子と王はフェンシングの試合をしており、王は王子にかすり傷を負わせた。侍従のマゴール伯爵(ジャック・フランソワ)が手当をした。剣を調べると切っ先に毒が塗られていた。アントニア王女(リズ・ボディン)をめぐる確執もあり、状況証拠は王に不利である。遺体を引き取りに来る隣国のヨハン王の前で王の無実を証明できなければ戦争になってしまう。王は嘘をつくことは出来ないと主張するホームズを逮捕する。第35話「呪われた肖像画」:マックグレガー(アーチー・ダンカン)は先祖の肖像画に描かれた幽霊ヘザー(クレオ・ローズ)の捜査を依頼する。マックグレガーの所有する城や土地を買おうと訪れたアメリカ人スコット(ロジャー・E・ガリス)が怪しい。第36話「神経過敏な探偵」:痕を残さない複数の盗難事件が起こり、ホームズはレストレイド警部の捜査依頼も断るため、ワトスンは窃盗団のリーダーがホームズではないかと疑念を抱く。外交文書の盗難が起こるかもしれないとの懸念から張り込みをするワトソンやレストレイソ。実は・・・。第37話「運のないギャンブラー」:行方不明の父親ハバート(ロウランド・バートロップ)を探してくれとアンドリュー少年(リチャード・オサリヴァン)に依頼されたホームズ。父親は病気の母親のための出費がかさみ、ギャンブルで負けて困っていると推測。案の定、ノミ屋のドリスコルに大金を借りていた。自殺を偽装したものの一文無しの父親がが強盗に入ると予想したホームズ、即興でバーテンダー(ジョン・バックマスター)を外国のスパイに仕立てて少年の目の前で父親を諜報捜査員に仕立てる。第38話「ダイヤモンドの歯」:テムズ川から死体が上がった。ワトソンが拾ったダイヤの歯の持ち主だった。素性を追ううちに会計士ハーリー・ハーキンズことランシー船長が怪しいと見当がつく。ボーア蛇を使った殺人者だった。この回のキャストクレジットは間違いで、次のように出る。マリー・グランデ(ニコレ・クーセル)、ディマンシェ医師(ジャック・フランソワ)、ヘンリー・キャロラン(イヴス・ブレインヴィル)、パスヴァント伯爵(モーリス・ティナック)、シャマ・スール(ヘレナ・マンソン)、マネリ(ロバート・ル・ビール)。これは第22話「死の予言」のもの。第39話「暴君の娘」:ハミングウェイ(ベィジル・ディッグマン)殺害で告発された彼の義理の娘の婚約者ヴァーノン氏(ザッハ・マタロン)を救うため、ホームズが調査に乗り出す。お手伝いのデューガン夫人(ジューン・ペテルソン)の証言はヴァーノンの犯行を思わせていたが・・・。

 第11話「赤毛連盟」と第36話「神経過敏な探偵」のエンドクレジットのキャスト表示はメリマーのナナ(マルティーネ・アレクシス)、グスタフ(サッチャ・ピトエフ)、バヤード(オーブラッディ)と出るが、これは第30話「エッフェル塔事件」のもの。
2012年12月20日



ウェブ
ポプラ社版
ホームズ全集
 森下霧街氏のブログによると、山中峯太郎のポプラ社版シャーロック・ホームズの刊行には色々な事情があるとのこと。
 “北原尚彦『発掘!子どもの古本』(ちくま文庫)の「原作よりも面白い? ポプラ社版「名探偵ホームズ」」の章に、山中峯太郎のホームズが取り上げられている。
 前回、ぼくが抱いたような疑問を著者の北原氏も感じて、同じようにシリーズの物語順を調べ、一覧表にしている。そして、先行する「世界名作探偵文庫」から「名探偵ホームズ全集」への移行の事情を、ポプラ社の当時の編集者から次のように聞いている。
 それによると、ホームズの巻ばかりが売れ行きがよかったため、新たに「名探偵ホームズ全集」を開始することに決まったのだが―― しかし、営業上、「世界名作探偵文庫」版の残部も、売ってしまわなければいけない。
 そこで、なんと「世界名作探偵文庫」で品切れになった巻から、「名探偵ホームズ」に入れていったというのだ。(同書p36)
 なるほど! 在庫切れから収録ですか。巻数だけ最初にふって、あとから刊行すればいいような気もするが、まあ、こうしたいいかげんというか、おおらかというか、細かいところには気にしないところが、面白い。
 *1  こういう事情ではじまった山中峯太郎版「名探偵ホームズ全集」は、以下のような構成である。
  (物語の執筆順/番号は巻数)
  参考までに収録作品と、題名から原作が類推しにくいものは、一般的な邦題も入れておいた。

 *2 【名探偵ホームズ全集】

  5.深夜の謎 →緋色の研究 昭和31年4月
  9.恐怖の谷 昭和31年7月
  7.怪盗の宝 →四つの署名 昭和31年4月
  8.まだらの紐 昭和31年5月 六つのナポレオン 口のまがった男 まだらの紐
  1.スパイ王者 昭和31年3月 黄色い顔  謎の自転車(→プライオリ学校)  スパイ王者(→海軍条約文書事件)
  13.銀星号事件 昭和31年7月 銀星号事件  怪女の鼻目がね(→金縁の鼻眼鏡)  魔術師ホームズ(→第二の汚点)
  14.謎屋敷の怪 昭和31年6月 青い紅玉  黒ジャック団(→ボスコム谷の惨劇)  謎屋敷の怪(→椈(ぶな)屋敷)
  2.火の地獄船 昭和31年3月 火の地獄船(→グロリア・スコット号) 奇人先生の最後(→マスグレーヴ家の儀式) 床下に秘密機械(→三人ガリデブ)
  4.鍵と地下鉄 昭和31年3月 歯の男とギリシャ人(→ギリシャ語通訳) 鍵と地下鉄(→ブルース・パティントン設計書) 二人強盗ホームズとワトソン(→犯人は二人/恐喝王ミルヴァートン)
  12.夜光怪獣(→バスカヴィル家の犬) 昭和31年7月
  10.王冠の謎 昭和31年5月 王冠の謎(→マザリンの宝石) サンペドロの虎(→ウィステリア荘) 無かった指紋(→ノーウッドの建築士)
  15.閃光暗号 昭和31年 閃光暗号(→赤い輪) 銀行王の謎(→緑柱石の宝冠) トンネルの怪盗(→赤髪連盟)
  3.獅子の爪 昭和31年3月 試験前の問題(→三人の学生) 写真と煙(→ボヘミアの醜聞) 獅子の爪(→覆面の下宿人) 断崖の最期(→最後の事件)
  6.踊る人形 昭和31年4月 虎狩りモーラン(→空家の冒険) 耳の小包(→ボール箱) 踊る人形
  11.悪魔の足 昭和31年6月 悪魔の足 死ぬ前の名探偵(→瀕死の探偵) 美しい自転車乗り アンバリ老人の金庫室(→隠居絵具屋)
  16.黒蛇紳士 昭和31年8月 一体二面の謎(→高名な依頼人) 怪スパイの巣(→最期の挨拶) 猿の秘薬(→這う男) 黒蛇紳士(→入院患者) パイ君は正直だ→(株式仲買定員)
  17.謎の手品師 昭和31年8月 技師の親指 花嫁の奇運(→花嫁失踪事件/独身の貴族) 怪談秘帳(→ショスコム荘) 謎の手品師(→かたわ男/背の曲った男)
  18.土人の毒矢 昭和31年10月 金山王夫人(→ソア橋) 土人の毒矢(→サセックスの吸血鬼) 悲しみの選手(→スリー・クォーターの失踪) 一人二体の芸当(→花婿失踪事件/花婿の正体)
  19.消えた蝋面 昭和31年12月 消えた蝋面(→白面の兵士) バカな毒婦(→三破風館) 博士の左耳(→フランシス・カーファックス姫の失踪) 犯人と握手して(→アベ農園)
  20.黒い魔船 昭和32年3月 黒い魔船(→黒ピーター) 疑問の「十二時十五分」(→ライゲートの大地主) オレンジの種五つ ライオンのたてがみ

 収録の事情を知ってから、この全巻構成を見ると、いろいろと分かってくる。3巻に新作の『獅子の爪』が入っているのは、全集の企画がきまってから執筆をはじめた最初の作品が、ちょうどここらで完成したんだろうな、とか、16巻以降は執筆と巻数が一致するのは、「世界名作探偵文庫」の既刊分がなくなったためだろうな、とか。
 また、この叢書は何度も装丁が変わっているが、その辺りの理由は、平山雄一氏の 【山中峯太郎研究室(22)「名探偵ホームズ」シリーズ背表紙の変遷】に詳しい。
 この目まぐるしい変遷については、かねてからの謎であったが、当会顧問でポプラ社でこのシリーズを編集しておられた秋山憲司先生にうかがったところ、その理由が氷解した。当時は高度経済成長時代でインフレが進行し、何度も定価を付け替えなくてはいけなかった。その際にうっかり古い本を出荷してしまわないように、表紙のデザインを変えたということだそうだ。
 ただしカバーを変えただけで出荷し直すというわけではない。現在と違って当時の本は、奥付にちゃんと定価が印刷されているので、そのようなことはできない。おそらくポプラ社にあった古い本は全て断裁処分になったが、取り次ぎや本屋に残っていた在庫を間違えないように、こういった配慮がなされたのではないだろうか。
 ところで、山中ホームズは1976年(昭和51年)からはじまった新書サイズの叢書「ポプラ社文庫」にもその一部が収録されているが、これがまた、一部の収録作品が変更になっていたりして、謎が多い内容なのである。これは、10冊まとめて刊行されている。だからなるべく物語の順番(執筆順)に収録すればよさそうなものだが、以下のような構成になっているのだ。
 (芝隆之編「推理小説叢書目録/3.児童書篇」『帝王』9号/昭和53年3月 より)

 【ポプラ社文庫版】全10巻(全集版と同じものは、収録短篇を省略)

 『深夜の謎』 『怪盗の宝』 『スパイ王者』 『火の地獄船』(火の地獄船/奇人先生の最後/断崖の最期) 『踊る人形』 『鍵と地下鉄』 『夜光怪獣』 『銀星号事件』 『謎の手品師』(花嫁の奇運/トンネルの怪盗/謎の手品師) 『恐怖の谷』
 たしかに最初の1巻は実際の執筆第一号で、四長篇は原作の発表順にそろえているし、「断崖の最期」の次に『踊る人形』の第1話「虎狩りモーラン」につながっている。全集版よりはわかりやすくなっているものの、それでも個々の短篇のつながりの整合性はあまりとられていない。もしかしたら、そこを書き直しているのだろうか?
 また、収録作品を変更したのも、なぜだかよくわからない。子供に受けそうな話で、なおかつ有名作品(「トンネルの怪盗」=「赤髪組合」)を入れたかったのか?
 しかし「まだらの紐」は未収録である。うーむ、これも、ポプラ社の方に聴くと、分かるのかもしれないが。”

【参考】北原尚彦『シャーロック・ホームズ万華鏡』(本の雑誌社,2007)は、ホームズと名のつくものならほぼなんでも収集する北原氏のうんちくが分かる本でした。『発掘!子どもの古本』(ちくま文庫,2007)も入手しました。
2012年12月16日-25日



BLD
シャーロック・ホームズの冒険


英国
グラナダTV
1984年~1994
各55分

 ジェレミー・ブレットがホームズを演じた全41話のグラナダTV版のブルーレイ・ディスク。NHK放映時の露口茂の吹替も収録されている。
 ジェレミー・ブレットはバード・プロダクションが制作したシェイクスピア・シリーズでは『マクベス』の主役を演じていた(写真参照)。
 小学生時分に小学生用にリライトされた「赤毛連盟」「まだらの紐」「口のまがった男」「六つのナポレオン」等を読んだと思っていたのだが、古書店に出ている児童書を調べてみると、少年少女推理小説全集あかね書房版(白木茂・津田鉱)の『シャーロック・ホームズの冒険』の収録作品は「青いルビー」「口のまがった男」「恐怖のオレンジの種」「消えた名馬「しろがね号」」「秘密書類事件」「六つのナポレオン像」の六篇。 だとすると、私が読んだのはあかね書房版ではない。岩波少年文庫は、林克己訳『シャーロック・ホウムズ まだらのひも(旧題はシャーロック・ホウムズの冒険)』には「赤毛連盟」「口のまがった男」「青い紅玉」「まだらのひも」「技師の親指」「名馬シルヴァー・ブレイズ」が収録(完訳である)。河出書房の少年少女世界の文学7『ホームズの冒険(阿部知二訳)/宇宙戦争(荒正人訳)』(昭和42年発行)には、「赤毛連盟」「五このオレンジのたね」「青いルビー」「まだらのひも」「あき家事件」「海軍条約事件」「技師の親指」の六篇。挿絵は新井苑子。岩波でも河出でもないようだ。
 小学館の少年少女世界名作文学全集36『シャーロック・ホームズの冒険』(昭和37年)は木々高太郎訳・中山正美挿絵で収録作品は「六つのナポレオン」「赤い髪連盟」「踊る人形」「はんてんのあるひも」「マスグレーブ家の儀式」「吸血鬼」「悪魔の足」。
 講談社の『シャーロック・ホームズの冒険』久米元一訳では「赤毛クラブの秘密」「消えた花むこ」「ボスコム谷の怪事件」「五つのオレンジの種」。
 ポプラ社の「名探偵ホームズ全集」(現在のシリーズの翻訳は亀山龍樹だが、以前は山中峯太郎)では長篇が三冊続いた後、短編に入り、短編の第一冊(通冊では四冊目、第8巻)の第一話「六つのナポレオン」、第二話「口のまがった男」、第三話「まだらの紐」。ワトソンの妻メアリーがワトソンの話を聞いて書くという設定は山中峯太郎の創作。私が読んだのは、「赤毛連盟」は別の絵本で、このポプラ社版だったのかもしれない。他に家にあったミステリーはガードナーの『門番の飼猫』だったが、これも児童書で題名は違っていたと思う。調べてみると、『少年少女昭和ミステリ美術館』(平凡社)に出ていました。講談社の少年少女世界探偵小説全集第18巻『ペルシアねこの秘密』(小西茂木訳)でした。アシュトン老人がベッドで亡くなる挿絵が怖かった覚えがある。

