2001年02月

フラッシュフォワード(ロバート・J・ソウヤー) 天使の血脈(篠田真由美)
トイボーイ・ゴースト(上領彩) MAZE(恩田陸)
0(ゼロ)(柴田よしき) 上と外4 -神々と死者の迷宮(下)-(恩田陸)
サンチャゴに降る雨(大石直紀) 黒祠の島(小野不由美)
縁切り神社(田口ランディ) ハルモニア(篠田節子)
玉蘭(桐野夏生) 赤・黒(ルージュ・ノワール)(石田衣良)
灰夜−新宿鮫VII−(大沢在昌) われはフランソワ(山之口洋)
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フラッシュフォワード

著者ロバート・J・ソウヤー
出版(判型)ハヤカワ文庫
出版年月2001.1
ISBN(価格)4-15-011342-4(\840)【amazon】【bk1
評価★★★★☆

2009年、ヨーロッパ素粒子研究所の科学者たちは、ある実験をしようとしていた。本当ならヒッグス粒子を発見するためだったその実験で、なんと世界中の人間が、数分間だけ21年後とリンクしてしまう騒ぎに。数分ながら21年後の世界を覗いてしまった人々は、その未来によって大きく影響を受けることになるが・・・。

もし、自分の21年後を見てしまったら・・・と思うとどうですか?見てみたいものでしょうか。私はやっぱり嫌。もちろんバラ色の未来かもしれませんが、それでもいやです。未来というのはわからないから生きていけるんじゃないかなあと思うんですね。何があるかわからないから人生面白いんであって、結末のわかっているビデオをもう一度見直しても(しかも20年分!)飽きちゃうような気がします。私は結果主義な人間なので、過程に頓着しないんですよね。何やっても同じ未来なら、努力する意味もなくなってしまうような。

主人公達も見てしまった未来に右往左往するわけですが、ただそこにもうひとつ、「未来は変えられるのか」という命題があるわけです。確かに21年後を見てしまいましたが、本当にその21年後はやってくるのでしょうか。見てしまった未来に翻弄されながら、いや、実際未来は可変なものなのだと心の隅で思っている人々。さてさて結末はいかに。SFミステリってやっぱり面白いですね。おすすめです。

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天使の血脈

著者篠田真由美
出版(判型)徳間デュアル文庫
出版年月2000.12
ISBN(価格)(上)4-19-905027-2(\562)【amazon】【bk1
(下)4-19-905028-0(\562)【amazon】【bk1
評価★★★☆

フィオレンツィアの工房で見習いをするアンジェロ。ある日、工房の打ち上げの帰りに、突如影のようなものに襲われた。母の姿をしたその怪物は、フィオレンツィアとメディチ家に力を与えていた<<扉>>の副産物であることがわかったが・・・。

これまた典型的な少年冒険小説。世界遺産にも登録されているフィレンツェの街って多分このころからぜーんぜん変わってなくて、本を読みながらフィレンツェを思い出してました。微妙に現実に即しているので、それを実際のモノに当てはめながら読んでいくと楽しいです。ちょっとしたフィレンツェ散歩?私が藤本ひとみの本を読んでフランスに行ったように、この本を読んでイタリアに行こうと思う人がいるかもしれないですね(^^)。恐らくがっかりすることはないでしょう。フィレンツェはとっても綺麗な街です。

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トイボーイ・ゴースト

著者上領彩
出版(判型)ティーンズルビー文庫
出版年月2001.2
ISBN(価格)4-04-441302-9(\419)【amazon】【bk1
評価★★★☆

西海岸で作ってしまった借金を返済するため、美貌の本格派探偵作家・保坂光一郎の秘書のバイトをすることになった久保寺真理。突然京都に行くことになったが、そのとき隣に座っていた藤沢直人のカバンから、ちびっこい少年がでてきて・・・

