2000年11月

0番目の男(山之口洋) クール・キャンデー(若竹七海)
嗅覚異常(北川歩実) 赤い雨(戸梶圭太)
儚い光(アン・マイクルズ) あふれた愛(天童荒太)
エンダーのゲーム(オーソン・スコット・カード) アンテナ(田口ランディ)
八月の博物館(瀬名秀明) さつき断景(重松清)
惨劇のプロヴァンス(ノーマン・ボグナー) ビート(今野敏)
ペルソナ探偵(黒田研二) ハムレット狂詩曲(ラプソディー)(服部まゆみ)
百年の恋(篠田節子) 症例A(多島斗志之)
螺旋階段のアリス(加納朋子) ラグナロク洞-<<あかずの扉>>研究会影郎沼へ(霧舎巧)
夜が終わる場所(クレイグ・ホールデン) 紫のアリス(柴田よしき)
マスグレイヴ館の島(柄刀一)
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0番目の男

著者山之口洋
出版(判型)祥伝社文庫
出版年月2000.11
ISBN(価格)4-396-32815-X(\381)【amazon】【bk1
評価★★★★☆

環境破壊をくい止めるために、あるプロジェクトが行われようとしていた。優秀な環境学者であるマカロフを元に人間のクローンをつくり、環境学者を「インフレーション」させようというのだ。結果を知りたいマカロフは、人工冬眠によって70年後に再び目覚める。そして彼が見た物は・・・・

面白い。中編というと、どうも物足りない印象がつきまとうのですが、この本はこの長さがちょうどいいなあ、という印象。自分が増殖すると言われたら、どうしますか?私も「ありえなかった未来」というのを見てみたいという衝動に、この企画に賛成してしまうような気がします。そしてマカロフが未来で見たものは・・・。いやいや、この辺でやめておきましょう。読んで損はない秀作です。おすすめ。

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クール・キャンデー

著者若竹七海
出版(判型)祥伝社文庫
出版年月2000.11
ISBN(価格)4-396-32813-3(\381)【amazon】【bk1
評価★★★☆

夏休みは最悪の幕開けだった。自殺未遂を図った義姉が死に、ちょうどその頃義姉の自殺の原因となった男が不審死を遂げる。当然容疑は兄に・・・。渚は、兄の容疑を晴らすために懸命になる。

若竹七海の描く少年少女ってとってもいいですね。平和だったあの頃というイメージが容易に思い浮かびます。この少女は、夏休みをとんでもない事件でつぶされそうになりながら、なんとか大好きなお兄ちゃんのためにがんばろうとして・・・という話ですが、一筋縄ではいかないのも若竹七海。さてさて。

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嗅覚異常

著者北川歩実
出版(判型)祥伝社文庫
出版年月2000.11
ISBN(価格)4-396-32819-2(\381)【amazon】【bk1
評価★★★

ある症例の実験に参加して欲しいと言われた理歩。その患者をかつて看ていた理歩は、患者の恋人でもある大学院生・富坂の研究室を訪れる。

ほーなるほど。嗅覚異常というので、「オルファクトグラム」を少々思い出していたのですが、こちらにいきますか。と思いました。匂いというのは目に見えないだけに、客観性をどのように取り入れるかが、こうした実験の要なのかもしれません。同じ匂い(空気)を嗅いでいても、もしかしたら自分と他人は全然別の匂いを嗅いでいるのかもしれませんし。心理学的見地で見るか、それとも神経学的見地で見るかによっても違いますし。難しいですね、匂い。面白い分野だと思います。まだまだこれからもこの分野から傑作が出るのかも。

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赤い雨

著者戸梶圭太
出版(判型)幻冬舎文庫
出版年月2000.10
ISBN(価格)4-344-40032-1(\648)【amazon】【bk1
評価★★★★

赤い雨が降った。その後人々が急激に凶暴になる。今まで耐えに耐えてきた一般の人々。普通のサラリーマンや主婦たちが、暴走族やマナーの悪い人間に牙をむき始める。一方で、その影響を受けなかった志穂は、優しかった夫の変貌に驚くが・・・。

「やったもん勝ち」「正直者が馬鹿をみる」なんていう言葉の通り、この世の中って「被害者」や「理不尽に耐えて真面目に生きる人」に対して厳しいと思うのです。道路に屯ってやりたい放題の若者や、政治家、犯罪者などなど、実際腹に据えかねている人は多いはず。溜まりに溜まったストレスを一気に発散させるために、世界がこんな風になったら、気分いいんじゃないでしょうか・・・。

というわけで、この本を奇妙なストレス発散本と私は位置づけます(笑)。目には目を、歯には歯を。犯罪者には相応の処罰を。といったハンムラビ法典的な発想をそのまま取り込んだこの作品。さて、あなたは肯定派?否定派?