 ブレットのホームズ第一・第二シリーズの製作者はマイケル・コックス。ゲイル・ハニカットがアイリーンを演ずる「ボヘミアの醜聞」(監督ポール・アネット)に始まる。アメリカ出身の妻エルシーの秘密が悲劇を呼ぶ「踊る人形」(監督ジョン・ブルース)、機密文書が盗まれワトスンの学友が錯乱する「海軍条約事件」(監督アラン・グリント)、美人音楽教師が災難にあう「美しき自転車乗り」(監督ポール・アネット)、連隊長のインド時代が影響する事件でホームズがほとんど推理しない「まがった男(背の曲がった男)」(監督アラン・グリント)、冒頭でロイロット医師の横暴さが描かれる「まだらの紐」(監督ジョン・ブルース)、クリスマス・ストーリーでもある、小心な執事の悪事をホームズが見逃す「青い紅玉」(監督デビット・カーソン)、美人家庭教師に奇妙な依頼がされる「ぶなの木屋敷の怪」(監督ポール・アネット)、ホームズの兄マイクロフト(チャールズ・グレイ)が登場する「ギリシア語通訳」(監督アラン・グリント)、火災現場で行方不明になった建築業者の事件「ノーウッドの建築業者」(監督ケン・グリーブ)、心臓に持病をもつブレッシントンは悪夢に悩まされていたという「入院患者」(監督デビッド・カーソン)、原作と異なり黒幕にモリアーティ(エリック・ポーター)を設定した「赤髪連盟」(監督ジョン・ブルース)、前作同様、脚本陣の中心となったジョン・ホークスワース自身が脚本を手がけた「最後の事件」(監督アラン・グリント)と「シャーロック・ホームズの冒険(The Adventures of )」が続く。
 脚色は必ずしも原作通りではなく、やや変更されている。例えば「海軍条約事件」の最後にフェルプスの様子を心配したアニーがロンドンを訪れること(原作にはそんな場面はない)や、「美しき自転車乗り」でカラザースではなくウッドリーを花婿候補にしたのはカード勝負だったとか(原作には記述なし)、判決をワトソンが新聞で知らせる前にホームズが早版の夕刊で知っていたことなど。「まがった男」ではホームズはワトソンにデヴィッドの種明かしをする前に聖書を確認している(原作では記憶による)。「青い紅玉」では原作には記述がない、無罪放免になったホーナーが妻子の出迎えを受けるハッピーエンド場面が追加されて、クリスマス・ストーリーにふさわしい温かいエンディングになっている。「最後の事件」でホームズがフランス政府の依頼で手がけた事件はモナリザ盗難事件で黒幕はモリアーティ教授に設定されている。
 第三シリーズからは製作をジューン・ウィンダム・デービズが担当。その第一話「空き家の怪事件」(監督ハワード・ベイカー)では、滝に落ちたと思われたホームズが帰還する。ワトソン役はデビッド・バークからエドワード・ハードウィックに交替した。広い庭や洞窟などロケ地が豊富な「プライオリ・スクール」(監督ジョン・マッデン。マッデンは映画『恋するシェイクスピア』やモース警部ものの『森の散歩道』『オックスフォード運河事件』を演出)、国家の機密書類が手文庫から盗まれる「第二の血痕」(監督ジョン・ブルース)、 先祖伝来の文書の暗号を解く「マスグレーブ家の儀式書」(監督デビッド・カースン。この作はエドガー・アラン・ポー賞を受賞)、酔って妻に暴力をはたらく夫が撲殺される「修道院屋敷」(監督ピーター・ハモンド)、真面目な夫が突然行方不明になり唇の曲がった男が捕縛される「もう一つの顔」(監督パトリック・ラウ。「唇の曲がった男」は身体上の欠陥なので昨今の言葉狩りの観点から変更されたが、この邦題ではネタバラシになっている。<阿片窟の怪事件>とでもすれば良かったかもしれない)、胸像が壊される「六つのナポレオン」(監督デヴィッド・カーソン)。ブレットはこの作品で降板するつもりだったらしい。最初の長編製作は「四人の署名」(監督は「修道院屋敷」を演出したピーター・ハモンド。この後も長編を任される例が多い。早撮りが得意なのかな。ブルーレイ付属のブックレットの写真は「もう一つの顔」になってしまっている)。モース警部役のジョン・ソウがゲスト出演。宝のありかは不明のまま終わる。
 厩舎から馬が失踪し馬丁が死亡していた「銀星号事件」(監督ブライアン・ミルズ)、ホームズが保養で訪れた田舎で恐怖にかられた表情で兄妹に悲劇が起こる「悪魔の足」(監督ケン・ハナム)、古地図蒐集家が<奇ッ怪な>体験をした晩に殺人事件が起こる「ウィステリア荘」(監督ピーター・ハモンド)、潜航艇の設計図が盗難にあう「ブルース・パーティントン設計書」(監督ジョン・ゴリー)、ワトソンが途中に捜査を行う長編「バスカヴィル家の犬」(監督ブライアン・ミルズ)。ここまで、「シャーロック・ホームズの帰還(The Return of)」。次からは製作総指揮のマイケル・コックスが製作に復帰。
、第五シリーズは、ワトスンが滞在中のホテルでの目撃談からホームズがレディの危険を察知する「レディー・フランシスの失踪」(監督ジョン・マッデン)からで、(シャーロック・ホームズの事件簿 The Casebook of)が始まる。息子が父親殺しの嫌疑を受ける「ボスコム渓谷の惨劇」(監督ジューン・ハウソン)、ブラジル女性が若い家庭教師に激しい嫉妬心を抱く「ソア橋のなぞ」(監督マイケル・シンプソン。ギブソンは自動車を利用している)、競争馬ショスコム・プリンスの馬主ロバートは借金の取り立てに苦しんでいたが、レースで勝てば返済の望みがあった・・・「ショスコム荘」(監督パトリック・ラウ)、殺人者グルーナー男爵との結婚を阻止しようとする「高名の依頼人」(監督ティム・サリバン。男爵が半裸の夫人の写真を貼り付けた備忘録を見ているときに「カタログの歌」を聴いている。ホームズが襲われて重傷)、「這う人」(監督ティム・サリバン」。地方の警察官にもホームズの捜査法が知られてきて、警官がホームズと捜査で張り合う事態も起こってくる。警官の仮説に対してホームズは別の仮説を立てて捜査を進める。仮説比べが興趣を盛り立てる。警官でないホームズは逮捕状を持たずに敵地に潜入する違法捜査も行うし(「フランシスの失踪」)、犯罪や犯人を見逃したりもする(「銀星号事件」「悪魔の足」「ウィステリア荘」「ボスコム渓谷」「ショスコム荘」)。
 第六シリーズはBBCの2時間もの<モース警部>に対抗するための長編化の方針でジューン・デービズに製作が任された。タイトルから独自色が出ており別である。既に原作の長編が払底していたため、デービズは短編を長編化することにした。その3本が長編「サセックスの吸血鬼」(監督ティム・サリバン。冒頭から過去の忌まわしい吸血鬼事件、生贄となった若い娘、村人の焼打ちによる邸宅の火災など、大がかりな描写が続く)、長編「犯人は二人」(監督ピーター・ハモンド。上流階級の人々の醜聞をネタに恐喝を続ける美術商と戦うホームズだが、打つ手段がなくなり敵の館へ不法侵入する。館に思いがけない訪問者が出現して・・・)、長編「未婚の貴族」(監督ピーター・ハモンド。「独身の貴族」「花嫁失踪事件」の二篇を合体している。ホームズがくりかえし幻覚を見る。それは予知夢だったことが分かる)。
 最終シリーズは「シャーロック・ホームズの思い出(The Memories of)」となる。メイバリー家の孫が死亡、屋敷を持ち物ごとを買い取る取引をもちかけられた老婆から依頼される「三破風館」(監督ピーター・ハモンド)、未知の熱病で死亡した従弟と熱病専門の医師、同じ熱病に感染したホームズの「瀕死の探偵」(監督セーラ・ヘリングス)、引きこもりの下宿人が怪しいという「赤い輪」(監督セーラ・ヘリングス)、クリスマスのプレゼントに切られた耳が送られる「ボール箱」(監督セーラ・ヘリングス。ブレット演ずるホームズ・シリーズ最後の作品で、放映時は最終回に放送された)、ホプキンズ警部が持ち込んだ事件をマイクロフトと共に推理する「金縁の鼻眼鏡」(監督ピーター・ハモンド。冒頭は爆破テロ事件で始まる)、博物館のフランス由来の宝石盗難事件をマイクロフトが捜査する「マザランの宝石」(監督ピーター・ハモンド。「マザランの宝石」と「三人のガリデブ」を合体した脚本。アメリカから来たガリデブを偽物と断定するガリデブ姉妹の根拠が「骨格が違う」というのが可笑しい。悪漢を退治するのが老婦人という『マダムと泥棒』風の味付けが楽しい。ホームズはブレット退院後に撮影された最後に登場する場面だけ)。事件解決後も犯人の複雑な事情が明らかになる例が多く、ホームズにとってカタルシスのない事件が続く。

【参考】 コナン・ドイル『新潮文庫 シャーロック・ホームズ全集』(CD-ROM版,1998)
 森英俊・野村宏平『少年少女昭和ミステリ美術館』(平凡社,2011)
 北原尚彦(総監修)『僕たちの好きなシャーロック・ホームズ』(宝島社、2009)
 ヘイニング『NHKテレビ版 シャーロック・ホームズの冒険』(求龍堂、1998)
2012年12月15日



DVD
シャーロック・ホームズの冒険



MGM
1970年
126分
 ビリー・ワイルダー脚本・監督の『シャーロック・ホームズの私生活』。I.A.L.ダイアモンドとの共同脚本通りに撮影された映画は当初4時間もあったらしい(特典の編集者アーネスト・ウォルターの証言による)。撮影現場ではダイアモンドが台詞をチェックしていて台本と違うセリフを俳優が言うと、「カット!」を宣言し、指摘していたという。編集作業はカチンコ部分を削除するくらいでとても楽だったので、編集者は撮影現場で俳優たちとくつろげたと証言していた。それほど脚本がきちんとしていたということだ。
 その脚本には四部あったが映画があまりにも長くなったため、編集者の提案で第2部「ロシアのバレリーナのひとつのお願い」と第4部「唖然とする探偵の冒険」を残し、他のワトソンの推理が展開される部はカットすることになったという。第3部「裸の新婚旅行者」はアフレコがないままの映像が特典に収録されている(セリフは台本から英語字幕で収録)。ホームズの兄マイクロフト役のクリストファー・リーのインタビューが特典に収録されているが、ワイルダーは怪奇映画中心だったリーの過去にはほとんど触れずにマイクロフト役のことしか話さなかったと言う。リーはこの作品が役柄の転機となったと感謝していた。
 ホームズ(ロバート・スティーブンス)はロシアのバレエのプリマ・ドンナから「白鳥の湖」公演の招待を受ける。バレエに興味のないホームズだったが、ワトソン(コリン・ブレークリー)の強い推薦もあって出かけると、終演後に個室に招かれた。プリマはこの公演を最後に引退するつもりだが、そのあとは子作りに励む、ついてはホームズに父親になって欲しいとの依頼だった。困ったホームズはお付きのニコライ(クライブ・レヴィル)に「実は自分はチャイコフスキーと同じ性癖だ」とウソをつく。プリマは怒り、話は流れる。ロシアのバレリーナとダンスに興じていたワトソンはいつの間にか自分が踊る相手が若い男性ばかりになっているのを不審に思う。好みに合わせたという説明に仰天。ホームズに強く抗議する。
 テムズ川で溺死しかけた夫人(ジュヌヴィエーヴ・パージュ)を御者が連れて来る。コンゴで結婚した夫が失踪したと探しに来たが、何者かに襲われて麻酔をかがされ、川に突き落とされたのだ。少ない手がかりを総合して夫の行方を探る三人は、兄マイクロフトから深入りするなという忠告を受ける。怪しげな修道士たち、行方不明となった六人の軽業師たち、秘密の古城、ネス湖の怪獣・・・不思議なことが続くが・・・。
 ワイルダーのセンスが粋な傑作。公開当時の評価は低かったが、視聴者がコメディではなく、『バスカヴィル家の犬』のような作品を期待したせいだと編集者ウォルターは語っていた。
2012年12月13日



DVD
シャーロック・ホームズとワトソン博士
バスカヴィル家の犬


ロシア
1979年
134分

1981年
147分
 ロシア版ホームズもののテレビ作品第1作は二部構成。第1部はワトソンとホームズの出会いと「まだらの紐」、第2部<血の署名>は「緋色の研究」のTV化。監督はイーゴリ・マスレンニコフ、脚本はユーリィ・ドゥンスキーとヴァレーリー・フリード。
 ワトソン(ヴィターリー・ソローミン)は部屋をシェアすることになるホームズ(ワシーリー・リヴァーノフ)を泥棒かなにか、怪しい人物と思ってしまうが、探偵と正体がわかってからは打ち解ける。そして二人は協力して双子の少女(マリヤ・ソローミナ。ワトソン役のソローミンの妻である)の姉の変死の謎に挑む。「まだらの紐」にはテキストに書かれていない裏目よみの解釈がたくさんあるが、この作品では原典に忠実に映像化されている。ワトソンが道化役ではなく、結構しっかりもので賢い軍医である点で他のホームズものと異なっている。リヴァーノフはホームズの尊大な感じもよく出している。第2部ではホームズが雇った少年たち、ベイカーズ・チルドレンが大活躍する。
 第4作は長編「バスカヴィル家の犬」。二部構成である。途中でバスカヴィル家の捜査はワトソンひとりの担当になり、ホームズがいったん登場しなくなる。陰影を強調した画面が雰囲気を盛り上げる。石も散乱する荒涼とした湿原が館の周辺に広がる。相続人であるヘンリー卿(ニキータ・ミハルコフ)が中年に設定されていて、急に滅入ったり、恋に我を忘れたりとユーモラスな愛嬌のある人物像に描かれている。わりと冷静なグラナダTV版のヘンリー卿とは異なっている。若き医師モーティマー(エフゲニー・ステブロフ)も未熟ものとして描かれている。ローラ(ロシア版はアッラ・デミードワ)やベリル(ロシア版はイリーナ・クプチェンコ)もグラナダTV版では被害者として明確に描かれているが、ロシア版ではその辺が曖昧で、共犯関係にあるようにも見受けられる。ベリルは妻なのに妹と偽っている場面にも立ちあっているのだから、夫(オレーグ・ヤンコフスキー)の悪事に無関係、あるいは無関心とは言えないと思うのだが・・・・。

【参考】岸川靖編『シャーロック・ホームズ映像読本』(洋泉社,2012年)
 コナン・ドイル『新潮文庫 シャーロック・ホームズ全集』(CD-ROM版,1998)
 西周成『ロシア版ホームズ完全読解』(アルトアーツ,2012)
2012年12月11日



DVD

2017年7月21日


シャーロック・ホームズ
コレクターズボックス



フォックス
ユニバーサル
1943-46年
68分~73分
 米国で製作されたベイジル・ラズボーン Basil Rathbone 主演のホームズもの4作品をデジタル・カラー化したコレクター・ボックス。元のモノクロ作品も収録されている。LEGEND FILMS製作、ユニバーサル配給。このオリジナル4作はロイ・ウィリアム・ニール監督。演出は手慣れたもので見事である。IMDbの評価も7近い。ベイジル・ラズボーンは英国グラナダTVのジェレミー・ブレット以前には,映像化された最もホームズらしいホームズとして著名だった。日本未公開。
 『バスカヴィル家の犬』(1939)から始まって全14作ある。ワトソン役はナイジェル・ブルース、レストレイド警部役はデニス・ホーェイ、ハリソン夫人役はマリー・ゴードン。

 「シークレット・ウェポン Sherlock Holms and The Secret Weapon」(1943年、68分。脚本エドワード・T・ロウ、W・スコット・ダーリング、エドマンド・L・ハートマン)。戦時中に作られた一篇。画期的な(空襲に使う爆弾のための)照準器を作ったスイスの物理学者トーベル博士(ウィリアム・ポストJr)を、独軍の拉致計画を阻止し、保護し、照準器を確保するために英国のホームズが活躍する。モリアーティ教授(ライオネル・アトウィル)がホームズに挑戦し、博士が機器を4つに分解して秘密を守ろうとした計画や暗号を解読する。四番目の暗号をモリアーティよりも先に解いたホームズが敵地へ乗り込んで自らを危険にさらしながらも教授と戦うというオリジナル・ストーリー。教授に捕われたホームズが自分の殺害方法を教授と討論する場面がある。教授はホームズの提案を採用して一滴ずつ血を抜くという方法でホームズを死に陥れようとする。トーベル博士の恋人シャルロッテ役にカーレン・ヴァーン。IMDbの評価は、6.8(2017年8月)

 「緑の女 Sherlock Holms : The Woman in Green」(1945年、脚本バートラム・ミルハウザー)。若い女性の連続殺人が起こり、指を切り去られていた。あるクラブでジョージ・フェンウィック卿(ポール・キャヴァナー)が美しい女性リディア(ヒラリー・ブルーク)と連れ立っているのをホームズは目撃する。ジョージ卿は翌日、安宿で目が覚めたが、すぐ近くの通りで起こった殺人に驚く。それにコートのポケットには指が入っていた。昨晩会った女性の部屋でジョージ卿は若い男の脅迫を受けた。ジョージ卿の娘モード(イヴ・アンバー)は父親の様子に不審を抱き、夜中に庭に埋めた指を持って、ホームズのもとへ相談に来る。急いで卿の屋敷へ駆けつけたが既に卿は口止めのため銃で狙撃されていた。事件の背後にモリアーティ(ヘンリー・ダニエル)の影を感じたホームズ。ウィリアムズ伍長(トム・ブライソン)に狙撃されたホームズは催眠術によって人心が操られていることを知る。ホームズはオンスロー博士(フレデリック・ワーロック)の催眠術の会に出席、わざとリディアの術中にはまって証拠をつかむことにする。レストレイド警部に代わってグレッグソン警部補(マシュー・ボウルトン)がホームズを助ける。他のキャストはリディアのメイドのクランドン女史(サリー・シェファード)。IMDbの評価は、6.9(2017年8月)

 「闇夜の恐怖 Sherlock Holms : Terror by Night」(1946年、脚本フランク・グルーバー)。400カラットのダイヤ、ローデシアの宝石の護衛をレディ・マーガレット(マリー・フォーブス)の息子カーステアズ(ジオフリー・スティール)から依頼されたホームズは食事中に列車内の個室で息子を殺され、ダイヤを奪われた。犯人は車両の中にいるはずだ。ワトソンとホームズの他には休暇で魚釣りに行くレストレイド警部、ワトソンの友人ブリーク少佐(アラン・モウブレイ)、数学の教授キルベイン(フレデリック・ワーロック)、母親の遺体を運ぶビビアン・ヴェガ(キャスト表ではヴェダーだが。レニー・ゴッドフリー)、シャルクロス母子(ジャネット・マードック、ジェラルド・ハマー)。モリアーティに劣らぬ知能犯モラン大佐は棺桶の底に男(スケルトン・ナッグス)を隠していた。駅に着くと地元のマクドナルド警部(ボイド・ディヴィス)が待っていたが・・・。前2作はエンド・マークの後にキャスト表が出たが、今作にはキャスト表は無かった。列車内での殺人なので容疑者は限定されているし、駅に到着するまでに事件を解決しなければならないという制約がある。ワトソンがレストレイド警部の向こうを張って客に尋問を試みるがあえなく失敗するという笑える場面がある。IMDbの評価は、7.0(2017年8月)

