2001年01月
・審問(パトリシア・コーンウェル) | ・仮想の騎士(斉藤直子) |
・ロマンティック(大久秀憲) | ・迷宮遡行(貫井徳郎) |
・牙をむく都会(逢坂剛) | ・黒い仏(殊能将之) |
・リセット(北村薫) | ・北京原人の日(鯨統一郎) |
・そして粛清の扉を(黒武洋) | ・メルサスの少年(菅浩江) |
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審問
著者 | パトリシア・コーンウェル |
出版(判型) | 講談社文庫 |
出版年月 | 2000.12 |
ISBN(価格) | (上)4-06-273045-6(\629)【amazon】【bk1】 (下)4-06-273046-4(\629)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★ |
前作『警告』で狼男に襲われたケイ。全力でその男を追うことになるが・・・。
シリーズ最長の本作。長い〜。そろそろこのシリーズもだれてきたかなあというところで、なんとケイ自身に大きな変化が、なんていうのがものすごく上手いなあと思ったりもするのですが、まだ続くんですね。これ。そろそろ人物も出揃って、さらなる強敵を作らなくてはならなかった漫画の『ドラゴンボール』状態になっているような気がするのは私だけでしょうか。
仮想の騎士
著者 | 斉藤直子 |
出版(判型) | 新潮社 |
出版年月 | 2000.12 |
ISBN(価格) | 4-10-442401-3(\1400)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
18世紀。コンティ親王に仕える騎士、デオン・ド・ボーモンの活躍を描いたファンタジー。
どこをどう取ってもファンタジーに徹しているところがいいなあ。イタリア語訛りのフランス語を関西弁?で表したり、無茶無茶な展開ながらも着地点をきちんと考えていたり、満足の1冊。ストーリー的にはやや拡散的な印象も受けるのですが、後で考えるとちゃんと流れにはなっているし、女装の騎士、山師カザノヴァ、妖しい黒衣の伯爵、カード狂いの国王ルイ十五世などなど、役者がそろったエピソードが面白いので一気読みでした。重い小説で疲れたときの清涼剤に。
ロマンティック
著者 | 大久秀憲 |
出版(判型) | 集英社 |
出版年月 | 2000.1 |
ISBN(価格) | 4-08-774504-X(\1300)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★☆ |
郷里に勤めている友人から、少年野球チームの監督の代理をして欲しいという連絡があった。郷里に帰ってみると、なんとその友人は謹慎中だった。
高樹のぶ子が「どんな反対を押し切ってでも(すばる文学賞)受賞作にしたかった」と評したというこの作品。なるほど、微妙な省略の仕方や、詩的な文章、少年の頃を思い出させるストーリーなど、全体的にかわいらしくていい感じの青春小説です。私もその点は認めますし、そこそこ読めると思うのですが、なによりもロリコンは理解できないのです。はい。そこが理解できないと、この小説の本当のところはつかめないんじゃないかと思ったりもして。そうです、この小説の最大のテーマはロリコンです。いやもしかすると私の読み方は間違っているのかもしれませんが、そうとしか思えない・・・。ロリコンに走るのは、自分も若くなったように思えるからだ、とどこかで読んだような覚えがあるのですが、問題となった「彼女」は、まさに郷里に帰って少年時代へ戻った彼らの見た、幻影だったのかな。
迷宮遡行
著者 | 貫井徳郎 |
出版(判型) | 新潮文庫 |
出版年月 | 2000.11 |
ISBN(価格) | 4-10-149911-X(\552)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
会社をリストラされ、しかも妻が姿を消してしまった。妻はどこへ行ってしまったのだろう。どうしても妻に一目会いたい迫水は、暴力団員の妨害に遭いながらも妻を必死で探そうとするが。
『烙印』の書き直し版。と言ってもかなりリライトされていて、物語の始まりも、主人公のイメージも違うものになっています。もちろん、その意味はたくさんあるのですが、全体的には同じ結末にたどり着くところが、なんとなく運命みたいなものを感じさせて寂しいものがありますね。『烙印』も好きですが、甲乙つけがたいかな。この6年で世の中すんごく変わりましたよね。その時代を反映させたリライトなのでしょう。どちらもそこそこおすすめ。
牙をむく都会
著者 | 逢坂剛 |
出版(判型) | 中央公論新社 |
出版年月 | 2000.12 |
ISBN(価格) | 4-12-003091-1(\2000)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★☆ |
神保町で、あるビデオを争ったことが発端だった。巨大広告会社萬通からの映画の仕事を引き受けることになった岡坂は、萬通相談役の過去に興味を持ち始める。
うーん、やっぱりこういう雑誌連載のって、本にする段階でかなり修正を加えないと厳しいんじゃないかなあと思います。もちろん加筆修正はされているのでしょうけれども、同じ表現が出てきたり、同じ場所を2度説明したり・・・というのは興ざめなんですよね。あと、どうしても連載されているものって長い。これも無駄な部分を省けばもっと短くなるんじゃないかと思ったのですが。
ただ、別の部分で逢坂剛の博識ぶりがわかって面白いです。どちらかというと神保町散歩とか、古典映画指南のようなものとして読むといいかも。特にあちこちに出てくるレストラン、実在するところなんですよね。どこも行ってみたい。神保町って面白いところかもと思った1冊でした。
黒い仏
著者 | 殊能将之 |
出版(判型) | 講談社ノベルス |
出版年月 | 2001.1 |