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儚い光

著者アン・マイクルズ
出版(判型)早川書房
出版年月2000.10
ISBN(価格)4-15-208306-9(\2200)【amazon】【bk1
評価★★☆

父母がナチスに連れ去られた。家の隙間に隠れていて辛うじて難を逃れた7歳の少年ヤーコプは、森をさまよっているところをあるギリシア人に助けられる。

多分この物語は本当に詩のような物語なのだと思うのです。だから日本語にしてしまうと、その面白さが半減してしまう。綺麗な小説ではあるのですが、何しろ平坦で動きが無いので、その点に耐えるのが少々苦痛でした。ジェットコースターエンターテイメントに嫌気がさして、こうした水面の上をすーっと浮かんでいくような純文学をたまに読むと心が洗われる気がしますが、今の私はそういう気分ではなかったようです。。。すみません。

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あふれた愛

著者天童荒太
出版(判型)集英社
出版年月2000.11
ISBN(価格)4-08-774373-X(\1400)【amazon】【bk1
評価★★★★

愛情過多な人々が、様々な形で傷を癒す物語。

「永遠の仔」の執筆過程で生まれたという短編集。中でも心療内科に入院していた2人が支え合って生きようとする「やすらぎの香り」がとってもおすすめ。一人だったらだめだけど、二人なら・・・・という発想、実は私はあまり好きではないのですが、それでもこの作品の優しさというか、繊細さにものすごく感動しました。他の3編もさすが天童荒太。泣き所をつかんでいるというか、うまいですね。「あふれる愛」ではなく「あふれた愛」としたところがこの物語のポイント。「愛」と「おせっかい」、「愛」と「束縛」の境界線を見事に表しているようなお話でした。感動系の好きな人々におすすめ。

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エンダーのゲーム

著者オーソン・スコット・カード
出版(判型)ハヤカワ文庫
出版年月1987.11
ISBN(価格)4-15-010746-7(\699)【amazon】【bk1
評価★★★★

産児制限の厳しい時代に第3子として生まれたエンダー。ところがそのエンダーが優秀な兵士と判断され、IFのバトル・スクールへと送り込まれる。めきめきと頭角を表して、最年少のエンダーは妬まれつつも成長していくが・・・。

この本、1977年に短編として出版され、1985年に長編として書き直されたもののようです。そうして考えると興味深いのです。例えば、1977年というのは、「スター・ウォーズ」が公開された年であり、またベトナム戦争が終わった2年後。アメリカは敗戦という痛手のなかで、なんとかその地位を取り戻そうとやっきになっていた頃です。そして、この物語が長編として書き直された8年後は、ソ連とアメリカという軍事大国が核をもって冷たい戦争をしていた頃です。時代背景を元に、もう一度この本のあらすじを見直すと、まだ小学生の子供が、地球外生命と戦うための訓練を受けるという未来を描くこの小説は、そんな時代への皮肉とも警告ともとれると思うのです。SFの世界は未来を描くと同時に、こんな風に当時の世相をも表しているのが面白いですね。

一方で、あの頃人々が思い描いていた理想の21世紀は、ビルの間をエアチューブみたいなものが走っていて、そこを人が歩いたり、車が通ったりするものだとか、みんなが宇宙旅行に行ったりするものでした。さすがにそんな未来はやってきませんでしたが、21世紀を間近に控えた今になって、そんなことを思っていた頃の近未来小説を読むのは、ある意味面白いことなのかもしれません。

そんな風に戦争と子供や、未来論とかいった、小難しいことを考えるのも一興ですが、何よりも単純にエンダーを応援してあげるのも面白い。エンダーのピンチにどきどきし、エンダーの戦術にわくわくする。そんな様々な楽しみ方できる作品です。おすすめ。