 「殺しのドレス Sherlock Holms : Prelude to Murder(殺人前奏曲)」(1946年、73分。脚本レオナルド・リー。原題 Dressed to Kill)。ダートムア刑務所の囚人が作ったオルゴールを落札したワトソンの学友スティンキー(愛称。エドマンド・ブレノン)が強盗に襲われた。オルゴールの収集家でもある彼の収集品のなかで高価なオルゴールには目もくれず、安物を盗んでいったという。事件に興味を持ったホームズは収集品を見せてもらう。盗まれた品物と似たオルゴールはまだスティンキーの手元にあった。ホームズは用心するように進言するがワトソンもスティンキーも意に介さない様子であった。
 その夜、スティンキーを尋ねてきた女性があった。富豪のヒルダ・コートニィ(パトリシア・モリソン)である。彼女はくだんのオルゴールを取りに来たのである。スティンキーはオルゴールを買い取ろうというヒルダの要求に言葉を濁し、彼女に言い寄ろうとしていた。ヒルダの仲間キャヴァナー将軍(フレデリック・ワーロック)の運転手ハミッド(ハリー・コーディング)が投げナイフでスティンキーを刺殺してしまう。
 ホームズは強盗の目的がオルゴールだと推理し、オークション会クラブツリーの司会者(ホルムズ・ハーバート)に聞いて他にも同時に落札された2個があると知る。安く落札した家に行くと家主は留守でメイドが出かけるところだった。家に入って待つホームズとワトソン。物音のする物置を開くと少女が縛られていた。メイドは変装した強盗の一味だったのだ。3番めのオルゴールの落札者が危うい。木曜日に来るという骨董品店の店主イヴリン(パトリシア・キャメロン)だった。案の定、彼女は尾行され、ヒルダらがオルゴールを買い求めに来た。しかし、イヴリンは少し前に同じものは売れてしまい、オルゴールを買いに来たものに名刺を渡すように言われていると答える。名刺には「シャーロック・ホームズ」とあった。
 オルゴールを作った囚人は5ポンド紙幣の刷版をどこかに隠した罪で服役していた。仲間にその在り処を伝えるのにオルゴールのメロディーを使ったとホームズは推理する。一台では入りきらなかったのだ。
 ホームズはスティンキーが持っていたオルゴールの曲を覚えていた。酒場で情報屋のジョーに原曲を聞く。オルゴールによって編曲が異なっているところが暗号なのだろう。ワトソンの「楽譜が読めず、番号で教えられた」という嘆きがヒントになり、アルファベットを音階にあてはめたものと判明。ホームズの確保したオルゴールは伝文の中盤だった。
 菓子入れに隠したオルゴールはワトソンが守っていたが、顧客を装って来たヒルダの仕掛けた火事騒動に騙されて菓子入れを確保するところを目撃されてしまい、オルゴールを盗まれてしまう。ホームズによれば、この火事と思わせて隙をみせた者から盗むというトリックはワトソンが書いたばかりの「ボヘミアの醜聞」で公表したものだったという。
 中盤の伝文のS博士はサミュエル・ジョンソンだと直感したホームズはホプキンス警視(カール・ハーボード)と共にジョンソン記念館で一味を待ち伏せした。案の定、一味が現れて・・・。他のキャストは、ジョンソン博士記念館のツアーガイド(リーランド・ホジソン)、スコットランドヤードのコミッショナー(イアン・ウォルフ)。IMDbの評価は、7.0(2017年8月)

 ベイジル・ラズボーンのホームズもの廉価版ボックス『名探偵の事件簿』(コスミック・ピクチャーズ)。第1作と第2作はザナック製作。日本未公開。
 「バスカヴィル家の犬 The Hound of the Baskervilles」(1939年、80分、シドニー・ランフィールド監督、アーネスト・パスカル脚色)きびきびした会話で話がどんどん進む。ダートムーアの背景の荒野を思わせる叙景的な描写は無い。人間どうしの対話を捉える人物相関図を描く描写のみである。ヘンリー卿(リチャード・グリーン)とベリル嬢(ウェンディ・バリー)にアメリカ的な美男美女を配していて、映像にはもったぶった描写は一切ない。
 20世紀フォックスが映画化した最初のホームズ作品で、これ一作限りの予定だった。ラスボーンは悪役として著名だった。ヘンリー役のリチャード・グリーンほどの集客力はないと思われていたため、クレジットで主役扱いされたのはグリーンだった。ナイジェル・ブルースはヒロイン、ウェンディ・バリーの下、4番目の扱いだった。しかし、映画は批評家に称賛され、ただちに続編が計画され、二人は主役扱いされるようになった(ガイ・アダムス『シャーロック ケースブック』より)。IMDbの評価は、7.6(2017年8月)
 「シャーロック・ホームズの冒険 The Adventures of Sherlock Holmes 」(1993年、82分、アルフレッド・ワーカー監督)。モリアーティ教授(George Zucco)に陪審は無罪の評決を出した。判事は不満を表明するが、結果は覆らない。ホームズが新証拠を持ってくるがいったん結審した結果は変えられなかった。ホームズと教授は馬車のなかで再度の対決を約束する。教授はホームズが関心を示しそうな犯罪を予告すると計画。宝石の輸入と南米のインカ帝国の葬送行進曲に彩られた殺人である。殺人予告の手紙を携えて助けを求めてきたのはアン・ブランドン(アイダ・ルピノ)。数年前に父が殺され、今度は兄が殺されるという。顧問弁護士ハンター(Alan Marshal )は彼女の婚約者だが、予告はイタズラだと軽んじている。徒歩で帰宅途中の兄が襲われ、尾行していたハンターが容疑者となる。宝石が届く日の警備にはワトソンが当たり、ホームズはアンの保護に当る。モリアーティの真の狙いは別の宝物にあった。アイダ・ルピノ(『ハイ・シェラ』『ビッグ・ナイフ』などに出演)が行動力のある娘に扮して活躍する一篇。
 前作より気楽で楽しい冒険物語で好評だった。映画は成功したがフォックスはホームズ映画の製作を打ち止めにする。代わりにユニバーサルが1942年にシリーズを復活。当時は2作同時上映が一般的でB級映画はその枠を埋めるものだった。(ガイ・アダムス『シャーロック ケースブック』より)。IMDbの評価は、7.6(2017年8月)
 「シャーロック・ホームズと恐怖の声 Sherlock Holmes And The Voice of Terror 」(1942年、65分、ジョン・ロウリンズ監督)。ナチスのラジオ放送「恐怖の声」はテロ宣言など英国攻撃のPRで英国民に恐怖を与えていた。政府はホームズに協力を求める。ホームズは事故の目的は別にあるという。調査をしていた男ギャビンが殺され、「クリストファー」というダイイング・メッセージを残す。ホームズとワトソンは敵地に乗り込む。スラムでギャビンの妻キティ(イヴリン・アンカーズ)に会い、協力を要請する。クリストファーは埠頭の名だった。ナチスに通じる政府要人はいったい誰なのか。キティはナチスの党員ミード(ロバート・ゴメス)とも連絡を取っている。ホームズもナチスと闘うという戦時色の濃い一篇。IMDbの評価は、6.8(2017年8月)
 「シ-クレット・ウェポン Sherlock Holmes And The Secret Weapon」(1942年、68分、ロイ・ウィリアム・ニール監督)。スイスの科学者トーベル博士を拉致しようとゲシュタポが張り込むなか、ゲシュタポの仲間の古本商に変装したホームズが博士を連れ出す。博士は爆弾を正確に落とす照準器を開発したのだった。ロンドンに着きテストで照準器の高性能は証明されたが、博士は構造は秘密にして機器の製造も公開しないという。トーベル博士が行方不明になった晩、博士の捜索に出たホームズはモリアーティ教授が真犯人だと明かす。博士がホームズに残した暗号は分解した照準器を預けた科学者の名前と住所を示していた。暗号は4人めの名前を解けなくしていたが、ホームズは暗号の秘密を解読し、ホフナー教授を保護する。一方、少し遅れてやはり暗号を解読したモリアーティがホフナー教授を誘拐に来る。隠れ家に連れてきたホフナー教授はホームズの変装だった。しかし、敵陣へ乗り込んだホームズは助かるのだろうか。この作品は既に前に見ていました。
 「ワシントンのシャーロック・ホームズSherlock Holmes In Washington 」(1943年、71分、ロイ・ウィリアム・ニール監督)。ロンドンからワシントンへ向かう一行のなかに英国の機密文書を運ぶ諜報部員がいた。文書を運ぶ役目の特使はおとりだった。しかし、彼ジョンは何者かに誘拐されてしまう。英国政府からの依頼で機密文書を取り戻すため、ホームズは男の実家を捜索して機密文書がマイクロフィルム化されてアメリカ製のマッチへ仕込まれていると推理する。ホームズとワトソンの二人はワシントンへ乗り込む。ホームズは関係者への聞き込みからワシントンへの列車内でジョンが機密文書を渡したと思われる女性ナンシーを突き止める。しかし、敵も彼女に迫っていた。ホームズはジョンの死体を包んでいた毛布の付着物などから敵は骨董店を営んでいると推理する。最後に事件を解決したホームズは「英米がともに手を携えて国の未来を守ろう」という米国連邦議会でのチャーチルの言葉を引用する。IMDbの評価は、7.0(2017年8月)
 「シャーロック・ホームズ危機一髪 Sherlock Holmes Faces Death」(1943年、68分、ロイ・ウィリアム・ニール監督、脚本バートラム・ミルハウザー)。パブでの噂話から始まる。パブの主人は店で飼っているカラスが血の匂いが好きなのは、以前にマスグレイブ家で飼われていたからだと言う。その館では当主のジェフリー・マスグレイブが妹のヴィカリー大尉との結婚に反対していた。ワトソンは自宅を軍人の療養施設として提供しているマスグレイブ家に軍医として働きに来ていた。しかし、友人のセクストン医師が何者かに襲われてしまう。マスグレイブ家の館には幽霊が出るという噂があった。話を聞いたホームズはすぐにマスグレイブ家に急行、庭で兄ジェフリーの死体を発見。警部は大尉を疑う。兄の死体を前に翌日、家に伝わる暗号文を読み上げる儀式が行われる。意味不明の言葉だが、執事ブラントンはその意味を悟ったようだった。酔った彼はフィリップに解雇された。ホームズは暗号がチェスの駒の動きだと推理し、地下室への通路を発見、古い文書を見つける。執事の他殺体も発見、彼はダイイング・メッセージを床に残していたらしい。解読のための化学薬品を取りに館を離れるホームズ。真犯人が接近する。 IMDbの評価は、7.2(2017年8月)
 「蜘蛛女 The Spider Woman 」(1944年、62分、ロイ・ウィリアム・ニール監督、脚本バートラム・ミルハウザー)。ロンドンでは原因不明の自殺が続いていた。深夜に起こるパジャマ自殺とよばれる。休暇中で釣りをしていたホームズとワトソンだが、新聞でそのことを知ったホームズは殺人事件と断言する。しかし、最近衰えを感じるので、探偵業は辞めると告白、その直後、ホームズは川に落ちてしまう。ホームズは死んだと報道された。ホームズは死んではいなかった。パジャマ殺人の犯人を油断させる罠だという。犯人は女、被害者はギャンブル好きという共通点がある。ホームズはインド人の富豪ラジニ・シンと偽り、カジノで賭けて大きく負ける。すると、女アドレアが保険を利用した大金の受け取りを持ちかける。左手が麻痺しているという特徴のシンだったが、女がわざと湯をかけて手が動くのを見破る。ホームズの変装を見破ったのだ。シンの宿泊するホテルに犯罪組織の仲間が仕掛けに来る。毒蜘蛛を使う殺人だった。他に小さな足跡を残す生き物もいる。銃撃戦となり、一人が撃たれて死亡する。新聞にホームズ復活の記事が出る。事務所に女と子供が訪ねてくる。シンの保険証書を持参して行方不明になった彼を探して欲しいという依頼だった。彼らが帰った後、暖炉に棄てられた包み紙に仕込まれた毒草の毒でワトソンともども中毒死しかける。毒蜘蛛を販売していた昆虫学者のもとを訪ねるが、既に彼は殺されていた。昆虫学者オードウェイになりすましていたのは組織の一員。見世物小屋での組織の仕掛けにホームズが捕縛される。
 BBCの『SHERLOCK』製作陣のお気に入り。「まさにこれぞホームズ映画だよ。ストーリーがぎっしりつまってる」。スティーヴン・モファットは言う。「最高の59分間だ」とマークも同意する。当時はこのくらいの長さの作品は珍しくなかった。「とことん力強く、ペースが早い。開始10分ですでに『もうこんなに色々なことがあったんだから、この先はもう何もないだろう!』と思うくらい」とスティーヴンは言う(ガイ・アダムス『シャーロック ケースブック』より)。IMDbの評価は、7.4(2017年8月)

 「四つの署名 The Signs of Four 」(1932年、75分、グラハム・カッツ監督、脚色リップスコーム)。『シャーロック・ホームズ 名探偵の事件簿』(コスミック出版)に収録されたアーサー・ウォントナーのホームズもの。ワトソン役はイアン・ハンター。ヒロインのメアリー役はイスラ・ベヴァン。アンダマン諸島の刑務所の囚人スモールは警備のショルトー少佐とモースタン大尉に財宝の隠し場所を教えて脱獄しようとする。財宝を探し当てた二人は争いになり、少佐は大尉を打ち殺して財宝を独り占めする。数年後、刑務所から囚人スモールとベイリーが脱走した。理由は財宝を奪い去ったショルトー少佐から残りの財宝を取り戻すためだった。脱獄を知ったショルトーは息子たちにすべてを告白するが、ショルトーの義足の足音を聞き、窓の外に現れた顔を見ただけでショック死してしまうが、大尉の娘に真珠を返せと言い残していた。ショルトーはベイリーの全身に入れ墨を施し、遊園地の見世物小屋に出させる。一方、モースタン生花店のメアリーにはショルトーの息子、弟のサディアスから真珠が届いていた。さらに「お前には所有権がない」という脅迫状も届いていた。困惑したメアリーはホームズに相談する(ホームズの事務所がベイカー街22A)。ワトソンはメアリーに惚れる。ショルトーの兄が吹き矢で殺される。警察のジョーンズ警部が捜査する。古いフィルムでギクシャクしたところがある。IMDbの評価は、6.0(2017年8月)
 「緋色の研究 A Study in Scarlet」(1933年、72分、エドウィン・L・マーリン監督、脚色ロバート・フローリィとレジナルド・オーウェン)。ホームズ役はレジナルド・オーウェン、ワトソン役はウォーバートン・ギャンブル。パイク嬢は初の中国系女優アンナ・メイ・ウォン、アイリーン役はジューン・クライド。 ロンドンのビクトリア駅、掃除婦たちが客室の扉が開かないと車掌に訴えた。外から梯子をかけガラスを割ってみると、客室内で男は死んでいた。男はジョン・マーフィー。
 ある日、マーフィー夫人がホームズを訪れる。莫大な財産を所有していた夫が突然亡くなったが、遺産が全く夫人に払われないというのだ。 遺産を託されていたメリーデュー弁護士は謎の会合を主催していた。この会のメンバーは遺産をほかのメンバーで分配するという取り決めをしていた。メリーデュー弁護士はマーフィー夫人を「たちの悪い女だ。氏の自殺もあの女のせいだ」と評していた。一方、ホームズは弁護士を「闇の帝王」と評する。組織のひとりパイク大尉が撃たれる。次に切手収集家マルコムが自殺に偽装されて殺された。被害者はマザーグースのような謎のメモを受け取っていた。ホームズは弁護士に会いに行き、罠を仕掛ける。父親の死で秘密の会合に関わったアイリーンに危険が及ぶ。ホームズ役のレジナルド・オーウェンは偉丈夫の中年で、この作品ではメリーデュー弁護士と似た格好になってしまっている。IMDbの評価は5.7(2017年8月)。

