updated Sept. 7 1998
派遣110番によく寄せられる質問と回答例(FAQ)
質 問 と 回 答 例 (F A Q)
3088. 派遣労働者の有給休暇の取り扱いは?
有給休暇のことについておうかがいします。初めての派遣先で、今年1月1日から3月31日までの契約でした。契約期間が終了したときに、更新(今年12月31日までということで)手続きをしました。その中で、「有給休暇は7月1日以降に5日間発生する」とあります。この日数で正しいのかどうか担当者に確認したところ、この日数どおりで、ださないでいようと思えばださなくてもいいので、もらえるだけよしとする、といった趣旨のことをいわれました。
それ以上は水掛け論になり、納得いかないまま手続きしてしまったのが非常にくやまれます。果たしてこの日数であっているのかどうか、よろしくご回答いただきたくお願いします。
また、この日数が誤りだったばあいの、正当な対応策などありましたら、お知らせ下さい。
【注】この回答は改正労働基準法施行前のものです。改正後、休暇日数などに変更があります。かならず、回答例3100をご覧下さい。
働く者の権利としての年次有給休暇を定めているのは、
(1)労働契約(派遣元と派遣労働者の間の個別契約)
(2)就業規則(派遣会社の社内規定)
(3)労働基準法
の三つです。
このうち、(3)の労働基準法は、派遣労働者にも一般の労働者と同様に適用されます。
労働基準法第39条は、年休(年次有給休暇)を6ヵ月勤務した労働者に一定日数、次の1年間に付与することを義務づけています。通常の労働時間(労働日数)のフルタイム労働者であれば、最低10日が労働者に権利として認められた年次有給休暇の日数です。使用者にはこの10日以上の年次有給休暇を付与することが義務づけられています。
労働基準法第39条第1項(年次有給休暇の権利)
使用者は、その雇入れの日から起算して6箇月間継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した10労働日の有給休暇を与えなければならない
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さらに、同条の第2項は、
労働基準法第39条第2項(年次有給休暇の加算)
使用者は、一年六箇月以上継続勤務した労働者に対しては、六箇月を超えて継続勤務する日から起算した継続勤務年数一年(当該労働者が全労働日の八割以上出勤した一年に限る。)ごとに、前項の日数に一労働日を加算した有給休暇を与えなければならない。
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年次有給休暇の日数一覧表
週所定労働日数 |
5日以上 |
4日 |
3日 |
2日 |
1日 |
1年間の所定労働日数 |
217日以上 |
169-216日 |
121-168日 |
73-120日 |
48-72日 |
勤続年数 |
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6ヵ月 |
10日 |
7日 |
5日 |
3日 |
1日 |
1年6ヵ月 |
11日 |
7日 |
5日 |
3日 |
1日 |
2年6ヵ月 |
12日 |
8日 |
6日 |
4日 |
2日 |
3年6ヵ月 |
13日 |
9日 |
6日 |
4日 |
2日 |
4年6ヵ月 |
14日 |
9日 |
7日 |
4日 |
2日 |
5年6ヵ月 |
15日 |
10日 |
7日 |
5日 |
2日 |
6年6ヵ月 |
16日 |
11日 |
8日 |
5日 |
2日 |
7年6ヵ月 |
17日 |
11日 |
8日 |
5日 |
2日 |
8年6ヵ月 |
18日 |
12日 |
9日 |
6日 |
3日 |
9年6ヵ月 |
19日 |
13日 |
9日 |
6日 |
3日 |
10年6ヵ月以上 |
20日 |
14日 |
10日 |
7日 |
3日 |
ご相談では、上の(1)と(2)がどのような内容かが、明確ではありません。
更新の手続をされたということですので、その契約の内容を確認してください。
(1)は雇入れ通知書などとして示されるはずです。
もし、(1)と(2)のなかで年次有給休暇日数が定められていたときには、それが有利であればその日数が、優先されることにます。