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アンテナ

著者田口ランディ
出版(判型)幻冬舎
出版年月2000.10
ISBN(価格)4-344-00035-8(\1500)【amazon】【bk1
評価★★★☆

15年前、2歳違いの妹が突然失踪した。さっきまで隣で寝ていたはずなのに、朝起きたらいなくなっていたのだ。家族は歪んでしまった。そして大学生になった僕は・・・

人間の心っていうのは面白いもので、何かを信じることによってそれが本当になるといった奇跡は、実際あちこちであるそうですね。「信じるものは救われる」とか「病は気から」なんていう言葉もあるとおり、精神の作用というのは、人自身に大きな影響を与えるものなのでしょう。田口ランディの小説第2作は、前作の「コンセント」と同様、その精神作用の大きい人々のお話。鈍感且つ強靭な私には、残念ながらこういう何かを感じ取る力というのは備わっていないようですが、こういう力を持つ人が居ることは、なんとなく納得できてしまいます。もしかしたらどこかで書いたかもしれないのですが、家のじいさんの戦時中体験のなかに、神秘体験といいますか、そんな話があるのです。だから人間には魂があることも、人は単なる物理的繋がりばかりでなく、何か精神の力で世界と繋がっている、その精神の電波みたいなものを感じ取ることの出来る人がいるというのも、実は心のどこかで信じているのです。

人が一人消えてしまった家族の物語である『アンテナ』は、小説としてみると『コンセント』に少々劣るかなと思ったのですが、そこに流れる「哲学」は『コンセント』よりも納得できました。内省的な田口作品。そういうのが好きな方にはおすすめ。

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八月の博物館

著者瀬名秀明
出版(判型)角川書店
出版年月2000.10
ISBN(価格)4-04-873259-5(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★★★

小学校生活最後の夏休み。私は「ミュージアム」と書かれた建物を発見した。その中で出会ったのは、黒猫と少女。こうして彼の夏休みの冒険が始まった。

この著者の本というと、知識の詰め合わせ的な印象だったのですが、彼もそう言われることが多かったのでしょうか。今回のこの作品は、自分の小説家としての行き詰まりに苦悩する作家が、「ウソを書く」という方式で小学生の冒険を描いていく、今までとはガラリと雰囲気の違う物語。夢のあるストーリー展開が、自分が思っていた「理想の博物館」と重なるようで、のめりこむように読んでしまいました。もしかすると、この物語の構造を興ざめだと思う方もいるのかもしれませんが、私は気にしないことに(^^)。この”物語”の主人公である亨と共に、夏休みのミュージアムを歩いてみる。一緒に冒険してみる。そんな楽しみ方が正しいように思います。瀬名秀明の「書く」ヴァーチャル・リアリティの世界へ、是非はまってみてください。おすすめ

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さつき断景

著者重松清
出版(判型)祥伝社
出版年月2000.11
ISBN(価格)4-396-63178-2(\1700)【amazon】【bk1
評価★★★☆

1995年から5年間。5月のある家族を描いた物語。

この本、小説としては評価はできません。ただ、この5年間の情景が思い浮かんで懐かしい。それだけを評価。私自身とこの5年間を比較させていただくと、1995年のときは大学3年生で、1997年に就職して、2000年が現在。私としても変化の大きかった5年間なので、余計にそんな感慨を抱くのかもしれません。そう言えば、そんなことあったなあ。とこの5年間を振り返るような小説でした。5年を振り返ってみたい方におすすめ。

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惨劇のプロヴァンス

著者ノーマン・ボグナー
出版(判型)産業編集センター
出版年月2000.11
ISBN(価格)4-916199-22-7(\1400)【amazon】【bk1
評価★★★

ミシェル・ダントン捜査官は、元婚約者の訪問を受けていた。しばらく現場から離れていた彼のところへ、彼女が持ってきたのはある凄惨な殺人事件。職場復帰することになったダントンが、その捜査をするうちに、なんと次は彼と親しかった娼館のマダム、ルイーズが殺害される。