 ベイジル・ラズボーンのホームズ、監督 ロイ・ウィリアム・ニールの廉価版ボックス『名探偵の推理』(コスミック・ピクチャーズ)。
 「緋色の爪 The Scarlet Claw」 (74分、1944年)。 カナダのラモートルージュ村の教会の鐘が真夜中に鳴る。神父はのどを切り裂かれ、瀕死で鐘を鳴らし続けた夫人の死体を発見する。カナダのオカルト学会に参加していたホームズとワトソン。 被害者は学会で超自然現象はあると演説中のペンローズ卿(ポール・キャヴァナー)の妻リリアンだった。捜査に協力を申し出たホームズをペンローズ卿は拒否する。ホームズのもとへペンローズ夫人から襲われる予感をしたためたの手紙が届けられる。ホームズはトンプソン刑事とともに独自に捜査を開始する。火の玉の目撃、羊の殺戮などは2年前から始まっていた。ホテルの経営者ジュルネ(アーサー・ホール)はもと刑務所の看守だった。リリアンは女優だった。リリアンと恋のもつれで劇団の仲間を殺した男アリステア・ラムソン(ジェラルド・ハマー)が終身刑になったものの、脱獄していた。当時、事件の裁判を担当していたブリッソン判事(マイルズ・マンダー)が危ない。超自然的な怪物の仕業とみせかけて復讐をはかる変装の名人の男の正体は誰か。IMDbの評価は、7.5(2017年8月)
 「 死の真珠 The Pearl of Death」( 68分、1944年)。宝石“ボルジア家の真珠"をスーツケースに隠して運んでいた運搬人のもとから、合鍵を使って真珠を盗んだナオミ(イヴリン・アンカーズ)は、老神父にカメラを預かってもらう。その老神父はホームズの変装だった。ホームズは真珠を美術館に収めようとしたが、警備装置を自慢する館長に、装置の欠陥を示してみせた。それを清掃員に化けたコノバー(マイルズ・マンダー)が聞いていた。隙を狙って真珠を盗んだコノバーは逃走の途中で真珠を隠したようだ。捕えられたコノバーは勾留中の留置所から仲間へ連絡。その後、背骨を折られた死体の周りに 割れた陶器の破片がバラまかれる連続殺人事件が起きる。 ホームズは真珠と殺人事件に何らかの関係があるとみる。陶器を割るのは割った本来のものを隠すためだと推理。脊椎を折る手口はレストレイド警部が死亡したと思っているクリーパー(ボンド・ハットン)のものだと言う。六体のナポレオン像の売却先を求めて売店に行くホームズたちは、そこで店員になっているナオミに会う。知らぬふりをしてホームズはナオミに罠をかける。 IMDbの評価は、7.5(2017年8月)
 「 恐怖の館 The House of Fear」 (69分、1945年)。 ある日、保険業者の男チャルマーズ(ギャヴィン・ムア)がホームズを訪れてきた。「よき同志」と名乗る七人組で 多額の保険金がかけられた男が立て続けに二人も死に、気がかりな共通点があるためだった。被害者は二人とも死の前にスコットランドの“崖の館”での会合の折、家政婦(サリー・シェパード)からオレンジの種の入った封筒を受け取っていた(種は最初の封筒には6個、二番目の封筒には5個と次第に減っていく)。七人の仲間のひとりにメリベイル医師(ポール・キャヴァナー)がいた。 若き花嫁を惨殺した容疑で裁判をうけていたが証拠不十分で罪を逃れた人物だ。ホームズとワトソンは“崖の館"を訪れることにする。近くのホテルで崖の館で第3の殺人が起こったことを聞く。デイビスが炉の前で黒焦げになっていたのだ。ホームズたちは館の当主アラステア(オーブリィ・マザー)の配慮で館に宿泊することになる。しかし、第4、第5の殺人が起きる。漁師マクレガー(デイヴィッド・クライド)が警部に「知らせがある」と手紙を寄越すが、酒場に駆け付けると一足遅く彼は撃たれて死んでいた。よき同志の残りは二人、館の当主アラステアとメリベイル医師だ。どちらかが殺人犯なのだろうか。IMDbの評価は、7.5(2017年8月)
 「アルジェへの追跡 Pursuit to Algiers 」 (65分、1945年)。休暇を楽しもうと思っていたホームズとワトソンは新聞を落としたと声をかけられたり、フイッシュ・アンド・チップスの店を勧められたりする。ホームズは何者かが自分を招いていると感じて、その誘いにのるのだった。案の定、英国に留学していたロベニア国の皇太子を、暗殺された国王に代わって無事に帰国させる使命を受けたホームズ。 彼の身を案じるワトソンは、故障による飛行機の変更で別行動を強いられ船で後を追うが、 途中ホームズたちの乗った飛行機が墜落したというニュースが入っていた。ホームズが死んだと落胆したワトソンだったが、病気の客がいるので診察してほしいと船長に頼まれて船室に行くと、そこにはホームズと皇太子がいた。飛行機は撃墜されたが、故障を疑ったホームズは最初から船の方に乗り込んでいたのだ、皇太子をワトソンの甥のニコラスとして護衛するという。客のなかには楽譜入れになにかを隠しているアメリカの歌手シーラや拳銃を携帯する夫人、停泊予定のなかったリスボンから乗船した三人の男など怪しい人物がいる。コーヒーに毒物が入れられたり、ナイフ投げの男に狙われたり、パーティでの紙帽子に爆弾が仕掛けられたりと暗殺をもくろむ敵の攻撃に対処するホームズだったが、やっと目的のアルジェ港に着いたときに皇太子を拉致されてしまう。皇太子を国王として迎えに来たロベニア国の一行が縛られていたホームズを助けて真相を聞くとワトソンも驚きの事実が明らかになるのだった。IMDbの評価は、7.2(2017年8月)
 「 緑の女」 ( 67分、1945年) ・「 闇夜の恐怖」 (60分、1946年)・「 シャーロック・ホームズの殺しのドレス」 (69分、1946年)これらは既にコレクターズ・ボックスに収録ずみ。

 主演 アーサー・ウォントナー、イアン・フレミングの1930年代の英国のシリーズ作品が『名探偵の推理』には収録されている。
 「 シャーロック・ホームズの勝利 The Triumph of Sherlock Holmes 」( 79分、1935年、監督 レズリー・S・ヒスコット)。引退宣言をし、引っ越しまでするホームズ。モリアーティ教授(リン・ハーディング)も訪ねてきて警告をする。教授のもとに秘密結社の一員だったモラン大佐が仕事を頼みに来ていた。結社を裏切った男を消す仕事だ。ワトソンが持ってきたホームズ宛の手紙には暗号が書かれていた。 しかも差出人は“ポーロック"というモリアーティ教授(リン・ハーディング)の弟子だ。 暗号を解くと、同時に来訪したレストレイド警部がダグラス殺人事件を伝えた。現場のバールストン城で捜査するホームズ。ダグラス夫人はホームズに過去の経緯を話す。腕の焼き印は秘密結社スコウラーズのもの。ジャック・マードックはエティの下宿人に申し込む。先に下宿人となっていたテッド・モランは結社の幹部。ボスのマギンティ議員の信用を得て重用されたマードックは実際は警察のスパイだった。結社は幹部の逮捕により壊滅したが、テッドは出所後、マードックを狙っていた。
 ワトソンは夫人に同情するが、ホームズは懐疑的だった。堀から雨傘でバッグを引き上げた。バッグには服や重りのダンベルが入っていた。夜になって塔に隠れていた意外な人物が登場し、モリアーティ教授も出現する。
 脚本が弱い。結社の復讐を教授が手伝う必然性がないし、復讐が失敗したのに教授がわざわざ塔を訪れるのも理屈に合わない。ダグラス夫人の因縁話も長すぎる。IMDbの評価は、5.9(2017年8月)
 「 銀星号事件 Murder at the Baskervilles adapted by Silver Blaze 」 ( 66分、1937年、監督 トーマス・ベントレイ)。
 ホームズのもとにヘンリー・バスカヴィル(ローレンス・グロッススミス)から招待状が届く。事件からすでに20年。娘のダイアナ(ジュディ・ガン)も結婚した。ついてはワトソンと二人を招待したいというのだ。一方、レストレイド警部(ジョン・ターンブル)も異動になり、エクセター勤務になった。エクセターで開催される競馬レースでは本名馬・銀星号をめぐって駆け引きがあった。胴元スタンフォード(ギルバート・ディヴィス)が銀星号が負ける方に賭け、モリアーティ教授(リン・ハーディング)に算段を依頼したのだった。予選レースの前夜に世話係ハンターが殺され、銀星号が盗まれたのだ。事件当夜、調教師ストレイカーに仔馬の売却で会いに行ったダイアナの夫、トレバー(アーサー・マックレー)も疑われる。調教師は草原で死体で見つかった。足跡を手がかりに、別の厩舎で銀星号を発見。予選レースでは教授の部下がカメラに仕込んだ空気銃で銀星号の騎手を撃ち、落馬させる(原作では銀星号が勝つ)。ホームズは教授の隠れ家を突き止めようと礼金を支払いに行くスタンフォードをワトソンに尾行させる。IMDbの評価は、5.8(2017年8月)
 ナイジェル・ブルースのコメディ・リリーフ的なワトソンに比べると、イアン・フレミングの実直なワトソンは印象が薄い。
2015年4月20日



DVD
シャーロック・ホームズ


ワーナー
USA
2009年
128分
 ガイ・リッチー監督、脚本・原案マイケル・ロバート・ジョンソン、脚本アンソニー・ベッカム。
 ワトソン(ジュード・ロウ)はメアリーとの結婚を控え、ホームズ(ロバート・ダウニーJr)との同居を解消しようとしていた。冒頭、黒魔術の儀式で六人目の娘を生贄にしようとしているところを捕えた殺人鬼ブラックウッド卿(マーク・ストロング)はホームズとの対決を予告。絞首刑で死んだにもかかわらず、三日後には復活。棺桶には別の小男の死体が入っていた。小男はアイリーン(レイチェル・マクアダムス)がホームズに探索を依頼したリアド。彼は何か、得体のしれない研究をしていたことが次第に分かってくる。
 ブラックウッド卿は「あと三人死ぬ」と予告していた。リアド、修道会の会長、実はブラックウッドの父親、ブラックウッドへの忠誠を断ったアメリカ大使が死亡する。英国を黒魔術で恐怖に陥れ、世界征服を企むブラックウッドの次の目的は何か。ホームズは必死で考える。カンフーを身に付けたホームズは悪人たちと格闘する場面が多い。ワトソンもホームズを助けて一緒に格闘する。武闘派ホームズの誕生である。1891年のロンドンがCGで再現されている。
2015年4月20日


シャーロッキアン
 
「漫画アクション」(双葉社)に連載された池田邦彦のマンガ。
人情ドラマとしてもたいへんよく出来ています。女子大生・原田愛里(アイリーン・アドラーのもじり。HaradaはAdlerのアナグラムを変えたもの)は大学の論理学の教授・車路久と知り合いになる。教授はシャーロッキアンだった。愛里はシャーロック・ホームズの物語をきっかけに人生を学んでいく。
2015年4月21日



DVD
シャーロック・ホームズVSヴァンパイア



USA
2002年
88分


 コナン・ドイルの未完の原作をもとに製作されたホームズもの。原題はThe Case of the whitechapel Vampire ホワイトチャペルの吸血鬼事件。監督・脚本ロドニー・ギボンズ。
 ホームズ(マット・フリューワー)にホワイトチャペル修道院のマーストーク神父(ショーン・ローレンス)から捜査依頼が来た。修道院で神父が殺害される事件が起こっている、首に吸血鬼に咬まれたような後が残っていて、人々が恐れているというのだ。もし犯人に人間が関わっているのなら、ホームズが見つけるだろう、と。ワトソン博士(ケネス・ウェルシュ)と共に修道院に捜査に入ったホームズだったが、彼をあざ笑うように伝道で町へ出たブラザー・ジョン(マシュー・ティフィン)と盲目のシスター・ヘレン(キャリー・ローレンス)が怪物に襲撃された。ジョンは心臓麻痺で死亡。町のひとはコウモリの研究家チャガス博士(ネヴィル・エドワーズ)を疑う。黒人で背が高く外国人の博士は家に閉じこもり、夜になると出かけていくので町の人々に不審がられていた。ホームズは博士と会い、事件の直前まで博士を尾行していたことから博士の無実を確信っする。「罪を償え」と襲撃する怪物はささやく。ギニアでの伝染病流行のとき、コウモリの駆除に反対したという博士の行為が関係しているのだろうか。旅に出たマーストークが修道院に戻ってきてから事件が起こり始めたことから、異教趣味のあるマーストークに反対するブラザー・コルダー(ジェル・ミラー)の意見が強くなる。怪物に襲撃されて病床にあるブラザー・アベル(トム・ラック)は修道院の模型を作り続けていた。伝染病でほとんどの家族を失い、修道院で働くことになったデ・ラ・ロザ(イザベル・ドス・サントス)と息子ヘクトル(ダニー・ブランコ・ホール)が怨みを晴らしているのだろうか。ジョーンズ警視(マイケル・ペロフ)はチャガス博士を犯人と決め付けている。ホームズは犯人をおびき寄せる芝居をうつ。
 マット・フリューワーとケネス・ウェルシュのコンビはグラナダ版のコンビと共通のイメージ。
2012年12月6日




ビデオ
トム・ソーヤーの大冒険



ディズニー
1995年
92分
 原題は「Tom and Huck」。ディズニー映画である。トウェインの原作をかなり改変している。
 冒頭は雨の降る夜の場面から始まる。インジャン・ジョー(エリック・シュワイッヒ)の後ろ姿が不気味だ。墓場の場面に続くのか? ではなかった。トム(ジョナサン・テイラー・トーマス)はシド(コートランド・ミード)にタランチュラ入の容器を持たせて動かないように諭し、寝室から外に出て、仲間と一緒に船で家出をする(タランチュラはミズーリ州にはいないという批判的なレビューがあった)。しかし、船は岩にぶつかって沈没。あわや溺れかけたトムは何者かに助けられる。後でわかるがトムを助けたのはハック(ブラッド・レンフロ)(この挿話の位置は原作ではもっと後だし、原作ではハックは一緒である。原作では船が破壊したためトムは死んだと勘違いされる)。
 トムはポリーおばさん(エミー・ライト)に怒られ、塀のペンキ塗りを言いつけられる。楽しげにペンキ塗りをして友達に仕事を肩代わりさせる(この有名な挿話は軽く扱われている)。このとき誰かにもらう緑色のビー玉をトムは後ほど墓場で落とし、インジャン・ジョーに拾われてしまう。
 遅刻したトムは罰として「女の子の隣に座らせないで下さい」と教師(ヒース・ランバート)に懇願し、まんまとベッキー・サッチャー(リー・クック)の隣に席を占める(これも原作とは異なる。米国人のレビューではベッキーはトムと比べてずいぶん年上に見えると評価が低い)。
 トムとハックはハックが拾ったネコの死体を持ってイボを取るために夜中に墓場へ行く。そこで、墓場を掘り返している三人を目撃する。インジャン・ジョーとロビンソン医師(ウィリアム・ニューマン)、それにマフ(マイケル・マックシェーン)だ。墓から発見した宝の地図を争い、マフがジョーに殴られて気絶している間に医師が刺殺される。目撃者のトムとハックは逃げる。二人は血判書を作り、見たことを誰にも話さないことを誓う。落ちていたビー玉を手がかりに、ジョーは逃げた目撃者を探す。
 医師殺害の容疑はマフにかかり、人々はマフを絞首刑にと意気まくが、ダグラス未亡人(マリアン・セルデス)と判事(チャールズ・ロケット)は人々を鎮め、マフを裁判にかけると宣言する。
 マフを救うためには、ジョーが奪った海賊ミュリエルの宝の地図を示すしかない。トムとハックはジョーから地図を奪おうと、離れ小島へジョーを追跡する。しかし、地図を奪うことには失敗。ジョーが金貨を掘り出したことを知る。島から帰ってみると、トムは自分の葬式が行われているのでビックリ。教会の天井裏でハックはトムにおばさんを悲しませちゃダメだと意見する。トムは天井を破って落下してしまう。一方、ジョーはビー玉の持ち主がトムであることを突き止め、裁判で黙っているようにナイフで脅す。
 トムはマフのために裁判で証言するかどうか悩むが、ハックは面倒なことには関わらないと言ってトムには協力しない様子。しかし、結局はトムの活動を助けることになる。このあたり、ハックのぐずぐずした姿勢が、正義感あふれるトムと比べて、子どもたちの共感を呼ばない描き方になっている。
  裁判の当日、圧倒的にマフに不利な状況で裁判は進むが、トムは弁護側証人として証言し、傷が三箇所でジョーが真犯人であると証言する。ジョーはトムにナイフを投げつけるが、トムは聖書で防ぎ、ジョーは窓を破って逃走。仲間を殺して、去った。マフは無実が証明されて釈放。
 トムはジョーに襲われる悪夢を見る。ピクニックの日に洞窟に入り込んだベッキーとトムは洞窟でジョーと遭遇。ジョーが隠しておいた金貨も発見する。ジョーに追われて危機一髪のとき、ハックが助けに来る。ハックの父親はジョーにも息子にもナイフの使い方を教えていた。三人が争ううちに宝の箱を奈落へ捨てようとするトムにつかみかかったジョーは箱とともに奈落へ落ちていった。
 宝箱のなかの金貨はトムが取り出していたので無事。一躍、トムは英雄となる。ハックはダグラス未亡人の養子になるという。

【参考文献】『トム・ソーヤーの冒険』(光文社古典文庫、角川文庫完訳)
 河出書房の少年少女世界の文学10(昭和42年)は「ハックルベリーフィンの冒険」と一緒になっていて、トム・ソーヤーは光吉夏弥訳だが、ハックは小島信夫訳である。
2012年12月5日



ビデオ
組 織





MGM
1973年
105分
 制作カーター・デ・ヘヴン、ジョン・フリン脚色・監督。撮影はブルース・サーティース、音楽はジェリー・フィールディングとA級スタッフ。
 1974年9月30日発行の藤田真男編『PARKER IS BACK! ”The Outfit”』に感想を寄せていた。

 「(1)この世には「静かなる闘争」もあって、無論陰険さはなく、プロとしての男の律義さやしたたかさや、優しさが表現されている、そんな闘争が大好きなのだ。この『組織』の闘争も殺しも静かで鮮やかで手際よくて、あっけなくて、したがって大好きなのだ。
 ガソリン・スタンドに近づく車。ふたりの男。これ、殺し屋、当然.男をひとり殺す。二人で拳銃を構えて、撃つ。だーん。音だけが響く。この静かさ。
 そして、靴音がやけに高い官房。出所までの長い廊下。この静かさ。ひとつひとつのエピソードのつみ重ねの「たしかさ」が、また「静かさ」に通じるようにさえ思える。コディ(ジョー・ドン・ベイカー)の店に来た殺し屋たち。「ワーゲンの音が出ない」と残念がる男(リチャード・ジャッケル)、プロだね。女にゃ、拳銃なんていじらせない男マクリン(ロバート・デュヴァル)。自分を消しに来た殺し屋に「地道に暮らせ」なんて諭して帰す,「わかってる」男。それでもやるべきことはやる。
 これは新たな「男たちのための寓話」なのだ。
 仕事の後の一服がこんなにうまいものとは知らなかった。
 正義は常に勝つものさ。
 (2)見終わって、時がたつごとにいとしくなる映画が最高だ。むろん『組織』もそんな映画だ。なぜそうなのかを考えてみると、結局、「無口な男たちの心意気」が淡々と、しかもキビキビと描かれているからだろう。
 「組織に立ち向かう」といっても、決してアクが強くもないし、押し出しもリー・マーヴィンほどでない、大体背が小さい、ロバート・デュヴァルが、寡黙な相棒・ジョー・ドン・ベイカーと組むのは自然だ。
 『バッジ373』は、デュヴァルひとりで頑張って、失敗した。
 ジョン・フリンは、原作をだいぶ変えて、まったく個的な闘いに話しをしぼっている。これでいいのである。
 ふたりが、組織のボス、ロバート・ライアンを恐喝するシーン、これは二人いればこそ出来たシーンである。立ったらロバート・ライアンが一番背が高い。両端から黙ってせめる二人。この二等辺三角形は緊張しているのだ。
 イキがるわけでもなく、深刻ぶって悩むわけでもない。醒めた自信を背にしょって、手には拳銃、ダークスーツ。後ろをふり返らず、ゆっくり歩くプロフェッショナル。拳銃は常に他人へ向けるものだということを知っていて、決して自殺なんぞしやしない。自分もまた、銃口に囲まれた標的なのだから、自分を撃つくらい愚かなことはないのだ。
 わめかない。叫ばない、風のような男たち。殺し屋こそ、真の革命児なのだ。だから、心の安らぐ幸福な場所を遠くに見ているこの静かな革命児たちに、『組織』の素晴らしいラストの言葉を捧げよう。
 ”The Good Guys Always Win!"」