西海岸に続いて、舞台は京都。保坂くんといると変なモノが見えてしまう真理は、今回見えてしまったのは、キツネ少年(笑)。もちろん「幽霊の」志穂さんも健在で、要所要所に現れて事件をかき乱します。。私は真理君が食べ損ねた駅弁が気になってるんですが・・・。全体的に楽しむためには、前作『ハニームーン・ゴースト』から読むことをおすすめします。

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MAZE

著者恩田陸
出版(判型)双葉社
出版年月2000.2
ISBN(価格)4-575-23407-9(\1500)【amazon】【bk1
評価★★★★☆

『存在しない場所』と呼ばれる不思議な丘。そこには奇妙な人工建造物が建っていた。入り口はひとつしかなく、中は迷路のようになっている。しかもそこに行ったものの一部は、忽然と姿を消すという。その調査をするという旧友に頼まれて、安楽椅子探偵の真似事をすることになった満だったが。

何故人が消えるのか、を考察するお話ですが、満が思いついたのは恐ろしい結論。そして、迷路の中には・・・とまるで落ちるようにホラー色が強くなって、恐くて眠気が吹き飛んでしまいました(^^)。そのくらい面白い。全体の見えない恐怖というのは、自分の想像で勝手に補ってしまう分、余計に恐怖が増しますよね。結論はちょっと不満が残るものでしたが、過程に☆ひとつ付け加えました。恩田陸の久々のホラー色の強い長編。おすすめです。

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0(ゼロ)

著者柴田よしき
出版(判型)祥伝社文庫
出版年月2001.2
ISBN(価格)4-396-32832-X(\552)【amazon】【bk1
評価★★★

頭だけを綺麗に吹き飛ばした死体が発見された。一見して「奴」の仕業だと見抜いた佐伯は、奴の跡を探し始める。

ゆび」の続編。ホラーなのでしょうけれども、死体の描写が多少気持ち悪いだけで、カウントダウンによって追いつめられるという怖さはなかったですね。かといってミステリ的な読み方はできないですし。どうも中途半端という印象を受けました。すっと入っていける読みやすい文章ではあるので、一気読みしてしまいましたが、それだけという気も。

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上と外4 -神々と死者の迷宮(下)-

著者恩田陸
出版(判型)幻冬舎文庫
出版年月2001.2
ISBN(価格)4-344-40064-X(\419)【amazon】【bk1
評価

*『上と外3』までを読んでいない人は、思いっきりネタバレですので、あらすじを読まないでください。読みたい方は、白いところをドラッグ!

囚われてしまった千華子を救うため、非常に危険な「成人式」に挑むことになった練。ところが1日目にして・・・

誰かに本を読み聞かせてもらったとき。「はい、今日はここまで」っていうのがものすごく惜しくなったことはありませんか?「もうちょっと〜。」とか言って先生や母親を困らせたこととかありませんか?あれ?無い?じゃあ、ゲームやったことはありますか?ロールプレイングゲームとかで、セーブする場面が来たとき。「いや、次のセーブポイントまでやろうかな」と思っちゃったり。その次のセーブポイントが来て。「やっぱりもうひとつ次のセーブポイントまでやろうかな」。。。気づいたら朝だったとか。え!それもない? そう言う方は、是非この本を読みましょう。その気持ちがたぶんわかります。発売日を待ち焦がれる楽しみを得たい人は、次の巻がラスト(の予定・・・)です!ここまで一気に読んで2ヶ月後を待ちましょう。

→『上と外5』に続く

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サンチャゴに降る雨

著者大石直紀
出版(判型)光文社
出版年月2000.11
ISBN(価格)4-334-92326-7(\1700)【amazon】【bk1
評価★★★★

「サンチャゴに雨が降っています」という放送によって起こったクーデター。政府側だった父と母を失い、アメリカに亡命していたビオレタは、12年ぶりに故郷の地を踏んだ。軍事政権によって厳しい統制のひかれているサンチャゴで、大統領・ピノチェトを暗殺するために。