プロヴァンスという風光明媚な舞台に起こる凄惨な殺人事件。その対称とも言える配置による舞台装置は派手で、ダントンの捜査によって明かされる謎もなかなか凝ってはいると思ったのですが、全体的に平凡な印象。特に意図的と思われるストーリー構造があまり機能してないのが残念。こうしたサスペンス物はたくさん発表されているために、比べてしまうのがあまりよくないのかもしれません。この系統なら、もう少し『コフィン・ダンサー』のようなスピード感が欲しかったですね。

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ビート

著者今野敏
出版(判型)幻冬舎
出版年月2000.10
ISBN(価格)4-344-00034-X(\1700)【amazon】【bk1
評価★★★★

罠に嵌められた。ある銀行を内偵捜査していた島崎は、柔道部の後輩に会う。その後輩はなんと内偵捜査をしている銀行に勤めていたのだ。巧妙な罠に嵌められ、内偵捜査の情報を渡さざるを得なかった島崎は、そのことを悔やんでいた。ところが、その後輩が殺される。

刑事ドラマと見せかけて、実は複雑ないろいろな形を持つ2つの家族のお話。体育会系丸出しの島崎と、殺人を調べることになる捜査一課のインテリ、樋口。その二人のそれぞれの性格がよく現れた2つの家族。内偵失敗と殺人とも巧妙にからんだ「お父さん」のドラマです。刑事ドラマにわざとしなかったのが、意外性を持っていてよかったです。私の父は仕事が忙しい上にゴーイングマイウェイの人なので、普段は大してかまってもらった記憶はないのですが、旅行だけはあちこち連れて行ってもらいましたね。元々私の本好きも父母の影響が強いですし。”地震・雷・火事・オヤジ”と言われたような「オヤジは怖い」という時代ではなくなってしまいましたが、だからって「オヤジの役割」が無くなったわけじゃないんだよねえ、とこの本を読んで思いました。

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ペルソナ探偵

著者黒田研二
出版(判型)講談社ノベルス
出版年月2000.11
ISBN(価格)4-06-182155-5(\780)【amazon】【bk1
評価★★★★

スピカ、アンタレス、カペラ、ポルックス、ベガ、そしてカストル。星のハンドルネームを持った彼らは、「スターチャイルド」という同人誌を発行している。しかし、主催のカストル以外は、それぞれの本名も住所も知らない。彼らは毎週木曜日だけ、インターネット上のチャットルームで意見を交わしたり、たわいの無いおしゃべりをしたりしていた。ところが・・・

同人誌に載せたそれぞれの短編が、絶妙な伏線となってひとつの長編を織り成している推理小説。面白かった〜。こういう純粋に面白かったーと思える小説に出会えると本当に嬉しいですね。長編としてだけでなく、それぞれの短編の謎解きも楽しめます。「殺人ごっこ」は、『月光ゲーム』に出てきた殺人ゲームの変則版?私もやってみたいです。とっても緊張しそう(^^)。小説としての中身では、「キューピッドは知っている」が好き。そして最後、結末の事件。私は一瞬こんぐらがって、もう一度読んでしまいました(ので、更新が遅くなってしまいました(笑))。なるほど題名とからんで、「美しい」ラストです。納得。推理小説がお好きな方に特におすすめ。

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ハムレット狂詩曲(ラプソディー)

著者服部まゆみ
出版(判型)徳間文庫
出版年月2000.11
ISBN(価格)4-334-73081-7(\552)【amazon】【bk1
評価★★★★

英国で大成した脚本家にして演出家のケン・ベニングのところへ、ある歌舞伎役者からハムレットの演出をして欲しいという依頼が来た。『劇団薔薇』新劇場の柿落としに「ハムレット」をやるらしい。その歌舞伎役者の名前を聞いて、長年の恨みを晴らさんと来日したケンだったが・・・

ハムレット。懐かしい。何を思ったか、シェイクスピアを片端から読んだときがあったんですよね。小学生の頃。もちろん小学生用に「翻訳」されたものだったのですが、『ロミオとジュリエット』とか、『ベニスの商人』とか大好きでした。ロミオも、ベニスも、その後もなんだかんだとちゃんとした形のものを読む機会があったのですが、何故かハムレットはそのときだけ。なんでだろう・・・。