 マクリンは銀行強盗を一緒にした兄貴エディを組織に殺される。襲った銀行は組織の押さえる銀行だったからだ。組織の意趣返しというわけである。自らも殺し屋に狙われたマクリンは目には目を、という報復に出る。組織のボスはロバート・ライアンだが、若い情婦を大事にしている。情婦はボスがアメリカン・フットボールばかり見ているのが気に入らない。女の「なぜ殺したの?」という抗議に、マクリンは「金の恨みさ」と答える。
2012年12月5日



ビデオ
ローリングサンダー





AIP(アメリカン・インターナショナル・ピクチャーズ)
1977年
99分
 ポール・シュレイダー原作・脚色、ジョン・フリン監督。撮影はジョーダン・クローンウェス、脚本にはシュレイダーの他にヘイウッド・グールド。
 テキサス州サン・アントニオ、1973年。一台の軍用機が到着するのを村人が待っている。飛行機にはベトナムの捕虜収容所から帰還した兵士が乗っていた。人々は英雄を迎えに出ているのだ。着陸寸前、ジョン・ボーデン(トミー・リー・ジョーンズは「少佐殿、顔を見られたくありません」と言う。チャールズ・レーン少佐(ウィリアム・デヴェイン)は「サングラスをすればよい」と、自分もサングラスをかける。
 七年ぶりの帰還だ。大歓迎である。妻と息子が出迎えている。ジョンも恋人や父親が出迎えた。ジョンはエル・パソに帰った。別れ際に少佐はジョンに「病気はきっとよくなるさ」と声をかける。ジョンは戦争で心に傷を負ったらしい。
 親友のクリフも出迎えてくれた。息子マイケルは出生時まだ一歳半。もう八歳だが父親を覚えているはずもない。糸クズで編んだ星条旗が心の支えだったと少佐は息子に語る。少佐の飛行機は撃墜されて、ベトコンに捕虜になったらしい。捕虜期間中に拷問された。そのときの映像がフラッシュ・バックする。妻は「男性と同居していたの」と告白する。夫の生死は不明、周囲の男たちがつきまとってちょっかいを出す。そこで彼女は夫の親友で警察官のクリフを家に入れたのだ。クリフは妻にも息子にも優しい男だった。夫との離婚を考える妻。息子とキャッチボールをするチャールズは次第に父親の感情を回復する。カウンセリング医師に「眠れない」と訴えるチャールズ。「絶対に息子は渡さない」と決意している。
 看板「RANE少佐をハノイから解放させよう」という看板を切り倒す少佐。ショーである。彼が捕虜になっていた期間2555日間分、一日一枚の1ドル銀貨と赤いキャデラックが贈られる。この様子はTV中継されていた。
 不倫の相手クリフは話し合って自分からチャールズに離婚の件を話すというものの、チャールズがロープで後ろ手に縛られ拷問された経験を聞いて、話せなくなってしまう。
 町でチャールズの帰還を願って腕章をずっと付けていたというリンダ・フォルシュに会う。リンダは親しげに話しかけてくるが、チャールズはツレない返事。帰宅すると留守宅に男たちが侵入していた。四人組である。ファット・エドが銀貨を貰いに来たと言う。銀貨のありかを白状しろとチャールズを責める。ベトコンの拷問に耐えて来たチャールズに拷問は通用しない。流しのデスポーザーで手先を粉砕されてもチャールズは話さなかった。強盗たちは呆然とする。しかし、そこへ妻子が帰って来た。男たちは妻子を脅す。息子が「自分がありかを知っている」と男を誘導、箱は男たちのものになる。チャールズの強情さを嘲笑う男たち。エドとスリム(ルーク・アスキュー)は去り際に妻子を射殺し、チャールズにも銃弾を撃ち込んだ。溶暗。
 ベッドの脇にリンダが付き添っていた。チャールズは死んでいなかった。義手が作られていた。警官のクリフが強盗団の男たちの特徴を聞くが、少佐は「なにも記憶していない」と答える。義手で弾薬をタバコの箱につめる練習を繰り返す少佐。6週間後、退院する少佐を車で送るクリフ。少佐は家でグラインダを使い、義手の先を尖らせ、銃を用意する。近距離で使えるように散弾銃の銃身を短く切断する。銃弾を銃につめる手つきもすっかり慣れていた。
 赤いキャデラックを運転して、少佐はリンダの働く店に向かった。「メキシコに行く。一緒に来てくれ」とリンダを誘う。リンダは持っていた給士盆を捨て、店を出て来た。<ヌエボ・ラルド>に向かう。その地は強盗団のボスが去り際に仲間に落ち合う場所として言った地名だった。
 リンダに頼んで飲み屋で「ファット・エド」を探す。大抵のものは「知らない」と答えるが、ロペスは「知っている」という。別室に連れていかれたリンダはそこでロペスに強姦されそうになる。少佐が来てロペスの手の甲に義手を突き刺し、エドやメリオ、アバードの居場所を聞く。ロペスはエドを知らなかった。しかし、アクーナのビリー・サンチェスに聞けという言質だけは得られた。事情がわからなかったリンダは自分が強盗団探索の手先に使われていると知って怒る。
 一方、テキサスではクリフが少佐の留守宅を見て事情を察する。クリフは仲間に依頼し、赤のキャデラックを手配してもらう。ただし、逮捕はするなと注意する。
 手配されたキャデラックは40号線をアクーナへ向かっていた。アクーナでチャールズがファット・エドを尋ねると、強盗団のひとりスリムがいた。多勢に無勢で少佐は危うかったが、スリムの睾丸をズボンの上から義手でつかんで引き回し、囲みを脱出、難を逃れる。首魁はエル・パソにいることが分かる。リンダは「気狂いの車には乗っていられないわ。あんたのやるべきことは警察に話すこと」と言う。しかし、少佐は無口だ。あきらかに何を言われても自分のやりかたを通すつもりである。
 川で射撃訓練をする少佐。リンダも射撃の腕前を披露する。リンダの父親は特務曹長だった。子どもたちに射撃や乗馬を教えたかったが、あいにく子供はみんな娘。しかし、男勝りの彼女は射撃も乗馬も父親から教わったという。母親は父親の関心を集める自分を嫌った。反抗してリンダは男と駆け落ち。しかし、一年でその男とも別れて、その後は男から男へ流れ歩く人生だったという。
 一方、キャデラックを手がかりにヌエボ・ラルドを尋ねたクリフは少年から少佐の情報を聞き、ロペスに会う。情報を小出しにして、金をつりあげていくロペス。クリフが脅すとロペスは逃亡。追跡するクリフ。廃邸に逃げ込んだロペスと仲間はクリフを撃って来る。警官のクリフはさすがに射撃は見事、敵を討ち取るが、最後にスリムに撃たれてしまう。クリフに留めをさすスリム。
 モーテルでリンダと少佐の二人は結ばれる。リンダに少佐が「(事件)あれ以来、なにも感じなくなった」と話す。理解を示すリンダ。
 翌朝早く、リンダが寝ている間に枕元に金を置き、そっと出かける少佐。
 エル・パソのコリーナ街にファット・エドやスリムたちを見る少佐。
 目覚めたリンダは金を見て愕然とする。警察の番号を尋ね、ダイヤルするが何も話さず電話を切る。そして泣く。
 軍服を着用した少佐はエル・パソのジョンを尋ねる。ジョンの家族は喧騒だったが、そのなかでジョンはうかない顔をしている。別室で少佐はジョンに「強盗のやつらを見つけた。ファレスの売春宿にいる」と話す。ジョンは即座に「行こう」と言う。軍服を着用してジョンは家族に「ちょっと買い物をしてくる。(父親に)とうさん、さよなら」と言って出ていく。
 少佐は標的は主に二階にいると言い、顔を知られていないジョンに女と二階に上がってもらい、後で自分が忍びこんで銃架を叩いて合図をしたら銃の装備をし、銃声を聞いたら部屋から出て撃ちまくれと伝える。ジョンは女を買って二階へ上がる。不能のふりをして女が脱いでも自分はシャツを着たままである。見張りを殴り倒して外階段から侵入した少佐は、ドア前の靴を目印に部屋の扉をぶち破り、エドを撃つ。銃声をきっかけにジョンが部屋から出てエドの仲間を銃撃。一階でスリムが防戦。二階の男たちを片付けて、二人は階段を一階に下り、撃ち合いになり、自らも被弾するものの、遂に少佐はスリムを仕留め、留めをさす。
 少佐はジョンを助け起こし、「帰ろう、ジョン」と声をかける。ストップ・モーション。

 ベトナム帰還兵の心の闇を描いているようにも見えるが、本質的にはシュレーダー好みの仁侠映画である。我慢に我慢を重ねる口数の少ない主人公。とことん非道な仇たち。殴りこみに無言で付き合う助っ人。まるっきり日本の任侠映画のイミテーションである。しかし、ここまでやってくれれば文句はない。ジョン・フリンの端正で非情な画面作りも素晴らしい。
2012年11月13日



BSプレミアム
21:00~23:00
E.T.


ユニバーサル
1982年
120分

 20周年アニバーサリー特別版をNHK・BSプレミアムで放送。
 最初に劇場公開で見てから30年ぶりに再見した。この映画では捜査員たちが腰にぶら下げている「鍵」が象徴的なポイント。鍵はE.T.を囲い込もうとする大人社会の象徴でもある。
 特別版では、エリオットの家の風呂場でE.T.が溺れる場面や警官の銃器をCGでトランシーバーに変えた場面、ハロウィーンで画面外の他家の母親がヒッピーの格好なんかいけないという場面(元はテロリスト)などが追加または改変されている。冒頭のマザーシップからETが置き去りになってしまう場面も分かりやすくなるように説明的に取り足されていると思った。
 再見して母親が夫と別居していること、夫はサリーという若い女性とメキシコに逃避したこと、つまりエリオット家は父親を欠いた欠損家庭であったことを強く感じた。劇場で一度しか見ていないのに、ほとんどの場面に記憶があったことも自分としては珍しい。それほど印象的な映画だったということである。E.T.を載せた自転車が宙に浮き上がる場面が衝撃的。少年たちの自転車の疾走感もみごとである。




2012年10月1日以降、2013年2月28日までに見た 日 本 映 画 (邦画)

見た日と場所 作  品        感    想   及び  梗  概  (池田博明)
2013年1月27日


ビデオ
オリオンの殺意より
情事の方程式


日活
1978年
74分
 根岸吉太郎監督、27歳のデビュー作。原作は勝目梓、脚本はいどあきお、撮影は森勝。
 高校生の須藤敏彦(加納省吾)は宝石商の父親・浩三(戸浦六宏)が離婚した前妻(根岸明美)の子。後妻の麻子(あさこ。山口美也子)は浩三とのセックスでは濡れてこないと忌避しており、以前から交際のあった甲二(古川哲唱)と関係を持っている。敏彦は日記をつけているが、その日記を麻子に読まれているのを知っており、机の引き出しにセロテープを貼って、誰かが引き出しを開くとわかるように細工をしていた。敏彦は読まれているのを利用して麻子に対して扇情的な言葉を日記に記録していた。オリオンの三ツ星のようなホクロが乳房にあるのを知っている等、その言葉を読む麻子はひとり興奮するのだった。
 高校生とはいいながら敏彦はストリップを見に行ったり、トイレで見かけた紋子(亜湖)の後をついていったり、紋子の車を無免許で運転したりして、紋子との関係も次第に深まっていくのだった。
 浩三が海外出張で留守の間に、敏彦は浴場で麻子からも誘惑されるが、麻子の生理による急な出血でセックスするまでには至らなかった。敏彦は「パパを殺すしかない」「3-1=2」とノートに書き付け、「コンクリートで殴り、屋上から落として自殺にみせかける。自分の証言はパパは最近ノイローゼ気味だったと言う」などと具体的に計画する。それを読む麻子は敏彦をそれとなく元気づける。
 帰宅した浩三は早速、麻子を抱く。誕生日にいよいよ50歳だ、あと十年で赤いチャンチャンコ、お前たちにもゴルフを教えてやると、父親はひどく上機嫌だった。屋上でゴルフの練習をする父親に誰か近づいた者がある。屋上のナンバー鍵を開けたその男はコンクリート板で殴って父親を屋上から落とした。敏彦は紋子のところに行き、アフリカ行きを辞めたという紋子を抱く。紋子は自分の手足をしばらせ、自由を封印させて抱かれる。
 一週間後、警察は死体を検死した結果を麻子に伝えている。生体反応がないため、殺されてから落とされたのだという。既に甲二が取り調べられて自白していた。麻子は殺人の共犯となるのだろうか。犯行は敏彦がやったと思っていた麻子は敏彦の部屋へ行く。敏彦は自分のノートはなんの証拠にもならないとうそぶく。同時に夫と息子を葬ろうとした麻子の計画は崩れたのだった。殺意は敏彦ではなく、麻子のものだった。

 亜湖が奇妙な存在感を示す。山口美也子は淫靡な人妻を演じる。敏彦は模型飛行機のクラブに入っていて、ゆっくりと不安定に旋回する模型飛行機が人間関係の不安定さを象徴する。高橋明がクラブで知り合う航空機設計の技師という役どころで、似合わない。 
2013年1月16日



DVD
若い人


東宝
1952年
73分
 市川崑監督・脚本。同じ石坂洋次郎原作とは思えないほど西河作品とは異なる内容。脚色は内村直也・和田夏十・市川崑。音楽に芥川也寸志、助監督に古沢憲吾。間崎慎太郎(池部良)は国語教師で、江上恵子(島崎雪子)の作文課題を出したのも間崎自身(西河篇では作文は社会科の橋本先生の課題)、市川篇では橋本先生(久慈あさみ。写真左)は英語教師で、間崎とは対立し、すれ違う展開である。特にちがう点は以下。
 母親(杉村春子)が男(小沢栄太郎)と一緒にいるのを嫌がって飛び出してきた恵子を嵐の夜、間崎は近くの橋本の家に泊めてもらおうとする。しかし、生徒の中絶事件の責任を感じていた橋本は辞表願いを書いたところだったので生徒を預かる余裕は無かった。間崎は恵子の家に行くことになり、喧嘩に巻き込まれて怪我をしてしまう。最初は母親が間崎の看病をしていたが、途中から母親は恵子を看病させるようになり、恵子は間崎とキスを交わす間になってしまう(怪我をして気絶している間崎を目覚めさせようと雪を口にふくんで間崎にキスする恵子の場面がその前に置かれている)。間崎が復帰した後、恵子は急に馴れ馴れしくなって教員室の間崎を訪れるようになる。
 教頭は間崎に恵子と結婚するか、退職するかを迫る。間崎は恵子と結婚して退職すると言い放つ。一方、恵子は母親にならって結婚はしないと言う。卒業挙行式の公演劇で恵子はハムレット役を演じている(「尼寺へ行け」の場面)。観客として見学していた橋本は間崎を誘い、別室へ出て行く。橋本は間崎に恵子が密かに読んでいた本『赤ちゃんの育て方』を示し、間崎の意志を質す。間崎は恵子はなんでも知りたがっているだけだと言う。一方、ハムレット役の恵子は舞台で気絶し医務室に運ばれて来ていた。恵子は「間崎先生・・・」と間崎の名前を呼ぶので他の者は遠慮して出て行く。恵子の気絶は間崎と橋本が席を外したことに対する嫌がらせだった。間崎は恵子をぶつ。恵子はチャペルで十字架に石を投げつけて割る。「キリストも自分と同じ(私生児)なのに」。間崎が彼女を叱るが、恵子はどうしたら真人間になれるのか、自分が一生懸命になるほど人に迷惑をかけると訴える。間崎は「教師と生徒という関係でいなければならなかったのだ」と二人の間を「過失」ととらえ、過失は努力によって償われると言う。しかし、恵子は間崎の心は自分だけに向いていたのではないと飛び出していく。恵子の後を間崎は追った。橋本は絶望する。アナトール・フランスの言葉が結句となる。「一つの生涯に入らんためには他の生涯において死ななければならない」と。
 西河篇では間崎も橋本も大きく傷つくことがないし、恵子も自分の気持ちを制御して昇華してしまうのだが、市川篇ではデスペレートな展開をする。間崎が恵子の母親から恵子を女として可愛がってくれと依頼される場面から男が喧嘩に連れ出される場面まではあきらかにカットされていてフィルムが飛んでいる。
 演出や編集は後年の市川崑作品とは異なり、かなり粗略である。昭和12年に最初に映画化されていて、本作は二度目の映画化。
 市川篇では修学旅行中に東京の実家へ寄った間崎は母親から生徒への手土産として生卵30個を持たされて宿舎で生徒へ配っている。生卵は昭和27年当時、たいそうなご馳走だったのだろう。
2013年1月14日