逆に、(1)と(2)のなかで年次有給休暇日数が定められていても、それが(3)よりも不利であれば、その不利な(1)と(2)は年次有給休暇の部分については、無効となります。
労働基準法では、雇入れの日から6ヵ月継続勤務した労働者に年次有給休暇を付与しなければなりません。ただし、企業によっては、労働者によって採用する日が違うために、年次有給休暇の処理が複雑になることから、基準となる日を1月1日や4月1日に統一している企業もあります。しかし、その場合には、労働者に不利に統一することは許されません。
ご相談の場合は、採用の日が1月1日ということですし、7月1日で満6ヵ月勤務したことになりますので、統一しているのか否かは判りませんが、労働基準法との関係では7月1日から年次有給休暇が発生することで、とくに問題はないと思います。
問題になるのは、年次有給休暇の日数です。
なぜ5日にするのか、推測ですが、三つの可能性が考えられます。
A ご相談者がパートタイム労働であるとき
B 派遣元で計画年休制度をとっているとき
C 派遣元が、労働基準法の趣旨を間違って理解しているとき
ここでは、A、B、Cの三つの可能性を考えてみました。
A ご相談者がパートタイム労働であるとき
フルタイムであれば、通常は、最低10日以上の年次有給休暇権があるはずです。それが5日しかない、というのは、労働基準法では、労働時間数や労働日数が、かなり少ない場合だけです。
労働基準法第39条は、次のように1週の労働時間数が35時間より少ない労働者(パートタイマー)については、年次有給休暇日数を比例的に減らすことを定めています。
労働基準法第39条(パートタイマーの年次有給休暇)
3 次に掲げる労働者(1週間の所定労働時間が命令で定める時間以上の者を除く。)の有給休暇の日数については、前2項の規定にかかわらず、これらの規定による有給休暇の日数を基準とし、通常の労働者の1週間の所定労働日数として命令で定める日数(第1号において「通常の労働者の週所定労働日数」という。)と当該労働者の1週間の所定労働日数又は1週間当たりの平均所定労働日数との比率を考慮して命令で定める日数とする。
一 1週間の所定労働日数が通常の労働者の週所定労働日数に比し相当程度少ないものとして命令で定める日数以下の労働者
二 週以外の期間によつて所定労働日数が定められている労働者については、1年間の所定労働日数が、前号の命令で定める日数に1日を加えた日数を1週間の所定労働日数とする労働者の1年間の所定労働日数その他の事情を考慮して命令で定める日数以下の労働者
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そこで、ご相談の内容だけでは、よく判りませんが、
○ご相談者の労働日数が、週3日以下であるとき、または、
○ご相談者の労働日数が、1年間で121日から168日でのとき
(1月1日から12月31日までで)
には、「有給休暇は7月1日以降に5日間発生する」という派遣元の言い分は、正しいことになります。
しかし、通常の派遣労働者の場合には、1年間でこんな少ない労働日数の勤務はあまり考えられませんし、週3日以下というのは稀だと思います。
ただ、ご相談のメールからは、Aの可能性がまったくないとは断言できません。
次に、B、Cの可能性を考えています。その場合には、ご相談者の勤務が週5日以上、週35時間以上の通常の勤務であると推測して考えます。
そうすると、ご相談者は、6ヵ月勤務された7月1日以降、10日の年次有給休暇の権利を取得します。この年次有給休暇を請求することは、その後1年間の何時でも可能です。
そして、労働者に年次有給休暇の時季指定の権利があります。
夏休みに外国に行くのに使いたいと思えば、例えば、8月に10日間をまとめて請求すればよいのです。
B 派遣元で計画年休制度をとっているとき
しかし、労働基準法は、この時季指定の権利に関連して、第39条第4項、第5項で次のように定めています。
労働基準法第39条第4項(年次有給休暇の時季指定)
使用者は、前三項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。
