【図】労働者派遣の法律関係
いわゆる「正社員」の雇用(=直接雇用)との大きな違いはこの点にあります。
つまり、実際に労働者が仕事をする使用者が、労働契約上の使用者である、というのが正社員の雇用(直接雇用)の特徴ですが、派遣労働の場合には、派遣元との間に労働契約が成立しますが、実際に派遣労働者が仕事をする派遣先の使用者と派遣労働者の間には、何らの契約関係も生じません。
労働者派遣事業には、派遣労働者が常時雇用される労働者(常用型派遣労働者)のみである「特定労働者派遣事業」と、派遣先に労働者を派遣している派遣期間だけ雇用される労働者をも含む(登録型派遣労働者)「一般労働者派遣事業」の2種類があります。「特定労働者派遣事業」は労働大臣への届出、「一般労働者派遣事業」は労働大臣の許可を得なければなりません。
労働者派遣の対象業務は、1997年12月施行の労働省令(政令)で26に限定されていました(【表1】参照)が、1999年12月施行の新労働者派遣法により、従来の派遣対象業務の限定列挙から、禁止業務を列挙する方式に大きく変わりました。新派遣法は、この業務と派遣期間を関連させた複雑な規制になっています(以下の【図】参照)。詳しくは、新派遣法解説をご覧下さい。
【図】派遣対象業務の限定から自由化へ(1999年12月以降)
外側の円は、改定後 内側の円は、改定前 A 改定前・改定後 派遣対象26業務(政令) B 改定後 派遣対象業務(原則自由化) * 派遣期間1年まで W 改定前 派遣禁止業務(原則禁止) X 改定前・改定後 法律による禁止業務 * 港湾運送、建設、警備 Y 改定後 附則による禁止業務 * 製造業務 当分の間
Z 改定後 政令による禁止業務 * 医療関連業務 |
労働者派遣事業は、職業安定法で禁止された労働者供給事業が一定の要件の下に例外的に認められたものです。
なお、1999年新労働者派遣法は、労働者派遣事業の「自由化」をしたと表現されますが、これは誤解です。対象業務の「原則自由化」はされましたが、労働者派遣事業を行う場合には、許可や届出の要件が依然として必要であり、その点では決して「自由化」された訳ではありません。弊害の多い間接雇用としての労働者派遣事業を「自由化」することは、労働者保護を目的とする労働法の基本にも反しますし、ILO181号条約の趣旨にも反します。
労働者供給事業と同様に業務請負や業務委託などの形式での脱法を防ぐために真の請負と偽装請負による違法派遣を区別するために、「自らの責任と負担で機械、設備や機材、材料などを調達し、雇用関係のある労働者を指揮命令すること」などの基準が労働大臣の告示で明らかにされています。専門的な知識・技術等が必要な業務に限定され、製造関係の業務は労働者派遣の対象業務になっていない。適用対象業務外の派遣をしたり、許可・届出なしに労働者派遣事業を営む派遣元には罰則が適用される一方、違法派遣を受入れた派遣先には企業名の公表などの制裁が予定されています。
派遣元と派遣先は、次の事項を明確に定めた労働者派遣契約を書面で締結することを義務づけられます。記載が必要な事項は、(1)従事する業務内容、(2)派遣就業の場所、(3)派遣先で就業中の派遣労働者を直接指揮命令する者、(4)派遣期間・派遣就業日、(5)派遣就業の開始・終了時刻、休憩時間、(6)安全・衛生、(7)苦情処理、(8)労働者派遣契約解除にあたって派遣労働者の雇用安定を図るために必要な措置、(9)その他労働省令で定める事項である。派遣元は派遣労働者に対して派遣先での就業条件を明示する書面を交付しなければなりません。
派遣労働者を受入れた派遣先が、その労働者を別の派遣先に派遣するものを「二重派遣」といいます。二重派遣は、派遣元・派遣先・派遣労働者の三面的な派遣労働関係の基本的前提に違反し、職業安定法第四四条で禁止された労働者供給事業に該当する。同様に、派遣労働者の採用に派遣先が直接介入して派遣労働者の「事前面接」や「履歴書の閲覧」をすることも派遣労働関係の基本的前提に反するものであり、職業安定法第四四条に違反します。
派遣元は、派遣労働者や派遣先との間で、雇用関係終了後、派遣労働者が派遣先に雇用されないように制限する契約を締結することを禁じられています(第33条)。派遣先は、派遣労働者の国籍、信条、性別、社会的身分、派遣労働者が労働組合の正当な行為をしたこと等を理由として、労働者派遣契約を解除してはなりません(第27条)。
労働基準法などで規定された、派遣労働者に対する使用者責任については、派遣元と派遣先にそれぞれ複雑に配分されています(【表2】参照)。そのため、労働者にとっては権利行使や使用者責任の追及が困難になることが多くなります。
常用型労働者派遣の場合には、派遣元で待機している場合にも賃金を請求できますが、登録型労働者派遣の場合には、登録だけで就労していない期間は賃金保障がなく、年次有給休暇の計算にとっても継続勤務にならないという不利益があります。
【表1】1999年11月以前の労働者派遣の対象業務(26業務)
適用対象業務(労働者派遣法施行令第2条)
1996年以前の適用対象業務 | 1996年改正で追加された業務 |
1 号 ソフトウェア開発の業務 | 10号 手配旅行に係る添乗の業務(10号改正) |
1号の2 機械設計の業務 | 14号 研究開発の業務 |
1号の3 放送機器等操作の業務 | 15号 企業における事業の実施体制に関する企画・立案等の業務 |
1号の4 放送番組等演出の業務 | 16号 図書の制作及び編集の業務 |
2号 事務用機器操作の業務 | 17号 広告デザインの業務 |
3号 通訳、翻訳、速記の業務 | 18号 インテリアコーディネータの業務 |
4号 秘書の業務 | 19号 アナウンサーの業務 |
5号 ファイリングの業務 | 20号 OAインストラクションの業務 |
6号 調査の業務 | 21号 テレマーケティングの営業の業務 |
7号 財務処理の業務 | 22号 いわゆるセールスエンジニアの営業の業務 |
8号 取引文書作成の業務 | 23号 放送番組等に係る大道具及び小道具の業務 |
9号 デモンストレーションの業務 | |
10号 主催旅行に係る添乗の業務 | |
11号 建築物清掃の業務 | |
12号 建築設備運転、点検、整備の業務 | |
13号 案内・受付、駐車場管理等の業務 |
【表2】派遣元・派遣先の使用者責任(労働基準法の主要事項)の配分
派遣元事業主の責任 | 派遣先事業主の責任 |
第3条 均等待遇 | 第3条 均等待遇 |
第4条 男女同一賃金 | |
第5条 強制労働の禁止 | 第5条 強制労働の禁止 |
第7条 公民権行使の保障 | |
第14以下 労働契約 | |
第24条以下 賃金 | |
第32条の2以下 変形労働時間 | 労働時間・休憩・休日の付与 |
第36条 時間外労働協定 | 第36条 時間外労働の指示 |
第37条 時間外、休日、深夜労働の割増賃金 | |
第39条 年次有給休暇 | |
第56条 最低年齢 | |
第57条 年少者の証明 | 第6章、第6章の2 年少者・女子の就業関連 |
第65条 産前産後の休業 | 第67条 育児時間の付与 |
第68条 生理日の就業が著しく困難な女子に対する措置 | |
第8章 災害補償〔労災保険〕 | |
第9章 就業規則の作成 | |
第106条 法令規則の周知義務 | 第106条 法令規則の周知義務 |