DVD
若い人


日活
1962年
 吉永小百合「私のベスト20」第5弾。脚本は三木克巳(石坂洋次郎原作より)、監督は西川克己。助監督は白鳥信一。撮影は萩原憲治。
 長崎・浦水女子高校の数学教師・間崎(石原裕次郎)を慕う高校生・江上恵子を吉永小百合が演ずる。同僚の教師・橋本スミ子を浅丘ルリ子、恵子の母親役を三浦充子。父親を知らない私生児で、先生を好きなのに反発したり、嘘を言ったりしてしまう高校生を吉永小百合が体当りで演ずる。正しい生き方はどうあるべきかを主人公がディスカッションする作品でもある。この当時、真摯な討論が映画内でも炸裂していたことを思わせた。間崎は結婚相手に橋本を選ぶが、間崎がふたりを比べたり、迷ったりする場面は描かれないため、その理由ははっきりしない。どちらを選んだにせよ、どう説明されても納得のいく展開にはなりようもないのだが・・・。
2013年1月14日



DVD
伊豆の踊子


日活
1963年
 吉永小百合「私のベスト20」第4弾。脚本は三木克巳・西河克己(川端康成『伊豆の踊子』『温泉宿』より)、監督は西河克巳。助監督は白鳥信一。撮影は横山実。
 冒頭とエンディングの現在篇を白黒、間に思い出篇をカラーで描いている。一高生(高橋秀樹)が偶然出会った旅芸人一座との交流描く。旅芸人(大坂志郎、浪花千栄子など)が物乞い同然に蔑視されていた現実も合わせて描かれている。また温泉街の酌婦や女給(十朱幸代、南田洋子など)が売春婦として虐げられていた現実も描かれている。伊豆の風景も美しく、みどころのある作品。『伊豆の踊子』は過去に6度映画化されているそうだが、本作は4度目の映画化。西河克巳監督はこの後、6度目の山口百恵・三浦友和の『伊豆の踊子』(東宝)の監督も務めている。
2012年12月7日



DVD
泥だらけの純情



日活
1963年

 吉永小百合「私のベスト20」第3弾。藤原審爾原作を馬場当が脚本を書き、中平康が監督した。不良にからまれた女子高校生を助けた塚田組のチンピラ次郎(浜田光夫)は割り込んできた不良のナイフに刺された。相手は転んだ拍子に胸を刺して死んでしまう。次郎は一方的に罪を着せられそうだったが、目撃者の不良の証言がまるでデタラメなことを女子高校生・真美(吉永小百合)が証言して次郎は放免された。真美は父親がアルジェリア大使という外交官の令嬢。次郎と真美は会っているうちに惹かれ合う。身分違いの二人の恋愛がうまくいくはずもなかった。行き違ったり、反発しあったりしたものの、次郎がヤクの売人の罪を背負って自首しようとしたところへ、アルジェリアへ立つために別れを告げに来た真美が尋ねて来る。二人の逃避行はどうなるのか・・・。
 浜田光夫のとっぽいチンピラの勢いが非常に新鮮で、中平康監督のキレのよいカットも見応えがある。『キューポラのある街』の翌年で、吉永小百合は十七歳。
 雑誌『文藝春秋』創刊90周年記念号(2013年1月号)で、浜田光夫は本作を「僕の最高傑作だと思っている」「小百合ちゃんにとってもきっと三本の指に入る作品だと思います。このときの彼女のがんばりもすごかった。・・・彼女はスカート姿で、雪の中を転げ回るのですから、きつかったと思うけど、泣き言一つ言わない。」と評価している。
2012年12月6日



DVD
愛と死をみつめて


日活
1964年
 講談社の日活100周年記念企画/吉永小百合「私のベスト20」第2弾は斉藤武市監督『愛と死をみつめて』。大島みち子と河野実の往復書簡を映画化、脚本を八木保太郎。ちなみに第1弾は『キューポラのある街』。
 書簡集も映画も公開当時、中学生だった私は見ていなかったが、1964年9月19日の公開直後に、中学で国語教師のY先生が満員の映画館で立ち見で見ておられて、突然倒れ、急逝したということで印象の残る映画である。Y先生はおじいさん先生だった。題名とヒットした歌謡曲だけでイメージを作っていた中学生には、老教師と純愛映画という結びつきが奇妙に感じられたものだった。
 ミコは軟骨肉腫のため顔の半分を手術するので、吉永小百合はほとんど顔の半分をガーゼで被った状態で演技する。死と向き合いながら、生きることの切なさを思うと、映画として見るのがつらい作品である。ミコが死んでしまった病室に生前、ミコが慰問のボランティアをしていた別室の入院患者の宇野重吉が来て、「私が代わってやりたかった」と言った瞬間、観客の涙がどっと溢れるように思えた。 
2013年1月24日




日本テレビ
金曜ロードショー
書道ガールズ!
わたしたちの甲子園




日本テレビアックスオン
2010年
121分を90分で放送
 猪俣隆一監督、実話をもとにした永田優子脚本、撮影は市川正明。
 愛媛県立四国中央高校の書道部部長・早川里子(成海璃子)は書道とは一文字で表すと「こ」、個人のこ、孤独のこで取り組むものと考えていた。この考え、多分に書道家の父親(山田明郷)の影響もあった。一方、副部長の香奈(桜庭ななみ)は里子が仲間の美央(山下リオ)と行き違いがあり、美央が退部同然になっているのを残念に思っていた。里子は高田製紙所の幼ななじみ智也(市川知宏)や紙職人の智也の祖父(織本順吉)とも懇意にしていた。書道部には男子も三人いるが(森崎ウィン、森岡龍、坂口涼太郎)、年下で発言権はないようである。香奈が引きとどめるにもかかわらず、再び退部者が出た書道部の顧問に、臨時の理科教員・池澤(金子ノブアキ)が当てられた。部室の見学をしに来た先生を泥棒と間違えて墨をかけてしまった里子たちだった。池澤はゲームが趣味で部室の里子の書を「つまんない字だね」と評し、父親からも書道展に出す書の書き直しを命ぜられていた里子は反発する。顧問にやや期待した部員たちだったが「教える資格がない」と断られてしまう。しかし、翌朝、池澤は校庭で「来たれ、書道部」と大書するパフォーマンスを行なった。その様子に部員の清美(高畑充希)が感動。自分も部室で墨を飛ばしてのパフォーマンス書道を始める。あまりの迷惑に怒る里子。清美は飛び出してしまう。
 放課後に清美の父(おかやまはじめ)が閉店するので筆などの道具を寄付に来る。清美が書道部の活動を高校生活の支えにしていたことを聞いた里子は頭ごなしに清美のパフォーマンスを叱った申し訳なさでいっぱいになる。校庭で墨を飛ばして書を書いていた清美に謝る里子。清美は好永文具店の閉店に当り記念の書道パフォーマンスの希望を打ち明ける。
 商店街で祝閉店記念セールの書道パフォーマンスを行なったが、清美が最後のひと筆で転び、バケツの墨を放り投げてしまい、観客が墨をかぶってしまう。大失敗。しかし、店主の父は清美の心意気に感謝するのだった。閉店とともに転校していく清美。清美は後輩の山本小春(小島藤子)から曲をプレゼントされていた。別れの駅で清美は自分たちの街は紙の街でどこからでも工場の煙突が見えると言う。良い紙だが高価いことで取引先を失った高田製紙の祖父は作った紙を燃やしていた。やがて火が工場に移り全焼。萌え残った紙を見た里子は書道パフォーマンス甲子園で商店街を盛り上げようと企画を思いつく。
 さっそく近隣の高校にも呼び掛け、書道パフォーマンス甲子園を企画展開を始める書道部。噂を聞いた清美からの手紙にはいつも無口な小春が書道で不登校を克服したこと、愛聴している曲のことが書かれていた。その曲、アンジェラ・アキの「手紙」をBGMに書道部はパフォーマンスを組み立てていくことにした。
 準備に疲れた里子は体育館の外に池澤がいるのに気づく。池澤の書に感心したことを隠していた里子は彼の教えを乞う。池澤は翌日の早朝から筋力トレーニングなどの運動部顔負けの練習を課す。里子の父親は書道パフォーマンスなんて邪道だと怒る。しかし、里子は意味を見いだせずに書道に取り組んでいた過去よりも、仲間と一緒に活動している現在が楽しいと父親に反発する。里子よりいい字を書いていた美央は母親(宮崎美子)の病気のため学校を辞め就職の決心をしていた。そんな事情を知った書道部員は病院の庭でそれぞれの名前を書くパフォーマンスを行い、美央を活動に誘う。母親の助言もあり、美央が加わった。
 いよいよ試合の日、倉敷工芸高校や宮崎県日向商業高校(BGMは「学園天国」)の後に四国中央高校の出場だ。チームワークで魅せるパフォーマンスの最後に「再生」の文字の生を書くとき、部長の里子は墨に足をすべらせて転倒してしまった。墨がこぼれて紙が汚れた。「あきらめるな」と観客の清美が「手紙」の歌を歌う。歌声は広がっていく。里子は立ち上がり、「生」の文字を書き終えた。
 数日後、伊予寒川駅駅員(森本レオ)が去っていく池澤に「部長さんが転ばなければきっと優勝だったのに」と残念がる。しかし、池澤はゲームに余念がない。ゲームのほうは急に「GAME OVER」してしまった。
 そのころ、書道部の女子仲良し四人組は感慨にふけっていた。
 主題歌はファンキー・モンキー・ベイビーの「大切」。
 女子高校生にあまり接近せず、撮影されていて、ドキュメンタリーのような距離感だが、物語はかなりフィクショナル。書道の出来栄えはそれなりである。
2013年1月25日



ビデオ
(喜)あゝ独身



大映
1970年
80分
 吉本興行芸人総出演の黒田義之監督の喜劇。原案は竹本浩三、脚本は吉田哲郎・杉浦久、撮影は今井ひろし。
 屋台ラーメンの出前・花井(花紀京)は喫茶ピエロのキコに熱をあげており、身分を花井食品の社長と偽っていた。一方、高崎産業の奥方(宮城千賀子)のお抱え運転手・西山(西川きよし)は高崎産業の御曹司とと偽っていた。花井はアパートの部屋を昼間に使い、西山は同じ部屋を夜間使って部屋代を折半していたが、二人は出会ったことが無かった。アパートの管理人は笑福亭仁鶴(管理人と掃除婦の二役)。西山とコンビを組むバーテンに横山やすし、銭湯の番台には月亭可朝、御曹司には桂三枝、ラーメン屋のにせ中国人には岡八郎、花井の妹ヒロコに川崎あかね、高崎家のお手伝いサダコに熱田洋子。『透明剣士』では川崎あかねに「新人」と注釈がついたが本作ではついていないから、この方が後の製作品なのだろう。「独身」は「チョンガー」とフリガナされる。
 舞台でのギャグがそのまま持ち込まれても笑えないため、水と油が混じったような気のぬけた喜劇になっている。 
2013年1月24日



ビデオ

透明剣士


大映
1970年
79分
 黒田義之監督作品。脚本は吉田哲郎。撮影は今井ひろし。助監督は大州斉。
 三四郎(酒井修)は道場で稽古に励むものの、ちっとも剣は強くならなかった。城下に暗躍する怪盗団の警戒に当たっていた父の十兵衛はある晩のこと、油問屋の江戸屋から出てきた怪盗団と切り結び、多勢に無勢、斬られてしまった。付き人の目撃者(桂三枝)から怪盗団の首魁は二の腕に般若の刺青があることを聞いた三四郎は父の仇を討とうと思うものの、自分の不甲斐なさを嘆くのだった。橋のたもとで父を呼ぶと不思議なことが起こった。三途の川の渡しが現出したのである。父親は船頭の死神に導かれて向こう岸へ向かう。父を追う三四郎は堂守が止めた。仇を撃ちたいという三四郎に堂守は三つの物(深山に咲くチゴユリ、幽谷のスッポンダケ、浜のホンダワラ)を集めて一晩煮詰めれば不思議なものができるという。ただし人に見られるなと。なんとか物を集めて自宅で満月の晩に煮詰めた汁を一口飲むと手足が消え始めた。透明になった三四郎は手始めに長屋に闖入した浪人をこらしめてみた。堂守が言うには薬の効き目は半時ほどで三度のくしゃみをきっかけに元に戻るという。作った薬は三回分あった。
 長屋のお鈴(熱田洋子)は三四郎に惚れている。その父親(内田朝雄)は目明し。ならずものを集めているらしい鬼頭玄之進(沢村宗太郎)の道場が怪しいと目星をつけ、日和見の門弟(西川きよし、横山やすし)をたぶらかしつつ、次第に三四郎は真相に迫っていく。長屋の熊さんに岡八郎。臆病な付き人を演ずる桂三枝や人のいい熊さん役の岡八郎ははキャラクターの上に乗った演技なので、古びないが、やす・きよは当時の舞台の掛け合い漫才芸なのでシラケ鳥である。
 内田朝雄が最後まで善人役だった。死神が枕元に座るとその人は死ぬという約束事を使って、瀕死の叔父を救う。三四郎役の酒井修にキレがなく、児童映画としてはややツラいものがある。
2013年1月21日



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妖怪大戦争



大映
1968年
79分
 黒田義之監督作品。バビロニアの発掘現場から掘り出された吸血妖怪ダイモン(橋本力)は空を飛んで日本にやって来た。伊豆の代官磯部兵庫(神田隆)は海辺で娘・千恵(川崎あかね・デビュー作)や側用人の佐平次(木村玄)と釣りをしていたが天候が怪しくなってきたので、二人を返し、浜を見回っているところへ、ダイモンが出現。争いの結果、吸血され死亡した。ダイモンは代官になりすまし、屋敷へ戻ると屋敷中の神仏を破壊し撤去するように命ずるのだった。急な変心に皆は驚く。諌めに来た佐平次も吸血されてしまった。
 代官の妖怪に最初に気づいたのは河童だった。河童は新参の妖怪に縄張りを荒らされては仕方がないとダイモンと戦うが皿を摩擦で焦がされあえなく退散。仲間の妖怪に助けを求めるが仲間たちは妖怪名鑑に載っていないと信じてくれない。腰元しのぶや、百姓の子供もさらわれてきていた。
 用人の新八郎(青山良彦)は叔父・大日坊(内田朝雄)に占ってもらい、代官になりすました妖怪の正体を知る。叔父の祈祷師は新八郎に命じて代官の座敷の前に三本の灯明(蝋燭)を立てさせ、神仏の加護を祈念するものの、ダイモンの力に負けて倒されてしまう。
 一方、誘拐から逃れた子供たちの話を聞いた妖怪たち(唐傘、ろくろ首、油すまし、二面女など)は、青坊主や雲外鏡のスクリーンも見て河童の話を信じ、協力してダイモンと戦う決心をする。いざダイモンと戦う日本の妖怪たちは意外に弱くて負けてしまう。
 新八郎は代官に勝負を挑む。片方の目に叔父から渡された矢をいかけると魔法は解けてダイモンは倒れた。しかし、ダイモンが佐平次に乗り換えた。
 ダイモンを退治したと思った新八郎に妖怪たちはダイモンがまだ生きていることを知らせようとしたが、あいにく新八郎の投げたお札がダイモンによって払われ、ツボの蓋に張り付いてしまった。ちょうど妖怪たちは壺に隠れていたところだったから、出られなくなってしまった。新代官・大館伊織が途上、佐平次に咬まれてダイモンに変じてしまった。伊織は新八郎を代官殺害の罪で捕らえ死罪を申しつける。納得いかない千恵は、唐傘と二面女から伊織の正体と日本全国の妖怪たちを総動員して戦う計画を聞く。まずツボの蓋からお札をはがしてもらう必要があった。お札が除去され外に出た妖怪たちは全国の妖怪を呼び寄せ、ダイモンと戦った。
 ダイモンの急所が目であることが分かったので残った左目を狙って行ったがなかなか成果があがらなかった。射止めたと思ったが分身だったりして決着はつかない。しかし、とうとう本体の目を射止めた。ダイモンは海に沈み、その後、飛び去って行った。新八郎と千恵は日本の妖怪の勝利を感じていた。妖怪たちは小躍りしながら去っていくのだった。
2013年1月20日



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お引越し



アルゴ・プロ
1993年
124分
 相米慎二監督作品。両親の離婚が納得できない小学生の少女を田畑智子が演じ、桜田淳子が次第に独り立ちする母親を、中井貴一が離婚される弱気な父親を演じている。 相米監督と栗田豊通のカメラはひたすら田畑に寄り添い、彼女をまっすぐ捉える。観客は田畑の行動の予想がつかなくて、画面を見据えるしかない。一新に走る田畑を長い移動で捉えるカメラが迫力がある。
 小学六年生の漆場レンコ(田畑)は、両親が離婚を前提にしての別居に入り、父ケンイチ(中井)が家を出たため、母ナズナ(桜田)とともに二人暮らしとなった。レンコとの生活上の契約書を作るナズナや、ケンイチとの間に挟まれる。両親が離婚している転校生のサリー(遠野凪子)と喧嘩になったり、仲直りしたり、サリーとのことで級友たちと大喧嘩をしたり。篭城作戦を実行してみたり。井上陽水の『東へ西へ』を魚を取りながらレンコが歌う。
 琵琶湖畔への家族旅行を復活させようと、勝手に電車の切符もホテルも予約してしまう。ホテルのロビーでレンコとナズナが来るのを待っていたケンイチは、もう一度三人でやっていきたいと語るが、その態度にナズナは怒る。その場を逃げ出したレンコは不思議な老人・砂原に出会う。砂原は「過去の思い出は片手分あればいい」と話す。老人とのふれあいに力を得たレンコは、祭が最高潮を迎え、群集で賑わう中をひとりでさまよううち、琵琶湖畔で自分たち家族のかつての姿を幻視する。自分に向けて「おめでとうございます」と大きく手をふるレンコ。帰りの電車のなかでレンコとナズナは「森のくまさん」を歌う。
2012年12月21日