かなり現実に沿った話なのだと思いますが、現実の羅列にならないようにストーリーや登場人物も練られていて、楽しんで読めました。ピノチェトと民衆みたいな大きな枠ではなく、あくまでサルバドールとビオレタという個人の対立だったところが、感情移入できる要因だったのかもしれません。チリというと、地震とサモアみたいなイメージしかわかなかった私でしたが、この本を読んで少しだけ身近になったような気がします。ラストに感動してしまいました。政治の話や、歴史的なお話が好きな方にはおすすめ。

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黒祠の島

著者小野不由美
出版(判型)祥伝社ノンノベル 
出版年月2001.2
ISBN(価格)4-396-20708-5(\886)【amazon】【bk1
評価★★★

自宅の鍵を預けて失踪してしまった葛木。彼女を追って、熊本の沖合にある閉鎖的な島・「夜叉島」に向かった式部剛。ところが、フェリー乗り場までは確実にあった葛木の足取りが、島でぷっつり途絶えて・・・・。

こういう閉鎖空間と古い因習が残る島というのは、それだけでも面白い舞台装置になるものですが、いまいちそれが活かされていなかったような。どことなく横溝の焼き直しと思えるところも、残念でした。ラストはもしかするとびっくりできるのかもしれまんが、驚くには、そこまでこの空間にはまれなかったかなといったところ。。。残念です。

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縁切り神社

著者田口ランディ
出版(判型)幻冬舎文庫
出版年月2001.2
ISBN(価格)4-344-40072-0(\495)【amazon】【bk1
評価★★★★

恋愛にまつわる短編集。彼女の作品に共通して言えることですが、主人公がロマンチックというか、センチメンタルというか。しかも、ものすごく内省的な感じの女が多いですよね。切ってきたはずの縁に未練たっぷりなのって、ある意味女らしいと言えるのかもしれませんが、私には無いなあと思ったり。この作品集の中では「夜桜」の美しさがお気に入り。日記にも書きましたが、京都の「縁切り神社」って本当にあるんですか?行くだけで呪われそう・・・(^^;。

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ハルモニア

著者篠田節子
出版(判型)文春文庫
出版年月2001.2
ISBN(価格)4-16-760504-X(\686)【amazon】【bk1
評価★★★★☆

非常に高額な精神障害者のための社会復帰施設に家族から隠されるように入れられている人々。そこへ音楽療法の一環としてチェロをひきに行っている東野は、ある天才少女を見いだす。施設の臨床心理士から彼女にチェロを教えて欲しいと言われた東野は、彼女の才能に興味を持ち、引き受けることにするが・・・

人間の幸せってどういうものなんでしょうとこの本を読んで思いました。よく平凡な幸せなんて言いますけど、そういうのって結局平均的な人間の言う共同幻想みたいなものですよね。こうして非凡な才能を得てしまったような人間にとって、長生きするとか、普通の生活をするというのは本当に二の次で、自分の感性に合わせてチェロをひき続け、たとえそれによって命を削ることになっても構わないっていうのも一つの幸せなのかも。だから私としては、この終わり方はハッピーエンドだと思うのですね。山之口洋の「オルガニスト」でも思ったのですが、幸せなんて本当に主観の問題で、周りが見てどうのこうのといったものではないのですよね。

ストーリーは壮絶で、かつ山が多く読んでいて飽きないつくり。特に音楽が好きな方にはおすすめ。

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玉蘭

著者桐野夏生
出版(判型)朝日新聞社
出版年月2001.3
ISBN(価格)4-02-257583-2(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★★

男と別れ、仕事も捨てて上海へと留学した有子。不眠に悩んでいたある日、部屋に突然幽霊が現れる。自分の伯父だというその男は、自分は世界の果てを探していたという。

一昨年上海に1日だけ滞在しましたが、確かに不思議な魅力のある街でした。政治や文化の中心である北京とも、古都である西安とも異なり、かといって中国に掃いて捨てるほどもある田舎でもなく。商業の中心地であり、外国との玄関である上海という街は、こんな夢を見るにはちょうどいい街なのかもしれません。不思議な恋愛小説でしたが、とても優しい気分になれる話でもありました。おすすめ。

