第1章 二つの世界が交わる場所・・・ある日の交霊会・・・
その日の出席者は六人だった。ロンドンのアパートの一室で小さなテーブルを囲んで座り、全員が両手をそのテーブルの上に軽くおいた。そしてスピリチュアリスト用に作られた、霊力の素晴らしさを讃える賛美歌を歌っているうちにテーブルが動き始める。

そこでシルバーバーチ霊団の各メンバーがかわるがわるそのテーブルを動かすことによって挨拶した。最もこれが誰であるかが明確に分るのは二人だけで、それ以外は挨拶の仕方にこれと言った特徴は無いのであるが、霊団を構成しているのが複数の男性のインデアンと英国人、二人のかつての国教会の牧師、著名なジャーナリスト一人、アラブ人が一人、ドイツの化学者が一人、中国人が一人、英国人の女性が二人である事が分っている。その全員がテーブルによる挨拶を終わるころには、そろそろ霊媒のモーリス・バーバネルの入神(トランス)の用意が整う。

トランスは段階的に行われる。軽いトランスの段階でシルバーバーチが〝主の祈り〟を述べ、出席者との間で挨拶程度の会話を交わす。その間によくシルバーバーチは、霊媒をもっと深くトランスさせたいのでもう少し待ってほしいと、述べることがある。

いよいよ望み通りのトランス状態になると、シルバーバーチはまず祈りの言葉を述べ、それが速記されて行く。その日の祈りは次のようなものだった。

「神よ、私達は到達し得る限りの尊く清きものとの調和を求めて祈りを捧げるものです。私達はあなたの中に完全なる愛と叡知の精髄と、宇宙の全生命活動を支配する永遠不変の大精神の存在を確信いたしております。小さき人間の精神ではあなたの全てを捉えることは出来ませぬ。それ故に人間が抱くあなたについての概念は、ことごとく真理の全体像のおぼろげな反映に過ぎないのでございます。

しかし同時に私達は、全宇宙をその愛の中に抱擁し、規律と不変性を持って過失も、欠陥も、汚損も無く統括し支配している絶対的摂理の驚異を理解することは出来ます。すなわちあなたはその叡知によって全存在の一つ一つの側面、活動の一つ一つが管理され、全てが一つのリズムのある、調和の取れた宇宙機構の中で、滞ること無く流動しております。

その中にあってあなたの子等はそれぞれの定められた位置を有し、全体に対して必須にして不可欠の役割を演じているのでございます。

その一つ一つの火花があなたの巨大なる炎存在に貢献いたしております。私どもは各自に潜在する未熟なる萌芽がその始源であるあなたとのつながりに気付き、永遠に切れることの無い霊的絆によって結ばれていることを悟ることによって、その霊性を存分に発揮することになるように指導いたしております。

私達の仕事は、人間が今発揮している資質よりさらに精妙なる霊的資質を発揮することによって、今は手の届かない高所を目指し、待ち受ける霊の宝庫へ一歩でも近づこうとする向上心を鼓舞すべく、力と知識と叡知の源であるあなたの存在を説くことにあります。

宇宙には、資格ある者なら自由にそして存分に我がものとすることの出来る、莫大な霊的宝庫が存在いたします。そして地上より遥かに広大な生活の場における新たな体験から生みだされた叡知によって、地上世界に光明と豊かさをもたらさんとしている進化せる先輩霊も無数に存在いたします。

その活動の障害となるのは、偏見と、歪曲、迷信と無知、そして人間生活の暗黒面に所属するもの全てが蓄積せるものです。

私達は地上世界を知識の照明によって満たし、人間が常に真理によって導かれ、あなたの愛の存在に気付いてくれることを望んでやみませぬ。そうすることがあなたからの豊かな遺産と崇高なる宿命を悟らせ、手にした真理に則った生活を送らせてあげるゆえんとなるからにほかなりませぬ。
ここにあなたの僕インデアンの祈りを捧げます」

少し間をおいてから一同に向かって・・・

「本日もこうして皆さんと一堂に会し、霊の世界からの私の挨拶の言葉と愛をお届けできることを嬉しく思います。前回お会いして皆さんの愛の温もりを感じて以来久しぶりですが、又この部屋を訪れて霊的仕事の回線をつなぎ、地上の人々の為にお役にたつことが出来るようになりました」

そう述べてから、まず最初に、暫く病気の為に欠席していた女性に向かって「ようこそお出でになりました。あなたのお姿が見ないと、どうも物足りなく思えるのです」と言うと、その女性が、

「これはまた有難いお言葉をいただいて恐縮です」と月並みな挨拶をした。するとシルバーバーチが
「いえ、事実を申し上げているのです」と真剣な調子で述べた。(訳者注=すぐれた指導霊による交霊会ではレギラーメンバーは何らかの存在価値を持ったものが厳選されている。中にはただ出席しているだけで好影響を及ぼす人もいる)

続いてその女性のご主人で、交霊会の速記係をしている人に挨拶をし、それから二言三言出席者と軽いやり取りをした後、いよいよ本題へと入っていく。たとえばその日は次のような話をした。