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893愚連隊


東映
1966年
88分
 中島貞夫脚本・監督の異色作。原作は菅沼照夫。白黒映画である。
 京都駅で白タクの客引きをしているチンピラたち(ジローこと松方弘樹、参謀こと荒木一郎、オケラこと広瀬義宣)がいた。 タクシーのただ乗り、タコ焼きの無銭飲食などケチな稼ぎに明け暮れする彼らだった。ある日、ジローは、闇市の大先輩で三国人殺しで十五年の刑期を終えた杉山(天知茂)に出会った。杉山は昔の仲間の本村(穂高稔)に会う。本村は杉山の情婦だった由美(宮園純子)と結婚して足を洗い、幸福に暮していた。
 ジローが予備校生の幸一(近藤正臣)にヤクザの隠語を教えていたとき、オケラのタカリだとの声に飛び出すとタカリは杉山だった。杉山も愚連隊の仲間に加わった。借金で病院に逃げ込んでいた西山社長(遠藤辰雄)を騙して彼の借金を踏み倒そうと計画したものの、借主が組をバックにつけていたため、あえなく失敗。組の黒川(高松英郎)には跳ね上がりを注意された。幸一は一人前のスケこましとなっていたが、ケン(ケン・サンダース)は倫理感のない愚連隊に嫌気がさしてきていた。杉山は飲み屋ののぶ子(稲野和子)と所帯を持てないかと算段していた。
 杉山に務所仲間の横田(待田京介)が薬品会社の原薬奪還の話を持ち込んできた。横取りした原薬を会社に買い取らせれば一千万円のしのぎになる。杉山がこの話をするとみんなは乗り気になったが、幸一は話に乗らなかった。この時点で光一は組に抱き込まれていたのだ。
 運送トラックに乗用車を追突させ示談話の間に追尾した小型トラックに荷を積み込むという計画ははうまくいった。買い取らせる手はずも整った。
 しかし、そこへ組の横槍が入った。金の受け渡しを任せろという。つまり金をよこせというのだ。組織に盾突いても得はない。みなはあきらめたが、杉山は違った。彼はケンと協力し、隠れ場所の荷物の一部を奪おうとした。しかし、組に通じていた光一の見張りの通報で発見され、争いになって、玉井(潮健児)に刺殺された。
  杉山の死のショックで酔ったのぶ子に「うじ虫、インポ(野郎)」と非難されたジローは、組から金の奪還を企てる。のぶ子はケンと新幹線で東京へ出て新しい生活を始めることにした。一方、ジローは金を受け取った黒川の車の前にバキュームカーを止め、故障と偽って手下に押させている間に、車に残った黒川を脅して金のケースを強奪、車で逃走する。しかし、黒川たちはしつこく車で追ってきた。追いつかれそうになったところは、跳ね橋の工事現場。橋はまだ途中までしか出来ていなかった。急停車したジローたちの車を追い抜いて黒川の車は橋から転落した。
 ホッとしたのも束の間、ジローらが降りた空の車は坂道を後退していき、ドラム缶に衝突、停止し炎上。金もパアになった。
 無一文に戻った三人、「ネチョネチョ生きるこった」とケチなしのぎを考えていた。
 のぶ子の友だちのはる美(三島ゆり子)、幸一にだまされる女とき子(桑原幸子)、吉沢(脇中昭夫)、戸川(神戸瓢介)  (戸川) 待田京介 マチダキョウスケ (横田) 沢本(丘椎三) 友田(那須伸太朗)、向井(加賀邦男)向井の助手(横山アウト)、中村(小島慶四郎)、好色な社長・野村(藤岡琢也)、よし江(佐藤綾子)、二三子(勝山まゆみ)、バーの歌手(藤健次)。撮影は「十七人の忍者 大血戦」の赤塚滋。
2012年12月3日





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新座頭市物語/笠間の血祭り



勝プロ/東宝
1973年
87分
 勝プロダクション作品。脚本・服部佳子、監督・安田公義、撮影・牧浦地志。市の生まれ故郷、笠間へ足を向けてみると、村人はどういうわけか、市を大歓迎する。23年ぶりの帰郷は村をあげての歓迎ムード。なにか人違いをされているのではないかと不審顔の市だった。座敷に用意された料理の豪華さに驚いていた市だったが、宴会になると自分のための宴席ではないことが分かった。笠間村出身の新兵衛(岡田英次)の帰郷の祝いだったのだ。新兵衛は江戸で出世し、その金力で笠間村のお咎め金五百両を支払ってくれるというのだ。お咎め金とは年貢米の不足分を金で収めるもの。しかし、悪徳代官(佐藤慶)のもと、代官所の一斗マスは一斗二升の量の米が入る悪い仕組みになっていた。市が村人の厚遇を受けたのは新兵衛がゆきずりに市を見かけ、按摩を依頼していたからだった。市は新兵衛の身体をもみほぐしながら幼時の思い出を話そうとするが、新兵衛は過去とは訣別したいらしく不機嫌になる。一緒にスイカ泥棒をしたなどいう話は禁句なのだ。新兵衛は地元の岩五郎(遠藤達雄)の庇護下にあった。
 一方、市は自分を育ててくれたお茂ばあさんの乳飲み児・お美代(十朱幸代)に会う。お美代に案内されてお茂ばあさんの家だったところを訪れると、長い間ひとが住んでいなかった廃屋は朽ち果てる寸前だった。市が思い出にふけろうと座るのもつかの間、村の浮浪青年たち(岸部シローら)とリン(横山リエ)が来る。根なし草の青年たちはケチな追い剥ぎをしながら放浪していたが、数日前からこの家を寝倉にしていたのだ。
 新兵衛は代々、受け継がれてきた石切山の権利を押さえて御影石でひともうけしようと企んでいた。それを知った名主総代は新兵衛に抗議するが、お上の権利書を金で買い取った新兵衛にかなうはずがない。名主は言い負かされて自殺してしまった。
 石切場では発破の事故で働き手に死人が出る。新兵衛は生娘のお美代に目をつけた。同居の頑固な老人(志村喬)を斬ってお美代を拉致するが、事態を察した市がお美代を助ける。不良青年たちは市の首に懸賞金がかかったので市を捕らえようとする。橋が朽ちて底なし沼に落ちてしまう市。絶対絶命の市を助けたのはリンだった。
 代官所に乗り込む泥だらけの市。不良青年たちは市を助ける側に回る。代官を斬り、役人を斬り、新兵衛を斬ろうとする市。「スイカ畑を一緒に荒らした仲じゃないか」と命乞いをする新兵衛の言葉にふっと手をゆるめる市。その隙に逃げ出そうとした新兵衛は米を踏んですべって転び、立ててあった刀に胸を刺されて絶命した。
 お美代が市を呼ぶが、市はひとりで去っていく。 
2012年12月3日






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中山七里



大映
1962年
87分
 市川雷蔵主演、企画は財前定生、長谷川伸の名戯曲を宇野生男と松村正温が脚色、池広一夫が監督した。白黒映画。
 撮影は海原幸夫、音楽・塚原晢夫、美術・太田誠一、照明・中岡源権、録音・海原幸夫、スチール・藤岡輝夫、編集・宮田味津三。ビデオの音は台詞に比べて音楽や効果音が不自然に大きく、非常に聴きづらい。
 江戸・深川の木場で男たちが兄貴分の政吉(まさきち。市川雷蔵)の噂をしていた。ちょうど材木の買占めから戻ってきた政吉は博打好き。目明しの藤八(杉田康)に目をつけられていた。
 材木商の元締・総州屋の安五郎(柳永二郎)は政吉目利きを賞める。その晩、儀十(沢村宗之助)の賭場で遊んでいると、藤八たちが踏み込んできた。客達はほうほうのていで逃げたが、客の金を回収しているのは目明したちだった。仕組まれた手入れだったのだ。
 逃げ出した政吉は外を通りかかった川瀬の女中おしま(中村玉緒)と咄嗟に同伴のふりをして難を逃れる。おしまへ礼にと翌日料亭を訪れた政吉はそこで藤八と儀十の密会を目撃、彼らの話から裏事情を知り、義憤にかられる。彼らを襲って殴り倒した政吉の正体は感づかれていた。
 すっかりおしまが好きになった政吉は、料亭に通った。賭け事もやめると彼女との結婚を約束した。世帯も構えて婚儀を待つ日々だった。
 儀十と安五郎は知己だった。儀十から藤八が遺恨から政吉を捕縛しようしていることを聞いた安五郎。前々からおしまに気があったが、断られ続けていた。安五郎は料亭を訪れ、おしまを呼び出し、政吉捕縛をちらつかせておしまを口説いたが拒否され、力ずくで彼女の操を奪った。政吉は部屋から駈け出したおしまを目撃。不審に思って部屋に入ると安五郎がいて、自分がおしまに贈ったかんざしが落ちている。政吉は怒り、安五郎を刺し殺してしまった。家に戻ると、既におしまは自害していた。捕り方が来る。藤八だ。この悪党に捕まるわけにはいかない。捕り方の手を逃れ、政吉は無宿者となった。
 それから一年がたった。旅鴉となった政吉は虎太郎(富田仲次郎)の賭場で賭けに不慣れな番頭・徳之助(大瀬康一)と同席する。徳之助は金が必要だと焦っており、それを悟った虎太郎から二十両の借金をする。しかし、それも負けて取られてしまった。駒札を金に変えた政吉は外で、徳之助を案じたおなかに出会う。おなか(中村玉緒二役)はおしまと瓜二つだった。おなかの家におくっていくと、おなかは没落した大店の美祢屋の娘。徳之助はおなかの恋人で美祢屋を再興しようと金を工面していたのだ。政吉は二人に博打でもうけた金二十両を渡し、借金を返すよう説得した。
 ところが、翌日徳之助が借金を返しに行くと虎太郎は借金は百二十両だと言い、証文をつきつけた。金額が訂正してあったのだ。徳之助の抗議が通用するはずもない。徳之助は捕われてしまった。おなかに気のあった虎太郎は借金のかたにとおなかを呼びつける。 
 この里を立とうとしていた政吉だったが、美祢屋に残されたばあや(近江輝子)から事の次第を聞いた政吉は虎太郎の屋敷へ乗りこみ、徳之助とおなかを救出した。虎太郎のところには江戸から藤八たちが政吉を追って来ていた。火鉢で顔に火傷した藤八は政吉をなんとしてでも捕らえようとしていた。
 政吉は、飛騨高山の知人・吉五郎(荒木忍)を頼ろうとする。徳之助は吉五郎は自分の父親で勘当された自分にいまさら父親は合ってくれまいと話す。おなかは政吉に惹かれていく。道中、徳之助は二人の仲を疑う。
 政吉が吉五郎を尋ねる。吉五郎のもとには既に藤八らが来ていた。徳之助の手配書が出まわっていたが、政吉は徳之介は無実だと伝える。しかし、妻お鹿(瀧花久子)のとりなしも効を奏さず、吉五郎は息子を許そうとしないのだった、政吉はお鹿に徳之助が中山七里の蓮華谷に潜んでいることを知らせて去る。
 夜になって食料を差し入れようとするお鹿を吉五郎が留めた。夜の道は女には物騒だ、自分が行くというのだ。吉五郎の後を藤八らが尾けていた。夜明けだ。古屋に潜む政吉たちの元に吉五郎がやって来る。食料を置いて帰っていった吉五郎は藤八たちに捕まった。人質の命を交換条件にドスを捨てろと言われる政吉。政吉がドスを捨てた瞬間、徳之助が俵を投げ込む。隙をついて政吉はドスを取り、吉五郎を救い、相手を切り裂く。政吉は二人のために囲みを破って戦う。古屋が大黒柱を失い、崩壊する場面がある。
 そして数刻、おなかと徳之助に幸せにと言い捨てたまま、政吉は足早に立ち去るのだった。.
2012年12月7日



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博徒外人部隊



東映
1971年
93分
 1969年に公開されたペキンパーの傑作『ワイルドバンチ』を日本の暴力団映画でリスペクトした深作欣二監督の傑作だが、DVDが出ていない。
 鶴田浩二主演の現代やくざもの。撮影は『現代やくざ/人斬り与太』の仲沢半次郎、脚本は神波史男・松田寛夫・深作欣二。音楽は山下毅雄という強力な布陣で、重量級のキャスティング。本土でつぶされた組員が新しい縄張りを得るなら新天地・沖縄だという考えで沖縄に進出するというトンデモない映画である。「沖縄は新しいシマだ」という観点だが、沖縄返還は1972年5月15日だから、この映画の製作・公開時点では沖縄は日本に返還されていないことに注目したい。90分そこらの映画だが、「第一部 おれたちの履歴書」「第二部 俺たちの縄張り」「第三部 おれたちの仇敵」の三部構成になっている。
 風がふきすさぶ刑務所から出所する浜村組組員・郡司益夫(鶴田浩二)に駆け寄る尾崎(小池朝雄)と鮫島(室田日出男)。郡司のナレーションで十年前を振り返ると、横浜の浜村組の縄張りに大東海が進出、大東海は組を抱き込んでその後、組長を刺殺、縄張りを乗っとってしまった。一人で殴りこみをかけた郡司は警察に捕縛され十年の刑期を務めて終えたのだった。郡司は出所の挨拶にと大東海会長の大場(内田朝雄)に面会を申し込み、浜村組員へ五百万円の慰謝金を要求する。残った浜村組員を集めても尾崎・鮫島のほかは、イッパツ(曽根晴美)、関(渡瀬恒彦)、オッサン(由利徹)と六人だけだった。組をつぶされた遺恨から大場を襲った港北会の工藤(安藤昇)がケガをして転がり込んでくる。大東海が追って来たが、郡司はケガをして助けを求めて来た人間を渡すわけにはいかないと断る。
 郡司は五百万円を皆に分けてもよいと言いつつ、終戦後みたいに新たな縄張りを作るには沖縄が適地だと話す。みんなは賛同して、そろって沖縄へ乗り込むことになる。
 第二部。沖縄の那覇へ乗り込んで情報を収集。那覇には2つのグループがあった。ひとつは波照間(山本麟一)で港湾事業荷役を引き受けている。もうひとつは具志堅(諸角啓二郎)でキャバレーを押さえている。具志堅に脱税ウィスキーを流しているのが日下部(高品格)だ。古座を縄張りとする与那原(ユナバル)のヤッチン(若山富三郎)が弟分の狂犬・次郎(今井健二)を送り込んで様子を見ている模様。
 郡司はスジモノでないところから崩そうと提案、まず日下部を脅してアメリカ軍のウィスキーの横流しを分捕ることにする。日下部は代表との話が必要だと引き伸ばす。航空機の爆音が響く下、突如撃ってくる米人たち。応戦するなかでイッパツが犠牲になった。
 不当な介入だと具志堅は怒る。郡司が一人で具志堅との交渉に出かけようとすると工藤が同行した。相手は具志堅と波照間の二人。キャバレーで話し合い。具志堅は沖縄からいますぐ出ていけと声を荒げる。郡司は急に具志堅の胸を刺して息の根を止める。波照間は郡司らの意気におされて郡司に具志堅の縄張りをあけ渡した。
 郡司はあるキャバレーで昔一緒に暮らした女にそっくりの女(工藤明子)を見かける。他人の空似だったが昔の女も沖縄出身者だったという。
 波照間は次郎に話し、関を襲撃させる。挑発に乗って暴れた関を引きずって郡司たちの事務所へ乗り込んだ次郎をヤッチンは止める。扉の隙間から自分を狙っている工藤の銃口に気づいたからだった。次郎はいきり立つがヤッチンは自分に照準を合わせていた銃口のことを話し、諭す。
 次郎は銃や手榴弾を装備して兵隊十人と共に郡司たちの事務所に殴りこむ。銃撃戦となり、オッサンが爆弾で負傷し、関も次郎との戦いで倒れる。関の決死の運転でケガをした次郎を捕虜にした翌朝、オッサンが女房と子供の心配をして死ぬ。鮫島は捕虜の次郎を刺そうとするが郡司が止める。次郎を生きたまま返してもらったことでヤッチンは「古座へ帰る。那覇へは手出しをしねェ」と約束した。その夜、歌手が歌う島唄を聞いて、鮫島は「あんな歌、聞いたって死んだやつは浮かばれねェ」とイラ立ち、尾崎は鮫島をいさめて二人は「唐獅子牡丹」を歌う。郡司は島唄の意味を馴染みの女に聞く。女は「あんたたちと同じよ」、沖縄から南洋への出稼ぎの歌だという。こうして、郡司たちはゴルフ場とプール付きのホテルに本拠地を移したものの、なぜか心は晴れなかった。
 第3部。大東海の代貸(中丸忠雄)が沖縄に乗り込んでくる。車に日の丸を付けて。代貸は波照間に接近。波照間は宴席を設けて大東海に恭順の意を示し、荷役事業を統合・折半する条件を飲む。そんな宴席にヤッチンと次郎たちが乗り込んでくる。「ヤマトンチューはいますぐ帰れ。明日にでもバズーカ砲をぶちこんであろうか」と言い捨てる。
 郡司のホテルで工藤が銃を装備している。そして工藤は「俺は身を引くよ」と去ろうとしている(実は大東海へ意趣返しを目論んでいるのだが、それは隠している)。そこへヤッチンが挨拶に来る。「約束を違えて那覇へ攻め込む。大東海につくか?」。郡司は「つかねえヨ」と答える。ここにいるのは大東海に組を潰された恨みがある者たちばかりだ。ヤッチンは「世が世なら、お前さんたちとは五寸になるような気がする」と立ち去るが、ホテルを出たところで大東海に銃撃され、次郎とともに死んだ。
 郡司は五百万を100万に分け、みんなに取り分を取って本土へ帰れと言う。尾崎は郡司を責めそうな鮫島をいさめて金を取り、一部をオッサンの女房に送ってくれと残して立ち去る。鮫島も工藤も続く。郡司は馴染みの女を抱く。そして、昔の女や死んだ仲間たちのことを想い出していた。女には金を渡す。「女がどんなに尽くしてくれても俺にできることはこれしかねェ」。島唄の歌詞がこの前とは違うみたいだ。女は女の下の口が話したらこれまでの哀れを語り尽くすだろうという歌詞だと説明する。
 翌朝、ホテルを出て港へ向かう郡司を途中で待っていた工藤が合流する。そして尾崎と鮫島もいた。四人がそろったのだ。まるで『ワイルドバンチ』!
 船で大東海の大場が到着した。港を小舟で見渡し、子分たちを従えて威勢を示す。そこへ一台の車が突っ込んできた。最後の大乱闘が始まる。戦いの結果、みんな死んで、残ったのは匕首だけだった。 
2012年12月1日