そんなハムレットの舞台を借りた、人間劇。それほど派手ではない展開から、なかなか見せてくれるラストへ。単なる推理小説とか、ラストだけのためのストーリーっていうのでもなく、段々に成長していくもう一人の主人公・片桐雪雄を始め、他の人々の稽古の様子に、舞台を作っていく面白さみたいなものが感じられて、気づくと真剣になってストーリーを追っていました。なかなかおすすめ。ただ、登場人物が「片桐家」だったのには閉口しましたけど(笑)

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百年の恋

著者篠田節子
出版(判型)朝日新聞社
出版年月2000.12
ISBN(価格)4-02-257557-3(\1500)【amazon】【bk1
評価★★★☆

売れないライターである真一は、オタクの真一で「タクシン」と呼ばれている。趣味はSF、仕事は売れない翻訳家。ある日食い扶持を稼ぐためにやったインタビューで運命の人に出会う。相手はエリート銀行員で、しかもスタイル抜群の美女である。早速結婚することになった2人だが。

「仕事はできなくても、家事が得意な女」、「稼ぎは多いけど、家事はいっさいやらない女」。よく対立的に見られて後者の女は女じゃないとか、逆になんで自分ばっかり家事をやらなくちゃならないの、なんてよく議論になったりするものですが、こういう本当にステレオタイプな人(両者において)って本当にいるのかしら、って思うのです。だって掃除洗濯は得意だけど、金銭感覚は全然無いとか、仕事をやりながらもちゃんと子供を育てているとか。ちゃんと子育てしてるのかと思えば、子供殺しちゃったりとか。十人いれば十種類の家庭や子育てがあったっておかしくないはず。私の周りにも子供がいる人たくさんいますけど、ちゃんと働いてますよ〜。なんとなくこういうステレオタイプな言い方自体が問題なんじゃないかなと思いますね。

というわけで、この本。典型的な後者タイプな女と結婚してしまったタクシン。何度も離婚を考えたり、ぶちきれそうになったり。さてさて、どうなることやら。でもここで考えて欲しいのは、収入にせよ、子育てにせよ、どちらかに押し付けるというのでは結局うまくいかないんじゃないかなあということですね。なんて、結婚も子育てもしてない私が言うことじゃないですか。

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症例A

著者多島斗志之
出版(判型)角川書店
出版年月2000.10
ISBN(価格)4-04-873231-5(\1900)【amazon】【bk1
評価★★★

死亡した沢田医師の後を埋めるために、S精神科病院へ赴任してきた榊。沢田医師の診ていた患者の担当をする事になったが、その中に手こずらせる患者がいた。仮名の亜左美という名前で入院しているその少女は、沢田医師は分裂病と診断していたようだが、どうも違うように思われる。

誤解されやすい臨床心理学と精神医学の事情が細かく解説されている啓蒙書のような小説。でも小説としてはどうでしょう・・・。というか、私もいろいろと誤解していたようで、とっても勉強になりましたし、面白かったのです。だから、そういうものだと思って読めば中途半端な結論や、2つ流れるストーリーの無理な絡みも気にならずにすむのではと思いました。この人の本は初めて読んだのですが、他のもこういった感じなのでしょうか。文章は読みやすいですし、読み手を引き込むストーリーという意味では面白かったのですが、ちょっと消化不良。臨床心理学や、精神医学に興味のある方にはおすすめ。

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螺旋階段のアリス

著者加納朋子
出版(判型)文藝春秋
出版年月2000.11
ISBN(価格)4-16-319680-3(\1524)【amazon】【bk1
評価★★★☆

会社の体の良いリストラ策に乗ってサラリーマンから探偵になった仁木。配ったチラシで来たのは、上品な老婦人と、安梨沙と名乗る探偵助手候補の女の子だった。

脱サラして探偵になるという設定もさることながら、来る依頼も加納朋子らしい、おとぎの国のファンタジー。全体的にはまあまあの域でしたが、彼女の本を読むとやっぱりほっとしますね。清涼剤っていうんじゃなくて家庭的な良さかな。ミステリとしては、「最上階のアリス」がなかなか。ストーリーは標題作の「螺旋階段のアリス」が一番好きです。「綺麗な話」を求めている方におすすめ。