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労働基準法第39条第5項(計画年次有給休暇)
使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、第1項から第3項までの規定による有給休暇を与える時季に関する定めをしたときは、これらの規定による有給休暇の日数のうち5日を超える部分については、前項の規定にかかわらず、その定めにより有給休暇を与えることができる。
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つまり、年次有給休暇の日数は全体として10日であるが、派遣会社が、計画年休について第39条第5項にいう「労使協定」を定めていることが考えられます。
労働基準法第39条は、年次有給休暇のうち5日については個人が自由に時季指定できるようにしなければならないとしていますが、計画年次で残りを決めてもよいとするのです。年次有給休暇をなかなか消化しない現実があるので皆が一斉に有給休暇をとるようにすれば、年休消化が進むという考え方からです。
たとえば、派遣会社で、夏休みの8月中旬に一斉に派遣スタッフ全員が年休をとることを計画して、その計画年休が5日として、それを集団的に決めているときです。その場合には、派遣労働者個人が、自分の希望で時季が指定できるのは、(年次有給休暇日数−5)日となります。
ご相談の場合、年次有給休暇日数が10日であり、計画年休日数が5日とすれば
10−5=5となります。
「有給休暇は7月1日以降に5日間発生する」という派遣元の言い分ですが、「会社としての計画年休が5日間で、あなたの年次有給休暇日数が10日であるから、7月1日以降に、あなたが個人で独自に時季指定できる年次有給休暇は5日間発生する」という趣旨であれば、その限りで派遣元の言い分は正しいと言えます。
しかし、そうであれば「計画年休」のことを派遣会社は、明確に労働者に伝えるべきです。計画年休についての指摘がなにもないとのことですので、どうもこのBの可能性は少ないと思いますが、可能性がまったくないとも断言できません。
C 派遣元が、労働基準法の趣旨を間違って理解しているとき
A、Bの可能性は考えられますが、むしろ、私は、Cの可能性が大きいと推測します。つまり、
派遣元は、本来であれば10日の年次有給休暇があるが、残りの契約期間が半年であるから、10(日)÷2=5(日)としているのではないでしょうか。
もし、そうだとすれば、この派遣元の理解は、労働基準法第39条をまったく誤解したものです。
年次有給休暇の権利は、7月1日の時点で、10日発生しています。
極端なことを言えば、7月1日に10日間の年次有給休暇を取得したいと請求することも可能です。
労働基準法第39条第4項は、「ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。」と、使用者の側の「時季変更権」を認めています。
もちろん、即日に請求を認めるのはさすがに難しいと思いますので、かりに、派遣元が「すぐには無理だから、しばらくまって欲しい」と7月中に10日間全部の年次有給休暇を付与すれば、労働基準法違反の責任を問われることはないと思います。つまり、労働者が指定できるのは、「時季」(英語ではseason)と幅のある期間です。労働者には、何日から何日までの期間を具体的に特定することまでは認められていなのです。
しかし、使用者が労働者から請求があったのに「事業の正常な運営を妨げる」と年次有給休暇を何時までも付与しないときには、労働基準法第39条第4項に違反することになります。
労働基準法第119条は、この第39条第4項に違反した使用者を「六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する」としています。労働者の弱い立場につけこんで年次有給休暇を認めない使用者は、刑罰を受けるほど重大な違法行為です。
問題は、年次有給休暇は、労働者が請求しなければ使用者のほうから付与する必要がないことです。そのため、人員をギリギリに少なくしておいて、年次有給休暇を取りにくくすれば、年次有給休暇を取ることが極端に難しくなります。
年次有給休暇を取りにくくするのが悪い使用者のやり口です。