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関東幹部会


日活
1971年
86分
 沢田幸宏監督の第四作で、日活時代の沢田監督最後のアクション映画。脚本は鴨井達比古・来栖三郎・伊地智啓、撮影は山崎善弘、音楽は玉木宏樹。
 寺田次郎(渡哲也)は尾沢組の若衆頭。刑務所の前で組長・寺田の出所を待つ組員(郷瑛治ら)。しかし一足早く寺田は出所していた。タクシーで横浜へ向かった寺田は途中、静岡県の富士市に立ち寄る。墓地で<神尾輝子>の墓参をして、途中、神尾の組員・浩二(林ゆたか)が暴力団に殴られているのを助ける。寺田は以前から仲の良かった神尾の身内となれば放ってはおけなかったのだ。
 4年間の刑務所生活--既に寺田の顔を知らない若い組員もいる。総長の尾沢大造(清水将夫)のもとに出所の挨拶に来た寺田を通すまいとして寺田組の代貸(郷)に殴られる始末だ。
 寺田のいない間に兄貴分の岩崎(青木義夫)が尾沢組をとり仕切り、番頭格の矢島(原田芳雄)が参謀を務めていた。尾沢組の縄張りには、西日本を仕切る大場会が進出していた。矢島が天王山は富士市だと説明する。市をおさえているのは愚連隊上がりの銀竜会だ。この銀竜会をテコ入れする案が出されたが、それに寺田が反対する。地元の博徒・神尾組に肩入れしてはどうかというのだ。組長の神尾がムショに入っている間にすっかり神尾組は小さくなり、銀竜会に押されてしまっているのだが・・・。総長は斬込み隊長として功績のある寺田に任せることに決する。
 寺田組の壮行会のバーで組員は「ざんげの値打ちもない」を歌っている。
 富士市の神尾組の代貸は山中である。寺田の進出は有り難迷惑そうだ。飲み屋を経営する姐さん・典子(丘みつ子)もいまさら斬った張ったの喧嘩は御免だと言う。典子の姉の輝子は寺田と恋仲だったらしい。しかし、カタギの者との結婚を望んだ神尾は反対したのだそうだ。兄と寺田の間で絶望した輝子は自殺してしまった・・・・。
 乗り込んできた寺田は銀竜会の組員を襲撃、数人(榎木兵衛ら)を傷つける。銀竜会を仕切る松木(深江章喜)の背後に大場会の黒木(山本麟一)が付く。黒木は神尾組の山中を抱き込むことにする。大場組が神尾組の後ろ盾になってやろうと云うのだ。気が弱い山中はこれを承知するが、黒木は忠誠の証拠を示せと言う。その夜、寺田組の代貸が襲われた。
 翌朝、港に手足を縛られて海へ投げ込まれた代貸の死体が上がった。下手人が山中と手下の武藤だと判明、寺田は組員に山中の潜伏場所を探れと命ずる。おびえる山中たちは一触即発だった。やがて潜伏場所を見つけた寺田は組員と共に襲撃、寺田は窓を割って山中らを銃で仕留めた。
 翌日、神尾(長門勇)が出所してきた。迎える組員と典子。しかし神尾組には組長の出所を祝う酒を買う金もない有様だった。
 尾沢組の総長は富士市の決着がつかないことに苛立っていた。早く始末がつくようにと、矢島を派遣する。
 矢島は総長の命令を受けて寺田と接触、二人は神尾に尾沢の盃を受けるように説得した。しかし、この提案を神尾は拒否。尾沢の勧誘を断ったのは神尾が初めてだと矢島は呆れる。神尾は俺は俺のやりかたでゆくと云うのだが・・・。
 買い物帰りの典子が銀竜会の組員に拉致される。しばらくして店に現れた典子の様子がおかしい。店を今日は閉める、店員の浩二にも帰ってよいと云う。寺田は自分の組のバーで飲んでいた、BGMには「ざんげの値打ちのない」。そこへ電話が来る。組員の宏からだった。電話を聞いた寺田は驚く。典子が自殺したのだ。プロバリン錠を飲んで・・・神尾が典子の枕元で遺書を寺田に渡した。そこには「汚ない銀竜会だけでなく、兄さんと次郎さんも憎みます」とあった。
 復讐に立ち上がろうとする寺田を押し留めて神尾は「銀竜会へは俺がゆく」と言う。浩二と神尾がタクシーを降りたところを男たちに襲われた。神尾はなんとか危機を脱したが浩二は殺られた。銀竜会の待ちぶせ・・・ではなかった。矢島が自分の手下を使って神尾の怒りを高めるために大場会がやったように見せかけた罠だったのだ。寺田は矢島を責める。
 銀竜会に乗り込んだ神尾。黒木は「松木、指をつめろ」と命ずるが、神尾はそれを留めて「大場会はこの町から手を引け。尾沢にも出て行ってもらう」と提案、黒木は「でっかい勢力と手を組んで生き延びるか、突っ張って自滅するか、二つにひとつだ。たったひとりで大場と尾沢の間に入るなんて無謀だ」と諭す。しかし、神尾に聞く気は無かった。そこへ寺田が来る。隙をついて争いになり、神尾は松木を斬り、黒木を深々と刺す。寺田と神尾は去ったが、黒木を殺られては大場会も黙っているはずがない。
 富士市へ各地から車を連ねて組織の組員がやってくる。寺田は上尾を匿う。神尾は寺田に「輝子を奪ってしまえばよかったのに」と云う。寺田は「そうしたらこのまちへは戻って来なかっただろう」と答える。寺田は「知っていたんだ。輝子はあんたの本当の妹じゃねえってことを」「なぜそれを知っている?輝子も知らなかったことを」「輝子から聞いたんだ」。
 事態を重視した岩崎は大場会は百人ぐらいを送っていると聞き、。矢島はこっちも送ったらというんですがと総長に相談。総長は岩崎に「気が変わった。兵隊を送ってやれ。寺田にケリをつけさせるんだ」と電話。
 大場会に対抗して尾沢組も組員を車を連ねて送ってくる。寺田は矢島を詰問する、「てめえが呼んだのか」と。矢島「バランスが必要なんですよ。兵隊を送ったのは総長だよ」。無力感を感じる寺田、典子の遺書を焼く。
 大場会の者たちが寺田のバーに来て、神尾をかくまっている情報が入った、と店を探す。平然としている寺田。神尾はいない。寺田は誰から聞いたかと聞くが、谷村(今井健二)が「それは言えない」。谷村はわびのしるしに指をつめ、「今度、あんたと神尾が一緒にいるようなら倍にして返してもらう」と言い捨てて去る。バーから五郎の電話「神尾がいなくなっちまったんです」。矢島が「岩崎の叔父貴が呼んでますよ」と告げに来る。
 岩崎は寺田に「神尾はかばいきれねえ、神尾を差し出せ。お前は神尾と銀竜会を噛み合わせるはずだったろうに。黒木がやられて大場も引っ込みがつかねえ」。
 ビバルディの「四季」がBGMで流れる式場。大場(内田良平)と総長・尾沢が任侠団体の大同団結の話をしている。大場が富士市の騒ぎは困りましたねと水を向けると、尾沢は「今夜あたりケリがつくはずです」と答える。
 ひとりきびしい表情で夜の街を歩く寺田。
 バーで寺田は五郎と弘に「お前たちは今すぐハマへ帰れ。寺田組は解散する」と命ずる。寺田組の事務所は襲撃され組員は殺戮されていた。狭い部屋での殺陣がす早い。
 バーでひとり飲んでいる寺田。そこへ神尾がやって来る。
 駅前で五郎と弘が殺られる。
 神尾「黒木を殺ったときからこういう日が来ると思っていた」と殺気だっている。寺田「俺はこの街に来たときから思っていた」。匕首をかざして二人は戦う。相討ちかと見えたが、寺田が神尾の腹を刺していた。一方、神尾は自分の匕首の刃を素手でつかんでいた。神尾は寺田を刺さずに自らを刺させたのだった。
 富士市の尾沢組事務所に神尾の死体を背負って届ける寺田。床に横たわらせた神尾を脚でける矢島に対して寺田は「ど汚ねえ足でさわるんじゃねえ」と声を荒げる。周囲の敵意を感じた寺田は神尾の身体に隠した匕首を取り、「神尾、やっぱりお前につきあえとよ」とつぶやく。電光石火の早業で岩崎の胸を横に切り裂く寺田。矢島に撃たれるが懐に飛び込んで矢島を刺す。
 神尾を背負って海岸をよろけながら歩く寺田に渡哲也の歌がかぶさる。
 
 黒いサングラスをして終始きびしい表情を見せる渡哲也の緊張感が持続する。延々と続く無情の殺戮。やがて東映の『仁義なき戦い』でも描かれることになる暴力団の非情。殺陣の場面のスピーディな展開が最大の見せ場である。そして登場場面からして、その人物の役割が分かるほどの悪人顔のキャストの妙味。
2012年11月20日



ビデオ
ねじ式


石井プロ
1998年
85分
 つげ義春原作の劇画『別離』『ねじ式』『やなぎ屋主人』『もっきり屋の少女』を石井輝男が脚本・監督で実写化した。石井輝男監督のつげマンガへの入れ込みようが分かる作品。暗黒舞踏ばりのアスベスト館団員のフンドシ姿でうごめく男女が冒頭と最後を飾る。
 売れない、描けないマンガ家ツベ(浅野忠信)は内縁の妻・国子(藤谷美紀)が浮気をしているのではないかと疑う。下宿で同居人・木本(金山一彦)の留守に睡眠薬で自殺を図るが、未遂に終わる。家主(丹波哲郎)の言葉によると、その部屋の住居人には自殺が続くのだそうだ。退院して頭がぼんやりした状態で、旅に出た男は娼婦に会ったり、もっきり屋の少女(つぐみ)に会ったり、ねじ式の世界に入り、現実の世界戻るわけでもなく、締めくくりもなく急に終わる。金太郎飴売りのおばあさんが清川虹子だったり、女医さんが水木薫だったり。

【参考文献】石井輝男・福間健二『定本 石井輝男映画魂』(ワイズ出版映画文庫,2012) 
2012年11月12日



DVD
テルマエ・ロマエ



東宝
フジテレビ
2012年
108分
 ヤマザキ・マリのベストセラー・コミックを実写映画化した作品。『のだめカンタービレ』の武内英樹監督作品。原作はまだ終了していないのに、映画はこれ一本で終わらせるために、原作を改変して、ルシウスが必ず現代日本の真実(上戸彩)のいるところにタイムスリップしてくるように設定している(脚色は武藤将吾)。山越真実(上戸彩)はマンガ家志望で温泉宿のひとり娘、派遣社員で働いていたときに住宅メーカーのモデル住宅展示場で働いていたという設定。
 ローマのハドリアヌス皇帝(市村正親)の治世、テルマエ(浴場)設計技師のルシウスは時代に遅れ、仕事を失いかけていた。ルシウスを慰める友人と一緒に浴場にいったルシウスは浴場の喧騒を避けようと、湯の中に潜ったところ、湯の吸い込み口を見つけた。興味本位でのぞいたところ、吸い込まれて2012年の東京の新宿の銭湯の湯船にタイムスリップしてしまった。そこで見た壁画や鏡、フルーツ牛乳などはローマのテルマエの革新的なアイテムとなった。さらに長老の家庭風呂を案出。皇帝の個室浴場の設計を依頼され、悩むルシウスは三度めの日本へスリップ。行き詰まるたびに日本の浴場はアイデアをもたらしてくれるのであった。一方、マンガ家志望の山越真実は自分の前にたびたび出現する素っ裸の男に関心を持ち始めた。描いたマンガが編集長(内田春菊)に断られるばかりか、その男に翻弄され、派遣先の住宅メーカーの仕事もクビになってしまったのだ。チップとして男から渡された硬貨は本物だったし、置き去られたトーガも本物だった。ラテン語を独学し、ローマ史をにわか勉強して真実は史実に詳しくなっていた。故郷の温泉宿を継ぎ、両親(キムラ緑子、笹野高史)の薦める見合いをしている最中に、熱川バナナ・ワニ園のワニの檻のなかにルシウスが出現する。愛するアンテイノウスを亡くした皇帝のために浴場を構想していたルシウスは、温泉宿の露天風呂からアイデアを取り、バナナを持ち帰る。
 皇帝は跡継ぎと目するケイオニウス(北村大輝)のためにとルシウスに浴場設計を依頼するが、若い女に手をつけてばかりいるケイオニウスのための仕事には、ルシウスは気が向かなかった。皇帝の依頼を断ることは反逆罪とみなされ、死罪は間違いないと思われた。悩んだルシウスだったが、皇帝に断りを申し出る。失意のまま温泉へタイムスリップしたルシウスは、露天風呂が傷を治す効能をもつことに気づく。温泉宿の客たち(竹内力、外波山文明ら)からドブロクをふるまわれたルシウスは酔ってしまい、真実に抱きついたまま温泉に落ち、二人はローマへ。
 真実はアントニヌス(宍戸開)が属州に派遣されることを聞き、史実との違いに気づく。ケイオニウスが皇帝になればハドリアヌスの治世は尊敬されず、暴君となってしまうのだ。ルシウスは多くの兵士が傷ついている戦地へ野外浴場を計画する提案をアントニヌスの案として皇帝に提案し受け入れられる。いつのまにかスリップしてきてしまった温泉宿の人々も手伝いに加わってオンドル小屋を備えた温泉地が完成し、ローマ軍は蛮族との戦いに勝利する。北極星を見つめる夜、ルシウスと話す真実は自分の姿が次第に消えかかっていること、涙がタイム・スリップの引き金になることを知るのだった。
 ハドリアヌスは後継者にアントニヌスを選び、ルシウスを誉め讃える。一方、東京に戻った真実は経験を元に「テルマエ・ロマエ」を描き、帰宅する途中、橋上で川から上がって来たルシウスに出会うところで幕。
 後半のシリアス部分を批判する批評や上戸彩のマジな芝居をくさす評が多いが、見当はずれだろう。イタリア・オペラの名アリアに乘せてタイム・スリップする軽さを評価すべきだと思う。なぜ「ある晴れた日に」がこの場面で使われるのだろうなどと考えだしたら、つまらない。、むしろミスマッチぶりを楽しめばよいのだ。
 原作のエッセンスをうまく切り取った脚本に仕上げていたし、監督の演出も巧みだったと思う。温泉タマゴを口にふくんだ阿部寛が「うまっ」というときにカメラがズッと寄るあたりのギャグのセンスもうまい。当然のことかもしれないが、引きと寄りの配合も巧みだった。

【参考】ヤマザキマリ『テルマエ・ロマエ』Ⅰ~Ⅳ巻
2019年2月16日


フジテレビ 
21:00~23:20
テルマエ・ロマエ Ⅱ

東宝
フジテレビ
2014
112分
  『翔んで埼玉』公開記念でフジテレビで放映。
 温泉設計士として認められたルシウスが子供用の滑り台(シューター)付きお風呂や樽風呂、薬効つきお風呂、混浴風呂などを日本のお風呂文化を見て、ローマに持ち帰る。一方、ローマではコロッセウムでの剣闘士どうしの闘いがエスカレートするので分かるように、ハドリアヌス帝の平和があきられ、戦争に高まる精神がもてはやされる。ケイオニウスが疫病(現在の結核)にかかり、瀕死の状態になったことで、ケイオニウスの兄が身分を偽って治世を引き継ごうとする。思うままにタイム・スリップできるようになってタイムマシンの往復に安心感が出た分、スリルが薄れた。


シェイクスピア作品の映画化やその関連の映画は除く。
それらは別ファイルになっている。→ 『シェイクスピアの劇と映画


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