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ラグナロク洞-<<あかずの扉>>研究会影郎沼へ

著者霧舎巧
出版(判型)講談社ノベルス
出版年月2000.11
ISBN(価格)4-06-182146-6(\880)【amazon】【bk1
評価★★★☆

<<あかずの扉>>研究会書記のカケルは、自称名探偵の鳴海に無理矢理連れられて、中央アルプスの隠れ里に旅行に来ていた。折からの嵐で、洞窟に閉じ込められてしまった2人。しかも脱出できるはずだったエレベーターが壊れてしまい・・・

あかずの扉研究会、今回のテーマは嵐の山荘&ダイイングメッセージもの。しかも多重密室(?)です。全体的にはトリックもそれほど驚くものでもなく、まあまあでしたが、あちこちに散りばめられた古今東西ミステリの断片が面白かったかも。一体何冊ぐらい入っているでしょうかね。ダイイングメッセージといえば、エラリー・クイーンですが、それ以外にもいろいろあって笑えましたよ。もともと著者がミステリ好きなのがよーくわかる本です。

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夜が終わる場所

著者クレイグ・ホールデン
出版(判型)扶桑社ミステリー文庫
出版年月2000.3
ISBN(価格)4-594-02872-1(\781)【amazon】【bk1
評価★★★★

朝食を待っていたバンクとマックのところへ、少女失踪事件の通報が入った。7年前に自分の娘が失踪しているバンクは、親身になって母親の話を聞くが・・・

最初はだれた感じだったのですが、途中徐々に真相がわかるあたりから読めるようになりました。7年前の失踪事件と今回の失踪事件の思わぬ繋がりや、それぞれの事件の真相は、確かに驚くべきものと言えるかもしれません。バンクとマックの友情物語を含めて、いい本でしたね。そこそこおすすめ。

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紫のアリス

著者柴田よしき
出版(判型)文春文庫
出版年月2000.11
ISBN(価格)4-16-720307-3(\457)【amazon】【bk1
評価★★★

会社を辞めた沙季は。夜の公園で「不思議の国のアリス」に出てくるウサギをみる。思わず追いかけた彼女がつまずいたのは、なんと頭から血を流した男の死体。あれは幻だったのだろうか。

柴田よしき自身のあとがきに、「遊園地の迷路から出られなくなった子供のような気持ちを体験していただけたら」と書かれているのですが、なるほどその試みは成功していると思います。もう二度と迷路から出られないんじゃないか、なんだか別の世界に行ってしまったのではないかという焦りと恐怖って、私も道に迷う人間なので、よーくわかります。まじで怖いんですよ。道に迷うのって。ってどこかにも書いたような気がしますが。だから道に迷ったと極力思わないようにしているのです・・・。

話が脱線しました。ただ、ストーリーとしては少々強引かなという気がしなくもありません。少なくともミステリではないかなあと。私はちょっと別の結末を考えていたので、こういう形に持っていくのは意外でしたが、もう少し長くてもよかったのではないでしょうか。

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マスグレイヴ館の島

著者柄刀一
出版(判型)原書房
出版年月2000.11
ISBN(価格)4-562-03364-9(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★★

ロンドン市内のベーカー街221B。今そこにある英国・シャーロック・ホームズ・ソサエティーへ、ある招待状が来た。「マスグレイヴ家の儀式事件」の矛盾にあやかった謎を解いて欲しいというもの。その謎を解いたものには賞金も出るという。ホームズ・ソサエティーを取り仕切るアビ伯母の依頼を受けて、わたし、一条寺慶子とその世話役筧フミ、ソサエティーメンバーのクリスチアーネは、マスクレイヴ館へと向かう。

ホームズの事件のほうが思いっきりからんでくるのかと思えば、そうでもなく、実は純粋な館もの事件。いつも驚くべきトリックで楽しませてくれる柄刀ミステリ、今回も健在です。今回は長い薀蓄もなく、純粋にトリックを楽しむ構成。ちゃんと読者への挑戦状もあったりして、ゆっくり考えるのが面白いかもしれません。これは珍しく多少わかったかなあ。これだけミステリばっかり読んでいると、どこかで読んだものの応用っていうのも多いんですよね。このトリック、実際模型とかでやってもらえると感動するかも。空間図形に弱い私は、こういうのって何がなんだかわからなくなってくるんですけど、そんなことありません?いずれにせよ、館モノミステリがお好きな方におすすめ。

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