ISBN(価格) | 4-06-182167-9(\760)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★☆ |
石動戯作は、9世紀に天台僧が持ち帰ったという秘宝の捜索を依頼された。助手のアントニオと共にその寺へと向かうが・・・
この本は、ひろーい心で読まないとだめですね。こうというジャンル的な縛りを入れてはいけません。いや、もちろん本格ミステリと言えるのでしょうけれども、そうするともう一本の流れが単なる洒落で終ってしまうのです。。。この小説は、もしや続きが書かれるのでしょうか。私はそこそこ面白いと思いましたが、それにしてはミステリ部分の謎解きが平凡だなあという思ってしまいました。いつも吃驚の世界を見せてくれる殊能将之が再び別世界に挑戦?といったところです。
リセット
著者 | 北村薫 |
出版(判型) | 新潮社 |
出版年月 | 2001.1 |
ISBN(価格) | 4-10-406604-4(\1800)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★ |
『スキップ』『ターン』に続く「時と人」3部作の最終話。今回は転生(?)のお話。
戦時中、お嬢様学校にいた真澄は、友人が紹介してくれた男の子に淡い恋心を抱いていた。ところが戦況が悪化し・・・
うーん、最初の部分を読んだときから大体結末は見えていたように思うのですが、そのまんま進んでしまったのが少々残念。もう少し泣かされるような結末を期待してただけに、尻すぼみのような印象を受けました。久々に読んだ北村薫は、やはり読みやすいという意味では太鼓判を押せますが、前置きが長すぎるんじゃないかなあ。この3部作の中ではやはり『スキップ』がいちおしです。
北京原人の日
著者 | 鯨統一郎 |
出版(判型) | 講談社 |
出版年月 | 2001.1 |
ISBN(価格) | 4-06-210464-4(\1500)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
銀座4丁目に、軍服を来た老人が降って来た。しかもその老人、戦時中に消えうせた北京原人の骨の一部を持っていた・・・。謎の多い死亡事件を偶然目撃した自称カメラマンの達也は、なんとかスクープ、いや懸賞金2億円をものにしようと、北京原人の骨の謎を追う。
いつもいろんな事件を結びつけて、とんでもない結論を引き出してくれる鯨統一郎。今回も戦中、戦後の事件を見事に結び付けて鮮やかな推理を披露しています。特に戦後の「あの事件」を北京原人消失事件と結びつけるあたり、すごいなあ。なんだか、いつも騙されてるような気がするのですが、それでも信じてもよさそうな感じもしてしまったり。次はどんな謎を解明してくれるのか、楽しみで仕方ありません。おすすめ。
そして粛清の扉を
著者 | 黒武洋 |
出版(判型) | 新潮社 |
出版年月 | 2001.1 |
ISBN(価格) | 4-10-443101-X(\1500)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
ある高校の一室で、卒業式を明日にひかえる生徒が集まっていた。ところが、いつも黒板に向かって授業をしているような中年女性教師が突然変貌、「あなたたちは人質なんです」と言い出す。そして彼女は一人、一人逆らった生徒を殺害し・・・。
最近この手の殺戮小説って多いですが、話題の『バトルロワイヤル』よりも大石圭の『処刑列車』に近いものを感じます。あるいは戸梶圭太の『赤い雨』かな。なんとなく世の中への不満がたまっていて、でもそれを直す手段はない真面目に暮らしている人間たち。好き勝手して、他の人間を何とも思っていない若者よりも、実は一番恐いのはそんな人たちなのかもしれないなんて思いました。
ちょっと前までは、こういう反乱をおこすのは子供たちだったような気がするのです。スカートの長さ、髪の長さまで「統制」しようとする体制的な教師に対して反乱を起こす宗田理の『ぼくらの七日間戦争』や、理不尽な大人に対して「子供だってこんなにできるんだ」ということを示そうとする『チョコレート戦争』みたいな、子供達が読んですっきりするような本が面白いと思えたような気がするのですが、今は逆。大人が子供に向かって粛清ですか。世の中が変わったのか、それとも単に作家が変わったのか・・・なんだか面白いですね。
ストーリーは、全体的に流れが速いかなあというのが残念ですが、やっぱり面白いというのは変わりません。内容の是非は別のところで議論してもらうとして、読んで面白かったと思える作品ではあると思います。
ただ、よくこんな本を新潮社が受賞作にして出したなあと、『バトルロワイヤル』の例の顛末を考えるにつけ思うのですが、これもまた時代の流れなんでしょうかね。
メルサスの少年
著者 | 菅浩江 |
出版(判型) | 徳間デュアル文庫 |
出版年月 | 2001.1 |
ISBN(価格) | 4-19-905031-0(\648)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★☆ |
螺旋の街メルルキサスは、娼館の並ぶ歓楽街。身ごもることのできないはずの<メルサスの女>から産まれた少年イェノムは、ただひとりの街の子供として、皆からからかわれ、可愛がられている。ところが平和なメルルキサスに、トリネキシア商会が目をつけて・・・
典型的な少年成長物語。ただこの作家さんが書くと、人物造形が深くてあまりライトノベルス的な匂いがしないですね。やはり世界観も面白いですし。ただ、昔はこういう「新しい世界」の「新しい名前」ってすんなり入ったのですが、だんだん受け付けなくなっているような気がします。頭が固くなってしまったのかも。よくないですね。たまにこう言うのを読むと、やっぱり楽しいですが、こればっかりだとそろそろきついかな。
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