大東流琢磨会 森氏の「背合気」 2002.12.5

合気ニュース134号に、興味ある記事が載っていましたので、紹介します。
大東流琢磨会総務長 森恕氏の文章です(一部省略しました)。

「背合気
背中を使う合気技である。 具体的には、立合で、後ろから両肩を半ば押すように押さえられたとき、ふっと前方に身を捨てながら、こちらの押さえ られた右肩で、押さえた相手の右手を前方下方向に誘導し、そのまま相手を右斜め前方に投げる技である。
相手は、後ろから両手でこちらの背中に触れたとき、予期せぬ動きと拍子で、ふわっと前方に投げられるので、その技の効果の意外性に、思わず声を もらすのが常である。
面白いのは、このときに、前方に身を捨てるその方法である。それは、右膝を落としながら、右肩から、右半身に、前方に倒れこむようにするのであ る。 つまり、体換的・機械的に前倒れをするのではなく、あくまでも武術的に身を捨てるということである。
相手を右肩越しに投げたとき、その相手の体を、左腰に帯びた刀で、下から切り上げることができるような態勢をとれ、と教えられたので、どうして もそのような姿勢にならざるをえない。
そのため、投げ終わったときの姿は、左膝は立てられたままで、こちらの体は、右肘を地につけ、右肩を下にして、低い姿勢で半身になっているので ある。
問題は、こちらが身を捨てるときの速度である。いたずらに、ただ速ければよいというものではなく、その速さは、常に、背後から触れてくる相手の 圧力の度合いに感応して、それと同調していなければならない。 それは、圧力が強ければ速くし、弱ければ遅くして調節される。
そのために、こちらの背中の触覚は、常時、相手の手が触れている状態を鋭敏に感受していなければならず、しかも、その捉えた微妙な感触を逃がさ ないようにしながら、それを前方に誘導し、身を捨ててゆかなければならないのである。
この技の場合、そのあたりの呼吸が最も難しいところであろう。
先般、この技を神戸で稽古をしてもらったが、稽古生が一番悩んだのもこの呼吸の会得であった。
速く身を捨てなければならないと思うあまり、背後から肩に触れられるや否や、その瞬間にばっと身を沈める者が多い。
それでは駄目だと注意をすると、今度は、少し時間をかけて相手に自分の後ろ肩を十分に掴ませるようにするのであるが、やはり、相手が掴んだその 瞬間に、ぱっと身を捨てようとする。何れの場合も、相手は全く倒れない。
身を捨てるにしても沈めるにしても、そこに、相手の力や相手の動きと同調させた体の誘導が全然ないのと、技の前提である「崩し」が全く行われて いないのであるから当然のことである。
この技の場合、「崩し」は、左肩を僅かに前方に沈め気味に進めるという方法で行われる。具体的には、左肩と一緒に、歩み足に左足を一歩前に出す ことで十分である。
もっと分かりやすく言えば、相手が、後ろからこちらの両肩に触れてきたとき、手を振る代わりに肩を動かし、いわゆる「なんば」歩きに、左足を一 歩前に進め、このとき左肩で相手を左前に崩し、次いで右足を進めると同時に、右肩から身を捨てて相手を投げるのである。
このときの相手の様子を横から見た場合、相手は、両手でこちらの後ろ肩に触れ、それを押すかのように、こちらと縦に並んで、ゆっくりと歩き始め たその瞬間に、前方に投げられているというふうに見えたはずである。
相手が後ろ肩を、押すなり押さえるなりしてくれればよいが、そうでないときには技の掛けようがないが、どうすればよいかという質問があった。
そのようなときには、こちらの後ろ肩を相手の手のほうにそっと押し付け、相手の手に、相手自身が押しているのと同じような感触を与えればよいの であって、それで十分である。
この「背合気」の術理は、こちらの体のどこに触れられた場合にでも応用が効くものであって、その意味では、まさに合気の真髄に迫るものであると 思っている。」

如何ですか。かなり高度の技です。
これを読んである程度理解出来るならば、あなたの合気道に関する理解はかなり深まっているといえるでしょう。
『この「背合気」の術理は、こちらの体のどこに触れられた場合にでも応用が効くものであって、その意味では、まさに合気の真髄に迫るものである と思っている。』というものであり、私も及ばずながら参考にしたいと考えています。

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