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赤・黒(ルージュ・ノワール)

著者石田衣良
出版(判型)徳間書店
出版年月2001.2
ISBN(価格)4-19-861308-7(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★★

賭博にはまり、莫大な借金をかかえてしまった小峰。賭博屋の店長が描いた狂言強盗の片棒を担ぐことになったが・・・。

泥沼にはまり込んだテレビ局プロデューサーが、一世一代の大勝負をするお話。こういう単純明快でノリの良い本は、読んでいて気持ちいいですね。余計なことを考えずに、主人公とともに浮き沈みにドキドキできる面白本です。最初はちょっと入り込めなかったところもあったのですが、クライマックスの大勝負にはすっかり本の中の世界。全体の出来はいまいちだった映画「ラウンダーズ」も、やはりポーカーのシーンは面白かったですし、賭博って嵌るとまずいというのが分かっていても、ついついそっちへ寄ってしまうというのは、このあたりの魅力にあるのかもしれません。

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灰夜−新宿鮫VII−

著者大沢在昌
出版(判型)光文社カッパノベルス
出版年月2001.2
ISBN(価格)4-334-07418-9(\838)【amazon】【bk1
評価★★★☆

鮫島に「ある手紙」を託して自殺してしまった宮本の七回忌に出かけたはずだった。気づくと鮫島は動物用の檻の中にいた。何故自分はここに。記憶を手繰り寄せるようにして思い出そうとする鮫島だったが。

新宿鮫の最大の謎である「宮本の手紙」。今回はその手紙の主である宮本にまつわるお話。シリーズ初の地方舞台です。地元ではない鮫は、いつものようには振舞えず、しかも警察さえもが信用できない状態で、抜き差しならぬ事態に陥るわけですが・・・。

どちらかというと、はやり鮫は新宿がいいかなという気分。新宿鮫なのですから、やはり新宿なしではこのシリーズの面白味も半減って感じですよね。ただ、最近は新宿にも鮫が活躍できる場も減ってしまったのでしょうか、冷戦時代の映画が面白かったように、鮫が活躍できる新宿を懐かしむ向きもあるのかもしれません。

扉にも書いてあるとおり、発行は8作目の新宿鮫シリーズですが、話の時系列から言うと、この作品が7巻目、『風化水脈』が8巻目になります。時系列で追いたい方は、こちらを先に読むといいかもしれません。

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われはフランソワ

著者山之口洋
出版(判型)新潮社
出版年月2001.2
ISBN(価格)4-10-427002-4(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★☆

フランス文学史上催行の抒情詩人と言われるフランソワ・ヴィヨン。その破天荒な生涯を描いた作品。

誰しもがひとつくらい語ることのできるエピソードを持っているものですが、小説として取り上げることのできる人間、あるいは好んで小説に登場させられる人間っていうのは、やはり限られた人物のような気がします。例えば織田信長。例えばジャンヌ・ダルク。山あり谷ありの破天荒な生涯、尽きないエピソード、そして衝撃的な最期。もちろん、後の人間が脚色してしまっている部分もあるのでしょうけれども、後世にまで語り継がれる人物というのは、単なる偉大な人という以上に何かを持っている人が多いと思うのです。

フランスの詩人、フランソワ・ヴィヨンもそんな中の一人なのでしょうか。私はヴィヨン自体は知っていましたが、こんなエピソードの多い人物だったことは初めて知りました。泥棒で人殺しで、そして文学史上最大の詩人。そんな彼の浮き沈みの激しい生涯を描いたこの作品。ただちょっとひきつけるには、山場が小さかったかなという気が。もちろん、それはそれで面白さもあったのですが、どちらかというとヴィヨン自身をよく知っている方のほうが楽しめるかもしれません。

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