派遣会社は、社会保険と年次有給休暇を労働者に保障しないことで利益をあげているのです。年次有給休暇10日として、1日1人1万円とすれば、年間で10万円となります。労働者にとっても大きな額ですが、何百人〜何千人の規模の派遣会社にとって、年次有給休暇を取らせなければ、年間何千万〜何億円もが利益になる訳です。
労働基準法が保障する労働者の最低の権利を、現実に取りにくくすることで、大きな利益に変えているのです。
年次有給休暇は、会社を退職すれば、消えてしまいます。
派遣会社を次々に変わる登録型派遣労働者にとっては、きわめて不利な制度です。
年次有給休暇がありながら、退職で消えることを知らずに3年間も働いたのに、その派遣会社では1日も消化せず、次の派遣会社で、年次有給休暇がゼロに戻ったことを知って相談してこられた、実に気の毒な事例もありました。
年次有給休暇の繰越も1年に限ってはありますので、23日分(1日1万円として23万円)が消えてしまい、派遣会社の利益に転化した訳です。もちろん退職金もなにもありません。年次有給休暇が退職で消えることを派遣会社は教えてくれませんでした。派遣110番としては、悪質な派遣会社であるとして、損害賠償請求の可能性も考えましたが、年次有給休暇について教える使用者の義務が法律上明確でないことなど、争うことが難しいと言わざるを得ませんでした。
労働基準監督署や東京都の労政事務所では、労働者がとにかく年次有給休暇を請求しないことには話にならないとしています。もし、10日分の年次有給休暇があるとすれば、適当な時季に早めに請求して下さい。なかなか請求しにくいときには、期間満了の前にとにかく請求することです。やめる1ヵ月前に請求して、派遣元がなかなか認めず、期間満了の日を年次有給休暇日数分だけ延長した例もあります。派遣先との関係では当初の期間満了予定日まで休まず働き、年次有給休暇日数分は派遣元が有給ですから、賃金を支払うことになった訳です。もし、それも認めないときには、労働基準監督署へ訴えたり、損害賠償として年次有給休暇日数分の賃金を請求することができます。
結論としては、A、B、Cの三つの可能性を考えましたので、どれかを確認していただかなければなりません。
私としては、Cの可能性が強いと思いますので、Cについて詳しく述べました。
Cであれば、「5日」という年次有給休暇日数は、派遣元の誤りです。
意識して間違っているとすれば悪質です。
労働者が知らずに「5日」で認めたとしても、その「合意」は労働基準法に違反しますので明らかに無効です。強い立場にある使用者は、5日しか年次有給休暇を認めないとすれば処罰されます。とにかく、10日分あるはずであると請求して下さい。
派遣労働者の場合には、ただでさえ年次有給休暇が累積されないということで不利になりますので、折角の半年勤務=10日分の年次有給休暇は1日も未消化で終わらせずに、しっかりと取得して下さい。
派遣元が5日と頑固にこだわるようでしたら、労働基準監督署に問い合わせをして下さい。請求をして拒否するようでしたら、労働基準監督署へ申告することもできます。
派遣労働者の場合、権利があってもなかなか行使しにくい状況がありますので、問題解決の方法についてのQ&Aを添付します。参考にして下さい。
年次有給休暇に関連したQ&Aとしては、次のものをご覧ください。
qa1060.派遣か正社員か? 派遣で働くときの注意は?
qa2005.派遣労働ってどういうものですか?
qa3088.派遣労働者の有給休暇の取り扱いは?
qa3090.有給休暇はだれに請求したらよいのでしょうか?
qa3100.有給休暇(常用型の場合)
qa3110.登録型派遣労働者も年次有給休暇があるのですか。
qa3115.登録型の場合、年次有給休暇の要件の8割の出勤とは?
qa3120.年休の要件である8割出勤とはどう計算するのですか。
qa3132.年休は月3日が上限だとされ、賃金から減額されたが?
qa3133.契約満了前に残っていた年次有給休暇を行使したい
qa3134.年次有給休暇の按分付与は認められるのでしょうか?
qa3135.1ヵ月と1日以上の空白があれば年次有給休暇が消える
qa3136.未消化の年次有給休暇を行使するためにだけ契約期間を延長することができますか?
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