「ここにおいでの皆さんは人類全体の役に立つ才能、能力をお持ちの方ばかりです。これまで、その能力故に、さらに豊かな才能を持つこちらの世界のものから援助を受けてこられました。

ぜひその能力を実らせて、代わって皆さん方の多くの人々に喜びを与え、更にその人達が自分にも世の中の役になる資質があることに気付いてくれるようになる・・・こうしてお互いがお互いにと言う輪がどんどん広がってきます。

世間の中傷を気にしてはいけません。反撥に動揺してはなりません。嫌悪の態度を見せられても気になさらない事です。あなた方がこの地上に生を受けたそもそもの使命に向かってひたすら努力している限り、そんなものによって困った事態になることはありません。

地上世界にはまだまだ奉仕の精神が足りません。絶望の淵に喘ぐ人が多すぎます。心は傷つき、身体は病に冒され、解決できない問題に苦悶する人が無数にいます。

そう言う人達を真理の光の届くところまで連れて来てあげれば、悩みへの回答を見出し、乱れた生活を規律あるものにしようとする心が芽生え、全ての人間が平和と調和の中で生きていける環境作りに意欲を燃やすことになりましょう。

休暇中私は、長い間住みなれた界層に戻ってまいりました。そこで多くのことを見聞して、それを出来るだけ皆さんにお分けしてあげるべく、こうしてまた帰って来るのです。

その時私はあなた方の全くご存じない霊達・・・私が誇りを持って兄弟と呼び姉妹と呼べる進化せる霊達からの愛と善意を携えて参ります。その霊達も地上の悩める者、苦しむ者、人生に疲れ果てた者の為に献身している私の仲間であり協力者なのです」

こう述べてから、一転してシルバーバーチ一流のユーモアを交えて

「ああ、そうそう、うっかり忘れるところでした。あなた方の事をなかなかしっかりした人達だと感心しておりました」
「誰がですか」と一人のメンバーが聞くと
「ですから、私が話をしてきた上層界の霊達です」
「あなたの〝秘密の参謀〟ですか」と、別のメンバーが冗談めかして聞いた。
「いえいえ、そんなもんじゃありません。〝父の住処にいる人達です〟」

(訳者注=ヨハネ14.2〝わが父の家には多くの住処がある〟からの引用で、これがキリスト教において、どの程度の現実味を持って理解されているかは疑問であるが「ベールの彼方の生活」によると、それが地上を最低界とする広大な宇宙を経綸する〝政庁〟とも言うべき実在の世界であることが分る。

〝秘密のブレーン〟かと聞かれて〝とんでもない〟と言った調子で答えているのは、人間からすれば目に見えないから秘密であるかに思えるだけで、シルバーバーチにすればごく当たり前の現実の世界なのである)


続いて別のメンバーが友人が他界した話を持ち出すと。

「この会(霊団)も最初は小さな人数で始めましたが、その後どんどん数が増えて、今では大所帯となってきました。しかしいくら増えても、これ以上入れなくなることはありませんから、ご心配なくとユーモアを交えて述べた。

交霊会も終りに近づいて、シルバーバーチは最後に次のようなメッセージを述べた。
「私はあなた方の全てに好意を抱き、これから後も援助の手を引っ込めるようなことは致しません。そして、きっとあなた方も私に対して好意を抱いて下さり、私の意図することに献身して下さるものと信じております。

どうか、どこのどなたであろうと、私に好意をお寄せ下さる方の全てに私からの愛の気持ちをお伝え頂き、さらに次のメッセージをお届けください」

私に対して愛念と思念と善意と祝福をお届けくださる大勢の見知らぬ方々に対して、私は喜びと感謝の気持ちをお伝えしたく思います。私がそうした情愛の運び役であることを誇りに思っております。それは私がその方たちにとって何らかのお役にたっているからこそであると信じるからであり、たとえ私の姿を御覧になることは無くても、私はその方達のご家庭へお邪魔していることをご承知ください。実際にお伺いしてお会いしているのです。

私にとって愛こそが生活であり、人の為に役立てることが宗教であるからです。そうした私の考えにご賛同くださり、同じ生活信条を宗とされる方のすべてを心から歓迎するものです。

そして最後に次の言葉でしめくった。

「さて皆さん、ほんの僅かな時間でもよろしい。時には日常的な意識の流れを止めて、周りに溢れる霊の力に思いを寄せ、その影響力、そのエネルギー、永遠なる大霊の広大な顕現、その抱擁、その温もり、その保護を意識いたしましょう。

願わくばその豊かな恵みに応えるべく日常生活を律することが出来ますように、その中で神の永遠なる摂理に適っているとの認識が得られますように、どうか神の道具としての存在価値を存分に発揮し、豊かな祝福をもたらしてくれた真理の光を輝かせて、人々がわれわれの生活をその真理の規範と為すことが出来ますように」

そう言い終わると霊媒が何時ものモーリス・バーバネルに戻り、一杯の水を飲み干して、それで会が終わりとなる。以上がある日のホームサークルであり、何時もこれと似たようなことが行われているのである。